【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

クラクション

2014-02-25 06:44:44 | Weblog

 電話でもテレビなどのリモコンでもカメラでも、「触ったことのないボタン」「使ったことのない機能」はたくさんあります。自動車でも「このスイッチ、何だったっけ?」があります。で、私にとって「クラクション」も「使ったことがない機能」の一つです。現在使っている車(次回が2回目の車検)でも、かさばる荷物を持って降りようとしてうっかり触って鳴らしてしまったのが、唯一の体験かな。というか、あんなうるさいもの、一体どんな時に鳴らすんです? 山道を走っても最近は「警笛鳴らせ」の標識にも滅多にお目にかからないんですけど。

【ただいま読書中】『空港まで1時間は遠すぎる!? ──現代「空港アクセス鉄道」事情』谷川一巳 著、 交通新聞社新書057、2013年、800円(税別)

 まずは成田空港が取り上げられます。東京から成田エクスプレスを使って成田へ、そこからLCCで福岡まで飛ぶと、「成田エクスプレスの料金」と「LCCの料金」がそれほどかわらない、という愉快な現象が生じます。1978年成田空港が開港当時、鉄道アクセスは京成だけでしたが、京成成田駅はターミナルビルに直結を許されず、1km手前で駅が開業、客はそこで有料バスに乗り換えてターミナルビルに入りました。バス代節約で徒歩で行こうとすると機動隊員に職務質問をされました。これまたなんとも愉快なお話です(ちなみに成田のターミナルビル地下には最初から「駅」が用意されていましたが、それが使われるようになったのは1991年です)。こういった交通行政を平気でできる人は、無能なのか無恥なのか、どちらなんでしょう? なお第一ターミナルビル近くの区間は「成田空港高速鉄道」が線路などの施設を所有しているため、京成もJRも成田空港高速鉄道に上納する加算運賃があります(京成の場合140円)。
 成田へのJRは、はじめは「成田新幹線」の予定でした。長さ100kmの新幹線にどんな意味があるのか、私にはわかりません。しかも従来の新幹線とは直結しません(東京駅の京葉線ホーム、あそこがもともと「成田新幹線東京駅」の予定地です。有楽町駅、と言った方が正確なんじゃないか、と思いますけどね)。
 そうそう、「24時間空港」には「24時間空港アクセス」が必要だ、という極めてまっとうな指摘が本書にはあります。それと「わざわざ都心から遠い空港を作るのなら、庶民がタクシーを使わなくても安く空港にアクセスできる手段についても考えておくべきだ」とも。「自分は黒いリムジンで往復するから、どうでも良いもんね」の人には届かない言葉でしょうが。
 次は羽田空港です。東京モノレールの開業は1964年、東京オリンピックの年です。京急の乗り入れは1998年。意外と新しいんですね。面白いこぼれ話が次々と登場します。読んでいて飽きません。ただ、ここでも感じるのは、(成田と同様)「空港」とつくだけで特別料金になってしまうアクセス料金・利用者不在の時刻表、など「日本の問題点」です。
 関空はバブルの産物です。膨大な建設費と莫大な維持費で、着陸料も高額となり、バブルははじけてしまいます。さらに「24時間空港」がウリなのに、アクセスは(まるで「当然」のように)24時間対応になっていません。これでは「関空の人気がないのはなぜだ?」という立問さえできません。ちなみに本書には関空の利用者数が新千歳や福岡より下(那覇や伊丹と良い勝負)という数字が掲載されています。アクセス鉄道は、JR西日本と南海です。
 空港アクセスでエポックメイキングだったのは1980年の国鉄千歳線千歳空港駅(現在の南千歳駅)の開業です。当時はまだ飛行機は特別なもので、北海道には青函連絡船を使うのが“普通”の手段だった時代でした。私もその頃北海道出張は「規定により国鉄料金で出張費を計算する」と言われましたっけ。飛行機を“敵視”していた鉄道も、空港を無視できなくなる時代の到来でした。かつての千歳空港は自衛隊と民間の共用でしたが、92年に新千歳空港に民間は移転し、それに合わせて新千歳空港駅ができました。この鉄道は、札幌市民にも「ちょと空港に遊びに行こうか」と愛用されているそうです。
 日本で一番便利な空港は福岡です。JR博多駅から地下鉄で5分。さらに空港バスが空港から県内各地を密に結びます。ただし、国際線ターミナルへのアクセスは今ひとつです。
 ちょっとユニークなのが山口宇部空港。すぐそばをJR宇部線が走っていて、最寄り(ターミナルビルから徒歩5分)の草江駅(無人駅)を使えば、立派な空港アクセス鉄道です。単線のローカル線ですけどね、私も一時この鉄道を使っていましたが、二両編成のワンマンカーで病院通いとおぼしき老人たちや地元の高校生がきゃぴきゃぴしていてのどかな雰囲気でしたっけ。だけど、でかいトランクを抱えて乗り込んでくる旅行客にはお目にかかったことはありません。
 日本の企業は「アタッチメントなどの部品に細かい構造の差をつけて他社のものが使えないようにして、消費者を自分のところに囲い込もう」とする傾向があります。運送でも同じようで、鉄道と航空とが無用の対立(あるいはお互いの無視)をしたために結局ユーザーが不便を強いられることがまかり通っていました。ユーザーの利便性を無視して成立する商売って、一体何の上にあぐらをかいているんでしょうねえ。