・仕事中に居眠りする小笠原のおでこに春子が消しゴムをぶつけて起こす。そのあんまりな行動に美雪ほかみなの非難の視線が。
「寝ている人を起こしただけですが、何か?」と春子は例の切り捨て台詞を返しますが、「なーにか?」といつになくちょっと間延びしたトーンに可愛げがあります。
その後も小笠原のパソコン音痴が炸裂するたびに春子はあれこれ投げようとするとするのですが(しかもだんだん重いものになる)、その行動も本人は激怒してるのかもしれないけれど、なんかユーモラス。
・マーケティング課のデスクに座ってからを数えるだけでも一ヶ月以上たってるはずなのに、パソコンの電源の入れ方さえわからないというのは、いくらなんでも・・・。しかも本人は反省の色なく覚える気があるようでさえない。
春子の小笠原への腹の立てっぷりはかなり過激ではありますが、後に自ら語るように、自分の能力だけを頼りに生きている春子にしてみれば、会社に寄生して向上しようという気がない小笠原が許しがたいんでしょうね。
・桐島部長に呼び出され、小笠原のリストラを告げられる里中。「昔は腕のいい営業マンだった」という言葉が、小笠原の現状のダメっぷりを見せ付けられた後だけに身にしみる。
小笠原の、自身の無知に無反省なばかりかへらへら笑い飛ばすような態度も、その実せめて周囲も自分も深刻な気分にさせまいとする強がりなのかなとも思えます。
ちなみに小笠原役小松政夫さんは芸能界に入る前は、本当に車のトップセールスマンだったそう(小松さんの自伝的エッセイ『のぼせもんやけん』に詳しいです。持ちネタの「長い目で見てください」のモデル話もあり)。
・すれちがいざま春子に「ハケンは国税局とか関係なくていいわね」と嫌味を言う黒岩。春子が別に何をしたわけでもないのに、やつあたり的言い草。確かにこの回後半で春子と美雪以外のハケンは販売二課の大騒ぎをよそに(むしろ肴に)くつろいでいますが。
結局春子は「国税局とか関係な」いいどころか、粉飾決算疑惑をはらすのに最大の貢献をすることになります。
・「あんたさっき小笠原さんを虐待してただろ」となどという東海林。
虐待という表現に思わず笑う。虐待とは自分より明らかに弱い者、子供や老人に対する行為を指すんじゃないか。本来正社員より立場の弱いハケンが社員(嘱託だけど)を「虐待してた」とは普通ならまず表現しないだろう。
春子に「あの人を老人扱いするな」と言いつつ、東海林こそが、そして里中たちも無意識に小笠原を老人、弱者とみなしているのが「虐待」の語に匂わされている。
・「私はハエと遊んでいる暇はないんです。」
前回ラスト以来春子の東海林に対する態度は一段ときついものになっている。自分の中の彼に惹かれる部分を押し殺そうとするゆえ、なのか?
・朝食を食べそびれた浅野がおにぎりを食べていたのをきっかけに、小笠原さんが塩むすびの話を。そこで急遽塩むすびの企画のためのリサーチを命じる里中。
春子をやりかけの仕事を後まわしに小笠原に同行させ、「僕は浅野くんとコンビニ回りますから」。・・・マーケティング課は他に急ぎの仕事ってないんだろうか?
・「小笠原さん、がんばりましょうね」と小笠原の両肩に手を置く里中に春子が訝しげな視線を送る。性急に小笠原名義の企画を立ち上げようとするのも含め、この時点で春子はうすうす事態に勘付きつつあるんでしょうね(でも後で東海林に「小笠原さんはな、今大変なんだよ」と言われて驚いた顔してたけど)。
それに対し小笠原は自分に関わることなのに、里中の様子が妙なのに気づかない。デパートでの遊びほうけっぷりといい・・・春子の言う通り「危機感がなさすぎた」んですよね。
・パソコンが信用できないと語る小笠原。しかしそんな個人的感情は、今や業務に欠かせないパソコンを習得しない、する努力もしない理由にはならない。
パソコンができなくてもお釣りがくるほど他のスキルで会社の役に立てるのならそれもアリだろうが(だからこそ里中もパソコン技術に関係ない「商品企画力」で小笠原に手柄を立てようとした)。「そうですか」という春子の冷淡な返事も「あんたの好き嫌いは関係ない」という意味でしょうね。
この場面では「十年ぐらい前までは、伝票ってのはみんな手書きだったんだけどねえ」という台詞を通して、ごく自然な形で伏線を張っている。
・小笠原を捜して歩く春子が首を左右に大きく振り向ける。「大前体操」や前回の直角歩き、数話後の車の安全確認もそうですが、この大げさな動作が無口・無表情・無礼な春子にユーモラスさを加味しています。
しかし「迷子のお知らせ」ってのは(笑)。こういう場合「お客様のお呼び出しをいたします」ですよねえ。呆れ果てたように春子が目を閉じているのもいい味。
・小笠原を迎えに行かないことを責める東海林に「迷子の老人の面倒を見るのは私の契約に入ってはおりません。」と言い切る。
実際おむすびのリサーチで来てるのだから、食品フロアでおむすびを扱ってるコーナーを回れば春子と合流するのは難しくなかったろうに、にもかかわらず春子と行きあわなかった小笠原は、食品フロアまで春子を捜しに降りてきてもいない可能性が高い。
というかわざわざ捜さなくても自分もリサーチに回り始めれば自然と出会えただろうに。仕事を何もせずにただ迎えに来てもらうのを漫然と待ってるようでは「迷子の老人」と言われても仕方あるまい。
そして春子が小笠原を迎えに行かず置き去りにして帰ってきたのは、「面倒を見なければならない老人」扱いにしていないからこそなのでは。居眠りしてても叱らず、パソコンが使えなくてもデパートで迷子になっても、「優しくしてあげるべき」だと考える東海林やマーケティング課の他メンパーの方が遥かに彼を「穏やかな余生をおくる老人」と見なしているように思えます。
・にこにこ笑いながら帰ってきて、迷子になって東海林に迎えに来てもらったと悪びれずに告げる小笠原。本来恥ずかしい話のはずなのだが。
迎えに来てくれた東海林のことを「この人(春子)と違って優しいから」などと言っているが、こんなことで優しくされるようじゃお終いだ、との意識もない。恥ずかしいだけでなく職業人としての信用を失いかねない話をほいほい話してしまうとは。
現に桐島が渋い顔をしてます。迷子になった事実以上に、その事に対する意識の低さを問題に思ってるんでしょうね。
・里中は塩むすびの企画書を「これ小笠原さんの企画なんだ」と言って東海林に見せるけれど、実際は小笠原は思いつきでさえない雑談として塩むすびの話を口にしただけで、それを企画にしようと考えたのは里中、企画書の形にしたのは春子である。
小笠原はデパートで遊んで迷子になってただけ。その間に春子は本来彼がすべき仕事を全部やってくれている。迎えに来てくれなかった春子が冷たいと文句を言う前に、まずお詫びとお礼を言うべきところなんですけどね。
・「仕事早くなったね」と誉められ謙遜する美雪に、「若い人はどんどん覚えちゃうから」と言う小笠原。
確かに年が若い分吸収力もあるし機械に馴染みやすいのは確かでしょうが、それ以上に前回家賃も払えないほどの薄給の恐怖を経験したこと、二ヶ月後の契約更新を目指すと決めたことが、美雪の危機感と向上心に繋がってるのでしょう。
一番大事なのは「やる気」であり、若さのせいで片付けるのは努力しない言い訳と響く。美雪の努力に対して失礼でもあるし。
春子が間髪入れずに「忘れる人もいますが」と反駁したのはそのへんにムッときたからでしょう。
・誰もツッコんでないのにお腹が鳴ったことをいきなり言い訳し始める春子。この時の表情や声の出し方が、いかにも精一杯意地張ってる感じで、春子の可愛げが思いきり出ていました。篠原さん名演技。
この言い訳台詞で春子が迎えにこそ行かなかったものの、所在が知れるまでは小笠原の行方を心配して昼食返上で捜していたのがわかるようになってます。
こういうことをはっきり口にするのは自分の優しさを隠そう隠そうとしてる感のある春子らしくない気はしますけど。
・このタイミングで桐島が春子に小笠原について思うところを尋ねたのは、さっきの話を聞いて改めて小笠原の能力とやる気に不安を覚えたからなのがうかがえます。
そして部屋を出て行く桐島・春子・里中を深刻な顔で見守る東海林。彼は桐島の話の内容、それに春子がどう返すかまでおよそ推測しているのでしょう。
・社食の料金が社員とハケンとで倍も違うというのがここで明かされる。たまに顔を出す程度の外部の営業さんならともかく、三ヶ月はこの会社にいるハケンに割引チケットとか支給されないんだ?ハケンも多く使ってる会社なのに扱い悪いなあ。第一回でS&Fに入ってたハケンの女性が文句言ってたのはこういうところもあるんでしょうね。
おごってくれようとする桐島に「結構です!」と怒鳴るように断るのは失礼ではありますが、春子としてはなあなあになるのが一番嫌いですものね。
・「もうお腹が空きすぎて目が回りそうなのでこれで失礼します。」
思い切り私事だなあ(笑)。どこまでも率直ということか。まあ本来は休憩時間のはずですし。
・おじいちゃんと孫のように仲良く肩を並べて会社を出る美雪と小笠原。
先に春子は「ハケンの立場として言わせてもらえば」と前置きしたうえで小笠原を「マーケティング課のお荷物」と断じましたが、同じくハケンの美雪は小笠原をお荷物扱いどころか祖父のように慕っている。美雪は気持ちのうえでハケンというより正社員寄りなんですよね。それはマグロ事件の時の対応にはっきり現れています(待遇の面で社員と違うことを思い知らされた前回はそれが揺らぎましたが)。
美雪が元からのハケン希望でなく、正社員になれなかったからハケンになった、というのもその一因でしょう。彼女が最終的に社員への昇格を目指す根は第一回の時点から周到に描かれているのですね。
・東海林が自分を笑ったリュートに「わたし、あなた、キライ」。日本語通じますって(笑)。
・「よそ者のハケンが人事のことにまで首突っ込んでんじゃねえ!」
春子自身は「ハケンに社員の査定をさせるんですか?」と東海林同様「ハケンは人事に首を突っ込むべきではない」考えを述べていたのに、そこを押して桐島が彼女の意見を聞き出したのだが。
その場にいて話の流れを知っている里中が何もフォローしないのは、彼も春子の発言に腹を立ててるからか。
・「私は一人で生きていけます」に対して「一人じゃないだろ」と返したのに、ツネさんのような)「ハケン仲間がいる」とか「同じ課の仲間がいる」とか続けるかと思えば、「一本だろ!電信柱一本で立ってろよ!」。思わず「そう来るか」と笑ってしまった。東海林は真剣に怒ってるんですけどね。
しかし「おまえが死にそうになっても、助けてくれるやつなんてこの世に一人もいないからな」という言葉を、嫌味っぽい口調でなくしみじみと悲しげな調子で口にした東海林に、前回の「何でそんなに寂しいこと言うんだよ」を思い出しました。
春子に「フラれた」わだかまりがあるから毒のある言い方になるけれど、思いはあの時と同じなのかもしれません。
・小笠原が家族の顔を思い浮かべれば(通勤ラッシュも)そんなの苦にならないと言っていた、と語る里中。
小笠原は先に美雪にも「仕事はともかく会社は大好き」だと話していましたが、ならばその大好きな会社に貢献できるように、家族を守るためにも、もっといい仕事をするため努力するべきだったんじゃないか。会社や家族を愛しているのは、ろくろく仕事をせず給料をもらう理由にはなりませんし。
・「ハケンは三ヶ月に一度リストラの恐怖にさらされるんです。」
これは正社員の側から見ると結構盲点でしょうね。実際二人とも黙っちゃってます。
そして「今度はあなたたちの番かもしれませんね」という台詞は終盤の東海林の状況を思うと、一種予言めいて聞こえてきます。
・「あなたあの二人と喧嘩してるときって、とても楽しそうね」という眉子ママ。あれで楽しそうなのか?春子自身も「ありえない」って言ってるし。
しかしドラマ的にはああした「理解者」キャラが言う言葉は真実と相場が決まっている。確かに春子はプライベートの場に訪ねてきた二人をすげなく追い返さなかった。そもそも「悪い予感がする」と言いながらその場に留まっていたのも、ある意味彼らを待っていたのかも。
・黒岩が里中に「小笠原さんいなくなっちゃうんだって?」と問うのにマーケティング課の面々は驚く。
折りを見て里中から伝達されるべき事柄を、みんないるところで口にするのは軽々しくないかなあ。「これだけハケンがいたら小笠原さんやることなくなっちゃうわよ」という嫌味を(ハケンの近くんの発言に腹立ったとはいえ)ハケンたちの前で言ってしまうのも。
パソコンスキルを買われてやってきた近くんは言うに及ばず、春子も美雪もみなパソコンを使っての業務が主のようなので、パソコンの使えない小笠原さんと仕事かぶってないし。
・小笠原さんが去るのも仕方ないという態度の近くんに浅野がとがめるような目を向ける。それも単純な非難の目ではなく、「小笠原さんのことそんなふうに思ってたの?」と言いたげな、「一緒に働く仲間と思ってたのに裏切られた」ショックみたいなものをその表情に感じました。
もっとも近くんの方も曖昧な笑顔を浮かべつつ意味なく歩きながら―皆と視線を合わせないようにして―喋っているので、浅野たちのように素直に小笠原さんを惜しめない事にいささか罪悪感を覚えているようにも見えます。
近くんは基本ハケンらしくドライなんですが、マグロ騒ぎの時に「今日は僕も手伝いますから」と申し出たようにまんざら情がないわけでもない。ドライに徹しようとする(結局徹しきれない)春子とウェット全開の美雪の中間に位置するキャラクターですね。まあ男性なんで、女性が多い派遣社員を代表するキャラではないんですけど(代表キャラは販売二課の香と瞳でしょう)。
・二つ上で春子たちと「パソコンの使えない小笠原さんと仕事かぶってない」と書いたんですが、美雪いわく「最近私が調子にのって小笠原さんの分の仕事までやっちゃってたから」。
小笠原さん普段どんな仕事してるんだろう。普通ならパソコンでやる計算とかグラフ作成なんかを全部手書きで(そのぶん時間かかって)やってるんですかね。で最近は美雪がそれを(パソコンで)肩代わりするようになった感じなんでしょうか。
自分自身の仕事と小笠原の分と両方自主的にこなしている美雪・・・なかなか有能なんでは。成長したなあ。
・「あれだけ仕事をしないで会社に居続けるスキルを、あなたがたも学ぶべきです。」
あなた「がた」って誰かと思えばその後に香と瞳が写るのでハケン女子三人のことらしい。香たちより仕事してないのか・・・そうかも。
「座ってるだけであたしたちの倍くらい給料貰ってるんだよ」と聞かされて、さすがの美雪も(前回給料問題にはシビアなところを見せていたので)多少小笠原に反感を抱くかと思いきや「小笠原さん、すごいなー」。
そこで素直に感心できてしまう美雪こそすごい。他人を恨んだりそねんだりしないこの素直さは彼女の原動力かも。