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about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『機動戦士ガンダム00』(1)-25(注・ネタバレしてます)

2025-06-18 20:20:10 | ガンダム00

ネーナ・トリニティ(+兄兄ズ)

チーム・トリニティ=トリニティ三兄妹の末っ子。機体は戦闘支援向けのガンダムスローネドライ。赤い髪とそばかすがチャームポイントの小悪魔的な少女。
チーム・トリニティは登場時こそ三国家群の大物量作戦の前に撃破される寸前だったガンダム4機を救うという頼もしい味方風だったが、彼らの機体のデータがヴェーダには記載されていない謎の存在であることとプトレマイオスチームを見下すような態度から、たちまち関係が悪化するに至る。

ネーナは最初に助けたのがたまたま刹那だった縁もあってか、直接顔を合わせるなり彼にキスするなど妙に刹那を気に入っている。基本的には子供っぽく陽気だが、思い通りにならない時にはぞっとするような酷薄な表情をのぞかせる。むしろ子供っぽい―精神的に未成熟だからこそ万能感にあふれ狂暴的・自己中心的というべきか。
この自己中心性と狂暴性は次兄のミハエルにも共通している。長兄のヨハンだけは冷静で知的な雰囲気を持ち、弟妹の言動をしばしばたしなめ彼らの無礼をスメラギたちに詫びる場面もあるが、本心から申し訳ないと思っているかと言えば否だろう。
ネーナの「あたしは造られて、戦わされて」という台詞の通り、ガンダムマイスターとして戦うためだけに人工的に生み出されたらしい彼らは、その状況に疑問も抱かずミッションに従うよう好戦的な性格に造られたと思われる。ミハエルの無闇と攻撃的な態度と行動、上述したネーナの残酷な言動などは、礼儀・思いやりと言った社会生活に必要な―戦いには不要な要素を教育されなかったからではないか。
長兄のヨハンだけは時に兄弟以外の人間(ラグナやプトレマイオスクルーなど)と折衝を行う必要上、一応の常識は付与されたようだが。

そんな彼らを見ていて疑問に思うのは“彼らはイノベイドではないのか?”ということ。トリニティが現れた時点ではまだイノベイドの存在自体明かされていないが、セカンドシーズンに入るとリボンズ以外にも複数のイノベイドたちが登場する。彼らもイオリア計画のために人工的に造られた点はトリニティと共通する。
そしてトリニティの中で少なくともネーナは直接ヴェーダにアクセスすることができ、脳量子波を使うこともできる(後者はネーナを子飼いとして使うことを懸念する紅龍に対して王留美が「あなたに脳量子波が使えて?」と皮肉る場面からわかる)。この二点はイノベイドと共通する特徴である。
なら彼らはイノベイドなのかというと、おそらく答えはノーだろう。イノベイドの本格登場を前にファーストシーズンで死んでしまったヨハンとミハエルはともかく、セカンドシーズンにもがっつり登場するネーナは他のイノベイドとは全く別行動を取っているし、むしろ兄たちの間接的な仇(直接の仇であるサーシェスを部下として使っている)として恨みを抱いてすらいた(イノベイドの中の裏切り者であるリジェネとは最終的に結託したが)。
また、最後リボンズが用済みとなったネーナをルイスに襲わせた時、ネーナのハロをヴェーダを通じて操り「そういう君の役目も終わったよ」他のメッセージを送っているが、もしネーナがイノベイドなら直接脳量子波を通じて彼女に語りかけたり操ったり(アニューにしたように)できたであろう。そうしなかったのは彼女がイノベイドではない証左のように思える。
またイノベイドには顔のパターンはリボンズタイプ(リボンズ、ヒリング)、ティエリアタイプ(ティエリア、リジェネ)、リヴァイヴタイプ(リヴァイヴ、アニュー)など複数あれど、中性的(多くは本当に性を持たない)かつ知的で人形のように整った容姿という点が共通している。
リボンズたちの遺伝子元とされるE.A.レイが少年の外見のリボンズたちと違い成人男性という点を差し引いてもそこまで中性的・人形的印象を与えないのに対し、イノベイドは女性型に造られたアニューでさえ透明感のある中性的美貌の持ち主である。つまり遺伝子元の外見や性別の有無に関係なく、イノベイドとして造られた時点で彼らは上で挙げたような共通する容貌を持つようになる。
そう考えると、ネーナを筆頭にトリニティ三兄妹の外見はイノベイドらしさがない。まあヨハンもミハエルもそう男臭いタイプではないし、とくにヨハンは知的な雰囲気も持ってはいる。加えてイノベイドでもブリング・スタビティタイプは他に比べ中性的な感じはしないので、この〈イノベイド特有の外見〉については絶対的なものではないが、小説版には「ネーナはイノベイターに近しい造られた存在」という地の文が出てもくるので、一応トリニティはイノベイドではないと見なしていいだろう。

とすると、今度はなぜ彼らをイノベイドとして造らなかったのかという疑問が湧く。リジェネが初対面でティエリアに語ったところでは、イノベイド(イノベイター)とは「GN粒子を触媒とした脳量子波領域での感応能力、それを使ってのヴェーダとの直接リンク、遺伝子操作とナノマシンによる老化抑制」が可能となった存在と定義できる。
ネーナは初登場から4年以上が経過したセカンドシーズンでは外見はいくぶん大人びていて、サーシェスからも「めっきり女らしくなっちまって」と評されているあたり「ナノマシンによる老化抑制」は成されていないようだ。
(余談だがファーストシーズンの第14話で「ナノマシンの普及によって宇宙生活での人体への悪影響は激減した」という留美の台詞が出てくる。ここからすると少なくともプトレマイオスクルーのように多くの時間を宇宙空間で過ごす人間はナノマシンを体内に(ルイスのようなカプセルの服用によって?)入れているものらしい。宇宙生活による人体への害(無重力・低重力状態による骨密度や筋力の低下?)を防げるナノマシンならすでに老化抑制効果も多少ありそうな気がする。イノベイドが用いているものはその進化系といった感じか)
またネーナの遺伝子は劇場版に登場する科学者ミーナ・カーマインの先祖(やはり科学者)のものと明言されている。イノベイドたちもまたイオリア計画に賛同・協力した科学者たちが遺伝子提供者だ。
これら科学者たちの遺伝子データはイノベイド製造用に一括保管されているのではないかと思うのだが、遺伝子の出所も、MSのマイスターとなる前提で生み出された点も同じなら、なぜいっそイノベイドにしてしまわなかったのか。そうすればリボンズはハロを介さずともネーナを脳量子波で操れただろうに。

これはトリニティの製造を直接指揮したのが、おそらくはアレハンドロ・コーナーもしくはその協力者のラグナ・ハーヴェイだからではないか。
当時リボンズはアレハンドロの側に従者のように付き従って彼の謀略を助けていたが、アレハンドロの様子を見るにリボンズの正体、彼が人工的に生み出され、感応能力ほかで人間を上回るいわば上位種であることを知っていたようには思えない。
アレハンドロをおだてて本人にも気づかれぬよう操るには自分が彼より優れた存在―イノベイドであることも、イノベイドの存在そのものも伏せた方が都合がいい。
イノベイドの存在をアレハンドロやラグナに内密にするなら、彼らがチームトリニティを製造するにあたって遺伝子はそれとなく提供できてもイノベイドを造るための技術までは提供しなかったのは当然のことだ。

さらにもう一つ、別の理由もあると思われる。三国家群の共同体制による国連軍―正確には疑似GNドライヴを積んだMS「GN-X」が誕生して以降のトリニティの状況は見るも無惨なものがある。
人革連広州方面軍駐屯基地を襲撃したさい、ミッション完了を目前にしてセルゲイ・スミルノフ大佐率いる人革連の頂武GN-X部隊10機に圧倒され、その後再び頂武GN-X部隊に基地を襲撃されて帰る場所も失い、流浪生活の中で三度頂武と交戦し敗退。彼らの雇い主であるラグナ・ハーヴェイとも連絡が付かず(実はすでにサーシェスに殺されていた)今後の身の振りようも決まらない。
最後は大西洋上の孤島に身を潜めているところを味方然として近づいてきたサーシェスにヨハンとミハエルが一方的に殺されるに至る。ネーナもたまたまこのタイミングで刹那とラッセが現れ介入しなければ、兄たちに続いてサーシェスに屠られていただろう。
なぜチームトリニティは行く先々で襲撃を受けるのか?小説版ではヨハンもこれを怪しみスローネの現在地を国連軍に教えている裏切り者の存在を察する描写がある。
トリニティたちの体内に生まれながらに発信機のようなものが仕掛けられているのか、スローネのオペレーションシステムを通じてヴェーダが位置を補足しているのか。サーシェスがミハエルのバイオメトリクスがなければ乗れないはずのスローネツヴァイに搭乗・操縦したさいにヨハンが「(バイオメトリクスを)書き換えたというのか、ヴェーダを使って!」と叫んでいたから後者の可能性が高いだろうか。
そして彼らを襲ったさいにサーシェスは「スポンサーからあんたらをどうにかしてくれって頼まれた」「生贄なんだとよ!」と口にしている。スポンサーとはセカンドシーズンでサーシェスが「俺のスポンサー様」と呼んだリボンズなのか、この時点ではリボンズが表向き仕えていたアレハンドロなのかはわからないが、どちらにせよトリニティを造った側の相手からの依頼であったのは間違いない。
ここで「生贄」という言葉が出てくることからいっても、彼らは最初から犠牲となるために造られたのだ。生まれながらの生贄に過ぎない存在を、わざわざ自分たちと同じ人類の上位種であるイノベイドとして造る必要などない、トリニティは自分たちと同列ではない、という意識がリボンズにはあったのではないか。

彼らがサーシェスの襲撃を受けたのと同じ第22話で、国連軍がトリニティに攻撃を行ったことを知ったアレルヤとティエリアが「やはり僕たちは滅びゆくための存在・・・」「これもイオリア・シュヘンベルグの計画・・・」と呟く場面があるが、元々のガンダムマイスター4人については「滅びゆくための存在」というのは当たらないだろう。
第22話のラストでオリジナルのGNドライヴを持つ彼らにだけトランザムの能力がイオリアから与えられるのがその証だ。特に刹那、というかガンダムエクシアとその後継機のマイスターについては「刹那・F・セイエイ」の項で書いたように「イオリアがパイロットをイノベイターとして覚醒させることを主な目的としてツインドライヴやトランザムシステムを作ったことはほぼ確実と思われ」るので、待望の純粋なイノベイターを「滅びゆくための存在」に位置づけるはずがない。
ゆえに本来の、本物のGNドライヴを所有するガンダムマイスターたちに代わって、三国家群を国連軍として一つにまとめあげるための憎まれ役にして国連軍に滅ぼされる役が必要だったということなのではないか。
最終的に彼らは国連軍によって華々しい戦闘の末に倒されるのではなくひっそりと一傭兵であるサーシェスの手によって葬られている。これは一般民衆に対し〈国連軍がガンダムに勝った〉とアピールするには弱いようにも思えるが、GN-Xを手に入れた国連軍に手も足も出ずガンダムが敗退したという事実がすでにあり、その後彼らによる武力介入が行われなくなったという実績があれば、国連軍のおかげで後から出てきた凶悪なガンダム三機は葬られたと印象づけるには十分と踏んだものか。
すでにヴェーダを掌握している以上、スローネが現れなくなっただけでは効果が薄いと判断した時点で国連軍が彼らを格好良く倒すプロパガンダ映像を作って流布することだってできるわけだし。

ただ結局ネーナは逃げのび機体も破損こそしているものの健在である。なぜ後日彼女を追って止めを刺すことをしなかったか。やけになったネーナがスローネドライで暴れまわる可能性もゼロではなかったはずだ。
まあこれはプトレマイオスが国連軍の襲撃を受けたさいにガンダム4機がやられたような、ヴェーダによるシステムダウンを行ってしまえば済む話ではあるから、問題とはしなかったのかもしれない。
セカンドシーズンでは王留美の下でネーナが働いているのを、留美と協力関係にあったリボンズたちは当然承知していたはずだが(リジェネなどリボンズへの反抗の一環として一時ネーナと共闘したりもしていた)、今さら殺す必要もないと見逃していたのだろう。留美を利用するうえで、彼女のエージェントとしてその意を受けて動く実働隊であるネーナはイノベイドにとっても使い勝手がよかったのかもしれないし。
・・・と思ったが、ネーナが王留美を殺害した直後に彼女の機体のハロを乗っ取ったリボンズが「そういう君の役目も終わったよ」と告げているところからすると、ネーナに何かしらの「役目」を果たさせるためにあえて彼女を生かしておいた可能性もある。
ネーナが果たした、果たしたばかりの役目とは何か。真っ先に考えられるのは留美がソレスタルビーイングにヴェーダの所在を記したメモを渡すのを手助けすることと、その後に留美を始末すること。
これは共にリジェネが目論んでネーナをけしかけたものだが、ヴェーダを囮にプトレマイオスクルーを呼び寄せアロウズとの最終決戦に持ち込むのはリボンズの意図するところでもあった(留美についてはもはや利用価値なしとしてリボンズ的にはどうでもよかったと思う。まあ周辺をちょろちょろされても邪魔なので消した方がいいくらいには感じていたかもしれないが)。
プトレマイオスクルーを呼び寄せるという役割が終わったから「勝手をする者には罰を与えないとね」との言葉通り、ネーナを始末したとも取れる(「勝手をする」とはリジェネに与したことを指すと思われ、少し後にリジェネも体よくリボンズに始末されている)が、もう一つ別の意味もあるかもしれない。
というのは、この時ネーナを始末するために現れたのがルイスだからだ。ルイスはただ特命を受けて出撃しただけで、仇であるネーナに遭遇したのは偶然と思っていただろうが、リボンズは明らかに二人をぶつけるつもりでルイスをこの場に派遣したのである。
これは単にネーナを始末することにしたから、どうせなら彼女を仇と狙うルイスに恨みを晴らさせてやろうという温情とは、リボンズにそんな優しさがあるとは考えづらい。
おそらくリボンズは、沙慈との再会・特殊空間での対話を経て戦うことに迷いを生じつつあったルイスに、復讐のための人殺しという一線を超えさせようとしたのだ。ルイスは特殊なナノマシン投与によってリボンズが生み出した、人類初の人工的イノベイターになりかけている人材だ。彼女を自分の思い通りになる疑似イノベイターとして仕上げるためには、一線を超えさせて人としての情愛を捨てさせる必要があった。
ネーナ殺しはそのための格好の材料であり、ルイスの生贄となることをもって彼女の「役目は終わった」というのが上掲の台詞の意味なのかもしれない。

トリニティの武力介入の内容は確かに褒められたものではないし、とりわけネーナが結婚式場を攻撃した件はどうやっても擁護できない。
ただ彼らが最初からそういう戦闘欲だけの存在として造られた(彼らの遺伝子元がイオリアに協力した科学者であるなら地頭はいいはずだと思うのだが)ことには同情の余地がある。
特に三兄妹で唯一常識を与えられたヨハンは、小説版によると「人間の中のエゴイズムが失われない限り、戦争の火種がなくなることはない」「ゆえに、人間たちには統治者が必要なのだ。完全に人心を掌握し、戦争根絶を布告する無形の存在が」との信念のもと、「無慈悲な武力介入と言われていたことは知っていた」うえで「戦争根絶という理想を叶えるため」「ガンダムマイスターになるため」「人間の未来のため」戦っていたと内面が明かされている。少なくともヨハンは、やり方は過激ながらも人類の未来と平和実現を本気で考えていたのである。
そしてネーナが兄たちの仇を討とうとしたり、ミハエルが妹につれなくした刹那に(理不尽ながらも)怒ったり、ミハエルが殺されたのを受けてヨハンがネーナだけでも逃がそうとしたりと、彼らの間には確かに兄妹愛がある。
たとえそれが任務達成のためチームワークを保つべくプログラムされた結果だとしても、彼らの短い人生にも多少は人間らしい潤いがあったかと、いくぶん救われたような気持ちになるのだった。

 


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『機動戦士ガンダム00』(1)-24(注・ネタバレしてます)

2025-06-04 20:27:55 | ガンダム00

王留美

ソレスタルビーイングのエージェントの一人。大富豪である王家の令嬢で、先代亡きあと15歳の若さで当主となる。
莫大な資産と人脈によって、プトレマイオスクルーに有益な情報を数々提供、三国家群合同軍事演習の頃にはマイスターを除くプトレマイオスチームの面々をしばらく豪奢な別荘でもてなしたりしている。
思えばこの頃が彼女とプトレマイオスクルーが一番上手く行っていた頃ではないか。その後より過激な武力介入を行うチームトリニティが現れるとプトレマイオスチームには内緒で彼らとも接触を持ち、セカンドシーズンではイノベイター(イノベイド)に接近する。
最初はリーダーであるリボンズ・アルマークと親しくしていたが、ダブルオーライザーの能力にショックを受けたリボンズに八つ当たりで平手打ちされる侮辱を受けてからは、リボンズに含むところのあるリジェネ・レジェッタに近づく、というか近づかれる。

こう書いていくと明らかなように、彼女は自分の目的のためにより有益と思われる相手にどんどん乗り換えていく。それも前の相手と完全に切れるわけではなく、そちらとの関係も保っておきつつ軸足を移すといった感じで、結果的に二重三重スパイのような立ち位置となっている。その目的とは世界を変革すること。
イオリア・シュヘンベルグを筆頭に、ソレスタルビーイング関係者はプトレマイオスクルーから監視者のアレハンドロ・コーナーまで何かにつけ「世界の変革」を口にするのだが、変革を望む気持ちにおいてはある意味王留美が一番切実だったかもしれない。

物語の終盤近くなって、留美のそばに常に秘書兼ボディガードとして付き従っている紅龍という青年が実は留美の実兄であり、彼が大家の当主としては器に欠けると見なされ廃嫡されたために留美が王家を継がざるを得なくなったことが明かされる。
テレビアニメでは「お兄様に当主としての器がないから私の人生は歪んだ」というだけで具体的な事情は語られないが、小説版によると、善良だが気弱な兄を当主の器ではないと見切った先代は、留美を次期当主と定め徹底した帝王教育をほどこした。自由な時間の全くない完全管理された奴隷のような生活と、社交界で財界人・政界人たちの裏面の醜さを見せつけられたことで、彼女はやがて世界が灰色に見えるようになったという。
それは先代が亡くなりその管理下から脱したのちも変わらなかった。再び光彩に溢れた世界を取り戻したい、自分は自由を取り戻した(変わった)のに世界に色が戻らないなら世界の方を変えなくては、というのが彼女が「世界の変革」を望む理由だ。
そこにはプトレマイオスクルーのような、戦争やテロを憎み根絶したい、自分たちのように紛争のために苦しむ人間を生み出したくないといった想いは全く感じられない。何年も心を殺して生きてきたせいで世界が灰色にしか見えなくなったという状況には同情の余地はあるが、どこまでも自分の都合だけなのだ。

そもそも光彩に溢れた世界を取り戻したいというなら、彼女に世界の色を失わせた原因の王家を捨ててしまえばよかったのだ。
先代が亡くなった時点で兄の紅龍に当主の座を押し付け(留美に辛い役割を負わせたことに責任を感じて自ら彼女の従者となる道を選んだ紅龍ならいやいやながらも引き受けるだろう。周囲が〈能力不足で先代に見切られた人間など当主として認めない〉と横槍を入れたとしても、王家の財産と社会的地位を思えば当主に手を挙げたがる人間はいくらもいるだろうし)、自分は最低限の生活費だけ持って家を出て、一般人の少女として生活すればよかった。
ルイスのように普通に学校に通ってクラスメートやボーイフレンドと食事したり買い物したり。超セレブの世界しか知らない彼女には庶民の暮らしは新鮮であり刺激的だろう。そうした日常を送ることで自然と世界に色も戻っていったのではないか。

王家ほどの大家(小説版によると「世界有数の多国籍グループ企業を持つ」そうだが、当主の王留美がソレスタルビーイングがらみの活動以外はパーティーに出席するくらいしか仕事らしいことをしている場面がないので、経営そのものは各企業のトップに任せておいて王家当主は各界有力者と密接な関係性を築いておくことがお仕事、という感じだろうか)であれば、内部で働いている人間や関係各方面に与える影響を思えばそう簡単に立場を捨てられないと考えた可能性もなくはないが、実際に彼女のやったことを見れば、ソレスタルビーイングやアロウズに対する財政支援のために王家の莫大な財産をほぼ使い果たしてしまっている。到底王家や周りの人間を思いやって行動しているとは思えない。
最初、留美は代々監視者の役割を担ってきたコーナー家同様に先代からエージェントの任務を引き継いだのかと思っていたのだが、これも小説版によると「(灰色の世界を変えるために)戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングの理念に彼女は飛びついた」とあり、王家の情報網を通じてソレスタルビーイングの存在を知った留美が自らエージェントに手を挙げたものらしい。
王家先代にしてみれば王家の繁栄の基盤である現行の世界の変革などを望みそのために王家を傾けるなどもってのほかであろう。紅龍の気弱さを疎んじたからには先代は留美の気の強さ・行動力を買ってそれを伸ばすべく教育を施したのだろうが、かえって裏目に出た格好である。
(むしろ紅龍の有能さ―妹への贖罪意識から武術を習得して護衛役を務めたり、留美の我が儘な言動の数々に耐えたりできる忍耐力、留美がネーナに撃たれた時身をもって庇ったとっさの判断力・行動力、妹への思いやりなど見るに、そのまま紅龍を後継者にしておいた方が良かったのでは?と思えてならない。気弱で頼りない部分は〈おまえがそんなだと留美を当主に据えるために過酷な英才教育を施すぞ〉と脅しをかければ、妹想いの彼は奮起して自己改革できたんじゃないか)

留美は(先代の死により自由を得たことで)自分は変わったと見なしているようだが、彼女を取り巻く基本環境自体は何も変わっていない。自分を取り巻く狭い特殊な世界しか知らず、その世界を破壊したいほど憎みながらその外に出ようともしない。
結局彼女は現状の豪奢な暮らしを放棄する気はないし、そもそも豪奢でない生活という物を想像すらできないのだろう。
「何でも持ってるくせにもっともっと欲しがって」とネーナ・トリニティが嘲笑する所以であり、自ら変わろうとはしない彼女を「君はイノベイターにはなれない」とリボンズが突き放すのもわかろうというものだ。
「俺は変わる。俺自身を変革させる」と宣言した前後から真のイノベイターとして覚醒を始めた刹那とは対照的であり、むしろ自ら変革することの重要性を際立たせるために、世界の変革を求めながら自らは変われない人間の代表として王留美というキャラクターを登場させたのかもしれない。

とはいえ、上で書いたように王家の財産をほぼ使い果たしてしまった彼女は、ネーナの造反がなくとも遠からずこれまでのような優雅な暮らしはできなくなっていたかもしれない。必然的に彼女の世界は変わらざるを得なくなる。
そして「ソレスタルビーイングも、イノベイターも、お兄様の命も捧げて、変革は達成される。私はその先にある素晴らしい未来を・・・」という発言からは、彼女が今の生活を、公私にわたり彼女を傍らで支え続けてきた紅龍を失うことすら怖れていないようにも思える。
彼女の夢見る「素晴らしい未来」が具体的にどのようなものなのかはさっぱりわからないが、ソレスタルビーイング・イノベイター(イノベイド)・アロウズの全面衝突(とそれによる三者の共倒れ)が起こればブレイクピラー以上の死傷者が出てもおかしくないのに、自分はその惨禍を免れうることを前提にしているのに驚く。
これまた小説版だと、「財産を投げうち、紅龍を失ったいまでも、彼女は己の能力と広い人脈によってこの不遇から再起し、うまく立ち回っていく自信がある」のだそうだ。自分も自分と付き合いのある有力者も皆生き残れる前提になっているのは、“自分(たち)は大丈夫”という特権階級にありがちな無根拠な思い込みによるものだろうか。
確かに上流階級の人間はいろんな裏情報も入ってくるし、セキュリティの強固な場所にいられるので一般庶民に比べて危機を回避しやすくはあるだろうが、セレブだって無惨に殺される時があるのはハレヴィ一族やラグナ・ハーヴェイの例を見ても明らかで、他ならぬ王留美自身がこの直後にそれを証明してしまった。
ただ留美が〈世界に色を取り戻す〉というごく私的な望みのために、王家を捨てるのでなく王家そのものの基盤を揺るがすような選択をしたのは、自分をこんな境遇に追い込んだ王家への強い憎しみがあったのかもしれない。
チームトリニティに接触した際に紅龍に「それほどまでに、いまの世界がお嫌いですか?」と問われて「ええ、嫌いよ。変わらないのなら、壊れてもいいとさえ思うほどに」と答えた彼女には世界に対する強い破壊願望が感じられたが、それも王家への破壊願望が王家の立脚する現行世界への破壊願望へと拡大したものだったのではないか。
「素晴らしい未来」に具体性が見えないのも、実際に彼女を動かしているのはただ〈現状を破壊したい〉という衝動だけで、その先は〈不幸の原因がなくなれば幸福になれるはず〉程度のふわふわしたイメージしか描けていないからではないか。
身勝手な人間には違いないのだが、そこまで追い詰められた結果と思えばいささか気の毒に思えるところもある。

もう一つ気の毒なのは、彼女が近づいた相手からことごとく“仲間”として扱われないことだ。リボンズもリジェネも彼女の財力やプライドを利用しただけで手ひどい切り捨て方をしたし、チームトリニティの生き残りで行き場を失くしたところを一応は保護した格好のネーナにはついには兄も自分も殺された。
一番円満な関係が築けていたと思えるプトレマイオスチームにしても、人命救助を優先してミッションを放棄したアレルヤを咎めた際に「あなたにはわからないさ。宇宙を漂流する者の気持ちなんて」と一方的に通信を切られている(切ったあとの台詞なので留美には聞こえていないが、例えば相手がスメラギなら「あなたにはわからない」なんてきつい表現は一人言でもしなかったと思う。安全圏から物を言ってくる留美に対する反感がアレルヤの中にあったのではないか)。
またメメントモリ破壊ミッションの直前に留美から暗号データが送られてきた時にもティエリアが「今まで何を」と苛立ちの滲む声を発している。以前のようには留美と連絡がつかないことが多く彼女の行動に不信感を抱きつつあったのが背景にあるのだが、何かあったのかと彼女の身を案じるのでなく“今まで何やってたんだ”という反応になるあたり、やっぱりあまり留美を好きじゃないのかなという感がある。
それぞれ事情はあれど本気で戦争根絶を願っているには違いないプトレマイオスクルーは、自分たちとの温度差のようなものを留美に感じていたのかもしれない。
実際留美は二重三重スパイのようなことをやっているのだから自業自得ではあるのだが、唯一本当に自分を案じ大切にしてくれた兄の愛情に気づくことがないまま彼を失ってしまったのも含め、可哀想な人だなという気がするのである。


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