夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の
知らえぬ恋は 苦しきものそ
=巻8-1500 大伴坂上郎女=
夏の野の草の繁みに咲いている姫百合の花は、人に知られない。そのように相手に気づいてもらえない心に秘めた恋は苦しいものです。という意味。
相手も回りもわからないまま恋が進行するつらさ、すなわち片思いを歌った。
大伴坂上郎女は、万葉集の女流歌人としては、指折りの人で、佳品を多く遺している。異母兄の大伴宿奈麻呂との間に、坂上大嬢(さかのへのおおいらつめ)と坂上二嬢(さかのへのおといらつめ)とを生んでいて、この大嬢が家持の妻となっっている。
坂上郎女の歌は万葉集に83首もあり、女性歌人では一番多いが、悲しい恋や、ときめく恋の歌は見受けられない。
多感な歌人で穂積皇子(ほづみのみこ)をはじめ藤原麻呂や大伴宿奈麻呂、大伴百代(ももよ)らと愛人関係にあったとされるが、この歌の相手は特定できないようだ。
「姫百合」は、本州南部の山地に自生し、小さくて可憐なユリの花。茎の先に濃いオレンジ色の花を上向きに開く。
万葉集に「ひめゆり」の歌はこの1首のみである。
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