about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『阿波DANCE』(2)-5(注・ネタバレしてます)

2008-11-30 01:43:01 | 阿波DANCE

・おじいちゃんにアホの定義を訪ねる茜。おじいちゃん曰く「何も考えんと回りのものを受け止めていく」こと。
茜のみならず、現在のコージもユッキーたちもこだわるところが多すぎてアホの境地にはほど遠いですね。コージ父は踊る時には日頃のむっつり顔とは別人のような笑顔になりますが、これも踊る時には普段のしがらみ一切を捨ててアホになりきっていればこそなのかもしれません。

・「次は鳴門西高校阿波踊り部のみなさん・・・今、たった一人で踊りこんで参りましたぁ~」。一瞬コージ一人しかいない事態に戸惑いつつも巧みにフォローし明るく言い放つアナウンスの女性がいい味で笑えます。
講堂で一人校長先生に抱負を語ったときといい、一人になってしまっても逃げ出さないのはコージの美点ですね。一人踊るコージを俯瞰で(他の連の人たちも入れて)映すことで、彼の孤独感を浮き彫りにしています。

・「結局今の俺は何もないし」と自嘲気味の台詞を吐くミノルの頭をカズがはたく。コージに怒鳴ったシーンに続いてカズが強いところを見せる。
「奇蹟は起きる。必ず」。彼の言う奇蹟とは、離れていったはずの茜とユッキーが揃い5人で阿波ダンスを成功させることらしい。
ここで男子四人組と茜が最初に出会った時話していた「天女の起こす奇蹟」の伝承が生きてくる。天女=茜が再び現れた時が奇蹟の起きるとき。そしてカズの予言?はもうじき現実となります。

・コージに自転車を押してもらった船着き場?で自転車を練習する茜。こんな両サイドが狭い場所では転べば海に落ちる可能性が高い。
もっと広くて車の来ない公園とかで練習するのが妥当ですが、あえてここにしたのは自転車がらみでコージとの思い出がある場所だからでしょうね。安全性より感傷を優先しての場所選びは、彼女が場当たり的なアホに一歩近付いた証のように思えます。
「わーっ」と声を上げながら海に飛び込むあたりも小気味よいです。

・再び一人踊りこんでくるコージ。この場面、大勢のギャラリーの前で一人で(離れたところには他の連もいるけど)踊る、それも阿波ダンスでなく本来の阿波踊りだけに、勝地くんも緊張したんじゃないかなあ。

・自転車で踊る人々のど真ん中を突っ切る茜。何たる迷惑な。こんなアホ行動も、踊る阿呆に見る阿呆が集う「アホの祭典」阿波踊り大会の日なれば許されるってことなんでしょうね。
自転車乗れるようになったばかりのわりに走り方が安定しているのは、さすがダンサーの運動神経。

・茜とコージが言い争ってる時にスタンドに現れ、阿波ダンスの旗をふるユッキー。「コージ、約束したやろ。俺たち三年間同じ連で踊るって」。
これまでの経緯を忘れ去ったかのようなユッキーのさわやかな笑顔。元はといえば彼の模試優先と嫉妬がチーム分裂の原因だったんだが。
さまざまな確執はとりあえず後回しにして、今は全て忘れて(アホになって)踊ろうというのが彼らの選んだ道―アホになること、という解釈でいいだろうか。
ストーリーの流れ的には、ユッキーはぎりぎりで模試をすっぽかして踊りを取るという「アホ」をやらかしたと取りたいんですが、もう暗くなってるから模試終わってから来ただけのような感じだなあ・・・。

・いきなり放送席をジャックして阿波ダンスの音楽をかけつつユッキーは晴れやかに笑う。優等生がすっかりはじけてしまったか、茜をもしのぐ迷惑行動。
校長がユッキーに「アホー!」と怒鳴ってますが、これはもはや誉め言葉みたいなもの。まあ高校生だけに若気の至りということでなんだかんだ周囲も許してくれるんじゃないでしょうか。
大人になってから「あの時は俺たちずいぶん迷惑かけたよなー」「でも楽しかったよなー」なんて目を細めて語る類の青春の一コマですね。自分の経験を鑑みても、結局思い出話で盛り上がるのはこうしたバカで傍迷惑なエピソードですしね。やられた運営側も「あのアホどもには参ったよなー」「でもあの年は盛り上がったよなー」なんて語り草にしていきそうです。

・一人音楽にあわせヒップホップを踊り出す茜。その表情はいつも踊る時のむっつり顔ではなく明るい笑顔を浮かべている。先に一人踊っていたコージのような悲壮感はまるでなく、堂々としたダイナミックな踊りっぷりが眩しい。
榮倉さんの笑顔の魅力がシーンに説得力を持たせています。

・「父ちゃん、俺・・・アホになってくる。ええか?」「何で聞くんや。アホは自分でなるもんや」。ごもっともです。
アホになる―しがらみを振り捨てて無心になるのに父親の許可を求めるという矛盾した行動をとってしまうコージは、いろんな意味で父親に縛られすぎていて、実は一番アホに遠い男だったのかもしれません。

・生徒たちの勝手なパフォーマンスに慌てる校長をよそに、コージ父の「よっしゃ、いくでー!」の掛け声に踊り手のみなさんが一気に会場に雪崩込み、茜たち5人の回りを取り巻く。まるで鳴門の渦のように。
渦大好きな湯川先生がさも嬉しそうな顔でカメラを向けるのがこのタイミングなのもナイス。

・カズがミノルの背を馬跳びで跳び越え(これ高さがあるので結構難しいんでは)、代わって前面に出たコージとユッキーが二人組で踊ってダブル側転する。「二人のパートの練習にユッキーが来ない」と言ってたのはここの部分のことですね。
さらに正面に出た茜が上体を半ば仰向けに倒して片足ずつあげるように踊る。茜は足が長いのでこうした動きがとても映える。
そして放送席からは「大衆食堂 うずしお」のマスターがラップで乱入。「こうなりゃなんでもアリでっせ」という(ラップの)台詞が全てを表しています。

・この展開に興奮する湯川に、突然その場に現れたさやか先生ががばっと抱きつく。直後首をぐるっと振りあげて湯川を見つめた時の表情が誘ってるとしか思えない色っぽさ。こんな女性が向こうから抱きついてきたら、確かに「300年に一度の奇蹟」かも。
この状況でデレデレになるのでなく、「奇蹟やー!」と豪快に叫ぶ湯川先生はコージに匹敵する熱い男だと思います。

・いよいよ白熱してゆく会場。この「阿波ダンス」のシーンは長すぎても勢いがだれてしまうし、一番のハイライトだけに短ければ説得力が減ってしまう。
それをマスターのマイクジャックや湯川・さやかのラブシーンなどを上手く挟みつつ、時間的にだれそうになるあたりから曲のテンポが増してわかりやすい形でラストスパートに入ることで観客の緊張感・ノリを持続させて、最上の時間配分にもっていってます。
個人的には5人組が阿波ダンスを踊り始めた時面目丸つぶれだと反対していた校長がいつのまにかノリノリで踊っているのがツボでした。反対してたはずの人間さえ知らず知らず巻き込んでしまうのが踊りのパワー・アホのパワーなんですね。

・踊り終えた5人は周囲から暖かな拍手を送られ、達成感に満ちた笑顔でそれを受けるが、やがて茜だけは目を潤ませ泣き顔になって涙が目の淵から零れ落ちる。
この表情の変化が実に自然で絶妙。榮倉さん一番の見せ場なのでは。

・浴衣の女の子たちに「一緒に写真とってもらってええですか?」と聞かれて、自身を指差すカズとミノル。
5人全員に声をかけたんだと思ってたんですが、女の子たちも「はい!」とあっさり頷く。ほんとにカズとミノル狙いだったのか?
元々女にモテるのが目的だった二人の願いが見事達成された形。ここにもまた奇蹟が。この作品、何気に伏線の張り方・拾い方はしっかりしています。

・再びいつものノリで口喧嘩をはじめる茜とコージ。しかしコージの「東京帰れ」発言は、実は仲間意識の強い茜をまた傷つけるんじゃあと思ったら、茜はしばし考えてから「帰るよ」と自分の決意を語る。
コージは一瞬ショックを受けた顔をしてから「おー、帰れ帰れ」と表情が一変する。このあたりの変化はさすが上手いです。

・駅での別れのシーン。茜はいつもと違い前髪を七三の位置で流してるせいか、今までになく雰囲気が柔らかくなっている。
ユッキーは医者志望をやめて絵の学校に行くことにしたと告白。「いつまでも親のいいなりじゃ情けないからな」。茜、コージに続いてユッキーの「親越え」がここで描かれる。
カズが茜に涙声に話しかけるのに、「天女さん」がいなくなるのがそれだけ悲しいんだなあと思いきやミノルともども「俺ら来週ダブルデートなんや~」「茜のおかげや~」。
嬉し泣きかい!そういやユッキーの告白に対する返事はいいんですかね?

・「辛くなったらいつでも戻っておいで」という母の言葉に茜は「わかってる。だって、ここがあたしの故郷だもん」。
お母さんから離れて再び東京に戻る道を選んだものの、「茜に故郷を作ってあげたかった」という母の思いはちゃんと受け止めている。理想的な「親離れ」の形ですね。
そして彼女に短期間でここを故郷と呼べるほどの愛着を感じさせてくれたのはやはり阿波ダンスを通して鳴門の人たちと一体となった経験だったのでしょう。特にひと夏を共に過ごしたチーム阿波ダンスの面々は今後とも彼女の記憶に深く刻まれてゆくんでしょうね。

・電車に乗り込んだ茜は「みんなありがとう。あいつによろしくね」と笑う。その笑顔に少し含まれる寂しさは、皆や「故郷」との別れの寂しさだけでなく、コージが見送りにきてくれなかったことへの寂しさも混ざっていたのでは。
茜を見つめるユッキーの表情は、そんな彼女の内心を見抜いているように見えます。

・電車の席に座り、阿波ダンスの衣装を取り出し、金メダルを手に取る茜。
以前は東京での栄光の象徴だったこのメダルですが、今の彼女にはむしろコージとの思い出の品として認識されてるじゃないでしょうか。メダルを眺めていた直後にコージが現れますし。

・自転車で電車に併走しながら「茜ーー!」と初めて彼女の名前を叫ぶコージ。見事に予想通りの展開です(笑)。阿波ダンスの旗を荷台に結んでのぼりのように立ててるのがコージらしいというか。
てっきりここで茜も「コージー!」と初めて名前を呼ぶかと思ったんですが、「ほんまにアホやー!」と叫んだのには意表をつかれた。
「それってひどくないか?(笑)」と初見では思いましたが、物語を見ていくとむしろ「アホ」呼ばわりは最高の賛辞なんですよね。「コージ」と名前で呼び掛ける以上の敬意を表した、愛を篭めた呼びかけですね。それも関西弁なことで茜が鳴門の人間になったことも示されている。
多分この二人今後恋仲になったりはしない、というよりひょっとすると二度と会うこともないのかもしれない。コージの「一生アホでおれよ」という言葉からもこれが最後の別れというニュアンスが伝わってきます。
二人にとってお互いは高校最後の夏に奇跡的体験を分け合った仲間、恋愛未満の微かな慕情の相手として綺麗な思い出になってゆくのでしょう。

・コージは「一生アホでおれよ」と言ったあとに「約束やからな!」と続ける。
ユッキーとの間で、そしてカズとの間で、彼らとの友情の証としてたびたび口にされてきた「約束」という言葉が最後にまた登場する。それも「三年間同じ連で踊る」のような「何かをする」約束ではなく、今のままの茜でいてくれという、約束というよりは願い。
熱血男の真っ直ぐな情が伝わってくる名台詞だと思います。

・去ってゆく電車を見送るコージは涙を堪えているように眉を寄せ口を少しへの字にしつつ微かに笑顔も浮かべてみせる。
複雑でありながらどこか幼さも感じさせる表情に、自転車に乗ってるせいもあって『パコダテ人』を思い出してしまった。

・コージの方を見送る茜は電車の中で一人涙を流しながらも綺麗な笑顔を浮かべ、そして阿波ダンスの衣装を口元にそっと押し当てる。
その仕草にコージへの、そして鳴門で過ごした日々への愛情が溢れているように感じました。

・メインキャラクターの顔や名シーンが写真のように切り取られ、少しずつ提示されてゆくエンディングはアルバムをめくっているような感覚を呼び起こす(実際曲の半ばで写真と寄せ書き?が置かれているシーンもある)。
湯川先生が撮った写真という裏設定があるのかはわかりませんが、彼らのひと夏の歴史を一緒にひもといているような気分。
上で「大人になってから「あの時は俺たちずいぶん迷惑かけたよなー」「でも楽しかったよなー」なんて目を細めて語る類の青春の一コマ」と書きましたが、少年時代を回想するという形式ではない、現在進行形の作品なのにどこか懐旧の情を覚えてしまうのは、この映画がアホでいられる時代―青春を描いているからなのでしょう。
主題歌が90年代半ばに大ヒットしたTRF「survival dAnce」なのは、あの頃青春時代を過ごした年代を観客として想定してるということなのかも。現在青春まっさかりの若い人が観たらどんな印象になるんでしょうね。
勝地くんはインタビューで「青春映画なのでまず10代の方に観てもらいたい」と話してましたが、つい小利口に大過ない生活を良しとしてるような若者がこの映画に感化されて「アホになるのもいいかも」と思ってくれたらいいな。

・ラスト、一枚だけモノクロの写真(阿波ダンスを踊り終えてポーズをとる5人)があるなと思ったら、阿波踊り大会での彼らの活躍を報じた新聞記事の中の写真だったとわかる、というオチが上手い。
珍しく湯川先生以外のカメラマンが5人を写して、「明日の朝刊楽しみにしててや」という場面がここに生きてくる。見事なラストシーンだと思います。
ついでに書くと、最後のサビに入るところでコージが法被を脱ぎながら走ってくるシーンがコマ送り状態になっていて、開いた胸元にちょっとドキッとしました(笑)。

 


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『阿波DANCE』(2)-4(注・ネタバレしてます)

2008-11-26 01:55:48 | 阿波DANCE
・電車が去ったあと、コージは「ちょっとつきあえ」と茜の手を引く。
その動作が、普段とはうってかわって優しくて、一瞬のシーンですが、二人を恋人同士のように見せています。

・夜も遅いのに広場で踊り続ける人たちを見ながら、茜の足は自然とステップを踏む。そんな茜を見つめるコージと彼の視線に気づいた茜とは、互いに戸惑いを見せつつもほんのりと微笑み合う。
二人の気持ちが意地の張り合いから解放されてはっきりと通い合った場面。阿波踊りの掛け声と音楽にもかかわらず、どこか静謐な美しさが感じられるシーンです。

・そんな二人を背後から見つめるユッキー。二人の間に入り込めないものを感じての寂しさと嫉妬がその表情にうかがえる。
この後、模試を理由に祭をすっぽかそうとしたのには、この時コージに感じた嫉妬が少なからず影響してたことが匂わされています。

・もう一度阿波ダンスをやろうという茜の言葉に賛同したコージは、「俺らだけの踊りや。阿波ダンスや」と笑う。
茜とコージの二人ともが再度阿波ダンスに取り組む直前に親との衝突が描かれているのは、阿波ダンスが阿波踊りとヒップホップという異文化の融合というだけでなく、「自分たちの新しい踊りを作る」ことによって前の世代をただ模倣するのでなく乗り越えてゆくその象徴だということを示しているのでは。
しかし作中では阿波ダンスの振り付けって誰かが考えたことになってるんだろ?やはり全員で?衣装もデザインはユッキーだろうけど、誰が縫った?

・「うずしお」恒例の卵ロシアンルーレットで卵まみれになる茜。こういう男子特有のお馬鹿イベントに参加するようになれば、もう本当の仲間ですね。
レンコン畑で泥まみれになったり卵まみれになったり、榮倉さんの体を張った演技に感心したものです。

・ローソンの前で「徳島名物フィッシュカツ」を食べる面々。
仲良さそうに喋るコージと茜の隣でユッキーは浮かない顔。二人の仲にジェラシーを感じてるのは当然でしょうが、この時すでに模試と祭りがぶつかるのがわかって悩んでたんでしょうか。
しかしカズとミノルはもはや茜へのアプローチはあきらめてしまったのか?

・阿波ダンスがやっと完成したものの、その場にユッキーの姿はない。ユッキーが模試と祭りのどちらを取るのか、楽観視するコージと違い彼の夢と悩みを知っている茜は複雑な顔。
茜・コージに続き、今度はユッキーが親と衝突し乗り越えてゆく番ですね。

・母を亡くして自暴自棄になっていた時、ユッキーに救われた話をするコージ。
「あいつが裏切るわけない。」と会話を締めた時、コージは静かに微笑む。その表情にユッキーへの深い信頼感が滲んでいる。
こうした細やかな感情表現は本当上手いと思います。

・ユッキーの家に彼を誘い出しにくる茜。阿波ダンスの音楽を窓の下で流すのは、以前ユッキーに呼び出されたときのお返しですね。
茜が変わったのは「コージのおかげやな」というユッキーは、ほとんどコージへの嫉妬を隠していませんが、茜はそれに(自分への思いに)気づいてるのかどうか。とともあれ「(コージだけでなく)みんなのおかげ」という茜のフォローは適切だったかと。
茜は「アイツとユッキー」と、相変わらずコージのことは名前で呼ばずアイツ呼ばわりなんですが、ユッキーにしてみれば、それもまたコージに対する格別の親しみに聞こえちゃってるのかも。

・海辺でユッキーを見つけるコージ。「練習こいや」と話し掛ける声がとても優しい。でも途中から決裂。
殴り合いのシーンはカメラが揺れながら二人の動きを捉えていて、殴られて視界がぐらっと来る感覚が観客にも伝わるように工夫されている。

・コージはみんなじゃなくて茜のために阿波ダンスをやりたいんだ、というユッキーの嫉妬全開の言い分にコージは一瞬目を見張り、その後一貫して「違う」「そんなんやない」と繰り返す。
しかし「何言ってるんや」「おまえそんなこと考えてたんか」のような「何を言われているのかわからない」風の返答をしなかったところを見ると、多少言われるだけの心当たりはあったのかなとも思います。

・海に漬かりながら殴りあう二人を茜が止めに入るが、コージは「おまえ関係ないやろ!」と突き飛ばす。
茜は「あたしだって仲間だよ!」と激昂するが、コージが関係ないといったのは、これがチーム・阿波ダンスにかかわる問題ではなく、ユッキーの(茜をめぐっての)コージへの嫉妬に端を発していると知ったからですね。
それはそれで茜は関係ないどころかばりばり当事者なんですが、喧嘩の原因が何なのか彼女の耳に入れたくなかったのは無理もない。
しかし茜を突き飛ばす乱暴な行動をユッキーが咎めないのはちょっと意外。彼も気持ちはコージと同じだった、多少乱暴に扱ってでもこの喧嘩に入ってほしくなかったってことでしょうか。

・と思いきや「茜のことが好きだからや」と直球告白するユッキー。真剣な表情と必死さの篭った声は精悍でどことなく男の色気を感じさせる。
そんなユッキーを見下ろすコージは、濡れて顔に張り付いている前髪のせいもあってか、ユッキー以上に切なげに見えます。普段のコージとは全く異なる表情に幾分ドキっとしました。

・それ以上は何も言わぬまま走り去るユッキー。茜は彼の告白に何とも答えていませんが、その沈黙と困惑の表情をもって答えと見なしたんでしょうか。

・なぜこんな町に連れてきたのかと問い質す茜に、茜の母は「茜に故郷を作ってあげたかった」と話す。
自分たち(彼女と元の旦那)が仕事で忙しくて茜に寂しい思いをさせたからとのことですが、ということは故郷・鳴門に帰るにあたってお母さんは仕事をやめてきたわけですね?
つまりは仕事より娘を取ったわけで、それは仕事のせいで寂しい思いをさせた罪滅ぼしであり娘への深い愛情でもあるように思います。

・阿波踊り当日。踊るコージ父のいつもとは別人のような福福しい笑顔が見事。
高橋さんは「俺は顔で踊る」と語ってらしたそうですが、なるほどこの顔つきで「伝説の天水」と呼ばれる男のたどり着いた境地が感じ取れる。

・ユッキーや茜と何があったのか、親友なら隠し事はしない約束だと詰め寄るカズにコージは「何が約束や、そんなん知らんわ」と答えてしまう。先に自分がユッキーに言われて裏切られたと感じた台詞をそのまま返してしまうのが皮肉。
結局この発言に腹を立てたカズは「今年は出えへんからな!」と一人その場を立ち去り、驚いたミノルが後を追う。
いつも四人組の中で一番子分格っぽいカズがコージに迫り、何かと自分にきつい突っ込みを入れるミノルに後を追わせる。友情決裂の場面ですが、この逆転劇がどこか清清しく思えてしまったり。

・家を出て新品の自転車を見つける茜。「力を抜いて まずは漕ぐ」のメモ付きですが、この自転車とメッセージを用意したのはお母さんということでいいんですよね?この状況でコージやユッキーがプレゼントするのも変だしな。
コージは「自転車の乗り方は父ちゃんに教わるもの」と言いましたが、茜にはこのメッセージを通して母親が教える。娘のことを見てるつもりで見てなかったお母さんの名誉挽回の時ですね。
「力を抜いて まずは漕ぐ(やってみる)」というのが、阿波踊りの極意?の「アホになる」に通じるものがあります。

・自転車練習中の茜を呼び止めた湯川は、「渦はな、一瞬で消えてしまうんや。(中略)二度と同じ渦はない」「川村が来てみんな変わったのに。あいつら生き生きしとった」と茜に話し掛ける。
渦に託して今しかない青春の大切さを説き、皆のおかげで自分が変わったと感じてた(それだけに肝心の時に仲間から弾かれてショックを受けた)茜に、茜も皆に影響を与えていた、皆にとって大きな存在であることを知らせる。
コージたちの会話中での初登場時、ただの渦オタクのように言われてた湯川先生ですが、なかなかどうしていい教師なんでは。

(つづく)


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『阿波DANCE』(2)-3(注・ネタバレしてます)

2008-11-22 02:10:02 | 阿波DANCE
・茜が阿波ダンスなるものを踊ることになったと聞かされて、茜の不満顔をよそにお母さんはにこにこしている。
何とか言いつつも一緒に踊る相手を見つけ土地に馴染んできた茜が嬉しかったんでしょうね。

・茜たちの練習風景を見ながら、湯川に「私たちも融合しなきゃですよね」と語るさやか先生。
彼女の発言が実際に何を意図してるのかはわかりませんが、とっさに観客の頭には湯川の期待通りの意味が浮かんだはず。ちょっとエロ風味の台詞で映画に華を添える。
自分の期待されている役割(お色気担当)を踏まえて、それをきっちりこなしている星野さんに拍手。

・茜の指導のもとヒップホップダンスを踊る面々。この時やたら人数がいますが、みんないずれ阿波ダンスを踊る気でいるんでしょうか。
そして一人リズムが遅れているコージ。阿波踊りの才能はここで生かされないものなのか。実際にも男子四人の中で勝地くんと北条くんが一番ダンスに苦戦したそうです。

・自宅の酒蔵の中でヒップホップの練習をするコージ。いつもなら阿波踊りを練習するところなんですが。上手く踊れなくて悔しいから+昼しごかれたせいで無意識に体が動いちゃうってところでしょうが、案外ダンスが楽しくなってる面もあるのかな?
お父さんが踊るコージに目をとめているのでさすがに何かいうかと思ったら完全スルーでした。

・部屋で勉強机に向かいつつ足だけで踊るユッキー。勉強してるのかと思えば阿波ダンス用の衣装のラフスケッチを描いている。彼の画才が初めて表現される場面。

・お寺で木魚叩きつつかなりおおっぴらにダンス練習中のカズとミノル。なんだかんだでいつも一緒のこの二人、結構な仲良しさんですよね。

・授業中に早弁しつつ足でリズムを取るコージ。勉強・早弁・ダンスと3つ同時進行(ダンスは無意識かもですが)の忙しさ。
彼の足の向こうにはやはり同様にリズムを取る足が3つ見える。四人組の席が横並びならではのシュールさ。

・今度はコージが茜に阿波踊りを教えようとするが茜はヒップホップ以外は踊らないと反発。
しかし茜と一番というか唯一仲の悪いコージがなぜコーチ役をやるのか。やはり学校一の天水ということで彼が教えるのが当然、と本人も回りも思った結果なんでしょうか。

・茜を追ってきたユッキーが「このままやったら審査通らへんかも」と俯くのへ、「大丈夫。あたしがいるから」と茜は笑顔を見せる。
おそらく阿波へ来て以来(少なくとも作中では)初めて見せる笑顔なのでは。茜のユッキーに対する親しみがうかがえます。

・審査の席で、笑顔で踊るコージに苛立つ茜は、たびたび体当たりするなどあからさまな態度の悪さ。
しかしコージが茜の行動に驚きながらも反発一歩手前でとどまっていることでぎりぎりチームワークは保たれている。突き飛ばされたコージが茜に向ける表情に、そのぎりぎりの感情がうかがえます。

・一人審査員の目の前で出ていって踊る茜。以前ヒップホップの大会?で優勝した経験のある茜は、審査員を引きつけるパフォーマンスには自信があったんでしょうね。実際茜の独断専行にすっかりペースを乱されたほかの四人が踊り止めてしまったのに、審査員は茜のダンスに合わせてついリズムを取ったり、「新しい鳴門の息吹」(by校長)とか誉めそやしたりしてましたし。
この時、一人踊り続ける茜の姿をカメラが色々な角度から、時には斜めに画面を揺らしながら映していることで、彼女の踊りをひときわダイナミックに見せる効果をあげています。

・父親の鶴の一声で審査不合格になったにもかかわらず、「(茜のせいで)父ちゃんに恥かかしてもうたやないか」と言い出すコージは、かなり重度のファザコンですねえ。
茜がそのへん突っ込むかと思ったんですが、「死ぬまで二人で伝統守ってれば」と言っただけで、意外にも「ファザコン」系の悪口は言わなかった。両親が最近離婚し、それ以前も別居状態が長く続いてたと思われる茜は父親に縁薄いだけに、父子の絆をむげに貶める気にはならなかったのかも。

・「どうせ理解されないよこんな田舎じゃ」「一人で踊ってた方がよっぽど楽しい」。
茜の暴言は今に始まったことではないですが、この時ばかりはいつもつっかかるコージのみならず、他の三人も芯からショックを受けた顔をしている。自分たちを完全否定されたようなものですしね。

・「意味意味て、おまえはイミヤマイミコちゃんか!」。茜のおじいちゃんのわかるようなわからないようなツッコミ。茜が唇だけで「イミヤマイミコ・・・」と呟いてるのが何か可愛いです。
そしていきなり正式離婚して茜を鳴門へ連れてきたお母さんの思い切り良すぎる行動の理由は「アホになりたかった」からだと明かされる。
このお母さんの行動に見られるように、物事にいちいち意味を求め、人生にいちいち意義を求め、そうすることで自分をガチガチに縛ってしまいがちな現代人に、「踊るアホウに見るアホウ」の阿波踊りを介して、もっと無心に、素直に生きることを楽しもうというメッセージを贈るのがこの映画の目指すところだったんじゃないでしょうか。
だからこそコージの父も伝統うんぬんにこだわり「無心に踊る」ことを忘れているコージを叱ったんでしょうし。

・本当は阿波ダンスなんてやりたくなかった、と父親に不合格にしてくれたことへの感謝を述べるコージ。
これだけ父親に頭が上がらない、尊敬するあまりたえず顔色をうかがってしまう姿は、仲間の前では強気なコージだけに何とも情けなく映る。
お父さんに怒鳴られてさすがに今度こそは反抗するかと思えば、複雑に表情をゆがめてはいたものの、結局言葉を飲み込んでしまう。コージの父親越えにはもうしばらく時間が必要なようです。

・夜明け前、一人踊る茜。背景の空の色、いつもよりスローテンポの曲に合わせて踊る茜のシルエットが美しい。
気乗りしない様子で途中で踊りやめてしまうのは、やはり仲間と踊る方が楽しいことを発見したゆえですね。

・またまた「うずしお」でラーメンを食べるコージたち四人。夏休みらしく私服姿に変わった以外は、見事に初登場時と話す内容が一緒。茜が抜け阿波ダンスがポシャったことで、彼らの意識も振り出しに戻ってしまったんですね。
・・・と思いきや彼らの話題は阿波ダンスへの未練へ。普段は大人しく見えるユッキーが半ば茜をかばう形で「誰も阿波ダンス本気やなかった」と皆の勝手さを鋭く指摘する。
もともと阿波ダンスの発案者はユッキーですもんね。親から医大受験のプレッシャーをかけられ踊りを奪われようとしている彼だけに、みんなで阿波ダンスを完成させたかった思いもひとしおなんでしょう。

・コージが出て行ったあと、「ほんとに四人で阿波踊りやるんか」と不満げに語りあうカズとミノル。ユッキーはまだしもこの二人は阿波踊りへの情熱に関してコージとはずいぶん隔たりがある様子。
彼らがヒップホップ、ついで阿波ダンスに飛びついたのは茜目当てというばかりでなく、もともとさして阿波踊りを好きじゃないっぽい(女にもてそうにないのが理由だろうが)のに、コージに引きずられていやいややってたせいなのかもしれません。

・茜を美術館に誘ったユッキーは、本当は画家になりたいという思いを打ち明ける。おそらくは親友のコージにも打ち明けたことのない夢でしょう。ヒップホップ一辺倒で(傍迷惑なまでに)わき目もふらない茜の情熱に刺激を受けたからなのでは。
踊りへの情熱という点ではコージも一緒ですが、彼の場合踊ることで親と対立するどころか親の背中を追いかけるように踊りにのめりこんでるわけですから、親のいいなりに自分の夢をあきらめようとしているユッキーにとっては、親と衝突せずに好きな道を歩めてうらやましいと思いこそすれ刺激を受け憧れる対象にはならないんでしょうね。
しかし卒業したらニューヨークで踊りたいという茜の表情に迷いがあるのをきちんと見抜いている彼はさすがの慧眼です。

・「俺はもういっぺんやりたいんや。大学東京やし、茜と過ごせるのもあと少しやし」「ごめん、あたしやっぱりこの町で踊るの無理」。
もう一度阿波ダンスをやろうと誘うユッキーに茜が断りを入れる場面ですが、ユッキーの台詞には意識的にか無意識にか愛の告白要素が入り込んでる気がする。茜の返答は言葉どおりの意味しかないんでしょうが、物語的には茜がユッキーを「振った」ことの暗示ですね。
ここで茜の理解者ポジションだったユッキーが恋人候補としては脱落し、現在は喧嘩ばかりしてるコージとの関係が対立→愛情に変わっていくんだろうなーと思わせます。実際にはコージとも恋仲といえるほど深くならなかったですけどね。

・自分の自転車と交換にいきなり茜のキックボードに乗って去ってゆくユッキー。この唐突な行動は先の茜の拒絶に相当ショックを受けたってことでしょうね。やはり失恋気分だったのか。
彼女の愛用するキックボードに乗りつつ茜を偲ぶつもりなんでしょうかね。

・通りすがりに自転車に乗る、というか乗れない茜を見つけたコージは、気軽に声をかけ自転車の乗り方をコーチする。
自転車の乗り方は普通父ちゃんに教わるものという台詞からは、今は息子に厳しくそっけない父親もコージが子供の頃はもっと気さくな父だったんろうと想像させます。
先にあんな経緯があり茜を最低だと罵ったコージが、いかに直情型のさっぱりした性格とはいえ何らわだかまりを見せないのがいささか不思議でしたが、「いっこも笑わへんやないか」「本当は寂しいだけやろ」といった台詞からは、彼がユッキー同様、本当は楽しいにもかかわらず笑顔を見せない茜の孤独感に気づいているから、彼女に腹を立てるより痛々しく感じる気持ちが先行してるのがうかがえます。
単純バカに見えて案外他人のことをきちんと見てるんですね。

・ニューヨークへ行くと言って家を出ようとする茜は、「どうせ本気じゃないんでしょ」という母をどれだけ自分のことを知ってるのかと責める。
わずかに声を荒げ、泣くのをこらえているように声が震える。榮倉さんの演技が冴えるシーンです。

・家を出ようとした茜は思い立ってコージの父を訪ねる。この時ちょうどコージが自転車が帰ってくる。
夕暮れ時に茜と別れてから彼が今まで外で何をしていたのかは、少し後で明かされることになります。

・自分の踊りのどこが悪いのかと父親に詰め寄る茜の非常識な行動を、最初コージは咎め父にとりなそうとするが、父親が茜の踊りを作り物呼ばわりするのを聞いて、「父ちゃんに何がわかるんや」と敢然と茜の味方に立つ。
奇しくもこれは茜が家出直前に母に告げた「何も知らないくせに」に呼応している。親に反抗する子供の常套句には違いないですが、喧嘩ばかりだった二人の気持ちがここに来てはっきり呼応しているのが感じとれます。

・「俺は父ちゃんのコピーになんかならんからな!俺らには俺らの踊りがあるんや!」。 
この「俺ら」というのはいつもの四人組のことではなく茜と自分を指してるんですよね?コージは父が自分に踊りを教えてくれないと拗ねてますが、それはまさに偉大な父を慕いすぎてるコージが自分のコピーになってしまうことを怖れていたからなのでは。
だからここでコージが自分に反抗したことは、父ちゃんにとってはむしろ喜ばしいことだったんじゃないでしょうか。もちろん一抹の寂しさはあるでしょうけど。しかし本当に勝地くんは父子ものが多いなあ。

・茜を駅まで追いかけてきたコージはふたたび金メダルを差し出す。
さかんにくしゃみをする(本当にくしゃみしてるみたいに見える。上手いなあ)コージの姿に、彼がわざわざ海に入ってメダルを拾ってきてくれたこと、さっきも父親に逆らっても自分をかばいさらにはダンスを誉めてくれたことを思って、ずっと睨みあってきたはずなのになぜ?と戸惑っているのが、何か言おうとして言い出せないその表情に集約されています。

・ホームに電車がやって来たとき、コージは「早よ行けや、本気なんやろ」と言う。先にお母さんが「本気じゃないんでしょ」と言ったのと反対の反応。
この時結局茜は電車に乗りませんが、最終的に一人鳴門を離れ夢を叶えるため東京に向かったことを思えば、コージの方が実の母親よりも茜の心情を正確に察していたと見ていいでしょう。
ジャンルは違えど同じように踊りを愛する者としての共感なんでしょうね。

(つづく)


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『阿波DANCE』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2008-11-19 00:45:27 | 阿波DANCE
・一方的におじいちゃんの世話を任せて席を外す母親に「ほんと親って勝手だよね」とこぼす茜。これは自分に断らずいきなり離婚していきなり徳島へ越したことについての不満ですね。
一拍おいてから豪快に笑いとばすおじいちゃんもそのへんの機微を察しているんでしょう。

・一人屋上でラジカセ(「so cool」のデコレーションが可愛い)の音楽に合わせて踊る茜。しかしその表情には苛立ちがある。
すぐ後に「ダンス部」と書かれた張り紙を見てるところからすると、一緒に踊る仲間がほしかったんだろう。しかしその矢印の先にいたのは・・・。

・地下の「ダンス部」部室へ降りてゆく茜。最初はそろそろと、やがて早足に階段を降りる動作に彼女の緊張が表れています。
地下へ向かう暗い道のりで秘密クラブめいた緊迫感を漂わせておきながら、ドアを開ければ阿波踊りの軽快な音楽と窓から差し込む明るい日差し、というコントラストも可笑しいです。

・なかば強引に茜を部室に引っ張りこみ「連」について解説するミノルの後ろの黒板に「阿波踊り命」の文字が。誰が書いたんだこれ。やっぱりコージですかね。

・茜に阿波踊りを「ダサい」と言われたコージは、すぐに怒るのでなく呆然とした面持ちで「おまえ、何いっとるのや」と返す。
阿波踊りをダサいと感じる人間がいるなど全く考えも及ばないといった様子に、コージの阿波踊りへの一途な愛が滲み出ています。

・「俺を誰やと思うとるんや」と茜にすごむコージがカメラに向かって歩いてきて、思い切りカメラ目線でセリフを言う。舞台的な演出。たしかにコージ初の見せ場かもしれない。

・「踊りのことなーんも知らんくせに」と唇を尖らせ気味に言い放つコージ。コージは眉や唇の表情がとても豊かで、彼の熱いキャラクターがよく表れています。
そんなコージを睨みつけた茜は「じゃあ勝負する?」と挑むように言う。踊りを知らないと言われたことがヒップホップに青春をかける茜には腹に据えかねたんですね。
コージのことを暑苦しいといいつつ、茜も負けずに熱い女です。結局は似た者同士というか。
そして茜の発言にコージはややあって、「はっ?」と戸惑った顔を見せる。何かもう迫力負けしているぞ?

・コージの阿波踊りと茜のヒップホップダンスが対決。
むすっとしたしかめっ面で踊る茜に対し、笑顔で踊るコージは「踊る時笑わんかい」「そんなしかめっ面じゃ誰も寄って来うへんぞ」と野次るが、そういうコージも笑顔を作りつつ挑むような強い眼差しをしている(見るからに柔和そうな福福しい笑顔で踊るコージ父(高橋克実さん)と比べるとよくわかる)。
踊ることに懸命すぎて踊りを楽しむ余裕を失っているのは実はコージも一緒なんですよね。こんな二人だからこそ「阿波DANCE」を通して成長してゆく伸びしろがあるんですけど。

・二人の踊りに誘われて熱狂した生徒たちが校舎からわーっと走り寄ってくる。うわありえねー(笑)。剣道部が竹刀持ったままだったり水泳部が水着姿で飛び出してきたり・・・確信犯的ギャグ描写ですね。
コージを突きのけて全員が茜の周りに殺到するあたりがまた何とも。

・踊り終えた茜に向けて歓声をあげる生徒たちを見ながら「何でや」と呟くコージの顔がひどく寂しそう。初めて見せた弱気の顔に思わず切なくなります。
そんな彼の後ろで一人笑顔で茜の方を見つめているミノル。友達より女が優先ですか。

・去ってゆく茜の後姿を見つめつつデレデレのカズとミノルを「おまえらどっちの味方や」とコージが後ろから小突く。
そんな三人をよそにユッキーは真摯な眼差しで茜の去ったあとを見つめている。彼が一番茜に本気なのが改めて示されています。

・一人座って夕暮れの海を見つめる茜。コージとの勝負に勝った昂揚感が全く感じられない、どこか寂しげな表情。
ついで金メダルが外れたあとのバッグが映る。久々に本格的にダンスを踊ったことで、改めて踊れる環境から離れてしまった寂しさやるせなさがつのってきたのでしょうね。

・「伝説の天水」である父親に教えてもらってるから上手く踊れるんだろう、という友人たちの言葉に、コージは「え?お、おう、まあな」と明るい笑顔で答えるものの再び正面に向いた時には彼らしくない力の抜けた笑顔になっている。
さっきまで父の踊りを誇らしげに評していた時とは全く異なる表情。父親を尊敬しつつも父子関係に問題を抱えていることがすぐ後で明かされますが、ここですでにその予兆が見られます。

・酒蔵で一人踊りの練習をするコージは帰ってきた父親に「ちょっと見てくれへん?」と言う。
その踊り方にダメだしする父に「え?どこが?」と問う声が、友達と話すときに比べて響きが幼い。父の前では子供になってしまうんですね。微妙な声の違いが上手いなあ。

・踊りをまともに教えてくれようとしない父に「何か言ってくれや」と言うコージ。
正面から不満をぶつけるのでなく父の機嫌を伺うような遠慮と寂しさを滲ませた口調で話す。父が去った後も「またそれかい」と呟くだけでストレートな怒りは出さない。
本来単純直情型であろうコージだけに、いずれ爆発する時がくるのだろうなと予感させます。

・講堂で今年の阿波踊り大会への期待を述べる校長先生に、快活な笑顔で抱負を述べるコージ。
やたらにコージのアップばかりが続くなと思えば、湯川が力強く今年の展望を述べたあとに「ところで部員は彼だけか?」→がらんとした講堂に一人立つコージの姿、という流れに笑った。
コージも一人しかいないんだからもう少し前に出りゃいいのに、半端な位置にいるからスカスカ感が増すんじゃないか。

・コージ抜きでラーメンをすするユッキーたち。カズとミノルは「茜と踊りたい」「だから茜入れて~」。早くもひそかに呼び捨てですか。
そしてユッキーがいつにない熱い口調で阿波踊りとヒップホップの融合を提案する。この映画のキモであるはずの「異文化融合」シーンは終盤でドンと出てくると思ってたので、計画自体は早くから語られてたのに驚いた。まあ「阿波ダンス」の登場が後半になってからだと完成までの紆余曲折がはしょり気味になりますもんね。
そしてまたカズが顔に卵くっつけてる(笑)。ジャンケン最弱すぎです。

・コージが変わり果てた部室に驚き、奥で倒れこんでるカズを助け起こすシーン。
この場面、勝地くんは「イージスの行っぽい目つきで演じてくれ」と言われたんだとか。監督はコージに行の面影を欲していたってことですかね(髪型も一緒だし)。性格真逆なのになあ。
そしてカズの「オヨヨヨヨ」という嘘泣きがツボです。コージを発奮させるためとは言え、これだけ部室に落書きするのも(それを掃除するのも)大変だろうな。

・その頃茜の方はミノルが嘘話でコージとの対立を煽っている。「俺参っちゃってさ」というセリフの発音の仕方がちょい英語っぽいヒップホップかぶれっぷりがナイス。
男連中が(付き合いの長いコージのことはともかく)茜を怒らせるには何が効果的か読みきってるのがすごい。結局コージと似た者同士だと早くも見抜いてたわけですね。
茜に嘘を吹き込むミノルがずっと茜に背を向けて踊ってるのは心にやましさがあるからか。

・校庭で距離を置いて睨み合う茜とコージ。強風に砂が舞い紙が転がってゆく。わかりやすく西部劇もどきなカット。今から決闘ですか。
このときミノルが茜の後ろで茜と同じように腕組みポーズをしてる(笑)。首を傾ける角度や表情まで真似してるのが笑えます。
ついでにラジカセ持ってコージの後ろに控えてるカズが何か内股なのも笑えます。カズがいじられキャラな理由が分かったような気がする。

・いきなりカズの策略でヒップホップダンスを踊るよう仕向けられたコージがつい見栄をはって「お、おう」と頷いてしまうのがいかにもな展開。まあコージらしいっちゃらしい。
「そんなん目ぇつぶってて踊れるで」と言いつつ踊ってみせるそのポージング・・・『サタデー・ナイト・フィーバー』か?
ミノルはどさくさまぎれに?「うちの茜」とか言ってるし。

・二人からそれぞれ「ヒップホップを踊る」「阿波踊りを踊る」言質を取ったところでユッキー登場。「AWA DANCE」の旗をすでに製作済みなのが手回し良いというか。
そして後ろで一緒に歓声をあげている生徒たち。あんたら何なのよ(笑)。
ついでに「踊ったるわいヒップホップなんて!」とすごむコージの顔がヤンキー漫画っぽいです。

(つづく)


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『阿波DANCE』(2)-1(注・ネタバレしてます)

2008-11-16 01:52:21 | 阿波DANCE
・クラブのステージでヒップホップを踊る四人の女の子たち。
『阿波DANCE』というタイトルからしてダサかっこよさげな作品をわかりやすく格好良いシーンから語り始める。定型だけに手堅い導入部。
ローマ字と漢字両方でキャストの名前を表示する手法とその出し方もヒップホップに似合いのクールさです。そして締めの「阿波DANCE」の文字はロゴがやはり微妙にダサい。このあたりのコントラストが上手い。

・「ニューヨークで踊らないか?」と誘いをかけられた直後のシーンで「徳島!?」と徳島への引越しが決まる(笑)。
この「ニューヨーク-徳島」の対比が「ヒップホップ-阿波踊り」の対比に繋がっていきます。

・いきなりの引越しはまだしもいきなりの両親の離婚を告げられる茜(榮倉奈々さん)。こりゃあんまりですが、徳島へ引っ越すことの方が動揺度合いが大きい。
ずっと別居中で離婚は時間の問題だったんでしょうから、茜にしてみれば当面の生活&ダンサーとしての将来設計が激変することの方が大問題なんですね。

・徳島のローカルな駅に下り立つ川村母子。看板の隣に立つお母さん(高樹沙耶さん)の「うずしおの鳴門へようこそ~♪」のおどけっぷりが可笑しい。
それを見つつ茜は一言「無理・・・」。彼女の口癖の記念すべき初登場シーン。
服装&メイクの周囲からの浮きっぷりが、観客にも茜がこの土地で生活することの「無理」さ加減を伝えてくれます。

・「大衆食堂 うずしお」登場。そのまんまな名前ですわ。
窓側の席から順にお客の男子高校生らをカメラが捉えてゆく。作品の核となる男子4人をごくスムーズに顔見せし、彼らの暑苦しさとか垢抜けなさとかアホらしさをもさらっと示しています。
よく見るとユッキー(北条隆博くん)は医学関係の本を読んでいる。すでに後の伏線が出てるんですね。

・「おまえら知ってるか?鳴門にはな300年に一度、めっっっちゃでっかい渦が現れるんや」と語るコージ(勝地くん)。
「めっっっちゃ」というタメの長さ、顔や手の力の入り方、手にした「祭」の字のうちわ、頭のほっかむりなど、全身で暑苦しさが体現されてます。

・上のセリフの直後、壁に貼られたポスターの「心、うずうず」の文字に笑う。これほんとにあるポスターなんでしょうか?

・300年前を戦国時代というコージに「300年前言うたら江戸時代やろ」とつっこむユッキー。
それを受けての「ユッキー頭ええわ、さすが医者の息子」というミノル(尾上寛之くん)の発言で、上述の本にプラスしてユッキーが医大を受ける伏線をはっています。

・コージの語る天女の伝説に対して「女か!?」と食いつくミノル。反応するポイントが違うだろう(笑)。どれだけ女に飢えてるんだ。

・天女伝説を語り続けるコージの声をバックに船に乗る茜の憮然とした姿。天女の持つ黄金の石の話と茜の下げる金メダルがリンクするあたりが実にベタで、後の展開を確実に予測させる。
この金メダル、少し後でコージが拾うことになりますが、そのコージだけが男子四人組の中で茜を天女扱いにしないのが面白い。

・新居にやってきた茜は窓から見える鄙びた海の風景に、「人生終わった・・・」と呟く。
東京で暮らしていたマンションを一コマだけだが遠景から捉えたショットがあったことで二つの家の立地条件の違いが明らかになっているので、茜の(コミカルな)絶望感が伝わってきやすい。
直後に食堂のカズ(橋本淳くん)が「人生これからやー!」と叫ぶあたりもナイスな対比効果を生む。
しかし阿波踊りバカで伝統を重んじる、ゆえに伝承の類も信じやすいらしいコージはともかく、他の三人まで天女伝説を素直に信じてるぽいのが不思議。単に女の話なら何でもいいだけ、という気がしないでもないが。

・運ばれてきたラーメン(しかし乱暴な運びっぷりだ)に入れる卵を頭で割る四人組。
一つだけ生卵が混じっていて、それを引いた(頭が卵まみれになった)不運なヤツが全員分をおごるという・・・。店の主人(CO-KEYさん)もグルになってのロシアンルーレット。
彼らの言動はいちいち男子高校生らしいバカさ加減が満載で微笑ましいです。しょっちゅうミノルに邪険に扱われてるカズがちと可哀想ですが。

・店の前を通りかかった茜を見て「天女だ!」と騒ぎ立てるカズとミノル。
楚々とした和風美人でなくキックボードにストリート系ファッションのモデル風美少女であるあたりのずらし方がツボ。彼らにとって「天女」は「美人」程度の意味しかないんでしょうね。
スケベ心丸出しで店の外へ飛び出していくカズ&ミノルとしばし物言いたげな顔で茜を見つめてから遅れて外へ出たユッキー、さらに遅れて外に出つつも茜に対してほとんど関心を示さない(金メダルを拾ってやっただけ)コージ、とこの先彼らが茜に接するスタンスがすでにここで暗示されています。

・茜を追いかけるようとするカズとミノル、彼らを振り向く茜をスローモーションで見せる。
バックのかすかなBGMも含め「ボーイ・ミーツ・ガール」の瞬間、という感じなのに、へらへら笑顔で手足を振り回すようなカズとミノルの動きはひたすら滑稽で(しかもカズは顔面に卵つき)、振り向く茜の表情も「げっ」と言いたげな嫌悪感があらわなのが可笑しい。
さらに自転車で「天女さーん」「愛してるでー」とか言いながら茜を追いかけるにいたっては。茜にしてみればほとんど嫌がらせです(笑)。

・ほか三人が自転車でこけた後も、一人茜を追いかけるコージ。「待て言うてるやろ!」とか怒ってますが、いやあれじゃ逃げるでしょうよ。
いきなり知らない街に連れてこられて、ヘンな男たちに追いかけられて、あげくレンコン畑に落ちて泥まみれになったところを元凶の一人に笑い飛ばされる。そのうえ大事なメダルはなくなるし・・・。茜が当初この町を嫌ってた原因の多くは実はこの四人組にあるんじゃないだろか。

・「おまえ、それレンコン畑やぞ」と笑いをこらえるような声で告げるコージ。声のトーンの加減が絶妙。
そしてレンコンを持って笑顔で並ぶ畑のご主人と奥さんのショット。そのままレンコンのパッケージ写真に使えそうです。こういうしょーもなくベタな演出、個人的には大好きだ。笑ってないで助けてやんなさいよ。

・「レンコン女や」と笑うコージたち。コージはともかくカズとミノルは「天女」から「レンコン女」とは格下げしすぎでしょう。
そしてユッキーだけは笑わず真剣な顔で茜を見つめている。鼻の下を伸ばさず喧嘩腰でもなく、最初からずっと茜に真面目に好意を示してきたのはユッキー一人だった(最初は馴れ馴れしく名前呼びにせず「川村さん」と呼びかけていたし)。
中盤で茜がユッキーに一番打ち解けた態度を見せていたのは、彼のそうした生真面目な性格を買っていたからなのでしょう。

・さんざんな思いをした茜が家に帰ると、そこには「鳴門名物レンコン料理」が。すがすがしいばかりのベタさ加減です。しかもすべての皿がレンコン料理ってなあ。

・オタクっぽい白衣の教師・湯川(岡田義徳さん)の制止を堂々無視して、というかはね飛ばすようにしてキックボードで校門を通る茜。
物珍しさに生徒たちが茜の後姿に注目するのはわかるとしても、「生意気な転校生」と反発するのでなく写真まで撮ってしまうアイドル扱いなのがすごい。
コージたち四人組といい、鳴門の高校生はこんなにも純朴なんでしょうか。

・「みんなー、授業始まりますよー」とキュートなぶりっ子声と仕草から「こらぁ、いいかげんにしろ!」といきなり豹変するさやか先生(星野亜希さん)。
本職の女優さんじゃないというのに、この声の代わりっぷりは見事です。

・「教師は生徒になめられたらおしまいですからね」とさやか先生に言われてしまう湯川先生。
「だいじょうぶや、今年は絶対(渦潮の)奇跡がおとずれるんや!」と自分に言い聞かせたそばからまた生徒に突き当たられる。カズに次ぐ悲惨なポジションかも。

・黒板に「黒澤」と旧姓を書きかけて「川村茜」と書き直す茜。ハイテンポのコメディ展開ですっかり忘れてましたが、茜は両親が離婚した直後なのだった。
彼女の新生活への不安と戸惑い、寂しさがこのちょっとしたシーンに凝縮されています。

・茜が自己紹介の名前を書き終えたのも気づかず、渦の写真に見入ってタクトをくるくる回す湯川。目は宙をさまよい口はポカンと開け・・・ダメだこの教師(笑)。

・ノートに絵と文字で茜へのメッセージを書いて掲げてみせる四人組。その文面がまた・・・。君らは小学生か。
真面目なユッキーの「天女さん」メッセージと茜に特別興味なさげだったコージのイラスト付き「レンコン女」呼ばわりがちょっと意外。
後に阿波DANCE用の衣装デザインで絵のセンスを見せたユッキーが、この時点ではただ一人字のみのメッセージを書いてその画才を発揮していませんね。

・廊下で「おい、レンコン女」と茜を呼び止めるコージ。
たぶんコージはずっと茜を「レンコン女」とか「おまえ」とだけ呼び続けて、最後の最後で「茜」って呼ぶんだろうなーとこの時点から予想がつきますね(笑)。
コージ-勝地くんの髪型は『亡国のイージス』の行を思わせる短髪ですが、顔もまんま行なのに驚きます。『イージス』の撮影から丸2年経っているというのに。
でも顔は一緒でもクールでシャープな行と喜怒哀楽がはっきりしていて暑苦しいほどに熱い性格のコージでは表情が全然違っているのはさすがです。

(つづく)


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『阿波DANCE』(1)

2008-11-12 21:41:46 | 阿波DANCE

2007年8月下旬公開の映画。榮倉奈々さんと勝地くんのダブル主演。ダブルとはいえ勝地くんが映画で主演を張るのはこれが初めて。
(DVD映画では主役を経験済み。『阿波DANCE』と同じアット・ムービー社製作の『SOUL TRAIN』。ちなみにプロデューサーも同じ森谷雄氏で、パンフレットによると『SOUL TRAIN』で勝地くんの演技力に惚れ込んだ森谷Pが今作にもオファーしたそうです)
日頃あまりクレジットの順番などは気にしないんですが、オープニングで榮倉さんと並んで真っ先に名前が出たときはさすがにシビれました。

この映画に関する情報の一番最初は2006年の秋ごろ、メイン出演者の一人で勝地くんと同じ事務所の北条隆博くんのブログだったように記憶しています。
まだタイトルなどは明かされないまま、勝地くんと初めて共演すること、ダンスの練習をしていることが、勝地くんとのツーショット写真付きで記されていました。

その後事務所の公式でも正式発表され、勝地くんの公式メッセージ(当時はそういうものがあったのです。今でいうブログみたいな感じ)で、
「阿波踊りは伝統のあるものなので、いい加減にはしたくない、気持ちで踊れるほど練習しようと思いました」(当時のメッセージは閲覧できないので概要)
とコメントしているのを読んで、相変わらずの真摯な姿勢に胸を打たれたものです。

「ヒップホップと阿波踊りの融合」というテーマには、「これウケるのかなあ?」とちょっと心配になったりしてたんですが、やはりヒットには結びつかなかったですね。
まさに「ザ・青春ムービー」という感じで手堅くまとめられているのですが、それだけに目新しい部分はこれといってなく、テーマである新旧二つの踊りの融合もさほどインパクトを持っていなかった。
(これは踊りの練習シーンはあっても振り付けや衣装作りなどで試行錯誤する場面がなかったのも一因かも。まあ映画の尺を思えばそこまで入れるのは無理でしょうが)
先々の展開も9割方読めてしまうので、「特に悪くはないけれど、わざわざ見るほどのこともない」作品というのが最初の印象でした。

ただ最近スカパー(「チャンネルNECO」)で放映されたものをレビューを書くために細かく見返してみてちょっと考えが変わりました。
前は見逃していた細部の伏線に気づいたせいもありますが、阿波踊りを取り上げることを通じて、「アホになる」ことの大切さを全編通して描いているのを今さら痛感したのが大きかった。

何かと頭で考えすぎて煮詰まってしまいがちな現代人に対して、もっと心で感じるままに素直に生きてもいいんじゃないかという価値観を提案している。
昨今は周囲に迷惑をかけることを恐れて小さくまとまってしまったり、時には何かと回りの足を引っ張ってしまう自分を責めて神経を痛めてしまったりしがちですが、社会で多くの人間と関わっていれば迷惑をかけたりかけられたりは当然起こること、それを避けようとすれば人との繋がりが希薄になってしまう、もっと気持ちを大きく持って相手に物事にぶつかっていこう、というのがこの映画の言いたかったことなんじゃないでしょうか。
こちらもアホになるつもりで、ご都合主義と思える場面にも深く突っ込まず、というより批判目線でない軽いツッコミをいれつつ見ていくと、基本パターン通りであるゆえに普遍的な青春ストーリーになっている。
アホな箇所は「アホだなあ~」と言いながら、キャラの内面が描かれる場面では素直に彼らの心情に気持ちを寄せて鑑賞するのがお勧めです。

そして終盤の「阿波ダンス」の場面。技術的な上手い下手はよくわかりませんが、パワーと一体感に溢れていて、こちらの気持ちも高揚するのを覚えました。
12月19日にはついにDVDが発売されるそうなので、未見の方はこの機会にぜひ。

 


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『デートMASTER』

2008-11-07 00:57:07 | 他作品

 

TBS系の情報番組『王様のブランチ』の一コーナー。若い女性レポーターがゲストとデートコースをめぐり、ゲスト行きつけのお店を紹介する。
2007年8月18日放映の回に勝地くんが出演、レポーターの森山愛子さんとバーチャルスポーツプラザ→西麻布の地鶏料理のお店?でデートしてました。

このコーナーを見るのは初めてだったので、「デートMASTER」というタイトルからいって女性と仮想デートするんだろうなあ、しずちゃん以外の女の子とデートするのはあんまり見たくないなあ(『ハニカミ』が素晴らしすぎただけに)と思ったんですが、実際に視聴してみれば『ハニカミ』にくらべて時間が短いからか事務的というかラブ度合いが低く、さらに後半では映画『阿波DANCE』の宣伝で来たとはっきり発言しちゃってるので、デート番組というよりあくまでデート形式でお店の紹介+出演作品の宣伝をする情報番組という感じで抵抗なく見られました。
例によって勝地くんの(ヘタレな)行動や天然にエッジな発言が楽しかったです。以下個人的見所を箇条書きで。


・待ち合わせ場所の歩道橋の上で「東京音頭」を大声で歌う森山さん。その上手さにちょっと驚く。朗々とよく響くいい声ですねえ。こぶしの回し方もグー。
これは音頭→踊り→阿波踊りという伏線なわけですね。

・そこへ現れた勝地くん。お互い初対面のご挨拶。この挨拶の場面も『ハニカミ』に比べ格段にあっさりしていて、特にラブラブ演出する番組的意図はないのだなとまずは安堵。
Tシャツを着た勝地くんは相変わらず厚みのない体に見えますが、この番組の収録はあの『月光音楽団♪』と舞台『犬顔家の一族の陰謀』の間の時期なんですよね?本当着痩せするよなあ。

・東京ドームシティ内のアミューズメント施設「バーチャルスポーツプラザ 打撃王」へ。
予想通り草野球チーム「中目黒上腕二頭筋」の話題が。さらに『ブランチ』レギュラーで仲良しの斉藤兄弟の話も。
斉藤祥太くんは勝地くんより野球が上手いのだそう。祥太くんは「上腕二頭筋」に助っ人とかで参加しないのかな?まああのチームは野球することがあまりないので(笑)助っ人する機会がないか。

・バーチャルバッティングマシーンに挑戦。一発目は快調にボールをかっ飛ばしたのに、「私の心にホームランを打ってください!」と言われるなり思いっきり空振りという狙ったかのような展開(笑)。
おそらくは素でこういうボケをかましてくれるのが勝地くんらしい。その後はまた調子よく打ちまくってるし。

・続いてパーフェクトトスバッティング(バットで打ったボールを9つの的に当てるゲーム)で二人が対決。森山さんの提案で、もし勝地くんが負けたら罰ゲームとして祥太くん慶太くんの秘密を暴露することに。
「友情を賭けた対決」だそうですが、自分に関係ないところでいきなり賭けの対象にされる斉藤兄弟はいい迷惑です(笑)。「僕の、暴露じゃなくていいんですね?」と確認する勝地くんの声が微妙に嬉しそうだぞ?

・バッティングマシーンの時の好調が嘘のように全然的に当たらない勝地くん。無事当たったのは何と一球のみ。賭けの内容が内容だけにプレッシャーがかかったか?
最後のボールをスカッた時の「あー、くそー!」という叫びがまさに心の声という響き。
「これたぶん、女の子には難しいと思いますよ」というわかりやすい負け惜しみといい、その素直な感情表現に一種感動。「惜しいー!」って、いや全然惜しくないよ?(笑)。
身体を使ったゲームでの対決という点で『フレンドパーク』の時のようなヘタレっぷりを内心期待してたんですが、見事に応えてくれました♪

・ついで森山さんの打席。二本目を外したときの「ナイスアウト!」という明るい励まし?が正直で可愛いです。しかしその後森山さんは三球も的に当てて圧勝するのでした。

・約束通り斉藤兄弟の秘密を暴露する勝地くん。とはいえ「祥太と俺と、二人のちょっと恥ずかしい話」を選択するあたり、ちゃんと自分も責任取って一緒に泥をかぶろうとする潔さがあります。
つーかそうでなきゃ祥太くんに申し訳ないわな。慶太くんは秘密を暴露されずにすんで何より。

・祥太くんと勝地くんがそろって失恋したときの話。
これも失恋して川に叫びに行った話同様(こちら参照)、映画『亡国のイージス』公開当時にラジオ番組で話してたエピソードですね。あの話の「友達」が祥太くんのことだったとは。
それにしても勝地くんを振っちゃう女の子がそんなにいるもんなんですねえ。めちゃモテそうなのになあ。
「そんな時は私を呼んでくれれば、二人ともこの広い胸で暖めてあげたのに、ダメだなあー」→「だから1個しか入らないんだよ」という森山さんの論法が笑えます。

・「アワオドリを食べませんか?」という勝地くんに「また冗談を。アワオドリは食べものじゃなくて、踊るもしくは観る(ものでしょ)」とツッこむ森山さん。
実際この頃「阿波尾鶏」ってまだあまり有名じゃなかったですよね?(私はこの番組で初めて知った) 今じゃファミレスのメニューなんかでも普通に見かけるほどメジャーになりました。

・斉藤兄弟がお酒に弱いことが(森山さんはすでに知っていたので視聴者に対してですが)暴露される。酔っ払うと「かつぢ~、かつぢ~」てずーっと言ってるのだとか。
基本的に16歳以前に知り合った人は彼のことを「涼」、17歳以降からの人は「勝地」と呼んでる印象ですが、斉藤兄弟は例外的に16歳以前からの友達なのに名字呼びですね。

・阿波尾鶏を食べながら、「徳島はいいところですよ」「行ったことあるんですか?」という流れで『阿波DANCE』の話へ。
わかりやすい誘導だよなあと思ってたら、「映画の宣伝で来ました!」と潔く宣言。ストレートさが良い。

・ここで『阿波DANCE』の映像を紹介。『イージス』の時を思い出すような短髪の勝地くん、『デートMASTER』の茶髪の勝地くんと別人のようです。
この紹介映像の中で(映画館などで流してた予告映像でも)阿波ダンスを踊る場面のバックに主題歌であるtrf「survival dAnce」が流れるので、てっきり作中でもこの曲に合わせて阿波ダンスを踊るものと思い込んでました。
その後映画を見たら、テンポは速いもののちゃんと阿波踊りの音楽(「踊るアホウに見るアホウ~」)で踊ってました。

・阿波尾鶏の自家製ソーセージを食べながら「これ美味ーい」と勝地くんが言った時、バックに笑い声が入るのは何だろう。
ゲストの行きつけのお店を紹介、という建前のコーナーなのに、明らかに初めてこのメニューを食べた(=少なくとも常連ではない)とわかる発言をしちゃったからですかね。
その後の「お酒が進むなあ~」が妙になまってるのは徳島弁のつもりか?

・中学生の時のデートの思い出を語る。「映画館の中で絶対にキスをしようと思っ」て、いろいろ計画を立てるあたりの行動・発想が、いかにも中坊らしくて微笑ましい。
「明るい時間に暗くなる場所、それは映画館かプラネタリウムなんですよ」。何ですかこの断言口調は(笑)。どれだけ脳内シミュレーションしまくったんだ。
森山さんにも「調べたんですか?」とちょい呆れ気味につっこまれてました。

・そして結果はどうなったのかとの問いに、「そうですね、チュー・・・・・・」。タメが長いよ!
そして「しました」とのお答え。『JUNON』2007年5月号の恋バナ特集以来、恋愛に関する彼の正直すぎる発言にもすっかり慣れてしまいました。変に誤魔化さず堂々と語る、でもエロないし下品にならない一線は守るバランス感覚があるので、その点は安心してるんですが。
森山さんが「はい、カット~」とナイスタイミングで話を切ったところで大笑いしてる勝地くんの開けっぴろげな笑顔が眩しいです。

・画面がスタジオに切り替わり、祥太くんが「いろいろお世話になってます勝地には」と笑顔のコメント。
ちなみにやはり『ブランチ』レギュラーでこの場で司会役をしている谷原章介さんは『亡国のイージス』で勝地くんと共演していて、そのさいに二人で舞台挨拶などもやってるので、当時の思い出話など話してくれるかと思ってたんですが、何もなしでした。

・森山さんの勝地くん評。「さわやか」で映画のことについて熱く語る姿が「真っ直ぐ」だったとのこと。
確かに役についての分析を熱っぽく語ってた時の彼は、この日一番の格好良さでした。本当に役者という仕事が好きなのが伝わってきます。

 


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『吉祥天女』(3)-4(注・ネタバレしてます)

2008-11-01 23:11:27 | 吉祥天女
こうした中で例外的にキャラクターを強化されているのが由似子である。
原作では小夜子と対照的な(ゆえに小夜子が心密かに憧れる)普通の少女の代表として登場する由似子は、後半小夜子が遠野家を瓦解させる展開が中心になり学校のシーンが減ってくると必然的に出番が減ってゆくのだが(ただ叶・遠野両家の確執の外にいる人間、という形で第三者ゆえの存在感を保ってはいる)、映画では小夜子が5歳の時、彼女がはじめて人を殺した瞬間=男を滅ぼす魔性の女小夜子の出発点に関わっていたという設定を付け加えることで、叶家・遠野家を中心とするどろどろした物語に巻き込まれている。
また大詰めの小夜子・涼・暁三者の対決の場にも小夜子を呼び出すための人質に取られたという形で立ち会っている(ただストーリー的にその場に存在する必要性があまりないからか、暁の死から涼の絶命までのクライマックスでは全く存在を無視されてしまっていたが)。

この対決の場だが、暁に撃たれそうになった小夜子を由似子は身体を張ってかばおうとする。原作では常に小夜子に憧れ彼女を見上げている由似子が、小夜子の助けを待たず自力で縄抜けし、さらに小夜子を救おうとする。
また由似子が神社で手を合わせつつ「天女さま、小夜子をお守りください」と呟く場面、ラストで街を去る小夜子との別れ際にかつて5歳の時に小夜子を助けられなかったことを詫びる場面は、由似子が小夜子を「守られるべき存在」と捉えていることを示している。
すなわち原作ほどには由似子は小夜子をスーパーレディとは見なしていない。憧れつつも対等の、同世代の少女と見ているのだ。

原作では天女の化身のごとく描かれる小夜子が映画では、羽衣をイメージさせる白いカーテンが翻るシーンを多用しつつも、天女伝説の残る家の極めて美しい、けれど生身の少女として捉えられている。
由似子が天女に小夜子を守ってほしいと願うのは(小夜子がラストの別れ際に由似子に言う「大丈夫。天女が守ってくれるわ。由似子はきっと幸せになれる」という台詞も)小夜子がイコール天女ではないからにほかならない。
小夜子の超人度を引き下げ、いかにも頼りなげだった由似子を原作より強いキャラクターにすることで、対等の関係の少女二人の友情を映画はクローズアップしている。

そして小夜子や涼たちは原作より幼く無力な存在として描かれることで映画独自の透明感を持つようになったが、反対に原作にない凛としたものの加わった由似子はこれも独特の透明感を帯びている。

映画独自のキャラの位置付けと若手役者らの雰囲気と演技がもたらすこの透明感は、映像表現によって多く補強されている。
(2)で取り上げた夕暮れの空やはためく白いカーテンの幻想的な美しさ。それは由似子が部屋で舞うシーンに顕著なように、しばしば整合性は軽視されている。
浮子の断末魔の場面は死にかけた人間の動きとして明らかに不自然なのだが(もがき苦しむうちに着物や髪が自然と崩れるならわかるが、自分から崩しにいっている)、自ら簪をむしり取り、髪を振り乱して小夜子を睨みつける浮子には鬼女の迫力があった。まさに凄絶美。

多少不自然さが生じようと、映像的な美しさを表現する方を優先する。その姿勢がキャラクターやストーリーの造型にも発揮された結果が、懸命に背伸びしつつも内に脆さ不安定さを抱えた美しい少年少女の物語を生み出したのではないだろうか。

及川監督は原作の大ファンだそうだが、それゆえに原作をそのまま忠実に映像に引き移すのでなく、自身の手法で物語を構築し直す方を選んだ、ということかもしれない。
原作ファンとしては納得しづらい展開もあるものの、独特の儚げな空気を纏った映画版も、繰り返し鑑賞するに足る(映像が美しいので個々のシーンに見入ってしまう)作品じゃないかと思います。

 


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