誤算

3年前の今日、イラク戦が始まった。早いもんだね。その年の2月の安保理で当時のパウェル国務長官がイラク攻撃の正当性について大量破壊兵器の存在をいくつかの証拠写真とされるものを使って説明していたのを記憶しているが、後にその信憑性に疑いのあることを本人自身が認めたんじゃなかったかな？いずれにしてもブッシュ大統領が勝利宣言をした後も、米軍戦死者の数は増え続け直近の発表だと2312人とされている（3月17日）。

「イラクの誤算は、連邦財政の誤算」と赤字の観点から常々論じてきたが、実際に戦争というのは「金食い虫」でアフガンを含め今年度の補正予算までで通算約4000億ドルを費やすことになるとの報道も見られた。イラクだけで確か1日2億ドルの戦費というから日本円にして1日230億円もの資金を費やしていることになる。もちろんこれらの資金の大半が米国国内に落とされているので、昔から戦争とは景気刺激策の側面があるとされるのも、よくわかる。ハリケーン復興関連費やこの戦費が乗ることで、足元の米国経済の好調さが水増しされているのは、忘れてならない要素である。その分、裏側で財政赤字が積みあがっているわけだ。だから前に「政府の支出で景気がいい」と書いた。早い話が、戦時経済の側面もあるわけだ。

先週も米軍がイラク戦始まって以来最大規模の空爆など武装勢力の掃討作戦に出たと各国メディアが伝えたが、今頃なにを？と思った人も多かろう。

当の米国でも支持率の落ちたブッシュ政権が世論を味方につけるために作戦を立案実行したのではないかとの、疑いまで向けられているほどだ。政権の報道官は現場の指揮官の判断としていたが、開戦3周年を意識した動きであったのは否定できない。その支持率だが、日本国内でもよく知られたギャロップ社の調べでは（3月14日発表）政権の支持率は36%で政権発足以来同社が実施したものでは最低だとしている。よく知られているように昨年夏のハリケーン被害への対応の遅れから支持率下落に拍車が掛かったブッシュ政権。今年の11月の議会選挙（いわゆる中間選挙）を控え、共和党内部からも非難の声が上がっていると伝えられる。選挙を控え、支持率を欲しい米国の政権は、往々にして外交的手段に訴えることが多いとされる。したがって、外交上の動きは、すべて色眼鏡で見られることになるし、また支持率アップを狙った動きと見えるものも多くなる。足元のイランもイラクも、当事国の事情や国際的影響の前にブッシュ陣営の事情が優先ということもあるわけだ。

そのイラクだが、選挙が終わったもののいまだに本格政権ができない状況は、とにかく民主制の体裁を整えたい米国側の思惑が先行する形で、“入れ物”を作ることばかりに専念し、実質を伴っていないように見える。アラウィ前イラク暫定政権首相が「内戦状態」とイギリスＢＢＣに語った（19日）と伝えられると、「現地の分析とは一致していない」とチェイニー副大統領が打ち消すなど、とにかく正常化に向かっているとのスタンスを崩さないし、また崩せなくなっている。引き際（出口戦略）が難しいとされる戦争で、米国は結局抜き差しならない状態に陥っているように見える。いつも同じ結論を書くが、イラクの誤算は米国財政の誤算となる。結局ドル相場の誤算ということに。もちろん誤算は、財政に限ったことではないけどね。