【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

大事なときに必ず転ぶ

2014-02-27 06:47:49 | Weblog

 大事でもないときによく口が滑る人もいますよね。スケートでもないのに滑るってか?

【ただいま読書中】『宙の地図(下)』フェリクス・J・パルマ 著、 宮崎真紀 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫NV1271)、2012年、900円(税別)
 ウェルズたちは「火星人」に破壊されたロンドンを逃げ回ります。さらにそこに「タイム・トラヴェラー」がちらりと影を落としてすぐに消えます。「火星人」は実は「火星人」ではありません。逃避行を共にする一行の中で一番実際的で有用なクレイトン捜査官は、肝心なときには突然気を失ってしまいます。あれれ、機械仕掛けの義手を持った捜査官……何か有名な小説に登場していましたっけ? 
 「ヒーロー」が登場します。前作『時の地図』で「未来の地球」で自動人形の支配から人類を救ったシャクルトン将軍です。しかし「ヒーロー」も個人では活躍にも限界があり、とうとう生き残った人類は強制収容所に押し込められ、「火星人」のために環境改変マシンの建造をさせられることになります。そのマシンの姿がでっかいピラミッド……って、ここは『狂風世界』(J・G・バラード)ですか?  ついでですが、強制収容所で死体が放り込まれる穴から生まれる「食料」が緑色のお粥です。これって「ソイレント・グリーン」? 「マトリックス」や「エヴァンゲリオン」を思わせる情景も登場します。あらあら、どれも滅亡の淵に立たされた人類の世界ばかりです。
 そして「もう一人のH・G・ウェルズ」がしずしずと登場します。一人は「人類を滅亡させる存在」、そしてもう一人は「それを妨害する(かもしれない)存在」です。
 そして「もう一つの物語」が始まります。本書の上巻、南極大陸で「あら、この結末はお気に召しません? だったらちょっとやり直しましょう」なんて語り手が好き勝手なことを言っていました。もちろんそれは「伏線」で、何が起きるか読者はその時に悟ってはいるのですが、それにしてもこの“やり直し”にはびっくり。そして物語は「終わり」に、あるいは「始まり」に到達します。いやもうすごい離れ業。小説の技巧の限りを尽くしています。そして「読者がすでに知っている物語」が繰り返されます。ただし、別の視点から。
 フィクションがなぜフィクションなのか、フィクションに何ができるのか、読み終えて私はしばらく呆然とします。ここまで「力」のある小説は珍しい。そして、上巻でウェルズがつぶやいた言葉が脳裏に蘇ります。「次は『透明人間』か?」と。そういえばクレイトン捜査官の「謎」も全然解決していませんね。これは次作に期待するしかなさそうです。