about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazar-』(3)-1(注・ネタバレしてます)

2024-09-12 21:17:38 | ガンダム00

・イアンとリンダ夫婦の会話。「高濃度粒子領域内で脳量子波による意識の共有を行い戦闘空域で人々の思いを繋げる」「戦いを止めさせるための機体」「それが刹那の望んだガンダム、ダブルオークアンタ」。
映画用に主人公に新しい機体が用意されることが開始早々に披露される。本来戦闘用に開発されたモビルスーツ(以下MS)でありながら、戦うためでなく戦いを止めさせるための機体とは。武力による紛争根絶という矛盾した理想を掲げ、矛盾していることは百も承知の上で戦ってきたソレスタルビーイング、その矛盾の代表格である主人公刹那にふさわしい機体と言えます。
「戦闘空域で人々の思いを繋げる」という言葉からわかるように、ダブルオークアンタは地球外生命体との対話を目的として作られたものではないのですが、この機体がELS来襲の直前に完成したおかげで人類は救われた。初のイノベイター刹那の覚醒がたった二年前だったことも含め、本当にぎりぎりで人間の命運は保たれたわけですね。

・前置きもなくいきなりの戦闘シーン。妙にキャラの顔や全身のパースの取り方が濃くて、動きも大げさだな!これアレハンドロ・コーナー?この人刹那?顔に傷あるけど?などと頭に?が飛び交っていたら「それが、ソレスタルビーイングだ!」とガンダムマイスターたち4人の顔がアップに。いや誰だよ(大笑)。ここで劇中劇だとやっと気づきました。ライザーソードすごい大技。本当のソレスタルビーイングより強いんじゃ?

・直後に映画を観ている沙慈の姿に。隣の青年(沙慈の友人)が手に汗握って興奮してるのに対し、冷めた笑顔を浮かべる沙慈。実際を知る者から見たらそりゃあねえ。

・観客たちの会話。「この映画事実をもとに作られたんでしょ」「新政権のプロパガンダだよ」。つい2年前はアロウズは正義の味方、ソレスタルビーイングはテロリストの扱いだったのだから、それがアロウズを排した現政権の成立後に180度ひっくり返ったことに違和感や不信感を持つ人がいるのは当然。むしろ情報統制であっさり騙されないためにも疑ってかかるくらいでいいんじゃないでしょうか。
まあ回りが騙されてるときに一人騙されないというのも孤独のみならず危険ですらあるので(アロウズが実質世界を牛耳ってた頃がまさにそうだった)騙されてた方が本人的には幸せなのかもしれませんが。

・友人と別れたあと、「僕、出てなかったな」と苦笑気味につぶやく沙慈。沙慈の存在が表に出ていない証拠なのでむしろ良いことなのは本人も重々承知のうえでのちょっとしたボヤキですね。
振り返ると映画宣伝の映像広告にデフォルメされたソレスタルビーイングたちの姿。鼻眼鏡状態のティエリア、左右の眼の色が違うのはアレルヤ、頭だけ見えるのはロックオンぽいが、正規パイロットでなかったマリーまでいるのが謎。デフォルメキャラの方が映画のなんちゃってマイスターたちより本物に忠実なのも謎。

・沙慈の独白。現在の平和は「多くの紛争に武力介入を行ったソレスタルビーイングと、さまざまな弾圧行為を行った独立治安維持部隊アロウズが、人々に、武力による恐怖を植えつけたせいだ。今ある平和は忘れられない恐怖によるかりそめの平和。だから僕たちは考える必要があるんだ。変わっていく世界を見つめ、本当の平和を手に入れるために。」
勝地くんが出演した映画『亡国のイージス』には「平和って戦争の狭間に生まれるもん」という台詞がありました。これは沙慈から見れば「かりそめの平和」でしょうが、現状人類が得られそうな平和は「かりそめの平和」がせいぜい。ではかりそめではない「本当の平和」を手に入れるにはどうすればいいのか。そもそも手に入れるなんてことができるのか。
『00』シリーズの中で何度となく提示されてきたこの問題、この映画のラストが一応の答えのように思います。

・病院へルイスを見舞う沙慈。最近発作も起きないし、もう退院でもいいのにというルイス。あれから二年経ってまだ入院しているとは。二年前はアロウズでパイロットとして戦える程度には(たびたび発作に見舞われ、薬を飲みまくっていたが)元気だったのになあ。かえってそのせいで体がボロボロになってたってことですかね。
小説版によると「悪性GN粒子を浴びたせいでテロメアが破壊されたことや、その治療薬と称して飲み続けさせられていた脳量子波コントロール処置のためのナノマシンによる影響は、ダブルオーライザーの放出した虹色の高濃度GN粒子によって解決されているのだが、それでも彼女の体には後遺症が残っている」とのこと。やっぱりあの薬がガンだったわけか。

・不安げなルイスの頭を抱き寄せる沙慈。その手の大きさに彼がすっかり大人の男になったんだなあと実感します。ファーストシーズンでルイスのわがままに振り回されていた少年時代が嘘のよう。対するルイスも怒涛のような不幸と憎しみに取りつかれた時期を経て、陰りを帯びた落ち着いた大人の女性になりました。

・この二年、表に現れていないソレスタルビーイング。「刹那、君は今、どうしてる?」と空を見つつ考える沙慈。一時期ソレスタルビーイングと行動をともにし、他のメンバーとも交流があった沙慈ですが(ティエリアにきつく叱られたりイアンの整備を手伝ったり)、やはり一時期隣の部屋に住んでて(刹那がソレスタルビーイングとしてのコードネームを普通に名乗っててびっくりした。マリナ・イスマイールに初めて会った時には偽名名乗ったのに)、ともに(単に同じ戦場でというのでなく刹那の機体と合体した状態で)戦った刹那が一番印象深いのはまあ当然かな。 

・ラグランジュ3のコロニー建設現場を中東施設団として視察にやってきたマリナたち。肝心の建設現場を視察できないという話に、作業員が強制労働させられている可能性を疑い、真正面からぶつかるシーリン。
この後「視察ルートから外れていない」かと気づく場面もそうですが、セカンドシーズン同様、彼女の着眼点の鋭さ、度胸のよさといった魅力は、危地にある時ほど輝いてるように思います。

・シーリンと公社の代表?がもめているところに現れるマリナ。公社側の言い分にも理解を示したうえで作業員と直接話してみたいと慈愛溢れる笑顔で頼む。シーリンの要求をはねつけた補いもあってか、作業員宿舎の慰問を日程に組み込むと公社側が一歩譲ってくる。
強気のシーリンが引かざるを得なかった部分を優し気なマリナが穏やかに押し込む。前もって相談した結果というわけでもないのでしょうが、互いの性格を活かしたいいコンビネーションです。

・マリナの要求を呑んだと見せて、事故に見せかけ彼らを葬りさろうと画策する公社代表。彼らもわかっている通り連邦の後ろ盾があり(シーリンは連邦の議員)、さらにマリナは弱小とはいえ一国の王女で世界規模で一種カリスマ的人気がある(セカンドシーズンで彼女が子供たちと作った歌が平和のシンボルとして短期間に世界中に広まった)。
彼らを抹殺しようとはいい度胸すぎる気がしますが、代表?がいうように「ここは宇宙だ」、中央政府から遠く離れた一種治外法権的空間だという驕りがそうさせるんでしょうね。

・案内役の若い男に「あなたはこのコロニーの開発現場をどう捉えていますか?」「あなたの言葉で話してもらえませんか」と穏やかな笑顔で諭すマリナ。
「私は中東の民はもちろんですが、あなたにも幸せになってもらいたいのです」というマリナの言葉に青年は目を伏せてから「家族が幸せであれば私も幸せです」と応える。観客には「ああ、この人家族を人質に取られてマリナたちの暗殺を命じられてるのね」と感じ取れる場面。おそらくは観客だけでなくマリナも(後に銃を向けられた時の反応からいっても)そうと察したことでしょう。
青年の方も実は察してほしくてあえて口にしたのではとも思えます。それはマリナの「あなたにも幸せになってもらいたい」という言葉が彼の胸に響いたがゆえでは。おそらくは初対面、長くとも数日の付き合いでしかない相手からこんな台詞を言われたら普通はいかにも嘘くさく感じるところですが(マリナのことだから全くの本音なんでしょうが)、彼女の上品な聖女然とした物腰がこんな台詞にも真実味を与えるのと、何より家族を人質に人殺しを命じてくるような公社の人を人とも思わぬやり方に怒り苦しんでるはずのこの人にとっては、口先だけだとしても彼の幸せを願ってくれた、自分を人間として尊重してくれたマリナの言葉にいくばくかの救いを感じ、それゆえに内心を少しのぞかせたのでは。

・船長から所属不明のMSが接近している旨放送が。船長の隣のパイロット、宇宙服ごしで顔がはっきり見えませんが、後の展開を知ったのちに見直してみると明らかにロックオンですね。
公社の代表がマリナたちを暗殺しようと決定したのは上の会話の時だったようですが、それ以後に乗り込んだのか、それ以前からこんな展開になりそうだと踏んでクルーに偽装していたのか。後者のほうが入れ替わりが簡単そうなのでそっちかな。

・謎のMS(コロニー公社の用意した暗殺者)がマリナたち使節団の乗る船を攻撃しようとするのを、突然現れ迎撃する謎のMS。「フラッグ」(かつてユニオンが使用していた機体。ファーストシーズンでグラハムがこれのカスタム版に乗っていたのが印象深い)なのに、パイロットは明らかに刹那。目が金色に輝いているのはイノベイターの力を使ってるってことなんですかね。
ガンダムでなくフラッグなのはソレスタルビーイングだと知られないためなんでしょう(小説版によると「表立ってガンダムを運用することが出来ないミッションに対応するため」フラッグを入手し、改良を加えたとのこと)。
とはいえ元ユニオンつまり現在は連邦に属するのだろう(中古もいいところだろうけど)フラッグの機体をどんなルートで入手したのか。アロウズを倒し連邦の現体制を築くにソレスタルビーイングの貢献は大きかったので、連邦とも公然とではなくとも裏でいろいろ融通できる程度の関係を保っているのかも。あるいはカタロンみたいにユニオンの処分品を非合法に手に入れたか、カタロンから譲ってもらったとかかな?

・戦いの推移に危機感を覚える船長の横から副船長?(実はロックオン)が突然舵?を勝手に動かして艦を大きく旋回させる。最初この人も公社の回し者で船にMSの攻撃が当たるよう仕向けてるのかと思ってしまった。結果は逆でこの旋回のおかげでビームの直撃を免れる。
しかしロックオンは艦船の操縦もプロの船長以上なのか。まあ戦艦ではない普通の輸送艦の船長と、船ではないが戦闘用の機体のパイロットなら戦闘勘は後者が優れてるのかもしれません。

・MSによる襲撃が失敗したのを見て、例の青年がマリナとシーリンに銃を向ける。二人をかばおうとした中年男性(使節団のメンバー?SP?)が上腕を撃たれる。「こんなことをして!」と厳しい顔を男に向けるシーリンを抑えるようにマリナが静かに、すこし悲しげな顔で「これであなたの家族は幸せになれるのですね?」と問いかける。
「助かる」でなく「幸せになれる」なのが(意識してではないのかもしれませんが)いい所をついている。命は助かったとしても、青年が自分たちを助けるために罪もない人、というより明らかな善人を殺したと知れば家族は苦しむのではないか、という迷いを彼の心に生じさせる効果を生んでいる。

・男がなかなか引き金を引けずにいるところを何者かが銃で打ち倒す。撃ったのはコクピットから入ってきたロックオン。なんで使節団を助けた彼まで手を挙げている(無抵抗なのを示している?)んだろうと思ったら、使節団のメンバーらしい人の一人がロックオンに銃を向けている。
助けてくれたとはいえ相手が何者かわからない状況では警戒するのは当然で、ロックオンもそれを見越したから、使節団に対して攻撃の意思がないことを前もって示したわけですね。

・「あなたは・・・」と尋ねるマリナに「名乗るほどの者でもないさ」とロックオンは答え、シーリンがはっとした顔をする。
マリナもシーリンもロックオン=ライルとは面識がありますが、反政府組織カタロン時代の同志だったシーリンの方が付き合いが長い分、顔が見えなくても声で察したということですかね(小説版によると、マリナもロックオンが何者がわかったが、彼が正体を伏せたがっているのを察して気づかぬふりをしたそう)。そのわりにロックオンが去ってゆくときに「待ちなさい!」と掛けた声はきつい調子だったのだけど。

・ヴェーダからの定期報告。連邦軍が地球圏に飛来してくる探査船の撤去作業を行うという内容。探査船が木星から来たと聞いてにわかに関心を示す刹那。それを見てフェルトの表情も引き締まる。ただなぜ関心を引かれたのか刹那自身にもよくわからない様子。
イノベイターとして目覚めた刹那は自分たちにはわからない何かを感じてるのかもとラッセは言う。イノベイターとしての能力ゆえに他メンバーと刹那の間に見えない溝のようなものが生まれてしまってるのが感じられる一幕。

・探査船撤去のための部隊?を指揮するのはカティ・マネキン。いつものように颯爽と適切な指示を出すところへ、コーラサワーが入ってきて「大佐」と声をかける。「准将だ。何年間違えば気が済む!」とマネキンに突っ込まれて「すみません」と嬉しそうに照れ笑いするコーラサワー。こう見えてこの二人夫婦なんですよねえ。
そういえばセカンドシーズンラストの結婚式の場面でもまさに「大佐」「准将だ」とおんなじ掛け合いをしていた。コーラサワーにとって初めて出会った当時の(そして恋に落ちた時の)彼女に対する呼び方(上官なので当然階級で呼ぶことになる)は特別なんでしょうね。戦いの最中でプロポーズした時は「カティ」って呼んでましたけどね。
夫婦になって二年経ってもいい意味で全然変わらないこの二人の関係性が微笑ましくて素敵です。

・マネキンとコーラサワーはソレスタルビーイング号内部の視察に。そこで連邦軍初のイノベイター、デカルト・シャーマン大尉と出会う。
「デカルト・シャーマン大尉、イノベイターだと言われています」とわりと標準的な挨拶をしたにもかかわらず「生意気だな」とマネキンに言われてしまうデカルト。まあ最初にマネキンに声をかけられた時には何も言わず、コーラサワーから大佐に挨拶しろと促されてからの挨拶なのと、すぐ挨拶しなかったことへの詫びも恐縮する様子もなかったですからね。
そして「生意気だな」に対するデカルトの返答は「モルモット扱いされ続けていれば、心も腐りますよ」。言いながら首につけた首輪のような物、というか本当に首輪を引っ張るデカルト。「心も腐りますよ」という時の自嘲するような言い方が上手い。

・ちょっと間があってからコーラサワーが「イノベイターってなんです?」とマネキンに質問。間があったのは首輪までつけられてるデカルトの境遇にちょっと同情とかしてるのかと思ったら(マネキンの方は本当に同情してたんじゃないかな)。
マネキンが「そんな事も知らんのか」と叱責してるがまったくだ。まあこれはイノベイターの何たるかをコーラサワーへの説明を通して観客にわかりやすく提示するための仕込みですね。そういう役回りを担わせるのに二枚目半のコーラサワーは実に最適。

・ちょうど探査船の軌道を変更させるためのミサイルが全弾命中したとの報告が入るが、デカルトは「失敗ですよ」とかすかに笑いを含んだ声で断言する。なぜわかるのかというコーラサワーに「理屈なんかありはしません。あるんですよ。そうだという確信がね」と左手を持ち上げ指で額をとんとんと触ってみせる。
先に刹那が探査船が木星から来たと聞いて、おそらく本人にもなぜかわからないままに何らかの重要性を感じていたように、やはりイノベイターであるデカルトの勘は確かなのだろうと思わせる。
それにしてもそのゆっくりと重々しい動作を見ると、一見隊服の一部(体を防護するためのアイテム)みたいに見える両手首の金属製ぽいブレスレット?も動きを縛るための拘束具なのかと思えてくる。小説版によれば「イノベイターの生体反応を記録するためのセンサー」とのことだが、拘束具も兼ねていてもおかしくないし。

・探査船の軌道変更率が二割にも満たない、いまだ地球への到達ルートに乗っているとの報告が。デカルトは何も命じられないうちから「行きますよ」といい「もちろん、あなたの希望通り新型で出ます」とマネキンに告げる。「貴様、私の思考を(読んだのか?)」と睨むマネキンに「モルモットですから」と不敵に笑うデカルト。その目がイノベイターが能力を使う時に特有の金色に光る。ここはむしろ「イノベイターですから」と答えるべきところだと思うのだが、「モルモットですから」と言ってしまうあたりデカルトの中ではイノベイター=モルモットなんだろうなあ・・・。
連邦軍がもっとデカルトを優遇はしないまでも普通に人間らしく扱っていて、彼が〈心を腐らせて〉いなかったら、彼のELSへの対し方ももう少し変わってきたのかなあ。

・デカルトの機体=イノベイター専用に作られた「ガデラーザ」の性能についてマネキンに対し得々と説明する士官?。「(ガデラーザはMS五個小隊と渡り合える実力があるが)それ以上の戦果をあげてくれますよ、シャーマン大尉なら」。
デカルトの能力についての説明も我が事を誇るかのよう。デカルトの手柄は自分の手柄というか、自身の〈作品〉を誇るかのような態度を見るに、イノベイターとしての能力に目覚めたデカルトをガデラーザのパイロットたらしめた、そのために彼に体のいいモルモットとしての環境を強いたのはこの人なんじゃないのか。
少なくともこの後マネキンに促されるまでデカルトの待遇を良くしようとした形跡もないあたり、彼の不遇の片棒を担いでいたのは間違いないかと。

・「ガデラーザ、デカルト・シャーマン、出撃をする」。この出撃時のパイロットの名乗りというのはファーストガンダムの「アムロ、行きまーす」以来の見せ場というか声優さんの声の聞かせどころと言った感じで、それぞれのキャラクター性が滲み出た台詞をここぞという感じの美声で聞かせてくれるのですが(個人的には刹那の「××(××の部分はガンダムエクシアだったりダブルオーガンダムだったり)、刹那・F・セイエイ、出る」がシンプルかついい声で好きです)、このデカルトの名乗りも彼の生真面目な性格が出ていて良。声の良さはいうまでもないですね♪

・格好よいBGMに乗せてのガデラーザ無双。探査船に手こずり、悲愴感を漂わせはじめていた対探査船部隊の人たちの「友軍機か!?」という声に乗せての現着シーンからもう格好いい。圧倒的な戦闘力・火力で探査船を木っ端微塵に。
新キャラの強さを物語の最初で見せておくためにこうした無双シーンを入れるというのは戦闘ものの定石であり、それだけにBGMも含め実に強そうに格好よく演出されている。デカルトが一番格好良かったのはこの場面じゃないかというくらい。
ただ相手が無抵抗の無人艦というのがちょっと情けない感もあったりして。まあ無人だったからこそ〈日頃の鬱憤晴らし〉で遠慮なくがんがん撃ちこめたってのはあるでしょうが(敵であっても鬱憤晴らしで人間をぼこぼこにするのは道義的にどうよって感じもしてしまうし)。
ちなみに小説版では出撃するシーンで「鬱屈している自分を解き放つもの。それは破壊だ。デカルトは思う。もっと早くにこの能力に目覚めていたら、俺はソレスタルビーイングに入っている。そして、世界を壊す!」なる物騒なデカルトの本音が描かれています。
そんな動機じゃソレスタルビーイングの方でお断りだろ、ソレスタルビーイングを何だと思ってるのかと言いたくなります。これだとソレスタルビーイング対リボンズの最終決戦前=イノベイターになる前からデカルトは鬱屈していて破壊を望んでいたのかとも思えますね。

(つづく)


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『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazar-』(2)(注・少々ネタバレしてます)

2024-09-05 16:14:50 | ガンダム00

今回の映画はTVシリーズ(ファーストシーズン全25話、セカンドシーズン全25話)の続編ということで、まずは予習のためにTVシリーズをレンタルで全話視聴しました。
私はガンダムシリーズは子供の頃に放映していた『機動戦士ガンダムZZ』をリアルタイムで見ていたのと、あとは福井晴敏氏による『∀ガンダム』のノベライズ版を読んだ程度でほとんど知識がなかったのですが、とても面白かった。とくに戦闘シーンのダイナミックな動きやビーム兵器の色鮮やかさに驚かされました。この時期10年くらいほとんどアニメというものを見ていなかったので、こんなにアニメのクオリティは進化していたのかと驚きました。
劇場版ではさらにこのクオリティが増し、ガデラーザ無双に始まり、ラファエル初登場、火星周辺での戦闘、クライマックスの戦いまで、息もつかせぬスピーディーな機体や敵生命体の動き、巧みなカット割り、それらを盛り上げる音楽など見ごたえ十分でした。

また私はプロの声優さんの、いわゆる“アニメ声”というものにその当時あまり馴染めなかったというか、正直好きではなかったのですが(スタジオジブリ作品をはじめ多くのアニメ映画が俳優さんを声のキャストに起用することについては賛否がありますが、アニメ声が苦手な私にとっては有難い傾向です)、『ガンダム00』を見ていて声に聞き苦しさを感じることはさほどなかった。むしろ声質・演技ともに聞き惚れてしまう場面も多く、この人たちに混ざって勝地くんが声を当てるんだなあと思うと妙な緊張が走ったりしました(笑)。
(ちなみに近年はこの〈アニメ声が苦手〉はほぼなくなりました。『鬼滅の刃』でプロの声優さんのすごさを思い知らされたので)

物語的にも、化石燃料の枯渇と温暖化対策を受けての太陽光発電システムの全世界的普及、それを支える3つの軌道エレベーターの存在、エレベーター建設の費用と技術力の確保をめぐり世界は大きく3つの勢力(ユニオン、人革連、AEU)に分かれて冷戦状態、化石燃料が売れなくなった中東諸国の没落と紛争の続発─といった設定は、実際の社会情勢を色濃く反映していて、本当に23-24世紀にはこうなっているかもしれないという現実世界と地続きのリアルさがある。そして主人公チーム(ソレスタルビーイング)の多くは紛争やテロによって傷を負った過去があり、戦争の根絶を切望しながらもその手段として武力を用いざるを得ない・・・。“紛争根絶のための武力介入”という彼らが抱えている矛盾は第一話の時点で鮮やかに示され、その矛盾の中で葛藤する人間たちの姿が丁寧に描かれていました。

それだけに、映画版の“敵”が人間でなく、外宇宙の生命体ということに戸惑った人も多かったようです。そもそもガンダムシリーズで地球外生命体を出したケース自体が初だったそうで、水島精二監督も反発を受けるのは覚悟のうえだったものの案の定〈人と人との戦いを描いてこそガンダム〉〈地球外生命体との戦いならガンダム以外でやればいい〉など結構な批判があったとのこと。
確かにガンダムシリーズはファーストガンダム以来、敵も悪ではなく、彼らには彼らの正義があり主人公たちとは考え方や立ち位置が違うだけという姿勢で描かれてきたように感じます(今に至っても初期三部作と『ガンダムUC』くらいしか見ていないので確実なことは言えないし言う資格もないのですが)。今回の“敵”である地球外生命体「ELS」も彼らなりの事情はあるのですが、その“事情”は主人公によって説明されるだけで最後まで彼ら目線でその心情が語られることはない(言葉も話せなければ顔がないので表情で語ることもできない)。互いの心情のぶつかり合い、考え方が異なるゆえの葛藤をガンダムシリーズに求める人にとっては(『00』もTVシリーズはそうしたテーマが濃厚だっただけに)納得がいかなかった気持ちはわかりますし、映画の評価が賛否両論となったのも無理ないなと思います。

ただ個人的には“敵が地球外生命体、それも非人間型”というのはすんなり受け入れられました(劇場版では〈地球外生命体が登場する〉ことを含め多少の前情報を知ってからTVシリーズを視聴したので当然ではあるんですが)。無限と言ってよい広大な宇宙に知的生命体が棲む星が地球ただ一つである可能性とそうでない可能性なら後者の方が大きいように思えるので、いずれ人類が地球外生命体と遭遇する日が来てもおかしくないし、その知的生命体が人間型である可能性とELSのような非人間型である可能性ならこれも後者の方が大きい(“Aに似ているもの”と“Aに似ていないもの”なら圧倒的に“似ていないもの”の方が選択肢が多い)だろうから。
またTVシリーズで“イオリア計画”の最終目的が“来たるべき対話”なのは繰り返し言及されていたので「これが来たるべき対話なのねー」という感想でした(というか「映画で地球外生命体とのコンタクトを描くことはTVシリーズの時点で想定済だったのか」と思いながら見ていました)。

そしてこの「来たるべき対話」の相手をELSという非人間型の地球外生命体にしたのは英断だった。通常フィクションで描かれる地球外生命体というと“宇宙人”という表現が示すように人間型であるケースがほとんどだと思います。加えて相手の側が地球人より知性や科学力で上回っていて地球の言語をあっさり習得したり翻訳機を使用したりテレパシーを利用したりして会話を成立させてくれる。そうでないと敵対するにせよ友好関係を結ぶにせよコミュニケーションが成り立たず話が進まないので当然の演出的配慮ではあるんですが、『00』劇場版ではあえてここを切り捨てた。
会話は成り立たず相手の考えも目的もわからず、形状が人間と違いすぎて表情を読むこともこちらの意思を伝えることもできない。そんな相手とどう対話を成立させるのか。上で書いたように将来人類が遭遇するとしたらELSタイプの地球外生命体に当たる確率の方が高そうなので、シミュレーションとしてこちらの方がよりリアルかつ切実さを感じました。

そのうえでただ一つ脳量子波をELSとのコミュニケーションツールとして設定することで、連邦の大艦隊ではなくイノベイターである主人公刹那が人類最大の危機を救う必然性を作った。リアルさを追及するならコミュニケーション手段は一切なしでもおかしくないところですが、TVシリーズからお馴染みの、イノベイターの特徴でもある脳量子波をELSと分かり合うための生命線として残すことで、どう考えても人類滅亡はまぬがれないだろうというぎりぎりのところで物語をELSとの和解によるハッピーエンドに着地させている。
ELSの形状についても、非人間型の地球外生命体ならもっと人間が生理的嫌悪感を催すような外観であっても不思議はない(古典SF『幼年期の終わり』はある意味これ。『00』セカンドシーズンラストシーンに書きつけられた言葉「The Childfood of Humankind Ends」は『幼年期の終わり』の原題(「Childfood’s End」)を意識したものらしいので、地球外生命体とのファーストコンタクトという設定ほか『幼年期の終わり』に影響を受けた部分はあるのでは)ところを、金属という地球上にも存在する無機物、〈人間からかけ離れていていかにも意思の疎通は困難、接近・侵食されることに恐怖は感じさせつつも外観に対する生理的嫌悪感は少ない、むしろ結晶化した姿はオブジェのようで美しくさえある〉形状に落とし込んだ。
物語のテーマ的に見るからに異質である必要があるが、観客に生理的嫌悪感をもたらすような外観の生命体がスクリーンを乱舞するような事態は避けたいという状況において、金属異性体というのは実に適切な選択だった。リアルさとエンターテインメント性を両立させるための微妙な配分―これが劇場版を賛否あれど危ういバランスの上で傑作たらしめた最大要素のように思います。


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