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俳優・勝地涼くんのこと。

『新・愛の嵐』(2)-10(注・ネタバレしてます)

2008-08-12 02:44:30 | 新・愛の嵐
〈第20回〉

・「あの花を捨ててちょうだい」。 
最初は単に、花はお花の名前に通じるので見たくない、ということかと思ったんですが、「美しいものは見たくないの」と続くので、本当に人生真っ暗闇な気分になっているのでしょうね。
気位の高いひかるにふさわしい絶望の表現だと思います。

・伝衛門にお花と所帯を持つ気があるかと聞かれて、「生意気を言うようですが、お花と二人きりで話しをさせて下さい」という猛。
当初の自失から覚めた後も崇子先生の時のように自分はやってないと言い立てないのに、目の前でブラウスをひきちぎった崇子先生と違いお花が自分を陥れようとしてるとは思えない(理由もない)のを考慮して、いきなり騒ぎ立てずにまずはお花に事情を確認しようという猛の冷静さと思いやりがうかがえます。

・涙ぐみつつ猛への想いを切々と語るお花。お花役石井春花さんの名演技が光ります。
そんなお花を見る猛にも今までにない同情の色がある。でもあくまで同情どまりであって愛情にはならない。
ひかるを想う時の切ない表情との違いがはっきりしていて、その表現力はさすがだと思います。

・「そんなに私がきらいですか」とお花に問われて、「そんなことはない」と言った否定の言葉を発せずにただ顔を背ける猛。
嫌いとは言わないまでも全く眼中にないことを言外に表明している。
情にほだされて多少なりとも相手に愛情を抱くということができない(一緒に暮らす、あるいは暮らそうとするまではできても)、どこまでもひかるしか愛せないあたりは、第三部に至っても変わりませんでしたね。

・お花を抱いていないとあくまでも主張する猛。
文彦があれだけお膳立てして、猛が酔った勢いでお花と関係を結んだと信じるよう仕向けたというのに、猛は泥酔中の自分の行動にさえ一切の疑念を抱かない。
このへんの自信はちょっとすごいかも。

・いきなり手拭いを持って文彦のもとへ向かい、「あんたが仕組んだんだな」と詰め寄る猛。「あんた」呼びにすでに激しい憤りが感じられます。
対する文彦の「おれは知らないよ~」の言い方も実に憎憎しい。知らないと言いつつ暗に猛の言葉を認めてる態度は、最初から猛を怒らせるのも殴られるのも(猛を悪者に仕立てるために)覚悟していたのが分かります。

・文彦は一切を暴露してやると猛を脅迫。どう考えても事が表沙汰になれば文彦もただではすまないだろうに、「恥をかくのはお花だぜ」とはひどい。
猛が自分を慕う女を、自分は惚れてなくても晒し物にはできないと踏んでの悪辣なやり口。18そこらで驚くべき下衆っぷりです。あの旦那様の息子だってのに。

・姉さんかぶり?で猛の部屋を掃除し、訪ねてきたひかるに藁座布団を勧めるお花。
もうすっかり奥さんのようです。

・「申し訳ありません」と真っ先に頭を下げるお花に「やめてそんなことしないで」というひかる。
猛を奪ってしまって申し訳ありません、という詫びはひかるに恋の敗者であることを突きつける行為であり、ひかるとしてはより惨めにならざるを得ないからですね。
そして実はお花もそれを承知であえて詫びてみせたのでは。言うなれば勝利宣言。
お互い相手を気遣う風を見せながら、その実密かな火花が二人の間に散っています。

・ちょうど部屋にやってきた猛は目を伏せてひかるに会釈する。
そのよそよそしい態度も、もう猛が自分のものではないと思い知らされるようにひかるには感じられたことでしょう。

・「お花を幸せにしてあげてね」と思い出の貝を猛に手渡すひかる。
これまで猛に執着するあまり猛本人も周囲もさんざん振り回してきたひかるが、意外にも見事な身の引き方を見せる。
逆に普段はひかるの我が儘をなだめる側の猛が、ここで俄かにキレて貝を床に叩きつけて砕いてしまう。
もはやお花と一緒になる覚悟を固めていたのでしょうが、ひかるにあっさり身を引かれると「その程度の気持ちだったのか!?」と責めたくなったのでしょう。
お花と結婚すると決めても変わらずひかるを想うがゆえの葛藤がこの乱暴な行動に露で、見ていて痛々しいです。

・「お花、俺のことが好きか」と尋ね、「大好きです」と答えたお花を無言で抱きしめる猛。
お花の名誉を守るために真相を表沙汰にしないというだけではなく、彼女と結婚すると決めたのには、お花の言うようにひかるへの恋は叶うことはまず考えられないだけに、報われぬ想いに疲れたのも大きかったのでしょう。
自分が苦しい恋をしているからこそ、自分に片思いしているお花の苦しさも理解できる。
彼のお花への同情とひかるへの愛の間での葛藤が、お花を抱きしめるときの苦しげな横顔に表れていました。

・伝衛門にお花と結婚する意志を伝えた猛は、祝いの宴の席を設けようと言う伝衛門の言葉に「まだ半人前だから」と断りを入れ、伝衛門も「そうか」とあっさり話を切る。
猛とひかるの絆をたびたび思い知らされてきた伝衛門には、今回の結婚ははずみでお花とできてしまった責任を取るためのもの、と了解されてたんじゃないでしょうか。絹も「猛は男として責任を取ったのです」と言っていたし。
そして猛が「いつかきっと三枝家のためにいままでのご恩を返したいと思っています」と続けるのは、所帯を持って一人立ちするにあたり「今までお世話になりました」とひとまずの礼を述べたということなんでしょうが、猛がお花と結婚する=ひかると結ばれないことで、文彦の立場が安泰(と文彦は思っている)になり、ひかるとの恋が絹をはじめとする周囲に迷惑をかけることもなくなる、その意味でこの結婚自体が三枝家への恩返しになりうるというニュアンスもあったのでは。
しかし伝衛門からも絹からも「責任を取るために」いやいや結婚するんだと思われてるお花が可哀想。

・ひかるのバイオリンをじっと聴いている猛を後ろに立つお花が見つめている。猛の表情にはひかるへの思慕が明らかに滲んでいる。
お花の位置からは猛の表情は読み取れないかもしれませんが、状況と佇まいだけでも、お花は猛の感情を正確に察知しているんじゃないかと思います。

・「そして二人の夏に終わりがやってきました」というナレーション。
第二部がたかだかひと夏の出来事だったことに驚く。そういえばずっと夏服だったっけ。
ひと夏のちにレイプ未遂二回(うち一回は冤罪)と夜這い一回(冤罪)が起こったうえ、最後には結婚問題まで・・・。忙しいな三枝家。

・文彦に文学を学ぶために2年の猶予を与える伝衛門。
文学を続けるために猛を陥れた(猛が所帯を持つことと文彦のモラトリアム続行の因果関係はもひとつよくわからんが)文彦にしてみれば願ったりの展開。
しかし伝衛門は三枝家の跡取りが文学の道で(第三部からすると小説家として)成功するのはOKなんでしょうか。

・猛の背中に傷跡があることを明かしてお花を抱いたのは猛じゃないと喝破するひかる。
「私をかばって出来た傷」とわざわざ言い添えるところに、猛が一番大事に思ってるのは自分だと顕示したい心境が見えます。
しかし「醜い」傷って言い方はひどくないか(笑)。お花の言う「綺麗な背中」への反論だからそういう表現になるんだろうけど。

・お花をなじりながらひかるも落涙する。興奮のあまりなのか、それとも自分のせいで一気に恋の勝利者から転落したお花への同情と済まなさからか。
結果的にひかるは、お花の名誉を守るために黙って結婚しようとした猛の心を無にしたとも言えますね。

・自分を抱いたのは文彦だと告白したお花を、下女たちが「バカバカバカ!」と責める。
これは文彦坊ちゃんを差すような発言をしたことに対してか、兄の情事を14歳の少女の前でバラしたことにか。
あるいは嘘をついて猛と結婚しようとしたことに対してなのか。

・「お嬢さまは何もかもご存知です」というお花。しかし言われた猛の方が何もかもご存知じゃないので、意味わかったのだろうか。
正確には猛は文彦がお花を利用して自分をはめた事情を察してはいるが、「自分が事情を察してることをお花が知っている」とは思っていないはずなので、「何もかも」ってどの程度?という感じでしょう。

・明日ひかるが東京へ行くことを告げて、短い別れの挨拶とともに走り去るお花。
下女たちにも文彦と契ったことがバレてしまい、それにともなって猛と予定通り結婚するわけに行かなくなったからというだけでなく、お花自身が言うとおり、猛への想いの強さでひかるに負けたと感じたから潔く身を引くことにしたのでしょう。
しかしこの後お花はどこへ行ったのだろう。実家へ帰ってもまたいずれ売られてしまいそうだし。

・一人片頬を腫らして涙ぐんでる文彦。何ら状況説明はありませんが、事の真相が伝衛門にバレて殴られたのは明白ですね。
さすがに責任をとって文彦がお花と結婚するよう命じられるといった展開にはならなかったようですが。
旧作ではここのくだりで、文彦に責任を取るよう言わない両親をひかるが不公平だと責める場面があったんですが、そのエピソードはすっぱり切られてます。
尺の問題という以上に、伝衛門が狡く見えてしまうからでしょうね。

・ひかるの旅立ちを祝う宴の席。明らかに地元の名士と思われる人たちが参列していて、やはり地主のお嬢さまともなると違うよなあ。

・いきなり宴席に現れた猛は、ひかるに歩みより先に壊したのと同じ貝殻を差し出す。
ひかるが貝を返し猛がそれを割ることで一度は断ち切られようとした二人の絆を、再び(ひかるとの関係に引き気味だった)猛から繋ごうとしている。
すっかり薄汚れたなりに、彼が苦労して貝を探し出してきたのが反映されています。
しかし一使用人である猛の、いかにもお嬢さまと何かありげな行為は参列者の手前まずくないのかなあ。「どうかお気をつけて」という挨拶は一応使用人らしかったけれども。

・猛の名を呼ぶひかる。振り向く猛。二人の目に強い想いが輝いている。いよいよ参列者には二人がただならぬ仲だと思われたことでしょう。
そして宴席を放り出し(自分が主役だというのに)猛の手を取って走り去るに及んでは、ほとんどそのまま駆け落ちしかねない勢いです。
伝衛門はまだしも絹が思ったほど慌てずひかるを止めもしなかったのは意外。・・・多分驚きのあまりリアクションが遅れたんだと思いますが。

・「自分も仕事に打ち込みます。誰からも後ろ指を差されない立派な男になってみせます。それまで待っていてください。」 
ひかるにつりあう男になるよう自分を磨くという宣言。先に「私と仕事とどっちが大事」なのかと猛をなじったひかるへの返答ともいえます。
自ら身を引いたお花に勇気づけられたのか、日頃主家への遠慮ゆえにひかるの想いをかわし続けた猛の口から、おそらくは初めて出た二人の将来を「誓う」言葉なんじゃないでしょうか。

・猛にゆっくり歩みより口づけるひかる。
二人の立ち位置が妙に距離があるなと思ってたんですが、このシーンのためでしたか。ラブシーンは常にひかるがリードしてるあたりがこの二人らしい。
この場面、一瞬ですが本当に二人の唇が触れているのに驚きます。
当時勝地くん15歳、藤原さん13歳。若い二人の役者魂を感じてしまいました。

・唇が離れたあと、微妙に視線をそらしつつも、結局はひかるを見つめてしまう猛。その面映げな表情が何とも初々しい。
ひかるの方も猛の顔を見ようとしては目を伏せてしまう仕草が愛おしい。何ともピュアな美しいキスシーン。
第二部のラストとしても最高の場面になっていたと思います。

 


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『新・愛の嵐』(2)-9(注・ネタバレしてます)

2008-08-07 02:06:17 | 新・愛の嵐
〈第19回〉

・夜更けに番小屋を訪ねてくるひかる。これじゃ夜這いのようです。
これで戸を開けてしまったら(それがバレてしまったら)、状況を問わず猛は確実に咎められるはず。いかに会いたいとはいっても、いささか無謀すぎです。

・懸命に鍬を振るう猛。ひかるのことを考えまいとするかのように。
こういうときの表情には先の切なさとは違う男の色気がありますね。

・おたきからひかるがちょくちょく夜抜け出して番小屋に行くと聞かされたことを絹は伝衛門に報告。
おたきはひかるが抜け出すのに気づいてるなら、何故ちゃんと止めないのか。部屋に外から鍵かけとくとか。

・お花に猛あての手紙をことづけた後、ひかるは鏡台に向かい唇に紅を塗る。猛を想う胸のときめきが映し出されているようです。

・猛が自分の渡した手拭いを使っているのを見たお花は、花開くような笑顔になる。
まあ猛は単に生活用品として重宝してるだけで、お花の想いなどまるで気に留めてないようですが。
しかし「お花」だったり「お花さん」だったり、呼び方が一定しないなあ。

・物陰でひかるの手紙を破るお花。
猛への恋のライバルというのを別にしても、貧乏な小作の子で遊郭に売られるところを伝衛門の情によって三枝家で働くことになったお花にしてみれば、猛の迷惑(ひかるがひっついてくるために絹に咎められたり回りから揶揄されたりする)も考えず、生活の苦労もなくただ恋にうつつをぬかしているお嬢様はそりゃ腹立たしいでしょう。
最初にお花をかくまい、伝衛門に彼女を助けてやってほしいと訴えたのはひかるなのに、お花が恩人と立てるのはもっぱら猛なのも、さほど年も変わらないのに天と地ほども境遇に開きのあるひかるへの嫉妬心が根底にあるように思えます。

・バイオリンを練習するひかる。腕前は・・・うーむ。
いっこうに姿を見せない(お花が手紙を握り潰したため、ひかるが待ってること自体知らない)猛に、「もう猛ったら」とふくれて見せるものの、「来てくれないということは嫌われたの?」などと不安がっては全くなさそう。猛が自分を想ってくれてる事自体は確信があるみたいです。
バイオリンといえば崇子先生はその後どうしたんだろう。あんなことがあっちゃ今さらひかるのバイオリン教師はできないだろうけど。

・番小屋に乗り込み、書類の上にバイオリンケースを乗せて(思い切り仕事を邪魔して)恨み言をつらつら並べるひかる。何かすね方が可愛いです。
「(ラブレターを)お前が取って置きたい気持ちはわかるけど」という台詞も自意識過剰っぷりがいっそ微笑ましい。
というかあれラブレターのつもりだったんだ・・・。単に呼び出し状だと思ってた。

・ラブレター返せ発言に対し、そんなものは知らないとは言わず仕事への情熱を語る猛。取り次ぎ役だったお花が何を思ってか手紙を渡してくれなかったことを察知したうえで彼女をかばったものでしょうか。
しかし男が人生かけて打ち込んでる仕事を邪魔するひかるは男にしてみれば相当鬱陶しい女じゃないかなあ。「私と仕事とどっちが大事」発言などドン引きものでは。そりゃあ「どうしてわかってくれないんですか」と言いたくもなります。
文彦ばかりでなくひかるも地主の娘として、白部村の利益は二の次みたいな態度は不適切ではないのか。まあまだ14歳だから自覚が薄くても仕方ないかな。
大人になってからは「白部村の子供たちのために」と音楽教えたりもしますしね。

・文彦の膝に汁物を引っくり返してしまうお花。猛に補佐役なんか務まるわけがないとの悪口を聞いて動揺したんでしょう。さすがにわざと(猛の悪口を言った仕返し)ではないでしょうね。
あわてて文彦の服を拭くお花を、文彦が薄ら笑いしながら見つめる。間近にお花を(うなじとか胸元あたりを)見て女癖の悪い文彦が食指を動かしたのと思ったんですが、後の展開からすると、彼女と猛をくっつける計画を思いついてほくそえんでたということなのかも。

・「男の人って仕事に夢中になると何もかも忘れてしまうものなの?」 父親に聞くとは(猛について質問してるのは見え見えなだけに)大胆ですねえ。

・猛は男として一回り大きくなれるか試練の時なのだから遠くで見守ってやれという伝衛門に、「そんなのつまらない」と反発するひかる。
ここで距離を置くことはひかるにとっても、女として一回り大きくなるための試練だと思うんですけどね。
この時の会話が、女としての教養を身につけるために東京の女学校へ行くことを承知する伏線になっていきます。

・早朝から水垢離するひかる。自分にも何か(猛のために)できることを、と考えた結果がこれというのがすごい。何かもう二人を引き離すのはあきらめた方がいいような。
しかし気持ちは買うものの、「私にはこれくらいのことしか出来ないんですもの」と言わず、それこそ料理とか裁縫とか(彼と一緒になるときのための)花嫁修業に勤しめばよいのでは。あるいは猛が先だって関心を見せていたワイン用の甲州ブドウの研究とかさ。

・番小屋で猛を待ち、今夜つきあわないかと誘う文彦。
聞かれもしないのに「俺はお前が補佐役に抜擢されたことなんか、これっぽっちも妬んじゃいないよ」とわざわざ言うあたり、かなり深刻に妬んでいる様子です。
そういえばこの間首を締められたことについては何ら恨み言を口にしませんが、全く根に持ってないんですかね。
このシーン、文彦の持つアイスキャンデーが見る間に溶け落ちてゆくのが笑えます。

・文彦が猛に夜這い計画を持ちかけると、話を聞いていた女給が甘い声を出して猛の方に引っつく。
前に文彦を送ってきた女もそうですが、不思議と金持ちの坊ちゃんな文彦より明らかに使用人な猛の方がもてるんですよね。
物慣れない様子がウブで可愛いってことなんでしょうが。

・「俺帰ります」と立ち上がる猛を文彦が押し戻して席に座らせる。この時の猛の体が傾ぐ感じがなかなかリアルで上手い。

・「夜這いってものは心身の鍛練のためにやるんだ」。すごい強引な理論だ(笑)。
まあ案外本気でこういう事思ってる人いそうな気も。

・夜這いを嫌がる猛に文彦は譲って「今夜は酒だけにしよう」とさらにグラスを勧め猛もそれに従う。
思うに文彦は本気で猛を夜這いに付き合わせるつもりはなく、夜這いの件で譲ってやることで猛に心理的な貸しを作り、それに乗じて酔い潰すのが目的だったんでしょう。
しかし猛が大人しく眠ってくれたからいいようなものの、派手に吐かれたり酒乱で暴れられたりしたら目も当てられなかったな・・・。

・猛のふりをしてお花に夜這いをかける文彦。
お花は途中で「猛」の正体に気づいたものの、言う通りにすれば猛と一緒にしてやると言う言葉に唆されて抵抗を止め目を閉じる。
主家の若様だから逆らえなかった(ここを追い出されたらまた遊郭に売られかねない)部分もあるでしょうが、それだけ猛に対する執着が強かったのですね。健気というか痛々しい。
目を閉じる直前の、涙をいっぱいに湛えた目が悲しいです。

・しかし文彦は猛とお花をくっつけるだけなら、実際に夜這いをかけなくともお花を言葉で説得して、猛と寝たという嘘の証言をさせれば済む話である。
それをあえて実事に及んだあたりは・・・ついでに美味しい思いをしようと考えたんだろーな。

・お花の父が訪ねてくる。「お花は今朝そちら(親元)へ帰ったはず」というのは、夜這いかけられた後、朝になってから何か理由を言い立てて一時的に実家に帰らせてもらったってことでしょうか。

・笑顔でやってきてお花と猛の縁談に「お花、おめでとう」などという文彦。お花は無言で目をそらすが、無理もない。

・お花の父が来てると聞いたひかるは、「いったい何があったの?」とあわてた風でやってくる。
訪問の目的は知るべくもないはずですが、前にお花を売ろうとした経緯があるので、またろくなことじゃないと直感したものでしょうか。

・「旦那さま、俺に何か」と部屋に走りこんでくる猛。何の不安も迷いもない表情が見てて辛いです。

・先からきまり悪そうな顔をしていたお花は、猛がきょとんとしてる様子についに泣き出してしまう。それだけ後ろめたさがあるわけですよね。
こんな形で猛を手に入れたって幸せにはなれないと思いますよ・・・。

・いきなりお花の父から結婚の約束をしながら知らんぷりをする気かと責められる猛。
お花との関係を肯定も否定もしてない(ぽかんとしてるだけ)うちから責めるのは早くないか。

・お花が、猛と契りを交わしたことに間違いないと言うのを聞いた猛。「お花!?」と言う少し間の抜けた声から、驚くというより本当にあっけにとられている感じが伝わってくる。
その後ひかるが入ってきたときの「まずいところを見られた」という表情も、気絶するひかるを棒立ちで見つめるのも、自分の理解の及ばないうちにどんどん進行する事態に呆然としているのがよくわかります。

 

(つづく)

 


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『新・愛の嵐』(2)-8(注・ネタバレしてます)

2008-08-03 03:15:23 | 新・愛の嵐
〈第18回〉

・先頭に立って土砂を掻き出す大活躍の結果、倒れてしまう猛。やっぱり絶食後にこれは無理があったか。
意識のない猛にすがって泣くひかるの姿を追う中で、一コマお花のカットが挟まれますが、これは猛に抱きついて泣くことのできるひかるを、うらやましく思う心情を描写したものでしょう。

・猛を肩に担いで軽々運ぶ伝衛門。さすがは旦那様、格好いいです。

・眠る猛を振り返りつつ部屋を出ていくお花。
猛のハンストを止めさせられなかった自分の猛に対する無力を思い知るほどに、かえって彼への叶わぬ想いが強まっているようです。

・小作人の大事にもかかわらず悠然と本を読んでいた心構えのなってなさを責められた文彦は、猛を逆恨みする。
この一連のシーンは、頬の引き攣らせ方や目線の動きなどで、見事に甘ったれたお坊ちゃんを表現してみせた藤間くんの演技力が光っています。

・猛の部屋を見舞うのを止められて、「お母様こそ不謹慎なこと考えてらっしゃるんじゃありません?」と言い通すひかる。
友春と崇子、二つのレイプ事件を通して大分大人びた口をきくように。しかしその言葉の内容と対照的に表情はすねた子供然としている。
おませだけどまだ幼い年相応の潔癖な少女の顔をしてます。

・「猛猛!何かっていうと猛だ!」 繰り返しながら斧を振るう文彦。
薪割りの作業に怒りをぶつけてるのかと思えば、薪割り用の台?を無駄に斬りつけている。ちょっと鬼気迫るものが。

・猛の部屋を覗いて、お花が意識のない猛の手を握るのを見てほくそえむ文彦。「思いがけずいいものを見た」という感じ。
本来何をするつもりで猛の部屋へ行ったんだろう。先の薪割りシーンがあるので、つい「闇討ち?」とか思ってしまう。

・絹が倒れたのは自分が悪いのだというひかるに、「自分の思いに回りを巻き込んで傷つけてはいけない」と諭す伝衛門。
身分違いという観点から咎めないのは、先の和尚の言葉が身にしみているからでしょう。
猛とひかるの関係をどうすべきかについての考えも少しずつ変わってきてるのでは。

・文彦がどれだけ献身的に自分の世話をしてくれたか嬉しそうに語る絹。それを受けて伝衛門が文彦に目をやると、意外にも文彦は決まり悪げに視線をそらす。
てっきり親に取り入るためにことさら絹の世話をしたのであって、ここで如才なく親思いの息子ぶりを伝衛門にアピールするかと思ってたんですが。
父の迫力に押されてそうした目論見が後ろめたくなったのか、逆に心から母を思っての行動だったがために、日頃の自分とのキャラの違いに自分で照れくさくなったのか。

・「お母様はあなたがたを生んで本当によかったと思ってます」と絹は子供たちに言い、二人もそれに頷く。
このとき文彦の左目にかすかに涙が光っている。やはりさすがの文彦も母への情だけは本物ということでしょうね。
第三部を見ても情けない男なりに両親や奥さんを愛してましたし。

・「あとはわしが見る」という伝衛門に猛をまかせて部屋に下がるお花が、後ろ髪を引かれるように猛を振り返る。
先から何かとお花のアップが多いのは、今後の展開に向けて彼女の猛への想いをしっかり見せておくためでしょう。

・猛の額の手拭いを外して手を当てる伝衛門。その手つきも眼差しも実の息子に対するかのよう。
ここで幼年期の物語の回想が入る。息子とも思うものの息子ではない猛の処遇をどうするか、手元に置きたいがそれが猛のためになるのかを真剣に思い悩んでいるのがわかります。

・事故のさいの活躍を誉められた猛は、「考えるより先に体が動いてしまうんですね。俺頭悪いから」とはにかんだ、でもどこか得意気な笑顔を見せる。
このへんの行動力は頭でっかちに文学を振り回したがる文彦と好対照(もっとも小学校の成績は猛の方が良かった)。
猛が本当に自分の(死んだ二人目の)息子だったらよかったのに、と伝衛門は思ったでしょうね。

・何でもいいから現場に出たい、白部村の役に立ちたいと繰り返す猛。つくづく文彦より猛の方が後継ぎの器ですねえ。
猛がひかるの婿として三枝家を継ぎ、文彦は財産を貰って東京で文学するのが一番丸く収まると思いますが。

・将来文彦の補佐役となるために、あらゆる事を経験してほしいという伝衛門の言葉に、「旦那さま・・・」と呟く猛。
その目の黒曜石のような澄んだ輝きに、思わず圧倒された。旦那さまへの一途な敬愛の念。
この人のために尽くすという強い意思を感じさせます。

・現場の仕事のため朝早く夜遅い生活に対応するには、いつもの部屋より番小屋の方がよかろうと言う伝衛門を、猛はちょっとためらった様子で見やる。母屋から追い出されるような気分になったのでしょう。
実際伝衛門が何となし済まなそうな顔をしているので、猛とひかるの仲を案ずるあまり倒れた絹を思いやってか、二人に距離を置かせようという意図はあったんでしょうね。
結局、和尚の問いかけ(猛をどうするつもりか)に対して、「文彦の片腕、しかし婿ではない」という位置に置くことを決めた様子。しかしあの文彦を補佐するってすごく嫌な役回りだ・・・。

・夜、ひかるの部屋の前で一人「お嬢さま・・・」と呟く猛。
母屋を出るにあたって、ひかるのことは忘れて仕事に専念しよう、伝衛門の信頼に答えようと腹をくくったので、最後の別れに来たという感じなんでしょう。
でも一人言でさえ「お嬢さま」なんですね。

・上述のひかるへの別れの直後、猛はお花から手製の手拭いを渡される。
でも猛は「ありがとう」と淡々と言うだけ。彼女の気持ちはさっぱり通じてないですね。

・猛が番小屋に引っ越しただけのことで、文彦を「お兄さまがだらしないから!」と罵倒するひかる。あとで猛にとばっちり行くからやめてー。

・仕事で疲れ番小屋の床に仰向けに寝転がり、ひかるとの思い出を反芻する猛に、「今ひかるの事を考えておったな」と思い切り図星を指す和尚。
猛も「はい」とあっさり答える。和尚には本当素直ですね。

・和尚が出て行ったあと再び床に寝転がる猛の、天井を見つめる横顔が何とも言えず切なく、不思議な色気さえ感じさせる。
猛は16歳設定にもかかわらず多分に男の色気を漂わせるキャラクターですが、この場面での色気はむしろ少年の澄んだ色気。
男の色気と少年の色気の双方を兼ね備えているというのはある意味最強では。

 

(つづく)

 

 


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『新・愛の嵐』(2)-7(注・ネタバレしてます)

2008-07-30 02:53:32 | 新・愛の嵐
〈第17回〉


・ひかるのハンストについて両親が議論するところへ、「なあに心配なんかいらんよいらんよー」と軽いノリで登場する和尚。
ふつうに障子開けて出てきたんですが、人の家に勝手に上がりこんで飲んでたわけですか?

・酒を酌み交わす伝衛門と和尚。若い頃からの付き合いだからか、普段は何をせずとも威厳と風格を感じさせる伝衛門が、ちょっと拗ねたような悪童じみた顔つきなのが何か可愛いです。
机が低いのかちょっと前屈み気味になって肘をついてるせいもあるかな。和尚に対しては一人称も「俺」ですしね。

・猛が自分の無実を信じない三枝家の人々に腹を立ててるとの和尚の言葉に、伝衛門は特に反発も反省した風も見せない。
伝衛門自身はこの件について最初から猛は無実だと思っているので、自分を「無実を信じない三枝家の人々」に含んでないからですね。

・猛の無実を主張して、「わしの言うことに間違いはないよ。だってわしゃあ、あいつがガキの頃からちゃーんと見てきたんだから。」 
同じように子供の頃から見てきたはずの文彦の人間性は見抜けないんでしょうか(笑)。それとも見抜いたうえで、いつまでも勘当状態もよくないと家に戻すことに反対しなかったのか。

・夜更け、猛は立ち上がって窓から外を見つめる。その物思わし気な顔からして、目線の先にあるのはひかるの部屋でしょう。
彼はひかるが自分のためにハンストしてるなんて事は知りませんが、いったんは疑っても結局は自分を信じると言ってくれたひかるにひどい言い方をしたとちょっと後悔しているのでは。

・同じ頃机に向かっているひかる。寝巻きでなく洋服を着てるところからして、食べないだけでなく寝るつもりもないらしい。
眠った方が空腹が紛らわせると思いますが、起きた状態で空腹に耐えるのも罰のうちだと考えてるのでしょうか。

・ここぞとばかりに豪勢な食事を用意してひかるの部屋を訪ねてくる絹。
甘味(カステラのアラモード?)を目の前に差しつけるあたりなど結構やり方がえげつない。ここで誘惑に負けてしまったら心の傷になりそうです。

・ひかるが自分のためにハンストしてると聞いたとき、無表情に近い(心を閉ざしていた)猛の目に強い光が宿る。
猛に食べるよう訴える絹の目にも、相手を何とか説き伏せようとする切実な光と(ひかるへの)気遣いがある。それでも動かない猛にじれて、無理やり汁物を飲ませようとする時などかすかに涙が光っている。名演技です。

・興奮して猛を罵る絹を押さえつける伝衛門は去り際に、「猛、おまんもいいかげんにせんか」と言う。
猛をレイプ未遂犯だと信じている絹と違い、伝衛門は和尚との会話でもわかるように猛がハンストを続ける真意をわかっているので、「いつまでも拗ねるのはやめろ」という意味ですね。
はっきり自分は猛を信じているが、立場上おおっぴらにそれを表明できないのだ、という事をもっとちゃんと話してあげればいいと思うのだけれど。

・猛に食事をすすめても拒否され、汁がこぼれた服を拭いてやるのも拒否され、口さえきいてもらえないことをお花は悲しみ部屋を飛び出す。
この時お花も絹同様涙ぐんでいる。顔を背けうなだれる猛も、自分の意地のためにひかるや絹、お花たちにも辛い思いをさせてることがだんだん重くなってきてるんじゃないだろうか。

・土蔵の猛はともかく、ひかるもハンスト中ずっと同じ服なような。食べない眠らないだけでなく、着替えも風呂もなしで引きこもってるんでしょうね。

・バー「アザミ」にやってきて、女給に「坊や」扱いされながらも、浅草で流行ってるカクテルを頼む文彦。
「浅草で流行ってるあのカクテル」という言い方からすると、実はカクテルの名前を知らないんじゃ。服装もいかにも遊びなれた風を気取ってるのがかえって情けない。
女給が「ああ、あれね」というのも、そのへんを見抜いたうえで内心バカにしつつ遊び人ごっこに付き合ってあげてる感じです。

・でも崇子の肩に手をかけたり自然に手を握ったりするあたりはさすがに女慣れしている。
崇子の過去をめぐるこの二人の応酬は、顔の距離がやたら近いのと、互いに大げさな身振りのせいもあって、ちょっとしたサスペンス。

・椅子に片足を乗せて「靴に接吻してくれたら教えてあげる」
「むしゃぶりつきなさい」に続く高飛車系名台詞。この二人お店的にはいい迷惑です。
そしてさすがにちょっと戸惑ったもののしっかりあっさり接吻してのける文彦。
目的意識がはっきりしていて些末なことは気にしない性質、と好意的に解釈できなくもないですが、このような屈辱的行為を平然と受け入れる文彦は、下郎呼ばわりに怒った猛よりはるかにプライドがないと言わざるをえない。崇子もそう感じていることでしょう。

・「猛くんに初めて会った時、何故だか惹かれたわ」  「猛くん」という呼び方に、ひかるの良き先生だった頃の優しく毅然とした崇子先生の面影が垣間見えた気がしました。
この時彼女が評する猛の魅力ポイント「あの寂しそうな眼差し、じっと健気に耐えているあの背中」には多くの視聴者が頷いたのでは。続く「あの子には私と同じ匂いがあった」はどうかと思うけど。

・「思いっきり抱きしめたくなった。あの子と抱き合えば心の隙間を埋められるような気がした」との想いが高じて猛に迫ったそうですが、それが何故「むしゃぶりつきなさい」発言になるのだ。
もっと普通に告白していれば、拒絶されるなりにもう少し事態は軽く済んだと思うのだが。根っからのS体質ですか。
土壇場で自分を裏切った恋人と同列に捉えて腹立てるのもなあ。

・さすがに力尽きたか土間で転がっていた猛が、和尚の存在に気づいて起き直る。
これまで伝衛門が来ても絹が来てもこんな反応はしなかった。「俺は汚らわしい人間なんですか」の問いかけといい、和尚には素直に心を開いてるのがわかります。

・「わしは今だかつて汚らわしい人間になどあったことはない!」 
力強く言い切る和尚の言葉に目を伏せたときの猛が、憂いを帯びた「男」の顔をしていてドキッとした。
随所で不可思議なフェロモンを振りまいてくれますねえ。

・「ひかるはまだまだ子供じゃ」と言ったそばから「ひかるももう大人じゃ」と矛盾しまくりの和尚。まあ全体として言わんとするところはわかりますが。
しかし「猛も男ざかり」って・・・。まだ16ですよ?(笑)

・「猛とひかるを一緒にする気があるのか」との問いに即座に「冗談ではございません」と言い切った絹に「何故じゃ」と繰り返す和尚。
これは絹だけでなく伝衛門に対しても発した言葉ですね。猛とひかるが惹かれあっているのは明白なのに、二人の仲を認めないまま猛を片腕として身分も不安定な状態でそばに置こうというのは、要は飼い殺しじゃないかと匂わす和尚の言葉に伝衛門は反論できない。
このあと自然界に比べて人間など小さい小さい、と続けるのは唐突な気もしますが、身分の違いなど何ほどのものでもないという事が言いたかったんですよね。

・和尚が襖を開けると文彦が立っている。
この時の文彦の妙に偉そうな、親に対してまでからむような態度は何だろう。目障りなはずの猛の無実をなぜか証明してやるのもどういう心境の変化か。
皆が猛の処遇について語るのを聞いて、父と和尚の猛への思い入れを改めて感じたゆえに、自分も役に立つことをして彼らに認めてほしかったのだろうか。

・文彦の話を聞いた絹は衝撃に絶えない様子で、早朝からおにぎりを自作。
自分の態度が猛の気持ちを硬化させたことを反省はしても、彼の無実をこれまでは信じてなかったのですね。それだけに済まなさもひとしおなんでしょう。

・土蔵で力なく座っている猛。絹が入ってきたのに気づくとそっと目を向けるが、いかにも気がない様子で目線をそらし顔を背ける。
崇子が真実を語ったと聞いても「何をいまさら」と言いたげな顔で何もリアクションを返さない。
被害者側の証言を待たず自分の言葉だけでは信用してもらえなかったという点では変わりませんからね。

・絹が詫びても手をついても表情を変えなかった猛が、絹自らおにぎりを握ったと聞いてはっと顔をあげる。
ひかるのハンストもそうですが、言葉ではなく身をもって誠意を示してこそ猛の心を溶かせるということですね。

・おにぎりを持ってひかるを訪ねる猛(絹はひかるの分は作らなかったんだろうか?)。
手製おにぎりによって心の溶けた猛は、さっきまでとはまるで違う、めったに見せないほど少年らしい顔になっています。

・相当空腹なはずなのに、おにぎりを手付かずのまま、まずひかるの元へ持ってくる猛。まず猛の手におにぎりを渡すひかる。
互いを思いやる二人の姿が清清しい。鼻をすすりつつおにぎりを頬張る表情も可愛らしいです。

・落盤事故で小作が生き埋めに。一難去ってまた一難。
長期の絶食後なのに急ぎ現場へ駆けつける猛。元気だなあ。

(つづく)

 


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『新・愛の嵐』(2)-6(注・ネタバレしてます)

2008-07-26 03:03:10 | 新・愛の嵐
〈第16回〉


・自らブラウスを引きちぎり、猛に乱暴されたふうを装う崇子先生。
この人はいったい何がしたいんだ。自分を愛した(そして裏切った)男に似た猛を最初は本当に欲しかったけれど、拒絶されて憎しみに変わったんだろうか。

・まんまと誤解してしまったひかるに猛は必死に弁明しようとするが、「汚らわしい」の一言に固まる。
下郎呼ばわりされて身分の違いを改めて思い知らされているところに、さらに、それもひかるに、貶めるような上から目線の言葉を投げられたために。いっそ泣きわめいてなじってくれた方がまだよかったろうに。
「汚らわしい・・・」と呟く猛の方が泣きそうな顔になっています。レイプ未遂という行為がひかるの潔癖さに引っ掛かってしまったのですね。この間自分も被害者になりかけただけになおさら。
・・・でもその時助けてくれたのも猛なんだが、その彼を信じられないものですかね。

・伝衛門は猛を信じると言ってくれたのに、なぜか猛は顔を上げない。ひかるの言葉に打ちのめされてるゆえでしょうが、肝心な時に。
後から懸命に(ひかると友春の時と違い崇子の名誉を守る必要はないので正直に状況を打ち明けて)抗弁するも、絹に退けられる。
ここでもとどめは「ひかるが一部始終を見ていたのですよ」。ひかるに軽蔑されたと思ったら、もうそこで抵抗する気力も無くしてしまったよう。
伝衛門がこのあたりをもっと突っ込んで聞いてくれればなあ。

・崇子に取り調べの状況を報告するにあたって、伝衛門は猛が素直に罪を認めたと嘘をつく。
これは自分の体面を守り崇子先生の気持ちを慰めるための嘘というより、彼女の反応を見ることに目的があったように思えます。
実際猛が大人しく罪を認めたと聞いた崇子は驚いたような反応をしているし、そんな崇子の顔色に伝衛門は目を留めている。

・猛が先生を襲う現場を想像するひかる。想像の中の猛は鬼畜な笑みを浮かべている。
勝地くんは悪役を演じたことないので(2007年の舞台『犬顔家の一族の陰謀』劇中劇でのブラック桃太郎くらい)、こんな表情を見るのは初めて。
女をレイプするような嫌らしさが上手く出てたように思いますが、ファンとしてはちと複雑。現在放映中の『四つの嘘』でもちょっとこんな感じの表情が見られます。

・猛がバイオリンの稽古に付き添いつつ、裏では「崇子さんへの欲望を膨らませてた」などと想像で物を言う文彦。
その口調と表情のねっとりした嫌らしさ。藤間くん若いのに上手いなあ。しかし14歳の妹にこんなエロ話しにわざわざやってくるかな。

・このさい猛を家から出すべきだと夫に進言する絹。
しかしひかるの身を心配するのはわかるが、「友春さんのことをお忘れになったのですか」については、「そっちこそ猛が体張ってひかるを助けたのを忘れたのか」とツッコみたくなる。
この後の「人間には生まれついての品性というものがあるということでございます」という台詞も、まさに友春がその反証になってるんですが。そういやあの件で絹の方は猛に一言の礼も言ってなくないか。

・伝衛門は「猛の目は嘘を言っていない」と言い切り、「わしの目が狂っていたといいたいのか」と怒る。
文彦の性質を見抜いて一時は勘当した点からしても、伝衛門の方が絹より人を見る目は確かですね。
ひかるも伝衛門の言葉を立ち聞きして、猛の言葉を信じなかった自分を反省してるようですし。

・土蔵で瞑想する猛の脳裏でひかるの「汚らわしい」という言葉がリフレインする。
崇子の発言といい、絹の「奥に隠されていた下劣な心が剥き出しになったのです」といい、身分が低い者は獣同然という決め付けへの苦しみ、封建的身分制度が生む軋轢がこのエピソードのテーマでしょう。

・崇子先生のブラウスを持ってきて、猛の気持ちはよくわかると勝手な感想を述べ、あまつさえブラウス匂いを嗅ぐ文彦。――変態ですか?

・猛をレイプ犯扱いにして、あれこれ邪推を述べる文彦についに猛がキレる。
確かにキレるのも無理ないが、いきなり主家の坊ちゃんに殴りかかるのはあまりに理性が飛びすぎでは。特に首を締めるのはヤバい。
「バカにしやがって」という言葉からすると、ケダモノ扱いがつくづく腹に据えかねての爆発なんでしょうが、これじゃ本当にケダモノです。
伝衛門たちが来なかったら文彦殺しかねなかったですし。

・伝衛門たちが制止してもそちらに顔も向けず手も緩めない猛。
伝衛門に叩かれてやっと正気に戻るあたりは、友春を殴ったときと同じパターン。殴られたときの体の揺れ方と「うわあっ!」という叫びは、本気で殴られたみたいに見えます。
そしてこの騒ぎの結果、猛は柱に鎖でつながれるという本当のケダモノ待遇に。猛のすがるような、絶望を宿した目が辛いです。
謹慎一週間の罰をそれ以上重くしなかったのは、息子の首を締められたことを思えば非常な温情なんですが、それもこの時の猛には通じてないようですしね。

・猛があんなひどいことするとは思えないとひかるに訴えるお花。自分は先に自分を救ってくれた猛を疑ったのに、父もお花も猛を信じていることにひかるはいささか衝撃を受けているようです。

・猛の処分について厳しい口を聞いたばかりの絹が、猛に代わって工事の予備調査の班長をすると申し出た文彦には目を細める。
母の情として自然ではありますが甘い親ですよね。そういやこの間、猛なしで工事はどうなってたんだろうか。

・バイオリンを弾く崇子を見るひかるの目には明らかな猜疑心がある。
しかし「猛はやってないといっています。本当のことを知りたいんです」とは崇子を嘘吐き呼ばわりしてるに等しい。この小細工なしのストレートさもひかるらしいといえばらしいですが。
続く「猛は野獣じゃありません!」 これこそが今の猛が一番聞きたい言葉じゃないでしょうか。

・猛の鎖を外そうとするひかるに猛は「やめろ」「やめてくれ」といつになく乱暴な口をきく。
子供時代、木に吊るされたときにひかるが懸命にロープをほどいてくれたのと記憶がダブって、野生児な猛に戻ってるような感じです。

・鎖を解かれても、ここから一歩も動かないと言い張る猛。「どうせ俺は汚らわしい人間です」と彼が低く暗い声で言い放つのに、ひかるは自分の言葉がいかに彼を傷つけていたかを悟る。
蔵に入れられてからの猛の一連の行動は、不当に疑われた、欲望を抑えられないケダモノ扱いにされたことへの抵抗であり、それはかえって彼の精神の誇り高さを証明している(手段は文彦の首を締めるなど多分にケダモノ的だけど)。
彼の行動がそのまま、絹や崇子の「身分の低いものは心性も下劣」という決め付けへのアンチテーゼになっています。

・自分もハンガーストライキにのぞむひかる。
これは猛への面当てや両親にプレッシャーを与えて猛を釈放させようという計算ではなく、ナレーションも言うとおり、猛を疑った自分への罰ですね。
猛の誇りを傷つけたことを知ったひかるは、彼の心を溶かすために自分の反省を形にしてみせるしかないと思ったのでしょう。潔癖な彼女らしい身の処し方です。

 

(つづく)


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『新・愛の嵐』(2)-5(注・ネタバレしてます)

2008-07-23 02:20:55 | 新・愛の嵐
〈第15回〉


・ひかるに後ろから押さえられても、なお友春に殴りかかろうとする猛。
この時「放してください」などの言葉はいっさい発せずずっと吼え続けているのが、まさに抑制を失った野獣のおもむき。
ひかるに平手打ちされてやっと正気に返ったときとのコントラストも、彼の野性味を強く印象づけます。

・ピンチを救ってくれた猛をひかるは「私を行かせたお前が悪いのよ」と罵倒する。
台詞だけ書くとあんまりな言い草に感じますが、叫ぶように言い放つ時の表情にも涙を滲ませた声音にも彼女の恐怖と安堵、猛への甘えと愛着が溢れている。
むしろ心からの愛情をぶつけた感があって、ひかるに愛おしさを覚えてしまう。
このシーン、藤原さんも勝地くんも、互いの演技に触発されたかのように、真に迫った実にいいお芝居をしてます。

・「ばかー!」と叫びながら猛にすがりついて泣き崩れるひかる。この時ひかるを見下ろす猛が一瞬とても痛ましそうな切ないような顔をする。
さっきまでの獣の顔と打って変わった表情は、日頃抑えているひかるへの愛情がふと溢れ出したようで、つい引き込まれてしまいます。

・ひかるにコートを着せ掛けてやる猛。そのゆっくりした動作にひかるに触れることへのためらいといたわりが同時に感じ取れる。本当はそのまま背中から抱きしめたかったんだろうに。

・しかし猛が抱きしめるまでもなく、ひかるの方が小屋を出ようとする猛に後ろから抱きつく。
「雨が止むまででいいの。こうしていて」と頬を押し付けるひかる。一度「いけません」と言ったあとはもう抵抗せず、無言で複雑な思いを表情に滲ませながら立つ猛。
まだほんの少年少女なのに(だからこそ?)絵になる切ないシーンです。

・晴れ上がった空を並んで見上げる二人。
「一生私を守ってくれる?」「はい」 こんな大事な会話をあえて互いの顔は見ないまま口にする。どちらの顔にも晴れやかな笑顔が浮かんでいます。

・猛が自分を一緒守ってくれると言ったことを崇子先生に話すひかる。その照れた顔に恋する乙女の含羞が満ちていて、本当に可愛らしいです。

・番小屋でひかるのブラウスのボタンを発見したお花は、ひかると猛が妙に機嫌がいいのと結びつけて、ひかるを好きになっても不幸になるばかりだと猛に迫る。
ブラウスのボタンから二人の恋愛に話を発展させるあたり、お花は何を想像したんだ。

・友春の父親が、息子が猛に殴られ怪我をしたと怒鳴りこんでくる。
友春は何を考えて言いつけたりしたものか。なまじ騒いで真相がバレれば自分の立場が危ういだろうに。事がレイプ未遂だけに、ひかるが表沙汰にしたがらないだろうと踏んだんでしょうか。
しかしこの時点での三枝家での友春の信用度ってどの程度なんだろう。文彦の勘当の原因になった旅館での芸者遊びのアリバイ作りに友春もかんでたわけですから。

・友春を殴ったのは事実かとの問いにごくシンプルに「その通りです」と認めたうえで、理由は「言えません」の一点張りな猛。話の展開に驚かないのは客が友春の父親と知った時点で覚悟を決めたからでしょうね。
何ら言い訳をせず、ひかるの名誉を傷つけないために一切を自分が引き受けようとするその毅然とした態度――。
出自がどうあれ彼の方が御曹司の友春よりはるかに高貴な精神の持ち主ですね。

・伝衛門の立場としては、怒鳴りこんできた相手の手前、被疑者が理由を言いたがらないからと放免もできない。
猛としても自分が黙ってることで伝衛門を苦境に追い込むのは本意ではなくまさに板挟み状態。
ちょうどひかるが来なかったらかなり辛い状況になっていたかも。

・「何があったのです」というひかるの問いかけを、猛は「お嬢さまは関係ありません」と突っぱねる。関係ないどころか一番の当事者なんですが、どこまでもひかるには辛い思いをさせまいとする猛の男気がシンプルな台詞の中に表れています。
この時三枝家の皆が事情をひかるの耳に入れまいとしてるのに、自分からぺらぺら喋った友春父は完全な自爆ですね。

・猛の名誉のために、自分がレイプされかけたという「恥ずかしいこと」をあえて皆の前で話すひかる。
ぎりぎりまでひかるに事実を明かさせまいとし、伝衛門に事実確認をされても無言で頷くのみだった猛。
二人の思い合う気持ちと相手の為には泥もかぶれる凛とした強さが眩しいです。

・「お父さま、猛はいつでも私を救ってくれるのです」 
毅然とした言い切り口調には、猛に対する揺るぎない信頼と、今後また猛が誤解をまねくような言動をしたとしてもそれは自分のためなのだという予防線を張ることで猛を守ろうとする心意気があります。
それを理解すればこそ伝衛門も黙って頷いているわけですね。

・番小屋に入り、ひかるに辛い告白をさせたことを悔やんで柱を叩き、柱にもたれる猛。
その仕草と表情が何とも切なくて、16歳の設定にもかかわらず(勝地くん自身はまだ15歳)男の色気を漂わせている。すごいです。

・詫びと感謝をこめて使用人の猛に土下座までする伝衛門。
実子文彦を勘当した今、彼が猛に寄せる感情は単純に使用人・部下として信頼できるかではなく、自分の後継者になりうるかどうかも念頭に置いてるんじゃないでしょうか。

・人前ではしたない話をするなと絹はひかるに説教する。堂々とした態度で恩人の名誉を守ったのだから、本当は「はしたない話」どころか誇りある立派な行動なんですけどね。
そしていつか話題はひかると猛の恋愛問題にシフト。伝衛門・絹の二人とも猛との身分の違いを言ってるんですが、二人の思うところは実はすれ違っているような。
絹の言わんとするところは、「身分が違うから猛は恋するにふさわしくない」であり、伝衛門は「身分違いの障害は覚悟のうえで愛を貫くならそれもよし」と言ってるように思えるのですが。

・それぞれに夜空を見上げる猛とひかる。
先に二人並んで晴れた空を見上げた場面と表現を対にすることで(さらにひかるが猛のくれた貝を耳に当ててることもあり)、離れていても互いを思う二人の絆を思わせます。

・意外にあっさりと勘当を解かれた文彦。久々に屋敷に戻ってきた文彦を見る猛の表情は穏やかでかすかに微笑んでいる。
いつも嫌味ばかり言われ、文彦の本性もわかっているはずなのに、嫌な顔一つせず帰還を喜んであげている。
文彦自身のためというより旦那さま奥さまのために喜んでるんだろうけど、いい奴です。

・三枝家の人々がお膳を囲む中、一人土間に膳が設えられている猛。
使用人だから当然ではあるんですが、改めてその構図を見るとちょっと寂しいものがあります。

・猛はワインの微妙な桃の香りを嗅ぎわけ、将来はワイン作りも考えていたと言う。これ第三部の伏線かと思えば、全然ワインなんて作りませんでしたね・・・。

・猛がいつになく積極的に自分から崇子先生に話しかける。
問いかけに対して返答するさいもいつもより口数が多いし、ワイン作りの希望に彼の心が躍っているのがわかります。

・番小屋にやってきた崇子先生。最初は普通にワインの話をしていたものが、唐突に豹変。これまで抑えてた感情がワインの酔いで引き出されたのでしょうか。
自由恋愛を説くあたりはいつもの先生らしいともいえるが、この場で実践しないでもいいようなものだ。

・迫る崇子を突き飛ばした猛の表情には恐怖の色がある。
16歳の純な少年としては、誘惑にくらっとするよりはその行動の唐突さへの恐れが先に立つのは自然かと思います。ひかる一途であるだけになおさら。

・「捨て子だったおまえに男爵家の姫が輝く肉体をほどこしてあげるわ。さあ下郎、むしゃぶりつきなさい」
オンエア当時ファンを騒然とさせた伝説の名台詞。いったいどこからこんな途轍もない台詞が湧いてくるのだ(笑)。崇子先生役の森ほさちさんも勝地くんもよく噴き出さなかったよなあ。
それにしても誘惑するのに「下郎」呼ばわりはいかがなものか。とくに身分差別に過敏なきらいのある猛にそれを言うか。実際誘惑に乗るどころか「何が下郎だよ!」って怒っちゃってますよ。

・ひかるが戸を叩くのを振り向いたときの猛の驚いた顔が、本当にまずいところを見つかった!という感じ。気持ちはわかるが、君が悪いわけじゃないんだから、もっと堂々としていたまえ。
心にやましいところがあるみたいな顔をしてるから、ひかるもますます疑ってしまったわけで。
しかし二日連続でレイプネタって・・・。昼ドラって凄い世界だなあ。

 

(つづく)


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『新・愛の嵐』(2)-4(注・ネタバレしてます)

2008-07-19 02:07:44 | 新・愛の嵐
〈第14回〉


・いきなり踏み込んでくる刑事たち。旧作みたいに繁華街で補導されるならわかるけど、なぜこんなところで?ひかるの顎を持ち上げる仕草なども刑事としてどうなのかと。
「街中からいちゃいちゃして」と言ってるので、街からずっと二人を付けてきたものらしい。なぜすぐ補導しなかったんだろうか。謎はつきない。

・崇子先生の出自を知っていきなり腰砕けになる刑事たち。ひかるだって地主のお嬢さまなんだけどな。
実際旧作ではひかるの身分を知った時点で刑事は態度をころっと変えてたんですが。

・「こっちの子はひかるさんの忠実な下僕です。」 
二人をかばうためとはいえ「下僕」呼ばわりに猛は内心ムカッときたんじゃあ。この台詞に後の崇子先生の名台詞の萌芽があるような気も。

・「自分の気持ちさえしっかりしていれば負けることはないわ」と二人の恋を応援する崇子先生。この時点では優しい人生の先輩なのに。
そしてひかるだけでなく猛まで崇子の言葉に頷いてますが、これは〝身分に捉われず自由に生きる〟という部分に対してなのか、それともひかるとの恋も含めてなのか?

・「私には君のような人生って想像もつかないわ。」 崇子先生の言葉は猛が自分の(ひかるに対する)気持ちを押し殺し続けていることを指したのでしょうか。じっと見つめられて猛はきまり悪げに視線をさまよわせる。こういう表現は昔から抜群に上手いですね。後から思えばこの時の崇子先生の凝視には、彼女が猛に格別の想いをもっていることが暗示されてたんですねえ。

・刑事たちにあっさりやられたのが悔しい、「俺は誰にも負けちゃいけないんです」と言う猛。
はっきり口にはしませんが、「お嬢さまを守るために」誰にも負けられない、というのが本心でしょう。

・文彦の勘当問題で、「では三枝家の将来はどうなるのですか」と詰め寄る絹。
伝衛門ははっきり言いませんが、頭には猛を後継ぎにする考えが兆しつつあるのでは。人間性といい能力といい、身分以外は最高の人材ですからね。
しかし猛をひかると隔てる言動をたびたび示すのは、やはり猛の「分」を思ってもいるわけで・・・。良くも悪くも封建的な昔の男ですね。

・ひかる(と猛)が警察の世話になったと聞いて絹は倒れてしまう。一日のうちに息子と娘の不品行が相次げば無理もない。
しかし泊まってくるはずだった両親が家にいるのに、ひかるは特に驚いてなかったな。

・「事情はどうあれ腕づくでもひかるを連れて帰るべきだった」と猛を諭す伝衛門。しかし無理やり女の子を引きずってるところを見られたら、もっと大騒ぎになりそう。

・「お前だけはわしを裏切らんでくれよ」と言う伝衛門に猛は力強く「はい」と答える。
その声にも表情にも一点の迷いもない。文彦を勘当したと聞いても理由を詮索しようとせず、無条件で伝衛門に従うことを心に期している。
それはイエスマンになりかねない危険はあるものの(猛が伝衛門に従うだけでなく時には彼の言動を冷静に値踏みして異を唱えることも出来ていたなら、第三部での三枝家の没落を多少は防げたかもしれない)、伝衛門にしてみれば彼ほど頼りになる人間もいないでしょうね。
まあ結局八年後に猛はひかると駆け落ち(未遂)をすることで伝衛門を裏切ってしまうわけですが・・・。
猛と伝衛門の信頼関係を見ていると、それにひびを入れるようなことばかりするひかるがつい憎らしく思えてきちゃいます。

・心頭滅却すべく刀を振るう伝衛門。片肌脱いだ上半身の逞しさはさすが元猛です。

・お花に水を汲んでもらい、弁当の具をリクエストする猛。ちょっといい雰囲気、というかお花の方は完全に世話女房気分でしょうねこれ。
猛も他の男たちも何かと言えばお花に水汲んで貰ってますが、「水くらい自分で汲めよ」という気もする。
以前絹が言ったみたいに男は力仕事、女は台所仕事という分業意識があるゆえでしょうか。

・ひかるが友春からの電話を受ける隣りで猛はノートを広げているが、手はさっぱり動いていない。内心電話が気になって仕方ない様子。
ひかるがいやいやながらも友春に会いに出かけると知ったときの表情にも微妙な憂いがあります。

・絹にきちんと詫びを入れる文彦の顔には今までにない強い決意と悲しみの色がある。
これが演技(反省してるふり)なわけだからタチが悪い。伝衛門の言うとおり「嘘で世の中を渡って」いけると思ってる性格は筋金入りですね。
しかし和尚はこの文彦の裏表に全然気づかないんですかね。

・絹がいなくなり猛と二人になるなり文彦は態度を豹変させる。この場面に限らず文彦は猛の前では全然自分を取り繕おうとしない。内心の思いをぺらぺら喋るし。
「親父に言いたければ好きにしろ」と言いつつ猛の口の固さを信じている、ある意味猛をすごく信頼しているんですよね。
文彦の言うように本当に猛が三枝家に来なかった(猛と比較されることがなかった)としたら、文彦はもう少しマシな人間になっていたんでしょうか。

・猛の目に映る文彦はどうか、改心を信じてもよいかと尋ねる伝衛門に、猛は信じて大丈夫だと答える。
猛は文彦の性根が全然直ってないのを彼との会話でよくわかってるはずですが、忠義心ゆえに主家の人間を悪く言うことができない。その意味では猛の三枝ファミリーに対する人間批評は全然当てにならない。
猛を昔から見ている伝衛門なら、そういう猛の性格はよくわかってると思うんですが。
まあ猛は根が正直なので、嘘をつくときは言葉少なく、「信用できると思うか」→「できると思います」のような鸚鵡返しの答えになることが多い気がするので、そこに注意を払ってれば猛の本心を読むのは難しくないですけどね。

・突然の雷雨にあわてて番小屋に飛び込むひかると友春。
しかしちょっと挨拶に行っただけのはずが、友春からの電話の後にかかってきた和尚の電話で呼び出された猛と絹がお寺に行って帰ってきてもまだ帰宅せず友春と一緒。
友春にあれこれ言いくるめられて引き止められてたんでしょうか。

・開き直って言葉で挑発してくる友春を見つめる猛の目にいつにない(普段は押し殺している)強い光が宿っている。口元が軽く引きつるのにも彼の激しい怒りが表れている。
殴りかかる直前の場面で猛の目の輝きは最高点に達する。目の光の強弱だけで彼の怒りのボルテージがわかるのはさすがの表現力。

・友春に殴りかかる猛。ただ殴りつけるだけでなくその間ずっと吼えるような声をあげているのが、子供時代の「獣のような」猛を彷彿とさせます。

(つづく)


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『新・愛の嵐』(2)-3(注・ネタバレしてます)

2008-07-15 03:17:48 | 新・愛の嵐
〈第13回〉


・吾作を運ぶとき猛がひかるに「ひかるさん 川から水汲んできてください」と言ってるような。
いつもの「お嬢さま」でもなく子供の頃のような「ひかるちゃん」でもない呼び方にちょっとドキっとしました。
途中から「ひかるさん」呼びになる第三部を彷彿としたりもします。

・発動機にガソリンが入ってたことについて責められる猛をかばう吾作と、班長なんだから自分の責任と押し返す猛。
二人の男気が光る場面。話を聞いているひかるの表情も「私のせい・・・」的な反省が滲み出ていて上手い。
しかし本当にひかるの我が儘は猛の対外的評価を貶めてるなあ。猛が巧みに申し開き(言い訳)できる性質の男じゃないだけになおさら。

・今の日本には本物の男が少なくなった、誰も自分のことばかり、おまえには本物の男になってほしい、と語る伝衛門。その低く落ち着いた声と風貌は、まさに彼が本物の男であることを納得させる。
でもこういう立派な人ほど報われないというか、一人息子はああだし後(第三部)には大河原のいいなりにならざるを得ないし・・・。

・絹は猛とひかるの仲を牽制する一方、友春にひかるの勉強を見てもらうとか、ひかるに彼を案内させるとか、二人をくっつけたがってるかのような言動。
使用人との仲は論外にしても、未婚の娘が男と二人きりになるのも(当時の社会としては)問題あるような気もする。
ちなみに旧作では友春はもっと出番が多くて、絹に悪辣なまでの巧みさで取り入るところも書かれてたのですが、今回は少年編が一週分少なくなったのでそのあたりは割愛された模様。

・友春は番小屋にやってきて猛にラブレターの仲立ちを頼む。このとき猛は終始友春に小馬鹿にしたような視線を向けている。
以前ひかるにラブレターを渡す現場を見てることもあり、このお坊ちゃんのことが気にくわないんでしょう。
ひかるとの将来について友春が語るときには、何か言いたげに唇を動かすが結局何も言わない。言いたくても何も言えない。ひかるとの将来など夢見ようもないのだから。
友春が出て行ったあと、柱を叩く仕草が切ないです。

・友春の手紙を届けにきた猛にひかるは(当然)怒る。
猛が落ち着いてるのがひかるには余計腹立たしいのでしょうが、視聴者には猛が懸命に己の心を押し殺してるのがわかっているので、傷心のうえにさらにひかるに責められる猛が気の毒になる。
とくにラブレターを代わりに音読しろとは拷問同然。「大きな声で読むのよ」と追いうちをかけるし・・・。
まあひかるが怒るのは猛の想いを知らないからこそ、そして彼を好きだからこそなのだし、ひかるだって猛の態度に傷ついてるわけですが。猛の方はひかるの怒りの理由―自分への愛情―をどの程度理解しているのでしょうね?

・友春の手紙を読む絹と女中のおたき。あの手紙回収しなかったのか!?
猛が手元に持っとくのも変ではありますが、あんな皆が通るところに放置するのは・・・。

・『或る女』の舞台公演ちらしを見ながら、崇子先生の語る自由恋愛に思いをはせるひかる。
しかし当の崇子先生はその自由恋愛を相手の裏切りで失ったあげく、経歴に傷がついた、いわば「落ちぶれた」人なわけで。ひかるに自由な恋を説くにあたって内心何を思っていたのだろう?
若く無邪気なひかるを純粋に(自分の二の舞にはならないように)応援したかったのか、嫉妬してたのか。その後の超展開を思えば後者のような・・・。

・「(この家には)妖怪は出なくても狼が出るかもしれません」と絹が言った直後に猛が入ってくる。
絹がちらりと猛に向ける視線からしても「狼」ははっきり猛を指しているわけですね。

・温泉宿で窓を閉めようとした絹は、向こう側の部屋で文彦が芸者と乳繰り合うのを目撃してしまう。
文彦は両親が法事でこの近辺に来ることを知らなかったのか?もっと関係ない場所に泊まればよいものを。少なくとも外から丸見えってのは無防備すぎる。
文彦がアレじゃないと物語が成り立たないですけどね。

・伝衛門が文彦を殴るのを止めに入った番頭さん?は、文彦が息子と聞いて「他のお客さまには・・・(迷惑をかけないように)」と言い置いて出て行く。
客が暴力を振るわれているのを放置したのは、家庭の事情に深入りすると面倒だったのが第一でしょうが、状況を見て「このアホボンじゃ親が殴るの当然」と思った部分もあったんじゃ。

・伝衛門に勘当を言い渡された文彦が父を見上げる。目のうるみ方といい表情といい・・・藤間くんいい役者さんです。

・旦那様がいないから息抜きに盆踊りにでも行って女をからかおうと猛を誘う吾作。
腕を怪我しているのにのんきな(笑)。若い者は女がらみだと元気になりますね。
堅物で旦那に心酔してる猛のことだから吾作をたしなめるかと思いきや、「女はいいけど、盆踊りは悪くねーなー」と意外に乗り気。
女遊びには興味はないということで、文彦と比べたら罪のないハメの外し方ですが、語尾の「ねーなー」という口調に昔の野生児の面影がよぎってちょっとドキッとしました。

・猛と吾作が二人盆踊りの身振りをしているところへお花がとびこんでくる。うわあ、これは見られたくない瞬間かも。

・ひかるが出てったきりだと告げるお花。伝衛門たちが出かける時に女性陣は「お嬢様は必ず守る」などと力強く宣言していたというのに。
お花の話を聞いた猛の「ええ?」という反応も「何やってんだよー!」と言いたげです。

・お花の話を受けて「俺はお嬢様を捜してくる」と吾作に言う猛は、ついさっき踊ってたときとはうって変わったきりっとした表情。
ひかるにさんざん振り回されている猛ですが、彼が一番格好良くなれるのもひかるがらみなんですよね。

・次のシーンでもうひかるに追いついている猛。うわ急展開。
第14回での刑事たちの発言からすると、ここで追いついたのではなく一緒に街中を腕組んで歩いたりもしたらしい。
舞台も一緒に見たんだろうか。そのへんもちゃんと見せてほしかったなあ。

・芝居について嬉々として語るひかるに猛は「芝居と現実では違います」と素っ気無い一言。
ひかるは「なんでそんなつまらないことを言うの」と言いますが、ひかるに恋してもかなわない現実を猛は思い知っていればこその発言ですね。
しかしその後に「意気地なしね」と続けてるのはそうした猛の煩悶を察したうえで「殻をぶち破る」よう唆してるようでもあります。

・猛にクッキーを「食べさせてあげる」と言うひかる。動かない猛に焦れて我が儘言ってるのはわかりますが、これでは犬に餌付けするみたい。
「以前のおまえの目はもっと獣のように光っていた」「相手がお父さまであっても首輪をつけさせまいと挑む目だったわ」と語ったあとだけに、現在の猛を飼いならされた犬のようだと揶揄してるように聞こえてしまうのですが。

(つづく)

 


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『新・愛の嵐』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2008-07-12 03:38:43 | 新・愛の嵐
〈第12回〉


・ひかるの指に刺さったとげを取ってやったことについて「ひかるには近付かぬように」と絹から言い渡される猛。
猛が遠ざけようとしてもひかるの方がら近付いてきたんだが。
「ひかるの方から接近→猛怒られる」のパターンはこの後も繰り返し登場する。猛が本当にひかるに惚れているからまだいいものの、そうでなかったらお嬢さんに一方的に迫られて怒られる構図はいい迷惑というものだ。

・絹のお説教に対して「わかっています」「はい」と猛は簡潔に返事をする。表情にも声音にも彼の落ち着いた聡明な性格が感じられます。

・用水路を作る計画を相談する伝衛門たち。
貯水池を作る場所を決めるのに力を発揮したのは猛だと伝衛門が話し、皆に誉められた猛は面映そうながらもちょっと得意げ。
猛に手柄を譲る伝衛門はさすが大人の風格。
しかし毎朝山の中を歩きまわってるって・・・案外暇なのか?

・工事の予備調査の責任者に任ぜられた猛は遠慮しつつも引き受ける。
この時「ジヘイさんに何事につけても相談に乗って頂かないとできません」とそれとなく年長者を立てる発言をするあたり、思慮深い性質が出ています。

・猛が責任者になったと聞いて番小屋を訪ねてくるひかる。
いつもはひかるに素っ気なくする猛が、珍しく晴れやかな笑顔で言葉数もいつもより多いのは、彼なりに浮かれているわけですね。

・「灌漑工事の役に立つかも」しれない発見をしたから川原まで来てくれと、ひかるは猛を誘い出す。
いつもなら(絹に説教されたあとだけに)あああっさりとついては行かなかっただろう。
行くとしても不承不承という顔をするはず。このあたりもやっぱり浮かれてるんだな。

・川原でひかるは猛に水をはねかし、最初は「やめてください」と抵抗していた猛もやがて「やったなこのー」と水のかけあいになる。
「私は嘘はつきません」なんて言って猛を連れ出したくせに、嘘つきだ(笑)。
まあ16歳の若さでろくに遊びもせず仕事ばかりでは頭が固くなってかえって仕事に支障をきたす、という意味では仕事に役立ったといえなくもないか。
この二人が対等の立場で戯れるシーンは第二部以降はここくらいのもので、それだけに印象的な場面。とくに猛のやんちゃぽい笑顔は貴重。
靴下やワンピースの裾が濡れるのも構わず川に入るひかるも、まさに天衣無縫という感じです。

・バイオリンの稽古のお供役を外されることになっても「奥様が決めたことなら仕方ありません」とあっさり言う猛に、ひかるは思わず「意気地なし!」と怒鳴ってしまう。
ひかるとしては猛にいて欲しいでしょうが、猛の側から見れば稽古の間中直立不動で立ってるだけなんて普通なら苦行でしかない(彼くらいひかるに惚れ込んでいれば、それでも嬉しいんだろうけど)ので、外されるのはむしろ喜ばしいくらいでしょう。
でもひかるは「猛が内心お供の役など嫌がってて、実は渡りに船だった」可能性は考えない。だから(本当はお供の仕事を続けたいのに)絹の命令をあっさり受け入れた=「意気地なし」となる。
猛は自分と一緒にいたいはず、一緒にいたいと思ってないなどと考えたくもない、というひかるの想いが滲んでいます。

・猛に「大嫌い」などと思ってもいないことを言ってしまい動揺するひかる。
自分の感情をうまくコントロールできない事への戸惑いが、いかにも初恋を知ったばかりの少女らしい。

・工事の責任者になったことで小作人の男に嫌味を言われても、猛は声を荒げるでも小さくなるでもなく落ち着いた力強い口調で挨拶をする。
暴れん坊の野生児だった彼が、こんな自制心の強い若者に育った、その成長ぶりが頼もしい。
まあ後の展開をみると、いったんキレてしまったら止まらなくなるようですが。

・弁当の用意について聞きに来たのをきっかけに、お花はあれこれと猛に話しかける。
しかし猛は「仕事に集中したいんだ」とすげなく追い返してしまう。「人に優しくされたの生まれて初めて」というお花の感激に反して全然優しくないような(笑)。
ひかるに対するのとはえらい違いですが、猛がお花に何ら関心を持っていないこと、先に嫌味を言われたこともあり工事の成功に意地をかけていること、そしてひかるへの思慕がこの態度の裏にはあるのでしょう。

・酔っ払って女給連れでかえってきたうえ、キスまでやってのける文彦。
ちょうどそこへ両親がやって来て慌てふためく。あれだけ大きな声で扉を叩いていれば当然気づかれるわな。
文彦は何かと言えば猛のせいで自分が損してると言い立てますが、どうみても自滅ですねえ。

・女給は文彦の勘定を請求するにあたって、やたら猛の体に触ったうえ彼の胸ポケットに勘定書を入れる。
ウブそうな男の子をからかってるんでしょうが、後に崇子先生やお花が猛との性的関係を言い立てたことを思うと、無意識に猛のフェロモンにやられたがゆえの行動のようにも見えてきます。

・文彦が吐きそうにしていたのを父の追及を逃れるための芝居と知った猛は眉をしかめる。
一瞬のわずかな表情変化に彼の潔癖さが表れています。

・文彦に「おまえとひかるとの間には越えることのできない絶望的な溝がある」といわれた猛は、一人外に出て空を見上げる。
特別に表情を作っているわけではないのに、なぜこうも切ない雰囲気が出せるものか。
少年猛に当時主たる視聴層である奥様方がメロメロだったと言うのも頷けます。

・一人でバイオリンの稽古に向かったひかるの事が頭から離れず、とうとう後を追っていった猛。
「バイオリン持つのは俺です」というぶっきらぼうな一言に、あえて絹の言いつけに背いたほどの猛の想いが凝縮されています。
文彦に言われた二人の間の溝を少しでも埋めたかったものでしょうか。

・ひかるに自由恋愛を描いた『或る女』を勧める崇子先生。後に明かされる彼女の駆け落ち事件は、この本に触発されたところも多少あったのかな。

・崇子先生に再三お茶に誘われた猛は、「ほんと純情なのねー」との言葉に憮然と「外で待ってます」と出ていってしまう。
そのかたくな過ぎる態度にもかかわらず「ほんとに猛くんって可愛いのねー」といわれてしまうあたり、美少年は得ですねえ。いや後の展開からすると女難の相が出てるというべきか?

・発動機を回しに行こうとする猛を無理やり引き止めて「命がけの恋」について話し始めるひかる。
猛が今大事な(面子をかけての)仕事に勤しんでいるのだから、自分の気持ちを押し付けるべき時期じゃないのはわかるだろうに。
まだ14歳でお嬢さん育ちだから多少わがままなのは仕方ないんですかね。
結局これで代わりに発動機を動かした吾作が怪我してしまうのだからやりきれないものがあります。

(つづく)

 


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『新・愛の嵐』(2)-1(注・ネタバレしてます)

2008-07-09 01:49:34 | 新・愛の嵐
〈第11回〉

・バイオリンの練習をするひかるをじっと見つめる猛。
とくに表情を作っているわけではないのですが、その眼差しに熱があって、視線が全くといっていいほど動かないことも合わせ、彼の一心な想いを伝えてきます。

・お茶に呼ばれても「自分は立場が違いますから」とにこりともせず、ひかるの「子供のときは、こんなんじゃなかったんです」という言葉を受けての崇子先生の問いかけにも無表情で返事もしない。
自分はひかるのボディガードであり、それに関係ないことは一切しない、という徹底した態度はいっそすがすがしいようですが、遊びたい盛りの16歳という年齢と子供時代の奔放さを思うと、一種痛ましくもあります。
ここのシーンは昔とうって変わった猛の態度とそれに対するひかるの感情を、簡潔な台詞だけで表現しているのが上手い。

・ひかるが落としたスプーンを猛に洗ってもらおうとするのを絹が「洗い物は女の仕事です」と遮り、おたきに洗うよう言う。
一応使用人とはいえ男を顎で使うひかるをたしなめたのかとも思いましたが、むしろひかるがじかに手を触れるものにあまり触らせたくない、二人の距離を遠ざけたい思いがさせた発言とも感じます。

・文彦の友人・友春が「ひかるさん」と呼びかけた時、隣に立っている猛が一瞬友春に視線をやる。
それまでただ無表情にしていただけに、わずかな目線の流し方で友春がひかるに近づくのを気にしているのがわかります。
カメラがそれまでは背景のようにぼかして映していた猛にここで焦点を当ててるので、そういう演出ですね。

・友春のプレゼントを受け取るひかるの笑顔と声が少し弱弱しい。
最後に少し猛の方に目をやるのも、彼女が友春の好意を迷惑がり、猛の思惑を気にしているのを示している。

・友春からラブレターを渡されたひかるははっきりと困惑顔。そしてそれを目撃してしまった猛は物陰に隠れる。
この時、猛は溜め息をつくでもなく大げさに表情を変化させるわけでもないのに、目や唇のかすかな動きに切ない胸の内が凝縮されている。こうした切なさの表現は彼の得意技ですね。

・友春にもらったラブレターについて絹に話すひかるは、意外にもまんざらでもなさそうな笑顔。
物や手紙を贈られた直後こそ困った様子を見せても、好意を寄せられるのはそうそう悪い気はしないあたりは女心でしょうか。
(これまでにいろんな男から贈られた)ラブレターの山を前に「恋って何かしら」と呟くのも、恋に恋する年頃の少女らしい。
猛に惹かれてるのは明白なひかるですが、この時点ではまだ無自覚なんですね。

・小作人の吾作と話す猛。これまでほぼ出ずっぱりにもかかわらず、ほとんど喋らず直立不動ばかりだった猛が男友達と普通に話してる姿に何だかほっとしたり。

・ひかるにいきなり「恋って何だと思う?」と話を振られた猛は「へ?」。
この口調と表情に「そんなことを聞きに来たのか?」と言いたげな彼の呆れっぷりが凝縮されています。

・チンピラがひかるをかばって立つ猛にナイフを向けた時、いきなり手を出したのは猛の方だった。
7年の歳月が流れ、すっかり牙を抜かれたふうに見えた猛の、昔に変わらぬ荒々しい気性が爆発する場面。結局負けちゃったけど。

・お花を「猛は命がけで(お花のことを)守ってくれるわ」と励ますひかる。猛が「何があってもお守りします」と言ったのはひかるのことなんだが。
チンピラに向かっていったのも、お花のためというより直接にはひかるを守るためだし。
猛は「はい」と素直に返事するものの内心「・・・」だろうなあ。

・おにぎりを作りながら猛のことを思い、「これが初恋」と感じるひかる。
本人が言うとおり不格好なおにぎりの初々しさと、ほんのり笑みを浮かべた顔に、初恋のときめきが表れています。

・お花の父親は「女房は十二人目を孕んでおります」。 貧乏人の子沢山とは言うものの、それにしてもよくこれだけ生ませたもの。さすがに考えろという気が。

・「もしうちが貧しければ、同じように私を売りますか!?」と両親を責めるひかる。
滑舌はもう一つなものの、その凛と澄んだ声色にも怒った顔にも身分ある令嬢の品位が滲んでいる。大したものです。

・伝衛門がお花を雇ってくれたにもかかわらず、なおも娘の給金を前借りしようとする父親の態度にお花は憤激し、父が去った後泣き崩れる。父親の行為に対する恥ずかしさと、結局金で売られた(捨てられた)悲しみ。
しかし伝衛門がたびたび体を張っても守ろうとしている村人たちには、この程度の連中も少なからずいるんだろうなと思うとちょっと凹みます。

・ひかるが相変わらず猛を追いまわしていることを危惧する絹に、伝衛門は「あいつは十分に使用人の分をわきまえておる」と言う。
静かだけれど深みと暖かみのある口調には、猛への信頼と絹への愛情の両方が感じられます。

・夜に庭で薪を割る猛。その二の腕の太さに驚いた。
逞しいんだかぽっちゃりしてるんだか微妙なライン――というか後者なんでしょうが、それが今時の細っこい男の子(現在は勝地くんもこっちカテゴリー)にはない一種の男臭さを醸し出している。
ここで「彼は心からひかるに恋していました」というナレーションがかぶさるのも、「恋って何かしら」のひかるに比べて彼が性的に熟していることを感じさせて、なお男臭さを強めている。

・ひかるから友春のラブレターの事を打ち明けられた猛は全く動揺を見せない。
その反応にひかるは不機嫌になりますが、猛が平然としている(ように装える)のは、ラブレターを渡す場面を目撃していたからですね。

・猛の淡々とした態度に焦れて、ひかるはバイオリンを出せとごねる。
この一連のシーン、猛は「俺は使用人ですから」の言葉通り、髪はばさばさで身なりも良くはないですが、言葉は少なくても意志の強さを伝えてくるその澄んだ目と真っ直ぐな視線は卑小さを全く感じさせない。
その佇まいだけで猛という人物の心性が伝わります。

・「恋の話とかそういうことを人前で話すのははしたないからですお嬢さま」。
やや空気を含んだ、でも聞き取りやすい優しい声音には彼の気持ちの暖かさが滲み出てます。
変声期を抜け切らない声質はまだ若干不安定ではあるものの、基本的には現在と同じ声になってきてますね。

・とげを抜こうとして、ひかるの手を取る猛。ひかるのおののきがその表情と顔を伏せる動作に明確に表れている。
ひかるが恋心を見せる場面は秀逸なものが多く、ひかる役藤原さんの演技力に拍手。

(つづく)


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