【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

2011-10-15 19:10:59 | Weblog

 東北の被災地の復興と防災の動きがやっと始まったようです。でもまだ、たとえば「防潮堤の高さをどうするか」などが決まっていないんですよねえ。
 ところで、復興と防災は「セット」でしたっけ? もちろん東北の復興は必要ですが、防災は「次に災害が起きるところ」に予算の重点を置いた方が良いのではないです? しばらく地震(や津波)が起きないところは、しばらく経ってから防災工事を始めても良いわけで、東北にまたすぐ地震が起きるのだったらともかく、そうでないのなら「次の地域」に注目した方が良い、というのが私の考え方です。(不幸にも防潮堤などを建設する前に大地震が起きることもあるでしょうから、そういった防災工事を行なわない“丸腰”の地域では「避難」の徹底が必要でしょう。もっともこれは、防潮堤があってもするべきことですが)
 で、「次」がどこであるかの確率計算をするのもまた「地震予知」のお仕事ですよね?

【ただいま読書中】『人はなぜ逃げおくれるのか ──災害の心理学』広瀬弘忠 著、 集英社新書0228E、2004年(11年10刷)、700円(税別)

 「避難」は、もっとも古くからある素朴で有効な「防災行動」です。本書には、東海・東南海・南海地震での18のシミュレーションが載っていますが、そのどれでも「避難率」が高ければ死者数は少なく、避難率が低ければ大量の死者、となっています。
 避難の時に示される人間の行動にはいくつかの特徴があります。まず、家族単位で行動しようとします(これは文化の違いは関係ないそうです。また、小さい子供がいる家族は決断や行動が早く、老人がいる家族は遅くなりがちです。ということは、行政などのサポートは後者を中心にした方が良い、ということになります)。また「確認」が困難な夜間の避難では犠牲率が高まります。また、避難行動には「模倣性」「感染性」(他人が行動するのを見るとつられて同じ行動をする)があります。特に「自分の中に迷いがある」「家族の中で意見が不一致」の場合、「自分たちの判断で行動を決定する」のではなくて「他人の行動で判断する」になるわけです。ということは、他人が誰も動かなければ、自分も動かない、ということになります(韓国の地下鉄火災で、煙が立ちこめても車内にとどまって動こうとしない乗客の姿が衝撃でしたね)。
 過去の体験は、一長一短です。もちろん体験があれば“その災害”には対処が容易です。しかし、違う災害にはかえってその体験が有害である場合さえあります。また、記憶は薄れたり変容します。さらに、「津波警報!」で避難をしたけれどそのときは大したことはなかった、といった場合、その記憶は「避難行動は無駄だった」となります。これは“次回”には避難の遅れをもたらすことがあります。なかなか、「体験と学習」というのも、一筋縄ではいきません。
 気象に関する警報を出すのは気象庁ですが、それは単に「危険の予測」でしかありません。「では、何をしたらいいのか」は、マスコミと行政と「私たちの判断と行動」になります。
 そこで問題になることばがあります。まず「正常性バイアス」。人は少々のことにはびくつかないように「これで良いのだ」と思うようになっていますが、それが行きすぎると「リスクの過小評価」「リスクに鈍感になる」という現象が起きます。ここで必要なのは「正確な情報」です。「パニック神話」というものもあります。「オソロシイ情報を聞いたら、人々は容易にパニックになるに違いない」という思い込みですが、実は人はけっこうしぶとくて(そもそも「正常性バイアス」も働いていますし)そう簡単にはパニックは起きません(4つの条件が揃うことが必要だそうです)。だから行政側が「パニックを恐れて」と正確な情報を隠蔽するのは「間違った態度」と言えます。特に災害現場ではデマ(流言)が流れやすいので、多くのチャンネルを使って正しい情報を流すことが大切です。ちなみに「パニック」の語源は、ギリシア神話の「パン」です。とんでもない色好みで美少年でも美女でも手当たり次第、という半獣神ですが、昼寝も好きで、それを邪魔されると怒りくるって大きな音を立てて人や動物に恐怖心を抱かせ集団的逃走を起こす、という迷惑な神様です。
 災害は残酷な「選抜」を行ないます。「生き残れるかどうか」の選抜を。そしてその後にもう一回「よりよく生き残れるかどうか」の選抜があるのです。そこでは、自己中心的な行動をする人もいますが、援助行動や愛他行動をする人も多くいます。その時私がどんな行動をするか、それ以前に最初の“選抜”を生きてくぐり抜けられるか、それはわかりませんが、「自分の意志」だけは失わないように自分自身にふだんから言い聞かせておきましょう。