2006年8月発売。11人の俳優・女優さんが、役者になったきっかけやその後の道のり、気構えなどを語るインタビュー集。
演劇ぶっく社(月刊の舞台雑誌『演劇ぶっく』の出版元)の発行とあって、舞台をメインに活動してる役者さんが多く取り上げられている(もっとも同社は『映画監督になる』シリーズも発行してますが)。
それも超メジャーどころではなく、舞台をいっさい見ない人なら名前さえ知らない可能性も高いような、名脇役もしくはこれからの人が中心になっている印象です。
そんな中勝地くんは目立って若く(文中では20歳となっていますが正確にはまだ誕生日前。他の方々は62年生まれの池田成志さんをのぞけば20代後半から30代前半)、舞台経験もまだ3回(当時)という、ちょっと異色の存在(紅一点の水野美紀さんが経歴の面では一番近いかな)。
発言内容も何となく可愛らしい、微笑ましい感じのものでした。以下心に留まった部分を箇条書きで。
・冒頭のライターさんの言葉に「印象的な真っ直ぐで鋭いまなざし。」とありますが、写真の印象はずいぶん柔らかい、というより茫漠とした雰囲気。
わりあいふっくらしてた時期なのと、おそらくはノーメイク(メイクさんの名前が入ってないので。服も写真が白黒なので確証はもてませんが2005年12月のトークショーで着てたという自前のZuccaのジャケットじゃないかと思います)なせいでしょうか。
・「事務所に所属が決まってからも、レッスンを受けて俳優としての訓練が始まることもな」かったそうですが、『月刊デ・ビュー』2006年7月号では、
「週1回、練習のために事務所で台本を読まされると、『滑舌が悪い』とか言われて楽しくない。正直、苦痛でした(笑)」
と語ってました。これはデビュー前後になってからの話なんですかね。
・「名前もない小さな役」で「鈴木杏出演のドラマ」にいきなり出演することになった、というのは2000年のデビュー作『千晶、もう一度笑って』(TBS)のことですね。
名前もない役だったとは初めて知りました(DVD化されてないため、どんなドラマだったのかほとんど情報がない)。
以前『Look at star!』vol.7(2004年春発売)で「勉強のためにドラマのエキストラをやったんですけど、その時のことは覚えてないんですよ。あまりに緊張して(笑)」と言ってたのがたぶん『千晶~』のことかと思います。
ちなみに、たまに勝地くんのデビュー作を『目撃者2』(TBS)としてる雑誌がありますが、『千晶~』は1月7日、『目撃者2』は1月17日の放映なので、『千晶~』が正解ですね。
・小栗旬くんと仕事の話で「熱くなってバトルになったりします(笑)」というのはちょっと意外でした。バトルになるということは、二人の演劇観は一致しない部分も多いわけですよね?
初共演の舞台の現場で今頃またバトルってるのかな(笑)。
(←p.s.先月発売の『Top Stage』52号によれば、小栗くんと論争したり―論がなくて争だけしたり―するそう。二人が所属する野球チーム全体の気風のようです。
小栗くんの方も『シアターガイド』12月号で、「わがまま言ってたら、勝地くんに二度ほど怒られた」(概要)話をしていました。
忌憚なく意見を言い合える――いい関係だなこの二人)
・小栗くんの舞台(時期的に2006年4-5月の『タイタス・アンドロニカス』?)を見終わったのちに小栗くんの車の中で、「なんていい演技してんだ!」って叫んでしまったというエピソード。
人様の車に便乗させてもらいながら中で大騒ぎする勝地くん(笑)。あまりにストレートな誉めっぷりに小栗くんも照れ笑いしてたんじゃないですかね。
・「例えば40歳位になった時に、今の僕位の年齢の人が、あの人みたいになりたい、と思ってくれるような役者になるのが理想です。」
ブログを検索していて、役者のタマゴの方たちが、「彼のような役者になりたい」「いつか彼と共演するのが夢だ」と書いてらっしゃるのを見つけたことがあります。
20歳そこそこですでに「憧れの役者さん」として名指されている勝地くん。これから年齢とキャリアを重ねるほどに、彼を目標とする若い役者さんたちがどんどん増えてゆくんだろうな。
・「男から見ても色気のある役者になれたらいいなと思います」との勝地くんの発言を受けての地の文が、「今のところ、色気があるという自覚は本人にはないらしい。」
これは、ライターさん的には勝地くんは色気があると感じた、と解釈していいんでしょうか。
ちなみに私自身は勝地くんに男の色気を感じることはほとんどないです(時折例外があり)。
個人的見解ですが、男女問わず色気とは酸いも甘いも噛み分けた、いい意味で「汚れた」ところに醸し出されるものだと思っているので、勝地くんは男の色気をうんぬんするには透明感が勝りすぎてるかなと。
(その代わり特有の透明感と結びついた青少年の繊細な色気はすごく感じます。ライターさんが勝地くんに見た色気もこちらの方でしょうか)
ただ稀に透明感と男の色気を共存させている大人の男性(役者さん)も存在するので、彼にもそんなふうに成長していってほしいなあと期待してみたりしています。
・「今までやったことのない悪役は、すごくやってみたいです。」
ストーカー役とかやってみたい、とのコメントも以前からあちこちでしていますね。
顔立ちだけを見れば、勝地くんは吊りぎみの目ときりっとした眉、眼光の強さでしばしばキツい印象を与えがちなので(2007年8月公開の映画『阿波DANCE』で共演した橋本淳くんが、「初対面のとき勝地くんの眼光が鋭かったので、言うこと聞いといた方がいいと思った」話を舞台挨拶でしてたそうです。勝地くんは「(この目は)生まれつきだもん」と可愛く反論していたとか)、今まで悪役が回ってこなかったのが不思議な気もします。
ただ内面も合わせて見れば、人の良さがどこか役に滲み出てしまいそうな気もするので(その点、せいいっぱい突っ張ってても根は繊細で心優しい『亡国のイージス』の行や『この胸いっぱいの愛を』の布川みたいな役にはぴったり)、純悪役ってできるのかな?などと思ったりしてたんですが、2007年7月~9月の舞台『犬顔家の一族の陰謀』(『劇団☆新感線』に客演)の劇中劇?での腹黒い桃太郎役を見て見解を改めました。
声色も台詞回しも表情も実にブラック。これなら念願のストーカー役も遠くないかも。いやお見それいたしました。
・野球チームの忘年会の話もあちこちでしているのを見聞きしてますが、忘年会のお芝居で「一昨年は僕が女の子役で」――。
実はこの本で一番「おお!」と食いついてしまったのはここでした(笑)。「おれがあいつであいつがおれで」の項でも書きましたが、ぜひ女装する役を一度やってほしい(非常に演技力を問われる役柄だし、視聴者へのインパクトも強いので)とつねづね思ってただけに。
きちんと女の子の格好をしたのか、ビジュアルはそのままで女の子だと言い張ったのかは不明ですが、「普通の恋愛」ものだと言うお芝居の筋が気になります(笑)。
・上記の忘年会のお芝居について「あり合わせで小道具をそろえたり足りないものを買い出しに行ったりして、すごく楽しいんですよ。」との言葉。
これは小劇団の役者さんなら普段からごく当たり前にやっている(やってきた)ことですよね。この本に登場している俳優さんたちも、多くはその俳優としてのキャリアの最初期で経験しているはずのこと。
それを彼はごく新鮮な経験として語っている。スカウトされて芸能界に入りテレビドラマでデビューした勝地くんは、舞台出身の俳優さんとちょうど逆のコースをたどって役者としての経験値を上げているんだなあとなにやらしみじみ感じました。
・「皆さんはストレッチ、していますか?」の質問に対する答えの中の、「普段は全然やらないし身体も硬いんですけど」のくだり。
発売当時読んだときはとくに何とも思わなかったんですが、『Look at star!』2007年9月号で古田新太さんが、
「(『犬顔家~』での稽古場で)ダントツ若い人間なのに、笑えるほど身体が硬いんだよね(笑)。(中略)本気で『勝地君、腰かどこか痛めてるの?』って思ったもん(笑)」
と話していたのを読んだあとだと、無性に笑えます。
・台詞の覚え方について、「とにかく、何回も読みます。でも覚えすぎると、機械的に喋っちゃうような気がするので、難しいです。」
懸命に努力しつつも、そうした自分の行為を「これが本当にベストなのか」と半歩引いて客観的に見つめている。
『演劇ぶっく』129号(2007年9月発売)でも古田新太さんに「お前、本当にいろんな事考えてんな(笑)」と突っ込まれてましたが(古田さんは「あれこれ考えるより先にまず行動」の人のような気がする)、下手すればああでもないこうでもないと自縄自縛に陥って何事にも自信が持てなくなりかねないところを、今のところ彼は理屈倒れになることなく、いろいろ思い悩みながらもそれを糧に着実に成長しつづけているように思います。
・ボイストレーニングの話題で、ノドが弱いと話してますが、2回舞台(『犬顔家』×2)を見た印象では長丁場にもびくともしない、よく通るいい声をしていました。
どの舞台の観劇評でも彼の喉が潰れてたという話は見たことないです。あの声はマスクしながら寝たりハチミツノドスプレーを愛用したりの努力によって保たれてたんですね。
ストレッチや台詞覚えの話もそうですが、自分の弱いところをちゃんとわかっていて適切なフォローを怠らないのに(職業人として当たり前とはいえ)感心しました。
ついでに「(身体を)ストレッチしてほぐしてあげて」「ノドを休めてあげて」と、自分の身体(の部位)に対して「~あげる」という表現がちょっと女の子みたいで可愛いなと思ったり。
・バスの中で音楽(とくに「サイモン&ガーファンクル」)を聞くのが好きという話はよくしてますが、たぶんここが初出でしょうか(『フレンドパーク』を観覧した方のレポによれば、放送されなかった部分でこの話をしてたようですが)。
「信号待ちでエンジン切ってシーンとした瞬間、人がたくさん乗ってるきに静かだなぁ、と、そういうのが何かいいなあ、って。」というあたりに彼のロマンティックな感性がうかがえます。
そして音楽への感情移入度の高さは俳優としての天性がそうさせるんでしょうね。『Kindai』2006年5月号でも「夜、音楽を聴いてる時かな、たまに気持ちが入って、〝なんてオレってだめなんだ〟って思いながら、涙を流してみたり(笑)」する話をしてたのを思い出しました。
文中でも触れましたが、今回この項を書くにあたって久々に本を読み返してみたら、当時は特に気にしてなかったけれど、それから一年数ヶ月の彼の軌跡を踏まえると、胸に沁みてくる箇所が多々ありました。
たとえば「第三舞台」などを経てフリーランスになった池田成志さんの、「役者ってアホみたいなのが多いんじゃない?(笑)当然なんとかなる、っていう甘い下心の持ち主で、たまたま上手くいった人間が生き残ってる。もちろん、わざと楽天的に思うように持っていってるというのもありますよ。周到な部分もありますし。でもそうしないと、役者なんてやっていけないと思う」という言葉。
その後成志さんとは『犬顔家~』で共演してるわけですが、こうした成志さんの、おそらくは古田さんたち『劇団☆新感線』の劇団員にも共通する逞しさ・したたかさに、感化される部分もあったんじゃないかなーとか考えてしまったのでした。