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about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『キャットストリート』(2)-6(注・ネタバレしてます)

2012-09-03 23:11:40 | キャットストリート
〈第六回〉

・会社の玄関をくぐった浩一の携帯に電話が。今大丈夫かと聞かれて「これからプレゼン始まるんですけど」。敬語で話してるところからすると相手はスクール長か。今何が起こってるか考えてもいない緊迫感のない声が何だか切ないです。

・ドアを開けようとそのへんの物をぶつけてみる恵都。息切れしたところに別のドアからマーサが入ってくる。食べ物を差し出すが、恵都はそれを払い落とし牛乳瓶が砕けて割れる。「どうして、マーサ」尋ねる恵都に「ぼくは奈子さんに恩があるんだ」「奈子さんに拾ってもらって今まで仕事が続いてる」。元モデルだったというマーサがモデルを続けられなくなった理由は不明。モデル時代奈子とどんな縁があって拾われるに至ったのかも不明。
しかし「奈子さんは今苦しんでるんだ。ぼくは苦しんでる人が好きだ。高いところでいい気になってる人間よりね」と続くところからして、恩義があるからというより奈子本人への好意、彼女の苦しみへの共感から肩入れしてるように思えます。となると奈子や彼の視点からは苦しんでなさそうに見える恵都にはやはり反感があるのか。これまでの態度、この先の行動からすると決して恵都を嫌ってるようじゃないんですが。

・浩一も含めた三人+スクール長がリストンの庭に走りこんでくる。紅葉は恵都が本番前のトラウマに襲われて逃げたのではというが、浩一は冷静に「いや、それはないよ。あいつは戦ってるはずだ。きっとどこかで」。
以前PV撮影の時に逃げかけたのを知っているのに、今の恵都はそうはしないはずだと信じている。恵都が浩一を信じているのにも劣らない信頼の固さ。やはりいいバートナーだと思います。

・ロケ現場。主演他まだ待機中。「いい度胸してるわよね~」。恵都への怒りが充満してます。そろそろ始めようとスタッフが言い、監督は無言だが仕方ないかという雰囲気を出している。今後の恵都への風当たりが心配になってきます。

・部屋で座ってる恵都はヒールの音を聞いてドアに向かい、ドア越しに「奈子」と声をかける。ドアのあっちとこっちを同時に移すアングルで二人の会話と表情を追う。こうした手法をとることで会話の中での二人の感情変化を詳細にたどっています。

・「あなたが、立ち直ったからよ。あんたに負けたくなくてずっと必死だった」「でもいつも最後には言われたの」「おまえは恵都にはなれないって」「もう二度とあたしの目の前に現れないで。あたしがあんたを超えようと歯を食いしばってきた7年間、意味ないじゃん」。
血を吐くような奈子の言葉。彼女が恵都と比べられ続けたのは7年も前のことなのに奈子にとってずっと最大のライバルは恵都であり続けた。奈子も7年間恵都とは別の形で呪縛されていた。
恵都目線で見れば「私の行く手にもう一度現れたのは」奈子の方ですか(遊園地での再会のとき)、奈子にとってはマーサがオーディション会場で恵都と出会ったこと―恵都が再び自分のフィールドをうろうろしてたことを恵都側からの侵犯と感じてしまったんでしょうね。

・「意味なくなんかないよ。奈子が頑張ってきたの。あたし知ってるよ」「でもあたしも頑張ってきたんだよ。奈子の知らないところで。日の当たらない世の中の隅っこで」。
恵都が頑張ってきた「日の当たらない世の中の隅っこ」はリストンを指すのかそれとも7年引きこもってた家のことか。7年間確かに恵都は苦しみに耐えてはいましたが、その苦しみから逃れる、克服するために何か努力をしたわけではなかった(だからこそ7年も苦しむはめになった)。だから大事な仲間と出会ってその苦しみを乗り越え、失恋を乗り越え今まで経験がないほどの怒りや憎しみを経験しそれらへの対処法を学び、7年間の空白を埋めるべく子供がやるような漢字ドリルや料理などの一般常識の勉強、発声の練習にも取り組んでるリストンに出会って以降の生活を指してるとするほうが妥当そうです。
奈子や世間が人生の敗残者の逃げ場所、甘やかされた空間と見なすフリースクールは、自分にとって世間と戦うための足場であるのだと、そう宣言してるわけですね。

・恵都の言葉を聞きながら奈子は泣きそうな顔。その後ろで途中からマーサも聞いている。「怒りや憎しみで人に当たりそうになる。でもそれじゃダメなんだ。自分に勝たなきゃって。そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる。転んだら起き上がればいい。それも友達が教えてくれた。負けないよあたしは」。
穏やかだが芯の強さを窺わせる表情で言う恵都。ここまでやってもあきらめない、倒れてもまた立ち直ってみせると言い切る恵都にもうどうやれば勝てるのかもわからない。奈子が小さく嗚咽を始めたのはいわば敗北宣言といえるでしょう。

・もはや潮時と見たか、マーサは「奈子さんもうやめませんか」「彼女を痛めつけてあなたが気が済むならいい。それであなたが一歩でも前にすすめるなら」と言いながら奈子の体を強引にどかしてドアを開ける。
彼は最初から奈子の「気が済むなら」と恵都監禁に加担した。そんなことをしてもおそらく奈子は前に進めない、かえって自身を傷つけることになると察していながら。それはまさに奈子に恵都に敵意を燃やすことの空しさを知ってほしかったからでしょう。そしてもしかしたら恵都がへこたれず奈子に立ち向かってくれて結果奈子の呪縛を解いてくれるかもしれない、そんな一縷の望みもあったのでは。
そのためには恵都の都合は(気にしてないわけじゃない、十分申し訳ないとは思いつつも)完全に後回し。彼にとって一番大切なのは奈子だったから。結果マーサが狙った以上の効果があがったようです。

・マーサは恵都の腕をつかんで建物から出ていき、車に恵都を乗せる。「ありがとう」「奈子大丈夫かな」。この状況でマーサに礼を言い奈子を案じる恵都。優しさ-精神的余裕において完全に恵都勝利です。
「・・・大丈夫。・・・ぼくがそばにいるから」。これは恵都が「そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる」と言ったのを受けて、自分が奈子にとってそういう存在になると宣言してるんでしょう。これまでだって彼はずっと奈子のそばにいて、彼女がどんな我が儘を言おうと邪険にしようと彼女の味方でありつづけた。苦しむ奈子を支えるためせめて自分だけはどんな状況でも絶対的な味方であろうとしたんでしょうが、そうして彼女を甘やかしたことは結局奈子の苦しみを軽くすることには繋がらなかった。相手を思えばこそあえてキツい忠告もするべき、それでこそ相手を支えられるんだと恵都の言葉で思ったのかもしれません。
だからマーサは初めて奈子に逆らって、力づくで彼女を押しのけて恵都を連れ出した。それが奈子のためになると信じて。これだけ想ってくれる相手がすぐそばにいることを奈子が実感できるのはいつなんでしょう。自分が持っているものに気付かず恵都をうらやんでばかりいるのが奈子を不幸にしてるわけで、落ち着いて自分の回りを見回すのが今の彼女に一番必要なことなんだと思います。

・「いつか舞台で、仕事場でまた奈子に会いたいってそう伝えて」と恵都は言い、マーサは車を発進させる。一人建物の中で泣きじゃくる奈子。この涙が過去のしがらみ、今の苦しみを洗い流す、生まれ変わるための涙になればいいですね。

・ロケ隊が撤収するところにやっと恵都到着。スタッフ皆に詫びて回るがだれも返事をしない。それでも監督を追いかけて懸命に頼みこむ。「この仕事がどうしてもやりたいんです。もう一度よろしくお願いします」。
以前奈子は久々にやる気が出る役を奪われたとき無念ながらもそのまま諦めてしまった。もし恵都のように「この仕事がどうしてもやりたいんです」と監督に直訴でもしていれば、もしかしたら事態は違ったかもしれない。恵都と違って役を降ろすとはっきり言い渡されたのだから覆すのは難しくても、少なくともやる気が伝わって次の仕事に結びついたかもしれない。恵都は「あたしにはないガッツが奈子にはあった」と評したけれど、今やそのガッツ、役への執念も恵都が上を行っています。

・ちょっと間があってから監督は「今日おまえは全員を敵に回した。一度信頼を失った人間が信頼を取り戻すには人の十倍の努力が必要だ」と言い渡す。「頑張ります。私頑張ります」と強い目で訴える恵都に対して監督は何も言わないまま立ち去りますが、役を降ろすとは言わなかった。何も釈明をしない、遅れた事情を説明しないのは問題ですがその代わり言い訳もしない恵都を、もう一回信じようとしてくれてるのがわかります。
そういえば、この時点で恵都は事務所に所属もしてなければマネージャーもいないみたいですね。そもそもマネージャーがいたらマーサに送ってもらう状況にならなかったでしょうから。つまりフリーで仕事してる状態。それで映画のそこそこ重要な役についてるわけですから結構すごいことかも。そういやハンバーガー屋のバイトはどうしたんでしょう。完全にやめちゃったのかな。

・夜。帰り道の恵都。途中の階段に座って待ってた紅葉と剛太が気づいて駆けてくる。「どうしたの?」と驚く恵都。「どうしたもこうしたもないよ。撮影所に来ないっていうからみんなでさんざん探して」。
地下のろくに窓もないところに閉じ込められてたから携帯繋がらなかったのかと思ってましたが、「どうしたの?」という言葉からして、皆に連絡して助けてもらおうという発想さえなかったぽいですね(そう思ってできなかったんなら、「ああみんな知ってて捜してくれてたんだ」みたいな反応になると思うので)。一人で戦わなくてはという思いが強かったゆえかもしれませんが、そこは友達を頼ろうと思いついてもいいところ。たしかに「どうしたもこうしたもない」ですね。

・「警察に連絡しようとしたら園田奈子のヘアメイクだとかいう男が連絡してきて事情を説明してくれたんだけど、園田奈子のやつ、あいつ、どういうつもりだよ!」 
はたして恵都は自分の失跡についてどう説明するのか、奈子をかばって仲間にも言わずにおくのか、と思いめぐらしてたんですが、紅葉たちはすでに事情を知っていたという形にもってきました。恵都が自分でなんらかの説明をしなきゃいけない展開だと、言えば奈子を裏切るみたいだし言わなければ仲間に対して不誠実みたいだし、というジレンマが生まれるのでいい落としどころです。
マーサがあえて奈子のやったことをバラしたのは(マスコミにでもバラされれば一大事だというのに)警察沙汰にされたらなおさらまずい(恵都にその意図はないでしょうが、恵都を心配した周囲が早々に連絡してしまう可能性は大いにある)という配慮でしょうが、それだけなら全部正直に話す必要はない(自分の独断で、とか奈子をかばうこともできた)。これはマーサなりの恵都周囲の人間に対するせいいっぱいの誠意だったように思います。

・浩一は恵都の無事を聞いて先に帰った、恵都を捜すためにゲームソフトのプレゼンすっぽかしちゃったみたいだと聞いて目を見張る恵都。自分の責任とはいえないにせよ、結果的に自分がさらわれたために浩一のチャンス(リストンの経営危機を救うためだけではない、彼自身のキャリアにとってもチャンスだった)を潰してしまったのだから、そりゃショックですね。

・浩一の家を訪ねる恵都。まだワイシャツでネクタイ緩めただけの姿の浩一が出て、驚いた顔をする。勝地くんがスーツ着る役のときは短髪のことが多いですが(サラリーマン役の一環としてスーツ着るケースがほとんどなので必然的に短髪になりがち)、長髪にワイシャツネクタイの取り合わせが(『カムフラージュ』もそうでしたが)似合う似合う。あまり見る機会がないのが残念なくらいです。
・「ソフトに欠陥が見つかったんだ。今それを直してるところだから気にしなくていいよ」。要は恵都の行方不明騒ぎに関係なく自分のミスゆえにプレゼンに行かなかったのだというニュアンスの発言。無表情だが優しい声音です。見え見えのこんな嘘で恵都の気持ちを楽にしようとしてくれる。本当に後にいくほど浩一は優しくなっていきます。それも恵都の影響か。

・「何か作ろうか」という恵都に「洗剤で米、洗うなよ」。まあ前科がありますからね。「あたし覚えたよ。ごはんの炊き方」。浩一がちょっと驚いた顔をする。「お味噌汁のつくり方も」「ちょっとずつできないことを減らして。できることを増やして。浩一のおかげだよ。浩一とみんなの」。ちょっと微笑む。ちょっとずつ、でも確実に一歩ずつ進む。何事につけそれが一番大事なんですよね。
浩一は少ししてから目をそらして「その年でそれくらいのこと、できなきゃ仕方ないだろ」と水を差すようなことを言いますが、それは「浩一のおかげ」と言われたことへの照れ隠しなんでしょうね(あとからちょっと反省してるみたいな顔してるし)。ぶっきらぼうになりきらない口調にもそれが表れています。
恵都もそれが浩一なりの照れの表現だともうわかっているからむっとしたり傷ついたりはしない。いつのまにか恵都の方が大人みたいです。

・「友達っていいねー。友達ってすてきねー」。「サニー」の歌を口ずさみながら料理する恵都。ちょっと前なら考えられなかった行動。恵都が完全に過去の傷を克服したのがわかります。ノリノリの恵都はだんだん振り付けまで入ってきて、キッチンの入口で浩一がそれを見てる。気づいて「あ」と止まる恵都。
「それから先、どうすんの」「えっと」。続きを踊ろうとする恵都の横をすりぬけた浩一が「踊りじゃなくてカレー」。ちょっと笑えるやりとりです。

・作り方を恵都が説明するのですが、「ルーを入れます」とか教則本口調になってるのが可笑しい。それじゃこげつくと浩一は冷静に指摘して(さすがに一人暮らしが長いだけある)あとは自分がやると交代する。恵都不承不承な顔。せっかく自分が料理作ると張り切っていたのに。家で何度か試してから再トライですね。

・浩一のパソコンの前に座って打つふりしてみる恵都。勝手にいじっちゃいけないと思うゆえの打つふりというより、多分本当に打ち方知らないんだろうなと思わせる。そこへ新着メールが。しかも開いちゃうあたりがタイミングよすぎです。

・「映画楽しかったね。お金いっぱい使わせちゃってごめん」 口に出して内容を読む恵都。ちゃんと漢字が読めるようになってる、とこんな場面ですがちょっと感動ものです。しかし「ダーリンへ プリンセスより」って(笑)。
この「浩一がバソコンでバーチャルデートしてた設定」、放映当時わりと評判悪かった記憶が。いわゆる「キモオタ」的行動ですからねえ。原作の“長らく血の繋がらない姉に片想いしてた”設定を(話が長くなるから)省いたのはいいとして、こんな形で浩一の恋愛ネタを持ってくるとは。恵都側から見れば浩一への恋心を自覚するためのステップとなるエピソードですが、それだけなら「身内の女の子とのやりとりを恵都が彼女相手と誤解した」みたいなところに落としてもよかったはず。
女に興味なさそうな顔して女と付き合いたい気持ちはあった、現実の女の子はめんどくさいけど、気分だけいいとこ取りできる恋愛はしてみたかった浩一が、そのめんどくさい現実の女の子(恵都は普通の女の子にありがちな面倒くささは希薄そうですが、別の意味で面倒ではありそう。お米洗剤で洗っちゃうとか男に無防備についてって監禁されるとか)との付き合いに踏み出せるほどに成長した、そういう部分を描きたかったゆえの設定でしょうか。

・一人夜の道をダカダカと歩く恵都。そういや誘拐事件のあと家に帰ってないのでは。両親こそすごく心配してるだろうに。
「私はものすごく早く歩いた。でないと今見たことが今知ったことが心に突きささってしまう。きっとあとですごく痛くなる」。恵都にとって浩一が友達という以上に特別な存在になっているのを視聴者にはっきり知らせ、かつ恵都も自覚に向かっていくきっかけとなるシーン。その場で吐き気を催し心の整理がつかず行方不明になった大洋への失恋のときに比べ、どうすればショックを少しでも軽くできるか考え実行してるあたり成長著しいです。

・リビングに戻った浩一が「あと十分くらいでできるよ」と声をかけるが恵都がいない。閉じてたパソコンを開けてメールが開いたままなのを見つける。この時点で彼は事態(メール読まれた)を察してたはずですが、追いかけもせずメールで釈明もしなかった。バーチャル彼女の存在を話すのが恥ずかしかったのか、それを告白することはそのまま恵都への気持ちを話すことに直結しそうでまだその覚悟が定まらなかったのか。

・リストンにやってきた恵都。紅葉と剛太が雑誌広げて何の映画見るか話してるのを後ろから見つける。「一緒に映画行くってのはさ、付き合ってることになるんだよね」。いきなりの言葉に振り向く二人。ちょっと気まずい感じ?
パッと離れた二人は「そ、そ、そんなんじゃ」と二人して否定気味ですが、あくまで「気味」であって完全否定でないあたりもう認めてるようなもんですね。はたしてお互い同士の間でははっきり彼氏彼女という合意ができてるんでしょうか。

・「銀座でご飯食べたりバッグ買ってあげたりするのも恋人にすることだよね」。いきなり自分たちから離れた、しかも妙に具体的な話を振られたことに首かしげる二人。一人歩き去る恵都を紅葉が追いかけ、「誰が誰と銀座行ったの?」と問い恵都が答えない前に「・・・浩一!?」と解答にたどりつく。なかなか鋭いというかそれくらいしか選択肢がないというか。
「違うよ。ていうか知らないしあたし。浩一がだれとつきあってるかなんて」。ここで否定したのは浩一がみなに話してない、偶然知ってしまった秘密を勝手に話しちゃいけないと思ったからでしょうね。肯定することで現実を認めるのがイヤというのもあったでしょうが。
浩一じゃないと聞いてじゃあ誰という風に紅葉は首かしげてますが、あとで浩一の家を訪ねてるのでやっぱり浩一のことだと察したわけですね。

・リストンの屋上。「もう二度と、人を好きになって傷つくのはいやだ。でも」「恵都。あなたは強くなったんじゃなかったの。今のあなたなら立ち向かえるんじゃないの。たとえどんな答えが待ってるとしても」。
台本開いて台詞練習しながら考えてる恵都。あわや失恋かという時にも目の前の仕事、やるべきことから逃げてない。恵都が本当に「強くなった」ことを感じさせる場面です。

・ロケ現場。恵都はロケバスに笑顔で「おはようございます」と入っていくが、中の会話が止まる。そして無視。想像された結果ではありますけれど。真顔になってメイク中の主演女優の隣りに座った恵都は「あの、誰か」とヘアメイクに話しかけるが、メイクの女はぎょろっとした目で「自分でやれば」と意地悪く笑う。見事な悪役演技です。結局自分でメイクやっんだろうか。

・一人浩一の家を訪ねた紅葉は浩一に(恵都が食べそびれた)カレーを振舞ってもらう。「浩一って付き合ってる人いるの」「人に言う必要ないだろう」「意外と経験少ないんじゃないのー浩一 ?」なんて会話が、もろに恵都のために探り入れにきた感じです。浩一もすぐそれと察したことでしょう。
浩一は横目で紅葉を軽くにらみながら「面倒なんだよ」「答えの出ないことは嫌いなんだ」と答えますが「それって自分が傷つきたくないんじゃん。結局プライドが大事なんだよね」と即座に返される。
浩一は呆れたように溜息をついて見せますが、急所をつかれたわりに傷ついたようではない。自分でももともとわかってる、特に恵都がメールを見て帰ったあとは改めて自分のそのへんの心理とずっと向き合ってたんでしょうから。

・立ち上がって「もう帰れよ。おれ仕事だから」という浩一に「恵都今頃メイクもおわってスタンバイしてるころかなあ」「恵都が今なにを求めてるかわかる?」「励ましてもらうこと。それから好きだって言ってもらうことだよ」とじわじわ押していく紅葉。「赤ん坊じゃあるまいし」と流そうとするのへ「恵都は赤んぼと同じだって言ったのは浩一じゃん」「7年ぶりにカメラの前で台詞しゃべるんだよ。足が震えるくらい怖いんじゃないかなあー」と追い打ちをかける。
浩一は顔をしかめますが、それから何か決意したような表情になり、立ち上がるとポケットに手を入れて「ちょっと買い物」と部屋を出ていく。なんだかんだ言っても彼も恵都との恋愛へ向かって一歩を踏み出すため誰かに背中を押してもらいたい気持ちがあったんでは。紅葉もそれを悟ってぐいぐい攻めてみたんでしょう。しかし鍵の置き場所を教えとかないと(外へ出ると自動的に施錠するタイプならいいけど)紅葉が帰るに帰れませんよ?

・マンションを出た浩一はいきなり全速力で走り出す。こんなに本気で走るの足のケガ以来なのでは。ていうか走れないわけじゃないんですね。

・雨のシーンの撮影スタート。シャワーが降る中を駆け出していく恵都。ヒロインに声を投げかける恵都のシリアス演技にスタッフもうなずいている。そして一発OK。監督は「声が出るようになったな。明日の撮影8時からだ。遅れるなよ」と暖かな言葉を。恵都の努力を認めてねぎらい、皆の信頼を取り戻せるだけの演技を彼女ができたとさりげなく伝えてくれる。さすが上に立つ人だけある心配りです。
恵都はちょっと笑顔になって「はい」とうれしそうに答える。いつも真剣な目真面目な顔つきで監督に向かってきた恵都がやっと監督に笑顔をみせられた初の瞬間なのでは。

・監督はスタッフに恵都のためにタオルを持ってくるよう指示する。監督を見送ってじわじわ笑顔になった恵都は明るくスタッフにお疲れ様ですと挨拶し、スタッフも今度はちゃんと返してくれる。これは彼ら自身が恵都の演技を認めたせいもあるし、監督の恵都への態度を見て彼女の扱いを考え直した面もあるでしょう。監督もそこまで考えて恵都にねぎらいの言葉をかけタオルを持ってくるよう指示したりしたんだと思います。

・ヒロイン役の女優がスタッフが渡したタオルを礼もいわず受け取っている向こうで、同じようにタオルを受け取った恵都は「ありがとうございます」と丁寧に返す。芸能界での立ち位置が全然違うとはいえ、スタッフにも礼儀正しく接する恵都が今後現場でどんどん評価が上がっていくだろうことを予感させます。
まあこのヒロイン役の女優も「お疲れさまです」と声をかけてきた恵都に「また明日ね」とちょっと笑って歩いていくのでそう悪い人じゃなさそうですが。あるいは今後芸能界で伸びてくる、あまり粗末に扱わない方がいい相手だと思ったんでしょうか。

・恵都は見物客の中に浩一の姿を発見する。浩一にしてみれば、紅葉に恵都は不安で震えてるかもなんて脅されて飛んできたら、恵都は堂々たる演技を披露してスタッフとも和気藹々という、心配して損したみたいな状況ですね。喜ばしいかぎりではありますけども。
それだけに「おれ必要なかったじゃん」的な、ちょっと居心地悪そうな表情したもののちょっと笑顔に。恵都も最初はこわばった顔(最後に会った時があれでしたから)だったものの、やがて薄く微笑んでいます。自分を心配してきてくれた、その事実をひとまず嬉しく受け止めることにしたんでしょう。

・夜。恵都が歩く少し後ろを歩く浩一。「よく頑張ったな」「うんすごい緊張したけど」「そんなふうには見えなかったけど。プロの顔になってた」。駅で漢字ドリル渡した頃ならエピソードのメインにもなったろうやりとりですが、ここではもっと肝心な言葉が待っている。二人ともその肝心なところをあえて外しながら仕事の話に逃げてる感じです。

・「あのね、浩一」とついに恵都が言いかけるのをさえぎって「おれさ、プライド高いし。マイペースだから女の子と付き合うの苦手なんだ」と浩一の方から切り出してくる。この台詞だけ取り出すと「だから付き合えません」と続きそう。
そもそも女と付き合ったこと自体あるのか、とも思いますが、考えてみればサッカー部時代はもてていたに違いない。ファンの女の子にうるさく群がってこられて、付き合う以前に苦手意識もっちゃったんじゃないかな。「だからネットで、バーチャルなデートしてた」「ごっこだよ全部」。この告白から「ごっこ」じゃない本当の恋愛に踏み出すわけですね。ともに星空眺める姿が彼らの洋々たる前途を思わせます。

・「うちすぐそこだからここでいいよ」「いや。送るよ玄関まで。大人のマナーだろそれ」。ただの“友達”なら必ずしも女の子を玄関まで送り届けるのがマナーということもないでしょう。今までも夜道だからって家まで送ってきたことなんてなかったし(恵都が二話冒頭で車に轢かれかけたときとかも)。
“男と女”だから女の子をエスコートするのが当然という、要は玄関でのお付き合い宣言より一足早くもう告白してるようなもんです。

・玄関というから玄関外かと思えば玄関の中まで入ってくる浩一。出てきた母親に目礼。ちょうど父親と知佳もコンビニに行こうと出てきて顔合わせてしまう。中まで入ったのは母親に挨拶するつもりだったんでしょうが、父親まで(さらに妹まで)出てくるとは浩一もよもや思わなかったでしょう。
さすがにちょっと気後れした顔になったものの、「こんばんは」「恵都さんとフリースクールで一緒の峰と申します。恵都さんとお付き合いさせていただいてます」。おおしっかり言い切った!恵都が堂々たるプロの顔で大勝負をものにしたのに触発されて自分を鼓舞した部分もあったか。

・驚いた顔で浩一を見る恵都。そりゃ抜き打ちもいいところですからね。こちらも動揺しつつも上がってお茶でもという母親に「今日はもう遅いので帰ります。」と浩一は出て行く。見送った恵都が正面に向き直ると父の困惑顔と知佳のショック受けた顔が。俯いてしまう恵都。
まさかの展開ですから恵都的には俯くしかない。言うだけ言って自分は帰っちゃうんだからある意味「言い逃げ」だよなあ浩一。そもそも親に宣言するより先にまず恵都にちゃんと告白しろよ。
・恵都が浩一を追ってくる。「何走ってきてんだよ。意味ないじゃんせっかく送ったのに」「でもどうしても言いたいことがあって」。ここの会話ちょっと距離離れたままで話していて、今さら他人行儀ぽなあと思ったら会話の流れに応じて距離を縮めていくための伏線でした。いい構図です。

・「嘘ついちゃだめだよ浩一」。この言葉に浩一はちょっとショック受けた顔に。そりゃメール読んで無言で帰った恵都の態度とかわざわざ家まで押しかけてきての紅葉の言葉とか、恵都が自分を好きなのはもう決定事項だと思ってたでしょうから。さらに「あたしたち付き合ってなんかないじゃん」と追い打ちをかけるような言葉に「そっか・・・」と力なく呟く。
こんな誤解されそうな言い方じゃ浩一が可哀想みたいですが、いきなりの宣言に驚かされた仕返しってことで(恵都にそんな意図はないでしょうが)相殺ですかね。

・「これから付き合うんだよ」。浩一も視聴者も一気にほっとさせてくれる一言。「浩一はいつもそばにいてくれたよね」「あたし、今まで浩一にしてもらうことばっかりで、してあげられることとか本当に悲しいくらい何もなかった。だからせめて今日はあたしから言わせて」「浩一、あたし、あたし、浩一のことが、好きです。付き合ってください」。
ゆっくり、本当に一言一言を一生懸命に考えながら口に出してるのがわかる恵都の告白。洒落た台詞より何より胸にずんと響いてきます。浩一幸せ者だなあ。浩一も真顔の感動顔でそんな恵都を見つめています。
そして無言で目の前に立って「こちらこそ、よろしく」と右手を差し出す。恵都はその手を握りかえし、そのまま二人は自然と寄り添い浩一が恵都を抱きしめる。二人の周りをカメラがぐるぐる回りながら抱き合う二人をじっくりと映す。駅の別れと並ぶ気合いの入った名シーンです。
・リビングで晩酌する恵都の両親。「泣いてるの?」「こんなこと心配できるようになったと思うとさ。ボーイフレンドだぞ」「そうね」。二人の会話が暖かい。恵都の場合7年間があれだっただけに何をやっても親に喜んでもらえる許してもらえるところがあって、また知佳がひがむんじゃないかとちょっと心配になるくらい。

・舞台でもう一人を相手に踊る剛太。客席で見てる紅葉たち。例のヒップホップコンテスト本番てことですね。客席の反応は上々な感じ。
剛太がコンクールに出た直接の動機は賞金でしたが、他はなんもないんでしょうか。大きな事務所から声かかるとか自動的にテレビ番組への出場決定とか。まあ新人賞ってものは往々にしてそれだけでは後のキャリアに繋がらなかったりするらしいですが(それを足がかりに積極的に売り込みしたり運良く向こうから声かけてもらえたりしないと)。
まあここはドラマでもあり、きっと(作中では描かれてませんが)どこかの事務所から声かかって華々しくデビュー、人気ダンサーへ、というルートを歩むんでしょうが。

・そして優勝者発表。剛太の名が呼ばれて恵都たち三人は微笑むが、喜びの一言をどうぞ、とマイクを向けられた剛太の姿に恵都たちの顔こわばる。応募から審査までの間、良くも悪くも吃音が発覚せず来ちゃったわけですね。
案の定声が震えてしゃべれない剛太。感激のあまり、というには不自然な様子にさすがに客席もざわつきはじめるところへ、紅葉が「剛太サイコー!さすがあたしの彼氏ー!」と大きく声をかける。これには恵都たちも剛太もびっくりですが紅葉は晴れ晴れとしたいい笑顔。
紅葉と剛太もいつのまにか自然と付き合ってるぽくなってた感じのカップルなので、もしかしたらこれは浩一の交際宣言同様の抜き打ち告白だったのかもしれません。

・紅葉の勇気ある、堂々たる宣言を受けて浩一が、ポーカーフェイスの彼としては嘘みたいにいい笑顔で、続いて恵都が大きく拍手する。浩一は恵都と本式に付き合い出してからまた一つ殻を破ったというか表情が豊かになったような気がします。ラスト恵都のステージで涙ぐんでたことといい。

・やがて周りにも拍手広がる。これでいい感じに収まったと思ったら、なんと剛太が一歩前に出てマイクを引ったくると「ありがとう」と一言だけながら震えずにはっきり告げる。紅葉の勇気ある行動に背中を押されて自分も、と奮起したのが伝わってきます。
紅葉は驚きの顔から笑顔になり、剛太も二重の意味で嬉しそうに頭下げる。これをきっかけに完全に吃音が治ってしまったりしないのも、かえって勇気が呼んだ奇跡という感じで胸に響きます。

・リストンの自室でダンボールを整理するスクール長の部屋に恵都たち四人がどかどか入ってくる。はっきり触れられはしませんが明らかに身辺整理、リストン廃業は決定したと示す光景です(実際にはこの建物が使えなくなるだけで規模縮小して営業は続けるとわかりますが)。
剛太がどもりながら「優勝した」。剛太の賞金の20万、紅葉がフリマで稼いだ金と恵都のギャラ、浩一のソフト売れたお金が次々差し出される。先にプレゼンすっぽかした会社なのかはわかりませんが、無事ソフトがものになったんですね。

・スクール長は「立派になったなあおまえら」と感慨にふける。自力でお金を稼ぐというのは一人前になったことのバロメーターの一つですからね。しかし「じゃあこうしようか。これから卒業式やろうか」とスクール長は思いがけない提案を。
一人前になった=卒業というのはスクール長的には当然の考えですが、スクールを存続させるため、自分たちの居場所を守るために頑張った恵都たちにしてみれば、卒業=リストンから追い出されるというのは不本意な結果としか言いようがない。「卒業式?」と問い返す恵都がちょっと泣きそうな表情になっています。

・スクール長は食堂で「それでは今から卒業証書を授与します」と各自にお金を返す。「それは全部君たちへの卒業祝いだ」。
自宅を新しいエル・リストンにするなら家賃はいらないでしょうが、改造費用とかもろもろの維持費は必要なはず。そんな時なのに4人もの、それもリストンに人一倍の愛着を持ってくれてる生徒たちを卒業させたうえ、貴重なお金も全額返してくれる。ここであっさり受け取っちゃうようじゃ確かにお話にならないんですが、スクール長の勇気ある決断が感動的です。

・「息子の話したことあったかな」。スクール長の事情については第3回で浩一の口からすでに語られていますが、この建物のオーナー(スクール長の理解者)というのが死んだ息子の同級生の親というのは初耳。もしかするといじめた当事者の親だったり?
そうではないとしても同級生の親というなら、いじめに苦しむ子供を見殺しにしてしまった罪悪感があっての行動だったのかもしれませんね。

・そのオーナーが去年亡くなった、だからもうすぐこの建物は使えなくなる、それは残念だが「だけど君たちにとって一番大切なことはこういう場所がもう必要じゃなくなるということなんだよ」「君たちはもう十分やっていける。自分の意志と力で」。
まだまだ手助けの必要な子のために我が家を改造してエル・リストンを続けるつもりと続けるスクール長。あくまでリストンは一時疲れた心を休め新たに羽ばたく力を育むための場所。その考えはストーリーを通じて一貫しています。

・「ここに来る子たちはみんな何か一個足りないものを抱えてる。その分人にはないものを持っている。おれはそう信じている。信じてやりたいんだ」。
確かに恵都も浩一も紅葉も剛太も人にはない才能をもっていた。フィクションだけに彼らの才能はわかりやすい形で示されていますが、それ以外の子供たちも、現実世界でフリースクールに通ってる子たちもきっと何かを持っているはず。そういうメッセージを篭めた、視聴者へ当てた台詞なんじゃないでしょうか。

・浩一は「ありがとうスクール長。おれたちエル・リストンを卒業します。これからは一人一人自分の足で歩いて頑張っていきます。な?」 
上で書いたように自分たちの居場所としてのリストンを守りたいために頑張ってきた4人にとって「卒業」は不本意な結末のはず。特にいち早くリストンの経営危機に気付いた浩一はそれだけ努力した期間も長かった。なのにその彼が真っ先にリストン卒業に同意する。それはスクール長の言う通り今の自分たちに羽を休める場所としてのリストンは必要なくなっている、リストンを守るための戦いを通して自分たちはリストンがいらなくなるくらい強く成長できた、その手ごたえをはっきり得たからでしょう。
それは彼のみならず4人に共通する思いであり、浩一もそれをわかってるから「おれたち」と発言したのだと思います。実際剛太・紅葉も続けて頑張る宣言しましたしね。
・そして最後の「な」は恵都の方を向いてとても優しい声音で言う。こういう何気ないところに二人が付き合ってる感が出てます。スクール長は一人一人の頭に手を置いて別れの挨拶。恵都は涙目の笑顔でそれを受ける。またとない素敵な卒業式です。

・四人で手をつないで並んで歩く。右から浩一・紅葉・恵都・剛太という並び順。恋人同士が手を繋がない並び順なのは4人の友情を示す場面だからですね。
「それでも人生の散歩道はまだ遥かで、あたしたちは迷うこともあるだろう。そんな時は隣りにいる友の手をそっと取ればいい。暖かな手がきっとそこにあるから」。エンディングテーマの映像を彷彿とさせる並んで歩く4人の姿も恵都のモノローグも実に美しい。見事な幕切れです。

・そして後日談とも言うべきラストシーンは恵都の舞台。恵都のメイクはマーサが手がけてる。恵都誘拐事件のとき「奈子のヘアメイク」と電話してきたそうだから奈子専属なのかと思ってました。二人の繋がりの強さからいっても普段はそうなのかも。
恵都の(大人になってからは)初舞台ということで特別に奈子が貸してくれたってことなんじゃないですかね。だったらちょっといい話。

・客席に浩一たち三人。離れて青山一家。奈子とマネージャーの姿も。さらにあわてて開演ぎりぎりに飛び込んでくる大洋。彼女同伴じゃないんですね。恵都はきっと二人分チケット用意しただろうから大洋もしくは彼女の方で遠慮したのか。
恵都にはもう浩一がいるんだし、何より大洋のキャラ(というか友達として恵都と自然に付き合いを続けたいという宣言内容)とそぐわない気がするんですが。

・そして開始のベルが鳴る。奈子はちょっと泣きそうな顔に。幕が上がる。セリで一人出てくる恵都。真剣に見入る剛太。胸で手を組み笑顔こぼれる(わくわくしてる感じの)紅葉。そして頬杖ついて一見クールそうでいながらもう涙ぐんでる浩一。
正直この表情にやられました。泣いちゃいますか!浩一は実に魅力的なキャラクターで、ここまでもいい表情がいっぱいありましたが、最後の最後でとどめをくらった感じです。民放の連ドラ枠で放送してたら、一気に人気沸騰していたかも。まあその場合、これだけの作品のクオリティは保ててなかったでしょうけど。

・ステージ中央に一人堂々と立つ恵都。過去の自分を思い出しながら、隣に立つ子供の自分と手を繋ぐ。過去を捨てる、忘れるのでなく、向き合いながら前に進んでいこうとするそんな決意が見えるようです。ライトを浴びて笑顔になり前へと走って大きく手を広げる姿も恵都の前途を象徴しているように思えます。


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『キャットストリート』(2)-5(注・ネタバレしてます)

2012-09-01 22:50:07 | キャットストリート
〈第五回〉

・「生まれてはじめて携帯電話を買った」恵都。リストンの庭で一人携帯をいじりながら「途方にくれるほどあたしにはなにもない。少しでも自分の力で七年間の空白を埋めないと」。
現代必須のコミュニケーションツールである携帯を買ったのもその第一歩ということですね。確かに今どき何の仕事するんでも連絡先として携帯なしってわけにはまず行きませんからね。

・紅葉と剛太がやってくる。人生初メールを送った相手は紅葉。紅葉いわく「よ、読みづらい」。
紅葉が剛太に渡した携帯の画面が映ると、なんと文字が全部ひらがな。浩一じゃないけど「これはひどい」。一応小学校4年までは学校行ってたんだからもう少しくらい漢字使えないものか。

・浩一にもメール送れと言われた恵都は戸惑った様子でまた今度と言ってしまう。いい別れ方とはいえなかったし、「一人でも耐え抜け」が彼のメッセージでしたからね。
「まだどうなるかわからないけど一人で頑張ってみるんだ」という恵都の所信表明は、浩一の名前を聞いて改めてその思いを強くしたからでしょうね。

・一人コンビニで買い物する浩一は恵都のPVが流れてるのを見つめ、その後雑誌棚の雑誌に「話題のPV女優 天才子役からヒッキーに」なる見出しを見つけてはっとする。
まあPVが話題になれば過去のネームバリューも含めて当然考えられる展開でしたね。学校まで批判にさらされるのは予想外でしたが。

・いつものようにリストンに来た恵都はみんなに妙に見られてるのをいぶかる。飛び出してきた紅葉はあわてた様子で事情説明しないまま恵都を連れていこうとするが、そこに女の子二人が二階から降りてきて雑誌をつきつける。
紅葉は雑誌を押しやり恵都には関係ないでしょと女の子たちを睨みつけますが、「関係なくない、そのせいでこの学校のことまで書かれてる」。しかもその内容たるやリストンが恵都を広告塔にしてお金儲けするいんちき学校だと。恵都が愕然と目を見開くのも無理ありません。

・カメラマンがリストン看板の写真を取りまくり、ちょうどやってきた剛太にもインタビューしようとする。剛太は何も言わず(言えず)スクールに入っていく。
リストンの中でも紅葉が恵都を奥へ連れて行くのを女の子たちがついてきてなおも攻め立てる騒ぎが起きている。紅葉が怒って向き直ったところへさらにカメラマンたちがどんどんと入ってくる。
恵都に気づいた彼らが写真を取ろうとするのを、紅葉が恵都を奥へ連れていき剛太はカメラマンを体で止める。不登校になった直接の原因はクラスメートのいじめでも、外の人間全般に対する恐怖心があると思われる剛太が恵都を守るためにその外の人間を相手に体を張っている。剛太の勇気が胸に沁みるシーンです。

・騒ぎの中スクール長がやってくる。すがるようにスクール長に寄っていく剛太。そこへカメラマンたちも群がってくる。出ていってくれとスクール長が言うのに「取材に来ただけじゃないですか」「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由。おまけに芸能人も」といけしゃあしゃあとしている取材陣。特に「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由」という言葉にはフリースクールという存在自体への揶揄、反感が篭っています。

・「そういう考え方が子供らを追い詰めていくんだろう。誰でもすんなり生きられるわけじゃない。道を見失うこともある。ここはそういう子供たちのための場所だ。あんたらが興味本位で来ていい場所じゃない」と強く言い切るスクール長。スクール長が一番格好よかったシーンかもしれない。
スクール長自身も自分の息子がいじめで不登校になり、最終的にいじめっ子たちに殺されたことでフリースクールを立ち上げようと考えた。自分の身近な人間が傷つかないかぎり、なかなか「逃げ場所」を肯定はできないものなのでしょうね。

・生徒の母親がスクール長に、夫からこんな騒ぎになる学校ならやめさせろと言われたと話に来る(子供自身は本意じゃなさそうでしたが)。こういう親は一人ではなかった模様。
改めて記事を読み腹立てた紅葉は出版社に乗り込もうと息巻く。ただでさえ経営が苦しいのにこのままじゃどんどん生徒がやめちゃう、という紅葉の言葉はすでに現実になりつつあります。
「そんなことしたって無駄だよ」と呆れたように言う浩一。おや浩一がエル・リストンにいる、さすがにこの騒ぎが気になって久々に顔を出したのか、と思ったら背景からして実は浩一の家に紅葉たちの方が出張ってきたらしい。ということはこの騒ぎでさえリストンに来なかったんですねえ。

・「なんでそんな冷静なの!エル・リストンがつぶれてもいいの!」と怒る紅葉。「だいたい薄情だよ。こんな騒ぎになってるのにスクール来ないしさ」。浩一は無言で恵都に目をやるだけで何も反論しない。しかしそれだけで何事か察した恵都は浩一の作業を邪魔しようとする紅葉を止める。
「もしかしてスクールのため ?急にソフトを商品化するってがーってやってたのってスクールの経営が危ないって知ってたからじゃないの」。恵都だけが早く浩一の真意に到達できたのは、これも浩一に対する根本的信頼感の強さがなせるわざなんでしょう。

・浩一はリストンのオーナーが亡くなったために経営が苦しくなった事情を語る。さすがはパソコンオタク、紅葉以上の情報通です。「そこに今回の事件でダメ押し」。
この一言がスクールの現状に責任感じてる恵都への「ダメ押し」になったらしい。「あたしもなんかする。スクールのためにお金儲けする」と恵都は決意表明し、紅葉は恵都のせいじゃないというが浩一は「いいんじゃない。あんな記事は放っときゃいいけど経営危機はマジだし」と恵都の「お金儲け」をむしろ推奨。
浩一は恵都を常に楽じゃないほうへ背中を押しますね。逆に紅葉(剛太も)の言動はたいてい恵都を甘やかす方向に向かってますが、それはそれで悪いことじゃない。恵都の辛さを我が事のように怒りかばってくれる紅葉がいるからこそ、心慰められた恵都は浩一のキツい助言を受け入れられるのでしょうし、恵都自身にも楽なほうに流されない強さが備わってきてますしね。紅葉と剛太がいて浩一がいることでちょうどいいバランスが取れてるんでは。厳父と慈母みたいな感じで。
・紅葉はちょっと考えてからみんなでお金稼ごうと言い切る。「紅葉は洋服やアクセサリーを作ってフリーマーケットで売ることになった」「剛太はヒップホップの大会に出て優勝賞金を狙う」「あたしは・・・あたしには何ができる?」 
リストンの看板を見つめる恵都は久々にやってきた浩一に出会う。いわく「資料置きっぱだったの取りにきた」。二人で門の前で話してるところに男三人組が。例によって恵都目当てらしく本当にいたと騒ぐが、続けて「ていうかあれ浩一じゃね?」「何あいつヒッキーになったの」。実は昔浩一を痛めつけたというサッカー部の連中だった。久々にリストンに来た日に限ってこんなのに遭遇するとは浩一もついてない。

・無視して門をくぐる浩一にからんでくる男たち。「おれたちのことバカだクズだ言いたい放題だったよな」「人生終わってんな」「終わらしちゃえば」。
これだけ言われながら毒舌の浩一が何も言わない。以前反省してたように、自分が言われて一番嫌だったひどい言葉を彼らにぶつけてきたことに引け目があるからか、ここで怒りに流されちゃいけないと思ってるのか。
おそらくはそれ以上にもっと単純な理由、一年も入院するほどの傷を負わせた相手に対する恐怖感で体がすくんでいるというのが正解なのでは。強いことを言っても、強がってみせてる分だけナイーブな男だと思いますし。
・いっさい反撃しない浩一と反対に恵都は一人走っていき、ホースを持つと勢いよく男たちに水をぶっかける。「人のこと言えるくらいあんたたちはすごいの!?浩一をバカにしたらあたしが許さない」。
前にも書きましたが、仲間を守ろうとする時の恵都の行動の思い切りの良さには胸がすく思いがします。たまらず門から逃げていく男たちに「バカー!二度とくんなー!」と叫ぶあたりも。
そんな恵都を窓から見てるスクール長。そして目を見張る浩一。基本クールな浩一がこれくらいはっきり顔色変えるのは初めてかも。それが次第に泣き出しそうな表情になっていく。微妙な表情変化が見事です。

・久しぶりにパソコン部屋にいた浩一のところにスクール長が。経営危機を心配する浩一にスクール長は浩一が気持ちを素直に出せるようになったことを指摘。「変わったな。とくに恵都がきてから」。この台詞にはさっきの恵都の奮闘とそれに対する浩一の反応を見ていたゆえの感慨も含まれてるんでしょう。
ここで振り向いた浩一がちょっと目を見開き驚いたような表情に。それも単純な驚きでなく動揺や照れも含まれた複雑な表情。無口とはいえない(長台詞も案外多い)けれど肝心な感情はもっぱら表情にのみ表れる浩一を演じるうえで勝地くんの表現力はまさに最適ですね。

・ハンバーガー屋のアルバイト募集のちらしを見て「逃げちゃだめ」と三回自分に言い聞かせて中に入ろうとした恵都は、出てきた店員にバイトさせてくださいと搾り出すように言う。芸能界でなく一般バイト方向に行きましたか。
その後報告メールを受ける浩一。「けいとです」とタイトル。全部ひらがなでバイト決まったことが書いてあるのを見て「これはひどい」と呆れながらも嬉しげに笑う浩一。決してバカにした感じではありませんが、でもその後ちょっと考えるような表情になっています。
バイトが決まったこと、それも他人にもまれて働くことを選んだ(浩一も紅葉も剛太も皆以前からの特技を生かした一人でできる作業を選んでる)恵都の勇気には素直に感心している、しかしこの漢字力のなさはどんな仕事をするにもマイナスになると危惧してるんでしょうね。

・恵都は自室で浩一の返信を受ける。「頑張れ」と一言だけ。でも読めない。
浩一は読めないと承知のうえであえて漢字で送ったんでしょうね(紅葉や剛太ならきっと恵都に合わせて全ひらがなで送るところだろう)。読むために辞書を引くことを覚える、それ以上に漢字が読めない不便さを知るべきだという親心でしょう。
・食事準備してる母は恵都がリビングで辞書を探しているのを見つける。最初から母親に聞かず自力で調べようとしたのは恥ずかしかったからにもせよ立派。
「読めない字があって」という恵都に「どんな字 ?」と尋ねた母は携帯を見せられ「お友達から?」「頑張れって」と教えてくれる。
この時母親はずっと笑顔ですが、「頑張れ」さえ読めない娘がさすがに心配にならなかったものか。頑張れと言ってくれるような友達が出来たことを単純に喜んでるだけでしょうか。

・リビングに入ってきた知佳は「あんたお母さんに言うことないの」「お母さんも、ちょっと普通になってきたからって遠慮しちゃってさ」「お母さんの気持ち考えろっていってんの。週刊誌にあんな記事が載れば心配するの当然でしょ」。きっと自分も迷惑したのにそれを持ち出さないのは知佳の成長か。
恵都はずっと家族と話す習慣を失っていたから素で親へのフォローまで気が回らなかったんでしょうが、両親があの状況で恵都に何も尋ねないのは確かに不自然ですね。そこを知佳が指摘したのは以前のように恵都への敵意で彼女を弾劾するためだけではなく、恵都と母の関係を正常化したいと(恵都のためでなく母のためだけだとしても)思っての行動のように見えます。

・「恵都ちょっとこっちにきて」と座らせた母は、スクール長から電話もらって事情を聞いて安心した経緯を話す。「ごめん心配かけて」「でも全部うそだから」「お金は大変みたいで。それであたしも友達も力になりたいと思ってる」「だから明日からバイトはじめるんだ」。
思い切り事後報告な恵都。未成年がバイトする場合は契約書に親のサインが必要だった気がするんですが、そこはどうしたんだろう。勝手にサインして出すなんて恵都は性格的にできないだろうし?

・翌日?外を歩く浩一は一人恵都の働く店の前へ。ろくな食事も食べずプログラム作りに邁進してる浩一も、さすがに恵都のバイト初日がどうなるかは気になった模様。
カウンターの恵都は「お願いします」とやや震え声でオーダーを奥に取り次ぐ。カップに氷入れたりしてる恵都を浩一は窓越しに覗く。出てきた料理に自分が作ったオレンジジュースを添えて「お待たせしました」と渡す恵都に客が札を出す。おっかなびっくりだけどまあ問題なくやってる感じです。
しかし店の従業員も客も誰一人恵都が誰なのか気付いてないんでしょうか。特に店の人はフルネームも(履歴書見たはずの店長なら学歴も)わかってるはずなのに。

・レジ゛を操作しておつりを返す恵都に後ろについた先輩が「声が小さい」とキツめの声で叱る。声が小さいのは単に接客にびびってるからかとこの時は思いましたが、映画のオーディションで声が出てないと言われる場面を見たあとだと、伏線だったのかと思えてきます。

・少し大きく声を出した恵都は動揺して釣銭を落とす。浩一があちゃーという顔になるがしょーがないなって感じで笑う。
そんな時マーサが登場。窓ごしに恵都の顔を確認すると(ここで浩一が訝しげにしてる)中へ入って床の釣銭さがす恵都に小銭拾って渡す。恵都はその顔を見て「マーサ」と驚く。
「学校行ったらここだって聞いて」とマーサは言うが誰が教えたんだ。浩一が面白くなさそうな顔で引き返していきますがやっぱり妬けるんでしょうか。前に一度見かけたヘアメイクの男だと気づいてるのかな。

・マーサは店の外で「映画のオーディション、知り合いに頼まれちゃったんだよね」と恵都にチラシを手渡す。恵都はバイト抜けてきたのか?PVはまぐれだと断る恵都に、受けるだけでもどう、こんなこと行っちゃあれだけどギャラだってケタがちがうし、と説得にかかるマーサ。ひょっとして恵都のバイト理由まで察しているのか。
「ギャラ ?」とつぶやいた恵都は、帰り道歩道橋?の上から踊る剛太を見つめて微笑み、そして決意の顔をあげる。剛太も賞金のため頑張ってる、あたしも稼がなきゃ、ということでしょうね。

・オーディション会場。大勢集まった中に恵都の姿も。配られた台本を開くが全然読めない。台本が読めないというのは恵都的には盲点だったんでしょうね。子役のときはお母さんが台本にふりがな振ってくれてたんだろうし。
そういやバイト先のメニュー表はちゃんと読めてるんだろうか。ハンバーガーショップはほとんどカタカナのメニューだから問題ないのか。

・思わず「どうしよう」とつぶやく恵都に周りの子がなんだろうと聞いてくる。「あたし漢字読めなくて」「だって中学で習う字ばっかだよ」「小学校しか行ってないから」「バカな子って多いのかねえ」。
まあこういう場だと小学校しか行ってないと言っても、芸能界の仕事が忙しくてなかなか授業に出られないという意味に取ってもらえそうです。

・「・・・あれ ?もしかして青山恵都 ?」 周りの視線がなんとなく恵都に。右隣の子も「マジで ?あたし子どものころファンだったよ」。
この会場に来てる子たちは多くはどこかの事務所に属してる、すでに多少のキャリアはある子たちばかりかと思いますが(主役のオーディションなんだし)、それでも過去の人と言っていい恵都にこれだけ注目集まるんだから、かつての恵都はよくよく名が売れてたんですね。

・右隣の子の台詞に奈子にも最初ずっと大大大ファンだったと言われたことを思い出す恵都。思わず立ち上がった恵都にその子が「待ってて。すぐ振り仮名ふってあげる」と微笑む。「この世界みんなライバルだっていうけどさ、いい作品を作りたいって思う気持ちはみんな同じなんだから」。
優しい言葉に「ありがとう」と安堵の笑みになる恵都。なんか悪い予感の漂う展開です。

・恵都の版が回ってくる。「よろしくお願いします」と一礼して台詞をシリアスに読み始めるが、審査員がみな顔しかめて台本に目を落としたりしてる。ついに途中でストップをかけられ「君ふざけてんの?」。
「え?」と台本見直して固まる恵都。向こうの椅子で順番待ちしてる例の女の子たちが笑ってる。ああやっぱりこうなったか。「たまにいるんだよねこうやって目立とうとする子」「だいたい発声がだめだって。子役辞めて何年経ってるの」など口々に否定の言葉をあびせられる。
PVとは違うんだから勉強し直した方がいいよ、とも言われてますが、確かにあのPVは台詞がなかったので漢字読めなくても発声ダメでも関係なかった。あの仕事以外だったらあの時点の恵都に代役務まったかどうか。

・「監督すみません変なのまぎれこんじゃって」と審査員の一人が笑いながら詫びてますが、監督は案外真面目な顔で履歴書?を見直してる。あとでリストンを訪ねてきたときの感じじゃ、客寄せパンダに恵都を使おうというのは上の判断で監督はいやいやみたいでしたが、ここで恵都に注目してるぽいシーンがあるのは何なのだろう。
本当は恵都の7年間の経歴(のなさ)、にもかかわらずある程度のクオリティを保っていたことに見るべきものを感じて、客寄せパンダだからってことで回りを説得して友達役に抜擢した、とかなんでしょうか。
・リストン屋上に一人立つ恵都は「ばかやろー!ふざけんなー!」と大声でさけぶ。恵都を嫌ってた子たちは今日は休みなのか何も言ってこない。騒ぎが収まるまでは登校を控えてるかもしくはすでに辞めちゃったとかなのかも。
「うるせえよ」と庭を歩いてきた浩一が言う。またリストンに顔出すようになったんでしょうか。恵都がどうしてるか気になったから?

・「ほんとうにうるさい?」 「うるさい」と答える浩一が訝しげなのは恵都が「うるさい」と言ってもらいたがってるようだったからですね。
恵都は「発声がもうだめだっていわれたー」とまた叫ぶ。ということは浩一にオーディションのこと知らせてたんですね。「ぜんぜんダメだって。勉強しなおせって」。「それで?どう思った?」と浩一が問い掛ける声が何だかとても優しい。恵都が叫びつづけてるだけにコントラストが鮮やかです。

・「かーって胸のところが熱くなって初めての気持ちでわけわかんなくて」。ここで「悔しかった。このままじゃ終わりたくない」とモノローグ。
ダメだと言われて落ち込み諦めるのでなく、悔しい終わりたくないと感じる。怒りや悔しさは人が行動し成長するうえでのまたとない原動力。この二つをしっかり持っている恵都はきっと挽回するに違いないと確信させてくれる。
こうした恵都のバイタリティを見るにつけ、子役時代奈子の裏切りに打ちのめされ7年も引きこもってしまったのが信じられない気がしてきます。それだけ当時はお母さんに頭押さえられて萎縮しきって生命力が弱まってた、フリースクールに通ってることで世間的には敗残者と見られてる今の方がいい友人もできて心が強くなってるってことでしょう。スクール長がエル・リストンに託した願いを一番体現してるのが恵都なんじゃないでしょうか。

・駅での別れ際に浩一が何か袋を渡してくる。「一応。小3から中1まで買っといた」。出してみると漢字ドリル。「間違えた漢字は20回は書く」「うん」「わからなくてもすぐ後ろの答えを見ない」「うん」「腹筋も毎日30回」「ありがとう浩一」。浩一は無表情に見えるがちょっと照れてるような。言い方も事務的に聞こえますが恵都への気遣いが詰まっています。

・「それより紅葉にメールしとけよ、心配してたぞ」「うん。あ、マーサにも謝っておかなきゃ」。ここでわずかに浩一の表情がこわばり、「じゃ」と去ろうとする。「え、もう?」「忙しいから」。
恵都にこのへんの機微はまだわからないでしょうね。浩一も剛太には全然妬かないんですけどね。

・「本当にありがとう」と後ろから声かける恵都に浩一は振り向かず足も止めず。恵都もちょっとさびしそうです。踵を返しエスカレーターに向かおうとすると、ちゃらちゃらした男が「こんなとこでなにしてんの」と声かけてくる。駅にいる人間に何してるもないもんだ。
無視して向こうに行こうとする恵都の肩を男がつかんでくる。その手は割とすぐに離れるのですが、後ろ向いたままの恵都が理由に気付くのはもう少しあと。

・今度は肘を掴まれてはっと振り向いた恵都はそこに浩一がいるのを見る。男は「男連れか」と面白くなさそうに去っていく。結局浩一も恵都を無視するような態度取ったの気にして振り向いてみた(だから男に絡まれてるのに気がついた)わけですね。
しばらく無言で視線をさまよわせていた浩一は「わからなかったら、してもいいから」と唐突に言う。意味わからずきょとんとする恵都に、意を決するようにちょっと眉根寄せて「電話でも。メールでも」。なんかこう、素直じゃないところが可愛いんですよね浩一は。「・・・たぶん、すぐするよ」「すごく、いっぱいするよ」。逆に恵都は実にストレート。でもお互い別の形で不器用。なんとも微笑ましい。
ちなみに浩一は恵都のたどたどしい台詞のあいだ、無言真顔だが情熱を秘めたような目で恵都を見る→ちょっと目が微笑む→目をそらし口元も笑う、と表情が変化していき「してもいいけど、句読点、つけろよ」。ああほんと微笑ましいです。
浩一の言葉にしばらく目をさまよわせる恵都。何か言いたげにしばらく唇を動かす浩一。そして「がんばったな、オーディション」の言葉に恵都の目がうるむ。浩一も優しい真顔。恵都の右頬を涙が伝う。二人の表情をかわるがわるじっくりと捉え微妙な感情の機微を描く。
そして最後は夕日の中立ち尽くす二人のシルエットを斜め上(エスカレーター上)から見下ろすアングルの美しい画面で締める。このドラマの白眉というべき名シーン。

・学園ドラマ?の撮影現場。一人端の椅子で台本を読んでる奈子のところに足早にマーサがやってきて横にかがみこみ、「オーディション落ちましたよ青山恵都」と報告。「そおお」と気がなさそうに答えた奈子はちょっと笑って「この台本結構いける。久々にやる気わいてきた」。
「久々」なのか。奈子がやる気を失ったから演技が叩かれてるのか演技を叩かれるからやる気を失ったのか。ともあれ一時的にせよあれだけライバル視してた恵都のこともさほど気にならなくなってるようなので、悪循環を断ち切り女優として評価を取り戻すチャンスだったんですけどね。
・少し離れたところで奈子のマネージャーが携帯で「待ってください。奈子もせっかくやる気になってるしスケジュールだって空けてるんですよ」と不穏な会話を。電話切られたマネージャーは意を決したように奈子のもとへ歩いていく。
「この役気に入った。クランクインいつから?」と尋ねる奈子に「・・・ごめんね奈子。その役なくなった」。変に言いよどまずきっぱり言い切るのは、どう優しく言っても役がなくなった事実は変わらない、しっかり受け止めさせないと、という彼女なりの気遣いでしょう。
あんな騒ぎを起こしたのに事務所内で仕事干されてるでもない奈子は、多分小さな事務所一番の稼ぎ頭なんでしょうね。その奈子がこれだけ低迷してたら事務所全体も危ういんじゃないのかなあ。

・マーサも含めしばし沈黙の後、「急にスケジュールが変わっちゃって。困るわよね。ちゃんと言っといたから」と目をあわせず手帳をめくりながら言うマネージャー。
「違うんでしょ」「はっきり言ってよあたしじゃダメだって言われたんじゃないの」。奈子に詰められて「・・・その通りよ。もっと旬な子が欲しいって」とやむなく教えるマネージャー。
泣きそうな顔になってスタジオを出てく奈子。ずかずか歩いて前にいた子を突き飛ばしながら謝りも振り向きもしない。ショックなのはわかりますが、こういうところで評判落としてますます自分を追いつめてるんじゃないのかなあ。この役降ろしの一件がなければ、恵都を閉じ込めようとまではしなかったでしょうに。

・リストンに笑顔で入ってきた剛太はベンチで本読んでる恵都の肩を後ろから叩く。「な、な、何の本」「オーディション。こうなったら受けまくってやろうかなって」。おお気合いが入っている。ドリルと腹筋も頑張ってるんでしょうね。

・そこへ紅葉が走って部屋に入ってくる。「ごめーん !集合かけておいて遅刻した」「フリマ用の服が出来たから見てもらおうと思って」。
このときなぜか剛太は笑いながら出ていこうとする。「剛太逃げるの」と牽制した紅葉は「紅葉ブランドメンズ部門オープンしましたー!」と黒いレースの服を見せる。顔ゆがめて後ずさりする剛太。そんなに嫌なのか。それほど悪いデザインじゃないと思いますが、まあヒップホップ的感性とは対極な服って気はしますからね。

・剛太を追いかけて強引に服を脱がす紅葉。裸になった上半身に恥ずかしがる剛太と意識したのか立ちつくす紅葉。初めてこの二人の間にわかりやすいフラグが立った瞬間です。

・そんなところへスクール長が来て「恵都。お客さん」。訝しげに恵都が食堂?に出て行くと男が二人掛けている。一人が立ってきて「いやーこの間はお疲れさま」。座ってるもう一人は恵都の履歴書を見返していた審査員。ここでこの人が例の映画の監督だったとわかります。腕組みして難しい顔してる姿から頑固そうな人柄を台詞のないうちから予感させます。

・「実はあれから相談して、やっぱり青山恵都ほどの子を落とすのはもったいないと」「どうかな。主役じゃないけどその親友役をやる気はある?」 あたりさわりない表現を選ぶ男と反対に監督は「言っとくが欲しいのは君の演技力じゃない」「元天才子役で今は引きこもりの青山恵都。話題作りのための依頼だ」。
あまりにストレートな発言にもう一人の男が頭抱えたそうな顔をする。さらに続ける監督をさすがに男がさえぎり監督も「まあいい」と黙ったものの「とにかく君は単なる客寄せパンダだ。それでもやる気はあるか」とダメ押しのひどい言葉を。しかしこれは監督なりのフェアプレー精神ゆえだと思います。恵都に彼女の置かれた立場、回りの見る目をはっきり知らせたうえで、それでもやるか、という。
恵都はしばし黙ったもののしっかり目をあわせて「はい」と答える。監督はこの時点で状況を弁えつつも自力で立ち直ろうとしている恵都の決意のほどを見定め、彼女を気に入ったんじゃないか。だから後で結果的に撮影初日をすっぽかす形になったときもチャンスをくれたのでしょう。

・部屋の入り口で心配して見てる紅葉と剛太。監督たちが帰るのとちょうど入れ違いに浩一が外から入ってくる。剛太が浩一の腕つかんで恵都の方を指差す。興奮ぎみの剛太に対し紅葉は「恵都。大丈夫なの?」とまず心配そう。しかし「やってみる」と恵都は静かな笑顔で告げる。覚悟完了済みってことですね。
「それから私たちは、びっくりするぐらい頑張った。それはもちろんスクールのためだったけど、自分たちのためでもあるとわかりはじめてて」。リストン=自分の大切な場所をあって当然のものと思うのでなく守るために戦おうとする。はからずもリストンの経営危機が急激に彼らを大人にしています。

・ついに撮影初日。恵都が台本持って家を出ようとするとリビングのドアが開いて心配そうな両親が出てくる。あせりがちな声で頑張れよという父、頑張れなんていったらだめだという母。恵都は振り向いて「知ってたんだ」。
ていうか知らせてなかったのか。バイト始めたことを話の流れとはいえ報告した時点で、これからはちゃんと自分のやってることやろうとしてることを親に話すようにするかと思ってたんですが。芸能界に復帰するなんていったらバイトの比じゃないくらい心配させると思ってあえて秘密にしたんでしょうか。

・笑顔になって「ありがとう」という恵都を両親は「頑張れよ」「行ってらっしゃい」と見送る。駅でも皆が見送ってくれる。浩一はなぜかスーツ姿。電車の乗り換えなどが心配だという紅葉たち。「浩一がついてってくれるっていうから安心してたのに」「・・・悪かったな」「仕方ないよ、浩一だってすごいチャンスなんだから」。
何でもこれからずっと作ってたゲームソフト買ってもらえるかどうかのプレゼンに行くそう。思えば元子役の肩書きがあり学歴はあまり関係ない(今回の仕事など引きこもりだったことが逆に売りになった)恵都、フリマに出品する紅葉やヒップホップコンテストに出る剛太と違って、一番高校中退(休学?)の学歴が問題にされそうなのは一流企業(建物からの類推)に営業しようとしてる浩一ですね。
彼もなみなみならず緊張してるはずですが、それを出さずに恵都を応援してくれる。浩一も本当の意味で強くなっていきつつあります。しかし電車の乗り換えが心配なら紅葉や剛太が代わりについていくってことにならないのか。

・「頑張ってね。先に頑張ってくるね」おどけて敬礼する恵都。それぞれの返答。浩一は無言で少しうなずく。
会場へ向かう恵都のそばにマーサの車が止まる。送ってくよといって恵都を車に乗せてくれる。何度か面識のある相手、それもメイクしてくれたりリストンまで送ってくれたりオーディション紹介してくれたりプラスの事をしてくれた相手だけに恵都も気を許してしまってますが、車の扉を閉めるときのマーサの顔は冷たい感じ。あの表情を見てたらさすがに警戒する気になったでしょうか。

・会社への階段を上がる浩一は車の耳障りなブレーキ音に足を止めて振り返る。虫の知らせというべきか。視聴者も悪い予感をあおられます。

・恵都は「結構遠いんだね」「ここで撮影?」「ねえ場所がここってだれに聞いたの。確認してみたほうがいいんじゃ」と不安気な言葉をたびたび口にする。マーサの様子や場所の雰囲気に不審なものを感じてるんでしょうね。どのみち車に乗っちゃった時点でまずアウトですが。

・マーサの後について部屋に入った恵都は後ろから奈子が現れたのに驚く。「つくづくしぶといよねあんたって。つぶしてもつぶしても出てくる」。
恵都の自信を失わせるためにわざと出来レース(本当は誰が選ばれるかもう決まっていた)のオーディションをマーサに勧めさせたのに予想外に他の役で抜擢された事情を暴露する。あの時点では恵都に芸能界復帰の意志はなかったんだから、正直余計なことしなければ恵都は普通にハンバーガー屋のバイト続けてたはずなのに。失踪騒ぎの時といい、結果的に奈子が恵都にチャンスを与えてしまってるんですよね。
本人もその自覚があるから、まして自分が気に入ってた役を失った直後に恵都の映画出演が決まったものだから、それでキレちゃったんでしょうね。

・「さすが、腐っても青山恵都」。恵都の側に歩み寄る奈子。横顔同士のアングルが子役時代の「友達一人もいないなんて気持ち悪い人」のシーンをちょうど二人の位置を反転させて撮った構図にしてある。
明らかに意識的に構図を踏襲しながら二人の位置が逆になっているのは、二人の立場が当時と逆転している、あの時はポジション的に追う立場だった奈子が恵都を追いつめていたが今度は追う立場の恵都が結果的に奈子を追いつめてることを示唆しているのでは。

・「行かさないよ。撮影なんて」。出ていこうとする恵都に先回りしてマーサが扉を閉める。「今度はあんたが苦しむ番」「あんたの居場所なんて、あたしがぶっ壊してやる」「あの雑誌に記事を載せたのはあたし。目障りなんだよ!あんたもあいつらも」。
次々と酷い言葉を並べる奈子をひっぱたく恵都。「あたしに何したっていい。けど仲間を傷つけることは絶対に許さない」。殴り返した奈子は「あんたなんていなくなればいい」と泣きそうな顔。
おそらく彼女視点では敗残者のはずのフリースクールの人間が自分よりよほど生き生きしてる、かつて友達がいないことがコンプレックスで叩けば簡単にへこんでしまった恵都が仲間のためにこうも強くなったことが奈子にはたまらなく辛かったんでしょう。

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『キャットストリート』(2)-4(注・ネタバレしてます)

2012-08-31 00:44:46 | キャットストリート
〈第四回〉

・「あたしがこの世界目指したのは恵都がいたからだし。約束してたんですよ。ずーっと親友でいようって」。ぶりっこ声でテンション高く話す奈子。「おぼえてません。やめてください。やめて」。それだけ言って走り去る恵都。冷ややかに見送る奈子を意味ありげな目で見る浩一。
奈子との関係を聞かされてなくても二人の顔色と話の流れである程度察してる感じがします。

・一人リストンの屋上で下を見てる恵都。「やっぱりな。ここだと思ったんだ」。浩一を筆頭に皆がやってくる。スクール長まで混ざってます。いわく「みんなぞろぞろ階段あがってくから何かと思って」。
そんなスクール長に「いてもいいけど変な茶々入れないでくださいよ」と浩一はえらそうなコメント。発言だけ聞くと何様感がありますが、なんかちょっとユーモラスです。

・「恵都、さっきの何?ていうか恵都と園田奈子って何かあったの?」「あったよ。ずっと昔ね。でももう奈子は忘れてるのかもしれない」。それから恵都は二人の間にあったことを話す。
紅葉は怒り心頭だが浩一は「おれはあの奈子って女が特別ひどいとは思わない」「あいつはさ、どうしても恵都に勝ちたかったんだよ」。そしてサッカーでも勝つためにはいろいろある、フェアプレーばかりじゃない、「でもそういうの上手くやりすごして乗り越えていかないと一流とは言えないんだ」と語りながら恵都の隣に来て座る。「子供でもプロだったんだろ。だったらプロらしく堂々と渡り合えばよかったんだ」。
浩一の発言に、紅葉は恵都がこの話をできるようになるまでに何年かかったと思ってるんだと怒る。確かに恵都を7年もの引きこもり生活に追いやったほどのショックな経験を他人の浩一がとやかく言うべきことじゃないのかもしれませんが、彼のキツい、だけど一理も二理もある言葉を噛み締めてそれに答えるよう行動することで、恵都は確実に強くなっていっている。
恵都は浩一のキツい助言を必要とし、浩一は一言多いと取られがちな自分の言葉をちゃんと飲み込み答えてくれる恵都に救われている。まさにベストパートナーですね。

・翌日奈子がスクールに現れる。スクールの子たちにサインくれと囲まれていた奈子は、恵都を見つけて寄ってくる。
昨日はごめんなさい、あたしもプロデューサーに言われて何がなんだか、と言う奈子に生徒が「奈子さんと恵都ってお友達だったんですか」とテンション高く尋ね、奈子はそうなの、ミュージカルでダブルキャストだったのと嬉しそうに語る。
以前仲良しだったことを強調することで、現在の自分と恵都の立場の違いを見せつけ、かつ恵都が周囲からあれこれ「サニー」のことを聞かれて居心地悪くなるよう仕向けてるのでしょう。つくづく策士。

・奈子の横をすり抜けて向こうのテーブルに座る恵都。追ってきた奈子になぜここがわかったのか聞くとスタッフが後をつけてたとのこと。これ本当はマーサから情報を得たから知ってたわけですよね。二人の繋がりが明らかになるのはもう少し後のこと。
・「でもあたしからあの企画は放送しないって、お願いして約束してもらったから」「許してくれる?」と下手に出る奈子に「うん」と恵都は答え、「よかったー」と奈子は恵都に抱きついてくる。
恵都は固まった顔になるが「あたしと会えたことも喜んでくれるよね?」と言われ、後ろで皆が見てる手前もあり、「うん、久しぶりだよね」と何事もなかったように微笑んでみせる。さすがに人のいい恵都とはいえ、奈子のいかにもな友情ごっこを本気にしちゃいないでしょう。
奈子のほうも見抜かれてるのを承知のうえでメアド交換しようなどとさらに恵都を追いつめにかかりますが、さっきからずっと見ていた浩一が割って入り、恵都をパソコン部屋に誘う。「行く」とシンプルに答えた恵都の表情に、彼女がいかにほっとしたかが現れています。谷村さんはこうした表情の作り方が上手いですね。

・「パソコン部屋なんてあるんだ。あたしも行っていい?」という奈子に、浩一は背中向けたまま「だめ」とにべなく言い切り、さらに振り向いて「あんたは邪魔」と追い打ちをかける。
周囲、特に一般人からはちやほやされ慣れてるだろう奈子にとって、面と向かって「邪魔」呼ばわりされるなんてそうそう経験ないでしょうね。

・パソコン部屋に恵都を連れてった浩一は「おまえ、無理に笑うなよ。いったい誰のために笑ってんの。ていうかさ、嫌なことは嫌ってはっきり言えよ」「もうそろそろ乗り越えろよな。おれたちもいるんだし」とまたも強めの忠告を。でも恵都への思いやりが伝わってくる言葉です。「おれ」でなく「おれたち」ってところに彼の照れが感じられる気もします。

・紅葉と二人帰る途中、大洋と平野のツーショットを見かけた恵都。紅葉はかわいいお店があるからと別の道に行こうとするが、恵都は無言で横断歩道を渡る二人の後を追い、おはようと自分から声をかける。「いいなあこんな早くからデート ?」と笑って話しかけるところに、失恋の傷は完全には癒えてないながらも乗り越えていこうとする恵都の前向きな気持ちが表れています。
平野も「うちのチーム今度大きい試合に出ることになったの」と気安く声かけてくる。大洋からどの程度恵都のことを聞いてるかはわかりませんが、大洋の気持ちを汲んで恵都に邪険にせず彼の友達として受け入れようとしてるように見えます。平野は原作ほどは活躍しませんが、キャラ的には同じようにいい子ですね。

・また二組に別れた後、彼女とコンビニに入った大洋が窓ごしに恵都に何か言ってガッツポーズ送ってくる。さっきあまり喋らなかったのはやはり平野にちょっと遠慮があったのかもですね。
恵都も自然と笑顔になりますが、大洋が遠ざかった後また暗い顔になってその場にかがみこむ。前のことがあるだけに紅葉は心配しますが、「ちょっと胸が痛いけどもうあたしは昔のあたしじゃないから」と恵都は荒い息を整える。
そして「あたしも頑張らなきゃ」と宣言。「でもなに頑張っていいかわかんないんだけどね」と付け加えつつも声は明るい。着実に成長してゆく恵都は眩しいほどです。

・そのまま紅葉とリストンに行くとマーサの車が来て「こないだはどうも。青山さん」と声をかけられる。紅葉はいぶかりながらも二人にコーヒーを運んで中に入り、彼らが二人で話せるようにする。
でもすぐドア向こうの席に座って話に耳をすませてるあたり、何かのときには飛び出して恵都を守ろうという気概を感じます。いい子だなあ紅葉。

・後から恵都が何者か思い出したというマーサは、暇なとき練習台になってほしい、もう仕事する気はないのか、今の方が可愛いしいけてると思うけどな、など恵都に芸能界復帰を促すような台詞を投げかけてくる。
うつむいて考えこむ恵都。自分に何ができるか何を頑張るべきかを日々考えてる恵都であってみれば、気持ちがざわめいて当然ですね。

・現場で時間待ち中の奈子のヘアメイクを手がけてるのはなんとマーサ。「会ってきましたよ青山恵都に。どうってことない子じゃないですか」「正直わかんないな。なんで奈子さんがそんな気にするのか」。
さっきまでとキャラが別人じゃないか。あれだけ恵都を褒めてたくせに。まあ出会い以来の態度的にうさんくさい感じはありましたが奈子のスパイだったとは。

・しかし恵都を落とすばかりでなく、「でもまあいい顔はしてましたけどね」「いや女優としてどうこうってことじゃなくて真っ直ぐで邪念がないというか。今の生活がきっとあれはあれで充実してるんですね」。ここで台本広げてる奈子の顔がメイク鏡に映りますが、ちょっと泣き出しそうな表情をしています。
マーサなりに恵都は今の生活で満足してる、芸能界に復帰する気はないから奈子を脅かすこともないと、奈子を安心させたくてこういう言葉を口にしたんでしょうが、苦しみの渦中にある奈子は恵都が幸せそうにしてるというところに激しい妬みと怒りを感じてしまった。結果的に後の騒動の種を蒔いた格好です。

・恵都が帰宅するとリビングで知佳が奈子のドラマを見ている。母が勉強の時間でしょとさりげなくテレビ消すよう促すのを「いいよあたしに気を使わないで」と恵都は自室へ行く。
奈子が恵都が引きこもった原因であること、彼女が具体的に恵都に何をしたかお母さんたちは知ってるんでしょうか。多分本当のところは知らないまま、ダブルキャストの片割れ、それも才能では恵都より劣っていると思われていて自分もさんざんあの子に負けるなとハッパかけた相手が華々しく活躍してるのを見せれば恵都が傷つくと思っての行動でしょう。

・母に子役時代のリハのビデオを見たいという恵都。母親は戸惑いためらったものの「子役時代の自分がどんなだったか見てみたいの」という恵都の言葉を容れる。
リビングで並んでビデオを見ながら涙ぐんでしまった母親は「あなたの演技見るといつも泣いちゃうのよ。あなたはつらいんでしょうけど」と言う。ちょっとわかりにくい表現ですが、恵都にとっては辛い記憶であっても、お母さんとしては輝いてた頃の恵都の姿に感動せずにいられないという意味でしょう。
母の気持ちを思いやった恵都は「ううん。なんだか自分じゃないみたいだから」と平気な顔をしてみせますが、これはまんざら強がりではなく、過去の自分をそれだけ客観視できるようになった証左じゃないでしょうか。

・「あたしがいやだったのは女優という仕事じゃない。その仕事で否応なく人と争わなきゃいけない事だった。勝ちたいなんて思ってないのに」。
そんなことを思いながら恵都が「サニー」オーディションの看板眺めていると、ちょうど奈子がやってくる。「逃げないでよ」「久しぶりに話さない ?」と奈子から声をかけ、オーディション会場の?ロビーで話す二人。
しかしこないだの余裕ありげな態度はどこへやら、奈子は「フリースクールって弱い人間の集まりだよね。傷かばいあっちゃてさ。あんたがひきこもって楽してる間にあたしは一人でずっと戦ってきた」と毒に満ちた言葉を投げつけてくる。恵都は「そうだね奈子はえらいと思うよ。あの頃からあたしにはないガッツが奈子にはあったもんね」と穏やかに答える。
奈子の失礼な言葉に怒らず傷つかず素直に応答する。その後の奈子のヒステリックな態度からしても、もはや恵都の方が全然精神的に大人な感じです。

・「そんなもんだけじゃやってけないんだよこの世界は!なによあんたなんか。あんたなんかちょっと意地悪されたくらいでへこんじゃって。才能がなければやる気もない。何もないじゃない」。ひどい言葉を投げつけながら、言われる側の恵都より言った奈子の方が自分自身の言葉に呆然としてる感じです。
そして「なんであたしばかりこんなに苦しまなきゃいけないの」と泣きそうな顔で走り去る奈子。自分から誘っておきながら勝手にヒス起こして去ってゆく。奈子の精神的追いつめられ方が顕著です。飲み物の代金を置いていったのがぎりぎりの冷静さですね。
後ろでずっとサニーの歌「友達ってすてきねー」が流れてるのが痛ましさを強めます。

・リストンへ行き奈子の事務所のアドレスを浩一に調べてもらった恵都はすぐに出かけていく(奈子が置いてったコーヒー代が多すぎたため)。そしたら別の道から浩一が現れて恵都に合流。
「一緒についていくんだよ。おまえの天敵だろ。襲ってきたらどうすんだよ」。昔なら偶然をよそおって同行したんだろうに。襲うという表現に恵都はちょっと笑いますが、これは浩一の照れ隠しのための冗談なんでしょうね。

・意外に小さな事務所の作り(実際そんなに力のある事務所ではないことがあとで判明します)。「おじゃましまーす」という浩一の声がちょっと遠慮がちなのが彼らしくなくて可愛いです。人見知りというか結構内弁慶だったりするのかも(もちろん恵都たちは「内」枠)。

・事務所ではちょうど奈子の行方不明騒ぎが勃発中。「どうすればいいのよまったく」とヒスる奈子のマネージャー。先の恵都との会話でも相当精神的に追いつめられてるのが明らかでしたからね。
というより奈子が必死でしがみついてきた世界からドロップアウトしながら友達に守られ幸せそうにして恵都と話したことが、奈子の逃避願望に火をつけたのかもしれません。

・「あのすみません奈子いますか」。ここは一応「奈子さん」とか言っとくべきところでは。相手は恵都が何者かも奈子との関係も知らないんだから。小さい時から大人の中で仕事してたせいか7年引きこもってたわりに口の利き方や礼儀はしっかりしてる感じの恵都ですが、やっぱりところどころ抜けてますね。

・関係者以外は入れないと押し返そうとしたマネージャーが恵都の顔に気づく。奈子から恵都の話を聞いてると言ってましたが、奈子はどんな風に、そしてどんな気持ちで恵都の話をしたんだろうか。

・奈子の居所を知らないかと聞かれて困惑する恵都。そこに奈子から電話が。どこかのホテルにいるらしい奈子はすっかり投げやりな調子。マネージャーは恵都を引っ張って受話器を渡し、奈子と話してくれという。
よほどせっぱつまってるんでしょうが、この強引さはさすが業界人というべきか。しかし「あなた奈子の親友だったんでしょ。あなたの言うことなら聞くかもしれないから」とは。本当に奈子は恵都のことをどんな風に話してたんだ。

・「何であんたがそこにいんの」。奈子としては当然の疑問ですね。さぞ驚いただろうし、自分の縄張りを恵都に荒らされたような不快感もあったんじゃないでしょうか。
恵都は頓着せず「お金返そうと思って。さっきのコーヒー代5千円もしないし」と奈子の世間知らずがおかしいというようにちょっと笑う。笑う場面ではないだろうに。このへんの微妙な空気の読めなさはやっぱり対人スキルがまだまだな部分かも。

・「あんたってほんとバカ」「帰ってきなよ、マネージャーさんが心配してるよ。仕事に穴あけないほうが・・・」「仕事に穴あけるのはあんたの得意でしょ。そんなに言うならあんたが代わりにやってみたらいいのよ」。まあ確かに恵都が言えた台詞ではないというか、言われた側が突っ込まずにいられなくなるような言い草ですね。
しかし恵都が本当に代役やることになるとは奈子も思いもしなかっただろう(ドラマ的には完全に伏線だけど)。奈子が言ったからそうなったわけではないけれどヤブヘビとも言うべき発言です。
・浩一が恵都にネット上の奈子の噂を見せる。どの役も同じに見えると酷評されたり恋愛系スキャンダルが取り沙汰されてたり。「厳しいよなこういう世界は」。
そこへマネージャーがやってきて今日だけでいいから代役をやってくれといってくる。この人恵都に対する態度が終始偉そうで、頼みごとしていてさえ居丈高。つい事務所のタレントを相手にしてるような気になってしまうのか。

・「あなたなら青山恵都って名前が知られてるし、監督だって納得してくれるかもしれない」「お願い奈子を助けると思って」というマネージャーの言葉に対し、浩一が立ち上がって「人助けのつもりならやめとけよ。自分のためだと思うなら、やればいい」と恵都に告げる。
この時の浩一はとても思慮深い目をしている。先に奈子の噂を見て業界の厳しさを口にしたばかりの浩一は、精神的には赤ん坊も同然の恵都がこの世界に片足だけでも戻ったなら、ちょっとのバッシングでも深く傷つきかねないことを知っている。
それでも止めない、むしろ背中を押すようなことさえ口にするのは、再び人前で演じることが恵都が自分がしたいこと出来ることを見つけるきっかけになる、脆く見えても友達に支えられ急速に成長しつつある恵都は昔のように簡単に折れてしまうことはないと信じているからじゃないでしょうか。
・マネージャーは回りの人に迷惑かけたことを謝りまくりながら恵都を女監督のところに連れていく。恵都の名前を聞いて「いたわねそんな子」。どうもあまり好意的な反応とは言い難い。
恵都は衣装に着替えたものの体がすくみ、控え室を出てきたときはまるで幽鬼のよう。廊下を歩いてゆく恵都を浩一が前に回りこんで「今どこへ行こうとしてた」と叱責する。「逃げんのか、そうやって一生」。トイレとかじゃない、逃げたい気持ちになってることを顔色から敏感に判断したわけですね。恵都の成長には本当に浩一の存在が不可欠だと感じる場面です。

・女監督はクールな目で挨拶する恵都を見ているが、仕事(歌のプロモ)の内容を説明しはじめる。新生活・一人暮らしがテーマで「新しい街で友達はベランダの鉢植えだけ」。一箇所泣くシーンがあるから目薬用意してと監督がスタッフに言いかけるのを「あの、目薬は、要りません」と恵都は答える。7年のブランクがあるのに自信があるというか、彼女の女優としてのプライドを見たような。奈子は目薬いるんだろか。
後ろでスタッフが反発の表情を見せてひそひそ話してるのは、ずっとこの世界から離れてたくせに昔と同じにできる気でいるよ生意気に、とか言ってるんでしょうね。

・「演技の出来によっては撮影中止ってのもありえるんで」というスタッフの言葉。奈子に対してだったら決して使わないだろう表現に恵都の実力を危ぶむ気持ちが現れてる。上のひそひそ話といい撮影スタッフは素人同然の子を連れてこられて迷惑がってるんでしょうね。

・不安を隠せないながらも浩一を振り返った恵都は励ますような彼の静かな微笑みに、わずかながら力強さを感じさせる笑顔を返す。こういうちょっとした表情の演技は二人ともさすがです。

・セットに入る恵都を見ながらスタッフは今日は中止決定、あしたスタープロのホシサユリがスケジュール空いてるなんて話をしてる。マネージャーの危惧どおり次はもうここの事務所には仕事回らない感じですね。

・恵都の演技に見入る一同。監督も途中からは恵都を認めたという顔色になる。この撮影シーンが途中から恵都の映像がテレビ画面に映ってる形に切り替わるので、もうオンエア ?しかも PVなのに?見てるのは奈子だけどまだホテルの部屋っぽい(つまり3日と経ってない可能性が高い)のに?と思ってるとマーサから奈子に電話入って「送ったDVD見ました?」「発売は二週間先だけど」。なるほど出来たばかりの映像渡したのね。マーサには居場所を伝えてあるあたり彼には信頼を置いているということか。
マーサが僕の感想ではと言いかけるのを「あんたの感想なんて聞きたくない」と一方的に切る奈子。こんな態度じゃ貴重な味方も失ってしまいかねないと思いますが。

・テレビ画面にグラスのオレンジジュースをぶちまける奈子。今にも泣き出しそうな表情。協力者のマーサにもあんな遠ざけるような態度をとって、いまや友達いないのは彼女の方じゃないのかな。当時だって本当にいたんだかどうか。

・一ヶ月後。紅葉がPVの曲を口ずさみながらリストンへごきげんで入っていく。部屋でスクール長含めた皆が集まって、スクール長と浩一がパソのオセロで対戦中。そこへ紅葉がきて電気屋の大きいテレビに恵都のPVが映ってたと伝える。世間的にも評判いいらしいです。
ただそのわりには奈子のマネージャーから連絡来てる感じでもないですね。PVが話題になってるなら事務所にも問い合わせがずいぶんいってるだろうし中には恵都へのオファーもあるだろうから、事務所の力の弱さを嘆いていたマネージャーが恵都とちゃんと契約結ぼうと動いても不思議ないような。奈子の手前そうもいかないのか。

・紅葉は恵都に女優になるのかと尋ね、あれはたまたまという答えにちょっと安心したと言う。このまま仕事どんどんきたら恵都が遠くなって「リストンなにそれ」みたいになるんじゃないか心配なのだと。
「そんなわけないじゃん。ここがなくなったらあたし生きてけないよ」と明るく笑う恵都ですが、スクール長は「それじゃ困るんだけどな~」「ここはいずれ出て行く場所」。あくまで外の世界で受けた傷を癒し新たな強さを身に付けて再び外へ巣立ってゆくための一時避難所なのだということですね。
リストンは安住の地ではない、安住の地にしてはいけないという事実を突きつけられてほかのメンバーもちょっと暗い顔になります。彼らにとってはまさに第二の家ですからね。
・スクール長は授業に行くと出ていき、浩一も「おれも帰る」と早めに席を立つ。紅葉はスクール長も最近経営問題とか大変みたいだとちょっと憂鬱そう。恵都がそういうことにまるで疎い一方で紅葉は結構情報通。もともと紅葉は(少なくともリストンの中にいるときは)積極的でよく喋ってる印象ですからね。

・「その日が最後だった。浩一はスクールに姿を見せなくなった」。無人のパソコン室を除いて暗い顔の恵都。「そして私のまわりの空気も少しずつ変わっていった」。あのPVのせいで恵都はスクール内でも良くも悪くも芸能人的に扱われるようになってゆく。
代役を受ければこうなりかねないことを恵都より浩一の方が予想してたんじゃないでしょうか。それが経営悪化をさらに促進するとまでは読めなかっただろうけど。

・紅葉たちと庭にいた恵都は、スクールの女の子にここに来るの今日までだから最後に一緒に写真とってくれと頼まれる。OKした恵都は紅葉たちも一緒に、というが紅葉は「スターはつらいねー」といって遠慮し、剛太ともども寂しそうな顔をして歩き去ってしまう。なんか二人との友情にまでひびが入りそうでハラハラ。結局雑誌の騒ぎのせいもありそんな展開にはならずにすんでホッとしました。
授業中も恵都の写真を携帯で取ろうとする連中がいて、これはスクール長が冗談まじりに阻止してくれたものの、そうした騒ぎをよく思わない人間は当然いて「あなたがいると回りが騒いで勉強に集中できないんだよね」と嫌味を言われたりもする。「ここがなくなったら生きていけない」とまで思ったはずのリストンが恵都にとってどんどん居心地悪くなっていってるのが辛いです。
・野菜などを買って浩一の部屋を訪ねる恵都。家知ってるのね。うんと広いマンションの一室。家族はドバイに転勤して一人だそう。食べてるものはカップラーメン系。浩一は二年前から作ってるソフトのブラッシュアップ中なのだという。
「これでうまくいけば巨万の富が築ける、ってそんなうまくいかないけどね」などという浩一は髪に寝癖がついていて格好にかまってる余裕がないという感じです。別にリストンに出てきてもパソコン室に篭ればいい話だと思うのに家での作業に没頭してるのは往復時間さえ無駄にできないと思うからか、それとも勇気出して一歩を踏み出し見事に結果を残した恵都に恥じないように、自分もしかるべき結果を出すまでは恵都に会わない、なんて考えた結果でしょうか。

・恵都はキッチンで米を洗おうとして洗剤に手を伸ばしたところで浩一に手をつかまれる。「洗剤で米は洗わない。おれがやるから」。冷静な声ですが内心笑っちゃいそうなのかも。
これだけなら微笑ましい一コマだったのですが、「あたし足手まといだよね。本当に何もできない」と自嘲する恵都に「そういうこと言うのやめろよもう。ダメじゃないって言って、私を励ましてって言ってるように聞こえる」「おれもさ、ずっとあんたのそばについてるってわけにいかないから」と浩一が答えたことで重い空気が。ふだん「おまえ」っていってるのにこの時は「あんた」ってちょっと他人行儀だし。「そうだね。・・・じゃ、頑張って」と出て行く恵都を「じゃ」の一言で止めもしないし(ちょっと心配そうに追いかけたそうにはしてるけれども)。
スクールでも写真撮影の件で紅葉や剛太と距離ができたようなシーンかあったし、恵都の大切な人たちが遠ざかってくような寂しさがあります。

・一人道を歩く恵都は「わかってる。浩一の言いたいことは。立ち止まるな。甘えるな。一人でも耐え抜け」と心に思う。周囲の変化に居心地悪さや不安を感じてるはずなのに、浩一の冷たい言葉に傷つくのでなく彼の真意を受け止め強くあろうとしている。恵都のポジティブさ、浩一への信頼の深さを感じます。
そして街の大きなスクリーンに映る例のPVを見つめて「でも今の私にはあるだろうか。それだけの覚悟が、それだけの力が」。強さもあるけど迷いもある、手探りで一歩一歩進んでいくからこそ共感できるヒロインですね。

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『キャットストリート』(2)-3(注・ネタバレしてます)

2012-08-29 04:07:06 | キャットストリート
〈第三回〉

・その夜はそのまま屋上で焼きそばパーティー。野良猫の夜の集会に目をとめた恵都に浩一が「知ってる?キャットストリートって」。ここで作品タイトルが登場。意味的にはエル・リストンと同じ感じですね。

・7年前の舞台で立ちすくんでいた自分に「今の私を見せてあげたい。友達に囲まれて笑っている私を」。
すっかりいい顔で笑えるようになって。家にひきこもっていたのはついこの間のことなのに。いい友達に恵まれることがこれだけ世界を変えてくれるのですね。

・フリースクールの入学書類を両親に渡す恵都。週に二回くらい授業を受けるだけだけど無料ってわけにはいかないからと話す。恵都が両親とちゃんと話をするのはこれまた7年ぶりなのでは。
子役の時に稼いだお金があるでしょ、と自分のお金で行くことにポイント置いて話す恵都に、両親もこのままずっと家にいるよりはと賛同する気になってくれるが、帰ってきた知佳が「引きこもりよりは体裁がいいってこと?」ととがった声を投げる。友達がいるから行きたいだけなら遊びに行くのと一緒、そこで何を勉強してどうなりたいのか、と聞かれて「それは、まだ」としか恵都は答えられない。
「まだいいじゃないか」と父親は取りなすけれど、確かに知佳の言葉は鋭いところをついてはいる。とはいえ今時中高生、大学生でさえ何のために学校に行くのか明確な目的を持ってる人間は何割いることか。知佳自身だって将来こうなりたいからこういう勉強をしたいんだというはっきりした目標があるのかどうか。彼女の場合は完全に親の金で学校行ってるわけだろうし。その意味では知佳に恵都を責める資格はない。まあ確かに言いたくなる気持ちはわかりますけど。

・母は「この学校に行きたいのね恵都。お父さんお母さんに気を使ってとかじゃなくて」「行きたい、行きたいです」。
自分たちが恵都に子役の仕事を無理強いした自覚があるから今度は彼女の意思を尊重しようと思ってくれる。恵都もちゃんと目を見て自分を主張できるようになった。親子関係が劇的に改善されてきています。

・紅葉は屋上から自分の好きな人(元クラスメートだった山口)を恵都に見せる。紅葉がクラスメートにいじめられ不登校まで追い込まれたとき、積極的にいじめに加担しないまでも全く助けてくれなかったんだろう男をなぜこうも慕えるんだか。山口本人を見ないで勝手な理想を押し付けてたってことですかね。
原作では山口のどこがよかったのかと恵都らに聞かれて「顔」と言い切ってたくらいだし。

・4人で歩いているとき偶然大洋とマネージャー(平野)に行き会う恵都。恵都と腕組んでた紅葉は「道まちがえた」とあからさまに別の方向に彼女を引っ張っていこうとするが、大洋が気づいて声かけてくる。
「こんにちは」とこわばった顔で返事をする恵都。大洋はそのまま横を通り過ぎるが、平野はちょっと恵都を振り返る。何度かサッカーを見学に行ったし、恵都の大洋への気持ちを敏感に察してる様子です。

・3人は恵都の動揺を(男子二人は無言で)気遣うが、そこに大洋が走って戻ってきて、ちょっと話したいんだと恵都を呼び止める。
二人で歩きながら大洋は、紅葉にあまりあのコンビニに彼女と二人で来ないよう頼まれたと話す。「でもおれ断った。これからも青山とは友達としてちゃんと付き合いたい。だからそんな不自然なことはしたくない、って。それでいいよな」。会話からして大洋は恵都の気持ちを知らされてる。そのうえで変に謝ったりせず、彼女との友人としての関係を断ちたくはないと宣言する。誠意ある態度です。
さらに自分は頭良くない(自分に何ができるかわからない)という恵都に「おまえは人にできないことができるじゃん」。学校では目だたないがテレビでみる青山はキラキラしてた、あんなすごいことができたんだしこれからもできると思う、と両手で握手して別れる。
カプセルの件に続いて恵都の背中を押してくれる。失恋に終わったとはいえ、恵都はいい相手に巡りあえたものだと思います。

・大洋を見送る恵都に木の陰から浩一が「かっこいいよなーやっぱり、とか思ってるんだろ」。何見てんのと恵都に突っ込まれてましたが、気になって仕方なかったんでしょうね。
「また迷子になられちゃ困るからさ」と言って先に立って歩き出す浩一の態度に、「そっか、心配してくれてたんだ」と内心に思いながら後ついて歩く恵都。感情の出し方が不器用な浩一と他人の感情を読むことにはまだ手探りな恵都。なんか微笑ましい二人です。

・校長が恵都の書き取りテストを採点しつつ笑える間違いっぷりに突っ込みを。恵都のお粗末すぎる国語力が最初に明かされるシーン。
10歳から学校行ってなかったとはいえ、引きこもってるぶん時間あるはずなのに本を読んだりしないものか。退屈じゃないか。ゲーマーとも思えないしネットもやってなさそうだし。部屋にテレビがあったからテレビ見てばっかだったのか?

・自作の超ロリータルックでおめかしした紅葉に一瞬絶句する恵都たち。どう、と見せられて、浩一は「なんというか、おまえらしいよ」と微妙な褒め方を。浩一らしい言い草ではありますが、後の展開を思えば「紅葉らしい」格好を受け入れてくれる相手か、紅葉が紅葉らしくいられるのかは最重要のポイントだったんですよね。
はっきり似合ってるといったのは恵都一人でしたが、しかし「紅葉にしか着こなせないと思うその服は」というのも浩一なみに微妙な褒め方です。

・告白に行くからみんなついてきて、と意気込む紅葉。しかし男子二人は拒否。恵都だけがついていく途中、通りすがりの女子高生(紅葉の元クラスメートたち)が紅葉を見て「学校辞めてもまだあんな格好してるんだ」と笑う。うつむく紅葉。
普段強気でマイペースな彼女ですが相当ひどくいじめられたんでしょうね。剛太といい浩一といい、昔いじめてた相手にやたら会ってしまうのは生活圏が変わってないからかな。

・男友達と歩く山口に声をかける紅葉。夕方バイト先のレンタルショップ側の公園で待っててという山口に紅葉は喜色満面。だが友達は「もっとましなカッコな」という。
紅葉のポリシーであるファッションを完全否定。山口本人が否定してるわけじゃないが内心友人に同調してそうなあたり、もう目はない感じです。失恋でも恵都のような綺麗な話にはならないんですよね。

・紅葉は一人で大丈夫といったが気になった恵都は剛太も誘って公園へ。吃音を押して剛太が恵都に何か話しかけてる。剛太は少しずつ頑張って話すようになってきていい傾向です。この時なぜ浩一は来なかったんでしょうね。

・普通の服装に着替えて待つ紅葉。正直普通の服のほうが足が綺麗なのもわかるしかえって可愛い気がしてしまう。本人は自分らしくない格好に居心地悪そうですが。

・山口が現れ彼女の服を可愛いと褒める。「野田さんのこと覚えてるよ」と言われて紅葉は一瞬嬉しそうにするものの、何だか毒のある山口の言葉に表情が曇ったところにクラスの男女がぞろぞろ現れる。「いつも暗い感じ」とか「後ろの席でうつむいてた」とか言われるあたり今とは別人のように暗い子だったんでしょう。今も何も言えなくなっちゃってるし。

・やっと「何でみんな来るの」と反論する紅葉。女の一人が山口に寄り添って「ケンとあたし付き合ってんだよ知らなかった?」。確かにあれだけ学校覗いたりしてたわりに気づかないものですかね。

・ついに紅葉を見つけた恵都たち。しかし紅葉は大勢に囲まれていて山口の女に噴水に突き飛ばされる。さらにはずぶ濡れの姿を写真に撮られたり。恵都は飛び出そうとするが剛太が危ないからと止める。恵都は本当こういうところ勇気あります。
一同が去ったところで二人は飛び出し、次々と噴水に入り座りこんだままの紅葉を両腕を抱えて引き上げる。友達のために自分たちもびしょぬれになることを一瞬たりとも躊躇わない。彼女たちの絆の強さを感じます。
声もよれよれの紅葉を恵都が無言で抱きしめる。「やっぱ元気出ないや、勝負服じゃないと」という紅葉の言葉がなお痛々しい。

・翌日リストンを休んだ紅葉を家の製果店に訪ねる恵都と剛太。この件では浩一はなぜかここまでノータッチなんですよね。肝ッ玉母ちゃん系の紅葉の母は二人を歓迎してくれる。紅葉は顔までひどい湿疹が出て寝ていた。「あいつ最低なやつだったじゃん。あんなやつのために泣いたり熱出したりしてる。馬鹿みたいだよ」と泣いて布団かぶる紅葉。可哀想だけど確かに見る目がなかったとしか言い様がない。
とぼとぼと帰途についた恵都と剛太ですが、紅葉を思って怒りに燃えた恵都は途中から一人走り出してしまう。大洋に失恋したときもそうでしたが、激しい感情に慣れない恵都は強いショックを受けるとそのまま暴走する傾向がある。それを身に沁みて知るからこそ剛太は恵都が何をやらかすか心配せずにいられなかったんでしょう。

・リストンで一人パソコンしてる浩一は「必見!大スクープ!!」と書かれた新着メールで「野田紅葉 寒中水泳」と題された写真が載ったサイトを見て戸惑ったような顔になる。
なんでこんなメールが浩一のところに送られてくるやら。差出人は匿名希望になってたから、この手のいわくつき投稿写真サイトに登録してるってことなんでしょうか。

・夕方、一人おしゃれして山口のバイト先のレンタルビデオ店を訪ねる恵都。服は全部新調したんでしょうね。「シザーハンズ」という映画を探してる口実で声をかけた恵都のショートパンツから伸びた足をしばらく見てる山口。紅葉の足には反応しなかったのに。
「大丈夫あたしは女優だ。そう思えばなんでもできるんだから」と自分に言い聞かせつつ、わざとDVDの山を崩して山口も一緒に拾うように仕向け近づくきっかけを作る。DVDを拾うためにしゃがんだ恵都の胸元に目をやる山口。
「おれそのDVD持ってるから貸したげる」と山口が誘いかけてくるのを満面の笑顔でOKし、自分から前の公園を待ち合わせ場所に指定する。いかに相手が可愛いとはいえちょろい男だよなあ。それだけ恵都が上手く隙ありげに見せたんでしょうが。

・夜、公園で山口と落ち合った恵都はお茶に誘われたのをさりげなく断り、噴水側に座るようにうながす。馴れ馴れしくすぐ隣に密着して座る山口。彼氏いるかと聞いてきていないと答えると「可愛いのに。おれと付き合わない?」「だって、彼女いるんでしょ?」「いないいないそんなの」。
可愛いと見ればすぐ口説きにかかる、こんな男になまじ気に入られずすっぱり振られただけ紅葉はマシだったかもしれません。

・「そういやおれ昨日ここで告られたんだよな」。以降紅葉の悪口をさんざん並べ立てる。我慢して聞いていた恵都ですが、山口が紅葉が噴水に漬かってる写メ見せて来た時「その瞬間、心の中で怒りがはじけた。7年間心の中に閉じ込めていた怒り。思い出した。怒りってこういう感情だったんだ」。
山口への復讐に乗り出している以上すでに十二分に怒ってるはずなんですが、それ以上の、目もくらむような怒りを感じたわけですね。

・恵都は「ねえ山口くんって筋肉質 ?」といきなり話を振り、彼の筋肉が見たいと言ってその場で強引にネクタイを取りシャツのボタンをどんどん外してしまう。さすがに「マジかよ」と引きつつもなんか企んでそうな山口の顔。変な女だけど見た目は可愛いんだし向こうもその気ぽいからやり逃げしちまおうくらいの気なんでしょうね。
シャツ脱がしたところで勢いよくそのシャツを投げ上げた恵都は山口を噴水に蹴り落とす。さらにカバンの中身を次々山口に投げつける。といってもノックアウトするほどの打撃にはなってませんが。
「なんだおまえ」と逆上する山口から荷物も持たずに逃げ出し、追いかけてきた山口に後ろから羽交い絞めにされるのをさらに腕に噛み付き振りほどいて逃げたものの、結局追いつかれ組み伏せられ殴られたところにちょうどパトカーが登場。山口は暴行の現行犯で速攻逮捕。この流れは思わず息を呑むハラハラ感でした。

・「公園に暴漢がいるって通報があったんだ」と警官の一人が山口を連行、もう一人は恵都を介抱するが平気そうだと見るともう一人と一緒にパトカーに乗り込む。入れ違いに剛太と浩一が走ってきて、剛太は恵都を助け起こし、浩一は「なにやってんだよ。馬鹿じゃないのおまえ」と叱責する。
通報があったという警官の言葉から、最初から恵都は山口を暴行魔に仕立てるつもりで上半身裸にし、警官が発見しやすい公園の入り口付近まで逃げたうえで自分を殴るよう仕向けたのかと思ったんですが、少し後のスクール長の台詞からすると警察に通報したのは浩一たちだったという。
となると恵都は何をしたかったんだろう。紅葉がされた仕返しに噴水に落としたかっただけなら服脱がす必要はなかったろうし、身元わかる手掛かりになりそうなバッグを置いたまま逃げ出したのも迂闊。本来考えてたシナリオが怒りのあまり吹っ飛んでしまったんでしょうか。

・11時過ぎ、警察の廊下で待つスクール長と浩一、剛太。剛太は廊下にしゃがみこみ祈るような姿勢をしていて彼の心配のほどがうかがえます。
やがて恵都と一緒に出てきた警官は「捜査にご協力いただきまして」と丁寧な態度ですが、恵都はどんな風に説明したんでしょうね。DVD貸してくれるというんで待ち合わせたらいきなり服脱いで襲ってきた、とかでしょうか。

・スクール長は、恵都の親には心配かけないように脚色して連絡しといたと話す。時間が時間だけに恵都の親は心配してるんじゃないかと思ってたのでこの説明で腑に落ちました。
うちでお茶でも飲んでくかとスクール長に言われ浩一と恵都は従うが剛太は一人別方向へ。おまえどこに行くんだと問われても「ちょ、ちょっと」とだけしか言わず走っていってしまう。まあストーリー的に紅葉に事態を(恵都の友情の熱さを)報告しに行くんだろうなとは思いましたが。
この時真っ先に紅葉フォローに動いたのが剛太だったことが、あとで二人がくっつくきっかけになったのかも。

・スクール長宅。家に引きこもるようになってから自分の感情を出さないように生きてきた、「でもさっきすごい怒りを感じた」と語り始める恵都に、気遣うように浩一が目をやる。
そのころ剛太は紅葉の家の前。当然ながらもう店は閉まっている。チャイムらしいものが見当たらず、「ごごごごめんください」と声かけるものの大きな声が出せなくて困って頭をかく。しかし頑張って大きな声を張り上げ再度呼びかけると紅葉が気づいて出てきてくれる。「声が大きいってば」と叱る紅葉ですが、剛太にとっては大きい声がちゃんと出せていたという嬉しい評価の言葉かも。

・「怒りを吐き出すってのは悪くないことだよ。でも後先を考えないとな。浩一と剛太が心配して公園に先回りして通報してくれてなかったらもしかして自分がやられてたかもしれない」と諭すスクール長。
後先を考えないという点ではもう一つ。この復讐のやり方はかえって紅葉を傷つける、恵都と紅葉の関係を悪くする可能性があった。というのは紅葉が彼女なりのドレスアップをしても、逆に普通の可愛い格好をしてさえ歯牙にもかけずひどい扱いをした山口が、恵都の色仕掛けにはほいほい乗ってきた。つまりは恵都が紅葉より女として魅力的なのが前提になっている作戦であり、それが成功したとしても、成功したならかえって紅葉のプライドは傷つくことになる。相手が好きだった男だけになおさら。
恵都が子供同様にまっさらな心の持ち主であり純粋に自分への友情から出た行為だとわかってはいても、面白くない気持ちが心の底にわだかまったとしても不思議じゃない。実際には紅葉もとことん真っ直ぐないい子だったおかげで(剛太の説明の仕方もよかったのかも)、単純に恵都に感謝して無事落着しましたが。

・隣の部屋に小学生くらいの男の子の写真がかざってある。浩一の語りでそれがスクール長の息子であり、やはりいじめが原因でひきこもり・不登校になったあげく、街で同級生たちに絡まれて亡くなった(リンチ殺人ということらしい)ことが説明される。
「エル・リストンを立ち上げたのもそれがあったからじゃないかな」。浩一は少し微笑むような優しい表情になる。脳天気そうなスクール長も相当の傷を抱えていた。だからこそ子供たちの側に立って物を見られるんだとここで明かされます。

・浩一は立って窓際に行き、外を見つめながら真剣な顔になって「暴力に暴力で立ち向かっても空しいだけだ」と恵都を諭す。「おまえ紅葉のためとかいってたけどほんとはそうじゃないだろ。ほんとは自分のために復讐したかったんだろ。世間ていうか自分を無視したり押さえつけてきた連中に。そういうの無意味だから」。
例によってきつい言葉ですが無茶をいましめる意味でも改めて自分の心に向き合わせる意味でも恵都にとって大きかった言葉です。「じゃあどうすればいいの。バカにされて震えるほど悔しいときって浩一にはないの」。問い質す恵都に向き直った浩一は「ある。あったよおれも。でも・・・どうすりゃいいかは自分で考えろ」だけ言って家を出て行く。まだその悔しかったときの記憶を語れる段階にはない、恵都にいろいろ忠告を送りながらも浩一自身もまだまだ発展途上です。

・自室に戻った恵都は昔自分の夢を書いた紙を取り出して眺め、「どうすれば一歩前に進めるんだろう」と考える。そしてお芝居のオーディション会場に出向く恵都。浩一の言葉を彼女なりに受け止めた証拠ですね。会場の外で「オーディション受けに来られたんですか」とスタッフに聞かれて「いえ」と踵を返してしまうあたり、まだ心の準備段階という感じですが。しかしここにやってきたことがマーサとの出会いにつながります。

・あの日立ちすくんだ恐怖が甦った恵都は、向こうから来た人とぶつかって荷物落としてしまう。荷物拾って集めて謝って去ろうとしたら相手からちょっと待ってと声をかけられる。「ぼくね今ヘアメイクのアシスタントやってて君の顔いじらせてほしいんだ。これ(とコンパクトを示す)壊れちゃったお詫び。いいよね、20分だけ」。
メイク道具壊した弱みがあるとはいえ結局了承してメイクされてしまう恵都。スクール長にはじめて声かけられたもそうですが、大事な人を傷つけた相手には毅然とした行動を取る一方で存外押しには弱い。おかげでリストンの皆に出会えたし、ここでもマーサと縁が出来たわけですが。
しかしマーサの方はこの時点では恵都と接触したのは全くの偶然、奈子の思惑は何も働いてないわけですから、純粋に恵都を貴重な素材として買ったんでしょうか。それともぶつかって間もなく相手が奈子がいまだにライバル視している青山恵都だと気付いたゆえの接近でしょうか。

・「思ったとおりだ、化粧栄えするんだよね。何かしてるの、女優さん?」とマーサに問われ「いえ、特に何も」と答えた恵都は「ドラマのオーディション受けてみない?」との誘いも断ったものの車で送ってもらうことはOKする。こういう無防備さはやはり引きこもりだったゆえの経験の少なさでしょうか。
ただいろいろあったものの最終的にはマーサも善人だったわけで、何気に恵都の人を見る目は正確なんですよね。

・リストンまで車で送ってもらった恵都は別れぎわに名刺を渡される。ちょうど見ていた浩一が入れ違いに門から出てきて嫌そうな顔。マーサにいじってもらった恵都の頭をなにか言いたげにじっと見てますが、綺麗だと思ってるのか何ちゃらちゃらしてんだよと思ってるのか。

・「ヘアメイクのアーティストだって。さっき声かけられて」「ヘアメイク ?」「あとで説明する。ちょっといろいろあって」「なんだよいろいろって」。会話の流れ的にやはり浩一はマーサの存在が面白くないんでしょうね。
そこへ二階から剛太がやってきて恵都の手を引き「こっちこっち」と走りだす。廊下の端でいつもの服な紅葉が腰に手を当てた偉そうなポーズで立っている。「紅葉さん、完全復活!」。二人は駆け寄り抱き合う。
剛太も嬉しそうな顔でなぜか浩一に半分抱きついてる。女の子同士だと普通にいい場面なんですが、男の子同士だとなんか違和感が(苦笑)。浩一も嫌がる様子なくその状態のままで二人を見つめてますが。翌年には舞台で恋人同士を演じる彼らだけに何げにお似合いな気も。

・屋上。ドラマのオーディションのいきさつを聞いて紅葉と剛太は盛り上がるが、浩一は一人少し離れたところにいる。恵都が再び芸能界に接近してるのをよく思ってないんだろうかと思いましたが、後の展開を見るとそうではなく、脅えながらも一歩進もうとしている恵都に感じるところがあり、我が身を省みてたようです。

・「紅葉にはそういう服が作れるし剛太にはヒップホップがある。でもあたしにはなんにもない」「情けないけど昔やってたことしかないんだよね。もううんざりって思ってたけど」「なのにさ。怖くて逃げてきちゃった。何かやらなきゃって思うけど何やっていいのかわかんないんだよね」。
恵都のストレートな告白を受けて、意を決したように浩一が動いて石段に座ると「恵都が恥をしのんで告白してくれたからおれも恥をかこうと思って」と右の靴と靴下を脱ぎだす。最初は何始めるのかという顔だった一同は足の傷跡を見て声を失う。
「ボルトが入っててこの角度より外に曲げられない。高校に入った年、同じサッカー部のチームメイトに吊るしあげられてやられたんだ」。二度目にリストンに来たときに紅葉が語った、浩一が一年間入院してた理由がやっと明らかに。表情からするに入院の直接の理由は紅葉も知らなかったぽいですが。

・あっちこっちぼこぼこにされて一年間入院、おれも悪かったんだよ。天狗になってたんだ、まわりのやつがみんなバカに見えてさ、バカだクズだって言い過ぎて恨みを買った。辛い過去を語る浩一の声は静かで、穏やかでさえある。やっと人に話せるほどに彼の中で気持ちの整理がついた、恵都たち三人にそれだけ心を許せるようになった表れでしょう。
「それっておれが親から言われ続けてきたことなんだよな。自分が言われて一番いやだったことをおれは人に言いまくってたんだ」。なんか虐待の連鎖を思わせるような心理状態です。しかしいかにも頭良さそうな浩一がそこまで親からののしられてきたというのが不思議。「たった一つこの世で得意だったサッカー」というくらいで、当時は成績よくなかったんでしょうか。

・「大怪我してたったひとつこの世で得意だったサッカーを取り上げられた。友達ははじめからいない。話相手はパソコンだけ。それがおれだ。そういう最低なやつなんだ」。
淡々と、しかし捨て鉢な台詞を口にする浩一に「今は違うじゃん。今は全然違うよ」と真っ先に言ったのは恵都だった。浩一も「そうだな。今は、違う」とすんなり同意したうえで、「でもちょっと油断すると怒りとか憎しみとかそういうもんがぐるぐるうずまいてそれに呑み込まれそうになる。そしてまた人をバカにしたくなる」「敵は人じゃないんだ。自分に勝たなきゃ」と続ける。最後の台詞は恵都を見ながら言っているので彼女へのメッセージですね。
恵都がしっかりこの台詞を受け止めていたのが、後に奈子とのやりとりの中ではっきり明かされることになります。

・恵都はキッチンへ行き母に話しかける。父は遅いし知佳も友達と食べてくると聞いて「じゃあいっしょに食べてもいい?」母は振り向いて目を見張る。リストンに通い出し、ずいぶん家族との関係も改善されてきた恵都ですが、まだ食事は一人部屋で食べてたんですね。

・差し向かいの食卓。「ねえ恵都。今日どこ行ってたの。定期券置いて行ってたからスクールじゃないよね」と切り出しておきながら、「話したくなければ話さなくていいのよ」と予防線を張ってしまう母。やっぱりまだ引きこもりに逆戻りされるのが怖くて、心配でも強く問い質せないんですね。
「ごめんねお母さん。心配してくれてるのに何も話さなくてごめん。あたしね今ちょっとずつちょっとずつだけど、なんていうかな、いい感じになってきてるんだ」。表現はたどたどしいですが、それだけに恵都の肉声という感じで胸に沁みます。母が気に病んでる、子役の仕事を押しつけて恵都を追いつめたことに関しても「お母さんに自分の力試すことの楽しさを教えてもらった」とフォローする。
「お茶入れるわね」と話をさえぎるように席を立つ母親の態度に、せっかく恵都が頑張って気持ちを伝えようとしてるのになんで、と思いかけましたがキッチンでこっそり泣くお母さんの姿に納得。ちゃんと娘の気持ちを受け止め感激していればこそだったんですね。

・恵都たち4人は水族館へ。恵都はすっかりはしゃぎっぱなし。その後ジェットコースターへ移動してるので遊園地のアトラクションの一つなんでしょう。
はしゃぐメンバーの中で浩一だけはすました顔してますが、その後コーヒーカップ乗ってるときに口を押さえてるのでコースター→カップのコラボで酔ったのか。回転木馬も棒にしがみついてぐったりモードだし。普段クールに振る舞ってるぶんそのヘタレっぷりがなんか可愛いです。
でも上手く木馬から降りられない恵都を支えて降ろしてやるあたりは紳士的で格好いい。「大丈夫か?」なんて珍しく言葉つきまで優しいし。

・「たちこめていた霧が晴れて雲の切れ間からささやかな光が見えてきた。そんな風に感じていたときだった。あなたが私の行く手にもう一度現れたのは」。恵都のモノローグのなかでもとりわけ詩的な美しい台詞ですが、最後に不穏なオチが。「あなた」が誰を指すのかすぐ見当がつくだけになおさら。

・いきなりあすなろテレビと名乗るテレビスタッフたちがマイクとカメラを向けてくる。「サニーの時の話をスペシャルゲストとして聞かせてもらえないかと」。紅葉が怒って止めに入るが、もめてる最中にいきなり「こんにちは。子ヤギさん」と上から声かけてくる人影が。案の定その正体は奈子。いかにも芝居がかった態度が悪役オーラ出しています。
ネット上では視聴者にさんざん叩かれている奈子ですが、スタッフやリストンの生徒たちに対する態度もそれぞれに感じ良くない。関係者の間でも嫌われてそうな気がします。

・降りてきた奈子は恵都の前に立って名のり、毒のある笑顔を見せる。言葉もなく立ち尽くす恵都。幸せの最中に不幸が襲ってくるのはドラマの常道ですが、実際7年分の試練が一気に襲いかかってきてるかのごとくです。
図ったかのような再会シチュエーションですが、恵都が今日この遊園地に来てるなんて知りようもないわけだし、しかし偶然にしてはスタッフの準備が良すぎるんだよなあ・・・。原作はそのへんちゃんと理由付けがしてあるんですが、ドラマはこのシーンにかぎらず結構大胆に説明部分をスパッと切るんですよね。


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『キャットストリート』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2012-08-27 08:53:03 | キャットストリート
〈第二回〉

・道路で耳をふさいだまま座り込んでしまった恵都にトラックが迫る。前回ラストの続きからですが、思ったとおり危ういところで回避してくれる。飛び出したのと違うからそうそう轢かれはしないでしょうけど。
そこにちょうど通りかかった浩一は彼女の体を乱暴に起こす。でも動作が乱暴なわりに「自殺する気?」という言い方は責めるというには淡々とした調子。このクールさが浩一ですね。

・自殺する気がないんなら、と道路の端へ恵都を連れて行った浩一はいきなり「謝ってくれよ」と言い出す。逆じゃないの?リストンでの発言を言い過ぎたと反省したんじゃないのか?と思ったら「見に行ったんだ、サニーデイズ」「代金返してくれ」と続いてちょっと納得。
「そんなこといまさら言われても」「冗談だよ。こだわりすぎ、自意識過剰すぎ。元有名人でも今は俺らといっしょじゃん」。
前半はひどいこと言ってるようですが、その実恵都を7年間の呪縛から解き放つ言葉だったのかもしれません。

・青山家のリビングで親子三人の楽しげな会話。恵都が降りてきて冷蔵庫を開けるとその気配で会話が止まり空気が固まる。「いつもこうだ。あたしが行くとリビングの会話が止まる」。
こういうのは何気にこたえる。知佳は結構、恵都で失敗したと思ってる両親がのびのび育てる方針に転換したおかげで楽しくやれてる一面があるのかも。

・恵都はまたエル・リストンへ。理由は「誰でもいいから誰かと話したくて」。その「誰か」は自分に対して黙ってしまう家族じゃダメなんですねきっと。浩一などはキツいこともいうけど、それだけ恵都とのコミュニケーションの意思はあるということですしね。

・恵都を待ってたかのようなタイミングでコーヒーを差し出す剛太。そのまま無言で恵都の手をとって紅葉のところへつれていく。人手のほしかった紅葉は歓迎し恵都は生地切るのを手伝うことに。
こうやって向こうのペースで居場所をくれる人間はひきこもり脱出初心者には一番有難いですね。

・また来てくれて嬉しいと喜ぶ紅葉。しかし「女の子の友達があたしも欲しかったしさ」との言葉に恵都はつい身構えてしまう。友達という言葉、友達になりたいという意志表示は否応なく奈子を思い出させますからね。
「あたしやっぱ帰る」と席を立つ恵都に、浩一が来るまでいれば仲直りできると思ったのに、と紅葉は浩一が不登校になった原因(高校でのいじめなど)について話してくれる。ちょうどそこに浩一登場。恵都への第一声が「やっぱ来たか。ま、他に行くところもないだろうしな」。
紅葉がなんでそんな言い方するのと席を立って怒る。剛太はハラハラ顔。後の発言からすると、浩一もこういう言い方した後“またバカにするような言い方してしまった”と反省したりしてるのかな。

・自販機でコーヒーを入れる浩一に「一年間入院してたって、どうして?」と訪ねる恵都。「人に聞くな、そういうこと。人が話すまでは聞くな。自分だって聞かれたくないだろ、なんで15分舞台で黙ってた」。
浩一の言うことは間違ってはないけど一言多いうえキツいんですよね。そういう奴だとすでにわかってるはずなのに自分から話しかけた恵都は、言葉は悪くてもかつてクラスメートや奈子が向けてきたような悪意を彼が発散してないのに気づいてるんでしょう。

・出ていく恵都をハラハラ顔で見ていた剛太が建物の外まで後を追ってきて恵都の腕をつかむ。普通は呼び止めるところでそれができない。彼も恵都とは別の意味で声を失った人間には違いない。
一生懸命声を震わせながら「また、きて」とやっと言葉にした剛太は恵都が少し微笑んだのにほっとして笑う。こんないい顔で笑えるのになあ。
ドラマで玲の存在を消した代わりに出してきたキャラが吃音の剛太だというのは、声を失った、でも極上の笑顔や直接行動によって言葉不在によるコミュニケーション不足を補っている、という点で恵都と対比させる意味合いだったのかと想像されます。

・そこに剛太を知るいじめっこたちが校門外から現れる。なれなれしく肩を抱いてきたり彼の吃音を揶揄する連中にも剛太は微笑んでいる。でもさっきき恵都に向けたのとは違う弱々しい笑顔。
恵都は男を突き飛ばし、そのへんにあったものを投げつけたうえで、男たちの怒りの声を無視して早足で歩き去る。恵都のこうした、元有名人でそれを知られるのを怖れてるわりには躊躇いなく怒りを表明できる強さは最初期からずっと変わらないんですよね。
剛太、紅葉、浩一全員に共通する“昔を知るいじめっこに囲まれて吊るし上げられる”シーン全てで彼らに代わって逆襲し、自分が近い状況になった時もそれぞれの形で堂々と対処して、恵都の精神の芯の太さみたいなものを感じます。

・窓から状況を見ていた浩一は恵都の後をついていき、CD屋で声をかける。「上から見てた」とちゃんという(たまたま知りえた恵都情報を「知っている」と開示する)あたりはフェアというか。無視してほかの棚に移動する恵都に浩一はまたも話しかけるが、この態度の変化は剛太の件で見直したということでしょうか。

・たまたま店の外で知佳が元同級生の子たちにからまれてるのを見かけた恵都は走って後を追う。カツアゲされる知佳は渡す金が少ない、姉貴が子役で稼いでたくせにと言葉で責められる。
「セイジョ入ったからってあたしたちと縁が切れると思ったら大間違いなんだから」という表現からして中学からいじめられてたわけだ。同じ高校行きたくなくて勉強頑張ったのかも。

・一部始終を見ながら出ていかれない恵都。先に剛太を助けた勇敢さからして集団に向かってくことを怖れてるわけじゃない。知佳は自分に助けられたらかえって嫌がりそうなのと恵都の顔を知ってるだろういじめっこたちがそれをネタにさらにいじめを加速させるのを心配したからでしょう。
「助けたい?」と尋ねた浩一は返事をきかずノーパソを出してパトカーのサイレンを演出。女の子たちがあわてて逃げたすきに反対に逃げた知佳は恵都と顔を合わせ、微笑みとも無表情ともつかない表情の恵都を見て反対を向いて逃げ出す。
「ちゃんと話したら一度、妹とさ」という浩一は自分もいじめ不登校体験者だけに恵都と家族との微妙な距離感を察してるわけですね。

・家に帰った恵都は、何事もなかったような顔で母と談笑する知佳を見つける。恵都と目が合った知佳は顔をこわばらせ二階へあがるが、恵都はあとを追って「知佳」と呼びかける。もしかして7年ぶりに名を呼ぶのかも。
「今までもいろいろあったの」「知らないの?あたしがあんたの妹だってだけでいままでどんなつらい思いしてきたか」。恵都はダメになった子役の妹ということでいじめられてると思ってたようですが、知佳のうらみつらみはもっぱら恵都が売れっ子子役だった時代にできる姉と比べられたこと――両親は姉にばかり夢中、学校でもあの天才子役の妹なのに意外に普通じゃんと言われたと昔の話に集中している。
学校の方はある程度しょうがないにせよ、妹にこれだけ引け目感じさせてしまったのはやっぱり両親の罪が大きいですね。

・それでも昔はまだよかった、今のあんたは最低、こんな抜け殻みたいな人のためにあたしはずっと苦しんできたの ?今でも両親は恵都の心配ばっかりで自分がいくら頑張っても追いつけやしない、目障りなんだよ、と叫ぶような知佳。
かなりひがみ入ってはいるでしょうが、子供の頃からの積み重ねが知佳を頑なにしてるんでしょう。昔の恵都ほどではないにしても両親を喜ばせたくて無理して良い子にしてる感はありありですしね。
大きな声で怒鳴ってるため階下で母も会話をすべて聞いてしまってますが、このことが母と知佳の関係を多少なりとも改善に向かわせたでしょうか。

・再び大洋の学校を訪ねた恵都は、サッカー中の大洋と目が合ってもそらそうとせず逆に目で彼を呼ぶ。恵都は着実に強くなっていってますね。

・並んで歩きながら「ちゃんと謝ろうと思って」という恵都。何のことかという反応の大洋に「セリエA」なんてバカみたいだと言ったことだと言うが、気にしない、だっておれバカだし、サッカーバカと大洋は笑う。
でも恵都は深々と頭を下げ、「あたし大洋がうらやましかったんだと思う。これだって夢を持ってるのが。私にはないから」「そっか・・・」。
それだけだからと立ち去ろうとする恵都に大洋が子供のころタイムカプセルに入れるためにと渡された瓶?を恵都がずっと机の中に入れっぱなしにしてたのを持っていると言って渡す。そんなものを大事に持っててくれるのに彼の恵都に対する好意が濃厚に感じられます。

・恵都に代わって瓶を割り、中の紙を出してやる大洋。「わたしのゆめはじょゆうになることです。」それを見た大洋は「おまえ、夢あったんじゃん」。
親に勧められてやらされてたことでも恵都自身も本当は演技が好きだった、ただ無理強いされた格好のために自分でもそれがわからなくなってた。
「でも親から押し付けられた夢だから。だから私には夢がない」と恵都は言ったけれども、結局(単純に金稼ぎのためだけではなく)その道に戻ったわけですし。

・「大洋、夢は何だったの」「おれは夢二つあったんだ、1個はサッカーの選手になること。もう1個は・・・」と照れ笑いしながら時効だからいいかと「青山と好き同士になること」。
結婚でもなく付き合うでもなく「好き同士」という表現が初々しい。しかし時効なのね。昔のことだと強調するしなあ。今はほかに好きな女がいる伏線だよなあ。

・大洋がテレ気味に去ったあと、「その日の夕日は 泣きたくなるくらいに綺麗で、あたしはあの日以来、初めて空を、明るい空を見上げている自分に気がついた」。
恋をすると世界が変わるというやつですね。ただ大洋との会話がそうさせただけでなく、スクール長との出会いに始まる人々とのコミュニケーションが、彼女の心を恋ができる状態にまで導いたその結果という気がします。

・リストンのスクール長の部屋を訪ねた恵都は「おかえり」と迎えられる。単純だけど暖かい言葉。しかし「おれの作ったルールで二度来たやつはもう生徒なんだ」というのは遅れてるな。すでに恵都がここに来るのは4度目なのに。

・紅葉が手伝ってくれと恵都を引っ張っていく。そして作業しながら恋バナを振ってきて、大洋の話を聞いた紅葉は会わせてよとすっかり盛り上がってしまい、結局恵都は紅葉を大洋のところに案内することに。
この紅葉の積極性がなかったら恵都の恋は良くも悪くも全然動かなかったでしょうね。

・恵都に気づいた大洋は声をかけてくるが、休憩時間マネージャーらしい女の子が自分が首にかけてるタオルで彼の汗ぬぐったりシャツまくって腹まで拭いたりする。あの人も大洋のこと・・・と落ちこみ気味の恵都を、紅葉は恋愛初心者はすぐ引くからダメだとハッパかける。
第三回を見る限り紅葉の恋愛スキルは大いに当てにならない。あれだけ自然な動作でボディタッチしまくり大洋も自然にそれを受け入れてるあたり、すでに付き合ってる雰囲気だと思うけども。まあマネージャーが一方的にアプローチかけてる可能性もまだゼロじゃないですけどね。

・練習試合にのぞむ大洋に手作り弁当を持っていくことを紅葉に勧められた恵都は、日曜にリストンのキッチンで人生初のお弁当を作る。その姿を紅葉が浩一や剛太を連れてきて見せている。
さらにサッカー観戦にまで二人を連れていくことに。女子二人とはちょっと離れた位置で男子たちが一人一人で座ってるのが印象的。どちらかいうと二人とも好きなことに一人で没頭するタイプですしね。
なのにサッカー観戦についてきてくれたあたりは友情というか。特に浩一の方はサッカーにはいろいろと複雑な思いがあるだろうに。

・練習試合の午前の部終了。大洋に「応援ありがとな」と声かけられて笑顔をこぼす恵都に「わっかりやすいなあ」という浩一。紅葉に「何が」と聞かれ「別に」と話をそらすが、大洋にやきもち焼いてる気配があります。
立ち上がる恵都の背中を剛太が笑顔で押し、一歩一歩という感じでグラウンドへ向かう恵都。しかしマネージャーたちがみんなの分のお弁当を買ってきたと配ってしまう。
立ちすくむ恵都に浩一はパソコンゲームにこと寄せて声をかけ、紅葉はわざとテンション高い態度で恵都を向こうへ連れていく。その間に浩一は女子マネが大洋に手作り弁当渡すのを見てしまう。なんか切ない表情なのは恵都の気持ちを慮ってでしょうね。

・一人休み時間にボールをける大洋のこぼれ球を足でキャッチして蹴り返す浩一。彼がサッカー経験者である伏線がここに。

・帰り道。残念だったねと言う紅葉も「しょうがないよ」と答える恵都もさほど堪えてはいない様子。むしろ笑顔。この時点では“お弁当渡せなかった”というだけですからね。
すでにある程度結果が見えてる視聴者的には二人の明るさが切ない。

・ファミレスで剛太と落ち合う浩一。黙ったままの浩一をいぶかる剛太に「大人はいろいろあるの、考えることがいっぱいあるの」。言い方がなんか可愛いです。
そのころ恵都と紅葉は偶然に大洋と女子マネが付き合ってる決定的証拠の現場を見てしまう。思わず道でへたりこむ恵都を「大丈夫 ?」と心配する紅葉。恵都はほぼ無表情ですが後からトイレの洗面台で吐きそうになってます。ずっと他人と関わってこなかっただけに失恋という重い感情の受け流し方なんて心得てるはずもないですからね。

・紅葉は息せき切ってファミレスへ飛び込み、浩一たちに「恵都ここへこなかった?」と尋ねる。道で気持ち悪くなってそこのコンビニのトイレ借りたんだけどちょっと目を離したすきにいなくなっちゃって、と説明。
「どうしよう、あの子、死んじゃうかもしれない」まで飛躍してしまう紅葉に浩一は「どういうことだよ」と問うが、剛太は理由も聞かずすぐ顔色を変えて飛び出していく。それぞれの性格が表れた心配の仕方です。

・恵都を探すのに、剛太と対照的にこちらは歩いてる浩一。でも足取りはせかせか。落ちつこうとして落ちつききれてない。
紅葉は偶然スクール長に出会い、彼も巻き込むことに。紅葉は恵都の家へ友達だといって訪ねる。よく家知ってたなあ。こうして恵都がフリースクールに出入りしてることが恵都の母に知れるわけですが、特に後の展開には関係しませんでしたね。

・人ごみを歩きながら「外なんか、出なければよかった。また体が透き通っていくみたい」。
たまたまぶつかった男たちによく見たらかわいくない?とナンパされ、ディスコに連れて行かれるが、踊る皆の中で呆然と突っ立ったまま。連れて来た男たちによくぞ悪さされずにすんだ。ぼうっとしてるだけの恵都に飽きて他の女を物色しにいってくれたのか。
原作ではサッカー部の女子マネ(平野)との交流→恵都再生が描かれるエピソードがここに入る。すごくいいシーンなので削っちゃったのは残念ではありますが、ストーリーの焦点をリストンメンバーとの友情に絞る(「人間てね、再生するんだよ」という平野の名台詞も紅葉のものになってる)意味で全六回のドラマに纏め上げるうえではしかるべき改変だったのなと思います。

・探し疲れて夜道で集合した浩一たち。スクール長の“失恋はつらいが何度か経験するうちに免疫がつく”という言葉に対し、浩一は「ないですよあいつに、免疫なんて。あいつは無菌室から出たばっかりの赤んぼみたいなもんじゃないですか」。確かに二回目(浩一に彼女がいると誤解したとき)はもっと強く対処できてましたからね。

・剛太の「学校」という言葉でリストンの屋上へ向かった一同。恵都は外へ出なければよかったと言いつつ家に戻るのでなくリストンへ向かった。ここから飛び降りて死にたいという思いがあったためにもせよリストンにやってきたということが、彼女にとってリストンがすでに一番落ち着ける場所になっているのがわかります。

・大洋に好きだといってもらえてやっと生きてる意味があるかと思えたのにやっぱり自分は役立たずで、と独白を続ける恵都を「甘えてんじゃねえよ」と一喝する浩一。つかつか歩み寄って「こいつらがどれだけ心配したと思ってる」「そんな甘いこと言ってるんだったら死んじまえよ」。
ひどい言葉ですが紅葉が「浩一・・・」というだけでたしなめないのは、その言葉に浩一自身がどれだけ恵都を心配してたかが溢れてるから。「おまえを、心配してる人のことも考えろ」「(おまえが死んだら)少なくともここにいるやつは泣くよ」といったあとに「おれも泣く」と付け加えるあたりが浩一の可愛げ。

・半泣き顔で浩一の言葉を聞いている恵都を皆が見つめる。一番前に立つ浩一も今はすごく優しい目になっている。初めてしゃくりあげて泣く恵都に紅葉が駆け寄って抱きしめる。
「人間てね、再生するんだよ」「また笑える。また好きな人ができるよ」。友達に導かれた涙によって恵都の止まってた時間が流れ出した。「私が二度目の産声を上げた夜」。
じっと優しい目で見つめていた浩一があるかなしかの微笑みを口元に浮かべる。クール系であまり感情を表に出さない浩一はこういうごくわずかな表情変化に感情の流れが表れる。勝地くんの表現力がフルに生かされています。

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『キャットストリート』(2)-1(注・ネタバレしてます)

2012-08-25 02:21:57 | キャットストリート
〈第一回〉

・冒頭から子供メインのミュージカル舞台。明らかに『アニー』を模したものとわかります。
画面中央でほかの子供たちに囲まれ生き生きと演じるヒロイン(奈子)と対照的に暗い表情でそれを舞台袖から見つめる少女(恵都)。衣装がおんなじことから緊急に用意された代役の子(舞台の子が?袖の子が?)と想像されます。
「友達っていいね」という歌詞と裏腹に二人の間に生じている緊張感が匂わされている。実際にはこの時点ではまだ(恵都→奈子は)仲良しなんですけどね。

・次の場面、舞台に登場したヒロイン(今度は恵都)は何も話せず耳をふさいでしゃがみこんでしまう。そこで現在に場面が転換。7年後の恵都の夢だったというオチが彼女自身のモノローグで語られる。
詳細はわからないながら、7年を経てなお塞がらぬ彼女の心の深い傷が示唆されます。

・下の部屋でにぎやかな話し声。一般家庭のリビングに制服姿の女の子たちが集まっていることから平日の日中、おそらくは放課後だと知れる。明らかに十代らしいのにこの時間まで寝ていた恵都が学校にいっていないこと、本人のモノローグからも引きこもりだというのも察せられます。
女の子のうちの一人が恵都に気づき、その睨むような視線からその子が恵都の姉妹で、引きこもりの身内の存在を恥じ、すぐそれとわかるような格好で出てきたことをとがめているのもまたわかるようになっています。

・部屋に戻った恵都を母親がたずねてきて、もっと知佳に気をつかってあげてと話す。叱責するのでない、機嫌をとるような丁寧な口調に、腫れ物を触るような扱いぶりが表れています。きっと7年間ずっとこういう感じだったんでしょうね。

・自分がいて邪魔なんだったら友達が帰るまで外に出てる、とつっけんどんな口調でいう恵都。
外にまったく出られないわけではないし、家族をいっさい部屋に入れない、口をきかないでもない。引きこもりとしてはまだ程度の軽いほう、親子関係のいい方なのかとは思います。
あとで大洋と再会したときも「おれのこと覚えてない?」と聞かれて「原沢太陽」と無愛想にでも答えていて、家族外の人に対してもコミュニケーション完全拒絶じゃないですしね。

・公園で一人じっと座っている恵都に男の子が「青山」と声をかけてくる。小学校4年から不登校だとモノローグがあったばかりの彼女を、彼はなぜ知っているのか?と思ったら「おまえほんと変わってねえなあ」。つまり小4から顔変わってないわけですね。
それは引きこもりにもかかわらず彼女の外見が崩れていない(太ったり痩せ衰えたり髪ぼうぼうだったりしてない)証であり、同時に年頃の女の子らしいおしゃれ心もない、良くも悪くも10歳で止まってる印といえます。本人も少しあとで「私の時間は止まってるから」と言っています。

・ところが「変わってねえな」のあとに続くのが「ぼーっとしてるとこ」。そこが恵都を見分けるポイントなのか(笑)。子役として活躍してた時代から学校ではぼうっとしてた、影が薄かったわけですね。

・大洋にからかわれてその場を立ち去ろうとする恵都はどこへ行くか聞かれて「買い物」とごまかそうとするが、大洋は「そこにコンビニあるだろ、つきあってやるよ」と明るい笑顔で恵都の肩を叩き、先に立って歩き出す。
子供の頃はよくわかってなかったとしても今は恵都が不登校になったのも今も続いてるぽいのも察しているでしょう。そのうえで気安く近づいてきたのが純粋な好意によるものなのか興味本位かもっとはっきり悪意があるのか。まだまだ不分明です。

・恵都の回想で、大洋は彼女が不登校になった当時も態度を変えずに家まで迎えにきてくれてたことが明らかに。恵都はそれを「マイペース」と評して、彼が何を思ってそうしていたかは考えようとしていない。そして恵都自身がどう思っていたのかも。
ただ決して嫌ってないのはわかりますが。大洋の方も昔と人間性が変わってないわけだ。

・コンビニの雑誌の棚の前で並んで一方的に話しかけてくる大洋。おまえどうしてるんだ、高校、と言いかけて黙るあたり決してデリカシーがないわけではないらしい。
ところで恵都が致命的に漢字の読めないことが後になって明かされますが、このとき恵都は雑誌の内容どの程度わかってたんだろう。

・気まずいのをごまかすように大洋は自分の高校のこと、サッカーの名門に推薦で入ったことを語る。その立派な履歴は恵都には結果的に皮肉になってしまっているかも。
大洋は結構本気っぽい口調で恵都を試合観戦に誘うが、恵都は完全無視。ちょっと話してみたい気はあったんでしょうが、現在の生活を変えるほどに踏み込まれるのはイヤなのがはっきりしてます。

・大洋との会話を避けるようにテレビ誌をめくる恵都は園田奈子なる少女の特集記事に目をとめる。原作を知らずとも慧眼な人なら、テレビ誌に載ってるんだから芸能人に違いない彼女があの時の舞台「サニーデイズ」の女の子だということにすぐ気づいたんじゃ。少なくとも恵都にとって何か因縁のある相手だと見当はつきますね。

・奈子の記事に彼女の原点だという「サニー」の写真が出ていて、完全に冒頭のミュージカルの子だとわかる。BGMと急に出て行こうとする恵都の態度の変化が緊迫感をあおります。

・場面は変わって奈子のグラビア撮影現場。スタッフが持ってきた雑誌を見る奈子にスタッフが語る言葉でサニーがダブルキャストだったとわかる。
もう一人の子は今どうしてるのかと聞かれて奈子は気がなさそうに「知らない」と答えますが、その仏頂面と雰囲気から彼女のほうも多分に恵都を意識してる様子。売れっ子らしいのに幸せそうには見えません。

・恵都の両親がリビングで会話。恵都があんなになったのは母がプレッシャーをかけすぎたからではと父が言ったのを機に言い争いに。そこに知佳が割って入って、恵都のことはほっとけばいい、あの人のことで争うなんて馬鹿げてると言う。「あの人」という言い方に恵都に対する反感はわかりやすく表れています(原作のあいつよりはマシだけど)。
しかしお父さんもまだ明るいうちから帰ってきてるんですね。家もいかにも裕福そうだし重役とかなのかも。

・ファミレスで見かけた母子(成績が悪かったことで娘が母から叱責されてる)をきっかけに恵は自分の子供時代を思い出す。
こないだのオーディションは台詞がちゃんと入ってなかったから負けた、努力すれば一番になれる子なんだからと母に言われ「はい、お母さん」と暗い表情で返事を返す子供の恵都。ファミレスの母親のように怒鳴るのではなく優しい口調と笑顔ですが、まさに真綿で首を絞めるよう。
恵都の表情の乏しさと母に対するには丁寧すぎる態度が、彼女の心が萎縮してるのを表しています。

・「サニーデイズ」のオーディション。審査員から演技の指示が出るたびに確認するように母の方を見る恵都。
複数の大人に品定めされるのが不安だからというより母の思惑が一番に気になる、子役の道に気が進まないらしい(演技が嫌いなわけではない、むしろ普段より演じてる時のほうが生き生きしてる)恵都がそれでも真面目にお芝居をするのは一番に母を喜ばすためなんでしょうね。

・泣きの演技を見事にやってのける恵都の姿に、会場内のお母さんたちが恵都の母のほうに目を向ける。
恵都の演技に見入るのでなく、自分の子の有力なライバルである恵都に敵愾心を燃やすのでもなく、母親のほうを見るというのが。ステージママにとってのライバルは同じママか。お母さんも何か得意気な顔だし。
こういう光景をみると、結局恵都の母親も他の母親たちも自分の虚栄心のために体よく我が子を利用してるだけという気がしてきます。

・学校から帰ってきた恵都のもとに、母がサニーのオーディションに受かったと言って飛んでくる。喜びに完全に声が裏返ってしまっている。名演技だなあ。
いかにもなステージママを戯画化したキャラと言いたいところですが、このまんまなステージママも多いんでしょうね。

・母に抱きしめられながら対照的にテンション低く、それでも薄く微笑んで「うんよかった」と答える恵都。受かったことが嬉しいというより母親が喜んでることを喜んでるのが明らか。
この年で親に気を使いすぎてて、これでは燃え尽きるのも道理という感じです。

・算数の授業中に時間だからと抜ける恵都に「芸能人はいいよなあ」とクラス中から嫉妬と嫌味の声が。まあこれは無理もない。
先生はごく協力的ですが勉強が遅れることについてのフォローはどうしてるんだろ。ここで大洋だけは嫌味の声に同調してないのも描かれてます。

・泣きの演技にダメ出しされてた奈子にロッカールームで自分から話しかけアドバイスする恵都。なまじ演技が上手いだけに嫌味ともとられかねない態度であり、善意とはいえそれを口にする恵都もドキドキものだったのが雰囲気に表れています。
しかし自己紹介で元気がとりえを標榜した奈子は気を悪くしたようもなく、さらっと助言を受け止める。後の展開からするに内心はむかっ腹立ってたのかもですが。

・友達になってほしいと自分から切り出した奈子は、恵都に学校の友達がいないと聞いて、じゃああたしが友達第一号だとことさらに喜ぶ。
この時点でもう後の手ひどい裏切りを計画してたんでしょうか。そのくらいしたたかじゃないと子役も務まらないのかも。

・ダブルキャストが気に入らず、あんな素人の子なんてと悪く言う母に「でも奈子は友達だから」と恐る恐る口答えする恵都。母は笑顔ながら「あなたは特別な子なのよ」「友達がいないとかさびしいとかちょっとぐらい我慢しないと」と言い切る。この人は恵都をどんな偏った人間にしたいんだ。あげく「恵都負けちゃだめよ絶対に」。
恵都の心に決定的な傷を負わせたのは奈子でしたが、下地を作ったのは完全にお母さんですね。

・回想終了。まさに「負けちゃだめよ」の台詞で娘をあおる母。聞くに堪えなくなった恵都は乱暴に席を立ちメロンソーダのドリンクバーをつぎ足す。そして母子の席に行くとテーブルと母親の膝にソーダをぶちまける。
しかしそのままの勢いで暴れたり怒鳴ったりするのでなく、「手元が狂いましたすみません」と口先だけだが謝ってちゃんと勘定も払って外に出て行く。
自分に重なったとはいえ他人のために怒りそれをちゃんと形に出せる。形だけでも謝ったり店には迷惑かけないようにしたりの配慮もできる。この母親より恵都のほうがよほど健全な人間かもしれません。

・この騒ぎをたまたまファミレスで見てた男性が後を追ってくる。いわく、前からよく恵都をあのファミレスで見かけてた、もっと楽しい時間のつぶし方がある・・・どう見ても怪しい人です。一応その道のプロのはずなのにこんな勧誘方法でいいんだろうか。
「お断りです」と言い切って歩き去る恵都のあしらい方は堂に入っていて、先の母親への対応といい、引きこもりの割には対人関係でちゃんとふるまえてる。もっぱら相手を否定する方向の言動に置いてではありますが。

・この近所にあるフリースクールへと恵都を誘う男。そこの校長だという言葉にやっと恵都が足をとめる。校長という柄にそぐわない外見をあからさまに怪しんでる顔つきですが、結局恵都は男についていく。それどころか男の紙袋が破れてぶちまけた中身まで拾って一緒に運んでやる。
こうして恵都は初めてエル・リストンへと足を踏み入れることになります。

・ヒップホップの音楽が聞こえてくるのが気になって音をたどった恵都は、部屋で一人音楽にあわせて踊る少年(剛太)と出会う。
ついでその隣の部屋で一人パソコンを打っている少年(浩一)をドア越しに覗くがこちらは恵都の視線に気づいて振り返る。睨むような(そこまできつくないが友好的ではない)視線に浩一の(当時の)排他的な部分が出てるような。

・浩一の視線に気おされて一歩さがった恵都は後ろにいた剛太とぶつかってしまう。
そのせいでコーヒー ?が服にこぼれたのに、彼は怒らず笑顔で恵都の謝罪を受ける。でも口を利こうとはしない。これは吃音を気にしてることの伏線ですね。
そして恵都に自販機のコーヒーをもってきてくれる。彼の優しさが伝わってくるシーン。

・スクール長の言葉に思うところがあったか大洋の学校を訪ねてみる恵都。サッカーするところを金網ごしに見ていると、大洋が気づいて呼び止め、踵を返そうとした恵都に「馬鹿にすんなよ、おれは絶っ対セリエAにいくからな」と宣言。恵都は自分の方が馬鹿にされたと思って反発心から大洋を罵倒したのに。
そして大洋は「だからおまえも頑張れよ」と続ける。引きこもりの彼女を低く見ず同じ目線で励ましてくれる。いいやつだ。

・「大洋の言葉に押されるようにして」もう一度エル・リストンへやってきた恵都。スクール長に刺激されて大洋を訪ね、大洋に刺激されてエル・リストンを訪ね、という連鎖。こうした人との繋がりは引きこもっていては得られないものですね。

・エル・リストンにやってきて早々ロリータファッションの女の子(紅葉)に声をかけられた恵都はいきなり部屋に連れていかれ、彼女の服作りを手伝わされるはめに。
たくさんあるデザイン画を見て「この絵を自分で?」と自分から話しかける恵都。こうしてみると彼女は普通に他人に興味を持てるし自分から近づくこともできる。家に引きこもることによって自ら他人と接する機会を失っているだけで、きっかけがあればちゃんとしたコミュニケーションが可能なんですよね。
以前からファミレスで恵都を見かけてたというスクール長があの日に限って恵都に声をかけたのは、例の母子への対応を見て(スクール長自身もあの母親の発言が聞こえてて相当苦々しく思ってたんでしょう)、あの子供と同じ辛さを恵都も負わされてきたんだろうこと、それ以上に他人のために怒りそれを表明した恵都が“自分から外に働きかける力”を持ってる、場を与えさえすれば他人と関わっていけることに気づいたからでしょう。

・高校1年から不登校だという紅葉。原因はロリータ服を学校に着ていって回りに引かれたこと。「こういう格好してないと自分が自分じゃないような気がしちゃうんだよね」。
服にその人間の性格が表れる、アイデンティティが反映されるのは当然だし、服装で気分が変わることも多々あるものですが、しかし常に好みの格好じゃないと落ち着かないというのはやや精神的に脆弱な気もします。精神状態を服に依存しちゃってるというか。
ポリシーをちゃんと持ってるのはいいんですが、結局回りに引かれたせいで不登校になったというあたり、集団の中で人目を気にせずポリシーを貫けるほどの強さはなかったということですしね。
第三回で明かされるように紅葉はロリータ服で登校する以前からクラスで浮いてたそうなので、本当は彼女の居心地悪さは制服を着ることではなく周囲との不調和に由来してた、ロリータ服はもともと根のあったいじめを顕在化させたきっかけに過ぎないんでしょうが。

・名乗るのをためらう恵都は紅葉のところにやってきた生徒たちに「どこかで見た顔」といわれ固まる。そこに廊下側からやってきた浩一が「青山恵都だろ」とぶっきらぼうに言い切る。
恵都が人に知られたくないことを、それを察したうえで暴露するひどい行動ですが、あえてそうすることで彼女を膠着状態から救おうとする彼なりの優しさなのでしょうね。
おかげで恵都が自分から逃げるなりごまかすなりしなくて良くなったのだし、今後もリストンに出入りするなら遠からず直面する問題ですしね。

・「声をなくした天才子役、だった人だろ」。過去形なのがキツい。「サニー」は子役の登竜門だと母親が喜んでたので恵都はまだ駆け出しの部類なのかと思ってたんですが、周囲の反応を見るにすでにテレビなどで十分に売れっ子だったみたいですね。

・恵都の隣にやってきて右手を差し出した浩一は「芸能人の義務だろ?握手」と傷ついた(自分が傷ついた)恵都をさらに痛ぶるような言葉を。
しばらく恵都は浩一を睨んでいたが、やがて彼を思い切り突き飛ばして(あっさりひっくり返る浩一も結構情けない)部屋を出て行く。「それだけは言ってほしくなかった。サニーだって指を指されたくなかった」。なまじこれだけ顔が売れてなければ引きこもりにまでならないですんだんでしょうか。

・回想。「サニーデイズ」本番前、メイク中に倒れたという奈子。恵都母はチャンスとばかり恵都に昼公演もやらせるよう演出家?に進言するが、奈子が起き上がってきて自分はや
れると言ったため恵都が袖で待機して奈子が出る形に。これで冒頭のシーンに話が繋がった。「奈子、大丈夫だからね」と励ます恵都をなぜか奈子は無言で睨むように見る。その視線の意味はまだ明かされませんが、出番取られそうになったことでいよいよライバル意識が炸裂したんでしょうね。恵都への意地で体調不良ふっとばしたんでしょうし(原作では、この時倒れたのは芝居だったとあとで告白する場面があります)。

・舞台へあがった奈子は元気に活躍。演出家たちも袖で彼女をほめる。幕が無事下りて引っ込んだ奈子は拍手する恵都を無視して横を通り過ぎる。その態度をいぶかる恵都。
それでも「奈子おめでとうすごいよかったよ」と褒める恵都に「お礼言ってほしいの ?あげないよなーんにも。友達一人もいないなんて気持ち悪い人」と奈子は言い放つ。
一番恵都の弱い部分を的確にえぐるかのような発言。夜公演を失敗させてやろう、立ち直れないほど傷つけてやろうという気があっての言葉だったんでしょうか。まさか恵都を子役引退、引きこもり状態にまで追い込むとは予期してなかったろうから、さすがに寝覚めの悪い部分はあったんだろうか。

・回想終わり。「あの日から私は言葉を失った」。夜公演、幕が開いてる15分間何もできず突っ立ってるだけだったという恵都。
夜までの恵都の様子はどうだったんでしょう。きっと奈子に暴言を浴びせられた瞬間からずっと茫然自失状態だったろうと思うのですが、お母さんは恵都の異常に気付かなかったんでしょうか?

・エンディングで並んで歩く4人。最初の方で自然と恵都が浩一のほうに体を寄せてくのは、いずれ彼と結ばれる伏線なんですかね。

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『キャットストリート』(1)

2012-08-22 23:32:02 | キャットストリート
2008年8月にNHKにて全六回放送。大ヒットドラマ『花より男子』の原作者である神尾葉子さんの作品というので、話題性もあり高視聴率を取るのではないかと期待したのですが、そこはNHKだからかさほど騒がれることもなく、そのかわり主要キャラを演技派で固めた手堅い作りの良心的ドラマに仕上がっていました。
ストーリーに関しても、結構大きな改変も加えられているものの基本的には原作のエピソードを上手く応用して、事件が起こる時期をずらしたり関係者の顔触れを変更したりしつつ綺麗に纏め上げていたと思います。

なかでも最も大きな改変はヒロイン恵都の親友→恋人となる二人の男子の一人・佐伯玲の存在を消してしまい、代わりにヒップホップダンスを得意とする吃音の少年・剛太を出してきたこと。
そして玲のキャラクターとエピソードの一部(元サッカー少年だが突出した才能ゆえの傲慢な態度のせいでチームからはじきだされた、子供の頃に恵都の舞台を見にいったことがある)は最終的に恵都と結ばれる峰浩一に吸収されることになった。
原作で浩一と人気を二分していただろう玲を存在自体抹消してしまうとは思い切った判断ですが、コミックス8巻分の物語を全6話に凝縮するにあたって、大きな枝をばっさり切って構造をシンプルにしたのはドラマの完成度を見る限り成功だったのだと思います。

また恵都-浩一-玲の三角関係がなくなったことで原作よりも恋愛要素がやや薄まり、紅葉・剛太も含めた4人組の友情により重点が置かれることとなった。それは各話のエンディングテーマのバック及び最終回ラスト手前で4人が並んで歩く場面が印象的に描かれているのに象徴されています。
だからといって恋愛部分が軽視されてるわけではなく、恵都・浩一のツーショットはしばしば目を見張るような美しいアングルで描かれていて、スタッフの思い入れを感じたものです。

もう一つ大きな改変ポイントで上手いなと思ったのは恵都が7年間引き篭もる原因となった子役時代の親友・奈子の扱い。原作では奈子との確執は物語の中盤で解消され、以後の彼女は恵都の良きライバル・友人というポジションになっていくのですが、ドラマでは原作終盤で奈子と無関係に起こる恵都拉致事件を奈子の仕業として二人の和解を最終回まで引っ張る。
このことにより奈子の存在感が増しただけでなく奈子にとっての恵都の影響力―彼女を脅かしてやまない恵都の存在感をも引き上げています。奈子に始まり奈子に終わる、奈子に心を打ち砕かれた恵都が強く成長し最終的に奈子の心を救う展開を終盤に持ってくることで、ストーリーの構造もぐっと引き締まった感があります。

上で書いたようにドラマは原作以上に友情(恵都と奈子の確執→和解も友情エピソードには違いない)を重く扱ってるのですが、彼らの出会いの場となったフリースクール「エル・リストン」が物語に占める重要性もより大きくなっています。
原作では中盤で浩一が18歳で起業したのを皮切りに4人組はそれぞれの才能を活かして社会的にも華々しい成功を遂げ、自然とエル・リストンを卒業していってしまうのですが、ドラマでは経営が危ないエル・リストン―彼らの居場所を守るために4人が特技を活かしてお金を稼ごうとする、そのために自ら社会に働きかけることを通して結果的にリストンを必要としないほどに逞しく成長してゆくという描き方をしています。
原作でもラスト、スクール長の死によって存続不能となりいったんは人手に渡ったエル・リストンを浩一が買い取り恵都たちの協力のもと再建しているので、決してリストンが軽く扱われてるわけではないのですが、ドラマではずっとリストンは彼らの居場所であり続け、なおかつ“いずれ巣立って行かなくてはならない場所”であることも語られている。
奈子やマスコミ、いじめ加害者たちの発言を通して世間のフリースクールに対する偏見が繰り返し語られるのも、彼らの“卒業”でドラマが幕を閉じるのも、エル・リストン、ひいてはフリースクールの存在意義というものをドラマスタッフがしっかりと見据え、作品を通して視聴者に伝えてゆこうとしたゆえなのでしょう。

キャスト・演出・志――その全てにおいて高いクオリティを持った素晴らしい作品だと思います。

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