うちなー→えぞ日記 (もとすけのつぶやき)

奈良県出身、沖縄での学生生活を経て、北海道ライフを堪能する、
とある研究者の日常のよしなしごとの紹介。

さらば三弦橋

2014年04月06日 01時17分18秒 | えぞ日記(北海道編)・・日常
北海道は夕張市の山奥に、三弦橋という知る人ぞ知る鉄道遺産があります。
実は以前にこのブログの記事(日本最長普通列車の旅の帰りに車で立ち寄りました)でご紹介したことがあります。
改めて三弦橋とは何かとご説明しますれば、大夕張ダム(1962年竣工)の建設に伴って水没した森林鉄道の代替路線として架けられた、長さ382mの三弦トラスの鉄道橋です。正式名称を下夕張森林鉄道夕張岳線第一号橋梁といいます。


実物で説明すると、このようにトラスの弦材が下路に二本、上路に一本の計三本から成っており、断面が三角形になっているのが特徴です。


一方、普通の鉄道用トラス橋(例:大阪・淀川橋梁)はこのように弦材が上下に二本ずつあり、断面が四角形になっています。
三弦トラスは水道管の橋梁ではよく見かけますが、ある程度大きな断面積が必要な鉄道橋では四弦トラス構造が効率的なため、一般に用いられるのです。
そのため、鉄道用の三弦トラス橋は夕張のものが国内で唯一、世界的に見てもドイツにある「Dreigurtbrücke Düren」という複線・長さ78mのものが他に知られる程度で、とても珍しい存在です。
もっとも、この三弦橋は既に現役ではなく、実際に森林鉄道の線路として用いられたのは完成から僅か6年間だけで、以降は国道経由のトラック輸送に取って代わられてしまいました。

しかし、三弦橋のスマートな赤色の見た目はダム湖(シューパロ湖)の景観に映え、これまで大夕張ダムの名物となっていました。
現在大夕張ダムの直下流では夕張シューパロダムという巨大ダムが建設中で、完成後はシューパロ湖の水面がこれまでより最大40m以上上昇するため、三弦橋は間もなく水没する運命にあります。
そして、この3月4日からいよいよ夕張シューパロダムの試験湛水が始まり、今夏には三弦橋が水没する見込みとなったため、水没前最後の姿を写真に収めようと、今回再び夕張を訪ねたのでした。


国道452号線から分岐する管理センターへの道中から夕張シューパロダムの遠景を望みます。堤高110.6m、堤頂長390mの北海道最大規模の巨大ダムです。


3月から夕張シューパロダム管理センターまでの道が一般車にも開放されており、このようにダムを間近から眺めることができるようになりました。ダム天端は道路になっていますが、まだ現時点では入ることは出来ません。


管理センターの下にある駐車場からは、目前に三弦橋を眺めることができます。
今回訪ねたのは3月も下旬でしたが、天気が不安定で、着いたときにはかなり吹雪いていました。


しばらく車中で待機していると、徐々に空が晴れ、三弦橋を綺麗に見通せるようになりました。
まだダム湖は完全に凍結しており、雪が積もっていました。湖面から橋の下部までの高さは約10mといったところでしょうか。実は三弦橋は湖底から最大で68mの高さがあり、水面下に橋脚の大半は隠れています。
なお、三弦橋の標高は下弦が268.3m、上弦が276.4mで、これまでの大夕張ダムの常時満水位が264.5mだったところ、新しい夕張シューパロダムでは297mまで水位が上昇することになります。大夕張ダム、夕張シューパロダムは農業用水を供給するため、水の使用量が増える夏場には水位が一時的に低下するのですが、ダムの巨大化によって貯水容積は5倍になるため、おそらく新ダムの水位変化はこれまでよりも緩やかなものになると思われます。つまり、三弦橋はよほどのことが無い限り普段は水面上に姿を見せることは無くなるのでしょう。


三弦橋は森林鉄道の第一号橋梁と上で書きましたが、第一号とわざわざ名付けているように、その他にもダム周辺に多くの橋梁が残存しています。写真に写っている橋もその一部で、手前から順に第二、第三、第四号橋梁となっています。いずれも三弦トラス構造の橋ではありません。
これらの橋についても、試験湛水によって間もなく水没する見込みです。


三弦橋の反対側には、夕張シューパロダムの堤体が聳え立っています。この時点でも水面から50mほどの高さがあり、かなりの迫力がありますが、実際は水面下にさらに50mの堤体がほぼ垂直に聳えています。
手前側にある黒い堤防のようなものが、元の大夕張ダムです。昨年の秋に運用が終了し、高さ67.5mの堤体の殆どが既に水没しています。


4月上旬には大夕張ダムが完全に水没し、三弦橋の下部が沈み始め、5月から6月頃には夕張シューパロダムの常時満水位に到達する見込みです。常時満水位に到達したときの予想写真を作ってみました。水面が大きく上昇する様子がお分かりいただけると思います。


三弦橋を見渡すこの眺めも、あと1ヶ月少々でまったく異なる景観に変化するはずです。
今回、水没前の最後の姿を見ることができて良かったですが、また水没する頃に様子を見にいってみようと思います。