セルゲイ・スミルノフ
「ロシアの荒熊」の異名を持つ人革連のMS部隊「頂武」の指揮官。ファーストシーズン時は中佐。
セカンドシーズンでは新たに発足した地球連邦軍の大佐だが、政府直属の独立治安維持部隊アロウズが力を伸ばして行く中でアロウズから引き抜きの声がかかる事もなく実質閑職に追いやられていた。<br>
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能力といい人格といい、まさに軍人の鑑のような人物。指揮官としての能力においては、まずガンダム捕獲作戦が挙げられる。
当時はまだGNドライブ搭載のMSに切り替わる前で、少し後の三国家群の合同軍事演習(という名のガンダムを誘き出し破壊する作戦)や「フォーリンエンジェルス」と違い人革連のみでの作戦だったにもかかわらず、戦術においてスメラギの裏をかき、アレルヤのキュリオスを一度は鹵獲、ティエリアのヴァーチェもあと一歩で鹵獲できるというところまで追い詰めた。“天才”のスメラギを“老巧”のスミルノフが上回った形である。
(ただ途中からの経過はいささかまずかったが。ヴァーチェからナドレに変わることで窮地を脱したティエリアの場合はさすがに想定外だろうからやむをえないとして、アレルヤに逃げられたのはその際の味方の被害を考えても迂闊だったといえる。
別人格のハレルヤが目覚めたこと自体は想定外でも、アレルヤが意識を取り戻して暴れる可能性を考慮してガスなり電気ショックなり意識を奪い続けるか身体を動かせなくする対処をしてから近づかせるべきだったろう)
MSのパイロットとしてもGNドライブ搭載型のジンクスに乗り換えて早々にガンダムスローネ(直接にはネーナのスローネドライ)を圧倒し、ファーストシーズンでは人間離れした反射能力を持つ超兵であるピーリスと常に共に行動している。彼女の動きが見えているし追えているのだ。
戦闘スタイルは最初にセイロン島で刹那と戦った時など見るに、「肉ならくれてやる!」の言葉通りの“肉を斬らせて骨を断つ”式の、何かを犠牲にしてもより大きな戦果を得る、より大切な物を守るという姿勢のようだ。
ファーストシーズンの最終決戦でハレルヤに追い詰められたピーリスをかばって止めの一撃を受けたのも、ピーリスへの個人的情というより自分が犠牲になることでハレルヤの意表をつきピーリスにハレルヤを倒させることができる(その方がピーリス戦に専念してるハレルヤに直接自分が攻撃するよりも勝率が高い)と判断したからだろう。
そう、この人の偉いところはより大切な物を守るために犠牲にするのが自分や自分の乗っている機体で、他人を捨て石にしないところだ。
部下に対しても甘い顔はしないが、ピーリスへの対応を見ても面倒見はよく、厳格ながら情があり、時には規律を曲げても部下や他人を守る〈話のわかる〉人物である。
そうでなければアレルヤとピーリスの仲を(二人、とくにアレルヤの覚悟を見たうえで)認め表向きはピーリスは死んだものとしたり、カタロンの基地から脱走した沙慈を捕獲(保護)したさいに(彼は巻き込まれただけの一般人だと確信したうえで)アロウズに睨まれるリスクを負っても彼を逃がしたりはしない。こう書いてみるとつくづくと理想的な軍人であり人格者だと思う。
その一方で、私人としてはうってかわってダメダメである。別に酒癖が悪かったり女癖が悪かったりするわけではない、セカンドシーズンの初めでピーリスとお茶を飲んでいたシーンを見るかぎり平時も穏やかでごく常識的な人物ではある。
ただ妻亡き後、実の息子であるアンドレイにきちんと向き合うことをせず、結局彼との関係を致命的なまでにこじらせてしまった。
さらに彼はピーリスに自分の養女になる話を打診していたが、アンドレイがピーリスにアロウズからの招集命令を伝えに現れたとき(ピーリスに用があるのにスミルノフの家を訪ねてくるということは、単に同じ士官用宿舎に入居してるお隣さんではなく養子縁組しないうちから一緒に暮らしているのだろうか)のピーリスの様子からすれば、ピーリスはアンドレイを知らなかった。下手すれば息子がいること自体知らなかったかもしれない。息子の存在を知っていれば、顔は知らずとも両者のやりとりから“ああ、この人が息子さんなのね”的な反応になっただろう。
そしてアロウズでのアンドレイのピーリスへの態度はあくまでも上官に対するもので、ピーリスがスミルノフの部下で個人的にも親しくしてるのは知っていても養女になる話がある(年齢的にピーリスの方が義理の妹となる)などとは思ってもいないのではないか。
いかに息子と疎遠になってるとはいえ、彼の知らないところで養子縁組の話を進めるのはいかがなものか。ピーリスの承諾が得られてからきちんと話すつもりだったのかもしれないが、少なくともピーリスの方には養女になる話を持ち出したさいに不仲の息子がいることは知らせておくのが誠意というものだろう。養女になる話を承知したあとで実の息子=義理の兄になる人物がいてしかも父親と不仲と知るのでは、ピーリスが気の毒ではないか。
仕事の上では有能かつ上にも下にも人望のある人物が、家庭においては無能力者ということはままあるが、スミルノフ大佐はそれを地でいっている感がある。
それはアンドレイとの確執の原因となった妻ホリーの戦死についても言える。第五次太陽光紛争時、自軍がピンチとなり作戦本部から最終防衛ラインへの後退命令が下された際に、軍事基地の指揮管制室で全体指揮を取っていたスミルノフは、ホリーが小隊長を務める第四小隊が前線に取り残されるのを承知のうえで救援部隊を送らず全軍後退の指示を出した。
最終防衛ラインを死守することが軌道エレベーターの技術者とその家族―つまりは民間人の命を守るために必要だとの使命感からの判断だったが、それは唯一戦果を挙げていたがゆえに突出していた=最も活躍していた第四小隊を見殺しにすることでもあった。結局予期された通り第四小隊は壊滅、ホリーも戦死するに至ってしまった。
民間人の生命と安全を守るのが軍人の務めというスミルノフの言い分は最もであり軍人とはかくあるべきと言いたくなるが、もし第四小隊にホリーがいなかったとしてもスミルノフは同じ判断を下しただろうか。最終防衛ラインは死守しなくてはならない、しかし友軍を見殺しにすることもできないと、どうにか第四小隊も共に後退できるような策を講じようともっと足掻いたのではないか。
なまじ身内がいたがために、家族の情に流されて民間人を危険にさらすわけにはいかないと、第四小隊もろともに切り捨てる決断をしてしまったのではないか?
上で書いたようにこの人の偉いところは目的のために犠牲にするのはあくまで自分で他人を捨て石にしないことだが、家族は自分の一部、家族のことは私事という認識があるために、いざという時に家族は犠牲にする対象になってしまうのだ(その意味では部下と家族の中間―公と私の狭間にいたピーリスが最もいいとこ取りの関係性を築けていたのかもしれない)。
ただこうした私人としての欠点も、彼が公人として立派であろうとした、事実理想的な軍人の姿を体現していたことの弊害であり、彼の真面目さ、不器用さを示していて個人的には好感が持てる。彼がアンドレイを息子として愛していたのは、自機の爆発にアンドレイを巻き込むまいとそっと突き放した最期の行動からよくわかるし。
ただその愛情をきちんとわかるように示せなかったことで息子に道を誤らせ、親殺しの大罪まで犯させてしまった。ダブルオーライザーのトランザムバーストがなかったら、アンドレイがピーリスを通じて父の愛情を知ることもないままだったはずだ。
『00』の大テーマである〈わかりあう事の大切さと難しさ〉を家族間で体現してみせたのがスミルノフ大佐だったとも言えるのではないだろうか。 <br>
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