・真っ先に打ち殺された通信兵「ヒガ」くんはエキストラの方なんですよね?ぱったりと仰向けに倒れる思い切りがお見事。
・川平くんをかばって上官に抗議する昇の怒りに上擦る声、襟元を掴まれながらも怒りのあまりに涙ぐんだ目でじっと上官を凝視する時の表情、このくだりはもうほとんど演技とは思えないです。
「まずお前から行け」と爆弾の袋を押し付けられた川平役尾上くんの怯えっぷりも上手い。昇が壕を出てゆく時の「昇ー!」という悲痛な叫びも。
・コメンタリーでも言われてましたが、臆病者よばわりされて上官を睨みつける時の目つきがすごい。煤で真っ黒な顔と白目のコントラストがより目の力を強めている。
台本になかったとしても「なんだその目は」と返してしまいそうな感じ。
・川平くんに遺書を託す昇。まだ見ぬ末っ子(幸子)のことが手紙に出てくるので、以前の遺書とは別に新しく書いたものなのがわかります。
かつては雄雄しく戦死する気まんまんで、父に「死んだら駄目なんですよ!」と諭され遺書を取り下げた昇が、遺書を託す友達に向かって「お前は、死ぬなよ」と父と同じ言葉を口にする。それもただ「死ぬなよ」でなく「お前は」なのが辛い。
・上官は爆弾の袋二つのうち一つを川平くんに渡して「まずお前から行け」と言っているので、上官が自爆テロの第二弾を考えているのがわかる。
しかるに昇は自分が特攻に向かうにあたり上官の持っていた二番目の袋も引ったくって行った。「死ぬのは自分だけで十分だ」という昇の声が聞こえるような気がしました。
上官が昇のなすままだったのは、死に赴く彼の勇気に敬意を払ったからなのか単に昇の気迫に押されただけなのか。前者だといいな。
・穴の出口へと駆け上がる昇の、軽やかな動きに思わず見惚れました。電線修理のために砂地を走る場面、上官に殴られてすっとぶシーンもそうですが、およそ体重を感じさせない身のこなし。
一年後の『イージス』で見せた身軽さはアクション訓練のたまものかと思ってましたが、半ばは元からの資質なのですね。
・米軍に向かって行こうとして一度体を引いた時の表情が・・・。死への恐怖、ためらい、胸に渦巻く感情を決して大げさでなく表していました。
そしてもはや取り戻しようもない家族との平和な日々を思い、泣きじゃくりながら走り出す。坊主頭もあいまって泣き顔がまるで小さな子供のようなのが、より痛々しさを増しています。
・米兵の一斉射撃で蜂の巣に。この場面、コメンタリーによると勝地くんが自分で(血糊の袋を破裂させる)スイッチを押してるそうですが、いつ押してるのか全然分からない。
撃たれるたびに体が揺らぐ様子、上体が崩れるのを何とか堪える所、爆弾の袋を振りかぶる時の力の篭め方、体の震え方、頚動脈を撃たれて砂地にうつ伏せに倒れる姿・・・全てが真に迫っていた。
顔中唇まで砂にまみれながら(絶対砂が口に入ったはず)最後の力を振り絞って手榴弾のピンを抜く時の、もはや光を失いつつある目にうっすら涙をうかべた子供のような表情が印象的でした。
・ナレーションの形で語られる遺書の内容が、優しい口調だけに映像の悲惨さと見事なコントラストを成している。前半で勇から紀子に届いた手紙の反復ですね。
ここで「お父さんの写真館を継ぐ」という夢が初めて語られる。生真面目な性格だけにふざけてばかりの父に時に(戦争が始まってからは特に)苛立つことも多かったろう昇が、その実お父さんが大好きだったことが窺えます。
・爆音に振り返った幸一が、息子と別れたあたりで爆発が起こったにもかかわらず、深く考えた様子もなくそのまま立ち去るのが、こうした爆発など当たり前になってしまっている戦時の異常性を感じさせます。
幸一にその自覚はないものの、昇は一応父に看取ってもらえたわけですね・・・。
そして爆発の規模が結構大きいことから、昇はかなりの数の米兵を道連れにしたろうことが想像されます。ラストで川平くんが無事生き伸びてたので、上陸した兵はほぼ壊滅したのかも。
しかし昇の死が少しでも意義あるものであってほしいと考えると、自然と米兵の死者が一人でも多かれと願ってしまう。作品のテーマと正反対になってしまうのだけれど。
・さとうきび畑での家族との再会。ベタではありますが、沖縄防衛隊の全滅、昇の壮絶な戦死、美枝の生死不明と辛いエピソードが続いたあとなので、一服の清涼剤のようにホッとさせられる。
後の展開を思えば、ここで幸一が幸子の顔を見られたこと、写真を写せたことも大きいです。特に写真は幸子にとって生まれてすぐに亡くなった父を思う唯一のよすがとなったんじゃないでしょうか。
・夜の川での紀子との再会。この時紀子が歌っていたのは、幸子が生まれたときに春子が歌ったのと同じ「歓びの歌」。「Do you kill me?」同様紀子が教えたのか、逆に歌が好きな春子に紀子が教わったのか。
そして家族と巡りあいながら紀子は一瞬顔を曇らせる。夜の川でまるで禊を行っているようだったのも合わせ、彼女が憲兵によって陵辱に近い目に合わされたことを暗示しているように思えます。後に紀子が軍に対して強い怒りを吐露する場面もあるし。
・どうやら美知子たちは紀子の口から初めて勇の死を知らされたらしい。先生たちから春子には話が行かなかったのだろうか?
・紀子の死に衝撃を受けつつも、子供たちを守るために「米兵だって同じ人間」という幸一の言葉を支えに勇気ある降伏の道を選んだ美知子。彼女の夫に対する強い信頼と愛情、母の強さが表れている場面。
そしてその幸一はこの後間もなく、「米兵も人間」という考え方の故に帰らぬ人となる・・・。
・春子の「Do you kill me?」。紀子自身は亡くなったものの、彼女の残した言葉が平山一家を救った。美知子たちが紀子の遺骸を連れてきているだけに、「紀子の死」と「彼女が救った生者」のコントラストが際立っている。
・あくまで米兵を殺すことを拒否して、上官の手で処刑された(ことが暗示される)幸一。一見ふざけてばかりいる軽い男とも見える彼は、笑顔がいかに人の心に潤いを与えるかを知っていて、常に自分だけでなく家族や周囲の人々の幸せを考え続けた人物だった。
「私はこんな事をするために生まれてきたんじゃないんですよ!」と幸一は言うが、彼に限らず人を殺すために生まれてきた人間などいない。それでも多くの人は生きて家族のもとに戻るためにあえて敵兵を殺してきたのでしょうが、幸一は家族を愛すること人一倍でありながら、米兵をも「敵」という記号と見なせなかったためについに銃を撃つことができなかった。
人を人として遇しようとすれば生きてゆけなかった時代の悲しさが思われます。
・捕虜収容所での美枝との再会。足を投げ出した美枝のしどけない姿と虚脱したような表情は、紀子同様に性的暴行に遭ったことを思わせます。美知子が美枝の頭を優しく撫でる仕草も、そのあたりの事情を察したうえで娘を労わっているように感じられる。
ともかくも集団自決寸前で吉岡の言葉を思い死の決心を翻した美枝が、収容所に辿り着くまでに相当な辛酸を舐めたであろうことは想像に難くない。
「何があっても決してあきらめない」と自分を評した吉岡に恥じないように。その一心で自身を支えてきたのでしょう。
・父の死を伏せて「カメラを貸した」と家族に告げた美枝。幼い弟妹は現像された写真を見て無邪気に喜ぶが、美知子は美枝と一緒に涙を流している。
美知子は夫が大切な大切なカメラを決して人に貸したりしないと分かっていたから、幸一のカメラを他人、それも米兵が持っていたことの意味をすぐに悟ったのだろう。
・幸子をはじめ写真に収められた人々の笑顔。物語の最初から最上の笑顔とそれを写真に収めることへのこだわりが描かれてきた幸一が、こんな時代にもかかわらず彼の生き方を貫いたことがわかる。
本来なら周囲の人々に笑顔とそれに付随する幸せを振りまきながら生きて死んでいけたはずの人が、こんな形で死ななくてはならなかった。「笑顔」をキーワードに据えることで戦争の悲惨さを追及した、このドラマの真髄といえる場面。
・追い打ちをかけるように昇の遺書を持って表れる川平くん。脚本(『テレビドラマ代表作選集』(2004年版)に掲載)の段階では川平くんが遺書を渡しての愁嘆場が存在していたのですが、あえてそこを描かず余韻を持たせたまま現代の物語へシフトする形にして正解だったと思います。
いつもかばってくれた昇がいなくなって川平くんはどうやって生き抜いてきたのか、これからどうするのか。心配になるところですが、遺書を手に歩む彼の顔にはこれまでにない力強さがあって、昇の分も懸命に生きようとする意志が伝わってきます。
しかしここで遺書が登場することによって、中盤で退場した昇の存在が最後にまた視聴者に印象づけられる・・・美味しい役だなあ。
・幸子と携帯で写真を撮る孫娘。「写真」と「笑顔」というキーワードをラストでもう一度出して作品の締めとする。
沖縄に来て祖母の話を聞いただけで立ち直ってしまうのはお手軽ではありますが、冒頭とは打ってかわった明るい笑顔がまぶしいです。両手を空に向けてぐーっと伸びをする場面も、これまでありがちな厭世観の中でうずくまっていた彼女の精神が伸びやかさを取り戻したことを象徴していて清清しい。
・・・ところでこの「幸子の孫」、「美枝似の女の子」ならぬ「昇似の男の子」バージョンも見てみたかった(笑)。真っ茶髪の不良タイプ(『BRⅡ』の晴哉風)でも無口な引きこもり系(『クイール』の政晴風)でも可。坊主頭の凛々しい昇との落差がさぞ見応えあっただろうなーと。