その意気に感じて純一の受験を認める八代先生。どちらも男前です。
・遠からず受験にのぞむ(故郷を一人離れる)純一に、「遠州灘の初日の出だ。よく覚えておけよ」というお父さん。
純一には初日の出を見ることは出来ません(光はほんのりと感じとれるかな?)が、そんなことは承知のうえで故郷の匂いを存分に心に刻みつけておけという意味でしょう。
純一も最初は「そんなこと言われても見えないよ」と言いたげな表情をしたものの「うん」と答えるのは、お父さんの気持ちを受け止めたからでしょうね。
・入学はしたものの点字や白杖の使い方で遅れをとってしまう純一。
しかし「どうしよう・・・」と悲観的になるのではなく、「面白くねーなー」と言いたげなぶーたれ顔なので憐れっぽくならず、「いつ水泳部入れてくれんだよ」という偉そうな発言も手伝って、負けん気の強い少年の根性物語としてカラッと見せている。
しんみりしてしまいがちなところで笑わせるストーリーテリングが良。
・「こんな小さいプールじゃ練習になりませんよ」と生意気言う純一に「何だと!」と八代先生は声を荒げるものの「ついてこい」と腕を差し出し、純一も素直にその腕につかまって歩き出す。
盲学校じゃ当たり前の光景かもしれませんが、なんかほのぼの。
・上京してきたお母さんは、地下鉄の駅で純一と別れる。
東京での息子の暮らしぶりを心配して様子を見に来たんだろうお母さんがこのままあっさり帰れるものかな、と思ってたら案の定、息子の後ろ姿を見守りやがて後をつけはじめる。
盲人用の信号と点字プレートを頼りにさぐりさぐりといった足どりで歩く純一の姿に、お母さんと同じ目線でハラハラと見入ってしまう。目の見えない人にとって街中は危険がいっぱいなのがよくわかります。
しかし短期間にこれだけ白杖の扱いを覚えた純一・・・もともと運動神経はいいにせよ頑張ったんですねえ。
・白杖には慣れた純一も点字には苦戦。またもぶーたれ気味の純一ですが、先生たちも同室の先輩?も彼を甘やかそうとはしない。
結局他人に縋らず生きていこうとするなら越えなければならない関門ですからね。
・舞阪の友人たちが東京へ訪ねてくるも、迎えに出た純一を待たせて腹ごしらえに夢中。
「純ちゃんにもおみやげ」を気にかけてはいるけれども。しかし5人で6万円以上とはよく食ったもんだ。
結局お金が足りなくて純一に泣きついてくるし。でもいい友達ですよね(笑)。
文句を言いつつも教え子ならともかくその友人のためにお金を払ってくれた八代先生もいい人だ。
・パラリンピックを目指し練習に励む純一の姿に感化された進は積極的に漁師の仕事にのぞむように。しかし彼のお母さんに対する信用のなさに笑う。
・点字で先生たちの悪口を書き綴ったところを当の先生たちに見つかってしまう純一。
まあ悪態をつけるようなら言語をちゃんとマスターした証拠ということで。怒らず点字の上達を誉めてくれる先生たちも器が大きいですが、あの一種ユーモラスな文面と本人の「あちゃー」という顔をみたら怒る気になれんわな。
・銀メダル獲得のシーンを最後に純一役は河合さん本人にバトンタッチされる。やはり泳ぎのフォームとスピードが違いますな。
・純一の金メダルを喜んで街宣カー?で舞阪の町を走る友人たち。選挙じゃないんだから(笑)。
・舞阪の中学校教師に採用が決まった純一。電話で知らせるのでなくわざわざ通知を東京まで持ってきてくれるお母さんの暖かさが伝わるシーンです。
・舞阪中学校の校門外の「十四歳が二度あるか」という碑が地味にウケる。これ本当にあるのだそうです(※5)。
・目の見えない純一が自分の子を担任することに反発した父親(長浜氏)が抗議にやってくる。
このお父さん、話し方からは磊落な人柄を想像させ、「純一のことは昔から知ってる」と言いながらも、担任としては受け入れられないと言う。
盲人であるゆえの壁の厚さを思わせるエピソードが重いです。先生たちが一致して純一をかばってるのが救いですが。
・わざわざ純一の授業を覗きにくる友人たち&長浜さん。
ただ純一を認めないのでなく彼が担任教師にふさわしいかをちゃんと自分の目で確認しに来た長浜さんはなかなか立派なもの。
早くも生徒を声で判別できるようになっている純一の努力をちゃんと察して考えを改めてくれたようですし。
・遅刻や無断欠席が続く女生徒・美里(栗田梨子さん)を案じる純一。
家庭内暴力に苦しむ女生徒のエピソードは映画のオリジナルですが、「このような生徒がいたら、どういう対応を河合純一という教師はとるかということを監督、脚本家、ぼくとが話を詰めてでき上がっていったストーリーである」(※4)とのこと。
・八代先生からのメール。メールの文面だとあのドスの効いた(でもユーモラスで人情味のある)先生が妙に可愛い感じなのが面白い。
メールを読み上げる音声のせいかな。
・生徒を救うべく真っ向から母親のヒモに立ち向かう純一と、からめ手で上手く場を収めた森田先生。このへんは年の功というやつですね。
確かに純一は自ら言う通り未熟なのかもしれませんが、生徒のためがむしゃらに頑張れる純一だからこそ美里も頼る気になったんでは。
・飲み屋の親父が「次のパラリンピックは?」と書いたノートを森田先生に見せる。
先に他の先生たちが森田先生に同じ質問をするシーンもある。本当に純一のパラリンピック出場を町中が期待してるわけですねえ。金メダリストだし無理ないけど。
この時たまたま(当然親父のノートには気づかぬまま)パラリンピック出場の意志を固めた純一がそれを口にしかけたところで、友人たちがどやどや入ってきたため純一と森田先生は店を出て行ってしまう。親父さん可哀想(笑)。
・純一がパラリンピック出場を決めたと知って、彼が気づかない(見えない)のをいいことにブロックサインで町の人たちに純一の意向を知らせ呼び集める友人たち。
「なんか騒がしくないですか?」という純一の問いに「そうか?」ととぼける森田先生がいい味。
・父兄参観の授業。生徒を声だけで判別する純一を長浜さんは改めて認めた様子で、校長先生とも和気藹々。
そこを純一に「静かにしてください」と名指しで注意される。父兄の声まで覚えてるのか。さすがです。
・久々に弟圭二が登場。こちらもその後東京に出て働いている模様。「兄貴の遠征費用」と通帳ごとポンと寄越し、しかもそれが結構な額であるらしい。
こんな時のために(純一のために)こつこつ貯めてたんでしょうね。そらっとぼけた顔をしてみせてるのも照れ隠しのようで微笑ましい。
皆が当然のごとく純一を支え、純一は泳ぐことでそれに応えようとする。素敵な関係です。
・夜学校のプールで一人練習する純一に美里が話しかける。
「先生、今夜の月すごーく綺麗だよ」という美里に「いや見えないから」とツッこみそうになったが、続けて「見える?」と問いかけたのに驚いた。
純一の答えは「うん、綺麗だね」。きっと目で見えなくても気配を何となく感じ取れるんでしょうね。美里もそれを承知してるからあえてこう聞いた。
実際河合さんは美人はわかるのだそうです。持ってる雰囲気が明るいし、また表情が生き生きしている人はなお綺麗に見えるものだからだとか。
勝地くんのことも初対面で「すごく自分と雰囲気が似てる」と感じたそうですし。
・2000年のパラリンピックの朝、会場(現地ではなく舞阪の町民センター)をお父さんは飛び出していく。
その時進と擦れ違う。進の隣りには小さな子供を抱っこした女性。先に皆に紹介した恋人ですね。その後無事結婚し子供が生まれてたんですねー。
・会場を飛び出してお父さんがどこに行ったかと思えば神社で神頼み。
日本人だなあ。それ以上に親心だなあ。
・金メダルを獲得し舞阪中に凱旋した純一を生徒や教師らが出迎える。
生徒たちがにこにこ顔の中、森田先生は唇を引きむすんで顔をちょっとゆがめている。涙をこらえてるんですね。
純一が中学の頃からずっと彼を支えてきた先生の思いの深さが感じ取れます。
・駆けつけた友人たちの先導で歌いだす生徒たち。
固い歌でなくサザンオールスターズの「真夏の果実」というところに肩肘はらないリアルさがあります。実際河合さんはサザン好きだそうですし(※4)。
・祭り太鼓を懸命に叩く純一。舞阪の象徴ともいうべき太鼓で締める。歯切れのよいエンディングです。
※4・・・河合純一『ぼくが映画に出たあの夏の日のこと 映画「夢 追いかけて」』撮影日記』(ひくまの出版、2003年)
※5 河合純一『夢への努力は今しかない! 全盲の金メダリストからの伝言』(新風舎、2004年)