ストレスを飲酒で抑え込むのが危ないワケ 耐性を高めるためには有酸素運動が有効だ
東洋経済オンライン 2018/03/02 アンダース・ハンセン
スウェーデンにある、ノーベル医学賞を決定する機関・カロリンスカ研究所。この世界最高の医学研究機関で脳のリサーチを重ね、世界的研究者として2000件以上の医学記事を執筆しているのが、『一流の頭脳』の著者、アンダース・ハンセン氏。
脳のスペシャリストとして活躍し、精神科医でもある同氏が、現代人の多くを悩ませる「ストレス」の実態と対策について、最新知見を交えながら解説します。
医学研究の最前線に身を置いていると、「ストレス」に関する研究報告が世界中からたくさん届きます。
それは、「ストレスが、あらゆるパフォーマンスの基礎値を下げる」からです。仕事の効率化・生産性アップが世界中で求められている昨今、脳研究の世界では、生産性を妨げるストレスに熱い視線が注がれています。
ストレスが鬱や疲労といった問題を引き起こすことは知られていますが、そのほかにも次のような実害が出ることが最近になって報告されています。
・心配すればするほど「前頭葉」が萎縮し、論理的な思考ができなくなる
・記憶の中枢である「海馬」が小さくなり、物覚えが悪くなる
・空間認識力が弱まり、自分のいる場所がわからなくなる
・理性の力が弱まり、行動がどんどん「原始人化」していく
ストレスが人体の司令塔である脳を蝕み、あらゆるパフォーマンスに影響が出るのです。
「ストレス発生の仕組み」は解明されている
そもそも、ストレスはどのようにして発生するのでしょうか?
この仕組みを解く鍵は、脳にある「扁桃体」という部位と、「HPA軸」という人体に備わったシステムにあります。
まず、外部からの刺激(物理的なものでも、心理的なものでも)を人が感じると、脳内の扁桃体が反応して警告を発します。
この警告に反応するのが、「HPA軸」と呼ばれるシステム。扁桃体の警告を脳内の「視床下部(H)」がキャッチすると、「下垂体(P)」「副腎(A)」と呼ばれる部位に刺激が順に伝わり、副腎から「コルチゾール」という物質が分泌されます。
このコルチゾールこそ「ストレスホルモン」と呼ばれる物質で、コルチゾールが分泌されるとあなたの体は「命を脅かす危機に直面している」と判断して体を非常事態モードに切り替えます。結果、それが重圧となって心身の疲労として蓄積されていく、というわけです。
コルチゾールが分泌されると、全身に血を巡らせようと心臓の鼓動が早まり、血圧が上がります。
体に「闘争か逃走」の態勢を取らせます。実は、脳は原始時代からあまり進化しておらず、少しの刺激であってもトラやライオンに出くわしたのと同じような「危機」だととらえて体を反応させるのです。これが、現代人が抱えるストレスの背景です。
興味深いのは、扁桃体の刺激によってコルチゾールが分泌され、血中のコルチゾール濃度が増すと、扁桃体はさらに興奮するという点です。これは、ストレスが次のストレスを生むことを意味していて、一度イライラしてしまうとなかなか治らない理由はこの「ストレス・スパイラル」にあります。
「お酒でストレス解消」はできるのはできるが…
ではこの「デス・スパイラル」ともいえる悪循環にストップをかける方法はあるのでしょうか?
ストレス解消といえば、よくあがるのが「お酒」です。実際、アルコールにはストレスを即座に抑えつける強力な作用があり、ストレスや不安を解消するという点でアルコールに匹敵する物質はないといえます。
アルコールには脳細胞の興奮を鎮める働きを担う「GABA(ギャバ)」と呼ばれる物質を活発にさせる効果があります。脳の活動が鎮まれば、ストレスの感覚は次第に消えていきます。
抗不安薬も同じようにして脳の活動を鎮める仕組みですが、お酒と薬に共通する問題は「効きすぎる」こと。飲めばすぐにストレスから逃れられるのであれば、脳はその魅力に抗えません。
お酒や薬を口にすることで、脳はそれを渇望してしまい、やがては同じ効果を得るために量を増やさなければならず、行き着く末は「依存症」に。そうなれば、脳は別の意味で機能しなくなるでしょう。
お酒や薬が適切でないとすれば、何がストレス対策として最も効果的なのでしょうか? それが判明した、ある実験があります。
「MIST」と呼ばれるテストで、被験者は制限時間内、計算問題に取り組んで、モニター上で正しい答えを選ぶよう指示されます。解答するごとに、自分が正しかったかどうかが表示される形式のテストです。
あらかじめ正解率は80~90%と伝えられますが、実はこのテスト、被験者の答えが正しかろうが間違っていようが正解率が20~45%になるように細工されていて、正答率の低さに被験者はイライラを募らせます。
被験者にわざとストレスを与えて、それによってどんな反応を示すのかを調べるための実験、というわけです。
テスト終了後、血中のコルチゾールの値を調べると、ある人たちはコルチゾール値が明らかに低いことが判明しました。それは、テスト開始前に「30分のサイクリング」をするよう指示された人たち。彼らだけはストレス反応が有意に強く出なかったのです。
科学が「ストレス解消に最も有効」と断定した方法とは
この実験を含め、世界中で「運動とストレス」の相関関係を調べる研究が行われました。
結果、「有酸素運動がストレス解消には最も効果的。また、日頃有酸素運動を定期的に行なっている人は、日常生活においてストレスがかかりそうな場面に出くわしたとき、運動を習慣づけていない人に比べてコルチゾールの値が上がりにくい」と結論づけられました。
いったいなぜ、運動が脳を蝕むストレスを抑えつけるのでしょうか?
実はランニングやサイクリングなどの有酸素運動をすると、血中のコルチゾール値は一時的に上がります。これは自然な反応で、肉体に負荷がかかることは一種のストレスだからです。
筋肉を適切に動かすためには、より多くのエネルギーや酸素が必要になります。そのため、コルチゾールが分泌されて心臓の鼓動は早くなり、心拍数と血圧が上昇します。
しかし運動が終われば、体はもうストレスを必要としません。コルチゾールの分泌は減少し、やがて運動を始める前の値にまで下がっていきます。そして興味深いことに、ランニングを習慣づけると、走っているときのコルチゾールの分泌量は増えにくくなり、反対に走り終えた後に下がる量は増えていきます。
さらに、科学者たちを驚かせたのは、なんと定期的に運動を続けていれば、運動以外のことが原因でストレスを感じても、コルチゾールの値はわずかにしか上がらなくなることが判明したのです。
つまり、運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのであり、有酸素運動によってストレスに対する抵抗力が高められるのです。
具体的には、「ランニングやスイミングなどの有酸素運動を週に2、3回、20~30分続ける」とストレス耐性が養われると、今の科学では唱えられています。
このときの運動のペースとしては最大酸素摂取量が70%ほどの「やや息がきれるくらいの運動」が良いとされていて、やりすぎは逆効果との研究も上がっています。
「筋肉トレーニングは効果がないのか?」という疑問についても調査が行われていて、遺伝子操作で筋骨隆々にしたマウスのコルチゾール値は低いことがわかっています。しかし、人間が筋肉トレーニングによってストレスへの抵抗を高められることは実はまだ実証されていません。
現時点では、筋肉トレーニングでストレス解消を図りたいのであれば、筋トレ+ランニングなど、有酸素運動も取り入れたメニューがお勧めです。
世界中で相次ぐ「思春期のストレス」研究の報告結果
有酸素運動は思春期の子どもにもお勧めです。思春期といえば何かとイライラする人生の一時だと思われがちですが、彼らがイライラするのには、理由があります。それは、脳の発達がアンバランスだからです。
実は、ストレスを感じる扁桃体の仕組みは17歳までにほぼ完成しますが、ストレスを抑える仕組みは25歳くらいになるまで完成しません。不安を引き起こす部位が十分に発達していても、それを抑える部分が未発達となれば、当然ストレスは溜まっていくことに。こういった思春期の子どもに対しても、運動は絶大な効果をもたらします。
本格的な春到来か?日中の気温も15℃を超えたようです。予報では17℃になっていたのですが、ここはどうだったのか?積雪も35㎝程になりましたが、明日からまた気温が下がるようです。
江部乙の沼の氷もすべて融けました。
結構倒木やら枝折れがあり、隣地に倒れた木は、早いとこ片づけなければ文句を言われてしまいます。
膝が思わしくないので、悪化させないよう気をつけながらボチボチと。