【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

義務教育

2015-02-28 07:11:06 | Weblog

 このことばを「子供は学校に行く義務がある」と解釈している人がいる、ということを知って驚いたのは20世紀のいつ頃のことだったでしょうか。明治時代に「文明国では小児労働をさせてはならない(ましてやローティーンの娘を売り飛ばしてはいけない)」ということで「親には子供に教育を与える義務がある」と始まったのが日本の義務教育ですから。だけどそういった経緯も「義務の対象」が「親」であることも無視し、「義務」という単語にだけ注目して言葉の意味をねじ曲げて、登校拒否の子供たちに冷たい言葉をかける人がいましたっけ。
 ところで、本当に「子供は学校に行く義務がある」のだとすると、病気などで長期入院している子供は、どうすれば良いのでしょうねえ。
 そういえば、「教育」と「学校」は“同義語”でしたっけ?

【ただいま読書中】『学校の先生にも知ってほしい慢性疾患の子どもの学校生活』満留昭久 編、慶應義塾大学出版会、2014年、2000円(税別)

 入院や通院が必要な子供、あるいは長期入院をしている子供には、医療だけではなくて教育ニーズが発生します。ではそういった子供たちに学校や病院が何が提供できるか、という話です。
 「身体障害者」の30%は、外からはわからない内部障害者(心臓、腎臓、消化管などの障害)です。しかし学校教育法では障害者基本法とは違う「障害者」を扱います。
 「病弱児」の重要なテーマは、戦前は「結核」でした。戦後すぐは「栄養失調」。それからしばらく経つと、長期入院を必要とする慢性疾患(ネフローゼなど)が多くなりますが、現在は心身症や小児癌が増えています。
 平成25年5月1日の時点で、日本には特別支援学校(病弱)は143校、1万9653人の子供が在籍しています。病弱・身体虚弱特別支援学級は1488学級で2570人が在籍。この内250学級は病院内に設置されています。つまり病院“外”の方が圧倒的に多いのです。これには入院日数の短縮も関係しています。早く退院できるのは良いことですが、完治せずに寛解状態で退院する人が増えているのです。
 院内学級にかかわる人の言葉が私の心に届きます。院内学級では、勉強を教えるだけではなくて、「自己肯定の感情」を持てるように支えるのだそうです。
 学校での生活では、疾患別にいろいろ注意が必要です。たとえば慢性腎疾患では、日本ではこれまで運動制限が行われてきました。しかしこの慢性腎疾患への運動制限には根拠がないのだそうです。転換の場合まず問題になるのは「偏見」だそうです。さらに発作時に「口にものをかませる」と今でも信じている人がいるそうです。(痙攣発作が起きたら筋肉は強直しますから、発作が起きてから「舌をかまないように」と口をこじ開けることには意味がありません。噛むのならもう噛んでいます。それを無理矢理こじ開けたら歯を折るのがオチです) 落ちついて体の状態を観察してそれを医者に伝えたら、発作の型がわかって薬を変更できる場合もあります(本人はどうなっているのかわかりませんし、発作の時にふつう医者はそばにいませんから、そういったサイドからの情報は貴重だそうです)。
 小児癌、膠原病などけっこう深刻な病気の話もありますが、本書全体を貫いているのが「患者本人を人間として尊重すること」と「情報の共有」です。それと「特定の子供だけを特別扱いする」のではなくて「病気のハンディキャップに対して、他の子供とひどい格差が生じないように配慮する」態度。でもそれは、病気の有無とは別に、すべての子供に平等に教育の機会を与えるためには、常に考えていなければならないことですよね。あとは無責任なデマを飛ばす連中をどうするか、ですが、そういった人こそきちんと「教育」をうける“義務”があるのではないかしら。