【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

社会の症状

2016-05-24 06:53:59 | Weblog

 人は健康なときにはあまり自分の肉体の存在を意識しません。あるのが当然、と思っています。しかし病気や怪我の時には痛みや症状が様々な主張をするので「自分が不健康な状態である」ことがわかります。逆に言えば、何か「症状」があるとき、人は不健康です。
 社会もまた同様ではないでしょうか。たとえば「クレイマー」の主張がやたらと目立つ社会って、つまりは「不健康な社会」ということでは?

【ただいま読書中】『オーダーメイド』甘糟りり子 著、 幻冬舎、2011年、1300円(税別)

 モデル出身の小説家として一時期はある程度人気があったのに今は全然売れなくなり、心理的にも経済的にもギリギリの所に追い詰められている麻穂に、岸部という男からいかにも怪しげな依頼メールが来ます。ある大金持ちのために、その人のためだけに官能小説を書いて欲しい、と。報酬は100万円。麻穂は迷ったふりをしてから飛びつきます。しかし官能小説なんか書いたことがありません。そこで自分の体験を書いて渡します。クライアントが満足をしない場合には、新たに“体験”をしてそれを書き、自分自身を裸にして売り渡しているような感覚を感じつつ、正体を見せない依頼主、依頼主のことだけではなくて自分自身のことも一切明かそうとしないメッセンジャーの岸部、という二重の謎に麻穂は強い興味を持ち、そういった興味を持つ自分自身の心の動きにも新しい発見を続けていきます。
 官能小説家ではない女性作家が官能小説を書こうとしてじたばたする、その中には当然官能小説のシーンも登場する、というメタ官能小説のような作品です。「依頼主」「岸部」「麻穂」にそれぞれ「謎」があり、さらに「官能小説」にも謎がしかけられています。そして最後には「官能」と「小説」自体も「謎」として登場するのですが、“名探偵”が鮮やかにそれを解明する、ということはありません。謎はいくらか解けかけたような形で本書は終了してしまいます。この先が気になるなあ。