パトリック・コーラサワー
AEUのエースパイロット。地球連邦軍発足後はそのまま連邦軍に移り、マネキン大佐を追いかけてアロウズに志願する。
ファーストシーズン第一話で、AEUの新型機イナクトのお披露目式でパイロットを努め、結果初めて人前に姿を現したガンダム(刹那のガンダムエクシア)に瞬殺されるという見事なかませ犬の役割を果たして以降、すっかり失敗ばかりの三枚目的なイメージがついてしまった。
それは自ら「模擬戦でも負け知らずのスペシャル様なんだよ!」と豪語する自信家ぶり、しかも語彙がなんか間抜けなところにも表れている。ましてエクシアに倒されるシーンで「オレは!2000回で!模擬戦なんだよお!」と語彙が崩壊するに至っては(笑)。模擬戦で負け知らずというのも実戦ではダメなのか?という印象を与えてしまうし。
ちなみに「2000回」というのは小説版によれば「二千回以上のスクランブルをこなし」たことを指すそうだが、緊急出動した数=勝ち戦の数ではないし、出動はしたものの戦闘には至らなかったケースもそれなりにあるだろう。自身の能力を誇る台詞としてはいま一つ説得力に欠ける。
まあ具体的な経緯はともかく2000回の出動のたび生きて帰ってきたのだけは確かなので、後の異名(あてこすり)「不死身のコーラサワー」の片鱗がすでに見えるとはいえるかも。
ともあれ、この鮮やかなキャラの立ちっぷり、「パトリック・コーラサワー」という(いささかユーモラスでもある)フルネームが明かされていることからも、コーラサワーが遠からず再登場すると踏んでいた視聴者は少なくなかったものと思う。
そして満を持しての(?)再登場シーン―美女といちゃついてたかと思えば時間だからとあっさり女を突き放して、埋め合わせの(いかにも口先だけの)約束をして別れるというプレイボーイ風の言動で格好つけたかと思えば直後に新しい上官のカティ・マネキンに張り倒されるという、情けなくも笑える姿を見せてくれる。
しかも最初は自分の非を棚に上げて反抗→もう一発殴られて「二度もぶった」とへたりこむ→「いい女じゃないか」といきなり一目惚れして従順に、というスピーディーな態度の変化っぷりでさらに笑わせつつ、初登場のマネキンのキャラクターを鮮やかに印象づけるこれまた一種のかませ犬的役割をしっかりと果たして、さすがはコーラサワーと期待に違わぬ活躍を見せてくれた。
そして最初はその自信たっぷりの傲岸不遜な態度からもっと鼻もちならないキャラクターになってもおかしくなかったコーラサワーが、ここでマネキンの忠犬(というか一途に懐いているワンコ)としてのキャラを確立したことで、ちょっと間抜けだけど憎めない、何気にパイロットとしては優秀な(だからこそ敗北によって相手を引き立てる役割が務まる)人物として視聴者から愛されるようになっていったのではないだろうか。
そんなコーラサワーの魅力が特に表れているのがマネキンを夕食に誘った時のエピソード。正装して大きな薔薇の花束を抱えたコーラサワーの姿に「今世界は大きな変革期を迎えようとしている。そのことについて考えるようなことはないのか」と呆れたようにマネキンは尋ねるのだが、それに対しコーラサワーは「はい、ないです」とさらっと即答するのだ。
普通上官に、しかも惚れた女に「考えるようなことはないのか」と問われたら、何も考えてなくても見栄を張って考えているかのように自分を飾ろうとしてしまうものだ。
しかしコーラサワーは無駄に自分を大きく見せようなどとはしない。専門分野であるMSの操縦に関しては大いにプライドを持っていると思うが、それ以外のことは知らないことは知らない、できないことはできないと至って正直だ。
個人的にはこのシーンですっかりコーラサワーが大好きになった。「まったく、放っておけん男だ」と苦笑しながら食事の誘いを了承したマネキンも、コーラサワーが変に賢いふりなどしていたら相手にしなかったのではないか。
マネキンほど賢い女性には賢さを装ってもかえって底の浅さを見抜かれて軽蔑されてしまいそうだ。実際これまでマネキンに近づこうとした男の中には、彼女に侮られたくなくて背伸びしたあげく空回りして玉砕した例が多々あったのではなかろうか。
彼女のような女性には、己の知性に自信があって彼女と並び立とうと、もしくは自分が上に立とうとする男ではなく、知性で張り合おうとは全くしないコーラサワーのような〈素直な〉人間がベストパートナーなのかも知れない。
コーラサワーは機体が破壊されても、自力で帰投できない状況になっても、どうにかこうにか生き延び続ける。「不死身のコーラサワー」の異名の通りである。
そのコーラサワーにして、ソレスタルビーイングによるヴェーダ奪還作戦(実質アロウズ対ソレスタルビーイング+カタロン+クーデタ―派の戦い)」の中でいよいよ死を覚悟する事態になったさいに、彼はマネキンに「大好きです。カティ」という言葉を残す。
死地にある男の最期の(と思われた)言葉、初めてのファーストネームでの呼びかけ&告白にさすがにマネキンも感じるところがあったのではないか(「愛してます」でなく「大好きです」という言い回しもちょっと子供っぽくて、かえって素の心情という感じがする)。ここに至るまでも何だかんだ言ってマネキンはコーラサワーに関しては私情が入るところはあったのだ。結局この時も奇跡的に生還したコーラサワーとセカンドシーズン最終回ラストでめでたく結婚式を挙げることとなる。
(この最終回だが、どうやってコーラサワーが助かったのかわからないどころか、結婚式の場面まで彼が生きていたことすら明かされてなかったため、二人が無事結ばれたことに感動するより「え?生きてたの!?」とあっけに取られてしまった。他にもいろいろ説明不足な箇所があって、連続ドラマの最終回によくあるみたいに15分延長とかできたらな~なんて思ったりします。
とはいえ式直前まで控室で、難民の世話に当たっているアンドレイ・スミルノフ中尉に電話を通して指示を出してるあたりは実にマネキンらしくて、時間的制約の中で各キャラクターらしい顛末を描き出したのはさすが)
私見になるが、コーラサワーがマネキンに惹かれた一番の要因は初対面で殴られ叱責されたこと―思い通りにならない女だった事が第一のように思える。
直前に女とデートしていた時の様子からしても女好きのプレイボーイ、それもそれなりに整った容姿とAEUのエースパイロットであることから女の方から近寄ってくるのだろうと想像されるコーラサワーが、毛色の違う手ごわそうな相手を戦士の性として〈落としてみせる〉と無意識に闘争心を掻き立てられたのではないかと。
だから結婚というハッピーエンドにたどり着いたら、〈釣った獲物に餌はやらない〉ではないがこれまでのような情熱は薄れてしまうのではないか?という不安がないではなかった。
マネキンに殴られた時の最初の反応(「何だ女、よくも男の顔を」)からすれば、本来男尊女卑的な傾向もあるようではあるし(それにしても相手が上官なのはわかってたろうに、とっさの事とはいえよく上意下達の軍隊でこんな台詞が吐けたものだ。だからこそ第一話の時点で〈エースパイロットだが性格に難がある〉とか言われてたのだろうが)。
しかし劇場版を見ると、こんな心配は全くの杞憂だった。結婚しても二人の関係は驚くほどに独身時代と変わらなかった。
完全なプライベートシーンが出てこないので断言はできないが(部屋着でくつろいでる場面はあるが、あれはソレスタルビーイング号内なので半分仕事中みたいなものである)、告白の時にはマネキンを「カティ」と呼んだコーラサワーは奥方を相変わらず「大佐」と階級で呼び、会話の内容・話し方とも上司と部下そのままである。
特徴的なのはすでに准将に昇進しているマネキンをたびたび注意されながら(そのやりとりを二人とも楽しんでる感があるが)大佐と呼び続けていることである。
初めて彼女に出会って恋に落ちた時から告白に至るまでの時間、コーラサワーはずっと「大佐ぁ」と彼女を追いかけ続けてきた。「大佐」という呼びかけの中に彼女への思いと大事な時間の全てが詰まっている。だからコーラサワーはこの呼び方を変えたくないのではないか。彼女をいつまでも恋に落ちた時のままの新鮮な気持ちで愛し続けていたいから。
同じく聡明なマネキンの方もコーラサワーとは上司と部下の関係でいる方が円満な夫婦関係を保てると(逆説的なようだが)察して、あえて上司然と接し続けているのではないか。その甲斐あって?劇場版でも相変わらずコーラサワーはマネキンに頭が上がらず、相変わらず二人はラブラブだった。もしいずれ子供が生まれたとしてもこの二人はずっとこのままでいそうだし、またそうあってほしいなと切に願ってしまうのである。