2007年6月15日放映の父の日記念スペシャルドラマ。
フリーのディレクター(主としてドキュメンタリーを手がける)である込山正徳さんの同名のエッセイ集を原作に、タイ人の奥さんに突然去られた男性の子育て奮戦を描く。
妻の帰国から離婚、幼い子供がいるために仕事もままならない、傍目には悲惨といえる状況を深刻にならずユーモラスに綴った原作の匂いを忠実に映像化しつつ、なぜか人名はほぼ全て微妙に変えてある。
主人公の込山さんは上山さんに、息子さんのイサラくん・ナユタくんはイサヤくんユウタくんに。面白いところでは元奥さんの愛称アップルさんがオレンジさんになってます。
勝地くん演じるADの斎藤幸一は「テレビ局から派遣されてきたアシスタントディレクターの伊藤くん」(※)がモデルかと思われます。
とはいえ「二十四歳。坊主刈り。通常はワイドショー番組の雑用をしている。風貌はちょっとイカツいが、腰の低い好青年」(※)だという伊藤さんに他の人物の役回りも担わせた、ほぼオリジナルのキャラクター。
(「風貌がイカツい」「腰の低い」、「テレビ局から派遣されてきた」=それまで付き合いがなかったというあたり、別人といってしまっていいほど違う)
実話モデル作品の中で重要なポジションにいるオリジナルキャラという点では『少しは恩返しができたかな』の牧内拓巳や『東京タワー オカンとボクと時々、オトン』の平栗くんに通じるものがあります。
ずっと年上の上山さんに時としてきつい忠言も口にし、普段でもさりげなく口が悪かったりするあたり、拓巳の方が近い感じでしょうか。
表面は今どきの若者らしくちょっとドライな(でも同時にソフトな)話し方をしながらも、休日返上で上山家の子供たちの面倒を見たり夜食を買出ししたり細々と気を遣ってくれる情のある青年で、まさに「女房役」といったところ。
そうした斎藤くんの性格づけに、勝地くんの持つちょっと古風な一本芯の通った雰囲気がよく合っていたように思います。
ついでに失礼な発言を上山さんに詫びるときわざわざ帽子をとって一礼する律儀さ、子供たちといる場面での馴染んだ様子も勝地くん本人に通じるものを感じました。
ドラマ自体も、突出した見所があるわけではないもののケレン味なく丁寧にまとめられた良作で、深刻なテーマを扱いつつ全体にほのぼのしたファミリードラマに仕上げられていました。
一方でこれまでまずドラマで見ることはなかったと思われるトイレトレーニングのエピソードや母子家庭に比べ父子家庭に対する福祉制度が整ってないことなど、シングルパパの苦労を実話らしいリアリティで伝えていたのも啓蒙的効果があったんじゃないかなと思います。
上山さん役の江口洋平さん・再婚相手役の薬師丸ひろ子さんも、かたや大らかな、かたやおっとり穏やかな雰囲気が役にぴったりでした。
※・・・込山正徳『パパの涙で子は育つ ~シングルパパの子育て奮闘記~』(ポプラ社、2005年)