それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

映画「エリジウム」、不法移民、エボラ

2014-10-15 23:19:44 | テレビとラジオ
映画「エリジウム」を観た。映画「第9地区」の監督、ニール・ブロムカンプによる作品である。

あらすじはこうだ。

エリジウムの舞台は、近未来の世界。地球は環境汚染か何かで貧しい人々が住むスラムになっていた。

富めるものたちは宇宙にコロニーを創り、そこで優雅な生活を送っていた。

主人公(マッド・デイモン)は地球で働く貧しい工場労働者。ところが、工場での過酷な作業のなかで被爆し、余命5日と宣告される。

生きるためには宇宙のコロニー(エリジウム)で医療カプセルに入るしかない。そこでコロニーへの密航を企てるが、密航を手助けしてくれるブローカーに支払う金がない。

そこで主人公はブローカーに頼まれた、とんでもなく危険な仕事を引き受ける。そのために彼は手術を受け、強化された肉体を得て、様々な敵と戦う。そして、その戦いの果てに主人公が見たものは・・・・・・。



この話は、アメリカと中南米の格差をSFにしたものだ。

その直後、ちょうどNHK-BSで、中南米から密入国を試みる少年たちの話を見た。まさに、その話とパラレルだった。

地理的には近いのに、国境を挟んで、富めるものと貧しいものの格差は驚くべきものになっている。

貧しい地域にたまたま生まれただけで、何故まともな教育もまともな仕事もまともな医療も受けられないのか。

最後の希望が密入国、というわけである。

密入国しても捕えられ、本国に強制送還される。



この映画にはきまって次のような批判が出される。

宇宙コロニー(エリジウム)がまるで隙だらけではないか、と。誰でも入ってきてしまうではないか、と。防衛システム弱いじゃん、と。

ならば、答えよう。アメリカもそうなのだよ。

国境は隙だらけで、密入国は決して不可能ではない。

国境とは基本的にそういうものである。

ならば、どんどん密入国すれば良いではないか、という反論が来る。

実際、そうしている。エリジウムでもそうなっている。

だが、結局のところ、入った後にまた追い返されるだけなのである。

あるいは、地球で革命を起こしてエリジウムを襲えばいい、という反論もある。

これも支配というものの性質を勘違いしている。

支配とは、支配されるものたちを徹底的に無力にし(つまり貧しく無学のままにし)、孤立させ(団結しないようにさせ)、抵抗力を失わせることに最大の努力が払われる。

暴力によって抑圧するのはコストがかかるのである。

要するに、地球の貧しさと医療設備の欠如は、支配のシステムの一部なのである。

距離的に近いし、何か出来そうなのに、無力な人びと。この映画は見事にその奇妙さ、歯がゆさ、やるせなさを描いている。



だが、中南米はアメリカの植民地ではない。現実の問題は映画よりも複雑だ。

不法移民は実際問題、格安の労働力として多くの企業に利用されている。不法だから安いのであり、それが便利だからそのままにしている。

多すぎると思えば、捕まえて追い返せばいい。

あまりにも入ってき過ぎるというのなら、国境を越える以前に、メキシコ政府に圧力をかけ、どんどん捕まえればいい。

不法に越境するには、多くの教会などのNPO組織の力が必要で(これによって不法移民たちは途中で食事や寝る場所を確保している)、今はそれが黙認されている。

本気になるなら、そこをすべて潰せばいい。簡単なことだ。

だが、そうしない。そうすることが誰にとっても得ではないからだ。

現実はエリジウムよりも複雑だ。



それに、アメリカの内部にもスラムは存在する。そこにも南北格差が内包されている。

そこがさらに複雑な構造になっている。

リベリアからエボラ出血熱患者がアメリカに入ってきた後の対応は、その構造を考えるうえで非常に興味深いものだった。

患者の男性は熱が出て病院に行ったが、風邪だと診断されて、すぐに追い返されたという。

その後、多くの人間に接触した後にエボラと判明して、全員監禁。

アメリカの病院スタッフも、そもそもエボラに対処できるような訓練も受けていないし、施設もないのである。

それは普通の病院ならば、どこでもそうだ。

問題は、病院間のシステムが構築されていないということなのである。

強力な感染症の場合、対処できる病院は先進国でもごく一部。それゆえ、一般の病院はそうした感染症の患者はすぐにそうした病院へ移送し、完全な統制下に置く。

ところが、アメリカは医療制度がめちゃくちゃで、そもそも格差があるため、貧しい移民が感染症を発症した場合、それを封じこめるシステムが存在していない。

先進国ではあるが、内部に後進地域を抱え込み、放置しているため、そこが医療システムにおいて、とてつもなく弱い部分になってしまっている。



そう、これが現実の「エリジウム」の姿。

システムに穴だらけのエリジウム。