市場がこぞって注目したブレイナードFRB理事の講演。やはりタカ派的な内容もニュアンスもなかった。以前からの主張そのままで、報じられている内容からは、むしろさらに(経済理論的に)踏み込んだ(問題提起をするような)発言があったといえる。
まず、「個人消費の拡大を示す指標とインフレ加速の兆しを確かめたい」として、以前と同様に利上げに慎重な姿勢で臨む方針を明白に示すものだった。さらに、4%台に入っている失業率から米労働市場は完全雇用状態にあり、いずれ賃金上昇からインフレ率の押し上げに至るという見立てについても、「労働市場は物価に圧力をかけることなくさらに改善する可能性もある」と以前からの主張を展開している。“以前からの主張”とはいえ、この考え方は新しいものでこのように考えないFRB関係者も多いと思われる。伝統的には、雇用が増加し失業率が低下すると、やがて賃金上昇につながり物価を押し上げるという経路を前提としている。
そもそも、同理事は、「労働市場は、一部エコノミストが指摘するより完全雇用から遠い状態にある可能性もある」とまで言及した。同理事が言わんとしているのは、経済が構造変化を起こした結果、従来の経済理論では捉えきれない部分が増えており、それに見合った対応が必要、というのが私なりの解釈。
この話に関連して指摘しておきたいのが、同じFRB理事のパウエル理事の発言内容が変わってきていること。
8月26日のジャクソンホールでは、パウエル理事はFRBは利上げに関して慎重かつ忍耐強く臨むべきで、利上げに踏み切る前にインフレ率が上昇することを確認したいとしていた。この発言内容には、驚いた。というのも、この5月には、様々なリスクを指摘し、それゆえ利上げは段階的に行う必要があるとしながらも、「かなり速やかに」引き上げるのが適切かもしれないと発言していた。タカ派の理事と見なしていたのだが、いつのまにかブレイナード路線に転じていると思われる。現在、FRB理事は2名が空席になっていることから、5名で構成されている。イエレン議長が、ブレイナード路線に傾くと残るはフィッシャー副議長のみとなるが、理事間の意見の相違いが大きいとなるとFRBの信任問題にもつながりかねず、執行部は(利上げに)慎重姿勢ということになりそうだ。