about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『蜉蝣峠』(2)-7(注・ネタバレしてます)

2013-09-28 12:44:28 | 蜉蝣峠
・いったい本当は何者なんだと立派に聞かれた闇太郎は、それがわかるならこんなところにくすぶっていないと答える。
闇太郎にとってここは「くすぶっている」、いやいや身を置いている場所だったのか。お泪のために積極的にこの街で暮らすことを選んだのだと思ってたが。天晴同様この街がどん詰まりなのはわかっていて、でもそこにしか居場所を見出せなかったということでしょうか。

・それでも、おれが何者でもあんたには問題じゃないはずだ、おれは領主を斬った、あんたは縄張り争いに勝った、おれは所帯を持たせてもらった、それで十分だ、と天晴に語る闇太郎。
この箇条書き風のビジネスライクな言葉の選び方、あえて単純に物事を割り切ろうとする作法は、闇太郎のドライさと一種の頭の良さを感じさせます。失くした過去を嘆いても仕方ない、現状可能な中で自分にとってベターな道を選びそれでよしとしようという、闇太郎なりの前向きな態度。
そんな闇太郎に天晴は「てめえの素性が何者か知ったらおまえこの街にいれねえ」と言い出す。天晴が闇太郎の正体について重大な情報を握っていることを初めてあからさまに示したシーン。闇太郎を〈そう〉させた責任は天晴にも少なからず(天晴自身がこの街にいられなくなるほどに)あるだろうに。

・天晴が自分の素性を知ってると気付いてはっとする闇太郎を天晴はどこやらへ連れ出す。後に残されてさっぱり飲み込めない顔の立派とお寸は、サルキジに様子を見てくるよう命じる。
サルキジは困惑したような顔で「やだよどうして今さらあんたの指図なんかで」とお寸に口答えして立派に殴られる。「ばかやろてめえ実のかあちゃんに向かって」「あんたー」「お寸」とまたまた抱き合い口を吸い合う二人。ええー。
「また元サヤかよ」「めんどくせえなあ」というサルキジの台詞に劇場中が同意だったに違いない。

・行きゃいいんだろ、と向こうへ行きかけるサルキジに銀之助は「あたしも行く」と声をかける。女言葉がすっかり板について。メンタル的にもずいぶん女っぽくなってきた印象です。

・そんな二人のやりとりにお寸は「あんたらずいぶん仲いいみたいだけど、まさか」と顔をしかめる。歓迎ではない感じです。そりゃお菓子が本当は男だと知ってますからね(とこの時は思った)。
サルキジは「やめろい、そんなんじゃねえ」と否定したそばから「まあ、男と女だ、いずれそうなるかもしれねえけどな」とほとんど二人の仲を肯定したような台詞とともに銀之助の手を取る。
この台詞に、立派とお寸も「男と女って・・・」「まあ確かに男と女だけど」と困惑ぎみ。この親子三人の台詞に本当はあんな意味があったとは。ここで銀之助がちょっと困った顔をしてるのは彼が自分たちが「男と女」ではない、とまだこの時点では思ってるからですね。

・「行くぜお菓子」と声をかけて、また羽ばたくような仕草で走っていくサルキジに口を押さえながら見とれる銀之助。すっかり恋する乙女の顔です(笑)。
お寸は「あんたあの子のどこがいいの」と尋ねる。この時お寸は泣き笑いめいた複雑な表情で、声も不思議なほど優しい。男であって男でない銀之助を娘の相手として歓迎はしようがない、でも娘を慕ってくれることを嬉しくも思う、そんな心情なんでしょうか。

・お寸の問いに銀之助は「走ってる、ところです」と意味深な答えを返す。確かにサルキジは例の羽ばたくようなポーズで無駄に走り回ってる感じはある。
〈男をあげる〉ことにやたらとこだわり、荒っぽい(しかし子供っぽい)行動を繰り返すサルキジの〈男らしさ〉が、男でいられなくなってしまった銀之助には眩しく感じられるのかも。

・道を間違えたのに気づいて反対側に走り直すサルキジを「もうー、かっこいいっつうの!」と極上の笑顔でぶりっこポーズしてから追ってゆく銀之助。道間違ってるのにどこがかっこいいんだか。あばたもエクボみたいなべた惚れっぷりがうかがえます。
サルキジといる時の銀之助はどんどん女化してる気味があります。サルキジに惹かれることで、女として生きざるを得なくなった現在の自分を肯定できるようになってきたんでしょうか。

・サルキジと銀之助が去ったのと入れ替わりに無罪放免となった流石が戻ってくる。「この流石転んでもただでは起きません。実に興味深い噂話を仕入れてきました」「闇太郎は本物の闇太郎じゃなかったんです」。
確かに数十分前なら特ダネだったでしょうが、ちょっとタイミングが遅かった。実際「それ今さんざんやったから」「本物見ちゃたし。そいつがつかまったおかげであんたは出てこれたの」とお寸はにべもない。
けれど流石の握ってたネタはこれで終わりじゃなかった。「あの男まだこのあたりにいるってことですよね。じゃ、この話やめようかな」などと言いつつ、流石はこの宿場の外れにある松枝家の当主の話をはじめる。
いわく当主は病弱だったため妻子を残して自害し、その息子の松枝久太郎は文政元年=大通り魔事件の年から行方不明になっている、久太郎が闇太郎の正体だと自分が出会った罪人は言っていたと。
「この話が本当なら大変なことになりますよ」。この時点ではまだ大通り魔事件に被害者として巻き込まれた久太郎が記憶を失ったために闇太郎と取り違えられたという解釈も可能なわけですが、やがて話はろまん街のヒーロー闇太郎がヒーローでなかったばかりか最大の敵役だったという方向へ進んでいきます。

・場面変わって、語り合う天晴と闇太郎。「おれがお泪と所帯を持たなかったのはおれがお泪の父親を殺したからだ。お泪は何も知らないが」「お泪の父というと確か一揆の首謀者」「村人たちの前で隠密に殺された。その隠密がおれだ」。〈闇太郎が実は大通り魔だった〉に次ぐ衝撃の事実。
「おれの親父は立派の兄貴に跡目を継がせ一人息子のおれを侍にしようと考えていた。ヤクザの倅を侍にするには金と頭を使うしかねえ。親父は役人だった蟹衛門にかけあった。蟹衛門はこう約束した」「隠密として沢谷村に潜入し一揆をつぶしたら家来にしてやろう」「そしてある男を紹介された。年は同じくらいだが育ちのよさそうな男だった」「誰だ」「松枝久太郎。聞き覚えあるんじゃねえか」。
うずら・天晴親子にこう話を持ちかけた一方で、蟹衛門は久太郎に対しては潜入捜査をすれば家禄を与え士官させてやると約束する。「そう蟹衛門にそそのかされたんだそうです」とここから過去話が流石の語りに引き継がれる。この引継ぎが実に自然で、この場面以降天晴と流石が交代に過去を語ってゆく。
重要な謎解きのシーンだけにどうしても台詞で語る部分が多くならざるを得ない。それを一人の役者にさせず二人で代わる代わる語らせることでメリハリをつけ単調にならないよう工夫がされています。その時語り手になっている側にスポットライトを当てることで、場面が転換したのと同様の効果をあげているのも定石ながら上手い。

・例の沢谷村の百姓たちが斬りまくられる映像がここで入る。逃げ惑う人々も今度は実物に。任務を終え村を去った後になって天晴は「なあ久太郎、かわいそうだがおまえ仕官なんかできねえぞ。うそだと思うならろまん街へ行ってみな」と謎の台詞を吐く。
どういう意味かは流石先生が「蟹衛門には最初から久太郎を仕官させる気などなかった。久太郎の留守に母親のお鶴を連れ去りろまん街へ売り払ってしまった」と説明してくれる。
お鶴の美貌に目をつけたのはわかるとして、直接自分が囲うのでなくいったんろまん街に女郎として売ってから客として通うというのも不思議な感じ。むしろ蟹衛門がお鶴に思し召しのあるのを察したうずらの親分が子分たちにお鶴をさらわせ、むりやり女郎に仕立てて蟹衛門の相手をさせたという方が後の展開にすんなり繋がる気がします。

・天晴から真相を知らされた久太郎は怒り心頭ろまん街へ急行する。その頃ろまん街では逃げようとしたお鶴が捕らえられ、「よくもこのうずらの顔に泥塗りやがったな」と激怒する親分に「私は侍の家内。女郎ではありません」と反駁して蟹衛門がそれをかばうという、大通り魔の事件が以前語られた時と同じシーンがそのまま出てくる。
先には単に大通り魔事件の遠景でしかなかったワンシーンが実は大通り魔の凶行の動機だったことがわかり、あたかもパズルのピースがあるべきところにはまったようなカタルシスを呼び起こします。

・にもかかわらずお寸の「ここはしょって」というすげない台詞によってさっさとシーン終了してしまう。このシーンがどういう意味を持っていたかが伝わりさえすればいい、それ以上すでにわかっている内容を演じるのはくだくだしいだけ、という思い切りの良さと、それを「はしょって」というメタな台詞でギャグ的にさくっと処理する手際が光る一幕です。

・「久太郎は母親が陵辱される現場を見てしまった」。行為の途中お鶴は舌を噛みきって自害、驚く蟹衛門をうずらたちが逃がす。
この時久太郎は「母上」と声を出してますが、お鶴や蟹衛門は彼に気づいてたのだろうか?お鶴が自害したのは息子に見られたことを恥じたゆえだったかもしれませんが、蟹衛門とうずら、少なくともうずらは久太郎の存在には気づかず、交合の最中に女が死んだことに驚き、人が死んだ以上その場に役人がいた、自害の原因となったことが知られては立場が悪いからと蟹衛門を逃がしただけで、久太郎の報復を恐れたわけではないように思います。
というのは蟹衛門を逃がした後にうずらがお鶴の死体を犯すような素振りを見せているから。もし久太郎がいるのに気づいてたら、そんな殺してくれと言わんばかりの行為に走らないでしょうからね。

・真っ先にうずらを斬った久太郎は以降殺人鬼化し、街の人々を次々手にかける。死屍累々の中がめ吉が死体から死体へと呼びかける、これも以前に紹介されたシーンが登場。
久太郎は蟹衛門を探したが蟹衛門は裏口から逃げてしまい、ここで我に返ったのか呆然自失状態に。目を傷つけられて何も見えなくなったがめ吉は自失している久太郎に「やみ太郎」と呼びかける。そして握り飯を渡し、蜉蝣峠へ行くんだろといって背を押す。
なぜ久太郎が自分を闇太郎だと誤認したのか、その真相を我々はすでにがめ吉の語りの形で見せられていたことにここで気づかされる。これもまたカタルシスを与えてくれる場面です。
しかし失明という大変な事態に見舞われながら、通りすがりに過ぎないやみ太郎をここまで案じて面倒みてくれるがめ吉の優しさには感心します。結果的にその思いやりが状況をこれだけややこしくしてしまったわけですが。
・「あの晩久太郎は過去を捨て己を捨てた。そして蜉蝣峠の闇太郎として今日まで生きてきたってわけだ」。天晴が話し終わるといつの間にか闇太郎の姿がなく、代わりにお泪が現れる。
お泪はいったいどこから二人の話を聞いていたのか。天晴にしてみれば今まで伏せてきた〈自分はお泪の父親を殺した男〉という事実をお泪に知られた可能性が大きいわけで、かなりショックな状況だと思うんですが、天晴は動揺するふうもなく「もしもあの男が久太郎なら」「おれと同じおまえの仇だ。おまえの親父をそしてお袋さんを叩き切った男だ」「あいつはおれの親父も殺した。おれにとっても久太郎は仇だ。立派やねえちゃんや宿場の連中にとってもな」と自ら父親殺しの犯人であることを話してしまう。
お泪はやめてやめてと泣きそうな声で叫びながら走り去る。夫婦になったばかりの闇太郎が親の仇でしかも殺人鬼だったということが一番のショックなのは間違いないでしょうが、かつては慕う気持ちもあったと思われる天晴が親の仇だったことはお泪の中でどの程度の重さを持っているのか、いささか気になります。

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『蜉蝣峠』(2)-6(注・ネタバレしてます)

2013-09-22 05:36:23 | 蜉蝣峠
・闇太郎の家の一階で沢谷村の一同は宴会中。いつまでも騒いでる彼らにもう遅いから帰ってくれと闇太郎は切れる。
なんか祝言からこっち闇太郎はずっと不機嫌で笑顔を全然見せてません。記憶のない今の状態では恨みもない領主を斬ってまで望んだ結婚だったはずなのに。
その迫力に皆黙り込んでしまうが、「新婚初夜だから」「とても大事な夜だからー」と力強く宣言する闇太郎に、不機嫌の理由がわかって安堵したごとくに皆引き上げていく。
と見せて隣の部屋にいたりするわけですが。それと気づいた闇太郎は二人の恩人であるがめ吉まで容赦なく追い出してます。

・「お泪、村までどれくらいだ」「村に連れてったらあんた元気になるか」と尋ねる闇太郎。
元気がないのはむしろ闇太郎のように思えますが、「あたし元気ない?」「おれはあんたを裏切っちまった。人殺しになっちまった」という闇太郎発言からは祝言以来のお泪の笑顔は無理をしてそう振る舞ってるだけで、彼女の元気をなくさせたのは彼女の望まぬ殺しをして彼女の意思を裏切ってしまった自分だと思ってること、それで責任を感じて闇太郎まで元気がなくなってたことがうかがえます。
お泪に対する思いやり、愛情を感じさせるワンシーン。

・「おれはそんなに変わっちまったか」と問う闇太郎に「そんなことない、昔のまんま」「せっかく所帯持ったんだから笑ってなくちゃね」と前向きになろうとするお泪。
なのに闇太郎は「おれはあんたが好きだ。不安なんだ。何度もそういってないとまた忘れてしまいそうで」などと言い出す。せっかく前向きになろうとしたお泪をまた不安がらせるようなことを。
しかし同時に殺し文句になってるというか、記憶喪失ゆえの足元の頼りなさに脅えて自分に懸命にすがりついてくるような闇太郎がお泪には愛おしく思えたことでしょう。
不安を消そうとするように二人は抱き合うが、実は追い出したはずの皆に思い切りデバガメされてるのに気づいて二人で撃退する。切なくも重い場面をギャグで軽くオチをつける、このへんの緩急は実に巧みです。

・変態プレイ中の蟹衛門はプレイ中にもかかわらず「この宿場は世の流れに逆行しておる、これでいいのか」と意外に真面目な話を始める。
「いいんじゃないですか」と最初は軽く受けていた天晴ですが、民の評判は上がったが出世は望めないと蟹衛門が言い出すと唐突に変態プレイ終了を宣言する。
せっかく街が繁栄して皆喜んでいる現状を蟹衛門が内心良く思ってない、この男も所詮ろまん街のためにはならないと切り捨てるつもりになったのかと思いきや、住所不定の輩を蟹衛門が取り締まれば彼の手柄になる、ろまん街の評判を聞いて集まってきた悪党たちを天晴がかくまい、増えまくったところで蟹衛門が一網打尽にすればよいなどと入れ知恵し、蟹衛門もその気になってしまう。
立派組が実質消滅した今となってはろまん街は天晴の天下だろうに、一国一城の主も同然の彼が自らその城を破砕するようなことを言い出すのに驚かされますが、すぐ後で述べるようにその「城」に天晴は執着がない、というかすでにこんな小さな宿場町で頭を張ってること自体にうんざりしてるようです。

・「そんなことしたらこの街は」と天晴の態度に驚いたような蟹衛門に「言ったでしょ。こんな宿場、どうなったって構わないって」。
さらに年貢を上げた結果百姓一揆が起きても首謀者を潰せば簡単に潰せると提案。そしてその首謀者には闇太郎を担ぎ上げる、沢谷村の連中は世直し大明神とあがめているが、当の闇太郎は中身は空っぽだからいくらでもこちらで操れる、一気に鎮圧すればまた蟹衛門どのの手柄ですよ、とそそのかす。
この計略、天晴はいささか闇太郎を甘く見すぎてはいないか。その中身空っぽの闇太郎とやり合って、相手の得物は下駄や田楽の串だったにもかかわらず遅れを取った経緯があるのに。お泪をエサに田丸善兵衛を殺させる計画が上手くいったことで、闇太郎を自分の手駒にできる自信がついたのか。

・蟹衛門が城勤めになったら自分もついて江戸に上ると言い出す天晴。「侍になるのか」と聞かれて「なりそこなってますからねえ」と吐き出すように言う。
ここで白黒反転の影絵動画で覆面の二人組が大量虐殺を行う様子が描かれる。斬られる側が鍬を持ってることから百姓だとわかる。話の流れ的に百姓一揆を武力鎮圧してるところのよう。天晴のセリフの後に続いてこのシーンが挿入されるので天晴の想像ないし記憶であろうと思われます。
この作品で百姓一揆の武力鎮圧といえば沢谷村の事件がある。天晴があの事件に関わってた(それも鎮圧側として)ことの伏線となるシーンです。

・尾羽うち枯らして蜉蝣峠にやってきた立派。乞食になって米をめぐんでもらおうとするのへ、お触書を見てた百姓たちが怒りをにじませて振り返る。領主の新年貢のお触れに善兵衛の方がましだったと激昂する人々は、やがて闇太郎ならなんとかしてくれるとすっかり盛り上がる。
そしてボコボコにされ捨て去られた立派。新年貢が重いのは立派のせいではないが、人々が窮迫してる(まもなくする予定)のときに食べ物を乞うたことが彼らの怒りを招いた、というより立派がよそ者なのを幸い八つ当たりしたというのが実情でしょう。タイミングが悪かった。

・立派は落ちぶれた自分を嘆きつつ坂を転がり落ちる。そこで嘆きの立派による独唱が始まり、続けてうずらの親分の亡霊+前領主田丸善兵衛の亡霊とトリオで歌う。歌の名前は「ヤクザ・イン・ヘブン」(笑)。
「久しぶりの劇団員だけの手作りトリオ楽しゅうございました」とのオチの台詞ともどもこの舞台で一二を争うほど笑い声が起きてました。

・天国で三人でトリオを組もうというのを、立派は顔ぶれが地味すぎるからと拒否。「もっとぎらぎらした人いませんか」と呼びかけたところで、プレスリーをさらにハデハデにしたような外見の男が登場。声はやたら部分的に甲高いし。
これがあのやみ太郎少年のなれの果て。でも子供の時と同じ歌歌ってます。

・立派はやみ太郎をろまん街に連れてきてこれが本物の闇太郎だと説明するが誰も信じない。嘘ならもっと上手くつけと言われる始末。しかしやみ太郎が沢谷村の連中の顔も名前も覚えていたことで疑いが晴れる。
なのにこれほどの証拠があるにもかかわらず天晴は偽者と決めつける。いわく「こいつには説得力がない」。無理矢理な感情論・・・のはずなのに何かすごく納得してしまう(笑)。実際周囲の反応も「たしかにこいつが闇太郎だとしたらなんだか頼りないなあ」でしたし。

・見るからに眠そうな様子でお泪が現れる。闇太郎はまだ寝てるそう。「てめえらこのところ毎晩だな。さかりのついた猫みてえに」と突っ込む天晴に「だって新婚ですもの」と可愛らしい素振りで答えるお泪。
隣家にまで聞かれているというのにまるで悪びれるところがない。しかも相手は過去の男?である天晴なのに。いろいろ不安要素はあっても闇太郎と上手くいっていて、今がとても幸せなのがわかります。
それだけにすぐ一歩先に辛い展開―本物のやみ太郎との再会にともなう闇太郎の正体の発覚が待ち受けているのを知っている観客には見ていて切ない姿でもあります。

・「説得力がない」呼ばわりされていたやみ太郎は、お泪を一目でそれと見抜いて呼びかける。あやうく偽者と決め付けられるところから一気に形勢逆転です。
明らかにやみ太郎しか知りえない思い出を次々突きつけられたお泪は動揺。「こちらが本物かもなんていまさら」。もしやみ太郎がもう少し早くろまん街に来て闇太郎より先にお泪に会っていればこんなことにはならなかった(今のやみ太郎をお泪が愛せたかどうかはともかく)。まさに「いまさら」です。

・周囲に動揺が広がる中「おれが闇太郎だ」と片肌脱いだ姿の闇太郎がついに登場。どっしりした迫力ある調子で「おまえは誰だ」と誰何されていきなり謝ってしまうやみ太郎。だめじゃん。「追い込まれると過呼吸になるんです」とか言い訳してるし。
こりゃ確かに“大通り魔事件を生き延びた男”“世直しのヒーロー”闇太郎像としてどちらが相応しいかといえば圧倒的に闇太郎に軍配が上がりますね。なんかもう人間の格自体が違うというか。
これがついこないだまで蜉蝣峠で究極のバカやってた人だとは。まあ今思えばあれはあれで迫力あるバカではあった・・・。

・そこへ八州回り(吉田)のお出まし。前領主田丸善兵衛殺しについて詮議中とのこと。そして容疑者として探してる男の名前は闇太郎だという。ということは流石先生の疑いは晴れたらしい。
ここで闇太郎を探してると言われたのを受けてなんとやみ太郎が自ら名乗って出てしまう。やっと自分をやみ太郎として認めてくれそうな人たちに出会えたと見事に状況を読めずに嬉々としているのがなんとも。当然ながら縄を打たれて連行されることになるわけですが。

・やみ太郎が引かれていくのをお泪が止めて、「やみちゃん。あんたやみちゃんなの」と問いかける。
これまで事の重大さにやみ太郎こそが本物だという事実を受け入れかねていたお泪ですが、彼が官憲に連行される瀬戸際にあってついに彼がやみ太郎であることを認めてしまう。彼女と闇太郎の関係に決定的な亀裂が入った瞬間です。
ちなみにやみ太郎はこのままフェードアウト。笑っちゃうようなテンションの高さゆえに目立ちませんが、あらぬ罪で囚われるわ幼馴染の恋人は偽者に寝取られるわ、この人も相当気の毒ではある。長らくお泪のことなど忘れて江戸で小悪党やってたんだから自業自得ではあるけれども。せめて処刑なんてされてないことを祈ります。


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『蜉蝣峠』(2)-5(注・ネタバレしてます)

2013-09-16 06:57:26 | 蜉蝣峠
・第二幕。ふたたび蜉蝣峠。なんか岩に刀で縫いつけられてる人が。と思ったらその人物のモノローグが始まる。
なんとこの人物、一幕で登場した領主(田丸善兵衛)で、「無念だ」「一言も言葉を発しないうちに殺されてしまった」のだそう。だから死んでから喋ってるんですかね(笑)。
しかしここにいるということは蜉蝣峠でやられたのか。なぜ闇太郎はわざわざこの場所でやったんだろう。

・田丸いわく、農民から年貢を取り立て公序良俗に勤めるのが使命だった。「そして二幕ではとにかく動かないという使命を背負っている」。
まさか二幕の間中このままなんてことないですよね?と思ったら「空しい、あまりの空しさにすっかり幽体離脱だー」、と三角巾つけた田丸が岩(大木?)の影から現れる。
もう動かないの終了ですか。結局さっきの死体は俳優さんでなく小道具だったんですね。

・そこへ「こっこっこっこ」とシャモリさんが現れる。「なあおっさんわし独立しようかなーと思ってんねん」。
今の動物プロにこのままおってもやりたいことがでけんのじゃないかと思うとシャモリ。「仕事が限定されるやんか」「いっそフリーになって自分を見つめ直そうかと思うねん」。中二病的発想ですがこれ天晴の願望だったりするのかも。
「けどなー仕事せんと子供生まれるしなー、ぼっこぼこ生まれるしなー」「フリーになると産休もとれんしやなあ」と軍鶏は悩む。なんともシュールな光景だ・・・。

・この愚痴に対し、領主は真面目に進退をアドバイスする。相手は軍鶏なのにいい人だな!しかし幽霊だけにシャモリには声が聞こえず、彼が死体だと気付いて「キモッ」というと「鼻にどんぐりつめたろ」。何つうばちあたりな。

・領主が軍鶏に(鼻にどんぐりつめるのを)やめろと叫んでいると、どんどんと太鼓の音がして「こっちでございまーす」と人がどやどややってくる。物音に軍鶏はどこかへ逃げる。
入れ替わりに現れたのは変態な格好のままの蟹衛門と配下らしい男たち、やじうまの遊女たち。蟹衛門は服くらい着ようよ。

・「むごい、なんとむごい」と死体を見た蟹衛門は言い、「おい下手人はまだか」と部下に問うと流石が引かれてくる。
「領主善兵衛殺しの下手人に相違ないな」と詰問すると「違います」と意外に流石は平静な対応。しかし刀に流石の名前住所緊急連絡先まで書いてあるといわれて顔色が変わる。
さっきの媚びた態度はどこへやら、こんな器の小さい男は斬らんとさんざん善兵衛の悪口を並べる。流石こそは器の小さい男だと思うのだが。刀に緊急連絡先書くくらいの細かさだし。

・怒った善兵衛(幽霊)の顔がすごく接近してきてるのに、見えてない設定の流石は全く笑わない。粟根さんお見事。
蟹衛門は昨日田丸の敵娼だった女に田丸について聞くが、彼女の領主評は「一言でいうと、ストレス ?」。以下こっちも悪口三昧。どれだけ嫌われてるんだ田丸。

・流石は闇太郎が下手人だと主張するが、お寸は闇太郎はずいぶん前に街を出た、がめ吉がお弁当も持たして送り出したと証言。ヤクザらが血まみれで戻ってきた闇太郎を見たと主張しても、お寸は知らないと言い張る。
なぜかお寸は上客のはずの田丸を殺した闇太郎をかばう気になってるらしい。もともと弟が書いた筋書きだからか?

・結局ああだこうだ紛糾した末、下手人が見つかるまで流石が牢に入れられることに。この人完全にとばっちりですね。しかし濡れ衣のわりになんで一幕最後であんなに挙動不審だったんだろ。

・皆が去ったあとに蟹衛門が「こんなもんでどうだ天晴」というとシャモリが出てきてサングラスを外し、「見事な裁きでございます」。
えっ、シャモリ=天晴なの?これまでは天晴の無意識の願望が形になったのが軍鶏(シャモリの時は天晴の、天晴の時はシャモリの記憶がなく、別人格の行動は夢のように感じているだけ)と解釈してたんですが、これでは天晴が好んで軍鶏コスプレをしてるかのようです。

・「姉ちゃんも助かったよ」という天晴に「愛する弟とご領主さまのためですもの~」とお寸は蟹衛門に媚びてみせる。ああそういうことか。最初から田丸を無きものにして蟹衛門を領主にしようという計画だったわけか。
蟹衛門は領主の地位が欲しいし、天晴たちにはろまん街を潰そうとしてる田丸が目障り。利害が一致した結果共謀して田丸を殺害したんですね。それなら納得。もし闇太郎が断ってたら、天晴が下手人を引き受けたんでしょうか。

・自分が領主になれば天晴組の天下だという蟹衛門に天晴は「おれは縄張りなんかどうでもいい。でけえことやりましょうよ」といつになく陽気な口調で言う。
縄張りなんか、というのは案外彼の本音なんだろうと思います。前にも「なわばりがどうしたと言ってる自分がちっぽけに思えてきた」なんて言ってたし。
しかし天晴組の天下になっちゃったら立派の女房のお寸は困らないのか、と思ったら困ってなかったですね(笑)。

・ここで大勢の女たちが出てきて揃って踊る。中に女装の銀之助の姿も。彼女らが踊る背景が割れてろまん街の光景が現れる。この舞台の転換場面はどれも粋です。

・並んで座ってる婚礼衣装の闇太郎とお泪。一幕のラストでの脅えたような様子に反してお泪は幸せそう。あんないきさつで所帯を持てるようになったとはいえ、やはりお泪にはやっと手に入れた幸せと感じられるのかもしれません。
かえってお泪との結婚を望んだはずの闇太郎の方がなんかむっつりした顔をしています。

・めでたいムードの中、立派はなぜかお寸にしっしってやられて追い出されてる。せっかくサルキジが帰ってきたのに。
というかサルキジ帰ってきた時点ではすぐ立派を呼んだくらい普通の夫婦仲だったのに。お得意の急転直下の夫婦別れですか。

・立派の家にはこれまでの「りっぱ」の暖簾の代わりに「やみ」という暖簾が下がっている。
天晴主導の計画に乗って領主を殺した結果天晴の片腕になったとみなされた闇太郎が、新領主蟹衛門のもとろまん街の実権を握るに至った天晴の余光で、力を失った立派に代わり一家を構える形になったのがうかがえます。

・「闇太郎、約束通り所帯を持たせてやるぜ」といつのまにかいつものスタイルで登場する天晴。いいのか、となぜか躊躇いがちな闇太郎にお寸は「あんたはこのろまん街の救世主だよー」と言う。
蟹衛門が領主になってから金回りが良くなりどこも大繁盛だと男たちは喜び女たちも闇太郎を称える。殺された田丸以外と立派以外はみんな幸せになった感じですが、人を殺した上に成り立った繁栄だけに複雑なものがあるんでしょうね。

・同意を求められたお菓子ちゃん仕様の銀之助も「はいー闇ちゃんさまさまです」と明るく答える。しかし女たちがわーっと側に寄ってくるのを無表情で流しつつ、闇太郎は銀之助を見て「なんか、ごめんね、銀ちゃん」と詫びる。
なぜ闇太郎が銀之助に謝るのか。銀之助が二代目お菓子を襲名するはめになったのはいわば本人の自業自得のはず。要は闇太郎が田丸を殺したことで新領主蟹衛門体制ができるのに大きく貢献し、蟹衛門に気に入られたっぽい銀之助はお菓子として振る舞うことから逃れられなくなったって話なんでしょうか。
闇太郎のせいじゃないというように悲しげな笑顔で首を振る銀之助はすでに女の表情です。

・行き場のない立派は屋根裏でもなんでもいいからせめて雨露防げる場所をと訴えるが、サルキジは「みっともないぜ父ちゃん」と一蹴する。
立派は天晴に土下座して、自分は追い出されてもいいが息子だけは、江戸で盗み働いてこの街に逃げてきたのを受け入れてやってくれと頼む。しかしサルキジは「昔のおれとは違うぜ。おれは江戸で男になった」と主張、役に立つと思うと自分のことを天晴に売り込む。
なんという親の心子知らず。自分の立場がわかってないというか、わかってるからこそ弱みを見せないように強がってるというか。それこそ父親のようにみっともなくなりたくないという思いがあって、素直に助けてくれと頭下げるかわりに自分を売り込むという態度に出てるんでしょうね。

・しかし天晴は「雑魚どもは面倒みてやってもいいがサルキジだけは虫が好かねえ」「おれにとっちゃてめえは他人以下だぜ」とこれも一蹴。サルキジの安っぽい強がりを見透かしてるゆえの反応でしょう。
ここでサルキジが我を折って頭を下げればまた違ったかもしれませんが、あくまでプライドを保とうとするサルキジは天晴にピストルを撃つ。結局まるで当たらず天晴の子分に取り押さえられるわけですが。分相応ってものをどうしても認められない。
まあつくづく実力不足のようなので分相応の待遇を受け入れてしまうと下僕扱いに甘んじるはめになりそうではあります。

・サルキジは半べそで「組の跡目継がせるって言ったじゃねえかよ、母ちゃん」と母に呼びかける。やっと強がりの仮面が剥がれてきた感じ。
お寸は背をむけて「やくざもんが親のいうことを信用してんじゃないよ」と冷たくあしらう。先にサルキジが帰ってきたときはあれだけ喜んでいたのに。
サルキジのみっともなさに愛想を尽かしたというより、この子はつくづくヤクザに向かないと悟ったゆえに(本来は女の子でもあることだし)この機にヤクザの世界から遠ざけようと思ったのでは。
跡目を継がせるために男として生きることを強要してしまった、最初から女として育ててればこんなことにならなかったというサルキジへの罪悪感があるだけにお寸も突っ張った態度になってしまうのでしょう。

・そこへにぎやかに現れたのはお泪の幼馴染の二人。結婚祝いの米俵を持ってくるが、「祝ご結婚」の文字が「呪ご結婚」と間違えていたのが後から思えば彼らの先行きを暗示したかのよう。
立派がその米に飛びつくがお寸にすげなく突き飛ばされる一幕もあります。

・立派をすげなく追い出したお寸もサルキジにはちょっと情のある目をむける。仲間もあっさり天晴の下について見捨てられ一人ぼっちになったサルキジが膝を抱えて泣くのに近づく銀之助。
「俺は女は買わないぜ。一人前の男になるまではな」となおも強がるサルキジ。しかし現在の自分が一人前でないことを認めただけでも進歩か。しかし銀之助を「女」と言ったあたり、この時はまだ彼の正体に気付いてなかったんですね。

・うんうんと微笑んで頷きながら話を聞いていた銀之助は、サルキジが背を向けた後になって「! おれか!」。自分が女と間違われてることに気づかずサルキジが女全般に対する思いを語ってると思ってたらしい。
ということは銀之助は自分を女と勘違いしてるのが可笑しくて微笑んでいたわけではない。サルキジの変に潔癖なところを微笑ましく感じてたんでしょう。銀之助はこんな情けない男のどこに惚れたのかと思ってましたが、こういう妙な可愛げの部分ですかね。
自分が男にも女にもなれない半端な立場だけに、居場所を失ったサルキジの寄る辺なさに共感したのもあるだろうし。

・お菓子という名前がおかしいという話題で盛り上がる?ものの、どうも二人の会話がかみあわない。ついにサルキジが「やーめーてー!もっと中身にある話をしてー!」と叫びだす。
それに対し銀之助は「やべえ、もっとも苦手な」と口走っていますが、中身がある会話が苦手ってことでしょうか。どれだけふわふわ生きてきたんだ。

・かくて話の内容は闇太郎は何者かに移る。闇太郎を大通り魔事件の生き残りと話す銀之助に「妙だな、おれにも似たようなことがあった」「空き巣と食い逃げ専門のけちな泥棒なんだが・・・」と自分があった闇太郎(やみ太郎)の話をする。
一幕の終盤でサルキジが「闇太郎?」と呟いたときには、彼がこんなネタを持ってるとは思わなかったなあ。しかしやみ太郎、そんなもんに落ちぶれちゃったのか・・・。

・闇太郎が二人いるとはどういうことなのかと頭をひねる銀之助に「簡単なことよ、どっちかが偽物ってこった」と羽ばたきするようにマントを広げてジャンプしてから走り去るサルキジ。
なんだこのアクションは。銀之助も「なにその去り方」とツッこむのかと思いきや「かっこいいー!」。
格好いいか!?無駄な強がりを並べ立てるサルキジらしい見た目ばかり派手な、でもスベってるパフォーマンスだと思ったんだが。これを格好いいと思うあたり銀之助の気持ちが相当サルキジに傾いてきてる証なんでしょうね。
しかし声の出し方とか素振りとかすでにおねえ化が大分進行してます。


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『蜉蝣峠』(2)-4(注・ネタバレしてます)

2013-09-12 07:22:35 | 蜉蝣峠
・天晴が闇太郎にお泪の親たちの仇討ちをそそのかし、一方で呼びよせておいた沢谷村の幼馴染と引き合わせる。
二人はお泪を見て喜び、「そんならこうしようー、でおなじみの平太だよ」などと名乗る。最初に蜉蝣峠にいたあの人か!。そんなポジションの人とは知らなんだ。
後から思えば天晴が二人を呼んだのは闇太郎の面通しのためだったんでしょうね。

・最初は陽気だった二人だが、話をするうちに闇太郎が出ていってから村は悪くなる一方でみな食いつぶしちまったと嘆きだす。
「俺があの時直訴状を奉行所に届けていれば・・・」と苦しげにいう闇太郎。お泪は闇太郎のせいじゃないというが、やみ太郎が道に迷って奉行所に辿り着かなかったのは本当に闇太郎(久太郎)のせいじゃないからなあ。
お泪やがめ吉に聞かされた(他人の)過去話が過去を持たない闇太郎の中ですっかり事実として定着してしまってるのがわかる。アイデンティティを持たぬ闇太郎の空虚を見たような気がしました。

・天晴はおまえは村を見捨てたんだと嘲るように言う。「毎年冬になると人がばたばた死んでいく、おまえの親も」とさらに追い打ち。
「俺の親・・・どうしたらつぐなえる」と口にした闇太郎に天晴は「世直しだ」と刀を取り出す。村を悪くしてる張本人を見せしめに斬るんだという天晴に平太ら二人は引き込まれた様子。
「俺に役人を切れと」とためらいを見せる闇太郎だが、幼馴染二人も「そんならこうしようー」「世直しだー」とあおる。
闇太郎の心の空虚につけこむような天晴の煽動に、そんな意識はないだろう二人組も乗っかってしまう。やはり主体性に欠けてそうだった本物の闇太郎(やみ太郎)もこんな流れで一揆の首謀者にまつりあげられたのかも。

・闇太郎は天晴に「それであんたにはどんな得がある」「ヤクザが百姓の味方するなんてよっぽどのことだからな」と問い質す。このあたり確かに闇太郎はバカではない。
天晴の代わりに二人組が「百姓だけでもヤクザだけでもやつらは相手にしねえが、その二つが手を組んだと聞けば少しは考える。」と答え、その直後に「ですよね」と天晴を見る。
二人組には天晴が入れ知恵済み、闇太郎をかついで世直しをやろうというプランが天晴主導なのがこのやりとりでわかります。

・「今夜ご領主さまご一行がお忍びで女を買いにくる」「田丸善兵衛。おらが村を地獄に追い込んだ張本人よ」。
天晴いわく田丸は父親の代からこの宿場を取り壊そうとしてる、立派が賄賂を贈って必死に食い止めているがそのためにこの宿場の経済が悪くなってるのだとか。
それを聞いた闇太郎は「あいつが死ねばあんたもなわばり争いで有利に立てるってわけだ」と返す。天晴が故郷である街を救うために無私で行動しているとは考えないらしい。
のっけから「あんたにはどんな得がある」と尋ねたのもそうですが、闇太郎には天晴が故郷や同朋のために動く人間だとは思っていない。そもそも人間自体損得でしか動かないものと思っているのかも。

・続けて闇太郎は「その片棒を担いだ俺にはいったいどんな得がある」と尋ねる。先には自分の親を含む沢谷村の住人を見殺しにしたも同然の状況に責任を感じていたはずの闇太郎が、村のために無心で働くのでなくやはり自身の損得を口にする。
このへん闇太郎は非常にドライではある。やはり記憶がないだけにいくばくかの責任を感じはしても沢谷村を心から故郷と感じることができないための反応なのかも。

・罪悪感をついたにもかかわらずすんなり計画に乗ってこない闇太郎に驚くでもなく、天晴が出した条件が「この女と所帯を持たせてやろう」。
記憶のない闇太郎にとってはお泪は出会ったばかりの女。それでもお泪が闇太郎にそれだけの吸引力を発揮すると睨んだのか。ならば大した慧眼。

・お忍びなのに「やあやあ田丸様、お待ちしておりました田丸様」と名前を連呼する立派。嫌がらせですか(笑)。向こうがあわてて「腹から声を出すな」と止めに入る。
続けて、「今夜は年増から若いのまでよりどりでございます」(お寸)「蟹衛門さまもどうぞ」(立派)「いや今日はわしはお供じゃ」(蟹衛門)「まあたあなたほどのど変態がー」(立派)といった会話が。あの騒動の中生きてたのか蟹衛門。しかし「ど変態」って本人に言い切っちゃうのか。

・「ここだけの話ですが、生娘がいるんですよー」「なにー!それはまことかー!」。ここで誰が出て来るかと思えば現れた(店から突き飛ばされて出てきた)のは女装の銀之助。か細い声で「二代目、お菓子でございまーす」。
おいおい生娘好きに男あてがっていいのか。そりゃ「ないテイ」で通すまでもなく本当に「ない」とは言え胸だってないしなあ。しかし先のいきさつがなければお寸たちはあのお菓子ちゃんをあてがうつもりだったのか?
それにしても「お供」の蟹衛門の方がより念入りに接待されてる感がある。貴重な「生娘」を提供してるし。
おそらくろまん街を潰したがってる田丸を押し止めてるのがろまん街でいい思いさせてもらってる蟹衛門で、重要なパイプ役ゆえにますます好待遇を受けている、今回も田丸にろまん街を気に入ってもらおうという狙いで説き伏せて連れてきたという流れなんだと思われます。

・匂いとか嗅いで(苦笑)みてから「全然ありです」と言い切られて、銀之助はえっと驚く。「ムリムリおれ男」と抗弁しても無理やり立派宅に連れ込まれてしまう。
目撃した闇太郎はただただ驚くばかり。そりゃ先のいきさつとか知らないしねえ。

・「やみちゃん、引き受けるの」「あんたはどうしてほしい、俺と所帯を持ちたいか」「俺には決められない。あんたにもあの男たちにもここではじめて会った」「だったらよしなよ。逃げなよ夜が明けるまえに。何もかも忘れなよ」「あんたのことも」。
ここの闇太郎とお泪の会話は諦めと自棄と躊躇い、相手への愛着が混ざり合って何とも言えず哀しくも艶のある雰囲気を醸し出している。大人の男女なのではの生活感を伴った色香というか。歌舞伎でいう「柝」のような音が入るのも静かな緊張感を高めます。

・「俺はあんたが好きだ。覚えてないけど、好きだ」「一緒に逃げよう。自分が何者か知ってしまった以上、もう元のバカには戻れん。忘れようとしてもきっとあんたのことを思い出す」ほとんど殺し文句のような言葉。
空っぽだった頭と心に沢谷村の闇太郎としての(虚偽の)記憶をすりこまれた結果、覚えてはいなくても当時好きだったはずの、今も漠然と好意をおぼえているお泪の存在が、またたくうちに闇太郎の心の支柱のようになってしまったんでしょうね。

・「あの男からは逃げられない」「好きなのか」「天晴を甘くみないほうがいいよ。冷たいんだ、あいつ、氷みたいに冷たいんだ」。
「好きなのか」という闇太郎の問いをお泪は否定していない。少し後で天晴と交わす会話からしても、二人が男女の仲にあった(ある?)こと、お泪が闇太郎と天晴の間で揺れていることがわかります。

・お泪が天晴の家に入っていったあと、闇太郎はがめ吉の家を訪ねる。
応対に出たがめ吉は「握り飯、作ってくれないか」という闇太郎の言葉だけで彼が街を出て行こうとしているのを察して「そうかそのほうがいい。おまえさんこの町で暮らすには心が優しすぎる」と返答する。
この時点では闇太郎は天晴の話を蹴って一人街を出て行くつもりになってたんでしょうか。お泪を置いて?それとも強引にでも連れて?

・流石が客(領主)を先導して出てきたのを見て闇太郎は隠れて様子を伺う。
「蟹衛門さまはただいま二階にて絶賛プレイ中でございますゆえ」代わりに屋敷まで案内すると流石は説明。ここで「いや~」という銀之助の太い悲鳴が。絶賛プレイ中の相手はやはり彼だったか(苦笑)。
しかし領主の世話ほったらかしてプレイ中とは不届な話。よく出世できたな。

・「拙者流石やるもんだなおつぐと申す者でございます」とこの機会に売り込みにかかる流石。そりゃヤクザの用心棒より領主に取り入って仕官できたほうがいいですもんね。元は武士なのだし学もありそうだし。
いかに立派組や天晴組がろまん街では覇を競ってるといっても領主の一存で潰されてしまう程度の存在なわけですし。うずらも息子を武士にしようと思ったのも、ヤクザの力はその程度のものという諦観があったからなんでしょう。
この場面の流石の行動はそうしたヤクザの〈この程度〉感を提示する意味合いがあるんじゃないかと思うんですが。

・これまで隠れていた闇太郎は二人の後を追っていく。がめ吉がおにぎりを持って出てくるとすでに闇太郎はいない。名前を呼んで探すがめ吉。
それを見てお泪は嫌な予感を覚える。なんとなく大通り魔が現れた夜を思わせるシチュエーションですからね。
おにぎり頼んだくらいで街を出て行くつもりでいたはずの闇太郎が突然変心したのは「絶賛プレイ中」+銀之助の悲鳴が関係しているように思います。25年前久太郎が大通り魔に変貌したのは蟹衛門が彼の母親を手篭めにしようとした時だった。銀之助の悲鳴に覚えていないはずの記憶が刺激されたのかもしれません。
しかし25年前といい今回といい、肝腎の蟹衛門以外の相手ばかり斬っているのはどういうわけやら。

・「これあたし届けるよ。だいじょうぶまだそう遠くへは行ってないから」とお泪が走り出したところに天晴が現れる。お泪ははっと立ち止まって背を向ける。
「どうした、忘れ物届けるんじゃねえのか」「お前の言う通りだよお泪、おれは冷たい男だ」。この台詞で天晴がさっきからの会話を立ち聞きしていたのがわかります。
「本当のところ血が通ってるかもわからねえ。だから酒を飲む。酔いがさめると死んでしまうからな。生きていることをたしかめるために、飲んで、刀を振り回す。それがたまたま人に当たるだけのことよ」「あいつも本来そういう人間じゃねえかっておれは思うんだ」「あの人はちがう。やみちゃんはあんたとはちがう」「あたしのこと好きだって言ってくれた」。
ここまではすこぶるハードボイルドな会話だったのが「おれ言ってねえか」「言われてません」「・・・思っちゃあいるんだけどなあ」「思ってて言わないのは思ってないのと同じです」と一気に痴話ゲンカモードに。
この会話聞くかぎりお泪が愛してるのは天晴の方ですね。ただここで肩にかけられた天晴の手を拒絶して背を向け家に逃げ込んでしまうあたり、すでに仲が(というよりお泪の感情が)こじれまくって修復不可能な域に行ってしまってる。それでも逃げ込む先が天晴の家だというのがなあ。他に行くところもないからですけども。

・騒がしい声に天晴は姿を隠す。そこへ現れたのは初出の若い男(サルキジ)と仲間たち。街の寂れ方を大げさに嘆くサルキジ。
してみるとろまん街がこうも荒廃したのはここ最近のことであるらしい。観客は今のろまん街しか知りませんが、田丸がろまん街を潰そうとしてるなんて話も考えるとここ数年のうちにどんどんジリ貧になってきた感じでしょうか。
立派・天晴両家の争いで人死にが出まくってる(天晴が斬りまくってる)のも何気に大きいのでは。

・名前で呼ぶ仲間をつきとばし「ここじゃ親分、あるいは兄貴とよべ」といきがるサルキジ。そこに天晴が現れ声をかける。
「江戸へ修行へ行ったんじゃなかったのかい」とにやにや話しかける天晴に「ああ、わけあって帰ってきた」と答えるサルキジは虚勢を張るような態度。「さては父ちゃんに呼び戻されたか」と薄笑いで歩いてくる天晴に後ずさりしながら「それ以上は近寄らないほうがいいぜ」とサルキジは短銃を抜く。
ただ歩いてきただけなのにもう銃を出すって。サルキジが内心天晴にビビりまくってるのが、彼の気の弱さがすでにこのワンシーンでわかります「ガキがそんなおもちゃでいきがるんじゃねえよ」と真顔になった天晴の迫力に銃構えてるにもかかわらずやっぱり後ずさってますしね。

・その時ガラスの割れる音がして立派家の玄関から銀之助が飛び出してくる。「やっぱ無理ですー男は無理ですー」と叫ぶ声の裏返り方がナイス。先の悲鳴から大分時間が経ってますが、果たして未遂のうちに逃げられたのか。
お寸が追ってきて「このチンカス野郎」と銀之助を張り倒す。女のなりをさせながらも銀之助を男と見てるからこその罵倒ですねこれ。「うちの大事な商品傷物にしたんだから元はとらせてもらうよー」と凄まれて銀之助涙目。どうもこの先もお菓子としてお客取らされそうな雰囲気です。「ないテイ」で通させるのか女装のニューハーフで売るのかは不明ですが。

・ここで「母ちゃん」とサルキジに呼びかけられたお寸はしばし静止。それから銀之助を突き飛ばしてサルキジと抱き合い再会を喜ぶ。ここでサルキジが立派・お寸の子供だったのが判明。あのヘタレなのに強がるくせは父親ゆずりか。

・「あんた、サルキジ帰ってきたよー」と立派の家に飛んでいくお寸。対して天晴は彼らに背を向けて距離を置く。
これまでいざとなると夫より弟を取ってきた感のあるお寸ですが、今後は息子可愛さにサルキジと上手くいってそうもない天晴から離れていく可能性がある。それが示唆されているようなシーンです。

・立派も息子を迎えに飛び出したところへ、ちょうど流石も帰ってくるが妙にそわそわした様子。サルキジを紹介しようとした立派だが「先生刀どうしました」とふと問い掛ける。
「刀・・・あ、ありますよここに」「ありませんよ」「ありまーす。私には見えるんです!」。流石はあからさまに挙動不審。さらに「ほら、ほら」とない刀で素振りまでしてみせる。それを銀が指差し「あるテイだ!」。これもあるテイと評するのね。まあ確かに。

・そこへ返り血あびた闇太郎が現れ悲鳴があがる。しかし闇太郎は何も言わない。その姿に天晴は「闇太郎。おまえ、善兵衛を斬ってきたのか」と問い、百姓二人は「ほんとにやったのか?やったー世直しだー!」と歓声をあげる。
闇太郎はそちらには反応せず「天晴、約束通りおれはこの女と所帯を持つ」と血まみれの手でお泪の肩を引き寄せる。しかしお泪は脅えた顔。
血まみれの相手に抱き寄せられたら無理もないですが、それ以上に闇太郎だけには人殺しをしてほしくないという彼女の気持ちを踏みにじられたことへの悲しみと怒りがあるのかもしれません。
これで所帯を持ったとしてもとても幸せになれそうもない。二人の先行きがすでに暗示されています。

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『蜉蝣峠』(2)-3(注・ネタバレしてます)

2013-09-06 21:40:42 | 蜉蝣峠
・皆を見送り一人になった闇太郎に後ろから戸惑い気味に「あんたやみちゃんなの」と声をかける女。お泪の初登場。高く細い声が可憐な中にも色っぽく、第一声でもうお泪のキャラクターが見えてくる感じです。
しかし「やみちゃんなのねやみちゃーん」と抱きつかれて戸惑いつつもやにさがって「やみちゃんでーす」と調子良く答える闇太郎。続けて「私沢谷村のお泪。迎えに来てくれたのねー」と言われても「迎えにきたるいるい」とへらへら踊ってる。
美人に抱きつかれて舞い上がった?のに紛れて記憶喪失のこととか説明せずいかにも彼女を知ってるふうについ振る舞ってしまった。もちろん間もなく事実が発覚、というか闇太郎が自分から告白するのだが、出会った最初の瞬間にあっさり自分は闇太郎で彼女を迎えに来たと認めてしまったことで、お泪が「記憶喪失のこの男は本当に自分の知る闇太郎なのか」を疑う余地を奪った、お泪が彼を闇太郎だと信じ込んでしまう原因になった気がします。

・方言まるだしで闇太郎をばしばし叩きながらはしゃぎまわるお泪。何を言ってるのかなまりきつくてさっぱりですが、多分闇太郎もわかってない。ここに至って闇太郎が「どうもすみませんでした」と唐突にあやまる。会話のしようがないですからね。

・ちょうどタイミング良くがめ吉が出てきて「闇太郎のようで闇太郎でねえ」と事情を説明してくれる。闇太郎のほうにも「おまえさんの女房、になるはずだった女よ」「天晴の店で働いてる女中だ」とお泪について説明。
この人がいてくれることで観客にも状況がよくわかる。ナイス説明役です。実はミスリードさせる役どころでもあるわけですが。

・闇太郎に記憶がないときいて「かわいそう」と寄り添ったあと「くっさーい」と離れるお泪。ひどいなあ。
まあずっと蜉蝣峠にいた闇太郎はあの生活状況からしても服装からしても清潔にしてるとはとてもいいがたいけれど。・・・まさか25年間一度も風呂に入ってないなんてことは・・・・・・。

・けれどいったん離れたあと「でもなつかしい匂いだ」と遠くを見るような笑顔になる。「この街にきてからずっと忘れてた命の匂いだ」。
温もりのあるいい台詞ですが、それだけお泪がこの街で幸せじゃないことを感じさせます。

・お泪の反応を見て、ためしに闇太郎の首のあたりを嗅いでみたがめ吉は「くへえー」と臭さのあまりさ行が言えなくなる。そこまでの臭さとなるとやはり25年間風呂なしか。臭さのあまり目見開いちまったとか言ってますが(笑)。

・誰かに蜉蝣峠で待つように言われたという闇太郎に「それ、あたしだ」というお泪。
実際に闇太郎(久太郎)に蜉蝣峠で待つように言った(お泪とそういう約束になってることを教えた)のはがめ吉である。それを闇太郎が覚えていれば事態はああもややこしくならずに済んだのだが。

・ここで後ろにスクリーンが降りてきて田園風景が映され、お泪が自分と闇太郎の過去を語る。「あんたが十四であたしが十」というから四歳差ですね。
じゃあ25年後の現在はお泪35歳で本物のやみ太郎は39歳、闇太郎=久太郎は家を再興しようとするくらいだしその腕前からいっても17、8にはなってたろうから今は40歳過ぎですかね。

・「やみちゃん着物つんつるてんのてん」「だっておいら、貧乏なんだものー」。そういうレベルの着丈の短さではない気がするが。それこそ軍鶏いうところのマイクロミニ。
こんなところで闇太郎と共通点が。しかし「子供っぽくない口付けをかわしているころ」って、なんだその説明は。

・そのころ大人たちは百姓一揆をくわだてていた。百姓代はお泪の父。子供たちが貧乏って面白いとか歌ってても大人はそうはいかなかったわけだ。
なのに一揆首謀者として名が上がった5人のなかにやみ太郎がいるのが謎。あの脳天気ぶりでは一揆の首謀者などなれそうもないし、年齢だってさすがに幼すぎるだろう。仲間に勝手に名前だけ利用されたか、食べ物につられて軽い気持ちでOKしたとかなんだろーな。

・仲間の名前を吐かなかったお泪の父はみせしめに皆の前で処刑され、激昂して鍬で殴りかかったお泪母も斬り殺される。泣いて飛び出しそうになるお泪をやみ太郎が懸命に押さえつける。
お泪はやみ太郎に逃げるように言い、直訴状を奉行所に届けてくれと託す。やみ太郎は一緒に行こうというが番所で止められるからとお泪は断り、蜉蝣峠を抜けるように、両親の弔いを済ましたら必ず行くから蜉蝣峠で待てと告げる。
全部お泪に仕切られてるあたり、やっぱり彼が自主的に一揆の首謀者になったとは考えにくい。しかしこの主体性のなさ(何かと他人に仕切られてしまうところ)もやみ太郎と闇太郎はよく似ている。間違われるべくして間違われたというか。

・「そうか、おれとあんたは子供らしくない接吻をしていたんだな」。あれだけ壮絶な過去話聞かされながら、重点置くところはそこかよ、と。お泪も「でもそこはわりとどうでもいい」とツッこんでますが、その言い方がちょっと困ったような呆れたような感じでいい味です。
しかし闇太郎は「いやよくない」とお泪の腕をつかみ、「接吻のショックで記憶を失ったとすれば今一度接吻すれば」と迫る。要はお泪と接吻したいだけじゃないか。接吻のショックで記憶失ったなんて誰も言ってないし。
この時お泪に迫る闇太郎が「早紀ちゃん早紀ちゃん」言ってるのはアドリブなんですかね。高岡さんも笑っちゃってます。

・接吻しようとする闇太郎と抵抗するお泪がもめているところへ「その先はわしが話してやろう」とがめ吉登場。
「あんたまだいたのか」と言いかけた闇が「あー!」と叫ぶ。なんだ?と思いかけたこっちも次の瞬間「あー!」。がめ吉が目玉をまん丸(ピンポン玉大)にむいている。作り物なのは明らかですがなんか凄い顔。
語りだすがめ吉に闇太郎は「あんた目えがっつり開いてるぞ」。がっつりすぎるがな。

・「ある晩おまえさんがこのろまん街に迷いこんできた、そのころはわしもまだ目開きだった」と説明するがめ吉。「だからってそんなに開かなくても」というツッこみに劇場中が同意したことでしょう。

・奉行所へ行く途中で道に迷ったというやみ太郎はまだ直訴状持ったまま。蜉蝣峠は周り道になると言われても「行かなきゃだめなんです」と言い張る。理由は「人を待たせてるんで」。
友達だと言いつつそのオーバーアクションぶり、相手は女だろとツッこんで欲しいのが見え見えです。

・この時ちょうど外で女の悲鳴が。身なりよさそうな女がやくざ者に道に押し倒され手篭めにされかけている。そばの建物には「うずら」と暖簾があり、話に聞く天晴たちの父だとわかる。
「やい女郎、よくもこのうずらの顔に泥を塗りやがったな」「私は侍の家内。女郎ではありません」。落魄した武家の女がやくざの仕切る女郎屋に売られる、現実にもいくらもあったろう悲劇ですが、これが大通り魔の事件と繋がっていたとはこの時点ではとてもわかりません。

・「お父さんどうしましたー?」と出てきたのは若き日の立派とお寸。立派が超アフロヘアなのに笑います。すごいインパクト。

・「このアマは大事なお客様を足蹴にしやがったー」と激昂するうずらの親分に向かって「まあ親分、天下の往来で腹から声出してー」ととりなすようにへらへら笑ってるのは客本人。股間に般若の面つけた格好があからさまに変態です。
しかし「お寸ちゃんの祝言だろ、人生で一回きりの門出だろー」と陽気に言ってくれるあたり変態だけどいい人という感じではある。しかし「腹から声出す」ネタは一世代前からあったのね。

・祝言のことを言われて目を見交わす立派とお寸がなんか初々しく微笑ましい。と思ったらお寸がその顔のまま一言「まさか百回もあるとはね」。観客誰もが内心ツッこんだに違いない部分を当事者が時空間を超えて指摘してくれるというメタネタ。
しかし25年前を演じながら一瞬だけ現在のお寸視点を挟むという不自然なことをさらっと自然に見せているのは何気にすごいです。聖子さんの力量ですね。

・「拙者おなごに足蹴にされるのは嫌いではない。むしろ全然ありでーす!」。自分を足蹴にした女をかばってくれるとは変態さん根っからいい人かもしれない。いや多分本気で「全然あり」なんだろうけど。
好みの変態プレイ列挙してるし。この時の声もポーズもすべてがきわめつけに変態。村木仁さんお見事です。締めに「わしはかまわんのじゃ」と力強く宣言すると「えー・・・」と全員引いた声。無理もないなあ。

・あの変態が役人だと知ってやみ太郎仰天。「平田(?)蟹衛門。人呼んでぶってぶって奉行」。変態なの知れ渡ってるんですね。
それでも「性癖はともかく、いい人そうだ」とやみ太郎は感じる。確かに上で挙げた言動から私もそう思ったんですけど結局は・・・。「
あの変態野郎が事を済ませたらご機嫌で出てくるさ。そしたらその訴状をわたせばいい」とのがめ吉のアドバイスにやみ太郎は喜び、プレイが終わるのを待つことにした結果事件に巻き込まれることになります。

・がめ吉いわく大通り魔は「あれは事件じゃねえ事故だ、天災みてえなもんだ」。そしてイメージ映像で残虐絵図が説明される。
外に出たがめ吉は惨状を見て「なんじゃこりゃー」と叫ぶ。店の中にずっといれば被害あわずに済んだろうに。
ここで「飯屋が通りに出たときにはすべてが終わったあとだった」と、いきなり二階の窓から表を見下ろす現在の立派に視点が変わる。隣りにはお寸となぜか銀之助。事件を知らない銀之助に話を聞かせているというシチュエーション。
過去の事件について語る途中で語り手が引き継がれる(同時期に同じ話をしてる別の人間にスポットが切り替わる)パターンは後に天晴と流石先生がそれぞれに松枝久太郎について語るシーンでも繰り返されます。

・「息のある者はいないかー」と言いながらうずらの家に入っていったがめ吉が悲鳴をあげて出てくる。同時進行でやみ太郎(本当は闇太郎=久太郎であるはず)が棒を杖に立ち上がろうとしている。
この時点でがめ吉は両目から血を流し、すでに失明しているので話しかけてきたやみ太郎の顔は見えていないはず。ここで彼が「闇太郎」と呼びかけ蜉蝣峠に行けと言ったことがこの物語の発端になるわけですね。
この時久太郎も子供時代のやみ太郎と同じく中谷さとみさんが演じている(彼をやみ太郎だと思い込んでるがめ吉の視点に添っているため)ことで、観客もすっかりこれがやみ太郎だと思い込まされてしまう。
まあ当時の久太郎の顔は明かされないままなので、がめ吉が声を聞いても体を触ってもやみ太郎じゃないと気づかなかった事も考えると、この二人当時は相当似ていたのかも。

・この大惨事の中、立派とお寸は何してたんだ?と思ってたら、銀之助がさらっと質問してくれる。解答は「新婚初夜ですよ」「全然気付かなかったなあ」。あー納得。
しかし無理矢理さらわれてきた武家の人妻が変態に犯されているのを知りながら、同じ家の中で彼女の不幸をよそに自分たちの幸せにひたり、その後の惨劇にも気付かず初夜を過ごす――グロテスクな対比に戦慄を覚えます。

・お泪から話を聞き終わった闇太郎は「一つ気になることがある」と、そのとき天晴はどこでどうしてたのかへの疑問を述べる。そういや立派夫婦だけでなくこの人も何してたか不明なんだった。
ちょうど天晴が出てきてにやにや笑うあたり、刀を振り回したがる性癖からいっても腕からいっても天晴が犯人か?とミスリードする仕掛けですね。

・天晴を見てあわてて(照れたというより脅えてるような表情で)お泪が闇太郎から離れる。この行動にお泪と天晴の関係が暗示されてるような。
お泪は後で「あたしあの男に金で買われたの」と説明しますが、「金で」とわざわざ言うあたり、天晴と体の関係はあっても恋心はないんだと闇太郎にわかってほしいわけですね。

・立派も同じく天晴が当時どこにいたか疑問視している。跡目相続の問題も絡んでるという立派にお寸は「あの子はそんな子じゃないって何度も言った」と否定する。
それに対し立派は「じゃあどんな子だ、かっとなったらてめえの父親だろうが何だろうが叩っ斬っちまうそういう野郎だおめえの弟は」。父親も斬るという言い方から立派が天晴を大通り魔と疑ってるのは明白。
跡目相続の問題というのは、うずらの親分が天晴という息子がありながら立派を婿に取ったのを不満として天晴がうずらを殺した(それで勢いづいて街中の人間を殺し回った)というニュアンスなんでしょうね。
この時点ではうずらが天晴を後継ぎにしなかった理由(天晴を侍にしようとしていた)が明かされてないので、観客としては天晴は不行跡のせいで(これまでに彼の狂犬のような言動を見せられ吹きこまれているだけに)後を継がせてもらえず父親を恨んでいたのかとまたもミスリードされてしまう。立派がああも天晴を怖れてるのは彼を大通り魔と疑ってたからなんですね。

・「そんな、血を分けた弟が父親殺しの殺人鬼だなんて、興奮しちまうじゃないか」と立派に抱きつくお寸。抱き返す立派。
「えー、そんなんありすか」と驚きの声をあげる銀之助。全く同意です。ああ退廃的。
しかしその後の「自分ここでも脇役すか」というのはどういう不満だ。
ともあれ天晴が本当に大通り魔かどうか、疑問だけ投げかけておいてこのラブシーンで上手くはぐらかしてしまう。さすがのテクニックです。

・いちゃついたあげく奥へお楽しみに行ってしまう二人にむくれ顔の銀之助。しかし去り際にお寸が「お客人にもちゃんと楽しみを用意してますからー」というのに声はずませて振り返ると、大勢の女郎が笑顔で手を振ってくる。
思わず両手で口を押さえ目を見開く銀之助。思わず叫びだしそうなほどの嬉しさが表現されています。

・「今日は生娘がいるのよ」と言われて銀之助は目を輝かす。先の不義密通からして年増好みかと思ってたので生娘を有難がるとは意外。
そこで「お菓子でございます」と出てきたのはとても男顔の・・・一言で言うならブス。しかし銀之助は「全然ありです!」と親指を立てる。要は女なら何でもいいらしい。しかし勝地くん女たちの中に入って踊っても違和感ない細さだな。

・銀之助が女たちに囲まれてるころ、闇太郎は男たちに囲まれての酒宴。男たちが闇太郎伝説を語り盛り上がるのに反して、銀之助はむっつり黙っている。
お泪が酒を持って入ってきて「変なこと吹き込まないで」と男たちを制する。また、大通り魔はどんなやつだった、と群がる面々に天晴が「こいつは大通り魔とやりあったわけじゃない、逃げてただけだ、ちっとも偉くないんだよ」と毒づく。お泪と天晴だけが大通り魔の話題に冷淡なんですよね。

・その時立派の家から悲鳴が。セットが大写しになると銀之助が女たちに囲まれ、座らされてしぼられている。「忘れてたってどういうことだい」というから金のことかと思ったら「ちんこあるつもりで」。そっちですか。

・「いや途中で気がついたんです。ないなあ」。この「ないなあ」で低い声に切り替わり、股間押さえてる芝居がエロく馬鹿馬鹿しくて上手い。
「でもそこは持ち前の甘いマスクと若さと勢いで襲いかかれば、バレないんじゃないかなあって」。ここでも台詞の後半は笑顔で腕立て伏せしてる。これらのエロい動作・台詞にもかかわらず下品にならないのはさすがです。

・「バレるにきまってるでしょうがー!」と女たちにののしられ足蹴にされる銀之助。「ないんだもん」「あーあーやってらんないね」と開き直るもすごい勢いで張り倒される。
この「あーあーやってらんないね」の時の変に低い声とあごに手をやったポーズは誰かのものまねなんでしょうか?

・「久しぶりに若い男抱けると思って襖の奥にスタンバってたのにさー」「この火照った体、どうしてくれんのさー」。女達の絶叫に目をつぶる銀之助。お菓子ちゃんに至っては野太い声で号泣。
この騒ぎにもはや悟ったように「じゃあ、あるていでいきましょうか」と銀之助は提案。「あるていで?」聞き返す女たちに銀之助は微笑んで「ティンティン、アルテイデ」。英語っぽい発音がなんとも。
役者やってたときに小道具忘れて舞台に出てしまい何とかごまかした話などしつつ「エアーセックス」と甲高い声で言いながら腰前後に振ってみせる。宮藤さんは(いのうえさんも)勝地くんに何をやらせるのですか(笑)。やだよそんなの、と銀之助を張っ倒す女性もちょっと笑っちゃってます。
まあこれだけ突き抜けた演技を見せてくれればやらせ甲斐もあるというか、今後ともますますやらせたくなるというか。上でも書きましたがこれだけエロい台詞や挙措連発でも不思議と下品にならないので、ファンとしても嫌悪感なく笑って見てられるし、むしろ変幻自在な声のトーンやくるくる動く表情のコミカルさに彼のキャパシティを感じて惚れ惚れしてしまいます。

・「あたしたちはまだいいよ、でもこのお菓子ちゃんはねえ、あんたが最初のお客だったのよー」。なおも責め立てる一同。
「お菓子、早く女になりたい」と柱につかまって叫ぶお菓子ちゃん。でもなぜかお茶碗とお箸持ってるのが憐れさを薄めまくってます。

・ついに銀之助もキレて「しょーがねえだろー!ねえもんはねえんだもん。おれだって悲しいよ。ちんちんないのにまだやりてえ自分が情けねえよ !」と股間押さえつつ嘆きながらの踊るような動き。どんな演技指導ですか。
次の瞬間「つーかおめえ、男だろー!」とお菓子ちゃんを振り向きざま怒鳴る。この声がぐっと太いハスキーな声で、一瞬での声の転換ぶりがすごいです。
「なんでわかったの」「わかるよ!ちくちくしたもん顔が」「ていうかあたったんだよ布団の中で、固いものが」。一音一音区切るように言う銀之助。それじゃ女になりようがないじゃないか。
「てめえさては、ないていで行けるとこまで行こうとしたな」と銀之助はののしってますが、どこへ行けるのか、また行きたいのか・・・。

・銀之助の言葉に目をひん剥いたお菓子は「おれと一緒じゃねえか。いんちきじゃねえか」と罵られて畜生と絶叫すると二階へ駆け上がりそこから飛びおりる。
収拾の当てもなかった争いの終着点がこんな惨事になるとは。落ちてく時の効果音がことさら間抜けな感じで、悲劇的ムードを上手く弱めています。
「えー・・・身投げー・・」と脱力した銀之助の声で場面転換。悲劇的になりすぎないよう工夫はされてるものの後味の悪さは否めないエピソード。これが後であんなふうに展開するとは・・・。


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『蜉蝣峠』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2013-09-02 01:37:54 | 蜉蝣峠
・オープニング曲をバックに歩く二人。闇太郎の「マイクロミニ」に触発されて(?)自分の股間を確かめた銀之助はやっぱりないのを確認して、ちょっと照れたような、けれども満面の笑みを浮かべる。笑ってる場合なのか。
ここでちょうど「連れの男はもっとバカー、キンタマ取られて笑ってるー」という歌詞がかぶさる。観客の心情を代弁するかのようです。

・歌の一番が終わったところで再びストーリーが流れ出す。「下履いたのか」「あの格好で二時間半はきつい」。いやまったく。

・「あと一息でろまん街だ」「ろまん街?」「牢獄の牢に肥満の満でろまん街だ」。ひどいネーミング、というか銀之助の説明がひどい。せめて満足の満とか。
「夢がないな」「あるさー。フランス語で夢とか野望とかいう意味でな、百姓も侍もないこの世の極楽だって話だぜー」。
たしかにろまん街には百姓も侍もいなかったが。この理屈だと「板の上ではみな平等」の蜉蝣峠だって極楽なんでは。

・二人が舞台袖へはけたところで曲がロック調に代わり反対側からぼろを着た男たちが踊るように舞台へ。力強い踊り。太鼓のやぐらが運びこまれてきて主題歌が流れ出す。
男女入り乱れての激しい歌とダンスの裏でろまん街のセットが運びこまれてくる。さぞエネルギッシュな舞台になるのだろうという観客の期待を煽りつつ、自然に場面転換を行う上手い進行です。
・踊っていた人々がはけた後、舞台は対照的に暗く閑散となる。首をくくった死体と行き倒れ風の死体。物乞いらしい老婆といざり車が行き交う。
ちょうどそこへやってきた銀之助が一言「地獄だー!」。確かにわかりやすい地獄絵図です。先に「この世の極楽」と言っていた銀之助の180度転換が面白い。
「何がろまん街だ。見ろ、ろん街だ」と銀之助は「ま」の字が取れた街の看板を指す。『犬顔家~』のラスト(「おかわり亭」の看板の「か」が落ちて「おわり」になる)を彷彿とさせるギャグ。宮藤さんの台本なのかいのうえさんの演出なのか。

・銀之助が闇太郎を連れて街を出ようとすると「闇太郎?」と老人が呼び止める。この盲目の老人=がめ吉との出会いによって物語が急速に動いていくことになります。

・天晴組と立派組についてがめ吉が説明してくれる。この時がめ吉がいちいち「わしにゃあ見えねえけど」というのに対し、闇太郎が「いちいち気を使わせるめくらだな」などという。
テレビや映画ならカット必至のこのセリフ、宮藤さんが書いたのかそれとも古田さんのアドリブでしょうか。舞台作品なのをいいことにやりたい放題やってます。

・「望みはなんだ。飯か酒かそれとも、女か?」と聞かれて「女ー!」と満面の笑顔で手をあげる銀之助。
女いたって役に立つまいに、と思ったら、なんと自分が「ない」状態なのを素で忘れていたらしいのが後ほど判明します。こんな逆境を忘れ去ってるあたりはやはりバカ。結局自分が女にされてしまったし。
この時「飯にしようよ銀ちゃん」という闇太郎の少し情けない感じの声がいい味です。

・対して銀之助は「女女」と連呼しながら足をばたばた。だだっ子か。しかしこの銀之助めちゃ可愛いです。

・立派とお寸の101回目の祝言。言うに及ばず往年の人気ドラマ『101回目のプロボーズ』を意識したお遊び設定ですね。
絶えず別れちゃくっつくを繰り返してるさまはバカバカしいんですが、この祝言シーンのおかげで舞台が明るく華やかになっているのは確か。
下手すりゃ日に二回も祝言やるものをよくヤクザのみなさん参列してくれるなあと思いますが、親分とその奥方が新郎新婦だから逆らえないという以上に、殺伐とした日々にあってこの祝言を心のオアシスのように思っているからじゃあ。

・繰り返し出てくる「腹から声を出す」っていうのはなんか元ネタあるんでしょうか。「喉に負担のかかる発声法」てのも。

・お寸の挨拶途中、ちょうどすごい顔になってる状態でお寸・立派、さらに回りもみんな静止し、背後のあばら家から覗いてるがめ吉と銀之助に焦点をあてて、がめ吉が背景の事情を銀之助に説明するという演出。
静止状態を演じる役者さんには冒頭の銀之助の〈同じセリフ繰り返し〉をも上回る試練ですが、それだけに一種の見せ場だとも言える。当然各役者のファンも喜ぶだろうし。

・がめ吉が話す後ろでもくもくと食べている闇太郎。全く話に関心を示さないのが笑えますが、実は自分の正体に関わる話なわけで、思い出したくないと願う無意識があえてスルーさせてしまってるのかも。

・天晴の名前を聞いただけで震え上がって挙動不信の立派。がめ吉いわく「悪知恵と銭儲けの才能だけでのしあがった小悪党」。
もしや久太郎の母親が息子の留守中に売られた一件も具体的に計画を進めたのは立派だったりするのか。

・立派は周囲にびびってるところをみせまいと意地を張って天晴を挑発する。そのうち天晴の家の中まで入っていってしまうが間もなく叫んで飛び出してくる。
「天晴いたの?」と聞かれると「目をつぶって行ったからわかんねえよ」。どれだけヘタレなのか。よくまがりなりにもヤクザの親分がつとまってるよなあ。

・お寸は「石松あんたちょっと様子みておいで」と最初に出てきた男に声をかけるが、石松はさっき斬られた左腕を傷口にくっつけようとしているところ。お寸はなんとその腕をかっぱらい天晴の家の中に放りこんで行ってこいとうながす。うわひでえ(笑)。
笑えるなかにも極道の世界らしい殺伐とした雰囲気を伝えてくれる一コマです。

・やむなく石松が「あっぱれくーん」と子供が遊びに誘いに行くような口調で暖簾をノックし中に入ると、奥から「あーとーでー」との声が響く。これが天晴の(天晴としての)初台詞。
「だそうです」と出てきた石松は直後に後ろから刺される。天晴ひどいなあ。こんな卑怯な手を使わずとも天晴なら普通に斬り殺せる相手だろうに。

・初登場の天晴はどぶろく片手に出てきて刀を肩にかつぐような決めポーズ。さっきまで軍鶏だった人とは思えない格好良さ。
なのに第一声は「軍鶏になる夢を見た」。客席爆笑。本人は全くの真顔でむしろ不機嫌そうだけども。

・「だからすこぶる機嫌が悪い」と暴れはじめる天晴。夢見が悪かったという全く個人的な事情でこの騒ぎ。実に迷惑な男です。
石松後ろから刺したのも卑怯とかそういう観念なしに「なんかそうしたくなったからそうした」とかなんだろうなあ。

・がめ吉によると「酒の入った天晴は手がつけられない。しかも立派は先端恐怖症だ」。本当なんでこの人ヤクザやってるんだか。

・こんな立派の姿にお寸はもう愛想が尽きたと突然101回目の破局。しかし「このアマまた寝返りやがった」「この子のためなら何度でも寝返るさ」なんて会話からすると、今までの破局も弟可愛さゆえだったのか。
山ほどの離婚と再婚も立派と天晴の間で相当に苦しんでるゆえなのかなあと思うとちょっとしんみりします。

・天晴も姉ちゃんにはちょっと優しい顔を見せる。しかし姉貴に「やっちまいな」と言われた天晴は、切りかかるとき両目を寄り目がちに剥いて舌吐き出した表情になる。間抜けな表情がかえって恐ろしさを感じさせます。
先ほどの「あーとーでー」といい、稚気を見せつつ残忍というのが天晴のスタイルなんですね。

・立派組の面々を斬りまくる天晴の殺陣。立派は流石先生を呼ぶ。しかし先般の軍鶏との戦いを見るかぎり結果は見えてるような(笑)。
実際流石先生、一度は天晴に向かいあったものの間合いをとってるような顔でそのまま立派の家に逆戻りする(笑)。戦わずしてもう負けますか。

・流石いわく天晴は五臓が弱りきってる、自分が手を下すまでもなく三年五年のうちには死ぬとの見立て。そんな先のこと今の戦いには全く関係ないんだが。
立派も困って、誰でもいいから天晴をやったやつには一両くれてやるといいだす。この場合「やった」イコール殺したなんだろうか。少し後で天晴に勝ったけど殺してはない闇太郎が(正確には代理人の銀之助が)一両を請求してたから勝てばOKなのかな。

・銀之助が言うには、一両に比べると一文は脇役、さしずめ打ち上げに出たけど誰ともしゃべれず、なのにビンゴゲームで海外旅行当てて、でもビンゴって言えなくって・・・って感じなんだとか。この話本人の言うとおりやけにリアルなんだが誰かの実話なのか。

・ビンゴビンゴ叫んでる銀之助に立派が「おまえがわけのわからないこと言ってる間にものすごーく斬られた」。
祝言のたびにこんな調子だとするとよく立派組全滅しないでもってるよなあ。

・業を煮やした立派が賞金を二両三両とつりあげてるのに「いいや一両!」と言い張る銀之助。アホか?
結局立派が妥協して(?)一両に。「ただしカブトムシはつけさせてもらう」「のったー!」。何の話だ?「バナナはおやつに入るんですか」みたいな定番ネタなのかな。

・「叫んでねえでツラ見せろツラあ!」。天晴に言われた銀之助が「そーれいけー」と軽い声(この明るさと爽やかさがまたなんとも)で差し向けたのがお茶碗とお箸もった食事中の闇太郎。こうなると思ったよ(笑)。
銀之助はなぜ闇太郎が強いと見抜いてたのか。あの軍鶏を絞めたからだろうか。となると闇太郎の腕を当てにして用心棒代わりに連れてきたってことなのか。それはなんかやだなあ。

・「なんだてめえは」「たったいま俺が雇った用心棒・・・みたい」「みたい?」 天晴と立派の爆笑ものの会話。
お寸なんて「おもしろいおじさん、あぶないからどいて」なんて戦力外扱いだし。しかし自分でバカじゃないと主張する闇太郎のこのときのアホ面はどうしたことだろう。

・立派の手先なら容赦しねえぞ、と斬ろうとする天晴にあっさり背中を見せてゆっくり駆け戻っていく闇太郎。
何なのだ、と思うと大盛りご飯と串に刺したおでんをもって戻ってくる。おかわりかい(苦笑)。やたら嬉しそうだし。
しかし立派組の男たちは「肝が据わってるぜこの先生」とかえって尊敬した様子。座りこんでご飯食ってるだけなんですけどね。

・立派は「お食事がお済みになりましたらあの悪党をやっつけてください」と丁重に言うが、闇太郎はもう食えないと寝転がってしまう。
お寸は「あーもう食えないか。おねむか」と子供に対するような扱い。この人の闇太郎評価が一番正解な気がします。

・しかし「なめくさってこの犬畜生が」と斬ろうとする天晴の刀を闇太郎は素早く下駄で受け止め、さらに串の先を天晴に突きつける。
25年まともに武術修業してないはずなのにこれなのだから、松枝久太郎がどれだけ手練れだったのかわかります。
しかし(鉄)下駄を武器にし、おでんの串など手近にあるものをとっさに役立てる無手勝流の戦闘流儀はおよそ武士階級らしくない。いったいどんな師匠について修業したんだ。

・その強さで天晴の度肝を抜きながら、すぐに「すみませんでした」と引っ込んでしまう闇太郎。その姿に天晴が「やるやんけ」と一言。この口調やはり軍鶏なのか。

・足をなごうとした刀をあっさりかわした闇太郎に天晴は驚くが、今度はおそるおそるという感じでもう一度ゆっくり足を斬ってみるとさくっと入って闇太郎は痛がる。
要は殺気に対して体が勝手に反応して防戦してたってことなんでしょうね。一種戦闘マシン的な怖さがあります。

・しかし「えーそれでは」と堪えたようでもなく、闇太郎はおでん串を手に立ち去る。終盤に顕著ですが闇太郎は痛がりはするものの異様に打たれ強い。
まあこの場面は傷のダメージを受けてないことより、天晴との戦いなどまるでなかったことのような態度の方がむしろ怖い。まさに「てめえなにもんだ」。戦ってるのは自分ではなく自分の中にいる(でも没交渉の)何かとでも言いたげな。
過去に激情のあまり大虐殺を行い、おそらくは自分のしでかしたことへのショックで記憶を失った闇太郎であってみれば、「戦ってる時の自分」は別人格として切り離してしまっててもおかしくないですが。

・「新郎新婦の門出を祝しましてわたくしから一曲」「歌うの?今さっき別れたばっかりなんだけれど」。戸惑うお寸を尻目に歌い出す闇太郎。しかも上手いし。
「闇太郎が歌が上手い」というのはお泪がやはり歌が得意だった幼馴染のやみ太郎と彼を混同したのはそのせい、という設定なんでしょうか。少なくとも失明直後のがめ吉が久太郎をやみ太郎と間違えた理由として一番考えやすいのは〈声が似てた〉可能性なので、歌う声も似てるんでしょうね。

・この歌につられて回り中の男女が抱き合い出す。天晴なんていきなり走りよってきた女がなにやら不埒なことをしようとしてます(笑)。これテレビじゃ放送できないなー。
しかし意外に天晴は女を突きのけて着物の前を直している。意外に身持ちが固いのか好みじゃなかっただけか。あるいはそのへんにお泪がいるはずなので、彼女への遠慮があったりするのか。
この時色男の銀之助に誰も女が寄って行かないのが意外ですが、存外無意識に彼が正常な男でないと感じ取ってるのかも。“ない”にもかかわらず、あれだけ女女言ってる銀之助もこんな状況にもかかわらず自分から女に寄っていってないし。
天晴の態度も合わせ、歌に触発されてか皆の無意識が表に滲み出してしまってる場面のように思います。

・揺れるお寸の女心を蜉蝣に例えた歌詞。しかし離れられない二人の関係を「ウンコと蝿」ってのもひどいな。
ついに抱きあって復縁する立派とお寸。歌の力ってすごい。あの天晴でさえ「あんたの歌を聴いてたらなわばりがどうしたと言ってる自分がちっぽけに思えてきた」なんて言ってるし。
立派から(さっきはまともな会話も成り立たないほど天晴にびびってたのに)今日のところは手打ちにしないかと提案し天晴も「今日のところはな」といいつつも握手に応じてます。

・いいかげんに名乗ったらどうだい、と天晴にうながされて「蜉蝣峠の、闇太郎」と名乗る闇太郎。どっかで聞いた名前だな、という天晴発言はもちろん伏線だろう。
「身分は」「知らん」「里は」「知らん」。そっけないようですが事実だもんなあ。

・「面白え。闇太郎。ついて来い。腹いっぱい食わしてやる」と言われて天晴について組に入っていく闇太郎。やっぱり闇太郎釣るには食べ物が一番と思われたんでしょうね。
立派は闇太郎を天晴の方に行かせちゃっていいのか?

・百二回目の祝言が始まる。斬られた人たちはどうなったんだろう。まだそのへんに転がったままだろうに。
そして闇太郎がもらうはずの一両は・・・と思ったらこれは一緒に踊ってた銀之助が「あ、一両くれよ一両ー」と後を追っていく。さすがに忘れてなかったか。

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