先週末10月13日のNY金は大幅反発となった。
NYコメックスの通常取引は前日比58.50ドル、3.1%高の1941.50ドルで終了。1日の上昇率3.1%は年初来で最大で、終値は9月22日以来3週間ぶりの高値に。その結果、週間ベースで96.30ドル、5.2%の大幅上昇となった。週足では4週ぶりの反発ということに。
流動化した中東情勢の先行きに対する懸念が、相対的に安全資産とされるゴールドへの注目を高めた。同時に米国債も買われ、長期金利が低下したことも金市場では買いが先行する環境につながった。ちなみに指標となる10年債利回りは前週末比17.7bp(ベーシスポイント、0.177%)の大幅安の4.627%で終了した。
NY金先物市場では、10月に入って以降2週目までにヘッジファンドなど投機筋が、米長期金利の急騰やドル指数(DXY)の上昇を手掛かりに先安観を強め、ネットで売り越しに転じていたことも、反発の大きさにつながったとみられる。
投機筋は10月10日時点で重量換算で46トンの売り越しに転じていたが、市場環境の変化に慌てて買戻しに転じ急反発に至ったとみられる。
13日の金市場は、NY時間外のアジア、さらにロンドンの時間帯を通し静かに水準を切り上げながら相場は進行した。NYの早朝に心理的節目の1900ドルを突破すると上昇ピッチが上がったが、先物市場にてファンドの買戻し(ショート・カバー)が活発化したものとみられた。この動きはNY通常取引入りとともに加速し、そのまま1930ドルどころに急伸。その後、売り買い交錯状態になるも、午前11時前には再び上値追いに転じ午後に入り1940ドル台に乗せ、終盤は切り上げた水準を横ばいで推移し終了した。
NY金が騰勢を強めた背景は、やはり中東情勢に対する警戒感がある。
10月7日にわかに伝えられたハマスによるイスラエルに対するこれまでにない大規模攻撃から1週間余り。事態の推移を見守っていた市場だが、最大のポイントはイランを中心に紛争の範囲が拡大することにある。イランを中心に近隣諸国では、パレスチナ自治区内での民間人犠牲者の拡大について、イスラエルによる自衛権の行き過ぎた行使との見方が強く、ガザ地区への侵攻に抵抗が強いとみられてきた。
そうした中で13日イスラエル軍はガザ北部の全ての民間人に対し、24時間以内の退避を勧告。地上戦が近づいているとの見方から一気に緊張感が高まった。同じ13日、イスラエル軍のダニエル・ハガリ主席報道官が、イスラエル軍の歩兵部隊と戦車部隊が、ガザ内で「局地的な奇襲」を実施したと発表。イスラエルによる軍事行動が空爆作戦から地上作戦へ移行したことが確認され、市場が警戒していたフェーズに入ったとして反応が大きくなった。
金市場のみならず、周辺の産油国を巻き込む事態に発展することを懸念し、原油先物も買いが膨らんだ。米国産原油WTIは13日前日比4.78ドル、5.8%高の87.69ドルの大幅高で取引を終えた。
イスラエル軍による100万人とされるガザ北部住民に対する24時間内の南部への避難勧告は、そもそも非現実的でとの指摘があった。イスラエルの通告に対する国際的批判の高まりから、多少の時間の延長や先行していたガザ地区へのライフラインの遮断は、南部では水供給の再開が始まるとされる。ただし、本格的な地上戦移行による民間人犠牲者の拡大は避けられない見通しで、そうなると反イスラエルの近隣諸国や組織を刺激し本格的な戦争に至るとの懸念が強い。かかる事態を回避すべく欧米中心に各国による外交努力が続けられている。
こうした外交努力が功を奏するならば、足元のNY金に乗った中東プレミアムは一気に剥がれることになる。
市場は事態の推移と、その世界経済への影響、より具体的にはこうした事態に米連邦準備理事会(FRB)の政策方針が影響を受けるのかを注視することになりそうだ。
10月31日~11月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)が迫っており、21日以降FRB高官が情報発信を控えるブラックアウト期間に入る。その直前の19日(木)にパウエル議長の講演が予定されており、金市場のみならず市場横断的に注目が集まることになる。