・朝、喫茶店で一人コーヒーを飲んでた詩文がたまたま隣りの席に目を向けるとそこの客が読んでる新聞が目に入る。新聞には「安城英児パナマで2連勝 引退を表明」という小さい記事(でも写真つき)が。「この結果で、ボクサーとしてやり残したことはないと、引退を決意した」「引退後も、日本に帰国するつもりはなく、パナマで子供達に正しいボクシングを伝えるつもりだという」とのこと。
現役の夢を捨てきれずパナマまで行った、死ぬまでボクサーだと言い切った英児が、たった2連勝しただけで引退を決心したとは。結局詩文が来てくれなかったことで現役にしがみつくモチベーションが減ってしまったんでしょうか。これはおそらくまさしく命がけの二試合を経て、頭部への衝撃をおそれて思うように戦えなくなっている自分を発見し、同時に自分が生きたいと願っていることにも気づいてしまったのでは。
そして日本へ逃げ帰るのでなくパナマに残るというからには、パナマの土地に、そこの子供たちに、日本にはなかった何かを見出したということでしょう。子供相手ながら指導者という立場を選んだのは、ネリにボクシングのコーチをした経験が遠因になってるように思います。死に急がず地に足をつけて生きて欲しいというネリの願いは、おそまきながら無事英児の心に届きましたね。
・子供たち相手にどこかの家の前でサンドバックを叩かせてる英児の姿。現地の言葉?であいだあいだで掛け声をかける。上はタンクトップ一枚で、髪を後ろでアップにし、日焼けした顔に充実した穏やかな笑顔を浮かべている。その表情だけで今の彼がとても幸せなのが伝わってきます。天職に巡りあったとでもいうか。ボクシング好きだった父親の影響で自然とボクサーを目指した英児が、今また自分のボクシングに対する技術と情熱を子供の世代に伝えようとしている。清清しい光景です。
そしてこの場面の英児のビジュアルのめちゃくちゃ格好いいこと。最終回、英児の出番はここだけですが、1分にも満たない時間ながら堪能させていただきました。
・ネリも部屋?のパソコンで英児引退の記事を読んでいる。微笑みを浮かべた穏やかな表情は、彼が新たな、それも死に急ぐ代わりに次代を教え導くような夢を見出してくれたことを心から喜んでるように思えます。英児のことを思い出してもそれでネリの表情が曇ることはない。彼女の中で英児の記憶がすでに綺麗な思い出に昇華されたのがわかります。
・病院の廊下。ネリが出てくるのを廊下で待っていた福山が歩み寄ってきて「ところで、ご報告なんですが、ぼく、外科医はあきらめます」と切り出す。ネリはさすがに足を止めるが、しばしの後また歩き出しふっと笑って「それがいいんじゃない。大学に戻って病理に鞍替えしたら」と言う。確かに秀才だけど現場で役立たないタイプの福山は研究職の方が向いてそうです。
しかし福山の希望はそうではなく「いえ、ぼく、どうしても灰谷先生の新しいクリニックで働きたいんです」というところにあった。「それはだめ。あなたは絶対に雇いません」。ネリは福山の方を見ないまま「理由は・・・(ここで足を止めて振り返ると嫣然と微笑んで、かつちょっと眉ひそめてみせて)気持ち悪いからです」。うわ直球。さすがの福山も硬直してます。これまでの彼の行動を思えば無理ないですけど。このときのネリの表情がなんとも秀逸です。
「一生懸命勉強して私と関係ないところで立派なお医者さんになってちょうだい」とネリは背を向けて歩き出す。最後に「がんばってね」とにっこり手をあげてはいるものの、「私と関係ないところで」というあたりほとんど最後通牒です。突っ立ってネリを見送る福山の目に涙が。・・・なんかここまでくると一周して応援したい気持ちにさえなってきます福山。
・日傘を差して一人歩く詩文。例のボクシングジムの前で立ち止まり窓から見えるボクサーの姿に英児を重ね合わせる。澤田と破談になってまもなく英児の消息を知ったことで、彼と過ごした日々が改めて懐かしくなったのでしょう。しばし立ち尽くしている詩文の後ろからボクサーが走ってくる。近付いてくる男の足と振り返る詩文をスローモーションでいかにも意味深に捉える。
詩文は振り向きパンチ練習しながら走ってくる若者を見出す。たくましい二の腕をじっと見つめる詩文。詩文の横を走りすぎジムの前で立ち止まった男は詩文を振り返り、しばし二人は真顔で見つめあう。この青年もなかなかのイケメンかつワイルド系で、詩文の好みには叶ってるんじゃないでしょうか。
・恵成女子大学附属高等学校と看板のかかった構内に門から進入するかたちでカメラが中へ入っていく。門と反対側の庭っぽいスペースで「私たちがこの学窓を離れてから~」うんぬんと満希子がスピーチしてる。ドレスぽい派手なワンピース。まわりの奥さんたちの服装からしても同窓会兼美波を偲ぶ会ぽい感じです。「今日は明るく可愛かった美波の思い出を語りながらみんなでご冥福を祈りたいと思います」。笑顔で言い終えた満希子に拍手が。
「はりきってるわねーブッキ」「いろいろあったけど人はそう簡単には変わらないってことよ」と隅の方で語りあうし文とネリ。つまらない主婦になった満希子もこういうときはかつての生徒会長の面影を取り戻すようです。「場違いねあたしたち」とネリ。「帰ろうか」と詩文。かくて二人が席を外そうとしたところに「原と・・・ネリでしょ」「クラス会に出てくるの初めてでしょあなたたち」と二人組の奥さんたちに声をかけられ「だれだこいつ」みたいな顔で見返してしまう二人。順に名乗る二人の名前を声をあわせてリピートしてますが本当に覚えているのかも疑問です。
・満希子が「みなさーん。言い忘れてたんですけど灰谷ネリさんが来年春脳ドックのクリニックを開きます」「宣伝のためにはじめてクラス会に来たのよネリは」と皆にアピール。親切心のつもりでしょうがネリはちょっと気に入らない顔。ネリは別に宣伝のために来たつもりは全くないはず。一言の宣伝もしないうちに帰ろうとしてたくらいですから。
それでも満希子が能天気に「よろしくね~」と言い拍手が起こると、ネリは社交辞令で笑ってみせ隣りで詩文も苦笑する。こうして彼女たちはこれからも満希子に振り回されていくのでしょうか。
・記念撮影のあと音楽室にやってきた三人。「ここでよく原と立たされたねー」「バケツもって」。三人は笑い、扉の外に立たされる昔の詩文とネリ、。歌うクラスメート、指揮する満希子のヴィジョンが浮かび、そこに今の満希子の笑顔が重なる。ピアノを伴奏する高校生の美波の笑顔。そして現在の無人のピアノ。「美波も生きてたらここにいたのね」「絶対ブッキのそばにいたわよ子分だもの」「子分じゃないわよ親友よ」。反論した満希子は少し間をおいてから「原もネリも、私の大事な親友よ」と付け加える。
へえー、とあきれたような気持ち悪そうな声を出したネリは「命の恩人だからね原は」と軽く笑いつつ突っ込む。少し後でも「命の恩人だってことは忘れちゃだめよ」と重ねて言っていて、このくらい強調しとかないとすぐ恩を忘れるからこの女は、と思ってるのがわかります。
・この次のクラス会は原の結婚のお祝いにしようと思うの、という満希子の言葉に言葉詰まらせ驚くネリ。「知らないのーネリ」と得意げにひけらかそうとする満希子に詩文はちょっとあせって、「その話、なくなった」と言う。えっと驚く満希子ににっこりと「ふられちゃったの。あなたのような女を妻にする自信がなくなったって」と説明。うそーと驚き顔の満希子、ちらと横目で見るだけのネリ。
「あたしでもふられるようなことがあるのよー」と頬杖ついてわざと高飛車ぽくいう詩文がちょっと痛々しいようでもあります。
・「だから当分は西尾仏具店で働くことになりましたのでよろしく」と座ったままぺこんと頭をさげる詩文。てっきり満希子は嫌な顔をするかと思ったら「正社員になれるようにうちの人に言ってみようか。大したお給料払えないとは思うけど」と満希子とも思えない良心的なことを言い出す。それが面白かったのか「旦那さん大丈夫ー?毎日一緒に働いたら危ないかもよー」といたずらぽくリノリノリでネリが突っ込んでくる。
「邪魔しないでよー就職できそうなんだから!」と言う詩文は微妙に怒ってるようでもあります。そういえば武は詩文の魔性に引っかかる気配が全然ですね。相性の問題なのか他に愛人がいるからなのか。
・「うちの人なら大丈夫よ。もう浮気はしないから。絶対に」。穏やかに確信もって言い切る満希子。もともとが婿養子らしい小心で真面目な人物ではあり、今度のことで懲りたろうと踏んでるんでしょうね。700万の行方をめぐるやりとりで久々にいちゃいちゃしたのも彼への信頼感を高めているのかも。
・そのころ海の見えるマンション。荷物運びを手伝いつつ「せっかく引っ越したんだからもう表札は出すなよ」という武に「もう乗り込まれるのはやだもんね」と荷物を出しながらにっこり笑う君子。なんだってー!。別れたんじゃなかったのか!?単に前の家の合鍵を(不要になるから)返しただけの話ですか。引っ越したのもご近所の手前だけじゃなく、満希子の知らない場所に愛の巣を設けるためだったのか?
満希子に知れたことや家内安全を別にしても、あんなふうに包丁振り回されたりしたらいいかげん愛想つきたりしないのかなあ。
・たまたま包丁の入った箱を開けた武はそれを持って彼女の前に行き、「君も、こういうものを二度と振り回さないようにね」と言い聞かせるように言う。それに対し、武が浮気したら振り回すかもと無表情な声で君子は言い放つ。ずっとダンボールに入れときなさい、と背を向けて箱に蓋をしようとするのへ「あああーん」と甘えた声で後ろから君子が抱きついてきて、右手に包丁持ったままの武はふらつく。「今日中にリビングだけは片付けるんじゃないの?」と一応抵抗する武に「急にしたくなっちゃった」と肩にあごを乗せて君子が甘えてくる。「そうなの ?時間なくない?」と腕時計を見るものの君子に笑顔で肩をぱたぱた叩かれ、「まいっか」と向き直ると君子を抱きしめてのしかかる。
ええー、結局流されちゃうのか?満希子にも詩文にも君子とはきっぱり別れたようなこと言ったくせに全然懲りてません。いかにも真面目な家庭人をやりきってるだけにこの人の方が満希子より実は性質悪いのかも。このシークエンスのラスト、からみあう二人を遠くに捉え、むき出しで置かれたままの包丁を手前に捉えた構図が出てきますが、彼らの関係も西尾家の平和も、また刃物三昧で破壊されかねない危うい均衡のもとにあることを暗示しているように思えます。
・校舎内?の緑の歩道を歩く三人。美波、見てるー?と満希子が空に呼びかけたのをきっかけに「バンクーバー・・・行ってみたいなー」と詩文が呟く。私はお金がないから無理だけどと言う詩文に「お金・・・私が出してもいいけど?」と満希子が太っ腹な提案を。ちょっとやましそうな様子なのは700万の損失を詩文のせいにした経緯があるからでしょう。
この発言に二人は驚愕。「原に助けてもらわなかったら大森にとめどなくお金とられてたわけだし?」「その分でバンクーバー行くのも悪くないかなーって」と笑顔でもっともらしい説明を並べたものの、「700万も取られたのにやけに太っ腹だけど、ご主人知ってるのお金のこと」(ネリ)「株で損したって言った?」(詩文)とかわるがわる問い質されるはめに。やましさゆえとはいえ善意の発言でかえって墓穴を掘ってしまった格好です。
・しばし目を閉じて無言の満希子に詩文は「西尾仏具店で働いてるんだからあたし。どういう話になってるんだか言ってもらわないとボロが出るわよ」と脅しをかける。いらないことはべらべら喋るくせに、都合の悪いことはこういう尻に火のつくような言い方しないと口を割らないとよく分かってるわけですね。
案の定ちょっと逡巡しつつも「人に・・・貸したことにした」と満希子は口を開く。「誰に?」 自然に聞き返す詩文の方を向いて微笑む満希子に「なにもったいぶってんのよ」と笑いながら詩文はツッコむ。勘の鋭い詩文がこのあとの展開を予測してないっぽいのが意外です。いくらなんでもそこまで恩知らずとは想像の範疇を超えていたのか。
・満希子は改めて詩文を見て笑顔で、「・・・あなたに」。詩文はあきれ返った顔で「いいかげんにしなさいよ」と怒る。「だあって、行きがかり上そういうことになっちゃたんだもん。ごめん、許して、親友でしょ」「じょおだんじゃないわ」「うちの人もいろいろ迷惑かけてるし。返済できなくても文句いえないって言ってるから」。
なんだか軽いノリで説明する満希子に「ブッキ。節操なさすぎるよそれ」とネリも横からツッコむ。「もういい。大森に貢いだことも大森とラブホに行ったことも、みんな旦那に隠してあげてたけど言うわ。言えば何もかもが説明つくんだから」。さすがに真面目に言い切る詩文。満希子に懇願されればこそ、警察にも武にも満希子の不名誉を隠し切ったというのにこの仕打ちじゃあ激怒して当然。満希子は「やめて」と哀願する顔に。「ラブホまで行ってたの。プラトニックなのかと思ったら」と白い目で見るネリに「なにもしてないわよ」と満希子はしっかり否定。しかし「逃げ帰ったくせに図々しい」と鋭くツッコむ詩文に「どうして知ってるの」と驚きの顔に。
詩文は「あたしはなんでもわかるのよ。だから大森の嘘も気付いて助けてやれたんじゃないよ」と苛立ったように言う。ちょうどそのラブホで仕事してた、モニターで見てたなんて真相をバラさないのはさすがに周到です。満希子みたいな女にはネタを割らずに、どういうわけか詩文には「なんでもわかる」と思わせて牽制した方がこの先の被害を防げますからね。
・「ブッキが悪い」「あんたは恩を仇で返した」と責めるネリに「上から目線でもの言わないでよ」と本気で抗議する満希子。言えた義理じゃないだろうに。「人のことは文句言うくせに自分のことはなんにも見えてないから最悪なのよ昔も今も」。さすがに本気で怒っている詩文は「今までのこと全てあたしが言う」ときっぱり宣言。
満希子は「それだけはやめて。いっしょにバンクーバー行こう。それで機嫌なおして」「飛行機も、ビジネスとるから。ホテルも高いとことるから。お金借りたことにしておいて、一生のお願い!」と手を合わせる。やっぱり「一生のお願い」が出たか。「そういう問題じゃないでしょ」とネリは呆れきるが「お願い」と手を合わせて繰り返す満希子をいくぶん軟化してきた表情で見ていた詩文は「ファーストクラスなら、乗ってみてもいいかな」と低い意地悪声でいう。
真相を明らかにして西尾家の平和を今さら乱しても何の得にもならない、だったらこのまま恩を売って美味しい思いをさせてもらおう、という結論に達したんでしょうね。満希子の方から切り出してくれた正社員昇格も、実現すれば経済的安定が見込めますし。
・自宅のパソコンでバンクーバーの天気を調べてるネリ。「バンクーバーって涼しいんだ」と一人言のように言うと「北海道より北だろ」と気のない感じの男の声が答える。誰?と思ってると後ろのソファにTシャツトランクス姿で足を伸ばしくつろぐ福山の姿が。なんだってー!!正直このドラマで最大の驚きでした。あの完膚なきまでのふられっぷりから何がどうなってこうなったんだか。
「俺も行きたいなーバンクーバー」と口にして「いちいち付いてきたがるんじゃないの!」と強い口調で叱られてもにやにや笑いながら「また怒られちゃった」となんか嬉しげ。もとはストーカーだったくせに、まさに奇跡の逆転勝利です。男と女はわからないと言ってしまえばそれまでですが、あえて言うなら先に英児との関係があったからこそ、いくらか男慣れしたネリが福山のような男を受け入れられる下地ができた面はあると思います。福山は「ボクサーなんか」に感謝しなくてはですね。
・エステサロン?で爪を手入れする満希子。足もお手入れ。はーと気持ちよさそうに息を吐き「来週の水曜はフェイシャルもやろっかなー」。バンクーバー行きを控えてるとはいえすっかり色気づいた様子。
基本元の生活に復帰した満希子ですが、だいぶお洒落になったのは大森との関係が残した副産物みたいなもんですね。
・日傘を差して立っている詩文の方へ例のボクサーがランニングしてくる。目の前まで来て足を止めたボクサーに、詩文は片手に持ったビニール袋を差し出して「お肉、食べない?」と微笑む。ボクサーは無言で詩文を見つめる。すごいナンパの仕方ですが、この間さんざん見つめあってたことからも彼が詩文にプラスの興味を抱いているのは明白、ここで詩文の魔性に捉えられてしまうだろうことが予期されます。
男に無縁だったネリに男ができ、波瀾のあげく平穏な暮らしに戻った満希子もいくぶん華やいだ女に変わっている。父とも娘とも離れ家庭環境は大きく変わった詩文ですが、人間性において一番変わらないままなのは結局彼女なのかも。
・バンクーバーで例の遊覧船に乗る三人。「この船に乗って美波は河野さんとバンクーバーからホーシューベイに渡ってたんだー」と感嘆の声をあげる満希子にネリは噴き出す。「うらやましそうだからさ」「ちょっと、うらやましいかも」と言い合う二人に「幸せな恋なんて、ないけどね」と詩文。すると「あると思うな。あたしは」とネリが意外な発言。こんな言葉が出るだけ福山と上手く行ってるってことですね。満希子は無言の真顔で外見つめる。もとは美波の恋に憧れたところから始まった彼女の「最後の恋」は無惨な結末になったわけですから。
「この数ヶ月いろいろなことがあったけど、まだまだ人生はつづきます。でも40すぎてもまだじたばたできるって素敵なことじゃない?」と美波のナレーション。詩文はそのとき河野と並んで甲板に立つ美波を見つけ驚く。まず美波が、ついで圭史が振り返る。「がんばってね。うふふふ」と微笑む美波。「美波 ?」とつぶやく詩文に満希子とネリも甲板を見て美波の姿を見つける。「うそ?」「うそ?」「うそ」。口々に言う三人に美波が笑顔のまま「う・そ・」と唇動かす。
だからタイトルが『四つの嘘』なのか?原作では四人とも嘘を抱えてましたが、ドラマだと詩文は思い切り自分に正直で特に嘘ついてる様子がないので、ここでタイトルの辻褄をあわせてきた?しかし他二人はいいとして圭史の元妻だった詩文が美波の幻にばかり気を取られ圭史のことはまるで気にしてないのが不思議。
・そして美波の姿がかき消える。満希子を先頭に三人は甲板へと駆け出すがそこには誰もいない。呆然と立ち尽くす彼女らを乗せて船は走りつづける。ミステリアスな後味を残すラストシーンです。
現役の夢を捨てきれずパナマまで行った、死ぬまでボクサーだと言い切った英児が、たった2連勝しただけで引退を決心したとは。結局詩文が来てくれなかったことで現役にしがみつくモチベーションが減ってしまったんでしょうか。これはおそらくまさしく命がけの二試合を経て、頭部への衝撃をおそれて思うように戦えなくなっている自分を発見し、同時に自分が生きたいと願っていることにも気づいてしまったのでは。
そして日本へ逃げ帰るのでなくパナマに残るというからには、パナマの土地に、そこの子供たちに、日本にはなかった何かを見出したということでしょう。子供相手ながら指導者という立場を選んだのは、ネリにボクシングのコーチをした経験が遠因になってるように思います。死に急がず地に足をつけて生きて欲しいというネリの願いは、おそまきながら無事英児の心に届きましたね。
・子供たち相手にどこかの家の前でサンドバックを叩かせてる英児の姿。現地の言葉?であいだあいだで掛け声をかける。上はタンクトップ一枚で、髪を後ろでアップにし、日焼けした顔に充実した穏やかな笑顔を浮かべている。その表情だけで今の彼がとても幸せなのが伝わってきます。天職に巡りあったとでもいうか。ボクシング好きだった父親の影響で自然とボクサーを目指した英児が、今また自分のボクシングに対する技術と情熱を子供の世代に伝えようとしている。清清しい光景です。
そしてこの場面の英児のビジュアルのめちゃくちゃ格好いいこと。最終回、英児の出番はここだけですが、1分にも満たない時間ながら堪能させていただきました。
・ネリも部屋?のパソコンで英児引退の記事を読んでいる。微笑みを浮かべた穏やかな表情は、彼が新たな、それも死に急ぐ代わりに次代を教え導くような夢を見出してくれたことを心から喜んでるように思えます。英児のことを思い出してもそれでネリの表情が曇ることはない。彼女の中で英児の記憶がすでに綺麗な思い出に昇華されたのがわかります。
・病院の廊下。ネリが出てくるのを廊下で待っていた福山が歩み寄ってきて「ところで、ご報告なんですが、ぼく、外科医はあきらめます」と切り出す。ネリはさすがに足を止めるが、しばしの後また歩き出しふっと笑って「それがいいんじゃない。大学に戻って病理に鞍替えしたら」と言う。確かに秀才だけど現場で役立たないタイプの福山は研究職の方が向いてそうです。
しかし福山の希望はそうではなく「いえ、ぼく、どうしても灰谷先生の新しいクリニックで働きたいんです」というところにあった。「それはだめ。あなたは絶対に雇いません」。ネリは福山の方を見ないまま「理由は・・・(ここで足を止めて振り返ると嫣然と微笑んで、かつちょっと眉ひそめてみせて)気持ち悪いからです」。うわ直球。さすがの福山も硬直してます。これまでの彼の行動を思えば無理ないですけど。このときのネリの表情がなんとも秀逸です。
「一生懸命勉強して私と関係ないところで立派なお医者さんになってちょうだい」とネリは背を向けて歩き出す。最後に「がんばってね」とにっこり手をあげてはいるものの、「私と関係ないところで」というあたりほとんど最後通牒です。突っ立ってネリを見送る福山の目に涙が。・・・なんかここまでくると一周して応援したい気持ちにさえなってきます福山。
・日傘を差して一人歩く詩文。例のボクシングジムの前で立ち止まり窓から見えるボクサーの姿に英児を重ね合わせる。澤田と破談になってまもなく英児の消息を知ったことで、彼と過ごした日々が改めて懐かしくなったのでしょう。しばし立ち尽くしている詩文の後ろからボクサーが走ってくる。近付いてくる男の足と振り返る詩文をスローモーションでいかにも意味深に捉える。
詩文は振り向きパンチ練習しながら走ってくる若者を見出す。たくましい二の腕をじっと見つめる詩文。詩文の横を走りすぎジムの前で立ち止まった男は詩文を振り返り、しばし二人は真顔で見つめあう。この青年もなかなかのイケメンかつワイルド系で、詩文の好みには叶ってるんじゃないでしょうか。
・恵成女子大学附属高等学校と看板のかかった構内に門から進入するかたちでカメラが中へ入っていく。門と反対側の庭っぽいスペースで「私たちがこの学窓を離れてから~」うんぬんと満希子がスピーチしてる。ドレスぽい派手なワンピース。まわりの奥さんたちの服装からしても同窓会兼美波を偲ぶ会ぽい感じです。「今日は明るく可愛かった美波の思い出を語りながらみんなでご冥福を祈りたいと思います」。笑顔で言い終えた満希子に拍手が。
「はりきってるわねーブッキ」「いろいろあったけど人はそう簡単には変わらないってことよ」と隅の方で語りあうし文とネリ。つまらない主婦になった満希子もこういうときはかつての生徒会長の面影を取り戻すようです。「場違いねあたしたち」とネリ。「帰ろうか」と詩文。かくて二人が席を外そうとしたところに「原と・・・ネリでしょ」「クラス会に出てくるの初めてでしょあなたたち」と二人組の奥さんたちに声をかけられ「だれだこいつ」みたいな顔で見返してしまう二人。順に名乗る二人の名前を声をあわせてリピートしてますが本当に覚えているのかも疑問です。
・満希子が「みなさーん。言い忘れてたんですけど灰谷ネリさんが来年春脳ドックのクリニックを開きます」「宣伝のためにはじめてクラス会に来たのよネリは」と皆にアピール。親切心のつもりでしょうがネリはちょっと気に入らない顔。ネリは別に宣伝のために来たつもりは全くないはず。一言の宣伝もしないうちに帰ろうとしてたくらいですから。
それでも満希子が能天気に「よろしくね~」と言い拍手が起こると、ネリは社交辞令で笑ってみせ隣りで詩文も苦笑する。こうして彼女たちはこれからも満希子に振り回されていくのでしょうか。
・記念撮影のあと音楽室にやってきた三人。「ここでよく原と立たされたねー」「バケツもって」。三人は笑い、扉の外に立たされる昔の詩文とネリ、。歌うクラスメート、指揮する満希子のヴィジョンが浮かび、そこに今の満希子の笑顔が重なる。ピアノを伴奏する高校生の美波の笑顔。そして現在の無人のピアノ。「美波も生きてたらここにいたのね」「絶対ブッキのそばにいたわよ子分だもの」「子分じゃないわよ親友よ」。反論した満希子は少し間をおいてから「原もネリも、私の大事な親友よ」と付け加える。
へえー、とあきれたような気持ち悪そうな声を出したネリは「命の恩人だからね原は」と軽く笑いつつ突っ込む。少し後でも「命の恩人だってことは忘れちゃだめよ」と重ねて言っていて、このくらい強調しとかないとすぐ恩を忘れるからこの女は、と思ってるのがわかります。
・この次のクラス会は原の結婚のお祝いにしようと思うの、という満希子の言葉に言葉詰まらせ驚くネリ。「知らないのーネリ」と得意げにひけらかそうとする満希子に詩文はちょっとあせって、「その話、なくなった」と言う。えっと驚く満希子ににっこりと「ふられちゃったの。あなたのような女を妻にする自信がなくなったって」と説明。うそーと驚き顔の満希子、ちらと横目で見るだけのネリ。
「あたしでもふられるようなことがあるのよー」と頬杖ついてわざと高飛車ぽくいう詩文がちょっと痛々しいようでもあります。
・「だから当分は西尾仏具店で働くことになりましたのでよろしく」と座ったままぺこんと頭をさげる詩文。てっきり満希子は嫌な顔をするかと思ったら「正社員になれるようにうちの人に言ってみようか。大したお給料払えないとは思うけど」と満希子とも思えない良心的なことを言い出す。それが面白かったのか「旦那さん大丈夫ー?毎日一緒に働いたら危ないかもよー」といたずらぽくリノリノリでネリが突っ込んでくる。
「邪魔しないでよー就職できそうなんだから!」と言う詩文は微妙に怒ってるようでもあります。そういえば武は詩文の魔性に引っかかる気配が全然ですね。相性の問題なのか他に愛人がいるからなのか。
・「うちの人なら大丈夫よ。もう浮気はしないから。絶対に」。穏やかに確信もって言い切る満希子。もともとが婿養子らしい小心で真面目な人物ではあり、今度のことで懲りたろうと踏んでるんでしょうね。700万の行方をめぐるやりとりで久々にいちゃいちゃしたのも彼への信頼感を高めているのかも。
・そのころ海の見えるマンション。荷物運びを手伝いつつ「せっかく引っ越したんだからもう表札は出すなよ」という武に「もう乗り込まれるのはやだもんね」と荷物を出しながらにっこり笑う君子。なんだってー!。別れたんじゃなかったのか!?単に前の家の合鍵を(不要になるから)返しただけの話ですか。引っ越したのもご近所の手前だけじゃなく、満希子の知らない場所に愛の巣を設けるためだったのか?
満希子に知れたことや家内安全を別にしても、あんなふうに包丁振り回されたりしたらいいかげん愛想つきたりしないのかなあ。
・たまたま包丁の入った箱を開けた武はそれを持って彼女の前に行き、「君も、こういうものを二度と振り回さないようにね」と言い聞かせるように言う。それに対し、武が浮気したら振り回すかもと無表情な声で君子は言い放つ。ずっとダンボールに入れときなさい、と背を向けて箱に蓋をしようとするのへ「あああーん」と甘えた声で後ろから君子が抱きついてきて、右手に包丁持ったままの武はふらつく。「今日中にリビングだけは片付けるんじゃないの?」と一応抵抗する武に「急にしたくなっちゃった」と肩にあごを乗せて君子が甘えてくる。「そうなの ?時間なくない?」と腕時計を見るものの君子に笑顔で肩をぱたぱた叩かれ、「まいっか」と向き直ると君子を抱きしめてのしかかる。
ええー、結局流されちゃうのか?満希子にも詩文にも君子とはきっぱり別れたようなこと言ったくせに全然懲りてません。いかにも真面目な家庭人をやりきってるだけにこの人の方が満希子より実は性質悪いのかも。このシークエンスのラスト、からみあう二人を遠くに捉え、むき出しで置かれたままの包丁を手前に捉えた構図が出てきますが、彼らの関係も西尾家の平和も、また刃物三昧で破壊されかねない危うい均衡のもとにあることを暗示しているように思えます。
・校舎内?の緑の歩道を歩く三人。美波、見てるー?と満希子が空に呼びかけたのをきっかけに「バンクーバー・・・行ってみたいなー」と詩文が呟く。私はお金がないから無理だけどと言う詩文に「お金・・・私が出してもいいけど?」と満希子が太っ腹な提案を。ちょっとやましそうな様子なのは700万の損失を詩文のせいにした経緯があるからでしょう。
この発言に二人は驚愕。「原に助けてもらわなかったら大森にとめどなくお金とられてたわけだし?」「その分でバンクーバー行くのも悪くないかなーって」と笑顔でもっともらしい説明を並べたものの、「700万も取られたのにやけに太っ腹だけど、ご主人知ってるのお金のこと」(ネリ)「株で損したって言った?」(詩文)とかわるがわる問い質されるはめに。やましさゆえとはいえ善意の発言でかえって墓穴を掘ってしまった格好です。
・しばし目を閉じて無言の満希子に詩文は「西尾仏具店で働いてるんだからあたし。どういう話になってるんだか言ってもらわないとボロが出るわよ」と脅しをかける。いらないことはべらべら喋るくせに、都合の悪いことはこういう尻に火のつくような言い方しないと口を割らないとよく分かってるわけですね。
案の定ちょっと逡巡しつつも「人に・・・貸したことにした」と満希子は口を開く。「誰に?」 自然に聞き返す詩文の方を向いて微笑む満希子に「なにもったいぶってんのよ」と笑いながら詩文はツッコむ。勘の鋭い詩文がこのあとの展開を予測してないっぽいのが意外です。いくらなんでもそこまで恩知らずとは想像の範疇を超えていたのか。
・満希子は改めて詩文を見て笑顔で、「・・・あなたに」。詩文はあきれ返った顔で「いいかげんにしなさいよ」と怒る。「だあって、行きがかり上そういうことになっちゃたんだもん。ごめん、許して、親友でしょ」「じょおだんじゃないわ」「うちの人もいろいろ迷惑かけてるし。返済できなくても文句いえないって言ってるから」。
なんだか軽いノリで説明する満希子に「ブッキ。節操なさすぎるよそれ」とネリも横からツッコむ。「もういい。大森に貢いだことも大森とラブホに行ったことも、みんな旦那に隠してあげてたけど言うわ。言えば何もかもが説明つくんだから」。さすがに真面目に言い切る詩文。満希子に懇願されればこそ、警察にも武にも満希子の不名誉を隠し切ったというのにこの仕打ちじゃあ激怒して当然。満希子は「やめて」と哀願する顔に。「ラブホまで行ってたの。プラトニックなのかと思ったら」と白い目で見るネリに「なにもしてないわよ」と満希子はしっかり否定。しかし「逃げ帰ったくせに図々しい」と鋭くツッコむ詩文に「どうして知ってるの」と驚きの顔に。
詩文は「あたしはなんでもわかるのよ。だから大森の嘘も気付いて助けてやれたんじゃないよ」と苛立ったように言う。ちょうどそのラブホで仕事してた、モニターで見てたなんて真相をバラさないのはさすがに周到です。満希子みたいな女にはネタを割らずに、どういうわけか詩文には「なんでもわかる」と思わせて牽制した方がこの先の被害を防げますからね。
・「ブッキが悪い」「あんたは恩を仇で返した」と責めるネリに「上から目線でもの言わないでよ」と本気で抗議する満希子。言えた義理じゃないだろうに。「人のことは文句言うくせに自分のことはなんにも見えてないから最悪なのよ昔も今も」。さすがに本気で怒っている詩文は「今までのこと全てあたしが言う」ときっぱり宣言。
満希子は「それだけはやめて。いっしょにバンクーバー行こう。それで機嫌なおして」「飛行機も、ビジネスとるから。ホテルも高いとことるから。お金借りたことにしておいて、一生のお願い!」と手を合わせる。やっぱり「一生のお願い」が出たか。「そういう問題じゃないでしょ」とネリは呆れきるが「お願い」と手を合わせて繰り返す満希子をいくぶん軟化してきた表情で見ていた詩文は「ファーストクラスなら、乗ってみてもいいかな」と低い意地悪声でいう。
真相を明らかにして西尾家の平和を今さら乱しても何の得にもならない、だったらこのまま恩を売って美味しい思いをさせてもらおう、という結論に達したんでしょうね。満希子の方から切り出してくれた正社員昇格も、実現すれば経済的安定が見込めますし。
・自宅のパソコンでバンクーバーの天気を調べてるネリ。「バンクーバーって涼しいんだ」と一人言のように言うと「北海道より北だろ」と気のない感じの男の声が答える。誰?と思ってると後ろのソファにTシャツトランクス姿で足を伸ばしくつろぐ福山の姿が。なんだってー!!正直このドラマで最大の驚きでした。あの完膚なきまでのふられっぷりから何がどうなってこうなったんだか。
「俺も行きたいなーバンクーバー」と口にして「いちいち付いてきたがるんじゃないの!」と強い口調で叱られてもにやにや笑いながら「また怒られちゃった」となんか嬉しげ。もとはストーカーだったくせに、まさに奇跡の逆転勝利です。男と女はわからないと言ってしまえばそれまでですが、あえて言うなら先に英児との関係があったからこそ、いくらか男慣れしたネリが福山のような男を受け入れられる下地ができた面はあると思います。福山は「ボクサーなんか」に感謝しなくてはですね。
・エステサロン?で爪を手入れする満希子。足もお手入れ。はーと気持ちよさそうに息を吐き「来週の水曜はフェイシャルもやろっかなー」。バンクーバー行きを控えてるとはいえすっかり色気づいた様子。
基本元の生活に復帰した満希子ですが、だいぶお洒落になったのは大森との関係が残した副産物みたいなもんですね。
・日傘を差して立っている詩文の方へ例のボクサーがランニングしてくる。目の前まで来て足を止めたボクサーに、詩文は片手に持ったビニール袋を差し出して「お肉、食べない?」と微笑む。ボクサーは無言で詩文を見つめる。すごいナンパの仕方ですが、この間さんざん見つめあってたことからも彼が詩文にプラスの興味を抱いているのは明白、ここで詩文の魔性に捉えられてしまうだろうことが予期されます。
男に無縁だったネリに男ができ、波瀾のあげく平穏な暮らしに戻った満希子もいくぶん華やいだ女に変わっている。父とも娘とも離れ家庭環境は大きく変わった詩文ですが、人間性において一番変わらないままなのは結局彼女なのかも。
・バンクーバーで例の遊覧船に乗る三人。「この船に乗って美波は河野さんとバンクーバーからホーシューベイに渡ってたんだー」と感嘆の声をあげる満希子にネリは噴き出す。「うらやましそうだからさ」「ちょっと、うらやましいかも」と言い合う二人に「幸せな恋なんて、ないけどね」と詩文。すると「あると思うな。あたしは」とネリが意外な発言。こんな言葉が出るだけ福山と上手く行ってるってことですね。満希子は無言の真顔で外見つめる。もとは美波の恋に憧れたところから始まった彼女の「最後の恋」は無惨な結末になったわけですから。
「この数ヶ月いろいろなことがあったけど、まだまだ人生はつづきます。でも40すぎてもまだじたばたできるって素敵なことじゃない?」と美波のナレーション。詩文はそのとき河野と並んで甲板に立つ美波を見つけ驚く。まず美波が、ついで圭史が振り返る。「がんばってね。うふふふ」と微笑む美波。「美波 ?」とつぶやく詩文に満希子とネリも甲板を見て美波の姿を見つける。「うそ?」「うそ?」「うそ」。口々に言う三人に美波が笑顔のまま「う・そ・」と唇動かす。
だからタイトルが『四つの嘘』なのか?原作では四人とも嘘を抱えてましたが、ドラマだと詩文は思い切り自分に正直で特に嘘ついてる様子がないので、ここでタイトルの辻褄をあわせてきた?しかし他二人はいいとして圭史の元妻だった詩文が美波の幻にばかり気を取られ圭史のことはまるで気にしてないのが不思議。
・そして美波の姿がかき消える。満希子を先頭に三人は甲板へと駆け出すがそこには誰もいない。呆然と立ち尽くす彼女らを乗せて船は走りつづける。ミステリアスな後味を残すラストシーンです。