about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『さとうきび畑の唄』(2)-3(注・ネタバレしてます)

2007-02-01 23:24:06 | さとうきび畑の唄
・米兵を発見して仲間を急ぎ叩き起こす昇の上ずった声と無駄にばたばたした動きが、「浮き足立つ」という言葉そのものなのに妙に感心してしまった。

・真っ先に打ち殺された通信兵「ヒガ」くんはエキストラの方なんですよね?ぱったりと仰向けに倒れる思い切りがお見事。

・川平くんをかばって上官に抗議する昇の怒りに上擦る声、襟元を掴まれながらも怒りのあまりに涙ぐんだ目でじっと上官を凝視する時の表情、このくだりはもうほとんど演技とは思えないです。
「まずお前から行け」と爆弾の袋を押し付けられた川平役尾上くんの怯えっぷりも上手い。昇が壕を出てゆく時の「昇ー!」という悲痛な叫びも。

・コメンタリーでも言われてましたが、臆病者よばわりされて上官を睨みつける時の目つきがすごい。煤で真っ黒な顔と白目のコントラストがより目の力を強めている。
台本になかったとしても「なんだその目は」と返してしまいそうな感じ。

・川平くんに遺書を託す昇。まだ見ぬ末っ子(幸子)のことが手紙に出てくるので、以前の遺書とは別に新しく書いたものなのがわかります。
かつては雄雄しく戦死する気まんまんで、父に「死んだら駄目なんですよ!」と諭され遺書を取り下げた昇が、遺書を託す友達に向かって「お前は、死ぬなよ」と父と同じ言葉を口にする。それもただ「死ぬなよ」でなく「お前は」なのが辛い。

・上官は爆弾の袋二つのうち一つを川平くんに渡して「まずお前から行け」と言っているので、上官が自爆テロの第二弾を考えているのがわかる。
しかるに昇は自分が特攻に向かうにあたり上官の持っていた二番目の袋も引ったくって行った。「死ぬのは自分だけで十分だ」という昇の声が聞こえるような気がしました。
上官が昇のなすままだったのは、死に赴く彼の勇気に敬意を払ったからなのか単に昇の気迫に押されただけなのか。前者だといいな。

・穴の出口へと駆け上がる昇の、軽やかな動きに思わず見惚れました。電線修理のために砂地を走る場面、上官に殴られてすっとぶシーンもそうですが、およそ体重を感じさせない身のこなし。
一年後の『イージス』で見せた身軽さはアクション訓練のたまものかと思ってましたが、半ばは元からの資質なのですね。

・米軍に向かって行こうとして一度体を引いた時の表情が・・・。死への恐怖、ためらい、胸に渦巻く感情を決して大げさでなく表していました。
そしてもはや取り戻しようもない家族との平和な日々を思い、泣きじゃくりながら走り出す。坊主頭もあいまって泣き顔がまるで小さな子供のようなのが、より痛々しさを増しています。

・米兵の一斉射撃で蜂の巣に。この場面、コメンタリーによると勝地くんが自分で(血糊の袋を破裂させる)スイッチを押してるそうですが、いつ押してるのか全然分からない。
撃たれるたびに体が揺らぐ様子、上体が崩れるのを何とか堪える所、爆弾の袋を振りかぶる時の力の篭め方、体の震え方、頚動脈を撃たれて砂地にうつ伏せに倒れる姿・・・全てが真に迫っていた。
顔中唇まで砂にまみれながら(絶対砂が口に入ったはず)最後の力を振り絞って手榴弾のピンを抜く時の、もはや光を失いつつある目にうっすら涙をうかべた子供のような表情が印象的でした。

・ナレーションの形で語られる遺書の内容が、優しい口調だけに映像の悲惨さと見事なコントラストを成している。前半で勇から紀子に届いた手紙の反復ですね。
ここで「お父さんの写真館を継ぐ」という夢が初めて語られる。生真面目な性格だけにふざけてばかりの父に時に(戦争が始まってからは特に)苛立つことも多かったろう昇が、その実お父さんが大好きだったことが窺えます。

・爆音に振り返った幸一が、息子と別れたあたりで爆発が起こったにもかかわらず、深く考えた様子もなくそのまま立ち去るのが、こうした爆発など当たり前になってしまっている戦時の異常性を感じさせます。
幸一にその自覚はないものの、昇は一応父に看取ってもらえたわけですね・・・。
そして爆発の規模が結構大きいことから、昇はかなりの数の米兵を道連れにしたろうことが想像されます。ラストで川平くんが無事生き伸びてたので、上陸した兵はほぼ壊滅したのかも。
しかし昇の死が少しでも意義あるものであってほしいと考えると、自然と米兵の死者が一人でも多かれと願ってしまう。作品のテーマと正反対になってしまうのだけれど。

・さとうきび畑での家族との再会。ベタではありますが、沖縄防衛隊の全滅、昇の壮絶な戦死、美枝の生死不明と辛いエピソードが続いたあとなので、一服の清涼剤のようにホッとさせられる。
後の展開を思えば、ここで幸一が幸子の顔を見られたこと、写真を写せたことも大きいです。特に写真は幸子にとって生まれてすぐに亡くなった父を思う唯一のよすがとなったんじゃないでしょうか。

・夜の川での紀子との再会。この時紀子が歌っていたのは、幸子が生まれたときに春子が歌ったのと同じ「歓びの歌」。「Do you kill me?」同様紀子が教えたのか、逆に歌が好きな春子に紀子が教わったのか。
そして家族と巡りあいながら紀子は一瞬顔を曇らせる。夜の川でまるで禊を行っているようだったのも合わせ、彼女が憲兵によって陵辱に近い目に合わされたことを暗示しているように思えます。後に紀子が軍に対して強い怒りを吐露する場面もあるし。

・どうやら美知子たちは紀子の口から初めて勇の死を知らされたらしい。先生たちから春子には話が行かなかったのだろうか?

・紀子の死に衝撃を受けつつも、子供たちを守るために「米兵だって同じ人間」という幸一の言葉を支えに勇気ある降伏の道を選んだ美知子。彼女の夫に対する強い信頼と愛情、母の強さが表れている場面。
そしてその幸一はこの後間もなく、「米兵も人間」という考え方の故に帰らぬ人となる・・・。

・春子の「Do you kill me?」。紀子自身は亡くなったものの、彼女の残した言葉が平山一家を救った。美知子たちが紀子の遺骸を連れてきているだけに、「紀子の死」と「彼女が救った生者」のコントラストが際立っている。

・あくまで米兵を殺すことを拒否して、上官の手で処刑された(ことが暗示される)幸一。一見ふざけてばかりいる軽い男とも見える彼は、笑顔がいかに人の心に潤いを与えるかを知っていて、常に自分だけでなく家族や周囲の人々の幸せを考え続けた人物だった。
「私はこんな事をするために生まれてきたんじゃないんですよ!」と幸一は言うが、彼に限らず人を殺すために生まれてきた人間などいない。それでも多くの人は生きて家族のもとに戻るためにあえて敵兵を殺してきたのでしょうが、幸一は家族を愛すること人一倍でありながら、米兵をも「敵」という記号と見なせなかったためについに銃を撃つことができなかった。
人を人として遇しようとすれば生きてゆけなかった時代の悲しさが思われます。

・捕虜収容所での美枝との再会。足を投げ出した美枝のしどけない姿と虚脱したような表情は、紀子同様に性的暴行に遭ったことを思わせます。美知子が美枝の頭を優しく撫でる仕草も、そのあたりの事情を察したうえで娘を労わっているように感じられる。
ともかくも集団自決寸前で吉岡の言葉を思い死の決心を翻した美枝が、収容所に辿り着くまでに相当な辛酸を舐めたであろうことは想像に難くない。
「何があっても決してあきらめない」と自分を評した吉岡に恥じないように。その一心で自身を支えてきたのでしょう。

・父の死を伏せて「カメラを貸した」と家族に告げた美枝。幼い弟妹は現像された写真を見て無邪気に喜ぶが、美知子は美枝と一緒に涙を流している。
美知子は夫が大切な大切なカメラを決して人に貸したりしないと分かっていたから、幸一のカメラを他人、それも米兵が持っていたことの意味をすぐに悟ったのだろう。

・幸子をはじめ写真に収められた人々の笑顔。物語の最初から最上の笑顔とそれを写真に収めることへのこだわりが描かれてきた幸一が、こんな時代にもかかわらず彼の生き方を貫いたことがわかる。
本来なら周囲の人々に笑顔とそれに付随する幸せを振りまきながら生きて死んでいけたはずの人が、こんな形で死ななくてはならなかった。「笑顔」をキーワードに据えることで戦争の悲惨さを追及した、このドラマの真髄といえる場面。

・追い打ちをかけるように昇の遺書を持って表れる川平くん。脚本(『テレビドラマ代表作選集』(2004年版)に掲載)の段階では川平くんが遺書を渡しての愁嘆場が存在していたのですが、あえてそこを描かず余韻を持たせたまま現代の物語へシフトする形にして正解だったと思います。
いつもかばってくれた昇がいなくなって川平くんはどうやって生き抜いてきたのか、これからどうするのか。心配になるところですが、遺書を手に歩む彼の顔にはこれまでにない力強さがあって、昇の分も懸命に生きようとする意志が伝わってきます。
しかしここで遺書が登場することによって、中盤で退場した昇の存在が最後にまた視聴者に印象づけられる・・・美味しい役だなあ。

・幸子と携帯で写真を撮る孫娘。「写真」と「笑顔」というキーワードをラストでもう一度出して作品の締めとする。
沖縄に来て祖母の話を聞いただけで立ち直ってしまうのはお手軽ではありますが、冒頭とは打ってかわった明るい笑顔がまぶしいです。両手を空に向けてぐーっと伸びをする場面も、これまでありがちな厭世観の中でうずくまっていた彼女の精神が伸びやかさを取り戻したことを象徴していて清清しい。
・・・ところでこの「幸子の孫」、「美枝似の女の子」ならぬ「昇似の男の子」バージョンも見てみたかった(笑)。真っ茶髪の不良タイプ(『BRⅡ』の晴哉風)でも無口な引きこもり系(『クイール』の政晴風)でも可。坊主頭の凛々しい昇との落差がさぞ見応えあっただろうなーと。


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『さとうきび畑の唄』(2)-2 (注・ネタバレしてます) 

2007-01-30 00:28:57 | さとうきび畑の唄
・疎開先に家族を訪ねてゆく昇がわざと俯いて顔を隠すようにしてる、そっと近付いてびっくりさせようとしてるのがお茶目。やはりあの父の息子かな(笑)。

・昇が出した遺書を見たとたんにそれまでの陽気さが一変し、辛そうな表情で固まる幸一。
さらに子供たちから非国民呼ばわりされ、ちょっと悲しげに首を振ってから泣き笑いのような優しい表情で美枝に語りかける。さんまさん上手いなあ。

・父の思い出話に「知りません」とちょっと照れたように微笑む美枝。その恥じらい方が昭和の少女らしくて可愛らしい。

・父の話を聞きながら落涙する昇。勝地くんの泣きの演技を見たのはこれが最初でしたが、正直度肝を抜かれました。
厳しい表情は動かさないまま、次第に両目に涙が盛り上がってきて、臨界点を越えたところで自然にぼろぼろと零れ落ちる。
涙を落とすためにまばたきするとか軽く目を伏せるとか一切なし。ずっと父を凝視したまま。
最後のほうでやっと目をしばたたきますが、これは大きな涙の粒が睫毛に引っ掛かってるのが鬱陶しかったんでしょう。涙の量が多いからできるんでしょうね。
そしてこれだけ涙を流しているのに鼻水が出ない。こんなに「綺麗」な泣きの芝居を見たのは初めてでした
(鼻水出ないのは体質なのかと思ったんですが、2006年4月の舞台『父帰る』(未見)では普通に出てたようなので、たまたまですかね)。
この場面、語りかけるさんまさんの方も涙ながら(こちらは鼻水も流しながら)の大熱演でした。
実はこの時左目のコンタクトレンズが涙で流れてしまったそうですが、ファンの方のブログなどで読むまで全然気づかなかった。
そのつもりで見ると確かにコンタクトが浮き上がってる。上で書いた睫毛に引っ掛かった涙も実はコンタクト?
コメンタリーを聞くとディレクターも気づいてたのに、それでもあえて撮り直さなかったんですね。あんな演技を見せられちゃあ無理もないです
(←2006年11月に勝地くんが『踊る踊る!さんま御殿SP』に出演した際、さんまさんが「勝地が両目からコンタクト落としたせいで長いシーン撮り直しになった」と言ってましたが、これは話を面白くするための誇張なのか、「最初両目ともコンタクト外れて撮り直し、また左目のコンタクトが外れたけどそこまで目立たないしOKにした」のが真相なのか、どっちなんでしょ?)。  

・川平くんをかばって切れた電線を修理しに出てゆく昇。
登場場面に続いて、昇が川平くんをかばうシーンを反復することで、最後の特攻に向かう場面の説得力を強化している。
臆病でいじめられっこ気質の川平くんまで通信兵に志願したのは、昇に誘われたのか、昇と離れるのが心細くて自主的にくっついていったのか。後者のような気がします。

・夫の死の衝撃を胸に子供たちに最後の「授業」を行う紀子。
仲間さんは実際に沖縄出身ということもあってか、気丈で健気な紀子を終始好演されていましたが、この場面は特に入魂の演技。
コメンタリーもこの場面と昇の特攻のくだりでは(演技に見入ってしまって)すっかり言葉少なになっていました。

・上官の言葉尻をとらえてとっさに頓知を働かせ一般人を救った幸一。彼のお笑い体質―頭の回転の速さと周囲を乗せる勢いがこんな形で役に立った。
町会長のにっこりした表情で、彼が幸一を見直したのがわかる。

・美枝と吉岡(オダギリジョーさん)が、今にも子供が生まれそうな美知子を診てやってほしいと軍医に頼むのだが、お産は病気ではないし、高齢出産で栄養・衛生条件も良くないとは言え、既に何人も出産経験のある美知子なら一人でももうちょっと何とかできたんじゃないかなあ。

・自分が母一人子一人であること、私生児であることを告白する吉岡。
詳しい事情は不明ですが、母親をふしだらな女とみなさず大事にしていることと、幼時から生活苦を強いられたろうに帝大に通えるまでになった意志の強さがわかります。
苦労に負けず自分を育ててくれた母を間近で見ているからこそ強い女性に惹かれるのでしょうね。
『風と共に去りぬ』に引っ掛けての二人の婉曲な「告白」は奥床しく、かつちょっと洒落ていて好きな場面です。戦後美枝は『風と共に去りぬ』を一人見たのでしょうか・・・。

・吉岡の戦死。少し後の昇の壮絶な死に様と対照的なあっさりした死は戦場の現実を感じさせる。
幸一が、彼を娘と妻の恩人だと知らぬまま「立派な人やった」と誉めるのが切ない。

・町会長が絶命するシーンは、ヒーローでもなんでもない、ごく当たり前の市井の人の死だけにショッキング。
彼が撃たれたところで幸一と一緒に「嘘やろー!」と叫びたくなった視聴者も多かったのでは。

・海辺の黒焦げ死体の一つのそばにコードの束?があって、思わず昇の死骸かと思ってしまった。そのそばを通りかかった時に幸一が一瞬足を止めるのもそれっぽいし。
何を意図した演出だったのだろう?結局すぐ後のシーンで昇が出てくるので、昇が死んだとミスリードする意味もないし・・・?

・相変わらずふざけてばかりの父に「どうしてこんな時に冗談を言えるんですか」と問う昇。けれど哀しげな響きを帯びた柔らかい口調は、父を不謹慎だと責めているようではない。
むしろ戦争の実体を知っていく中で「神国日本」への無邪気な信仰を突き崩され心の拠り所を失いつつある少年が、悲惨な環境にまるで負けていない父の揺るがなさに自分の及ばぬ何かを感じ、父を支えるものが何なのか答えを見出そうとしているように思えます。

・「人が笑うと、優しくなるんです。幸せな気持ちになるんですよ」。これまで単なる人の好い冗談好きのおじさんに見えた幸一の器の大きさを一言で表した台詞。

・自分から別れを促しながら、父の後姿を見送りつつ数歩前に歩いてしまう昇。
「お前に、負けん気大賞あっげーる」の台詞にようやく見せる柔らかい微笑みが印象的です。

(つづく)


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『さとうきび畑の唄』(2)-1 (注・ネタバレしてます)

2007-01-26 22:48:58 | さとうきび畑の唄
・学校の式典で森山良子さんが弾き語りで『さとうきび畑』を歌う。ただストーリーのバックに主題歌を流すのでなく森山さんご本人に登場してもらうことで、歌の重み・作品とのシンクロ度が増している。
歌のテーマから言って実際にこうした式典に呼ばれて歌うこともありそうなのでシーンとしても自然だし。
式典に親でなく祖母が出席しているのは、両親は仕事が忙しくて子供を放置、という家庭環境なのだろうか。

・幸子(黒木瞳さん)の孫娘(上戸彩さん)登場。部屋に何重にも鍵を掛けているところからすると引きこもりなのか?
それにしては髪や爪などお洒落で身綺麗。何て説得して沖縄まで連れ出したのだろう?

・さとうきび畑を走る勇(坂口憲二さん)と紀子(仲間由紀恵さん)。追いかけっこからプロポーズというベタベタかつ爽やかなシーンのバックに「さとうきび畑の唄」のタイトルが浮かぶ。
物語の最初がごく平和な、幸せいっぱいの場面で始まることが後の展開の哀しさを際立たせる。
この先彼らの結婚関連のイベントごとに戦争の影がひたひたと忍び寄ってきます。

・平山写真館。表情の固いお客さんを笑わせようと家族の話を面白おかしく話して聞かせる幸一(明石家さんまさん)。
平山一家の面々を紹介しつつ、人の笑顔を見るのが大好きで冗談ばかり言っている幸一の人柄もスムーズにわかるようになっています。
お客さん役の女優さん、綺麗な方だなと思ってたら加山雄三さんの娘さんなのですねー。驚き。

・昇(勝地くん)と美枝(上戸さん)登場。瞬間、「うわあ綺麗な男の子!」と思ってしまった(笑)。なまじ髪型でごまかせない分顔立ちの整い方が際立ってるというか。学帽で坊主頭が隠れてるのも相乗効果。
上戸さんも冒頭とはうって代わって明るくしっかり者の優等生の顔になっているのがさすがです。

・昇が友達の川平くん(尾上寛之くん)をかばって上級生と喧嘩をしたエピソード。昇の正義感の強さ、友達のためなら目上の者にも向かってゆく勇気が登場時点から示されています。

・勇と紀子が結婚の許可をもらった直後、昇がカメラで二人の写真を撮る。
手馴れた動作、「兄さん」と声をかけるだけで「写真を撮るよ」といちいち断らないのは、普段から何かイベントがあった時にはこうしてシャッターを切っていることをうかがわせます。
後の「お父さんの写真館を継ぐのが夢」という告白の伏線ですね。

・勇と紀子が大学の先輩後輩という設定。当時沖縄には大学がなかったそうなので、二人とも海を越えて入った大学で知り合った、ということなんですかね。
しかし当時いわゆる共学の大学はあったのか。ごく一部の大学が例外的に女性を受け入れる例はあったらしいですが、普通女性は行くなら女子大でしょう。
無理を押して「大学の先輩後輩」設定にしたのは、勇は役所勤め、紀子は小学校の先生で就職後は接点がなさそうだったからでしょうか・・・。

・「紀子が英語が得意」という設定がここで登場。のちの「Do you kill me?」の伏線。

・ラジオが日米開戦を告げる。「お父さん、どうしましょう」という勇の途方にくれたような声に、幸せから急転直下の大事件に対するショックがよく表れています。

・兄弟喧嘩。「お前は学校で教えられたことを信じているだけだ」という勇の声が苦渋に満ちている。
一方「兄さんはそれでも日本人か!」の台詞に、昇の典型的軍国少年ぶりが表れています。
勝地くんは台詞が明瞭かつよく通る声をしてるので、昭和初期の凛とした少年にはぴったりですね。
その一方で「ぼくは子供じゃない」と抗弁する時の語尾が拗ねた感じで子供っぽいのも上手い。放送分ではここのシーンがカットされたそうで残念。

・幸一の昔語り。新たに家族になることが決まったばかりの紀子を聞き役にすることで家族史を語る必然性を持たせている。
ここで幸一・美知子(黒木瞳さん)夫婦が大阪から駆け落ちしてきた事が明かされる。幸一がなぜ関西弁なのかの理由づけ。ついでに平山一家が誰も沖縄語を使わないことの理由づけにもなっている。
子供たちは沖縄生まれなんだから本来沖縄言葉を話しそうなものですが(美枝は時々イントネーションがそれっぽい)・・・まあ役者さんたちが方言に気を取られて演技に集中できないよりいいか。
しかし神戸のお嬢さんだった美知子がなぜわざわざ大阪へ写真を撮りに来るのか。一度ならず何度も。
「初めて会った時からお父さんのことが大好きだった」と言っていたから、無理を押して通って来てたんでしょうか。

・窓の下を通る歩兵達の軍靴の音に不安な顔を見せる一同の中、一人昇だけが「○○師団だ!」(正確に聞き取れなかった)と声を弾ませているのが印象的。
次のカットで窓の下を見下ろす時も笑顔だし。後には軍国少女な言動を見せる美枝もこの頃は軍靴の音にまず不安を覚えています。

・幸子の語りによるナレーションが「春子姉さん」と言った時、「春子の下には健しかいないはず、まさか性転換!?」などと途轍もなくアホな事を考えてしまった(笑)。
美知子に子供が出来た場面で「ああそういうことか」とホッとしました。

・勇あての赤紙を受け取った幸一の表情が、驚き・不安・悲しみなどさまざまな感情を映している。
陽気に踊る勇のカットが挿入されるのも、幸一の辛さをより伝えてくれる。

・出征する勇を見送る。実は出征兵士の多くはCGだとか、本当は横浜でのロケだとか、美知子と健(我妻泰煕くん)がいないのはスケジュールの都合だったとかの裏話(DVDの副音声で聞けます)がいっぱいのシーン。
勇から「皆を頼む」と言われて「はい」と答える昇。精悍な印象の強い彼が、この時は実に少年らしい無邪気な笑顔を見せています。一方で兄を呼びとめ敬礼で送るシーンはやはり凛々しいのですが。
勇役の坂口さんも本当の軍人さんのように軍服姿が決まっていました。
そして紀子と見つめ合う様子には、言葉なしでも通じ合える、本当の夫婦のような信頼関係を感じました。

・幸一が冗談をいいつつ写真を取り出す時、紀子も含めた皆が幸一の方に笑顔を向けているのに、昇だけは真顔で兄を見つめている。
バリバリの軍国少年である昇にとって、まさに戦場に赴こうとする兄は英雄として映っているのでしょう(先に「それでも日本人か!」と罵倒したぶん余計に)。
自分もいずれ国のために死んで靖国神社に行くつもりなだけに、兄も戦場で散る―これが今生の別れになる―ものとして、その姿を目に焼き付けようとしているようでもあります。

・夕飯の席で乏しいおかずに皆がいっせいに箸を出す場面で、紀子だけ箸を出すのが遅い。
そこに嫁としての遠慮が見えて、疎開先での平山一家最後の夜の場でコメンタリーが指摘していたように、彼女だけ血のつながった家族ではないことがよく表れている。

・「この身は天皇陛下に捧げたものです」が微妙に棒読みっぽいのはやはり現代っ子には理解しにくい感覚だからか、あるいは勇に言われたように「学校で教えられたことを信じているだけ」の、教育に「洗脳」された感じを出したものでしょうか。

・美知子の妊娠。最初自分に子供が出来たと勘違いされた紀子のびっくりした顔が可愛い。
「この前のやつです」「またやりますー!」はさんまさんのアドリブでしょうか(笑)。
美知子が幸一をはたくところに初々しさと夫婦の睦まじさが表れていて微笑ましい。しかしこの時代にオープンな家庭だなあ。

・美枝たちが初めて米軍機に遭遇する場面で、飛び去る飛行機の画像が白黒になり、当時のドキュメンタリー映像(当然白黒)につながって行く流れが自然で良い。

・平山家炎上。「お父さーん!」と叫び続ける春子(大平奈津美ちゃん)の名演技が光る場面。
自分を案じて涙する妻子の横でふざける幸一父さん、冗談きついっす!どんな状況でもつい笑いを取りに行ってしまう人っていますねえ。
ここでちょっと和んだ分、燃え落ちる写真館を振り返る幸一の静かな無念の表情が際立つんですが。
裸一貫、一代で築いてきたものが瓦礫になって・・・こういうのは男のほうがこたえるだろうなあ。 

                                            (つづく)

 


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『さとうきび畑の唄』(1)

2007-01-23 23:06:39 | さとうきび畑の唄
『イージス』で勝地くんにはまって、「次に何を見ようか」と思ったとき真っ先に選んだのがこれでした。
ここでの演技はえらく評価が高かったようだし、『さとうきび~』公式ページのメッセージも勝地くんあてのものがものすごく多い。
クランクアップで泣いている姿(公式ページの「ギャラリー」とDVD特典映像で見られます)にも、入魂のお芝居だった事が感じられました。

――というわけで、大いに期待しつつ視聴して・・・期待以上のものを見せていただきました。
これはすごい。豪華キャストの中では無名に近い勝地くんが評判になるわけです。
間違いなく彼のベストアクトの一つでしょう。

(あえて注文をつけるなら所作ですかね。「兄を送るシーンで敬礼する時指の間が開きすぎ」とか「茶の間で遺書を差し出す動作がちょっと乱暴(まず手元に置いてから机を滑らせるようにすると綺麗)」とか本当細かい部分なんですが。
第二次大戦以前の時代にビジュアル・演技の両面で違和感なくはまる20歳前後の俳優はそう多くないと思うので、ぜひこの辺を極めていただきたい。)

とくに後半などは役と完全にシンクロしていて、怒りも恐怖も家族への思慕も、勝地くん本人の内からこみ上げてきた生の感情としか思えませんでした。

そしてそれだけ真に迫った表情をしているにもかかわらず顔が崩れない。
怯えてても睨んでも泣きじゃくっても砂にまみれても見苦しくならない。
「絵になる」俳優さんだな、と感じたものでした。 

作品自体も、時代・軍事考証面はいろいろとアヤしかったようですし、ちょっとイデオロギー色を感じましたが(沖縄戦がテーマである以上仕方ないかな)、平山家のそれぞれにスポットを当てながら話が散漫にならず、ストーリーの流れもわかりやすい。
伏線の張り方や状況説明も上手いし、ベタだからこそ感動的な王道の展開を要所要所で盛り込んであって、泣かせのドラマとしては実によく出来てたんじゃないかと思います。

次回、心にかかったシーンを具体的に書いてみたいと思います。

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