飛鳥への旅

飛鳥万葉を軸に、
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死者の書の旅 その7(小説「死者の書」第11-13章”白玉幻想”)

2006年11月20日 | 死者の書の旅
第11章は、蓮糸織が初めて出てくる。奈良の郎女の屋敷で、苑の池の蓮の茎を折って繊維を引き出し、幾筋も合わせて糸にする、女たちの作業を郎女がじっと見ている日もあった。
第12章、郎女の決意。
「姫の咎は、姫が贖(アガナ)ふ。此寺、此二上山の下に居て、身の償(ツグナ)ひ、心の償ひした、と姫が得心するまでは、還るものとは思(オモ)やるな。」

第13章は、この小説の白眉である白玉幻想の場面が出てくる。庵での郎女の静かな夜に、
「つた つた つた。又、ひたと止(ヤ)む。この狹い庵の中を、何時まで歩く、足音だらう。つた。郎女は刹那、思ひ出して帳台の中で、身を固くした。次にわぢ/\と戦(ヲノヽ)きが出て来た。」
「白い骨、例へば白玉の並んだ骨の指、其が何時までも目に残つて居た。帷帳(トバリ)は元のまゝに垂れて居る。だが、白玉の指ばかりは細々と、其に絡んでゐるやうな気がする。・・・長い渚を歩いて行く。・・白玉を拾ふ。水のやうに手股(タナマタ)から流れ去る白玉。・・・姫は――やつと、白玉を取りあげた。輝く、大きな玉。さう思うた刹那、郎女の身は、大浪にうち仆される。浪に漂ふ身……衣もなく、裳(モ)もない。抱き持つた等身の白玉と一つに、水の上に照り輝く現(ウツ)し身。
ずん/\とさがつて行く。水底(ミナゾコ)に水漬(ミヅ)く白玉なる郎女の身は、やがて又、一幹(ヒトモト)の白い珊瑚の樹(キ)である。脚を根、手を枝とした水底の木。頭に生ひ靡くのは、玉藻であつた。玉藻が、深海のうねりのまゝに、揺れて居る。やがて、水底にさし入る月の光り――。ほつと息をついた。
まるで、潜(カヅ)きする海女(アマ)が二十尋(ハタヒロ)・三十尋(ミソヒロ)の水(ミナ)底から浮び上つて嘯(ウソフ)く樣に、深い息の音で、自身明らかに目が覚めた。」


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写真は、アニメーション映画「死者の書」の画像