about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『ハケンの品格』(2)-20(注・ネタバレしてます)

2008-04-12 00:55:49 | ハケンの品格
・ハケン弁当の功績により社長賞を受賞した里中は、スピーチで「本当にこの賞を貰うべき人は新米派遣だった森美雪さんです」と語る。
里中はかつて企画提出のさいに美雪の名前を出すことにこだわって彼女を追いつめてしまった。そのために一度は東海林に企画を取られそうになりながらも東海林の身を挺した行為によって、里中名義ながらも美雪を含めたマーケティング皆の手で企画を実現することができた。
そしてこの晴れの舞台で、彼はついに念願だった「ハケン弁当の功績を美雪に帰す」ことを果たす。それは彼が社長賞を取った―社内で相応の発言力を得た―からできたこと。
上でも書いたように、誰かを、そして自分の志を、守ろうとするなら相応の力を持つ必要がある。春子の教えにようやく里中が応えられた瞬間です。

・美雪に続けて近くん、春子の功績を名指しで公表する里中。あげくに社長賞の受け取りを拒否。聴衆が反応に困る中、まず小笠原が拍手し、黒岩や浅野が拍手する。
里中をフォローしたというだけでなく、春子たちの仕事ぶりをよく知る彼らは本心から里中の言葉に感銘を受けていたのがその表情にうかがえます。浅野など完全に涙目ですし。
そして桐島も一瞬苦い表情をしたものの、「困ったやつだな」と言いたげな顔で苦笑している。おそらくこのスピーチについて桐島が本気で里中を咎めることはないでしょう。
今の里中なら、この発言や賞を拒否したこともかえって美談となりうる。むしろ授賞式の顛末を社外にも宣伝すれば、ハケンの味方S&Fのイメージアップにさえなりますから。ハケン弁当とそのフランチャイズ事業が軌道に乗ったことで、桐島およびS&F首脳陣は、ハケンを大切にすることが商売になるという認識に変わってきているはず。
「ハケン弁当の本当の値打ちは、それはこういう賞ではなく、社員とハケン社員が一つになって、数々の困難を乗り越え、力をあわせられたことです。」などという台詞をハケンに媚びるための計算ではなく心からの言葉として口にできる里中は、根っからの善人であるだけにボロを出す気遣いがない。「優しいだけが取り得」なことこそが彼の強みだと、今の桐島は思ってるんじゃ。

・S&Fの会長が再登場。ここではっきり彼の正体が明かされる。里中は「どこかでお会いしましたっけ?」と大ボケをかまして黒岩さんに頭をはたかれる。
なんか東海林がいなくなってからこの二人の親密度、正確には黒岩さんの密着度が増してる気がしないでもない。

・「君はなぜハケン弁当が成功したと思う」という会長の問いに、里中は即座によどみなく答えを返す。彼が春子や美雪との関わりを通してハケンの扱われ方について様々考察していたのを思わせる。
「社員食堂にいらっしゃればわかります」というやや挑発的に響く物言いも、ハケンの地位の低さに対する彼の静かな憤りを感じさせます。

・そして「ハケンをもっと導入すべきかね」という質問に対しては答えを留保しつつ、春子の発言を引いて「(ハケンとも)人として向き合わなければいい仕事はできない」と述べる。
これは東海林に代表されるこれまでの会社のあり方に対する批判であり、また「あなたたちはハケンを人だと思っているんですか」という言葉を諦めとともに投げかけていた(たびたびわざと社員との勝負に負けて社員の顔を立てたように、ハケンを低く見なす正社員の考え方を否定はしても、彼らの考えを変えるために戦い、そのことによって彼らと人としての関係を築こうとはしない)春子に対する回答でもあります。
社のトップに対しても緊張気味ながら臆せず持論を述べる里中の成長ぶりが眩しいです。

・紹介予定派遣になるための面談で正直になりすぎて失敗してしまった美雪を、どうしても正社員になりたいのならこの道しかない、と一ツ木は励ます。
美雪が正社員になってしまえば彼女は一ツ木の手を離れてしまうわけですが(「ハケンじゃなくてどうしても社員になりたいんですね」と確認したときの彼の笑顔は少し寂しげだった)、それを承知で彼女のために尽力する一ツ木さん、改めていい人だ。

・「正社員とハケンの格差のない理想的な職場」に新たにやってきた近くん。しかし実際の現場はハケンと同格に扱われる事への社員たちの不満が渦巻いていた。
里中が考えるような「ハケンを差別しない」会社のあり方は、それを看板にしようとするとかえってこうした軋轢を生むことにもなる。S&Fのマーケティング課のように、「正社員もハケンも人として対等」と本気で思っている上司の気風を自然に受けた部署が、ハケンにとっては一番働きやすい場なのでは。
この場面、ほとんど無表情に近いのに、居心地の悪さをしっかり感じさせる近くん役上地さんの演技が光っています。

・アンダルシアの春子に美雪が電話をかける場面で、窓の外は雪が降っている。社長賞授賞式は、2007年度上半期の賞とあるのでおそらく10月頃だろうから、このシーンは12月から翌1月頃であろうか。
美雪が現在のS&Fの面々の状況も把握していることから、彼女が今もマーケティング課の人たちと繋がりがあるのがわかる。それは少し後で明かされるように彼女が再びS&Fで働くようになったことの伏線になっています。

・里中(と浅野)が営業部に戻ったのにともない、新たなマーケティング課の主任に黒岩が就任。
といっても新設時のような窓際職ではなく、今や「ハケン弁当」を生み出した課として社内でも最注目の部署の長なのだから結構な出世だろう。営業部でも比較的年長で、部長の期待も大きい(社内コンペの時の肩の入れ方からしても)黒岩が選ばれたのは納得。
しかし春子と美雪に代わるのが香と瞳、浅野の代わりがあの那須田というのは結構な戦力ダウン・・・でもないか。春子が抜けた穴は誰でも埋められないけど、あとの二人は、まあ(笑)。
そして小笠原がパソコンを使えるように。今度の主任が怖いから・・・いやいや、第五回で自信を取り戻しその後研鑚を積んだ結果ですよね。

・新たに営業部で頑張っている里中と浅野。里中の口調や浅野の背中を叩く仕草に、これまでにない自信と職業人としての脂の乗り具合を感じます。

・念願の紹介予定派遣として、なんとS&Fにやってきた美雪。田舎に帰るという名目で契約更新しなかった美雪が今さら何と言って戻ってきたものか。
おそらくは契約最終日に春子と美雪の会話を立ち聞いた里中は、美雪が故郷に帰るのでなく正社員を目指すことにしたのも察していて(美雪がそのあたりの心情を春子に語るくだりはタイミング的に直接には聞いてないはず)、4月2日のハケン弁当発売の時点ですでにマーケティング課の全員が美雪の真意を知っていたのでは。嘘をついたままだったら、美雪もさすがに戻りづらいし皆と連絡を取ることもできなかったと思うので。
半年後には約半数が社員の適性なしとして切られる厳しい環境だそうですが、美雪がともかくも採用されたのは「ハケン弁当」発案の功績が効いてるのでしょうから、その点ではかなり有利なのでは。
S&Fのハケンへの風当たりは「ハケン弁当」の成功によってかなり変わってきてるはずですし、またそうでなければ「ハケンのくせに企画を出した」ことで契約を切られかけた美雪を再び受け入れたりはしないだろう。
ところで本筋には関係ないことですが、4月2日以降、浅野は美雪に電話の一つくらいかけられたんでしょうか。

・美雪からの留守電で、東海林がまだ本社に戻ってない、それも本社内部にいる美雪にも近況がわからない状況だと知った春子は、リュックのポケットから東海林の携帯番号のメモを取り出す。やっぱりまだ持ってたんだ・・・。
そして携帯のフタを開き――でも番号は押さないまま。留守電を聞く場面からここまでの一連の怖いほどに真剣な表情が、春子の東海林に対する思いの深さを伝えてくる。
そして普段は3ヶ月放浪したらまた東京に戻ってきて3ヶ月働くのが常らしい春子が4月からこっち、まだアンダルシアにいる。彼女にとってアンダルシア放浪は、ハケン先の職場で抑制していても湧いてしまった情を消し去るためのクッションになってるように思うので、異例の長旅はそれだけ彼女がS&Fの人たちに強い情を持っていたことの証のように思えます。
まあ後で東海林に再会したとき、新しく取った(らしい)資格の証明書をざかざか見せてたので途中帰国して資格取得の勉強したり、あるいはどこかでまたハケンやったりしてたのかもしれませんが。

・テーマ曲にかぶせて、第一回導入部と同じ内容の美雪のナレーションが流れる。
あの時新米派遣としてS&Fに初めてやってきた美雪が、今度は正社員候補としてS&Fのオフィスを歩く。ハケン時代ほどカジュアルでないきっちりしたスーツ姿で。
マーケティング課の部屋を出て営業部の方へ歩き去る美雪の後姿が窓からの眩しい光の中に浮かびあがるエンディングは、彼女の前途を祝しているようで清清しい。

・名古屋営業所を訪ねてきて、東海林作の求人ポスターに笑みをこぼす里中。ここから真のエンディングが始まる。
しかしあのポスター、春子をあまりにも念頭に置きまくっていて、彼女を知らない人にはまったく意味不明。春子がいてくれたらと思いながら、あえて「こういう方はお断り」という表現にするところが、東海林らしい意地の張り方。
しかし里中、せっかく来たと思ったら春子と東海林のバトルを止めに入るはめになり・・・。結局福岡にさっさと出かけてしまった春子とは口も聞けないままだったし。相変わらずこんな役回りですか。

・チンチロリンに興じる運ちゃんたちに声をかける東海林。そのおそるおそると言った口調と背の曲げ方があの東海林だけに憐れに映る。
「ツチヤさん」といちいち丁寧に名前を呼びかけるのも以前の東海林なら考えられなかったし。

・春子の顔を見て、驚きもそこそこにそれは嬉しそうな顔になる東海林。
「それが何か」「大前、春子です」などの春子特有のそっけない言葉を返されても「シビれるなあ~」とか喜んじゃってるし。重症ですなあ。

・次々に資格証を出した「~の大前春子です!」と名乗る春子。そのいちいちにツッコむ東海林。久々のベタな漫才が楽しい。
しかしヒヨコ鑑定士とか核燃料取扱主任者とか・・・あげくに「私にも意味がわかりません」。きっとこれまでにさんざ視聴者からツッコまれたであろう「一人の人間があんなにたくさん資格取れるわけない」問題に正面から解答を返した(「このドラマはフィクションです」)場面なんだろーなー。「おまえいくつだよ」「百歳です」とか。
理容師の資格はくるくるパーマネタで東海林をからかうために取ったのかと思いきや、取得のためには2年間養成施設に通う必要があるようなので関係ないらしい。
それはともかく、春子の持っている資格はあまりに多岐にわたりすぎていて、規則正しい就業時間を守りやすい事務職を好む春子には全く必要ないだろうというものもたくさん(助産師とか昇降機検査とか)。
にもかかわらず彼女が資格取得に余念がないのは、リストラの恐怖を知っているだけに資格を取りまくらずにいられない強迫観念の持ち主なのか、職場でのあらゆるトラブルに対応できるように一見関係なさそうな資格でも「もしも」に備えて取っておこうということなのか。
彼女が実際にその資格をもって東海林やマーケティング課の面々を救ってきたことを思えば、後者が正解のような気がします。
トラブルを解決することで自分の株を上げようということではなく(わずらわしい人間関係を切ろうとする彼女にとって時給が上がるのはともかく人気が上がることはかえって嬉しくない)、困ってる人の力になりたい思いが一見クールな彼女を内から突き動かしてるのでは。それを素直に出すには傷つきすぎてるだけで。

・「今度はあなたに社長賞を取っていただきます。そのためにこんなところまで来ましたが、何か」。好きだとは一言も言わないけれど、これは最大の愛情表現ですよね。
ただ東海林に会うためではなく同じ職場で働くだけでもなく、自分が東海林を支え彼の人生を手助けしてゆくという宣言。「一緒に働くことは一緒に生きること」と考える二人にふさわしいハッピーエンドだと思います。
そしてこの言葉を口にする春子は控えめだが自信に満ちた微笑を浮かべている。何度も東海林の携帯番号を捨てようとして捨てきれず、けれど電話をかけることも迷いつづけた春子が、ようやく完全に腹をくくったのがこの笑顔に集約されているように感じました。

・上の台詞に続いて「私を雇っていただけますか」とつけ加える春子。
先の笑顔が消え、真顔で話す口調の語尾にわずかに切迫した響きがあるのが、東海林に拒絶される不安をいくぶん抱いているのを感じさせ、何だか春子がとても可愛らしく思えました。

・真顔&美人顔で東海林に顔を近づける春子。えっあの春子が?こんな他人のいるところで?と思いきや、案の定キスではなくて東海林の眉毛を抜くという・・・(笑)。
抜いた眉毛にふっと息を噴きかける仕草と東海林を見上げる笑顔が挑発的かつ凶悪なまでに色っぽい。この春子のかつてないほどの色香を見る限り、これは彼女なりのラブシーン、なんですよね?
脚本の中園ミホさんによるエッセイ集『恋愛大好きですが、何か?』によると、この眉毛抜きは何と里中役小泉さんのアイディアだそうです。

・しばし呆然としたのち「ちょっと待てえー!」と絶叫し春子の後を追う東海林。配送員?たちを「見てんじゃねえー!」と怒鳴るあたりにも、名古屋に来てから縮こまっていた東海林が、春子登場をきっかけに本社時代のペースを取り戻してゆくだろうことが予言されています。
最初は夫婦漫才とか運ちゃんたちにからかわれるでしょうが、彼らもそのうち春子の一睨みで黙るようになるに違いない。

・「今回はマネージャーの一ツ木さんを通していないので、私の勤務態度に不満があっても、我慢しなさい!」 
傲慢な物言いはさすが春子ですが、ここで重要なのは、名古屋営業所での仕事が一ツ木=ハケンライフを通してないということ。東海林による求人ポスターでもわかるように、今回彼女は直接アルバイトないしパートとしてS&Fに勤務することとなる。
つまりこれまで「ハケンとして生きるため」自身にさまざまなルールを課してきた春子が、ハケンとしての生き方を捨てたということ。
自分を気遣う里中の人柄を称揚し、時には彼のためにハケンとしてのルールをいささか逸脱することはあっても、完全に捨て去ることはついにしなかった彼女が、東海林のためにはルールを変えた。強気な発言の中に「彼のために生きる」決意が詰まっています。
「3ヶ月」と日限を切っているのは相変わらずですが、しかし3ヶ月で社長賞を取らせるつもりなんですかね。

・トラックに乗り込んだ春子を人目もはばからず怒鳴りつづける東海林を里中が止めに入る。東海林は一瞬「来てくれたんだ~」と感激の表情を見せるがすぐに「そんな場合じゃねえんだよ!」と春子への罵倒を再開する。
東海林を元気にするのは里中の優しさより春子とのバトルの方なのでしょうね。春子もそう思えばこそ喧嘩腰の態度に出たような・・・いつでも喧嘩腰か(笑)。

・「福岡まで行きますが、何か?」「お時給の分はしっかり働かせていただきます」の口ぐせ、オーバーアクションな安全確認と、最終回しかもラストシーンだけに春子大全開。
「ひいちゃいますよ~!」のどこかのどかなトーンと発進時の何とも言えない表情も笑いを誘います。里中完全無視だし。篠原さん最強のコメディエンヌですね。

・トラックを運転する春子の充実感を感じさせる笑顔。「行っちゃったっつーか、帰ってきちゃったっつーか」との東海林の言葉通り、東海林と罵りあいつつともに働く日々に「帰って」きたことに充足感を感じてるのでしょうね。
感傷的にならず、あくまでコメディタッチの中で、二人の強固な絆を描いた最上のラストシーンです。

 


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『ハケンの品格』(2)-19(注・ネタバレしてます)

2008-04-10 02:03:25 | ハケンの品格
・春子と美雪の契約最終日。「今日は何だかみんな静かだねえ」と言う小笠原の言葉に何とも悲しげに美雪を見つめる浅野。辛そうに俯く美雪。一人契約更新した近くんは居心地悪そう。しかし美雪は浅野の気持ちに気づいているのかなあ。

・里中は皆に、今日は定時で切り上げて二人の送別会をしようと言うが、意外にも春子ではなく美雪が出席拒否。
店を予約(カラオケが歌える店、というのは実はカラオケ好きなはずの春子のためのチョイスですね)する前にあらかじめ皆の予定を聞いておきたまえ。前に春子に歓迎会?断られたときの教訓が生かされてないなあ。
そして美雪が送別会に出なかったのは、皆と別れるのがいよいよ辛くてたまらなくなるからですね。

・6時少し前に皆にお世話になった挨拶を述べる美雪と、ぎりぎりまで無表情に仕事を続ける春子。このコントラストがなんとも彼女たちらしい。
しかし春子に続いて皆とゆっくり別れを惜しむこともなくオフィスを出て、こわぱった顔でエントランスをさかさか歩く美雪は、周囲の情を拒絶するかに見える春子の本当の気持ちを誰よりも理解してることでしょう。

・会社を一歩出るなり、泣きじゃくる美雪に「業務時間が終わるまで、よく頑張ったわね」と声をかける春子。
少し前にオフィスを出た春子がここにいるのは、美雪をねぎらうために待っていてくれたのでしょう。美雪に話しかける表情も穏やかです。

・大好きなみんなとずっと一緒に働きたいからこそ、いずれ来る別れに怯え続けることに耐えられない。別れたくないからこそ今別れる。二度とこんな別れを経験しなくて済むように。「だから私、ハケン、辞めます」。
美雪の告白はここまでですが、続くべき言葉は「正社員になります」ですね。それは後の彼女の行動で明らかです。皆と別れるのが辛くて号泣したのは昔の春子も経験したこと。眉子ママが美雪は昔の春子に似ているといったように、二人とも情の深さは共通している。
けれど美雪が好きな人たちと別れなくてもいいように正社員を希望したのに対し(ラストで里中と浅野が営業部に戻ったり東海林が名古屋に飛ばされたりしてるように、正社員だって部署や土地をしばしば移動するし、むしろアルバイト・パートの方が一つの部署で長く働いてるケースが多いように思いますが)、春子は来るべき別れの辛さを軽減するために自分の心を閉ざすことを選んだ。
美雪の方がはるかに人生に前向きであり、少し後で里中が指摘するように、春子が一番自分から逃げているのですよね。

・カンタンテに春子を訪ねてきた里中は、エントランス前での春子と美雪の会話を聞いてしまったこと、「働くことは、生きることです」という春子の台詞は東海林の口癖でもあることを告げる。
それは第四回で東海林から告白されたさいに春子も聞いた言葉。「それが何か?」と聞き返す口調には少し前の「何か?」にはない動揺が感じられました。

・春子と東海林は似ている、自分は二人とも尊敬している、と言う里中。そして「まだわからないんですか。あなたは東海林さんのことが好きなんですよ」。
彼は春子が「働くことは、生きることです」と言うのを立ち聞いたときに、ショックを受けたような顔をしていた。この時彼は春子と東海林が本質的に同じ人間だと痛感し、「鎧を着た落武者」みたいな春子の心を開けるのは東海林だけだと確信したのでしょう。
里中の春子に対する感情にどの程度恋愛の要素が交じっていたかはわかりませんが(基本的には職業人としての気構えと能力に対する敬愛の念だろう)、いつになく春子に対して強気な言い切り口調に出た里中の態度は、仕事では世話になってばかりの「弟子」が、師匠に精一杯の恩返しをしようとしてるように思えました。

・でも春子はかたくなにS&Fの人たちとの思い出を切り捨てようとする。リュートが契約終了直後の春子はいつもあんなだと言い、眉子は今度ばかりは違う、と言う。
契約終了後春子が昨日までの時間をきっぱり捨てようとするのは、3ヶ月だけでも精一杯壁を作っていてもやっぱりその時々の仕事仲間への情が湧いてしまうからだろうし、3か月働いた後放浪の旅に出てしまうのも、前の職場への情を断ち切るための儀式のように思えます。
かつてない素晴らしい上司・里中に出会い、自分と対等にやり合い果てはプロポーズまでしてきた東海林に出会ったS&Fではその情もひとしおで当然ですね。

・カレンダーなどいらなくなったものをゴミ袋に放り込む春子は、くずかごの底から東海林の携帯を記したメモを取り出す。
あれから二ヶ月くらいたつのに一度もくずかごのゴミを捨ててなかったとは思えないので、何度も捨てようとしては捨てきれずに来たのでしょう。そんな春子の情が切ない場面。しばし逡巡してからゴミ袋に放り込んでしまう分余計に。

・2日の早朝に旅に出た春子は、家を出たところでしばし自分の部屋を振り返る。
その感慨深げな表情は3ヶ月後には戻ってくるはずのこの家をではなく、ここで過ごした3か月、「クリック、ピッ」で消したはずのS&Fでの日々を振り返っているのでしょう。

・新潟の大雪のため弁当箱が届かないという緊急事態。
開店当日の朝弁当箱が届くってスケジュールがぎりぎりすぎないか。まあこういう綱渡り進行って結構ありがちですけど。

・届かない弁当箱に代わり、やむなく今日だけは使い捨ての容器に入れて売る決意をする里中。米・プラスティックに力を注いできた彼が本当は一番無念でしょうね。

・近くんが「天は我々を見放したか」と呟く。
最初はハケンらしくマーケティング課のメンバーにも少し距離を置いていた彼が、ハケン弁当の企画が持ち上がったあたりからすっかり共同体意識を深めている。ハケンの企画を本人の名前で提出しようとした里中や、それを当然のように支持した浅野・小笠原たちの姿を見て、彼らと一緒に働きたいと思うようになったんでしょうね。
そしてこの発言の直後に「天」から春子が救いの手を差し伸べに降りてくる・・・。

・春子が何らかの形で助けてくれるのは誰もが想像した通りでしょうが、まさかスカイダイビングでやってくるとは。
よくこれだけ派手な絵を撮ったもの。「助けるか助けないか」でなく「助け方」で意表をつく、久々のびっくり資格オチ。
高速通行止めになるほどの大雪なのに空輸が可能なのかとか、いきなりヘリコプターが調達できるものなのかとか、新潟工場の人たちが里中に確認も取らず今やS&Fに籍を置いてさえいない春子に大事な商品をよく渡したもんだとか、ツッコミどころの多さとインパクトの強さは第一回のクレーンを思い出させる。
大雪じゃなくて事故による通行止めならもっと自然だったろうにあえて雪設定にしたあたり、むしろツッコみを期待しての笑いどころなのかも。

・春子がマイ弁当箱を運んできたと知った近くんと浅野が声をそろえて、「オーマイゴッド!」。
「マイ」弁当箱+「大前」と「オーマイ」をかけてるわけですね。つまり「大前は神」?まさに天の助けですね。
ところでこの時の近・浅野コンビの顔芸になんとなく『The World of GOLDEN EGGS』のリサとレベッカを思い出してしまった。あの二人よくこんな顔してません?
「寂しがりやが降りてきた」ってのもすごい台詞だこと。

・マイ弁当箱が無事着地、というか地面に激突。うわ大丈夫か?と心配になったがしっかり無傷。結構頑丈ですね。
そして「スカイダイビングは私の趣味ですが、何か?」 本当に意地っ張りですね。
新潟が大雪というニュースを見るなり予定変更して新潟から強硬手段で弁当箱を運んでくる――記憶を消去どころの話じゃありませんね。

・ハケン弁当販売は大盛況。その光景を川の向こう?から見守る春子は今までで最高の充実した笑顔を見せている。
本来人との関わりの中でこそ幸せを感じられる人なんですよね。浅野が言うとおりの「寂しがりや」。彼女の選んだ生き方は本当は春子を不幸にしてしまってるんじゃないだろうか。

・大人気のハケン弁当は早くもフランチャイズの店舗も全国展開することに。それもハケン社員に直営店で勉強させたうえで、資金を無担保貸し付けし独立させる仕組み。
これまで安い給料、創造性のない仕事、35歳定年説などのマイナス面を背負ってきたハケンの人たちが、能力とやる気次第で自ら店を出せるように支援をする。
ハケン社員に焦点をしぼったことで従来のベンチャー支援と差別化をはかり、それも扱う商品が自分たちハケン(主として若い女性)をターゲットとしている日常的な(そしてお洒落な)お弁当という垣根の低さで、従来のハケン的な仕事に物足りなさを感じていたハケンたちがどんどん応募しそうです。実際説明会に参加してたの若い女性ばかりでしたし。
ハケン弁当そのものよりも、そこから派生したこの新種のベンチャービジネスの方が、ハケンと正社員の関係を捉えなおすうえで、より画期的だったのでは。
そしてこの企画は春子や東海林がいない今、里中が独力で(もちろん浅野たちの協力はあるでしょうが)なしとげたもの。成長しましたね。

・里中の目覚しい活躍ぶりに、桐島は「優しいだけが取り得のあの男がねえ」と呟くように言う。
優しいだけではビジネスマンとして使い物にならない。だからこそ桐島も里中を飛ばそうとしたわけで、里中の優しさが立て続けに実を結んでいるこの状況は桐島には意外なものだろう。
そして眉子の「里中さんに会社命の人間になってほしいんですか?」との問いに「そうならざるをえないでしょうね」と謎めいた答えを返す。
里中は現在その優しさゆえに成功し、会社に大きな利益を与えている。ハケンを差別し利益第一の会社のあり方に異を唱えるところから始まった里中の快進撃が、結局会社を潤し、懸命に働くほどにその志は企業倫理にからめとられてゆく、そういうことを言いたいのだろうか。
ただ逆から見れば、現在の「ハケンの味方」S&Fの世間的イメージは里中に負うものであり、いつのまにか会社の方がS&Fの顔となった里中の方法論に引きずられているとも言えるのでは。

(つづく)


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『ハケンの品格』(2)-18(注・ネタバレしてます)

2008-04-06 03:36:02 | ハケンの品格
〈最終回〉

・「98社目で、そんなことを言ってくれる上司に私は、初めて出会いました。甘々なところを除けば、里中主任は素晴らしい上司です」。
これまで東海林に対しては里中を「人間的に素晴らしい」と誉めても、里中本人にはきつい叱咤の言葉をかける事がもっぱらだった春子がこんな台詞を。それもつい数日前には通勤時間中に話しかけるのさえ拒否しようとしたのに。
しかし直後には「でも私は3か月で去ります」ときっぱり里中の思いをはねつける。それが「私のルール」だから。
初めて正面から里中を称えたのも、そのうえではっきりと拒絶したのも、誠心誠意自分に向き合い自分を必要と言ってくれた里中にきちんと応えようとした結果なのでしょう。

・改めて桐島に契約更新を持ちかけられた春子は、例によって社員を貶めるようなきつい物言いで更新を拒否する。
機械的な箇条書き口調もわざと社員の反感を買おうとするかのような態度も、自分はここは留まらないという決意の固さを伝えるためでしょう。
そして「あと3週間、お時給の分はしっかり働かせていただきます」という締めは、第一回で東海林たちの面談を受けたときの台詞と対になっていて、春子がS&Fを去る時が、そして最終回が来たんだなあと感慨深い。

・ハケン弁当の売り出しが4月2日になると聞いた浅野が「4月じゃ森ちゃんと大前さんがいない、かも」と言う隣で近くんが「僕は?」と言うように自分の顔を指差してる(笑)。
近くんは愛嬌のある親しみやすいビジュアルと物腰の柔らかさ、カジュアルな服装(この場面、明るい黄緑色のセーターと手に持ってるピンクのファイルのコントラストがちょっと女性的で可愛らしい)などがあいまって、時々ドライだったり毒を吐いたりしても冷たい印象にならず、何かほんわかしてますね。

・名古屋の営業所(運輸部門)で就任の挨拶をする東海林。なめられたくない気持ちはわかるが、本社から来たことを前面に出した挨拶は反感を持ってくれといわんばかり。
早速トラックの運ちゃんが笑顔で喧嘩を売りにやってきてます。東海林体格からしてもう押され気味。

・東海林提案による春子引き止め作戦。「あいつの体はサバ味噌で出来ている」に笑った。ワインじゃないのね。
「ようじ屋」と提携してサバ味噌フリーパス券を春子にプレゼントするというアイディアも(そのくだらなさが)さすが東海林というか。「大前サバ子」とか(笑)。里中は何と言ってようじ屋を説得したんだろ?

・春子にサバ味噌フリーパス券をもらった小笠原が喜びのあまり「電線音頭」を踊りそうに。「長い目で見て下さい」に続く小松さんの持ちネタがここでも。
小笠原もそんなにサバ味噌好きだったのか。

・皆ががやがやと食事をする中、一人寂しくパンをかじる東海林。やっぱり焼きそばパンなんだ(笑)。

・東海林のその後を心配する黒岩は、里中に東海林からメールが来て「元気そうだった」と聞いて「そう?よかった」と返事をする。
その言い方が心底ほっとした響きで、彼女の純情に胸打たれます。なのに東海林の方は黒岩を「春子引き止め要員」扱いだもんなあ。

・「あの笑わない大前さんが、黒岩さんには笑顔を見せました」「とっくりが笑った・・・」。
里中も東海林も春子が笑ったというだけで大事件になってしまう。春子のキャラのせいもありますが、彼らの春子に対する関心の深さがうかがえます。

・「最初が肝心だ。あんなネクタイ君になめられんなよ」。 
トラックの運ちゃんが投げ掛ける言葉は、東海林が春子について用いた言葉とそっくり一緒。自分がしてきた事をやりかえされてるわけで、因果応報というか。
春子の暴言には敢然と言い返していた東海林が、彼らにはまるで頭が上がらない状態。価値観の違う集団の中に一人なのだから無理もないですが、それだけに一人きりで回りの社員たちに物申し続けた春子の強さと孤独感をつくづく思い知ったんじゃないでしょうか。

・里中の尽力で美雪の契約が更新されることに。社内外の注目を集める新商品「ハケン弁当」を提案した功労者であると同時に、それゆえに一度は契約を打ち切られかけた美雪を残すにはいろいろと障害も多かったと思いますが、前回美雪を守れなかった里中は、今度こそ自力で美雪を守ることができた。
それはマーケティング課主導による「ハケン弁当」の企画がすでに半ば成功を約束されたことで、自身の地位さえ危うかった里中の発言権が増したのが大きかったはず。
他人を守ろうとするならば力、実績を持つ必要がある。「ハケン弁当」がらみの一連の騒ぎを通してそれを痛感した里中は、優しさだけでなく自分の理想を貫くための強さも次第に身に付けていけるんじゃないか。

・小笠原が美雪に奥さん特製の毛糸のひざ掛けをプレゼント。小笠原一家の仲の良さがほの見えます。
「森ちゃん」と名前が編みこんであるのはさすがに恥ずかしい気もするが、本人もみんなもにこにこしてる。まあ外を着て歩くわけじゃないからいいか。
このプレゼントとそれに対する回りの反応にはマーケティング課の家庭的な暖かさが集約されてるように思える。ゆえにこのプレゼントが、美雪がせっかくの更新を辞退する契機の一つとなってしまう。
一ツ木に契約更新辞退の電話をかける時美雪がこのひざ掛けをぎゅっと抱えていたのにそれが象徴されています。

・「森ちゃんは、もう、マーケティング課の一員だから」と笑いかける浅野に「浅野さん・・・」と感激の目を向ける美雪。
おお、また美雪への好感度アップだ。と思ったら、「じゃあ、今日もみんなで大前体操やりましょうか」と話をそらして自分の席に戻ってしまう浅野くん。こらこらそこで照れるんじゃない。
このへんの純情っぷりが彼がモテ損なう原因なんでしょうが、同時に可愛いところでもあるわけで。何でチョコくらいもらえないかな。

・浅野をはじめいっせいに大前体操を始める面々に触発されて、「じゃあ今日は僕も」と里中は席を立つが、直後春子は「9時です!」と体操を止めてしまう。
里中最初のワンアクションのみで体操終了。可哀想というか里中らしいというか。

・里中が何度でも洗って使える「マイ弁当箱」のアイディアを思いついたことで、ハケン弁当はついに価格500円の目標を達成する。
お客さんが自分で洗浄した容器を再度使用することになるので食中毒が懸念されるところですが(素人が家庭で洗っただけではきちんと汚れが落ちずにそこから菌が繁殖する可能性がある)、弁当を詰める前にアルコールか熱湯かで消毒を行うんでしょうね。
一般にプラスチックの使い捨て容器でもアルコール消毒はしてるはずだし、お客さん持参のマグカップでコーヒーを出すサービスをしてるスターパックスコーヒーの例もありますしね。
しかし弁当の使い捨て容器って売価100円分に相当するほどコストかかるかな。

・マイ弁当箱のプランに盛り上がる皆の声を聞きながら春子はそっと微笑む。
「ハケン弁当」を500円にしろとの春子の宿題を、里中が自分自身の発案によって見事クリアし、さらに彼本来のテーマであった「米・プラスティック」も合わせて実現にこぎつける一挙両得の結果を出した。
職業人としての里中の成長を「師匠」として嬉しく思っているのがわかります。

・春子がマグロ解体の達人・ツネさんを通してサバの仲買人と交渉する段取りをつける。
しかし春子は里中に市場に行くよう言うだけで自らは出向こうとしない。自分は道筋をつけるだけ、肝心の仕事は里中が自分の手でなしとげるべき、という春子の考え方が表れている。
まあストーリーの都合上ツネさんに春子の過去を語らせるのに春子本人がいたら邪魔だからというのが一番の理由でしょうが。

・里中たちを出迎えたツネさんは、「春ちゃんの仕事仲間」だからと至極親切にしてくれる。マグロ解体ショーの時は、春子の派遣先の人間と知っても特に好意的になるようでもなかったのに。とくに東海林に対しては彼の態度に途中で腹を立ててたし。
春子はツネさんに交渉の橋渡し役を頼むにあたって、里中たちのことをどんな風に紹介したのだろう。「仲間」という言葉は使わなかったとしても、彼女の話し方にそういう空気があったからこそ、ツネさんはこうも協力的だったんでは。

・ツネさんの口から語られる春子の過去。第五回でかすかに匂わされたように春子はすでに両親を亡くしていた。そして再度のリストラ。
銀行時代も皆から頼られ(つまり回りをフォローできるほどに有能)、ここでも職場に馴染んでいい仕事をしていたにもかかわらず、何故クビを切られてしまうのか不思議。

・魚市場をリストラされる時、「みんなと離れたくない」と春子は泣いたという。仕事そのものより、ともに働く仲間への執着の方が当時の春子の中では強かった。
今でも、幅広く山ほどの資格を身に付けおよそどんな作業でもこなせる春子には一定の職種・業界へのこだわりは感じられない。
むしろ彼女がこだわらずにいられないのは仕事仲間との関係のほう。そこそこに当りさわりなく付き合えばよいものを、喧嘩腰の物言いや態度で懸命に回りの人間を遠ざけようとしているのは、親しくなった相手と別れる辛さを軽減するため、情を移さないためなのですね。
ここで美雪が魚市場をリストラされた時の春子の嘆き様を知ったことが、ひざ掛けのプレゼントともども、直後の更新辞退のきっかけとなります。

・美雪が契約更新を辞退すると知ったマーケティング課の面々。
春子以外の全員が単なる「驚き」でなく「ショックを受けた」顔をしているのに、彼らの美雪への愛着が見て取れる。浅野は半泣きだし、小笠原は急須のお茶をだばだばこぼしてるし。
余談ですが、第二回で美雪がお使い拒否した後に浅野が課の全員にお茶を配るシーンがありましたが、今度は最年長の小笠原がみんなのお茶を入れている。里中がみんなのコートをハンガーに移す場面もそうですが、年の長幼も正社員かハケンかも関係なく雑用を分担してるところにマーケティング課の良さが端的に表れているように感じます。

・春子は女性たち(ハケン?)を指揮して厨房で働き、美雪はポスターをデザインする。料理の得意な(調理師免許のある)春子も絵が得意な美雪も適材適所。
ついでに手先の器用な(第六回参照)浅野は厨房手伝わせた方がいいんじゃ?

・時々挿入される名古屋営業所の東海林は、里中にメールを打ってるシーンばかり。それだけが日々の楽しみになっている東海林の孤独がうかがえる。しかし他にするべき仕事ないのかなあ。

・東海林からの電話を春子が受ける。「社員は全員いません」「だったら森美雪に代わってくれ」。
東海林が初めて美雪の名前を呼んだのに驚いた。春子の声帯模写?にはもっと驚いた。
「代わってくれ」と言われて即座に「美雪のフリ」に対応できるあたり、この展開にもってくためわざと「社員は全員いません」と美雪はいるかのごとく匂わせたのか?

・「はい、森です」 いきなりウグイス嬢ボイスで喋りだす春子に爆笑。電話の向こうの東海林の怪訝そうな顔もナイス。いや美雪そんな声じゃないよ(笑)。
しかし東海林に怪しまれた後(「そ、そ、そそうですかあ~?」の慌てっぷりも可笑しい)の喋り方や声の感じは本当に美雪っぽくなっててびっくり。
しかしそうまでしてじかに東海林と話したいのか。「春子先輩に代わりましょうか~?」と二回言ってるし。

・里中のパソコンのパスワードが「コイヌ」(笑)。絶対これ東海林が設定したでしょ。

・「・・・代わってほしいってとっくりが言ってるの?」という東海林の問いかけにいきなり不機嫌顔になり、「ぜんぜーん!じゃ!」と一方的に電話を切ってしまう春子。
東海林が自分から代わってほしいって言わなかったから拗ねちゃった?美雪風ボイスのせいもあって、春子の反応がやたらと可愛らしく思えてしまう。
しかし第三回で美雪あてに来たメールに「余計なお世話じゃ、こら」と返したときといい、春子の都合でイメージを悪化させられてる美雪が気の毒。

・春子は当然のごとく「読まないで削除してくれ」と頼まれたメールを読む。
名古屋営業所での孤独感を書き連ねた文面の中には「この俺がハケンの気持ちわかっちゃうなんてまずいよな。」という一文がある。
春子が東海林のプロポーズを断った理由づけは「ハケンの敵とは結婚したくありません」だった。東海林がハケンの気持ちがわかると言い出した今、春子が東海林を拒む理由は消滅したことになる。
メールを読み終えた春子は「情けな・・・」と呟くが、物思いにふけるような表情の中で口元にわずかな微笑みを浮かべている。
「情けない男だから、自分がついててやらないと」という感情が彼女の中に生まれつつあるのでは。彼女がそれを認め実行するにはまだしばらく時間が必要でしたが。

(つづく)


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『ハケンの品格』(2)-17(注・ネタバレしてます)

2008-04-02 02:16:25 | ハケンの品格
・東海林のプロポーズの相手が春子と知った浅野の喜びよう(笑)。東海林が消息不明だと言うのに顔がにやけてます。
あの春子と東海林が、という衝撃の事実もどうでもよさそうですしね。

・「あの人はハエ以下です。辞職でも失踪でも勝手にすればいいんです。」と東海林が自分の個人情報を捨てたことを怒る春子。
これは裏に書いた春子が悪いと思うけどなあ。気づかなかった東海林を責めるのは酷というもの。
しかし「私には関わりございません」から東海林に電話しないのではなく、自分の携帯番号を捨てた―せいいっぱいの春子の気持ちを無視した―ことに怒ってるから電話しないというのは・・・つまり彼を好きだから拗ねてる、ということでしょうか。

・春子が床掃除するかたわらでドミノ遊び?をする眉子とリュート。
春子が置いたモップでドミノが倒れたとき、一人春子に擬せられたコマだけが残っているのが、一人孤高に立つ春子自身を思わせる。ここの場面、演出も小道具も洒落ていて上手い。
しかし浅野に対する「慌てんポーイ」って表現はなんなのよ(笑)。

・里中と東海林のマンションを訪ねた黒岩が、「帰ってくるまでここで待ち伏せする?」と言う。
せっかくの休日をつぶして、それも2月の寒空に、いつ帰るとも知れない東海林を外で待とうとするとは。黒岩の東海林への思いの深さをさりげなく示している台詞です。

・ハケン弁当が形になるまで、美雪のためにも春子に会社に残ってほしいと言う一ツ木のお願いを、春子は「森美雪はおまけですか。だったらそのおまけを一人前にするのがあなたの仕事じゃないんですか」とにべもなく拒絶する。
その鋭い口調は3か月しか一箇所に留まらない彼女のルールに抵触する頼みを持ち込んだことより、美雪をおまけ扱いにする発言に対する怒りによるように思えます。

・一箇所に3ヶ月しか留まらないのは「こんな風に通勤時間まで馴れ馴れしくされたくないからです」と春子は里中を突き放す。
最近では退社後に里中たちが店に来ても邪険にするでもなく応対していたのに、ここでまた彼女の態度が硬化したのは、一ツ木を介して契約更新を頼まれたことで、自分のルールを守るためにはこれ以上彼らと近しくなってはいけない、と自らを戒めたからでしょうか。

・里中が留守電を聞くと東海林からのメッセージが。わざわざ自分が春子にプロポーズしてフラれたことを告白するのは、やはり春子を好きな里中が自分に遠慮することなく春子にアプローチできるようにとの心遣いですね。
(結婚アンケート用紙を拾われて一切がとっくにバレているなどとは想像もしていない)
会社を辞め、恋に破れ、新たな仕事も見つからず、という状況で里中を思いやれる東海林は、やはり根は相当なお人よし。
「やばい時はとっくり使え。あいつは結婚と車の修理以外はなんでもできるからな。」 
絵も苦手ですよ――というのは置いといて、切ないエピソードと笑えるエピソードを同時に思い出させる表現が、なおのこと切なさを倍増させる効果をもたらしているのが秀逸。

・「こないだのバレンタインの時みたいに、これを」とお弁当型のかぶりものを取り出す里中。バレンタインのハート型かぶりものよりキワモノ度が増してます。
「調子に乗らないでください」と春子に一蹴されますが、確かにこりゃいやだ。
自分からハートのかぶりものを「つい」かぶったりしてた里中は、結構かぶりもの好きなんでは。

・里中が渡したPRの原稿を一瞥してつき返す春子。相変わらず書類を検分するときの目付きが怖すぎる(笑)。
「もちろん、書き直していただいて結構ですから」と気弱な笑顔で付け加える里中。かぶりものを拒否された時の「失礼しました。すみません」と言い・・・腰低すぎです主任。
さらに、東海林と春子がやりあわないとなんか寂しいという浅野発言を受けて、「とっくり!」とポーズ付きで呼びかけてみるものの、春子にきっと睨まれて、「すみません・・・」と前二回以上に気弱く謝ってしまう。
やはり春子と同じ目線でやりあえるのは東海林だけなのがここで示されている。春子も内心口喧嘩の相手がいなくなったのを寂しく思ってるに違いない。

・里中が仮店舗の様子を検分するそばで、「サバの味噌煮」の表示札?を取り上げて「サバ味噌だ」と嬉しそうに呟く春子。そこまで好きか。

・那須田が飼い犬を「くるくる」と呼ぶと、里中・浅野・近の三人全員が東海林がいるのかと勘違いする。まだ入社してもいない那須田が東海林の仇名を知ってるはずないんですけどね。

・ちょうど春子一人になった部屋に東海林からのFAXが届く。内容は一切見せずに似顔絵と署名で、差出人が東海林であることだけを視聴者に知らせる演出。
内容不明のFAXを真剣な顔で読む春子が何を思っているのか。FAXの中身についてはこの直後に春子の行動によって明かされます。

・明らかに嫌がってたはずの弁当のかぶりものを自ら装着し、自分が用意したものとは全然ちがう文面を読み上げる春子を、里中は訝しげに、記憶をさぐるような眼差しで見つめる。妙に聞き覚えのある文章が東海林の手になるものだとおよそ察している顔ですね。
春子の方も「ドンマイ弁当」→「チェンマイ弁当」で(駄洒落のくだらなさに)次第に顔が引きつっていくのが笑えます。FAX最初に見た時点で文面はわかってただろうに。

・「ドンマイ弁当とチェンマイ弁当、くだらないのでカットしていいですか」という春子に、里中は「いえ、東海林さんの気持ちがこもってますから、そのまま読んでください」と返す。春子もそれに反論せず、再び原稿を読み始める。
あの里中が春子に逆らった!あの春子が大人しく里中に従った!ある意味画期的な場面ですが、春子自身も東海林の気持ちを大事にしたい思いもあったのでしょう。
・・・でもドンマイ弁当とチェンマイ弁当にこめた気持ちって何だ。

・既出の春子の旧友(石田ひかりさん)が春子の姿を見つけて足を止める。うわあ、知り合いに思いっきり見られたくないシチュエーションだ・・・。

・昔の春子はとても明るくてカラオケが大好きでみんなの輪の中心にいて、という話に里中はさすがに驚き気味だが、「みんな春子のことを頼りにしていました」という言葉に「今もそうですよ」と微笑む。
別人のように変わったかに見えても春子の本質はきっと昔と変わっていない。里中の言葉に春子の友達も「そうですか」と嬉しそうに微笑む。
十年以上音信不通ではあっても、彼女の中に春子への変わらぬ好意が息づいているのは、それだけ春子に魅力があった証拠ですね。

・以前犬の訓練所で教育を請け負った縁で、春子はたちどころにくるくるを発見する。
春子がくるくるを誉め、体を撫でてやるところに里中がやってくるが、彼は遠巻きに春子を見つめるだけで声をかけない。
今聞いたばかりの話に出てきたような、日頃見たことのない春子の明るく優しい笑顔を声をかけることで壊したくなかったのでしょうね。

・里中は桐島に試食会の大成功を報告し、「あとは単価の650円をどうやって500円に近づけるかです。」と言い添える。桐島の答えは「あんまり理想を追わんように。現実的な折り合いをつけろ」。 
もともと桐島は里中の企画案は理想論と退けたわけで、今も価格は650円でも十分安いと思ってるんでしょう。里中も素直に「はい」と返事してるものの、「マイ弁当箱」のアイデアと組み合わせることで結局500円の理想を実現させた。
この日の試食会では650円でも好評だったとはいえ、一日だけなら650円出す気になっても、毎日のこととなるとお弁当に650円出し続けてくれるかは疑問。「ハケン弁当」の大成功は価格500円にこだわったからこそ。
理想を現実に近づける(妥協する)のでなく現実を理想に近づける(現状で可能なかぎりの工夫をこらす)ことで、里中は「勝ち組」になった。
結果を出した以上桐島も文句があるはずもなく――春子が言った通り、現実的じゃないと言われたなら、それを現実にして証明すればいいのですよね。

・ハケンの香と瞳が部長の指示で東海林の持ち物を処分しようとするのを止める里中。
里中が東海林の辞表を止めておくよう頼んだにもかかわらず、部長はとっくに東海林のことは捨ててかかっている(プレゼンと縁談の双方で顔を潰された憤りもあるんでしょう)。
「頼むから取っておいてください」というかすれ気味の声に、里中の必死さがうかがえます。
この里中とハケン女子二人のやりとりを春子が聞いていた――緊急に連れ戻さないと東海林はすぐにもクビを切られると知った――ことが、くるくるを使っての東海林捜しに繋がっていきます。

・「那須田は何やってんだよ~」と言いながらくるくるを撫でる浅野くん。後輩の不始末に責任を感じて犬の世話係を自然と買って出てるってとこでしょうか。
仕事はどうした、と言いたいが、他のメンバーも働いてる感じしないし、春子さえお茶を飲んでるので休憩時間内なんでしょうね(ハケン弁当売り切れ後くるくるを捜した時間は休憩にカウントしなかったものか)。
東海林を捜して戻ってきたあと春子は昼食に出かけてますが、東海林捜しで休憩時間を潰し、その分遅れて二回目の休憩を取ったにしては、美雪も一緒にお昼に出て行くし・・・時間経過がもひとつ謎。

・「このバカ犬お借りします。」と春子はくるくるを連れ出す。
春子の言うことはきっちり聞いて、見事東海林を捜し出したくるくるは決してバカ犬ではないと思うのだが。S&Fの社内でも大人しくしてたし。
那須田がくるくるに振り回されるのは彼が飼い主として舐められてるからなんでは。まあ一ツ木さんもまかれてましたけどね。

・くるくるを使って東海林を発見した春子は「こういう汚らしい荷物を置きっぱなしにされたら回りが迷惑です!」とビニールに入れた東海林の靴を投げてよこす。
エレベーターで助けられたときの「ばっちい」と言い、「ハエ」呼ばわりと言い、春子はやたら東海林を汚いもの扱いにしてるような。東海林も素直に「すみません」と謝っちゃうし。

・「そのヘッドがハンティングされるわけないでしょう。」「あなたの天パが一生治らないように、あなたはあの会社でしか、生きていけません」「(俺は)この俺の天パを愛してるんだ」 
相変わらずの天パをネタにした言い合いの中、天パと会社を強引に結びつけた話運びで東海林に帰還を促す春子の力技が栄える名シーン。
「なんなんですかこの原稿は。未練たらたらの上くだらなすぎます。」も天パネタ同様、本筋に関係ないところで相手をけなしたり反発したりしてるのが可笑しさを生んでいます。

・「おまえドンマイ弁当とチェンマイ弁当、カットしたろ」 
見事に春子の行動を見切っている。そもそもカットされると予期してたなら、なぜわざわざその文章を入れた?春子個人への受けを狙ったのか?春子にツッコまれるための行動としか思えんな。

・「ここで待ってなさい!」と言い捨てて去ってゆく春子を見送りながら、「犬じゃねえんだぞ」と呟く東海林はそれでもどこか嬉しそう。
一方くるくるを連れて歩き去る春子も口元にわずかに微笑みをのぼせている。無事に東海林に会えたことへの安堵、嬉しさが意地っ張りの殻の外に少しのぞいています。

・マーケティング課に入ってくるなり、くるくるがいなくなったことで美雪に文句を言う那須田。しかも一つ年上、まだ入社してないけど一応先輩格の美雪を「美雪ちゃん」呼ばわり。
くるくるを預けてどんなのっぴきならない用事に行ってたかと思えば「買い物っすよ~」とあっさり言い切る。それも荷物からすれば夕飯の材料などではなく自分の洋服のよう。
端から端まで非常識な那須田くんを、いらつくバカキャラ全開に演じていた斉藤祥太くん、名演技です。

・かえすがえすも非常識な那須田をついに浅野が怒鳴る。普段優柔不断で日和見的な印象のある浅野だけに、その意外性が迫力を生んでいる。
勝地くんの怒鳴る場面は『さとうきび畑の唄』(2003年)、『この胸いっぱいの愛を』(2005年)、『里見八犬伝』(2006年)、『カリギュラ』(2007年)などなど印象に残るものが多い。
しかも一つとしてトーンが同じじゃないし。キャラクターの性格が声の出し方にも反映されているからですね。

・「すみませんでした!」と浅野は那須田に頭を下げさせ自分も一緒に詫びる。
大学の先輩だからと言って、浅野の引きで那須田が入社したわけではないし新人教育係になったわけでもないので、別に浅野が那須田の無礼を一緒に謝る必要はないんですが、このへんが彼の人の良さなんでしょうね。
きっと大学時代も結構世話好きのいい先輩だったんじゃ。「もう仕事の邪魔だから、帰れ」と突き放しつつも那須田の背中を押しやる手付きはどこか優しかったですし。
勝地くんと祥太くんがプライベートでも仲良し(ちなみに実際は祥太くんが一つ年上)なのも演技に反映しているのかも。

・小笠原が「浅野くんも来月には新入社員ではなくなるんだね」としみじみ呟く。
那須田を「超非常識」と怒鳴る(言葉遣いがなってない)あたり浅野もまだまだ未熟ですが、第一回の時点ではもっと傍若無人な感じがあったので、美雪、里中に続いて彼の成長もちょこっと描かれたかな、という感じです。
結局これが浅野くん最大の見せ場でしたねえ・・・。

・あと三週間でハケン弁当ともマーケティング課のみんなともお別れだと寂しさをかみしめる美雪に、春子はハケンも社員も職業区分によって幸不幸が決まるわけではない、「人生の運試しはこれからです」と語る。
「世の中は不公平かね」で語りだすのは、先にカンタンテで美雪が口にした問いへの答えと言うことですね。
「何だその下らない質問」なんて言ってたくせに、ちゃんと答えてエールを送ってくれる。いい先輩ですね。

・東海林が待つ公園に里中がかけつける。冬とはいえ回りはもう真っ暗。一体何時間待たせたんだ?春子がまだ就業中のようなので、6時よりは早いんだろうが。
里中の性格ならすぐにも駆けつけそうなものなのに。時間帯からして、就業時間内は仕事を優先したってことでもなさそうだし。
・・・たぶん当時舞台と掛け持ちしてた大泉さんのスケジュールの都合だったのかなーと推測してるんですが。

・里中から春子が用紙の裏に携帯番号を書いていたと聞いてショックを受ける東海林。
里中は続けて知ったばかりの春子の過去についても話す。東海林に春子関連の情報を隠さず開示するのは、フェアな里中らしい。
春子が銀行をリストラされたと知った東海林は「それで根性ねじまがっちゃったわけだ」などというが、その根性ねじまがった女にプロポーズしたのはどこの誰だ(笑)。

・春子のことを「鎧着た落武者みたいだよな」と東海林は表現する。
物凄い例えの出し方に、とっくりセーター=鎧、体操や安全確認で振り乱す髪の毛=落武者なイメージなのかと思ったら「一人ぼっちでさ」と続ける。
他人に心を開こうとしないのを「鎧を着てる」と表現するのはわかるが、超高度なスキルで高い給料を稼ぎ出し堂々と生きる春子を「落武者」=傷つき疲れた敗残の姿のごとくに捉えている。
「本当は不器用で寂しがりやなんだと思う」という里中の春子評を「そりゃあ美化しすぎだよ」などと否定したくせに、結局東海林も春子の寂しさを見抜いているのですよね。

・「俺は木っ端微塵にフラれたけど、賢ちゃんまだ何もやってないぞ。そんな寂しい女、このまんま辞めさせちゃっていいのかよ」 
前回仕事(ハケン弁当)に関して春子に「まだ何もやってないでしょ」と言われた里中が今度は恋愛について「まだ何もやってない」とライバルである東海林にハッパをかけられる。
しかし木っ端微塵にフラれたというけれど、携帯番号書いてくれたんだからまだ十分希望あるんでは。結婚しない理由だって「ハケンの敵とは」結婚したくないという条件つきなのだし。
ここで里中が春子とくっつくかに思わせておいて最終回でひっくり返してみせる。最後まで視聴者をやきもきさせるストーリーテリングはお見事。

・バス停前のベンチに座る春子を見つけた里中が彼女に話しかける。
最初近づこうとしてちょっと躊躇うように立ち止まったり、いきなりカラオケに誘う(それも「一緒に行きましょう」でなく「行ってもらえませんか」という腰の低すぎる表現)ところから話をはじめたりするのに、ちゃんと肝心の気持ちを伝えられるのか?とハラハラさせられる。
しかしその後は春子が心を開かない理由を指摘し、彼女のことを何もわからないまま別れたくないと語り・・・。ラスト「僕たちと一緒に働いて下さい」と言ったのに「『僕たち』じゃなくて『僕』って言わなきゃ!」とツッコミそうになったところで「僕にはあなたが必要なんです」と、とどめの一言で締める。
里中らしい逡巡を何度も出しながら「告白」に持っていく脚本の妙に感心しました。

・里中の「あなたが心を開かないのはもうこれ以上傷つきたくないからじゃないんですか」という言葉に、春子はちゃんと里中に顔を向けて「それが何か」と穏やかに答える。
これは里中の発言の肯定ですね。最後の里中の台詞にも彼女は無言ながらわずかに目を潤ませている。里中の心情に触れて春子の心が開きかけているのでしょうか。

(つづく)

 


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『ハケンの品格』(2)-16(注・ネタバレしてます)

2008-03-29 02:35:25 | ハケンの品格
〈第九回〉

・東海林が捨てたアンケート用紙が風で転がり小笠原の足元に。うわー出来すぎ(笑)。これも二人を結ぶ赤い糸、ですかね。

・小笠原がアンケートの文面を読み上げたのに対し、さほど東海林に含むところのない浅野は普通に驚き、含むところのある近くんは面白がり、東海林に気がある?黒岩は「ふーん、そうなんだー」と強がり口調、とそれぞれの反応が彼らの東海林への感情を反映している。
とくに黒岩さんは「なになに、どういうこと?」と東海林の名前を聞きつけるなり隣の部署から出張ってきてますしね。

・東海林の相手が誰なのか「本人(東海林)に聞いてみようか」と言い出す小笠原。いやプロポーズ断られたばかりの人にそれは酷でしょう(笑)。「誰にフラレたの?」って聞くのか?
フッた相手の携帯にかけてみようとしたり、このときの彼らの行動は相当非常識。ムキになる理由のある黒岩に引きずられたとはいってもねえ。
事情を察している里中と美雪の慌て方、一見冷静を装っている春子の顔がだんだんに引きつってくる(ここの表情の変化は見事)のが緊迫感をあおって面白い。

・ついに思いあまった美雪がアンケート用紙を奪いシュレッダーにかけるという荒業に。
用紙を奪ったときの手を真上にあげたポーズ、シュレッダーにかける時、かけた後など一連のシーンの手の表情、顔つきがコミカルかつ可愛くて、人の手から物をひったくるという行動にもかかわらず乱暴な印象を与えない。
ほんわか天然系の美雪のキャラクターが上手く生かされた場面。春子の口ぐせをまねた「だ、だったら、何か?」もなんか上擦り具合が可愛らしいし。

・「まさか東海林主任の相手、森ちゃん?」という小笠原の言葉にひときわ大きな声で「まさかあー!」と言う浅野。
声のボリュームに彼の感情が表れてます。直後の「ちがうよね?」と言う笑いを含みつつも弱弱しい声も・・・。
ハケンの敵とは結婚したくない、という文面から相手の女性がハケンなのはほぼ確実だしその中で東海林と接点のある人間て限られますからねえ。
近くんの「み、認めた!認めましたよ!」も驚きすぎで笑える。

・東海林と美雪が出来てたらしい、と聞いて仕事放り出してかけつけてくる販売二課の人たち。本当にこの会社は(笑)。
きっとハケンが企画を出した件で皆が美雪を吊るし上げる空気だったときに東海林が一人美雪をかばい気味だったことなど思い起こして、「さては出来てたからか」とか脳内補完してそうです。

・「大変です!東海林主任の代わりに僕がプレゼンやることになりました!」 
本当ならマーケティング課も販売二課も大騒ぎするはずの事態なのに、みんな東海林のプロポーズ問題に夢中で完全スルー。うわあ里中可哀想。
春子だけが「主任、急いでください」とプレゼン資料を手渡す。電話を取り次いだ時点で事情を察してはいたんでしょうが、それにしてもこの資料準備の手回しの良さ。やはり東海林がプレゼンを辞退することを最初から予測していたようです。
東海林の行動(自分がこうたきつけたらどう動くか)なら読めてしまうのか。それは春子の眼力なのか東海林の人間性への信頼なのか。

・「ねえ、こっちなわけ?こっちじゃなくて、こっち?」 
春子と美雪を交互に指差しながらの黒岩の声の裏返りっぷりが可笑しい。
しかし春子じゃないのが意外、という黒岩の態度は、東海林の春子に対する好意をおよそ察していたということでしょうか。東海林のことずっと見てたからですね。

・「でもー、断ったんだよね?」 浅野の口調がもう切なくて。棒立ちになってるし。
浅野くんはキャラの性格上全体に声が高めですが、ここの場面はとくに少年のような声音で、いかにも頼りなさげ。
「まあ浅野ちゃん落ち着いて。コーヒーでも飲もう」と肩を抱くように浅野を連れ出す小笠原と浅野の背をぽんと叩く近くん。浅野が美雪好きだってバレバレなんですね。小笠原をちょっと振りむいて頷く浅野くん涙目です。
しかし春子に「働きなさい!」と怒鳴られたそばから揃って職場放棄ですか。

・「春子先輩、あたし、お役に立てました?」 恩に着せるところのない、春子の役に立てたなら本望という表現に美雪の性格の良さが表れています。
なのに春子は「業務時間内は携帯電話の電源を切ってるので全然大丈夫ですが、それが何か」と。
第七回で「勤務時間内は携帯電話の電源は切りなさい」と美雪を叱ってましたもんね。

・「ダメハケンも二ヶ月で育ったわね」と微笑む春子。
美雪がアンケートをシュレッダーにかけた時にも見せた強気な感じの笑顔は、自分の窮地を救おうとしてくれたことへの感謝だけでなく、春子を守るため自分が盾になった美雪の勇気を称えたものでしょう。
一方、第七回で春子に「人を守るには体を張るか命を張るか、自分のクビをかけるか」と言われた里中は皆が電話をかけるのを止めようとしたものの、結局止めきれず後ろでおろおろしていただけ。春子の「弟子」二人、今は美雪が一歩リードでしょうか。
美雪が自分の行為を「個人情報守らなきゃと、もう、必死になっちゃって」と表現したのも、第一回で一ツ木を介して春子の携帯の番号を手に入れ、個人情報だと怒られたのと対になっていて、美雪の成長ぶりを際立たせています。

・里中はプレゼンに際し「食べた人の喜ぶ顔が見たい」という志をまず語り、ハケン千人へのアンケート結果も提示して、結局無事企画を通すことに成功する。
先に東海林や桐島に退けられた理想論そのままの、現時点では価格1000円になってしまう弁当の企画が通ったのは、春子の作った資料が秀逸だったせいもあるのでしょうが、会長同様に他の重役たちも価格設定ほかに難はあれど消費者のニーズに応えた新しい発想の商品に期待をそそられたのでは。
里中を「あいつは会社をわかっとらん」と言った桐島や東海林の方が実はすでに時代遅れになりつつあるのかもしれません。

・里中からハケン弁当の企画が通ったこと、マーケティング課の手で実現できることを聞いたとき、浅野は開口一番「すごいよ森ちゃん」と実に嬉しそうに言う。
企画を通してきた里中主任でなく真っ先に企画発案者の美雪を称揚するあたりのわかりやすさが浅野の可愛いところです。
しかし彼は、現時点では自分よりずっといい仕事している美雪に対する嫉妬心とか全然ないですね。その素直さ、彼女をハケンだからと低く見る感情がないのは彼の良さですが、「自分も負けないぞ」と発奮する部分もない。
浅野くんが意外にモテないのはこの覇気のなさにも理由があるのかも?(でも里中はモテまくりだ)

・近くんの愛妻弁当自慢に対して、「のろけは、いいです」と呆れ気味にツッこむ浅野。
彼は目下、美雪が(断ったとはいえ)東海林にプロポーズされた件で落ち込んでる最中ですからね。そりゃツッこみたくもなります。

・「でも毎日同じおかずじゃ飽きますよね」「そんなことありません(中略)サバ味噌だけは外せません!」。いや飽きると思いますよ(笑)。
ここは浅野の方が正論。春子もサバ味噌のこととなるとまるで冷静さを欠いてるなあ。

・浅野の大学の後輩・那須田(斉藤祥太くん)がいきなり登場。
「ウイッスー!」の挨拶といい、「ハケンてなんすか?」といい・・・。いくらなんでも頭悪すぎだろう。いかにコネ入社とはいえ。春子以上に極端なキャラクター。
真面目なハケン美雪との対比のため「ダメすぎる正社員」を出したのはわかりますが。

・美雪を一目見て「超可愛い~♪」とデレデレの那須田。女の子の好みは浅野先輩と一緒ですね。
「僕、四月から正社員なんで、僕が入ったら歓迎会して下さい!」 こらこら、「よろしくお願いします」でしょ。

・東海林の辞表提出について話す里中と黒岩は、通りすがりの浅野に話を聞かれてしまう。
そのまま立ち聞きするでもなく聞かなかったことにするでもなく、「主任、本当ですか」と尋ねてくるストレートさが浅野らしい。この時の里中を見つめる真っ直ぐな視線が・・・。
里中としては大事にしないためなるべく皆には知らせまいとしてたようですが、この目で見られちゃあ気弱で真っ正直な里中にごまかせるはずもないですね。

・今年は景気が上向いた関係で皆順調に就職が決まっているのに比べ、卒業が一年早かったために就職氷河期に当たってしまった自分を、「あたしってどこまでついてないんだろうなあって。先輩、世の中ってどうしてこんなに、不公平なんですかね」と美雪は慨嘆する。
しかしハケンになったおかげで彼女は職業人としてのキャリアの初期で春子に出会い、仕事をするうえでの気構えを教えられた。里中をはじめとするマーケティング課の人たちの情に触れ、おなじ目的意識を持つ仲間と共に働くことの面白さを学んだ。
長い目で見れば就職できずに一度ハケンになったことは、美雪の人生にとってかけがえのない経験になったんじゃないか。
そして春子の返しは「なんだそのくだらない質問」。久しぶりの口ぐせもどこか暖かいです。仕事の時間外に文句も言わず美雪のグチを聞いてますしね。

(つづく)


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『ハケンの品格』(2)-15(注・ネタバレしてます)

2008-03-25 01:45:17 | ハケンの品格
・ハケン弁当のイメージイラストを春子と美雪が競作?するが、美雪の上手な絵に比べ春子のは・・・。慌てて自分の絵を隠そうとしたり、下手な絵を見られた動揺のあまり乱心(大事なアンケートを裁断しようと)したり。
冒頭の車修理の件も含め、今回はいつものびっくり資格の逆を行く「春子に出来ないこと」を強調して描いて、彼女の人間味を打ち出している。若干キャラ崩壊してる気もしますが(笑)。

・ハケン千人へのアンケート用紙と分析結果を持ってきた里中と東海林の会話。
「これは理想だよ。この価格じゃありえない。営業部としては弁当チェーンと提携してメニューや仕入れは任せることになってるから」「それじゃ普通のお弁当と変わらないよ」「でもこれは現実的じゃない」。 
桐島は当然東海林の言い分を支持するのだが、里中の言う通り「普通のお弁当と変わらない」ものを売り出すことにどれほどの意味があるのか。それでは結局大したヒットは見込めまい。
「ハケン弁当」に対する上層部の期待に応え、商品を成功させようとするなら、既存の弁当との差別化をはかる必要がある。
里中とマーケティング課の打ち出した「価格500円」「業者に丸投げしないオリジナル商品」という設定がその差別化に有効であることは、千人に対するリサーチで半ば立証されている。ならば何とかその条件をクリアするか、少なくとも近づける努力をすることがヒット商品を生み出すには必須であろう。
里中の場合は「食べた人が幸せになる食品を作りたい」という理想実現にモチベーションがあるとはいえ、本心から消費者目線に立てる彼の人間性は、多少のしたたかさを身に付けていければ商品開発・展開にあたって会社にも大いに利益をもたらしうるんじゃないか。
それに比べて東海林や桐島の現実的というより安全すぎるやり方はあまりにお粗末なような。だいたいユーザー(見込み)へのリサーチの結果を全く生かせないようじゃマーケティング課を新設した意味もない。
桐島も東海林も当初の里中もマーケティング課を窓際職と見なしてるようだが、あの会長は本気で「これからはマーケティング(リサーチ)が重要」との思いを持ってるんじゃないだろうか。
ハケンの企画と知りつつ「ハケン弁当」を後押しした行動や、最終回の里中との問答に見られる柔軟性からすれば。

・本筋にまるで関係ないのですが、加藤あいさん出演の「CHINTAI」のCM。
不動産屋さんの「お客さん、そんな予算じゃ無理でっせ」がハケン弁当のことを言ってるように聞こえてしまったのは私だけじゃないはずだ(笑)。

・「僕は何をやってたんでしょう。一生懸命頑張ってくれたマーケティング課の人たちに申し訳ないし、何よりも千人のハケンさんたちに申し訳ないです」。 
里中はプレゼンをやるのが誰であっても企画が実現するのが第一、と言ったけれど、企画を他人に渡した結果、本来彼や美雪が望んだものとは全く別物に改悪されてしまった。
本当に企画を実現させようと思うなら、そのためにこそ里中がプレゼンを行うべきだった(ベストは立案者の美雪自身だろうが里中なら美雪の代弁者足りうるし、すでに美雪個人でなくマーケティング課全体が参画してる企画なので主任の里中が代表でOK)。
自分の欲の無さ・人の良さが結局全てを台無しにしてしまうことをを思い知らされた里中は、今後いい意味で欲と人の悪さを持つようになれば、優秀な営業マンに育つんじゃないでしょうか。

・「まだ何もやってないでしょ。現実的じゃないと言われてそれであきらめるんですか。そんなものは現実にすればいいだけのことです」。 
エポックメイキングな新商品・新企画は「現実的じゃない」と言う批判を押しやって誕生するもの。必要なのは批判に耐える勇気と努力と自信。春子もそうやって常識外れのスキルを身につけてきた。その彼女が言うだけに説得力がある。
この3つのうち現在の里中に欠けているのは勇気と自信。
前回「僕はあきらめてません。ハケン弁当の企画」と言い切った里中がここでただ「申し訳ない」と繰り返すだけなのも、今回のっけから「企画に美雪の名を残すことにこだわる→誰がプレゼンしてもいい」と退行してるのも、理想そのものは揺らがなくとも、他人を押しのけてもそれを貫くだけの勇気と自信が彼にないゆえですね。
思えば美雪も、時間外にツネさん説得に奮闘した第3回に比べ第4回は随分退行していた。成長過程は進んでは後戻りし、の連続なのでしょうね。

・「里中は飛ばす。あいつは営業部の戦力にならん」とは桐島部長も見る目のない。
東海林は親友のピンチに複雑な面持ちですが、結局彼の方が飛ばされることになるのだから、皮肉なものです。

・部長命令とは言え、自分が里中の(東海林的には、美雪のではなく里中の)企画を奪って出世の階段を上り、当の里中はどこぞへ飛ばされるという事態に悩み苦しむ東海林は「ごめんな、賢ちゃん」と言うのだが、里中は「アンケートのこと?いいんだよ」とずれた答えを。
自分の立場が危ういのを知らず能天気とも取れる返事をする姿は、第5回で里中から契約更新できない旨を知らされる直前の小笠原を思い出させる。
何とか小笠原を助けたいと言いつつ何ら有効な手を打てない里中に、春子が「何もできないならそこに座ってなさい。定年までずーっと」と言っていたのも里中と小笠原を同類と見なしてるようだった。
もし里中が勇気を出して自分の理想を貫くことなく、「現実的じゃないと言われてそれであきらめ」続け、精神を鈍化させていったなら、いずれは(あの頃の)小笠原さんのようになっていたのかも。

・「入社した時からそうだったもんな。賢ちゃん、自分の手柄全部俺に譲ってくれて」。
この東海林発言からすると若くして販売二課主任になった彼の出世ぶりは、少なからず里中に負っていることになる。実は元からかなり優秀なのか里中。
人が良いゆえに相手の立場にたった考えが出来る彼は、顧客のニーズに合った企画を思いつくには向いているのだろう。
しかし本人も言うとおり、その企画を形にするには「押しの強さ」が欠けている。里中の「手柄」が形を結んだのは押しの強い東海林がアイデアの具体化に長けていたおかげなのでしょう。

・いきなり上のような台詞を言い出す東海林の様子に里中は「どうしたの東海林さん。何かあったの?」と問い掛ける。
企画を奪ったことへの忸怩たる思いを述べる東海林を責める代わりにこの台詞。こんな時まで相手の心配なんかして――と思ってたら東海林も「なんで俺の心配なんかしてんだよ」。まったくです。
「何いらついてんの?困ったことあったら俺に言ってよ」に至っては、里中を知らない人間が聞いたら嫌味としか思えませんし。

・「俺たちずっと部長の下でやってきた。あの人に切られたら、行く場所なんてないんだぞ!」 
これまでハケンを見下す言動を取り続けてきた東海林が、彼女たちより優れているはずの自分たち正社員が、その実一つの会社がダメでも別の会社でやり直せるハケンよりはるかにツブシが効かないことを暗に認めている。
春子が言うように「会社にしがみついて」いる、そうせざるを得ない窮屈さ・焦燥感を持っていればこそ、「自由」なハケンたちの姿に苛立たざるを得なかった面もあるのかもしれません。

・「もっと上手く立ち回れよ!」「こんなお人よしのバカとは付き合いきれねえよ!」 
東海林の立場としては人の良い里中をこの先も体よく利用し続ければこのまま出世していけたはず。
なのに「上手く立ち回れ」ずに辞表を提出して失踪するに至る東海林も根は結構な「お人よしのバカ」なのですよね。

・「おまえが何でハケンの味方するのかやっとわかったよ。おまえ、あいつらと同じ負け犬だ!」との東海林発言に里中は悲しげに顔をあげて「東海林さん・・・」と呟くように言う。
てっきり「俺のことそんなふうに思ってたの?」とか続くかと思えば、「東海林さんは大前さんにピンチ助けられたじゃない。あの人のこと負け犬なんて言う資格ないよ。」
自分のためでなくハケンの、春子のために反論する。もはやお人よしを越えて聖人の域です。結構な大人物かもしれない。
ここで里中が当然のように春子の名前を出したことで、二人の論争の焦点が春子へと移行してゆくことになります。

・東海林に「俺な、ハケン弁当なんてどうでもいいんだよ。」と言われたとき初めて里中の表情が悲しみから怒りに変化する。自分(たち)の企画-夢を踏みにじる発言に里中は激発する。
それだけこの企画を大切にしていたことの表れなわけで――ここで「この企画は俺たちのものだ。東海林さんには渡さない!」とか言えたなら、営業マンとして一つ大きく成長できたんじゃないかと思うので、そこは惜しかったなあ。

・「やっと怒ったな」の一言で、東海林がわざと里中をたきつけるため暴言を吐いていたのがすんなりとわかる。
何らの見返りなしに一方的に手柄を譲られてれば自分を恃む部分の大きい人間ほど相手に苛立つものでしょうが、「何でもかんでも譲ってんじゃねえよ!」「おまえのそういうところが一番むかつくんだよ!」といった東海林の罵倒にはそれだけではない、芯から人の良すぎる里中を心配する気持ちが溢れていました。
春子が唯一彼を誉めたように「友達思い」なのですよね。

・「賢ちゃん、とっくりのこと好きなのか?」 東海林の問いに興奮も覚めやらぬままに「だったら何?」と答える里中。
挑発的な目付きと口調、掠れた声とそのくせ少年じみた言葉つきが妙にセクシーに感じられる。「何手加減してんだよ、らしくないね」も同様に。
日頃見るからにおっとりした彼だけに、そのコントラストが独特の色っぽさを生んでいます。

・里中は「あの人のこと好きだよ」と春子への好意を認めるが、これは女として好きというより、後で春子自身に語ったように「尊敬している」意味合いが強いように思えます。
彼の春子に向ける眼差しには東海林のような切なさがあまり感じられないので。人間として職業人としての憧れの対象なのでは。
そういえば里中ってモテるにもかかわらず、女っ気ないというかセクシュアルな要素を不思議なほど感じさせない人ですね(そのぶん上記のようなシーンが意外なだけにインパクト強くなる)。だからこそ逆に女の子が警戒心なく近付いてくるのかも。

・東海林と里中の殴りあいの場面に、漁船で海を行く春子の姿が挿入される。
遮るもののない広々とした海を一人舳先に立って毅然と見つめる春子の姿に、彼女自身の孤高にして自由な生き方が重なる。
一方の男たちは(彼らがしがみつかざるを得ない)狭いオフィスの一室で彼女をめぐって争っている。
この対比的演出は、結局春子は彼らが捉えきれる相手じゃない、と示唆してるようにも思えてきます。
しかしこの二場面がほぼ同時間帯の出来事だとすると、東海林と里中は夜明け近くまで会社で喧嘩してたのか。

・壮絶な殴り合いの末二人そろって床に倒れるという二昔前の少年マンガ的な光景。東海林が里中を「賢ちゃん強えなあ」と讃えるのもそれっぽい。
優男で気弱な里中が存外喧嘩が強いというのは、喧嘩に限らず里中が本来の強さを隠している―その優しさゆえに才能を発揮できずにいるのを匂わせてるんでしょうね。

・床に寝転んだまま「8年通ってこんな景色初めて見たよ」と東海林が呟く。そのしみじみした口調は後から思うと、この時すでに会社を離れる覚悟が出来ていたのかなと思います。
この一連の喧嘩シーンは二人とりわけ東海林の表情の変化が実に秀逸で、大泉さん小泉さんの演技に見惚れたものです。

・夜明け前に美雪をいきなり呼び出して弁当の試作品作りを手伝わせる春子。
春子一人でもこなせるところでしょうが(その方が早いかもしれない)わざわざ美雪に手伝わせたのは、元々美雪が発案した企画なのだから一番肝心な部分に彼女が携われるように、との心配りですね。
試作品を完成させた時美雪は「おいしそ~」という感激の声をあげますが、自分の手で作ったものだからこそ喜びもひとしおだったんでしょう。隣で満足そうな笑顔で頷く春子を見て、春子は美雪にこの気持ちを味わわせたかったんだな、と感じました。
きっと今後も美雪の中にこの時の感激は残り続け、仕事に対する情熱を支えてくれるはず。

・各食品のグラム数からカロリーを即座に計算する春子。暗算の早さもさることながら、食品成分表の中身が完全に頭に入ってるというすごい記憶力。
最初は栄養士免許持ってるのかと思ったら次の回で食品衛生管理者の資格と調理師免許を持っていることが判明しました。

・アンケート結果ではさばの塩焼きがランクインしていたのに、サバ味噌に変更する春子。
栄養学的な理屈をつけてますが「サバ味噌だけは、はずせません」。これが本音ですね。思い切り公私混同(笑)。

・東海林による「結婚に関するアンケート」。今回のハケン千人へのアンケートと上手くからめた演出の妙。
ハケン千人へのアンケート結果を現実的じゃないと切り捨てた東海林が、ハケンの春子に「ハケンの敵とは結婚したくありません」とアンケート用紙上で切り捨てられるのも因果応報的で皮肉がきいている。

・顔中傷だらけなのを美雪に見とがめられた里中が、「ちょっと、乱闘しちゃって」と説明。
「階段から落ちちゃって」とか誤魔化すのが定石なのに、この真っ正直さが実に里中らしいですねえ。

・「一個あたり千円です。これを五百円にするのがあなたの仕事です。」 
春子の作った試作品は「売価五百円で利益が出る弁当」ではなく、ハケンの人たちが求めている内容(価格度外視)の弁当だった。
「現実的じゃないと言われてそれであきらめるんですか。そんなものは現実にすればいいだけのことです」の言葉どおり、彼女はあえて現実的じゃない=里中の理想に見合った試作品を用意した。
この理想を現実にするための具体的方策を一切アドバイスしなかったのは(春子なら具体的アイディアの一つ二つは持ってるだろう)、里中が自分の才覚で何をするか、できるかを春子が試しているように思えます。
美雪の契約更新について「救いの手を差し伸べてもしその手にすがったら、それであの子はおしまい」と語るように、里中に関しても道筋だけを示してあとは見守るのみ。指導者、先輩としての理想的なあり方かもしれません。

・この日は東海林のプレゼン当日であり、そこで「弁当チェーンと提携してメニューや仕入れは任せることになってる」、売価も五百円よりもっと高い「ハケン弁当」の開発が決まることがほぼ確実視されている。
本当ならプレゼンの資格を奪われた里中が今さらハケン弁当のために出来ることはないはず。しかし春子の手紙を読んだ里中の表情には春子の「試し」に応えようとする静かな決意が見える。
もし東海林が土壇場でプレゼンを里中に譲らなければ、里中は「マーケティング課によるハケン弁当」を別に作って東海林と対決していただろうか。
そして東海林にも弁当を届け、「コレが最高のハケン弁当です。作れるものなら作ってみなさい」の手紙を添えた春子は、この弁当を見たら東海林が(これだけの弁当を作りうる)マーケティング課に企画を返上すると読んでいたのだろうか。
河岸がやってなかったからと自ら海にサバを釣りに行ってまで、プレゼンに間に合わせたくらいですから。
しかしこれ時間外勤務もいいとこですよね。自分が勝手にやったことだから勤務じゃない、と春子は主張しそうですが。

・ハケン弁当は自分の企画ではないからとプレゼンを拒否した東海林。
「何を言ってる。撤回しろ」と言う桐島に、これまでの阿諛追従を捨てて初めて正面から向かい合った彼の目には悲壮感と、にもかかわらず揺るがない決意があった。
「あの人に切られたら、行く場所なんてないんだぞ!」と言っていた東海林が部長に逆らい、出世どころか会社も捨て、春子には完全にフラれ(と彼は思っている)・・・。
全てを無くしたかに思える彼ですが、その表情にどこか誇らしさが漂っているのは、春子が唯一誉めてくれた「友達思い」な自分をぎりぎりで貫けた、自分の誇りを守ることができたからなのでしょうね。

・東海林が会社のエントランスを出ると、雨が降っていて風が髪をそよがせる。会社というさまざまの苦労はあれど一応は安全だった「家」を出て、外界の風雨に耐えてゆかねばならない東海林のこれからを象徴しています。
8年を過ごした会社のビルを見つめる彼の表情が切ない。たった3か月をここで過ごしただけの美雪が最終日にビルを見上げて号泣したのだから、東海林の思いはどれほどのものだったか・・・。

・「結婚に関するアンケート」を丸めて会社の前に投げ捨ててゆく東海林。
春子への想いも会社と一緒に捨ててゆこうとするかのような行動がこれまた切ないです。それも用紙の裏に書かれた携帯番号に気づかないまま。
他人に携帯を教えることに、そして東海林の想いを受け入れることで自分の生き方を変えなくてはならなくなることにあれだけ抵抗を示した春子が、東海林の指定した欄ではなく裏側に、やっと番号を書いた気持ちを思うと、これもまた切なすぎる。
東海林があの番号に気づいてたら、彼は行方をくらますまではしなかっただろうか・・・。

(つづく)


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『ハケンの品格』(2)-14(注・ネタバレしてます)

2008-03-22 02:44:10 | ハケンの品格
・ハケン弁当に米・プラスティックが利用できないかと思いをめぐらす里中を東海林は複雑な表情で見つめる。
自分が結果的に里中を出し抜いていること、それを里中に秘密にしていることによる二重の罪悪感。
日頃強気な東海林だけにその沈んだ様子が痛々しく思えます。

・「いつもは無駄話ばかりの東海林主任が今日はとても静かなので、もしかしたら死んでるのかなーと思いまして。」 
ひどい言い草(笑)。要は元気がない東海林が心配だったんだろうに。気配りの人里中より先に東海林の様子が変なのに気づくあたりも、東海林のことを気にかけてるのがうかがえます。
まあ実際この方が「喧嘩友達」な東海林を元気づける効果はありますね。「ミラー越しにガン飛ばすのやめろよ」「生きてるよ。勝手に殺すな」とか春子に文句つけてる時の東海林は明らかに生き生きしてますからね。

・全然車のいない広い道で髪を振り乱しながら安全確認する春子。
どんどん春子がおもろい人になっていく(笑)。春子の顔を魚眼レンズ状態に映してるのも。

・いきなり車がエンスト。これって春子の点検不足(彼女の失敗)なんですかね。
みんなに「直せて当たり前」という態度を取られ、自動車整備士の資格はないと言えずに無理やり直そうとする春子。プライドが邪魔をして言い出せなかったというより、「頼まれると断れない人」のようにも見えます。
毎度の「びっくり資格」登場パターンのあえて裏をかきつつ、春子の人間味を見せる。脚本の緩急にまたも脱帽。
そういや最終回、東海林に(新たにとった)資格証明書をつぎつぎ見せるシーンに自動車整備士がなかったのは意外。

・すでに夜、いっこうに車は直らずさまざまな部品が散らばってるありさまにもかかわらず、美雪も里中も「春子先輩に不可能の文字はありませんから」「でも解体じゃないので。車が動きさえすればいいですから」と春子が車を修理できることを疑ってもみない。
東海林だけが「おまえ、取り返しのつかない事になってない?」「お前ほんと大丈夫か?ほんとに自動車整備の資格もってんだろうな?」と不安を口にする。
美雪や里中が春子を一種の超人、人生の師とみなしているのに対して、東海林は春子の実力を認めつつも一人の女、喧嘩相手としても仕事仲間としても対等の存在(春子そのものでなく「ハケン」という身分に対しては差別的発言をするけれど)として見ているのが、彼らの態度の違い(何でも出来て当然、人間なんだから出来ない事だってある)に表れている。
そして春子も、彼女は車を直せて当然という態度を皆がとった時、東海林の方をちょっとすがるような眼差しで見ている。
エレベーターで遭難した時も、バレンタインイベントの大失敗で土下座した時も、春子のピンチの時にはいつも東海林が一緒だった。彼女が弱い一面を見せ(そうにな)る相手はいつも東海林なんですよね。

・「(自動車整備の資格を)持ってませんが、何か」「私はそんなこと一言も言っていませんが、何か」の「何か」二連発。
しかも事態を悪化させた責任上、今回は18時を回っても(残業しても)修理にいそしんでるのかと思いきや「精一杯手は尽くしました。残念ながら6時になりましたので、失礼致します」とさっさと帰ってしまう。
残業しない代わりに定時までにきっちり仕事を終わらせる春子が、仕事を残して職場放棄した!「精一杯手は尽くしました」って「努力したこと」を「出来ないこと」の言い訳にした!
どちらも今までの春子では考えられない。「ほったらかしにして、おまえ、逃げるのかよ」と言う東海林の方に理があります。

・いつもの春子の体操を一緒にやりだす美雪。それを皮切りに、浅野・小笠原・近くんが次々参加。浅野くんの手がちゃんと伸びてないところや首の動かし方が何かコミカルなのは(勝地くん的に)狙ってやってるのか天然でああなのか(笑)。
そして腕の伸びなさ加減では近くんがさらに上回る。なんかぴょこぴょこしてて可愛いです。

・ハケン弁当の企画から手を引くよう里中たちに告げる東海林。若干声が上ずってるのに(直前の「パクリ」発言にびくっとしてるところにも)、セキュリティ問題の時にはなかった彼の罪悪感が感じられる。
しかし企画書を東海林に持ってかれて「あ、でも・・・」と弱弱しく抗弁する里中が・・・。ハケン弁当の企画あきらめないと言ったんだから、もっと毅然と抵抗せねば。新人の浅野だって「それは、森ちゃんの企画ですよ」とちょっと上ずりつつもきちんと反論しているぞ。
その後も「森くん、ごめんなさい」って力なく謝っちゃってるしなあ。

・「そういうことはそのねじまがったかぶりものをストレートパーマにしてから言ってください」 
ここまで来るとほとんど天パいじめですねこりゃ。

・春子に東海林の下でハケン弁当の企画を手伝うよう命令を出した桐島は、春子が意外にあっさり従ったことに、「どっちの味方につくか興味あったんだがね。」と穏やかな笑顔で腹黒い発言をする。
前回のことで単なる作業機械に収まらない春子を危険視するようになった桐島は、爆弾となりうる彼女を東海林側(体制側)に引き入れようとしたのだろう。春子が拒んだ場合、状況によっては彼女を(なまじ有能であるだけに社にとって害となるくらいなら)切ることも考えていたかもしれない。
だから春子が「ハケンは指示された仕事をするだけです。誰の味方でもありません」と自ら作業機械宣言したことに安堵の?笑顔を見せる。
ただこの後春子は(わざと?)東海林を怒らせて早々にマーケティング課へ戻ってくる。これはこの件については「里中の味方につく」という意志の表明なのか。

・東海林に突然玉の輿の見合い話が。上司にひっついて愛想振りまいてるとこんなラッキーがふってわくこともあるんですねえ。しかし「おまえのギャグ聞きたいから見合いしたいそうだ。」ってあんまり嬉しくないような。

・東海林が桐島から見合いの話を聞かされているバックにたびたび映る黒岩さんの表情に動揺の色がある。この直後里中に「あの企画、譲っちゃっていいの~?今度は頭取のご令嬢と縁談だって。どんどん差がついちゃうわね」とちょっと吐き捨てるようなトーンで話すのも彼女の嫉妬を感じさせる。
ただそれが東海林への愛情から出てるのか、同期の(あまり誉められない形での)出世への反感から出てるのかが微妙。ドラマツルギー的には「愛情」と言いたいところだが、この後東海林と黒岩の関係にはっきりした変化が見られなかったからなあ(夜のオフィスで二人きりで話す場面に匂わされるだけ)。
一方里中が複雑な表情をしてるのは、東海林が春子を好きなのを知ってるからでしょうね。

・「とっくり!会議室にお茶入れて」 
にわかに春子に用を言いつける東海林の声の上擦り方に、内心の慌てっぷりとその裏にある春子への情がよく表れている。

・「よかったら、お見合いする前に、これ、かけてください」とシリアス顔で東海林にメモを手渡す春子。東海林と里中はてっきり春子の携帯番号かと思うわけですが、実際には美容院の割引券。電話でなくストレートパーマを「かけてください」なわけですね。
このへんは脚本の台詞回しの上手さ。第4回で取り上げられ、今回終盤と次回でまた取り上げられる「春子の携帯番号」をめぐるエピソードの前振りにもなっている。
しかし東海林をからかうために美容院の割引券を仕込む春子―実は東海林のことが気になって仕方ないんじゃあ。

・企画を召し上げられたにもかかわらず東海林のプレゼンのために、マーケティング課をあげてハケン千人へのアンケートを実施しようとする里中。
人が良いのを通り越して情けなくさえ見える彼の態度は、さすがに浅野たちから「なぜそこまで?」の疑問の声があがるほど。
しかしここでマーケティング課主導でアンケート調査から弁当の試作品作りまでを行ったことが、後に思いがけず企画がマーケティング課の手に返ってきた時にものを言った。「情は人のためならず」か。

・「食べた人が幸せになる食品を作りたい」という入社当時の志を今も持ち続けている(会社生活を続けるなかで薄らいでいたものの「ハケン弁当」を機に復活した)のは立派。
「誰がプレゼンをやったっていいじゃないですか。実現することを第一に考えたいんです」という考えもそれ自体は筋が通っている。
しかし、だったら前回の美雪の名前を残すための騒ぎは何だったのだろう。「誰がプレゼンをやったっていい」と思っているのなら、東海林や春子の言う通り里中の名前で出しておけば、企画はもっとスムーズに通り美雪が立場を脅かされることもなかったのに。
ハケン弁当の企画に熱中するにしたがって、発案者の名前を出すことより企画を実現させること最優先に気が変わったのかあるいは妥協したのか。
結局振り回された美雪こそいい迷惑。まあ「森くん、僕のわがまま聞いてもらえますか」と言ってるあたり自覚はあるらしい・・・。肝心の美雪も「里中主任って素晴らしい人ですよねえ」と喜んじゃってるし。

・春子はアンケートを取るには不向き、という話の流れで「オーラすごすぎるし」(近くん発言)はいいとして、「顔怖いし」(浅野くん発言)はひどい(笑)。春子結構傷ついた顔しています。
そういえばマーケティング課は春子以外は親しみやすいタイプばかりですねえ。実は(春子も含め)美男美女率高いし。

・ハケン女性二人がお弁当を食べてるのをつい覗き込んでしまっても、気持ち悪がられるどころかおかずを食べさせてもらっちゃう(しかも「お口あーん」状態で)里中のモテ男っぷり。
ルックスのみならず新入社員なみに初々しく礼儀正しい態度がそうさせるんでしょうね。あのハケンさんたちも里中が「主任」と呼ばれているのに驚いたことでしょう。

・「ハケンの、ハケンによる、ハケンのためのハケン弁当~」という一ツ木さんのリンカーンばりのスピーチ?が声裏返りまくり。
真面目に読んだのでは寒くなりかねない台詞を、声のトーンで上手く笑いにつなげている。安田さんさすが。

・アンケート回収の場で「あなたもハケンなの?」という美雪への質問に、「これ、彼女のアイデアなんですよ」と笑顔でさらっと答える浅野。おお美雪への好感度1アップだ。
その横で「ハケンってカタカナで可愛いですね」と言われて「それ、僕がカタカナにしたんですよねえ~」とにやけつつ自慢する近くん。街頭アンケートのときも、「写真撮らせてください」とハケン女子の持ってた弁当でなく女子本人にカメラ向けようとして里中にたしなめられてたり、近くん結構女好きですね。奥さんが怒るぞ。

・カンタンテで、踊る春子を見つめる東海林。その眩しそうな切なげな表情が、台詞の一つもないのに胸を打つ。

・「私は顔が怖いんです。それが何か?」 やっぱり根にもってたんだ(笑)。
今回の場合、顔より東海林の隣に来るなり踊るときのような仕草で腕をばっと横にふって体を斜めにした動作の方が怖かったです。

・「今日は喧嘩はやめよう」といつになく神妙な声音で話し出す東海林。
改めて春子の気持ちを確認にきたのだろうと思いきや(結局はそれが目的でしたが)、お見合いを喜んでる振りをして春子に焼きもちを焼かせようとする。素直じゃないなあ。
一方春子は「あの人は髪も心もストレートです」「あなたより里中主任の方が人間的に素晴らしいからです」と柔らかな口調で里中を持ち上げる。
確かに春子は里中を認めてはいますが、彼が現時点では上に立つ人間として甘すぎるのもわかっていて、だから「泥舟」呼ばわりしたりもしてる。
いささか誉めすぎの感もあるこれらの台詞は、ひょっとすると東海林が見合い相手を誉めた意趣返しに、里中を誉めて東海林に焼きもちやかせようとしたとか?素直じゃないなあ。

・東海林に求められるまま彼の悪口を並べたてた春子が、最後に「一つだけ誉めてあげたいところがありましたが・・・」と言うと、東海林が「どこ?」と尋ねる。
頼りなげな声のトーンと「どこ?」という子供っぽい語彙、勢いこんだ感じが、東海林の切実な気持ちを伝えてくれる。少しでも春子によく思われたいんだ・・・。

・東海林が「この縁談断ろうかと思ってる」というのに対し、春子は会社べったりの東海林に断れるはずがない、と冷たく返す。
この場面での春子の一連の発言はいつものような正社員を批判する言葉のようでいて、「結局あなたは、部長の言いなりで結婚するんです」のあたりなど、出世のために恋人に切り捨てられかけた女の恨み節めいて聞こえてくる。
素直じゃない二人の腹の探り合いは、第4回にも匹敵する見応えがあります。

・「俺がほんとに結婚したいのはおまえだ!」発言に、美雪はあわてふためくが眉子は目を細めて微笑っている。
少し前に美雪が「お見合いの自慢しに来たんですかね」と言った時も、何か言いたげに溜息をついていた。彼女は最初から東海林の「用件」を察してたんでしょうね。
リュート(ともう一人の男性)がフラメンコギターで結婚行進曲を奏でるのも、彼のキャラに合った洒落た演出。

・お勘定するにあたって「勝ち組ですから」と言う東海林。
これまでの話の流れ(春子と結婚したい)にも関わらず、去り際に再び縁談を受け入れるような台詞を吐くのが、「勝ち組」という言葉とは裏腹の敗北宣言のように響きました。翌朝出社した春子に声をかけようとしてかけられない姿も切ない。

・頭取から直々に電話が来たと聞いた東海林はあわてて自分のプロポーズに対する春子の返事を確かめようとする。
春子にはっきりフラれたなら(とっくにはっきりフラれてる気もするが)他の女に行くよ、と言ってるようなもので、いわば二股。春子に対して大分失礼な話ではある。
会社人間の東海林が出世コースより春子を優先させようとしてるだけでも、彼にしてみれば最大級の勇気を要する行為なんでしょうが。

・縁談がまとまった旨を桐島から知らされた東海林は泣き笑い顔。「ありがとうございまーす!」と勢いよく告げる声もやけくそ気味。
「東海林くん、おめでとう」と祝いを述べる黒岩女史の声には、やや皮肉めいた響きがあり、他の販売二課の男性社員がにこにこと東海林を誉めそやす側を通り過ぎる浅野くんは明るい笑顔を、隣の近くんは面白くもなさそうな顔を見せている。
それそれの表情や声に彼らの(東海林に対する)感情が表れているのが秀逸(とくに、どんな顔してようがストーリーには何の影響もないはずの浅野・近ペア)。

・「ハケンのアイデアが社内コンペの最後まで残るなんて・・・」と感慨深げに語る一ツ木さん。
勝手に逃げたり辞めたりするハケンにさんざん振り回されるのが日常なのに、ハケンたちの事を心から案じてくれている。いい人だなあ。

(つづく)


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『ハケンの品格』(2)-13(注・ネタバレしてます)

2008-03-18 01:54:28 | ハケンの品格
・スランプに陥った東海林に、「米・プラスティック、協力してよ。一緒に考えて、二人の名前で出そうよ。東海林さんの押しの強さが俺には必要なんだ。」と助け舟を出す里中。
対する東海林は「憐れみをかける気か!」とか反発するんじゃないかと思いきや「俺を必要としてくれるのは賢ちゃんだけだよ!」と感激して里中を抱き上げくるくる回る。
人一倍プライドの高い東海林ですが、だからこそ結構単純というか、自分の益になること・持ち上げてくれる発言は素直に受け取り喜ぶ。
(「東海林さんの押しの強さが俺には必要なんだ」を東海林の自尊心を傷つけないためのフォローと理解したうえで受け入れたんなら「ありがとう」とだけ返して「俺を必要としてくれるのは~」とは続けないと思うので、結構本気にとってるんじゃないかと)
彼が仕事ができるのはこのプラス思考による部分も大きいのでは。まあ里中に押しの強さが欠けてるのは事実だし、東海林には里中のような人望がない。お互い補い合ってちょうどいい感じ。
しかし感激のあまり抱きしめるならわかるが、抱き「上げる」(しかもくるくる回る)というのは成人男子の友情表現としてはやや微妙なものが。このへんにも同性愛的、というか共依存的な密着度の高さを感じます。

・どこぞの料亭で眉子ママが謎の老人(大滝秀治さん)と食事を。この人物、エンディングのテロップによると何とS&Fの会長さん。
二人がどんな関係なのか(結構親密そうではある)は明かされませんが、ここで眉子が会長にハケン弁当の話をしたことが、美雪の企画が上の肝入りでコンペの上位5位内に入る結果となっていく。
しかし二人の会話の流れ(「お前さんに務まるか、大変なんだよハケンって」「でも多いんだってね、ハケンって」)からすると、会長は眉子の娘分がハケンなのも現在自分の会社で働いていることも知らないように聞こえる。彼は眉子がどんなルートでまだ世に出てない企画を知ったと思ってるのだろう。
「カンタンテ」に「ハケン弁当」企画者の周辺の人間が客で来て、その雑談から知った、という解釈なんだろうか。会長が眉子と繋がりがあるなら桐島部長に「カンタンテ」を教えたのは会長の可能性もあり、ならばさらに桐島に連れられて「カンタンテ」に出入りするようになった社員がいても不思議じゃないわけだから。
そして眉子がここで会長にハケン弁当の話をしたのは、美雪のためというより先日の里中の志に対する援護射撃だったように思います。またハケンの企画を認めることが将来的には会長と会社のためにもなると考えた結果なのだと。

・企画の件で黒岩を筆頭とする社員たちに(販売二課のハケンにまで)責めたてられる美雪。
彼女の後ろで浅野くんと近くんが手をもぞもぞさせてる仕草に、バッシングにさらされてる美雪を支えて(肩でも抱いて)やりたいのだけど、そうできない辛さ・気まずさが表れています。
しかしあれだけ美人の美雪に販売二課の男どもがちっとも優しくないのが不思議。

・「ハケンの企画に負けた恨みをハケンで晴らす。あなたがたは最低です。」 
いつもは春子の毒舌に反感をあらわにすることも少なくない販売二課の面々がこの時は一言もなくちょっと萎れている。少し気が収まったら女の子一人を寄ってたかってつるしあげた自分たちの無様さに思い至ったのでしょう。
春子は美雪が責められている間は一切かばうことはしなかったが、それはハケンが企画を出すことに伴う困難を、美雪自身にも無邪気に彼女を応援してた浅野たちにも思い知らせるためだったのでは。

・「あのハケン、泣いちゃったぞ。(中略)お前がかばえばかばうほど、あの子は辛い立場になっていくんだよ。」
先に販売二課の皆が美雪を非難したときも、ハケン差別者のはずの東海林が、唯一美雪をフォローしようとしていた。彼は里中が美雪の企画を彼女の名前で出そうとしてたいきさつを知っているし反対もしてたわけで、ある意味美雪が里中の被害者だと考えたんでしょう。
ハケンの企画を通すことに伴う困難、美雪が吊るし上げにあうような事態は(普段衝突ばかりしてる春子と東海林が「ハケンは企画など出すべきでない」と口をそろえた時点で)十分予期できたはずなのに、里中は「ハケンを差別するのはおかしい」という自身の理念、「自分の名前で発表すればアイデアを盗んだことになる」という潔癖さのために美雪を犠牲にしてしまった。美雪自身は「私の思いついたことが里中主任の名前で社内中に流れるなんて」と自分の名前が出ないことをむしろ喜んでさえいたのに。
前回いきなりバースディパーティを企画された春子が「あなたは人の気持ちをちゃんとわかったうえで接待なさってるんですか」と里中を責めましたが、その「善意の押し付け体質」がここで悲劇を呼んだ形です。

・女子トイレの個室で泣きじゃくる美雪に春子がドア越しにお説教。
先に東海林に美雪をフォローしてやるよう言われたときは社員がやれ(第二回で言ってた「ハケンにハケンの面倒を見せようとするな」という事ですね)と言い返してたくらいなので、単に業務時間内だから連れ戻しに来ただけだと本人は言うでしょうね。第五回でも小笠原さんをようじ屋から連れ戻してましたし。
この場面加藤さんの泣きの芝居が美雪のキャラを見事に表現していてそのはまりっぷりに拍手。

・美雪を電話でなぐさめる一ツ木さん。「よくあることですから」ってこの人も本当苦労が絶えない。「邪念」てのはひどい表現な気もするけど。

・「ほんとに自分で考えた企画なら男たちにつぶされちゃだめよ。」 さっき皆の先頭に立って美雪を責めたのは黒岩だったのだが。
まあ彼女の企画が一番有力とみなされてただけに「ハケンに負けた」という屈辱もあってカッとなっちゃったけど、冷静になってみたらハケンであるゆえに頑張っていい仕事をしても低く見られてしまう美雪に、男たちの中で一人頑張ってる自分が重なったのだろう。
正社員の黒岩はコンペへの参加も許されているし、それどころか桐島部長も彼女の企画を押していたくらいだが、それだけに同じ課の男性社員から「女の企画をやることになるのかよ」と言いたげな嫉妬の視線を感じてたのかも。
東海林が里中に言った「社員はハケンより優れてなきゃならない。創立80周年の伝統あるコンペでハケンが優勝するなんてことはあってはならない。」という台詞は一昔前なら「ハケン」を「女」に入れ替えてまんま成立していたはず。
今はこうした大企業が公然と女性社員を差別することはそうそうないと思いますが、それがハケンに対してはまかり通っている。今や女性差別が非常識と(建前であっても)されるようにハケン差別も非常識とされる日が遠からずやってくるのかも。
そうした時代の先がけが、正社員もハケンも「人間同士助けあったり励ましあったりして一緒に成長できるはず」と主張する正社員里中であり、ハケン先の部署にきわめてウェットな思い入れを持つハケン社員美雪なのでしょう。
二人とも自力で新しい社会のあり方を築き上げてゆくにはまだまだ頼りないですが、だからこそ彼らには正社員に伍して独力でハケン人生を切り開いてきた先輩・春子が道を指し示す必要があるのでしょうね。

・「彼女、うちの会社にどうも馴染まないようだね。」
美雪のクビを切ろうとする一方で、正社員に(自分にも)あれだけ傍若無人な態度を取る春子は放置なのは、彼女が会社にただならぬ貢献をしてるからだけでなく、冒頭のかるた取りでもわかるように彼女が本当の意味で正社員の顔を潰すことをしないからですね。
美雪自身には正社員の顔を潰そうなどという気はなかったし、桐島も里中が美雪に断りなく彼女の名前で企画書を出した事情を知っているのだけど、「ハケンの企画が通った」ことがこれだけ回りに広がってしまっては、本人に罪はなくとも火種である美雪をスケープゴートにするしかないという判断。「社員と違ってハケンはまた別の会社に行けばいいだけだから」と軽く考えてる部分もあるでしょう。
隣で東海林は複雑な表情をしていますが、単に美雪に同情してるというのでなく、面子のために罪のない人間を冷然と切る桐島の姿に、正社員の自分や里中も切り捨てられる時が来るんじゃないかという不安を喚起されているように見えました。

・エレベーターでの春子と桐島。「君はこのことを承知だったんだろう」「部長の品格・人格・品性、もろもろを総合的に判断し、そうなさるだろうと思っていました」。
この「部長の品格」というのは今回の最初の方で東海林が言っていたおべんちゃらと同じ言葉。それだけに皮肉がきいている。先に下りた春子を見送る桐島の表情も相当こわばっている。

・エントランス前で桐島を呼び止める里中。「部長!」と呼びかける声(二回とも)の荒っぽい響きに、これまでの里中にはない必死さを感じます。とはいえ何もできないままなんですけど。

・「ハケンがクビになる理由の6割は「社風にあわない」なんだけど・・・けどそれはね、言いがかりですよ。」
一言ずつ、搾り出すように話す一ツ木さんの声のトーンと間に、いつも如才なく軽く腰低く(でも実は胃が痛むのをこらえてるんだよ、という感じで)周囲を持ち上げたり取りなしたりしてる彼の、初めての本音を聞いた気がしました。美雪もちょっと感動してます。
「あの会社だけは信じてたのに」という発言は、(主としてハケン嫌いの東海林のせいで)ハケンがなかなか居つかないS&Fに対するには意外な好評価ですが、ハケンが自分から逃げるケースは多発すれど会社の側からこういう形でクビを切ることはなかったんでしょうね。それ以前にイビり出されちゃうだけ、という気もしますが。

・「森美雪を守るとこの男は言っていました。でも、このザマです。」 
初めて春子が里中を「この男」呼ばわりにする。それも本人のいる前で。
「ザマ」という言葉を吐き出す発声も含め、「軽蔑する」と言ったも同然の台詞ですが、「企画が選ばれたから森くんが辞めさせられるなんて、あってはならないことです」という里中の発言を受けての「人を守るには体を張るか命を張るか、自分のクビをかけるか。できませんよね、あなたには」「優しいだけじゃ人は守れません。私がお手本を見せます」とあわせて考えると、里中を発奮させる意図で彼女は台詞を選んでいるように思えます。
春子は実のところ里中にはかなり期待をかけている。かつてリストラを経験して会社組織への不信を抱くようになり、ハケンとなってからも行く先々での待遇のあり方にますます会社不信をつのらせていただろう春子は、ハケンと正社員を(良くも悪くも)区別しない、弱弱しいようでいて自分の信念は決して曲げない里中を見るうちに、彼のような社員の存在が現在の会社とハケン、正社員とハケンの関係性を変えてゆく可能性を見出したんじゃないか。
翌日春子は桐島を半ば脅して自分の(そして里中の)意を通しますが、業務に関係なく、頼まれたわけでさえないのに自主的に行動に出ている。
「私には関わりございません」が決まり文句だった彼女としては自分の主義を逸脱するような行為ですが、彼女の態度はもともと現行の会社組織とその構成員たる正社員のあり方への抵抗と諦め(自分の立場を確保するため強気な態度を貫きつつも、相手との人間的関係を望みはしない)のないまざったものなので、内心密かに夢見てたであろう「会社とハケンの新しい関係」に期待を抱きはじめたことで、彼女の言動にも変化が生じるのは自然な流れですね。

・「森くんを守る方法を教えてください。」
これまでのように「助けてください」ではなく「教えてください」、守ること自体は自分がやるという決意を思わせる表現に、春子との対話を通して里中が少しずつ強くなっている事が示されているように思えます。
春子が「あなたには無理です」の後に「だから私がやります」でなく「お手本を見せます」と答えるのは、「今の」あなたには無理、だからそう出来るようになりなさい、私が教えてあげるから、という意味合いですね。
「お手本を見せます」と口にする時の語調もそれまでに比べると少し柔らかく、口元も心なし微笑んでいます。

・「大前春子です。出ません」という留守電メッセージに笑う。言っても言っても電話をかけてくる美雪よけですかね。
このシンプルにして身もフタもない表現は春子ならでは。

・「先輩にはほんと、ご迷惑のかけっぱなしで・・・」と美雪が留守電を入れている時、当の春子は明日の対決に向けて―美雪を守るために―筋トレに励んでいる。この呼応関係にほろりとします。
黙々と体を鍛える春子の姿には「人を守るには体を張るか~」という春子自身の台詞が重なる。そして美雪の、泣き言を言わず終始取り乱さず、春子に感謝の言葉と反省、今後の抱負を語る言葉つきに成長のほどがうかがえます。

・桐島は突然道場に現れた東海林に「どうして今日は背広なんだ」と尋ねる。
道場の場所を知っていたことと言い、これまでにも休日に桐島に一手指南してもらいに来たことがあったのでは。ゴマすり上手の東海林ならいかにもやってそう。
一方の里中は道場の場所を知らなかった。休日を利用して上司にゴマをするなんて発想自体ないんでしょうね。そのへんに彼が上司・会社密着型でない―ハケンに対して偏見を持たない自由な物の見方もそこに根がある―新しい時代の社員なのを感じます。
しかし道教えるだけでなく結局(心配して)一緒についてくるあたり、東海林も根っこはお人よしですね。

・「部長、森くんを辞めさせるなら、マーケティング課はあの企画、引っ込めます!」
力の入った口調と、ここまでやってきた不退転の決意を思わせる行動に、てっきり「辞めさせるなら、自分も辞めます!」と続くのかと思えばこの台詞(笑)。
もともと桐島的にはハケンの企画などない方がいい、あってはならないものなんだから、「ハケン弁当の企画を引っ込める」宣言は歓迎されこそすれ何ら打撃を与えないだろうに。
上層部がこの企画を押してるのを知ったうえで、企画を引っ込める→桐島の顔が潰れると計算したのだろうか?
先の春子の「体を張るか命を張るか、自分のクビをかけるか」のいずれも選んでないあたり、まだまだ覚悟が足りないように思えます。だからこそ春子の荒療治が有効なのですがね。

・白い胴着に竹刀を下げてきりっとした表情で歩いてくる春子。光を背にしたその姿は、確かにジャンヌ・ダルクのよう。

・里中と東海林がやってきても、里中と桐島が言い争ってても、特に反応を示してなかった子供たちが、春子には興味深々。
きっと部下が急用で指示を仰ぎにきたりすることはままあって、スーツ姿の人間(上の桐島発言からすると東海林は普段から出入りしてるが背広ではやってこないようなので、他の部下でしょう)が叱られたりするのは見慣れてるんでしょう。

・剣道四段ながらも桐島(何段か不明ですが子供とはいえ人に教えてるのだから七段くらいはいってるんじゃないか)と対等以上に打ち合う春子。
五段以上の段位審査を受けてないだけで(現行の規則だと四段を取った後最低でも二年経たないと五段は取れないらしい)、実力はさらに上、ということなんでしょうね。

・「子供たちの前で恥をかきたくなかったら、森美雪をクビにするのをやめなさい」 これはまたあからさまな脅し。
これまではわざと正社員に(今回の冒頭で桐島にも)密かに勝ちを譲ってきた春子が、ここでは条件つきで勝ちを「譲ってやる」。
美雪をクビにしないという言質を取る前に負けてやったのはツメが甘いとも思えますが、「部長の品格・人格・品性、もろもろを総合的に判断し」、これだけすれば部長はクビを取り下げるはず、という確証があったものか。
桐島が「子供たちの前で恥をかきたくない」という個人的な事情を美雪の処遇-仕事上の問題に持ち込んだのは公私混同のようですが、ここで自分に勝ちを譲った―これまでにも実は勝ちを譲っていたのだろう春子が、その気になればいつでも自分や他の社員に仕事の上で恥をかかせる事ができるのを思い知って、ここは彼女の要求を呑んだのでしょう。
その危機感があればこそ東海林に、これまでは単に毒は吐いても優秀な機械と思ってたゆえに持ち上げていた春子について、「大前春子には気をつけろ」と助言を与えたのでは。

・マーケティング課の面々が美雪のお別れ会を。美雪の挨拶に小笠原と浅野が涙ぐむ。他の部署では考えられないような正社員とハケンの関係がここでは成立している。
しかし浅野くん、このままお別れでいいのか?彼女がクビ取り消しにならなければ、何らかのアプローチをするつもりだったのかな。

・美雪のクビ取り消しを喜びあう面々から離れて、春子は一人カウンター席で手酌で飲んでいる。
一切嬉しそうな様子を見せない彼女こそが美雪のクビを食い止めた功労者であることは(この場では)里中しか知らない。
こうした春子の姿に、そっと人助けをして人知れず去ってゆくヒーローの面影が重なります。

・ハケン弁当の企画を、桐島は里中を外して東海林一人に任せる。
美雪の名前を出すことにこだわった結果、肝心の企画は美雪のものどころか、里中やマーケティング課からさえ離れてしまった。
美雪のクビこそ回避できたものの、里中のこだわりは美雪に辛い思いをさせ、企画はよそに取られ、自分は桐島の不興を買い、と現時点では全面的にマイナスばかり。
ただ古い常識を変革してゆこうとする時に障害はつきもの。これも会社とハケンの関係を改革してゆくための第一歩なのでしょう。

・里中と二人で請け負うつもりだったハケン弁当の企画を一人でやるよう言われた東海林は悲しげな目で「わかりました」と静かに答える。
ハケンの企画を正社員が「取る」ことは当然とする東海林も、正社員、それも親友である里中の(普通なら彼の名前で提出されるはずだった)企画を奪う形になることには動揺を禁じえない。
古い会社の常識を生きる東海林としては、あれだけ桐島にたてついた里中が企画から外されるのは無理もないと思う気持ちもあり、しかし親友を裏切りたくない(里中と二人でハケン弁当の企画をやると言ったのは、先に里中がスランプに陥った自分に米・プラスティックの企画を連名で出そうと言ってくれたことへの恩返しのつもりもあるのだろう)気持ちもあり・・・。
そんな東海林の複雑な心情が、彼の目の表情だけで一瞬にして伝わってくる。
主人公である春子と衝突を繰り返し、ハケン差別者でもある東海林のキャラは、その傲慢な物言いもあいまって下手すれば視聴者から蛇蠍のごとく嫌われかねない。
それが里中を上回るほどの人気を得たのは、怒鳴ったり偉そうな台詞を吐くときもどこか憎めないユーモラスさがあり、シリアスなシーンでは切なさを感じさせる大泉さんの演技力に拠るところ大ですね。

・春子に「僕はあきらめてません。ハケン弁当の企画」と静かだがゆるぎない口調で告げる里中。
この時点で彼はハケン弁当の企画が東海林一人に任されたことを知りませんが(桐島が東海林に口止めしたことが次週明かされました)、きっと知っていても同じことを言うでしょう。
春子は「まだそんなこと言ってんですか」と答えるが、里中を否定してるのでなく、その悟らなさ、諦めの悪さを「自分が見込んだ通りだった」と内心喜んでるのでしょうね。

(つづく)

 


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『ハケンの品格』(2)-12(注・ネタバレしてます)

2008-03-14 02:26:24 | ハケンの品格
〈第七回〉

・のっけから名刺でかるたをする春子と桐島部長。美雪が札を読み上げるほか、二人の取り札の数をホワイトボートに記録する人がいたり、大勢(営業部全員?)で勝負を眺めてたり。
後でこれが桐島部長発案による「楽しく名刺を整理する方法」だったことが明らかになります。部長自らそれじゃあ、みんな仕事しないわけだ。よく春子がバカにせず付き合ってるなあ。むしろノリノリ。

・桐島の載った社内報を見ながらやたらおべんちゃらを言うのはいかにも東海林らしいが、「「部長の休日」じゃなくて「部長の品格」ってタイトルに変えた方がいいんじゃないですかね」には笑った。ちょっとメタ視点入ってますね。
この写真が後の剣道勝負の伏線になっています。

・春子に札をかっさらわれた桐島が、「うるさいんだよお前は!集中できないだろうが!」と東海林に怒鳴る。部長、マジになりすぎです。勝ったのに気をよくして「どう、もう一回お手合わせ」なんて台詞も本来の目的をすっかり忘れてます。

・今回ナレーションが「彼女の辞書に不可能とヒューマンスキルの文字はない」。
「残業」が「ヒューマンスキル」に変わったのは、前回で残業しちゃったからですね。

・コンペの企画書のダメ出しを春子に頼む里中。正社員がハケンに、しかも上司が部下にダメ出し頼むというのも東海林が言うとおりアレですね。
しかし見方を変えれば、立場に関わらず相手の才能を素直に認め、頼ることのできる柔軟性は彼の武器と言えるのかも。
ただそれを武器として活用するにはまだ力が足りない。そのあたりが今回のストーリーの軸であり、その前フリ的エピソードを冒頭で出しておくのが上手い。

・里中の企画書をパラパラめくって中身を検分するときの春子の目が怖すぎる。それも笑える方向性の怖さ。こうした変顔を美人女優さんがごく自然に演じてることに妙に感心してしまいました。
その後のダメ出し台詞の立て板に水のごとき流暢さといい――何度も書いてますが本当篠原さんはすごい。

・春子のダメ出しに聞き耳を立てていた社員たちがいっせいに企画書を書き直しにかかる。あの黒岩さんまで。
そして東海林が企画書の「3つのT」を説明してると春子がすぐ後ろに出現(横からぴょんと出てくるのが「出現」と言う感じ)して、今にも文句つけたそうな顔で立ってるのが面白いです。あんな近距離で、しかも文句言って踵を返したところで髪で(わざと)東海林の顔叩いてくし。
春子も東海林も相手を構いたくてしょうがないようにも見える。前回の失敗があるってのに。

・里中の「米・プラスティック」の構想。第一回の米の市場調査が彼に米への興味を促したのか。リサイクル・環境問題への配慮も実に里中らしい。

・里中の弱腰を批判する春子に例によって東海林が文句をつける。
その時の「(里中が)また迷子の子犬みたくなっちゃったじゃねえか」と言う表現に笑う。30歳になる男がこんなに可愛いというのもねえ(まあ勝地くんもきっと30になっても子犬系なんだろなという気はしますが)。
しかし小泉さんビジュアルも雰囲気もはまりすぎです。ご本人もこういう人なんだろか。

・春子が企画を出す気がないと聞いた東海林が「よかった・・・それならいいんだ」と本気でほっとした顔をしてる。実は春子に企画を出される→負けるのを危惧してたんでしょうか。

・「とうかいりん主任」「だいぜん、しゅんこさん」の音読みバトル。回を追うにつれ、週替わりネタの目玉が春子のびっくり資格より二人の言い争いのバリエーションに移ってきてる感があります。このへん、視聴者の反響を見ながら調整していってるんでしょうね。
「俺だって何でいつもここにいるんだかわかんないよ!」という東海林の台詞も、「働かない会社だな」同様、視聴者の疑問(ツッコミ)への回答ぽく聞こえますし。あるいは大泉さんのアドリブか?

・東海林がセキュリティシステム見直しを提言した警告書の件で桐島からお褒めの言葉を。第二回で出てきたエピソードが今になって再び取り上げられ今後のストーリーの伏線として機能するのにちょっとしたカタルシスを覚えた。
この警告書横取り事件に表れる東海林の考え方は会社の考え方でもあることが、このあとの展開ではっきりしてゆきます。

・東海林が近くん&春子の功績を自分の手柄にした件に対し、腹を立てる美雪と近くん、平然としている春子、春子と近くんに報いるべきだと東海林をたしなめる里中。
このそれぞれに異なる反応が、このあと同じくハケンである美雪の企画の扱いにもそのまま反映されてゆきます。

・春子の「また来るわよ!」の言葉の直後に東海林登場。ついさっき「二度と来ない」って言ったばっかりなのに(笑)。
そして美雪の「頭くるくる」発言に文句をつける。ポイントはそこかい。

・ハケンは時給以外の名誉や見返りを求めてはいけない、という春子の意見に全面賛成する東海林と反論する里中。
春子と東海林はハケンと正社員という立場は違えど、両者をきっぱり区別する考え方は一緒。しかし今回の話の中で春子はこれまでかたくなに守ろうとしてきた(でも少しずつ破れ目の生じていた)ハケンとしての立場を少し逸脱することになる。
おそらくその原因は里中への「期待」にあったんじゃないでしょうか。

・浅野は美雪が企画を出すことを支持し、里中に企画書の存在を告げる。彼が美雪への好意と、里中の影響もあって、美雪を「ハケンだから」と別枠で扱ってないのがよくわかる。
しかし「僕にできることがあったら手伝うから」って浅野自身は企画書書かないのか。

・美雪のアイデア「派遣弁当」。「ハケンが安心して食べられる安くて美味しいお弁当があったらと思って」との彼女の言葉は、第三回の2000円ランチ、第五回のハケンは社員食堂の割引が使えない話、第六回の義理チョコなど、食べ物関連でのハケンの懐の痛み具合を示すエピソードの集大成という感じ。
ストーリーが収斂されてゆく感覚が心地好い。

・「企画はお前の名前で出せ」「どうして」「だからあ~」。8年から会社にいながら里中の空気の読めなさは大したもの。
おそらく彼は本当に正社員とハケンの区別のあり方が理解できない。雇用形態が違うのはわかる、しかしそれは違いであって優劣ではない。そう考えている。
それは少し後で「ハケンの名前で企画を出すこと自体おかしいだろうが」と部長に言われて「そうでしょうか?」と首をかしげ、里中の名前で出すべきだという東海林の言葉にも「やっぱり間違ってるよ」と答えるところにも表れています。
そして本来は里中の考えこそが人としての正論なんじゃないか。能力や勤務態度でなく「派遣であること」を理由に正社員と区別―正社員より低い存在と見なす―のは職業差別である。ましてやこの場合「社内外を問わず」と要綱にあるのに機会を奪われているのだから。
現在の会社組織では東海林が言うとおり里中の考え方は通らない。しかし人としての正論が通用しないならそれは会社のあり方の方が間違っているのではないか?
あまりにも人の良すぎる里中のキャラの描き方は、このテーマを問い質すために用意されたもののように思えます。

・東海林の企画「ツネさんVSハルちゃんどっちが解体うまいでショー」。
本気でこの企画一ヶ月暖めてたのか?なのに「タイトルに全く知性を感じません」の一言であきらめちゃっていいのか?「ハルちゃん」の写真もいつのまにとったのやら。

・小笠原さんが派遣弁当の企画に関して、定食屋で話を聞いたらどうかと提案する。
マグロ解体ショーや塩むすびの時は単なる感想や雑談を東海林なり里中なりが企画の形にしてくれたが、今回の発言はちゃんと理の通った「提案」。
第五回の事件を通して、彼がかつてのようなやる気を取り戻しているのがその生き生きした表情からもうかがえます。

・「ようじ屋」と近くんの意外なつながり。「保育園のパパ友達」というのはハケンならでは、とは言わないまでも一般の男性会社員ではあまり生じないたぐいのコネであり、一つの企業に長く留まらないぶん社内の関係調整には不利なハケンの、一面での優位性を提示しているシーンです。

・春子ほど孤高を貫きはしてないものの、ハケンらしくちょっと皆から距離を保っているドライな近くんが、里中と小笠原に頼まれたとはいえ比較的あっさりと美雪の企画に協力する。
やはり最初の警告書騒動で再び東海林およびハケンの手柄が正社員に奪われる状況への怒りが強まってるからなのでしょう。

・ようじ屋でのリサーチ中、子供のもんた(紋太?)くんが泣き出し、それを聞きつけたお母さん(まちゃまちゃさん)が登場しマーケティング課の一行を追い返そうとする。
ここの場面を予告で見たとき、てっきり彼女は近くんの奥さんなのかと思ってしまった(地震の場面とチョコ談義の中で彼の家庭・奥さんの話が出たあとだったので余計に)。
しかし定食屋のおかみさんとしてはすごいビジュアル。保育園の送り迎えがパパ担当(パパ友達という表現からして)ということはママはよそで働いてるのだろうか。今まで店のシーンで見かけたことないし。

・春子が謎の歌?でもんたを泣き止ませる。春子いわく「お母さんの胎内にいる音を歌にしてみました」。さすが助産師。
そしてお母さんは同じ歌を口ずさみながら奥へ引っ込んでゆく。何かが通じ合ったらしい。

・派遣弁当改めハケン弁当の企画書を誰の名前で出すつもりかとの春子の問いに、小笠原が「森美雪とマーケティング課の仲間たち」との名称を提案。
「仲間たち」の牧歌的響きは置いとくとして、新人の浅野はともかくベテランの小笠原までハケンの美雪の名で企画書を出すことに抵抗がないらしいのに驚いた。世代的に小笠原は同僚や後輩がリストラされてハケンが取って代わるのを経験してるはずで、東海林のようなハケン嫌いになっていてもおかしくないのに。
ハケン・社員問わず若い子はみな孫みたいなスタンスなのかも。前に美雪も「小笠原さんといると自分がハケンだってこと忘れる」といってましたしね。この里中にも似た「人情」が彼が出世できなかった原因な気がします。
余談ながら小笠原が名称案の2つめ(「大前春子は除く」)を口にするとき浅野くんと近くんがこくこく頷いてるのが何か可愛いです。

・里中がこれまでの話の流れにもかかわらず「発案者は森くんなんだから、森くんの名前でお願いします」と言ったとき、浅野がちょっと驚いた顔をしてる。
わざわざ席を立ち春子を正面から見据えて発言する里中のいつにないはっきりした語調に強い信念のようなものを感じたのだろうか。

・春子は里中のパソコンあてに「里中賢介」名義にした企画書を送信する。
後の桐島との会話でわかるように、春子はこの後の里中の行動とそれが引き起こす事態を予測していた。いっそ里中を経由せず直接企画書をコンペに提出してしまえば騒ぎを防げたかもしれないのに(もちろん上司である里中に一旦提出するのが筋でしょうが、状況いかんでは横紙破りもするのが春子なので。企画の中身についてはちゃんとチェックを経ているし)。どうも春子はわざと里中に最終決断の余地を残すことで彼を試していたように思えるのですが。
ただ企画がコンペ上位に入った時点で「あれ里中主任の名前で送ったのに」「夕べ森くんの名前で送り直しました」というやりとりがあるので、春子がすでにデータ送ってた(里中が上書きした)ようでもある・・・。

・「部長、匡子と企画の最終打ち合わせでイタリアンレストランに行ったよ」。
東海林が黒岩を名前で呼び捨てにしてるのが発覚。まあ同期だし特に不自然でもないけど、黒岩さん的には東海林に名前呼びされてドキドキしちゃったりもするんだろうか。存外女っぽい人だからな。 

・「考えてみたらさ、あのとっくりが来てからろくなことねえんだよな。部長の寵愛を一身に受けていたあの頃の自信と誇りはどこへ行ったんだよ」と現在の自身を慨嘆する東海林。
まあ「寵愛」うんぬんは自分でいう事なのであてにはなりませんが、彼が春子がらみだとおよそ平常心を欠いてしまうのは確か。それがツネさんの怪我やバレンタインイベントの失敗にも繋がっている。

(つづく)


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『ハケンの品格』(2)-11(注・ネタバレしてます)

2008-03-11 01:48:14 | ハケンの品格
・軽やかな声で元気よくチョコを売る美雪に浅野が「森ちゃん、何かいいことでもあったんだ?」とそわそわした表情&身振り(何か体揺らしながら歩いてくる)で声をかける。
「そのチョコ俺にくれないかなあ」とか思ってるんでしょうが、美雪の頭を占めている「いい事」は・・・。

・販売二課のハケン・香と瞳が「いつもお世話になってます」「次の契約更新もよろしくお願いします」とチョコを渡す。そうか、義理というよりリベートチョコか。
東海林は「それとチョコとは別だけど」といいつつ一応嬉しそうに受け取ってます。彼女たち会社になんだかんだ文句言いながらも長く居座るつもりのようですね。

・香が里中には「徹夜で作った」チョコを渡し、「今夜お時間ありますか」と告白タイム。
この発言に思わず足を止めた美雪は、里中が「外せない用があって」と断るのを聞いて安堵と照れの微笑みを浮かべる。前髪を耳にかける仕草もどことなく艶っぽい。
ここでも里中一人勝ちです。「恋もほどほどにね」という東海林がいかにも悔しまぎれ。彼を想っている(らしい)人もちゃんといるんですけどねえ。
しかし香に「勝った」ことに安心した美雪も、すぐ後でそれが「自分との」用ではないと知るわけで・・・罪作りだな里中。

・里中が浅野も「外せない用」に誘うのを聞いて「えっ、浅野さんも!?」と驚く美雪。浅野が状況わかってないからいいようなものの、他ならぬ(美雪に心を寄せる)彼をお邪魔虫扱いなのが可哀想です。
しかし里中、当日になってから言うなよ。いくら浅野がバレンタインデー暇にしてそうだからって(笑)。
そして里中はひそひそ話をするために美雪と浅野を両手で少し抱き寄せる。色っぽい状況じゃないとはいえ里中に抱き寄せられた美雪、目がちょっと泳いでます。本当罪作り。

・「人生いろいろだった人に贈る島倉チヨコはどうした」。こんなくだらないことから喧嘩になる二人。「ここが一番大事なんだよ」「そのかぶりものは恥ずかしくないんですか」などの台詞といい、ハートを東海林にかぶせようとするところといい、二人の言動が面白すぎます。
里中は「お客さん見てるから」と止めに入るが、コントに見えるから大丈夫な気もしたり。東海林バージョンの「すうりょうげんていでーす」(裏声で)も聞いてみたかった。

・控室で口喧嘩を始める東海林と春子。要は春子から義理でもチョコが欲しい東海林が、他の女子からもらったチョコをこれ見よがしに食べてみせるという一種可愛らしい行動が発端のいつもの痴話ゲンカなんですが、マイクが入っていたために二人の発言が会場中に流れてしまうという大事態に。
ただ喧嘩してるだけならまだしも義理チョコを否定する内容だったのがまずかった。番組始まって以来初めての、春子痛恨の大ミス。
先にお客さんの前で東海林と争い(じゃれあい)になったこと、「頭を冷やすために」休憩を取らされそれに大人しく従ったことも含め、およそ春子らしくない軽率さ。東海林が春子が来て以来(彼女への意地から)何かと調子を狂わされているように、春子も東海林に大いに調子を狂わされてるんでしょうね。

・あわてて控え室の喧嘩を止めようとする美雪たちを応援ハケンたちが通せんぼする。
彼女たちからすれば気に入らない社員と気に入らない春子の大失敗が痛快な事態なのは確かでしょうが、時給貰っておきながら会社に仇なすようなことするのはどうなのか。事態の責任が明らかに東海林と春子にある以上、面と向かって咎めだてされることはないと踏んでの行動なんでしょうが。
そしてこの時「近さん、マイク切ってください」と一番素早く対応を考えたのが美雪だった。彼女の有能さが光る場面です。

・「悲しいことにキャリアを積んだ真面目なハケンから切られていくんです。」で始まる春子の嘆きをこめた言葉に会場中が静まりかえってゆく。
最初は面白がってた応援ハケンたちがすっかり沈み込んだ顔をしてることから、彼女たちがまさに春子が語る通りの悲劇を経た「キャリアを積んだ真面目なハケン」だったのがわかります。

・「そ~んなに義理チョコが欲しいんですか」「・・・欲しいに決まってんだろ!」との応酬に里中が「東海林さん・・・」と微笑む。要は春子がチョコをくれないことに拗ねてるだけ、「お前みたいなハケンいらねえよ!」と怒鳴りつけながらも言葉の奥には彼女への好意があると気づいたからですね。
しかしさらなる春子の返答は「福利厚生もボーナスもないハケンにたかるなんて間違ってます。大体私たちは、もてない社員の癒し係ではありません」。東海林は「私たち」じゃなくて「私」を問題にしてるんだが。わかったうえでわざと話をそらしてるんですかね。

・マイクが入ってたのに気づいてぽかんと口を開ける春子。彼女のこんな茫然自失の様が登場するのは初めてのこと。しかしマイク切りに行った近くんは何してたんだ?

・慌てて三人がフロアに駆けつけると、そこは義理チョコ購入を取りやめる客、買ったチョコを返品する客のオンパレード。その多くは春子の演説を聞いて「ハケンだからって社員に媚びることないんだ」と目覚めてしまったハケンの人たち。口上を読めばチョコ購入の意欲をあおり、ハケンの立場を切々と語ってはチョコ購入を留まらせる春子の声の影響力はすごい。
「ハケンの人って、こんなにたくさんいたんだね」という里中のシンプルな感慨が、労働力としても顧客としてもハケンに多くを頼っていながらその自覚の薄かった正社員の傲慢さをわかりやすく言い当てています。
しかしいつものようにハケンの利益を代表する発言をした春子が、そのゆえに自身のハケンとしてのモットー(この場合は定時までにチョコを売り切ること)に泥を塗ってしまい、かつハケンの側でなく社員の側の立場で右往左往するはめになったのは何とも皮肉なものです。

・東海林が駅前に客を呼び込みに向かい、里中がこの場の収拾に動く中、春子はまだ呆然と立ち尽くしたまま。あの春子が、という感じの意外な光景ですが、思えばこれまでのトラブルは全部他人の尻拭いで春子自身のミスは一度もなかった。
スーパーハケンであるがゆえにまさかの失敗には存外脆い。今回今までになく春子の欠点が抉り出されています。

・東海林について一緒にシルスマリオに謝りに行くと主張する春子。間もなく6時になろうとしてるにもかかわらず。
彼女のルールは「仕事を終えて定時にあがる」なので、「チョコをすべて売りさばく」というミッションをこなせなかった以上帰ることはできない。彼女の行動は見事なまでに首尾一貫しています。

・余ったチョコの片付けをする美雪と浅野のところへ、上がり時間の応援ハケンたちが挨拶にやってくる。
春子が東海林とやりあうのを聞いて再びやる気が出たという彼女たちは、これまでにない気持ちのよい笑顔で所信表明し、文句をつけてばかりいた美雪にもエールを贈る。営業面では大損害を出したものの、思いがけず結ばれた実もあることに美雪と浅野は笑顔を浮かべる。春子・東海林組の必死さと対照的な、ほの明るいシーン。
しかし前回も書きましたが、里中まで会社に戻ってしまったらこの場を仕切れる人間がいない気がするのだが。社員の浅野がいるからいいや、ということだったのか。

・シルスマリオ店内、春子と東海林は並んで土下座するが、社長は「取り込み中だから」とにべもない。
出産間近の娘が夕べ徹夜で働いたせいで今にも子供が生まれそう、などと言われては(まして当人が目の前で苦しんでるのだから)、普通なら何も言いようのないところですが、ここで今まで平身低頭してた春子が俄かに立ち上がり、この場で無事お産をさせるべく敢然と動き出す。
社長もその気迫に呑まれて「はい」とすっかり言いなりに動いている。すっかりいつものペースを取り戻した春子の姿が、逆転勝利のカタルシスを与えてくれます。

・春子にきつい口調で指示を出された東海林も「はい!」と力強く返事して従っている。こういうピンチの時に春子が何か始めたら、きっと場を最善の形に収めてくれるのを経験上知ってるからですね。
しかしこの時春子は東海林を「あんた」呼ばわりしている。今までは「ハエ」だの「天パ主任」だの言いたい放題のようでも「あんた」呼びはさすがになかった。時間外とはいえ今回は「残業中」なのだから社員として接するべきじゃないのか、という気もするが。

・あまりにてきぱきと状況を動かしていく春子に、社長は「あなた、S&Fのバイトの人じゃ・・・」と戸惑いの様子を見せる。そこへ春子は「助産師の、大前春子です!」と免許証を示す。ほとんど黄門様の印籠のようです。
この説明で春子の技術についてはとりあえず安心するでしょうが、その助産師がなぜ一般企業でチョコを売ってたのか疑問は深まるばかりだったでしょうね。

・穏やかな笑顔で「ふわー」と繰り返し妊婦の呼吸を安定させる春子。つり込まれたように社長も穏やかな笑顔になっている。陣痛に苦しんでいる娘(アユミ)の表情さえ穏やかになってきている。
春子に対する信頼感が親子を安堵させていくのが表情の変化に見て取れます。

・無事生まれた赤ん坊を春子は抱き上げ、アユミの隣に寝かせる。
この時社長がはじめて「ありがとう。大前春子さん」と彼女を名前で呼ぶ。「バイト」という肩書きでなく(助産師という肩書きでもなく)、一個の信頼できる人間として彼女を認めた瞬間です。

・「生まれた・・・」と泣き出しそうな顔で赤ん坊を見つめる東海林。
単にアユミや子供にもしもの事があれば責任問題だからほっとしたというのでなく、純粋に小さな命の誕生に感激しているように思えました。

・春子に里中の伝言を伝えた東海林はその後ずいぶん長いこと無言で春子をじっと見つめている。むしろ見とれているというべきでしょうか。この出産前後の春子の表情は母性的な美しさに満ちてましたから。

・店を出た春子は時計を見ながら「私としたことが・・・」と呟くものの、その顔は微笑んでいる。新しい命が生まれる手伝いをした(資格持ってるくらいで慣れてるでしょうけど)ことへの誇りと高揚感があるのでしょうね。

・オフィスに春子が戻るなりぱっと電気がついてクラッカーが鳴る。完全なサプライズ・パーティー。上の階まで飾り付けがしてあるのに驚きます。フロアのメンバーが帰ってからみんなで頑張ったんですね。
そして里中のかぶりものに笑う。「ついかぶっちゃいました」というあたり大した天然ぷりですが、「お誕生日おめでとうございます」と会釈しながらちょっと噴き出してるのは、自分でも照れくさかったんでしょうねえ。
結構ドライな近くんまでちゃんと参加してるのが感動的です。

・皆が乾杯の声をあげるのに「やめてください!」と怒鳴る春子。しかしその直後に「火事にでもなったら、危ないでしょ」と美雪の持つケーキのろうそくを思い切り吹き消す。実はそれほど嫌がってないようにも見えてしまう。さっきまで大人しくグラス持ってシャンパン注がれるに任せてたし。
ところでろうそくの数が6本なのは春子の年の下1ケタですかね。免許証を見た里中は彼女の年知ってるはずなので。だとしたらハケンの定年35歳を越えてしまってる(でもそれが何ら仕事の障りになっていない)わけですね。

・美雪は春子の誕生日ケーキを「義理チョコのお金で買ったんです。」 
彼女は結局里中にチョコ渡せなかった可能性が大ですね。浅野にいたっては確実に美雪のチョコをもらいそびれたに違いない・・・。

・春子が里中に「あなたは人の気持ちをちゃんとわかったうえで接待なさってるんですか。そんなことだから営業部から外されるんです」と暴言を吐くのを、「正しいけど・・・そこまで言うか春子ちゃん」とたしなめる小笠原。
バースデイカードの「あんたは本当はいい子なんだよね・・・」の「本当は」と言い、小笠原さん毎回悪気なく毒のあること言ってるような。

・マーケティング課+東海林によるバースデイカードの寄せ書。浅野くんの文字は間違いなく勝地くんの直筆だ(笑)。
近くんだけ手書きでなく印刷なとこ(パソコンが得意だからという以上に彼の皆から少し距離を置いたドライな性格を思わせる)も東海林のヘタクソなイラストや「ウェービータフガイ」の名乗りもそれぞれのキャラクターが表れている。
しかし東海林はいつ寄せ書きしたんだろう。喧嘩の実況中継以降はそんな余裕なかったはずだし、イベント会場でですかね。

・バースデイカードに水滴の沁みができ、バスが来ても春子は乗ろうとしない。
一人鼻をすすりあげながら泣いている春子の姿に、彼女が本当はS&Fのメンバーに情を移していること、それを認めまいと必死で突っ張っていることが感じられて、とても痛々しいです。

(つづく) 


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