一顆明珠~住職の記録~

尽十方世界一顆明珠。日々これ修行です。いち住職の気ままなブログ。ときどき真面目です。

氷は溶けたか…温家宝首相来日、安倍首相と会談

2007年04月12日 | 中国
※中国国際放送局の記事
※国会演説要旨

今回の温家宝首相の来日について、少し長くなるが述べてみたい。

「日中間の氷を溶かす旅にしたい」。

温家宝首相は今回の訪日をこう位置づけている。

小泉首相時代に凍りついた日中関係。

昨年10月、就任早々訪中した安倍総理が砕いた氷を、今度は私が溶かしたいとのこと。

昨晩首脳会談が終わり、そして今日温家宝首相の国会演説が行われた。

中国の首脳が来日したのは6年半ぶり。
さらに、中国首相が国会で演説するのは初めて。
そして実に中国要人が国会演説するのは22年ぶりとのことだ。

日中の現代史において歴史的なできごとと言っても過言ではないだろう。

では肝心な日中間の氷は溶かされただろうか・・・?

結論を先に言えば、やはりそう甘くはない。
今回の会談で両国間の氷を溶かすにはかなりの時間がかかるということを再認識した。

まず、両国関係の一番の障害となっているのが歴史認識の問題であろう。

これはやはり中国にとっては絶対に譲れない問題である。

しかし、もちろん私たちにも譲れない面がある。

この問題についてはいまだに、日本の一部マスコミや一部知識人、一部教育者の中に、日本が過去の歴史をすべて反省し謝罪すれば清算されるという風潮があるが、それは明らかに幻想であり、それでは真に対等な友好関係は築けないということは明白だ。

客観的な資料に基づいて冷静に分析を試みれば、彼らの主張のうち認めることができる部分と、容易には認められない部分がある。
認める部分については誠実に謝罪をしなければならないが、安易に彼らの主張を全て認めて謝罪すると言うのは論外であろう。

また、相手国の価値観に合わせて、自国の精神文化を自ら踏みにじることは、それこそ過去に行われたイデオロギー支配への隷属を再び繰り返すことにもなる。また、あの戦争で亡くなった先祖の御霊を汚すことにもなろう。

いささか観念論に過ぎたようだ。

実際中国人の反日感情は、中国共産党によるプロパガンダによるところが極めて大きい。
反日運動と言えば、特に近年、一人っ子政策によって現れた「小皇帝(親に依存しているわがままな若者という、揶揄を込めて付けられた言葉)」と呼ばれるネット世代を中心とした反日デモが記憶に新しいが(思い出したくもないが…)、彼らもまた共産党によって洗脳的な反日教育を受けてきた世代である。

つまり、あの時代を知らない若者たちが起こした過激な行動の背景には、政府主導のイデオロギー教育によるマインドコントロールがあると言ってもいい。
(もっとも、信じられないことに日本の若者たち(団塊ジュニア)も一部教育者の自虐史観によってマインドコントロールされてきたわけだが・・・)

さらには、近年の過当競争社会への不安や、相変わらずの政府の言論統制によって抑圧されたストレスが、彼らの狂騒的な暴動をより加速させたのであろう。

では本当に中国政府は国民に反日を望んでいるのだろうか。
少なくとも現状ではそれを望んでいないように思う。
なぜなら「反日」が、大局的にみて国の利益にならないということを、中国政府が理解し始めたからである。
聞くところによると、中国政府内部にはハッキリと色づけされてはいないものの旧来保守の反日派と、日中協調路線を主張する改革派に別れるようだ。
温家宝首相などは協調派の最たる人物であろうと思う。
しかし、政府内の反日派の感情を損ねないために、歴史認識の問題などで一定の政治的圧力を日本に加える必要もあると考えているのではないだろうか。
中国政府の趨勢はおそらく協調派になりつつあるのだが、反日派も以前無視できない勢力なのだろう。
いつ国の方針がひっくり返るか予測できないのが中国だから、戦略的にならざるを得ないのは当然だろう。

これはあくまで憶測の枠を出ないが、中国共産党幹部中枢の水面下で、対日政策を巡って熾烈な駆け引きが展開されているのが想像されてならない。

さて、今回の会談は主に日中間の「戦略的互恵関係」の構築がテーマとなった。
この言葉が意味しているのは、とりわけ「省エネ、環境、ハイテク、中小企業、金融、IT」において、日中間における協力的な関係を構築していくということだろうと思う。
要は、「お互いの国益となるよう将来的に前向きな関係を築いていきましょう」というスローガンと捉えられる。
中国が描く終わりなき経済拡大の幻想には危機感を覚えるが、ともかくもここで掲げられているような、「(とにかく)日中がお互いの利益のためにともに手を取り合ってよい関係を築いていく」という方向性自体は高く評価できるのではないだろうか。

さて、国会演説での温首相は、先に述べた戦略的互恵関係の構築をベースに、終始一貫して日中の友好協力関係を主張してやまなかったわけだが、個人的には全体的にとてもよい印象を受けた。
実に希望の見出せる演説だったと思う。
温首相の真摯な熱弁ぶりに、日中間に差し込んだ一筋の光を見たのは私だけだろうか。

これは余談だが、演説前半に述べられた、阿倍仲麻呂(もしや安倍総理にかけた?)、鑑真和上の話は、われわれの感覚からすると国会ではいささか場違いな気もした(私が知らないだけで日中友好を語る上では欠かせないトピックなのかもしれないが)。
国政の場で語られるには、あまりに懐古主義的というか、時代錯誤というか・・・。
しかし考えてみれば、温首相が鑑真和上の話を日本の国会で言及するほど、中国の政界においては宗教的な事柄を話題にすることはタブー視されていないとも取れる。これは逆に日本の政界では考えられないことではないか。と言うのは、日本の政界、ひいては公共教育の現場において、いまだに「宗教」を感じさせる言動は、暗黙裡にタブー視されているからである。
さらに、温首相の口から思いがけず、鑑真和上の話が上がったということは、首相自身が鑑真和上に尊崇の念を抱いているからに違いない。そう思うと、僧侶としては余計に彼に対して親しみがわいてくるというものだ。

閑話休題。

今回特に注目された懸案の歴史問題については、温首相はお決まりの「歴史を鏡として」、「約束を守るべき」といった言葉を述べていたものの、靖国問題、慰安婦問題などについての具体的な言及は避けていた。
小さな意見の相違よりも、あくまでも大きな実りある将来に向かって友好な関係を築いていくということを一貫して主張していたように思う。
また中でも、「日本が過去において行った度重なる謝罪に中国政府も人民も積極的な評価をしている」と述べたことは日中の戦後処理問題において画期的なできごとと受け止めていいだろう。
中国を代表する者の発言としてはかなりの英断だったに違いない。

靖国問題については思うところがあるものの、まだ自分の中で答えが出ていないのでここで意見は述べない。だが、これから安倍首相には靖国参拝を含めて、中国の今回の姿勢になんらかの形で誠意を見せることが求められてくるのではないだろうか。

ともあれ、今回の温家宝首相の来日、安倍首相との会談、さらに温家宝首相の国会演説は、日中友好、日中協力の大きな第一歩として捉えていいのではなかろうか。
氷が溶けるには長い時間がかかるだろう。
しかし、このたび中国から訪れた暖かな(温かな)春風は、確実に両者の氷を溶かす大きな流れを作ったと信じたい。

悲観的な観方はいくらでもできる。
ダメだと思えば、ダメ。
だが、できると思えば、できる可能性は増していく。

どちらが得か?
外交も人生も同じである。

何より肝心なのは今回のような会談を定例化させることだ。
両国間で往来を頻繁に行っていくことによって、次第に胸襟を開いた話し合いができるようになるだろう。

両国の友好と世界平和を心より祈念して。

合掌


☆本来時事ネタは苦手ですが、日中友好の一念でチャレンジしてみました。
相変わらずまとまりのない文章ですが、長文を読んでくださった方、誠にありがとうございました!


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2 コメント

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オレも (イッツカー)
2007-04-13 08:33:15
温家宝首相の来日を評価するよ。

靖国参拝なども文句を言われるからではなく
誠意に答える為の調整と言うのであれば
また意味あいが違うし。

個人的には純粋に参拝はして欲しいという
思いはあるけど。。

中国共産党の反日プロパガンダ政策は確かに
意図的な…って感じるとこはあるね。

まぁどこの国でもある事だけど、キレイごとだけど
出来れば歴史を政治の手段として利用はして
欲しくないね。

だから歴史家の人達に頑張ってもらいたいし、
もうちょっと地位というか影響力的なものがあって
いいと思うんだけど…ボヤキです。

いろいろ語りたいけどそろそろ時間なのでまた!
返信する
コメントありがとう! (りょう)
2007-04-14 11:26:50
的を得た冴えたコメントをありがとう!
さすがだね。

>靖国参拝なども文句を言われるからではなく
誠意に答える為の調整と言うのであれば
また意味あいが違うし。

俺もイッツカーの意見に同感だよ。
「誠意に答える為の調整」とは、うまい表現だね。
最近、中国関係のいろんな本を読んでいるけど、靖国問題は外交カードというより、現中国政府は本心から靖国参拝を望んでいないということが分かったよ。
もしあの時期に参拝すると、国内の反日勢力が過激化して、統制が取れなくなる恐れがある。それは中国共産党にとっては望ましいことではないから。
温家宝首相の表明も、「無闇に反日感情を煽るだけだから、お願いだから靖国参拝をやめてくれ」というニュアンスだったね。

>個人的には純粋に参拝はして欲しい
これも同じ。

>中国共産党の反日プロパガンダ政策
たぶん、中国政府は今までの反日政策を修正して、かなりソフト路線に変更してくるだろうね。そしたら、ゆっくりと時間をかけて日本に対する民意とかイメージも変わっていくと思う。

>出来れば歴史を政治の手段として利用はして
欲しくないね。

同感。
だけど中国は伝統的に歴史を政治の道具に使わずにはいられない国みたい。
日本人は歴史の事実を検証して真実を追究することをことを重んじるけど、中国人は事実なんてほとんどどうでもいいらしい。
彼らにとって歴史は象徴にすぎないから、捏造も、誇大表現も、悪いことではないという考え方なんだ。
悪いのは、悪いことをしておきながら、自分たちの主張を受け入れない方なんだって・・・。
それは中国では「面子(ミンズ)」をつぶすという、一番忌避されることとのこと。
ん~価値観、世界観の壁は厚いね・・・。

それでも、中国もグローバル化がすすんでいい意味で価値観、世界観が相対化されてくるだろうから、反日一辺倒の思考回路も修正されていくんではないかと思います。

ではまた。

遊びに来ておくれ。
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