【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

踏み倒しの制裁

2014-02-05 07:16:49 | Weblog

 「イラン制裁緩和 原油代金の一部送金」(NHK)
 「イランを罰してやる」が「イランからはものを買わない」だけではなくて「イランから買ったものの代金を支払わない」も含んでいたんですね。どちらにしてもイランは困るでしょうが、「商品は受け取っておいて代金は踏み倒す」のは「制裁」なんです? なんだかごねているだけに私には見えるんですけど。

【ただいま読書中】『面白南極料理人』西村淳 著、 春風社、2001年、1800円(税別)

 30次越冬隊で南極で過ごしてから7年、著者の携帯電話に突然勧誘が入ります。「38次観測隊の候補に選ばれました」と。身体検査に通ったらドーム基地で越冬、だそうです。だけど出発前からなにやらお気楽にアルコール漬けの毎日のような描写ですが、さてさて、どうなりますやら。
 ……しかし、肩から力を抜いて料理をしろ、と言うのには賛成なのですが、ガラムマサラがなかったらハウスジャワカレーに太田胃散を小さじに半分入れたらインドカリーの親戚の又従兄弟に化ける、というのは……ちょっと面白そうですね。少なくとも害はないでしょうし。太田胃散は漢方の胃薬がベースですから、他の漢方薬でもいろいろ試したら「カリー」にはならなくても「薬膳」にはなりそうです。
 南極観測隊のデータでは、隊員は1年で1トン弱の物資を飲食するのだそうです。ということは、かける人数分(ドームふじ基地は9人分)を南極に持ち込む必要があります。それを調達するのも著者の仕事。さて、ドーム基地は昭和基地から1000km離れていて、輸送はすべて雪上車です。標高は3800m、年平均気温は摂氏マイナス57度(最低はマイナス80度!)。輸送の最中にすべては冷凍食品になってしまいます。ネックは野菜。そこで著者は「冷凍野菜」を探します。はじめから凍っていればいいだろう、と。あるんですねえ。冷凍ジャガイモがまず見つかります。ジャガイモって冷凍したら拙いのかと思ってました。いろいろドタバタして、結局大体の野菜は見つかりましたが、胡瓜と大根がありません。そこで業者に泣きついて作ってもらいます。卵やミルクなど他の食材についても、本当にいろいろなドタバタが紹介されています。というか「それまでの料理人のノウハウ」は蓄積されていないんですか?
 「しらせ」からの荷揚げは大型ヘリ。1回に2トン、総計100トンの越冬物資が昭和基地近くの集積場(キャンプ地)に陸揚げされます(その70%は燃料)。しかしそこから(雪上車で引っ張る)橇に積むのは人力です。もうちょっと何とかならないんですかね。「観測」隊員を「輸送」に使うのは、もったいない使い方だと思うんですけど(日本陸軍の失敗の一つが、輜重を軽視して前線の兵隊に補給や輸送も全部やらせたことだと私は考えています。戦闘員には戦闘をやらせた方が良いでしょ? あらかじめコンテナに詰めてあって、そのコンテナに橇が着脱できる、なんてのは素人の思いつきに過ぎないのかな)。そして7台の雪上車が橇を引っ張って20日間の雪上行進。ドームふじに到着した時点で、私はもうてんこ盛りの抱腹絶倒エピソードによって“お腹いっぱい"です。
 しかし「伊勢エビ一匹丸ごと入りの味噌汁」「氷点下40度の屋外でジンギスカンパーティー」「フォラグラサラダ」「米沢牛のステーキ食べ放題」……なんだかとっても無茶苦茶豪華だけど詳しく内容を聞くと「そりゃ、無茶だ」と言いたくなるメニューが次々登場します。消費する酒の量も半端ではありません。著者は何か理由をつけては宴会を開いています。そこでの料理も「あるものしか使えない」という制約下で、何とかしてしまいます。「パエリアのようなもの」なんか、本当に美味そう。本当に様々な工夫が登場し、これって創作料理のヒントが欲しい人にも役立ちそうな本です。
 屋外でのソフトボール大会、ジョギング(3800mの高度、零下70度で!)なんて“運動"もあります。運動ではないけれど、雪を掘って体を埋めてみたり、露天風呂なんて試みもあります(湯温と気温の差は100度以上!)。
 宴会や運動だけではなくて、もちろん仕事もしています。30~40kmの高空観測のための気球打ち上げ、深く氷床を掘削(著者が行ったときには2500mまで掘っていました)、雪の観測なども真面目に行われています。
 そこで「危機」が生じます。燃料が不足してきたのです。基地から150m離れた貯蔵庫に雪上車で採りに行けばいいのですが、不凍液がラジエターの中で凍り付いています。そこで、180kgのドラム缶を人力で運ぶことになります。氷点下75度、風速10m、低酸素の環境で。やっちゃうんですねえ。
 本当にユニークな人ばかり登場しますが、一番ユニークなのはやはり著者かな。ただ、1月28日に読書日記に書いた『命がけで南極に住んでみた』(ゲイブリエル・ウォーカー)には、極地では極端に性格が変わってしまう、とありましたから、本書での「ユニークな人たち」のユニークさは「南極のせい」かもしれません。
 「単年度予算の弊害」が私にはしっかり読み取れます。著者は「1年分の食料」を準備して持ち込みますが、行ってみたら「前年度までの食料の残り」などもたっぷりありました。つまり「ムダな努力」を強いられたところもある。逆に「足りないものは足りないまま」ということもあります。「人がうっかりするところ」には、妙な共通点がありますから。せっかく蓄積した物資や経験を「次の年度」にもうちょっと効率的に伝える手がないものか、と感じます。もっともこれは「南極」に限らず、日本でお役所が絡む仕事ではおそらくどこでも生じている現象でしょうけれど。
 そうそう、一つムカムカきた記述がありました。出発前に物資を調達しているところで、南極協力室の官僚が「不便を我慢するのが南極の思想にかなう」と著者にお説教を食らわすシーンです。予算がないならないと言えばいいのに、南極で過ごす人間に対して安全なところにいる人間が精神論で「南極の思想」をお説教する、とはねえ。だったらお前がその「不便」を我慢しながらマイナス70度で1年間過ごして見ろよ、と私も言いたくなりました。こういった官僚の性格と対応の悪さは、明らかに「南極のせい」ではありません。