6月10日のNY市場の金価格は反落した。前日にロンドンで始まり2日目に入った米中の貿易協議の進展期待から、利益確定売りが先行した。NYコメックスの通常取引は前日比11.50ドル安の3343.40ドルで終了した。
11日に発表される5月の米消費者物価指数(CPI)の発表を前に、方向感は出にくかった。さらに12日に実施予定の米30年債入札の結果にも注目が集まる。入札が不調に終われば、金市場に逃避資金が向かい水準が切り上がる可能性がある。
NY金は最高値圏での滞留が続いている。
ここまでの過去最高値は終値ベースで4月21日の3425.30ドル、取引時間中では翌22日NY時間外アジア時間に付けた3509.90ドルとなっている。その後の安値は終値ベース5月16日の3187.20ドル、取引時間中では5月15日の3132.30ドルとなっている。ただし、16日から3営業日後の21日には終値で3313.50ドルと3300ドル台に復帰した。当初は3200ドル割れ、直近では3250ドル以下では旺盛な現物需要が見られたと伝わる。
ただし5月下旬から6月10日に至るまで保ち合い相場が続いている。直近の1週間では3350ドルをコアにした上下50ドルのレンジを固めつつあるように見える。
NY金はトランプ大統領がアメリカ「復活の日」として国別の関税率を発表した4月2日を皮切りに、4月2週目以降に騰勢を強めた。そして米株市場はじめドルから米国債まで同時並行的に売りが広がるトリプル安に至る、いわゆるアメリカ資産売りが見られる中で逃避資金を集め、4月22日の3500ドルに向け3000ドルから100ドル幅ずつ急ピッチで水準を切り上げた。
今回、大規模なものではないにしても、トリプル安が起きたことは機関投資家から富裕層を中心とした個人投資家まで相応の危機感を抱かせたとみられる。とくに株式の急落局面で米国債が安全資産としての機能を果たせず、価格が急落(利回りが急上昇)したことが転機になった。自由貿易の否定(関税発動)という通商政策の大転換こそあれ、金融危機など市場混乱が起きてない中でのこと。株式と債券に分散投資する伝統的な株式60%・債券40%という「60/40ポートフォリオ」が効かない環境に市場が変質したのではとの見方が高まっている。米国株と米国債が互いに値動きを相殺するどころか、同じ方向に動くようになっている。大きな背景は政府債務と(利払い費増加などから)財政赤字がともに急拡大していることを受け、投資家が長期の米国債保有を敬遠していることがある。
こうした環境変化の中で金(ゴールド)と原油を組み入れることを推奨する動きが広がっている。平均的年間リターンを維持しリスクを軽減できるとしている。金については通常よりも高めの配分を推奨し、原油は低めながらも組み入れるべきとしている。欧米大手投資銀行などが長期ポートフォリオとして勧めている。ここ数年の金価格の高騰は中長期保有の現物需要増に支えられて来たが、この動きは米トリプル安をきっかけにさらに進展する気配だ。長期の現物買いと言うと、中央銀行の買いはその筆頭でもある。