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about him

俳優・勝地涼くんのこと。

結びのことば

2012-09-11 23:11:14 | その他
結局のところ、きっちり幕を引くと言っておきながら、『少年メリケンサック』までで制限時間オーバーになってしまいました・・・。前回のブログ閉鎖時からの懸案だった『蜉蝣峠』まで手が届かなかったのがなんとも心残りです。
当面はとても改めて感想文を書く時間は取れそうもありませんが、「いつかきっと」、こちらについては書いてみたいと思います(いいかげん往生際が悪いのですが・・・)。

それでは短い間でしたが、ありがとうございました!

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『少年メリケンサック』(2)-3(注・ネタバレしてます)

2012-09-11 15:12:44 | 他作品
・どこかのお祭り太鼓を舞台メイクのヤングがたたいてる。カラオケ大会と書かれたやぐらの上に全メンバーが乗っかって「世界人類を撲殺」とか歌ってる。ハッピ姿の子供たちがみな両手中指たてて「撲殺撲殺」とぴょんぴょんはねてる。おいおい。これって教育上どうなのよ。
ハルオは豆?を上から投げてやり、かんなは笑顔でデジカメ撮影。先日の「やればできる」演奏以来、バンドの技量的にもかんなとバンドの関係的にも全てがいい方向に動いてる感じです。

・どこかの露天温泉につかる一行(ハルオとかんな除く)。平泳ぎするヤングは水越しに尻が透けてる。ヤングってこんなんばっか。

・防波堤に座るハルオとかんな。「ツアーが終わったらみなさんどうするんですか」と尋ねるかんなにおれは牛がいるし、とハルオは口ごもる。そんな彼にこのまま終わっちゃうのもったいない気がするなーと言ったかんなはしばし沈黙ののち「アルバム出しません?」「うちはもうムリですけどどっかよそのレーベルとか」と持ちかける。
「パンク嫌いなんでしょ?」「はい。あ、でも嫌いでもライブ上手くいくと嬉しいっていうか。あたし仕事好きかも。初めて担当したアーティストだからなんかお母さんみたいな気持ちになっちゃった」。マサルを養ってる?ことから言ってももともと面倒見のいい、母性的なタイプなのかもですね。

・車の助手席でジミーの歌詞がやっとはっきり聞き取れたというかんな。しかし運転してるハルオは「ジミーさん呂律回ってないからそう聞こえるかもですけど」本来はニューヨークマラソンと言う歌詞ではないという。「ちがいますって。書いた本人が言ってんだから」。なんとあの歌作詞はハルオだった。
そして歌詞を見せられたかんなは「何この歌詞 ?こんなのインディーズでも出せないよ」とモノローグ。かんなの困惑をよそに今の時代ならメジャーからアルバムってのもありかもとちょっと不敵な声のハルオ。かんなのアルバム出さないかの誘いにその気になってしまったか。

・腰にタオル巻いて温泉入ろうとするハルオ。すでに入ってる三人。アキオに「チンコ隠してんじゃねえよ」と言われ「だって、栗田さんが」と恥ずかしげなハルオ。短パン姿のかんなは服着たままデジカメ撮影のため膝まで温泉に入ってくる。「ああ、ぜんぜん平気ですよ」とかんなは笑顔でいいますがそれもちょっとなー。
もっとみなさん近寄ってくださいと言われ寄り集まる一同。「はいチーズ」の瞬間いい笑顔でいっせいにざばっと立ち上がる一同。まあお約束な気はしますが、さっきは見られるの抵抗してたはずのハルオまで(笑)。

・並んだ四人の姿が1982年の4人並んだポスターに変わり回想へ。あの「GO AHEAD」でのライブの様子を少し映し、そこに現在のアキオの語りがかぶさる。温泉宿でどてら姿でかんなのカメラにアキオらしからぬ穏やかな口調で話す。
アキオいわく、ツアーは大盛況だった、アイドル時代のファンは離れていったけどね。「演奏してるとマネージャーの金子が、鼻をこうさわるんだよ。それが暴れろって合図でさあ」。ライブハウスでカメラかまえる金子はタバコの煙を吐き出し長髪姿。アラモードのマネ時代とえらく感じ変わりましたね。金子が鼻をさわりジミーがダイブ。ハルオとアキオが互いに寄り合い殴りあい始める姿が紹介されます。

・どこかの焼肉屋?で一人食事しながらの金子インタビュー。インタビュアー&カメラマンは映ってませんがこちらもかんななんでしょうか。
「だれも演奏なんか聞いてなかったな。客はアキオとハルオがやりあうとこ見に来てるんだからさ」。なんかそれもバンドとして空しいような。温泉につかるヤングのコメントによると「最初はやらせだったんですよ」。やらせでケンカを見せてるうちにほんとに仲悪くなってしまったそう。不和が進んでく状況をなぜかいきなり原色使いのヘタウマアニメで見せる。

・旅館のロビーでジミーに「二人の溝が深まってくの間近で見てて、どうでした?」とインタビューするかんな。心持ち悲しげな無表情だったジミーはかんなの肩越しに床に片膝ついたミニスカートの女を見ている。「ジミーさん?」 座ってるジミーは体を少しずり下げてスカートの中を見ようとする。男に肩を叩かれた女が肩膝立てたまま体反転させる、まさに見えそうな瞬間にほかの温泉客が前を横ぎって女の体を隠す。そして女はスカートを直してしまう。ジミーの目から無言のまま流れる涙。女は立ち上がり男とともに歩き去る。
かんなは「つらかったんですね」ともらい泣き。ジミーは両目を閉じてくやし泣き。二人が泣いてる理由が実は全然違うってのがなあ(笑)。

・夜、車はガソリンスタンドへ。アキオはソファーベンチに寝てた若い男(「日本一周中」の幟立ててる)を追い立てて自分が座る。
かんなはハルオに兄との関係をインタビューする。プレーヤーとしては兄貴を尊敬してる。バンドの要は兄貴のベースだし。ギターもおれなんかより兄貴のほうが上手い。このコメントを受けて、じゃあいい年なんだから仲良くしてくださいというかんなへきっと向き直ったハルオは「かんなちゃんもバンド組めばわかるよ」。初めて名前で呼ばれたかんなは「かんなちゃん・・・」とちょっと嬉しそうです。

・「バンドにはいいときと悪いときがある」。正面向き直って語るハルオ。またアニメ仕様でへんな怪獣(バンドをを具現化したもの)が吼える。所詮人間の寄せ集め、皆の思惑が違ってしまい怪獣は動けなくなる。「そうなったらもう解散するしかない」「解散してやっと気づくんです。自分の無力さに」。ハルオが語っているのに何といつのまにかかんなは寝ている。おいおい。せっかくハルオがいい話してるってのに。

・夢の中でアニメの怪獣の手につかまれてるかんなが放してと叫びまーくんを呼ぶと、ギター持ったマサルが空を飛んでくる。見得を切るポーズで「おまえは間違っている。ファックだのシットだのそんな汚い言葉で世界は変えられない!」 なんかちょっとかっこいいかも。
そしてかんなの名を叫ぶと「君を幸せにする自信がない」とギター弾いて歌い出す。歌うにことかいてこの場でこの歌か。「歌ってないで助けてー」と叫んだかんなの口、のどちんこがアップになったところで頭を車にぶつけて目をさましたかんなは「自信」が流れているのに気づく。「ごめん勝手に」と遠慮がちに謝るハルオ。「なんかうなされてたから」。だから彼氏の歌声を聞けば落ち着くと思ったのか。ハルオの優しさが沁みます。

・「これどうですかね」。おそるおそる尋ねるかんなに、あんまり悪くいっちゃ申し訳ないからなとハルオは遠慮するが、「ダメなんだ・・・」と落胆気味のかんなの声に「いや、ダメっていうか・・・(ここでかんなちょっと期待する笑顔)クソだねー」。
もっと悪いじゃん。ハルオも気を遣ってるんだか何なんだか。かんなの笑顔が固まりアニメの中で歌うマサルが怪獣の足に踏み潰される。この後の二人の関係を象徴してるようでもあります。

・かんなの部屋。仙台寒いかなあ、とか普通の会話しながら荷造りのため部屋を駆け回るかんな。ツアー途中でいっぺん自宅に寄ったわけですね。洋服だんすの上の鏡に上半身はだかのマサルが映りこんでて、何ごとかと思ってしまいます。「なんでだまってんの?」とにっこり振り返るかんな。「いや、なんか言い訳するのは違うっていうか。でも謝るのもなんか違うっていうか」。
いかにも煮え切らない口調のマサルにだんだんカメラが寄っていき、「じゃあ黙ってれば?」とかんなが可愛い笑顔でベッドサイドのカーテンを広く開けたところで事の全貌―マサルが女を連れ込んでた―が明らかに。
「何年生」「高一でーす」と答える女。ベッドの上で携帯いじってまったく反省の色がない。前にバイトのシーンで出てた後輩の女の子です。かんなが顔しかめると「高三でーす」と言い直す。力ない笑顔のマサルが「バイトの後輩?」とすごく裏返った声で言う。「あ、やめたけど」「またやめたんだ」。マサルはバイトも長続きしないのか。
「店長にならないかって言われたんだけど、店長って、なんか、ちがう・・・」。語尾がだんだん消えていく。先輩が彼女と別れたって聞いて自分が押しかけたと殊勝にもマサルをかばう?女。いい感じの作り笑顔で首を横に何度も振るマサル。かんなは自分は別れたつもりは全然ないと主張。「だってこないだ途中でさあ」「帰ったよ二曲目でつまんないから」。ストレートな言われようにマサルは呆然とした顔に。「ここは黙っちゃダメでしょー」とかんなは怒る。
するとパンツ一丁のマサルが立ってきて「おまえだってさーかんなだってさーいやおまえだってさー」。一応大きな声で自己主張しようとしてみるがやっぱり締まらない。「例の中年パンクとさー楽しそうにやってっからさー」。何かべらんめえで微妙に股間いじるような仕草で言いつのるマサルに、楽しいって言葉の意味間違ってんじゃないの、あたしは働いてお金もらってんの趣味でやってるあんたのほうが楽しいはずじゃないの、とかんなはテーブルの上の小銭を背中に投げつける。「ああっ」とマサルはちょっとマゾっぽい声。
「なんで別れたつもりの人がここにいるの。あたしの部屋だよねここ」。この言葉にマサルは怒った顔するものの「出て行くのはなんか違うっていうか」。「違わねーよ!」とついに爆発したかんなはマサルのギターを床にたたきつけてへし折る。過激な恋の結末です。

・そして車の中。後部座席中央で泣きじゃくるかんな。容赦なく「さくららら」を合唱するメンバーたち。しかも歌詞が桜新町でなく桜上水になってるし。ハルオだけはちょっと控えめに気の毒そうな顔で(それでも)歌ってるけれども。

・どこかのクラブ?のソファで泣きはらした顔のかんなが彼のやってる音楽ぜんぜん好きじゃないと思ってたと告白。頑張って聞いてる自分がいとおしいっていうか、彼だけがあたしが女でいられる場所?もろ自分語りするかんなの話を聞いてるのは知らない中年女性。男たちはかんなはほっといて隣りで酒とつまみをやってるし。
「たまにはつきあってくださいねぎらってください」というかんなに構わず、もう寝るわと立っていくアキオ。ヤングが「明日お父さんの墓参りなんだって」と一応フォロー。これが次のシーンへの伏線になっていきます。

・飲み屋街を一人歩くアキオ。また一人焼肉する金子インタビューで、解散の理由はハルオだけメジャーから声がかかったことだと明かされる。当時ハルオは「ロケットビート」というバンドにかけもちで参加してたそう。アラモードといいハルオ需要あるな。技術的には兄が上だと本人も言ってたのに。
アキオは弟ばっかりちやほやされるのが気に入らなかったのだと今度はクラブでヤングが話している。金子のインタビュー、ヤングの話、ハルオの回想、という三つの形で、兄弟が決定的不仲に陥ってく状況が詳しく描かれていきます。

・そんな最悪なときに仙台でライブがあった。2日間でろくにリハもできなかった。二人の地元だしぴりぴりしてた。一人翌日公演予定のライブハウスに来たハルオは後ろから可愛い女の子に声かけられる。ハルオはファンだというその子に誘われるまま寝てしまったが、実はこれがアキオの罠で、翌日警官にホテルに踏み込まれ、女がくれたぬいぐるみの中から白い粉入りの袋が出てきたことで逮捕されるに至ったという・・・。いかに気に入らないからって実の弟にここまでするか。
新聞にハルオが覚醒剤使用で逮捕された旨の写真入り記事が載ってますが、肩書はロケットビートギタリストになっている。こっちはメジャーなんだから当然とはいえちょっと寂しいものがあります。

・繁華街で中年女に声をかけられたハルオ。「怒ってる ?怒ってるやっぱり?」と言う女はどうやらハルオをはめた女のその後らしい。「怒ってねえですもう」と答えるハルオ。
明日のライブはあたしはお店あっていけないけどせがれが行くからと女は笑い「あんたの甥っ子」と付け加える。つまりはアキオの子供ということに。アキオは自分の彼女に弟と寝るよう指示したってことか?あまりのことに言葉もないハルオ。
そこへスポーツ車がけたたましくやってくる。カーステから流れるのは「アンドロメダおまえ」。下りてきた金髪男は若いころのアキオそっくりで父親が誰か説明の必要もない。女は嬉しそうに近寄り「挨拶しなさい」と声をかけるが、男はガン飛ばしただけで母親を助手席に乗せて走り去る。彼
はハルオが自分の何に当たるかわかってるんだろうか。そして父親のこともどの程度知っているのか。アキオは息子のことを存在すら知らないような感じですが。

・逮捕当時のテレビ映像。アキオが弟が戻るまで三人で活動続けると感動的なコメントをしている。「でもまあテレビに売り込んだのおれなんだけどな」と金子。証言はクラブのヤングに引き継がれ、ハルオが復帰して半年後、延期になってた仙台のライブをやってそれが例の解散ライブだったと明らかに。

・事件当時アキオハルオの父親が息子が逮捕されたショックで農薬を飲んで自殺をはかったことが明かされる。スタジオらしき場所で弦を調整するハルオにアキオが実家いってきたよ今朝、と報告し缶コーヒー?の中身をハルオの足元にぶちまける。「親父は生きていた」。
回想で付き添いの看護婦と話すアキオ。兄はロサンゼルスに住んでる有名なプロデューサーだとハルオは話してるらしい。寝たままうめきだす父親に看護婦が、アキオに普通に話しかけながら処置を行う姿。「ああなったのはやっぱおれのせいか?」と尋ねるアキオに「おれはあんたのせがれにあったよ今日見にくるってさ」。無言で見つめあう二人にかんながサウンドチェックを頼みにやってくる。また兄弟不仲が再燃しそうなちょっと不穏な気配があります。

・回想の25年前。坊主頭でスタジオに戻ってきたハルオの姿。あれファッションでスキンヘッドにしてたわけじゃなかったんですね。ジミーが「今日がんばろうな」と声をかけるがアキオだけは目があわせられない。さすがにやましかったのか。

・「世界人類を撲殺、少年メリケンサーック」。ジミーのがなり声でステージが始まる。観客大うけ。かんなも客席の後ろで楽しそう。ちょうど電話がかかりいったん抜けて階段を上がる。電話の相手は社長。「画像見てくれました?」こないだからのインタビュー映像のことらしい。「今見てるよ」。
昨日たまたまTELYAの事務所の社長が来たんで企画書(「オヤジがパンクで何が悪い!」)を見せたという。この社長って金子じゃないか。結果的にTELYAと抱き合わせでテレビ生出演できることになったそう。10万人どころじゃねえぞ、社長は言うがかんなの返事がない。どうしたかと思えばかんなは階段に座り込んで泣きじゃくってる。もうすっかりメリケンサックの成功が自分自身の成功にもなってるんですね。

・電話中に階段を降りていく金髪の若い男をいぶかしげに見るかんな。映像でのみ知る若いころのアキオそっくりなのに気づいたんでしょうか。一方演奏中のアキオは息子がいるのに気づき、自分の顔を殴ってわざと口から出血。ハルオとの間に一触即発風の雰囲気をかもしだす。にらみあい位置を何度も入れ替わる二人に昔の解散ライブの二人が重ね合わされる。
でも何もないまま無事演奏が終わったとほっとしたのもつかの間、終わったとたんにふたりが肩からギターとベースを下ろす。かんなは「やばいやばいやばい」と泣きそうな顔になり「ジミーさーん」と叫ぶ。それを聞いたジミーはギターを振り回す二人を見て高くジャンプ、次の瞬間天井に張り付いて無傷のジミーと互いの腕を殴ってしまったハルオとアキオの姿。
二人は苦痛に座り込み客席は拳つきあげて盛り上がり、天井に張り付いたままジミーは得意げな笑みをもらしピースサイン。走れるしジャンプできるしこの人なんなんだ。しかしかんなは目と歯をむいて硬直。せっかくテレビ出演の話がきた矢先にギタリストとベーシストが腕をケガするとは。救急車のサイレンの音が近付いてくるのがバンド終焉の合図のようにも思えます。

・夜の病院。受付前で腕組んで怖い顔で立つかんな。手前にはアキオとハルオの背中。「あなたがたにはがっっかりです」。がっかりのゆっくりした間の取り方に怒りのほどがうかがえる。椅子に悄然と座るアキオとハルオは、アキオは左手。ハルオは右手をギブスしてる。「がっかりを通り越してげんなりです」「結局パンクってなんなんですか。ねえ。兄弟喧嘩ですか」。かんなが怒ってる最中も足で足を蹴りあう二人。子供ですか。
「いい年して女がどうした親がどうした、中途半端だ、あんたらなんか二人で一人前じゃん!」 言いながら二人の足を蹴り飛ばすかんな。キツい言い方ですがこれが後の二人羽織プレイのヒントになったんでしょうね。「アルバム出せそうだったのに。テレビだって決まってたのに」とのかんなの言葉にテレビ?と食いつくハルオとアキオ。期待の目で聞いてくるアキオに「あんたらなんかに教えない!」と怒鳴るかんな。
「結局あなたたちのいいところなんて見つかりません。パンクの良さなんて全然わかりません」。涙ぐみながら叫ぶかんな。せっかくここのところ全てがうまく回ってたというのに、兄弟喧嘩ですべて台無しにしてしまうあたり25年前と変わりませんね。ジミーさんに大ケガ負わせながらまだ変われないんだもんなあ。

・悄然とうつむいて座っていたヤングが「やりましょうよやらせてくださいよ」とアキオたちを振り向く。「今やんなかったら次いつですか。5年後、それとも10年後 ?また25年後 ?」 ヤングがこんな反抗的なことを言うのは珍しい。泣きながら訴えるヤングを見ながらかんなは「二人で一人前・・・」と何か思いついたような顔になる。「おれらどうせ伝説なんかなれねえんだから、せめてちゃんとしましょうよう」。
ハルオアキオは背を向けて黙ったままだが、ここでヘッドホンをはずしたジミーが足を組んで、「ピストルズはときどきやってるけどね」(ヤングが“メンバー死んじゃって再結成できないバンド”にセックス・ピストルズを加えていたことへのツッこみ)となめらかに喋りだす。「あーそかそか」とヤングが答えたあとにアキオもジミーを振り向き「オリジナルメンバーで再結成したんだよな」と普通に続ける。みんな早く気づけって。しばらく普通に会話したあとにアキオが改めて振り向き、「ジミーおまえ普通にしゃべってんじゃねえか」。
まずいという顔で両手で口押さえるジミー。メンバー皆立ち上がって寄ってくる。普通に喋ればと促されても口押さえて喋れないふりしようとする。最初はいかにも立つことも困難なような様子だったのにその実走れて跳べて喋れて・・・。なんか障害者の振りして恩典受けまくってる気配を感じてしまうんですが。

・一方かんなは思いつめた顔で例のワゴンを運転し、一人夜の道路を走る。何か強い決意の目で正面にらんでいますがメンバーに断ってから出ていこうよ。また職場放棄と思われそうです。

・日中の公園にやってきたかんなは石段を一段とばしに駆けあがる。前にマサルが弾き語りしてた公園。ギターはかんなが壊したんだからここで演奏してる確証はないのでは。レコード会社の他のギタリスト借りるんじゃダメなんですかね。BOAの対バンの件があるから誰も組みたがらないか。

・ニューギター(淡いグリーン地にハート型の空洞が可愛い)を抱えたマサルが歌うのは「さくららら」。かんなのこと歌った歌なのに平気なんですかね。足早に近寄るかんな。彼女の姿に気づいたときから明らかに声小さくなり顔の曇るマサル。彼女がすぐ目の前に立っても目を合わせようとしない。
無言でにらみつけるかんなは「最後にひとつお願いがあるんだけど」。マサルは「ていうかなんでバリカンもってんの」。近付いてきた時点ですでにこれから起こることへの予感があったのか。
後ろから襲い掛かり首をヘッドロックで締めあげながらバリカンをガチガチやるかんな。目をむいて舌を吐くマサル。本当に苦しげに見える。勝地くんの名演技ですね。

・テレビ画面。女子アナが先ほど入ったニュースを読み上げている。そのあとスタジオにかんなが入ってく場面に切り替わり、アナの声はバックに小さく流れるのみになるので聞き逃しがちですが、どうやら誰だかが農薬で自殺したとか殺されたとかいうニュースらしい。
こういう事件が起きた直後というのが「ニューヨークマラソン」がこのタイミングで放送されるヤバさを際立たせる、まさにそのための仕込みだったと思われるのになぜ聞き取れないような音量にしてあるんですかね。

・音楽が流れ「ニュース特集 熱いぜ!中年ロック魂!」と題された生番組が始まる。隣りのキャスターがなにかと質問投げかけても社長に言われたとおり一切しゃべらない(喋らせるとロボットみたいだからだろう)TELYAにキャスターもしばしば困り顔。
ともかくもキャスターの紹介のもとメリケンサック登場。腕にギブスしたハルオとアキオ、ジミーとヤングの後からもう一人髪の毛立てた若者がすごすごという感じで入ってくる。「ん?1234、5人いるぞ」と指摘する社長に無言で正面笑顔で見たままのかんな。若者がエレキベースを手にする。「あれ?ベース変わった?」「どうです?」とちょっと得意げなかんな。
目に手をあててちょっと鼻すすりあげる若者はマサル。ここまで来てまだ泣くか。いきなりテレビ出演なんてある意味すごいのに。イケメンじゃんと社長。マサルが正面向き直ると、頭の向かって右半分は丸刈り。しかもマジックで「自信」とか書かれてる。
一方二人羽織状態でギターを肩から下げるハルオアキオ。人前でギターをちゃんと弾けるか不安をもらすアキオに心配しなくてもだれも兄貴のギターなんか気にしてないと答えるハルオ。言い方はあれですが敵意はないむしろ暖かい声音です。二人で一人分の役をやらざるを得なくなってようやく自然と支えあう気持ちになれたんでしょうか。

・「かんな!パンクのなんたるかをまさかおまえに教わるとはな!」かんながかつて夢で見たとおりのセリフが社長の口から。ちょっと感動的なシーンです。

・そして演奏が始まる。ギターが二人羽織にもかかわらずちゃんとした演奏になっている。しかしにわかに(若いころより)滑舌良くなったジミーの歌がもろ「ノーパン喫茶で農薬のませろ」とちゃんと聞き取れてしまってキャスターも顔をしかめる。画面の下に歌詞はニューヨークマラソンで出しているのに。
顔が引きつっていくかんな。病院飛び出してそのままちゃんとメンバーと話してないとしたらジミーがちゃんと話せる事自体も知らないはずだからまさに晴天の霹靂でしょう。

・「農薬のませろって歌ってるぞ」「こんなのリリースできねえよ」。社長が隣のかんなを見るとすでに逃げ出したところ。スタジオの扉を開け「お世話になりました!」と一礼して走り出していく。結局ツアー最初の公演と同じ展開に。あんなに頑張ったのになあ。金子が扉のすぐ前でステージ指さして大笑いしてます。

・地下駐車場の車に飛び乗ったかんなは「やっぱりパンクなんて、だいっきらい!」とハンドルもって正面にらみつける。相変わらずの実家の車で夜の道路を走り去っていく。メンバーを放り出して彼女はどこへ向かうつもりなのやら。

・それから数ヶ月後くらい?社長は上機嫌でかんなと電話。「20万アクセス突破しちゃったよー」。社長が覗きこむのはメイプルレコードのHP。映ってるのは先日のテレビ放送の動画。しかし電話の向こうのかんなは反応うすい。
「もう関係ないんでわかんないです」。彼女は実家の回転寿司屋で働いてる最中。結局あのまま業界から足洗ってしまったのか。しかしメリケンの人気がいまだ上昇中だからか社長との関係は良好なよう。それにしてもあんな歌詞の歌の動画、公式サイトで流して大丈夫なのか。

・「ところで今日ライブだよね。チケット関係者扱いでなんとかなんない?」。テレビ放送の件で結局仕事をやめて実家に戻ったらしいかんなにこの発言は?話しながら店の外にでたかんなは「関係者って社長は関係ないでしょ」「そこをなんとかー」。この時点では謎だらけな会話です。

・店のワゴンに乗って出かけようとするかんなは父親に店の制服(ハッピ)脱いで投げ渡す。その下のTシャツにはSMS(少年メリケンサック)の文字。「言ったでしょ。今日ライブなの」といい笑顔でいうかんな。
そしてメリケンサックのライブの様子。客席は大盛り上がり。どうやらあの歌詞が原因で結局メリケンサックはメジャーデビューできず、これまで通りインディーズバンドとして全国のライブハウスを回る、かんなはかつての金子のように実家の仕事手伝いながら彼らのマネージャーをしてるということのようです。そのわりにメイプルレコードのHPで動画流したりしてるのが謎ですが。メイプルに所属してるんだかしてないんだか。

・引き続きライブの様子。ハルオアキオは相変わらず二人羽織のまま。いまやマサルもノリノリで自らもマイクに「撲殺撲殺撲殺」とか叫んでる。かんなはステージに向かっていい笑顔で鼻を指でこすってみせる。そのサインって・・・!。それを合図にジミーが背中から客席にダイブ。ステージはますますヒートアップ。アキオの動きに引っ張られるハルオが苦しそう。今度は逆にハルオにアキオが引っ張られる。デジカメで撮影するかんな。
演奏ラストでもはや揉み合ってる体のアキオハルオにかんなはちょっと不安そうな顔。「ケンカしろ」のサイン出したのはかんななんですが、彼女はあのサインで何をやりたかったのだろう?
ギターを奪い合う二人。ついにギターを手にしたアキオは大きくギターを振りかざしてハルオに殴りかかり、体沈めてハルオがよけたため思い切りジミーの頭を殴ってしまう。大きく口開けて悲鳴をあげるかんな。ステージ中央に死んだカエルのようにうつぶせに倒れるジミー。見つめる一同。「ジミーさん?」 ジミーの尻が大写しになり、そこに「END]の文字が縫い付けられている。笑えるようなブラックすぎるような衝撃のラストです。

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『少年メリケンサック』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2012-09-11 15:04:23 | 他作品
・かくてツアー開始の日。メンバーは高円寺駅前でかんな待ち。車椅子のジミーは奥さんから薬の種類について注意を受けている。・・・奥さんついてったほうがいいんじゃあ。
そこへかんなが実家の回転寿司の小さなワゴン車でやってくる。こんな車でツアーって。会社で手配してないのか、あれだけ力入ってたはずなのに、と思ってたら、かんないわくリハでお金使いすぎたしわ寄せなんだとか。車のキャリアにドラムセット乗せるのはいいとしても車椅子まで積んであるのが、バンドのツアーとしてありえない絵柄でシュールです。

・後部座席に座ったアキオとハルオは間に座ったヤングが何とか二人をとりもとうとするのをよそに不仲炸裂。タバコ吸うなら窓を開けろというハルオにいらだったアキオはメリケンサックはめた手でハルオ側のガラスを殴ってヒビ入れたあげく足で窓を蹴破る暴挙に。
かんなが驚いて急ブレーキを踏み急停車。親の車なんだから弁償しろと迫るのへ助手席のジミーが何事か訴える。指で必死にズボンに縫い付けた「WC」の文字を指さし強引に車降りるものの、間に合わず力ない声とともに黄色い水が地面に流れる映像が。なんと思い切ったシーンを入れたものか。さすがにジミーさんの体は開けたドアで隠してますけどね。

・キャリアの車椅子にジミーのズボン干した状態で高速を走るワゴン。カオスな風景だ。名古屋出口を通過したあたりでまた金子へのインタビュー形式で、最初ハルオとジミーがバンド組んでてアイドルっぽい仕様でデビューしたことが語られる。
ローディで使ってやるなんていってた弟に頭越されてこりゃアキオ面白くないだろうなと思ってたら、なんと少し後で弟たちのローディやってるアキオが出てきて驚きました。ところでアップになると金子はなんか鼻曲がってるような?実はこれも伏線なんですよね。

・ハルオとジミーのバンドは「少年アラモード」なるグループ名。マッシュルームカットに全身ツナギ ?な格好で「僕らのネバーマインド号」なる歌を歌う彼ら5人組のプロモ映像が紹介される。むかしのGSブームのときにいたなあという感じのバンドです。
といっても多少誇張気味で歌詞も踊りも歌い方もなんか微妙にキモい。アイドルグループからパンクバンドに転身、というところで「レイジー」というバンド(のちにメンバーチェンジを経てロックバンド「ラウドネス」に)がモデルじゃないかという話をよく聞きますが、赤頭巾ちゃんがどうたらいう歌詞からして正解だろうと思います(レイジーには「赤頭巾ちゃんご用心」というヒット曲がある)。
「乗組員は」という歌詞のところでみんなニックネームなのに最後の一人だけ「ムライ」なのが笑える。みそっかすなのか。

・そこそこ売れて盛り上がってたメンバーの中でハルオだけは「こんなのロックじゃねえとか恥ずかしくて兄貴に見せられねえとか言ってた」そう。アイドル雑誌の表紙写真でも一人だけ仏頂面だったり。意に反して事務所にアイドル売りされるって結構あるパターンみたいですが。
しかし「兄貴に見せられねえ」というあたり、ハルオはアキオの評価をすごく気にしている、それだけ兄貴を(当時は)慕ってたのが感じられます。

・メンバーを出待ちする女の子たちを整理してるマネージャーらしい人、マッシュルームカットだから最初気づきませんでしたがよくよく見ればなんと金子。元マネージャーだからこんなにメリケンサックに詳しいのかと納得。
そして強引に整理されてるファンの女の子がどうやら後のジミーの奥さんぽい。アラモード時代からの追っかけだったんですね。かつて追い続けたアイドルがあんな姿になってしまってそれをずっと世話してるというのもどんな気持ちでしょうね。
そしてアラモードの荷物を降ろしにきたスタッフが何とアキオ。ハルオアキオともまさかの再会にびっくりというか愕然という面持ちです。

・ややあってアキオは笑ってみせるもののなんか不穏な笑顔。「ま、よろしくお願いしますよハルオさん」とか言ってるのも不気味です。絶対含むところありまくりなはず。

・再び現在。「GO AHEAD」なるライブハウスの入口に車が到着。アキオがハルオに「おめえのクソみてえなバンドで来たなここ」と言ってるので回想シーンのライブハウスと同じとこなんだ。
出てきたスタッフが「メンバーのみなさんはいつごろ到着ですか」。まあ当然そう思うでしょうね。かんなもメンバーは後から新幹線でとかいってごまかすし。わざわざ「グリーン車で」と言い足すあたりは見栄ですね。あんな車で来たもんだからなおさら。

・アキオたちが機材設置したりする中ジミーは一人車椅子に座ってヘッドホン聞きながら体揺らしている。いぶかるライブハウスのスタッフにスタッフ証見せていちおう向こうも納得してる。
そんな時かんなの携帯が鳴り、誰かと話してたかんなが「今浜松越えたそうです」と言うとスタッフもほっとした顔に。自分で携帯鳴らして新幹線車内のメンバーから電話がかかってきたごとく装ったわけですね。涙ぐましいなあかんな。

・すごい行列ができてると聞いてかんなが外を見に行くと本当に長蛇の列。しかもものがパンクだけに殺気立った連中ばかり。楽屋に走って戻ったかんながソールドアウトを告げると、メイク中のメンバーは嬉しそうな顔。
アキオは「はしゃいでんじゃねえよ」とかんなに言いますが、かんなははしゃいでるんじゃなくて予想以上の反響と客層にバレたときのことを思ってびびってるわけですね。

・さらに社長まで登場。社長自ら新人バンドのツアー初日に顔を見せるとは気合い入ってます。メンバーに挨拶すると楽屋に入りかけるのを入口外で阻止したかんなは入場拒否の理由として「危険だからです」。ちょっと気取ったようなかんなの立ち姿がまた状況に妙にマッチしてる。
集中力高めてるとか体を切り刻んでるとかいう無理矢理な説明に案の定「期待しちゃうね」と社長喜んじゃいました。素直に客席で待ってくれることになったもののどんどん傷口広げてる気もします。かんなも胃をさすってるし。

・はじまる大分前からすでにノリノリの客席。解散ライブのジミーのごとくみんなの頭上に抱え上げられ運ばれてる人は単なる一般客なのか?ここでメリケンサックを手にはめたりしてるメンバーの最終準備光景が挿入され、もしかしてもしかしたら観客を熱狂させるようなステージをやってくれるのか?と一瞬だけ期待させてくれます。

・いよいよ開始が告げられ客席がメリケンサックコールに沸く中、かんなは涙目で社員証?を外すと「社長、今まで本当にお世話になりました」と涙目で告げる。始まる前からあきらめてしまうのか?「え?」と聞き返した社長に「なんでもないです」とごまかして自分もメリケンサックコールに加わる。切ないようなギャグなような。このあとの惨状(予定)への期待が高まります。

・楽屋の扉が開きメンバーが出てくるところをブーツの足だけのアップ+スローモーションで演出効果たっぷりに見せる。演出だけはすごい大物感があります。こんなおっさんたちがパンクバンドやってるって、考えようによっては一周回って格好いい気もするんですが、それが観客に理解されるかどうかというと・・・。

・ライトがつきステージのメンバーの姿がはっきり見えた瞬間にたちまち静まり返る客席。唖然とする社長とその横でうつむくかんな。やっぱりこうなっちゃいますか。でも演奏が始まったらひょっとして・・・ってやっぱりひょっとしませんでしたけど。

・アキオが呂律の回らない挨拶をする中、ずっと静かだった客席についに中指立ててのブーイングの声が起こる。社長いわく「少年じゃねえよ。中年メリケンサックじゃん!」 ああアキオの登場このかた映画の観客みなが内心思ったろうフレーズが。
横を見るとすでに職員証を残してかんなは消えている。見れば重い扉を無理矢理開けて大雨の中へ逃げ出していくところという・・・。一応最後まで見ててやれよう。

・ステージにいろいろな物が投げ込まれるが、アキオは「今から奇跡見せてやっからよ」と宣言。客席が再び静まる。そして演奏が開始される。
そのころどしゃぶりの中をずぶぬれになりながらひたすら走るかんな。何言ってるのか聞き取れないわめき声とともに。妙にリアル感のある光景です。今この時ライブハウスでは奇跡が起きている・・・という可能性もなくはないのに。

・そのころのライブハウス。演奏は実にモタモタのガタガタ。リハの時のほうがマシだったではないですか。お客のしらけきった表情ときたら。メンバーの方もハルオなんか表情冷め切っててまったくやる気なさげなんですが。
そしてギターの弦が切れたところで、ハルオはかつてローディしてた頃の兄が後ろでひゃひゃひゃとあざけり笑う姿を幻視する。ついに棒立ちになるハルオを「なにやっってんだよ」とアキオが叱責しますが、ハルオがまじめに演奏したからどうこうなるレベルでもないですねすでに。

・どこかの居酒屋で酔いつぶれているかんな。口からスルメがはみ出しペットボトルの大瓶を抱えているのがなんとも。若い女の子がなんて格好ですか。かんなだとそれすらキュートですが。

・主人に起こされ携帯が鳴りっぱなしだと言われてへらへら笑顔で電話に出ると相手は社長。詫びるかんなに「謝らなきゃいけないのはおれのほうだよかんな」と意外にも優しい声。そして店の外には傘を差して微笑みかける社長の姿が。「今夜おれは本当の意味でパンクに出会った。パンクってのは生き様なんだよ」。そしてツアーをこのまま続けていいと職員証を返してくれる。その場に泣き崩れるかんな。
・・・というのは残念ながら夢だったというオチ。さすがにそう上手くはねえ。店主に起こされて、ぐっと持ち上がったかんなの顔が本当の酔っ払いみたいなよれよれ感なのがすごいです。電話が鳴りっぱなしなのは夢の中と一緒ですが、床に倒れて寝てるところがよりすごいことになってます。

・ライブハウスではアキオがハルオに馬乗りになって殴りつけてる。止めに入ったヤングが逆に吹っ飛ばされる始末。そして我関せずとばかり小指立てて紅茶(みたいに見える)飲んでるジミー。この人何気にどんどん調子よくなってってる気がします。すでに客の姿もない。
アキオがパイプ椅子を、ハルオがナイフ?を持ち出していよいよヤバい空気になったところにかんなが飛び込んでくる。腕を組んで柱の前に立った社長に今さら例の映像は25年前のものと釈明するが、「遅いよ!」と一喝される。「ここの修理代はおれが出す。それで終わりだ」と社長は厳しく通達。怒られるばかりだとわかってたんだろうに、よくかんなは戻ってきたもんです。

・「じゃあツアーやめていいんですね!」と嬉しそうにいうかんな。夢でツアーを続けられると喜んでたときと同じような台詞とテンションなのに内容が正反対なのが笑えます。
しかしキャンセル料が発生するから止めるなとあまりなご達しが。にもかわらずツアーが終わればかんなもバンドも契約破棄だという社長にアキオが「そんな眠てえこといってるからパンクが死んだんじゃねえのか」「若いやつらがつまんねえから俺たちに食いついたんじゃねえのか」と反論。確かに一理あります。しかし「ちゃんと金取れるライブやってから言えよ」「今日一曲でもまともにやれた?」という社長の言葉のほうがさらに理がある。しかし締めが「年には勝てねんだよ」なのは悲しい。社長がパンクやめたときにも年食ってまでできるもんじゃないというあきらめがあったんでしょうか。

・ツアーを続けるかどうかメンバーに問うかんな。自分はどっちでもいいとあまりにも無責任な言い草で、力なく座りこんだまま目もあわせない。精神的に疲れきってますかんな。
しかしどっちでもいいことはないと真っ先に声をあげたのがハルオ。自分は生活に困ってるわけではなく、栗田さんに誘われたから参加した、だから会社など関係なくかんな個人の決定に従うと。牛の糞投げつけてかんなを追い返してからリハ中のスタジオに現れるまでの彼の心境の変化が描かれてないので、なぜハルオがかんなに従うのか、そもそもなぜバンドに参加する気になったのかもわからないままなので、彼の入れ込み方がちょっと不思議です。
ヤングとアキオは「どうします」「どうすんだよ」と言い合っている。すると向こうのほうでジミーが相変わらずマイクスタンドを握って飛び跳ねるような動作を。これはツアーを続けたい、の意思表示ということでいいんですよね?

・ここでいきなり金子の語りを導入にさっきの回想の続きに。「少年アラモード」をクソだとあざ笑う金子の姿のすぐあとにアラモードの演奏中に舞台の袖でやはりひゃひゃひゃと笑うローディアキオの姿。
ハルオは演奏しつつも兄を気にしてにらむように見ていたが、いきなりギターの柄が外れる。弦が切れるとかでなく柄が外れるとはただごとではない。アキオは舌出しながらドライバーをかざしてみせる。いくら気に入らないからって演奏中に壊れるような細工までしておくか。それでも笑顔でライブパフォーマンスに戻ろうとするハルオ。
そこへ会場に来ていたパンクな連中(ヤングもいる)が乱入する。金子いわく「おれがヤングをけしかけたんだ。まあ仕掛け人つうの?」それは仕掛け人の使い方を間違えているだろう。それにしてもアキオといいマネージャー金子といい、関係者に裏切り者続出ですね。しかしバットを振り回して暴れるヤングをマネージャーとして一応止めるふりをしたら、メリケンサックした拳で顔面を殴られて結果今のように鼻が曲がった、というオチが。結局自分も痛い目を見たわけです。
ヤングたち不良グループは客席を荒らしまくり客は悲鳴あげて逃げる。それでも演奏を続けてたメンバーですが、アキオがいきなりハルオの肩に腕もたせて「やっとおもしろくなってきたな」というなりメンバーを殴ったのをきっかけに、不良たちもステージにあがってメンバーを殴り始める。早くに物陰に隠れて難を逃れたジミーはメリケンサックが床に落ちてるのに気づきそれを左手にはめるとヤングに殴りかかり、額に今も残る浅い傷をつける。しかし大したダメージにもならずかえってヤングの頭突き一発で沈められてしまう。アラモードみたいなナンパなバンドがこんな目に合うってのもなかなかない。

・アキオはハルオにギターを弾くよう詰め寄る。どうせもう誰も彼のプレイなど見てないのだからと。たしかに客席は大混乱中。ベースを肩にかけたアキオはマイクに向かってアラモードの解散を叫びそのままベースをかき鳴らす。いつのまにかヤングがドラムを叩きだし、マイクの前でじっと考える顔だったハルオはついにギターを肩からかけ、ジミーは右往左往していましたがマイクに向かってイカれた顔で「ギャー」とがなり出すなり上半身も裸になってわめく。
ふらふら起き上がったマネージャーはその光景に見入り、自身もギャーと叫ぶ。ハルオもマイクにギャーと叫び、ジミーはどこからか出した拡声器でギャーと叫ぶ。笑いながらカメラで写真をとりはじめるマネージャー。これがメリケンサック誕生の瞬間だったそう
。騒ぎ自体はアキオや金子が狙って起こしたものでしたが、新たな形のバンド誕生はハルオの、ヤングの、ジミーの自発的行動、まさしく内面からの衝動によって促されている。これは確かに伝説といっていいでしょう。

・少年アラモードのアラモードの文字をメリケンサックに書き換えたワゴンでツアーする一行。ほのぼのテイストの地のイラストの上にマジックでいろいろ書きなぐってある車体がメリケンサックの成り立ちそのままで一種すごみがあります。

・そして現在のかんな運転のワゴンへと物語は転換。誰かおならしたと運転しながら後部座席を振り向くかんなは急ブレーキかけて全員におならしたかと問いただす。そこまでするような話じゃない気もしますが、「信じられない」とかんなはおかんむり。
気を取り直して運転再開しますが、しばらくして今度はあからさまに大きな音が。また急ブレーキ。真っ先にアキオに抗議するかんなに「今のはおれじゃねえよ」「今のは?じゃあさっきのは?」「おれだよ!」 実にしょうもない会話です。一回のおならにつき500円徴収すると言い渡すかんな。何度も同じことを強調するハイテンションなしゃべり方が作品のテンポを作っています。

・郊外の食堂前で車を止め、かんなは一人マサルに電話。バイト中のマサルは仕事中なのに優しく応じている。仕事中にいいのかね。「新曲きいてくれた?」というマサルに「聞いてる。なんか癒されてる」と微笑むかんな。確かに彼と話してるときは癒されてるって顔してるんですよね。
「ツアーが終わったらお父さんに挨拶にいこうか」というマサルの声を聞いてるのか聞いてないのか、かんなは向こうを向くとすごく嫌そうな顔で「えっ」と叫ぶ。「ちょうどぼくも君との将来について考えてたんだ」「もちろん歌は好きだけど売れるとか売れないとかそんな下劣な価値観に左右されるのは違うっていうか」。
売れないやつの定番的言い訳文句ですね。要は才能に見切りをつけてかんなとの結婚に逃げようかという話ですよねえ。しかしそんな程度の気構えとはいえ一応プロポーズに等しい台詞を口にしてるのに彼女は聞いてないってのも気の毒な。

・そのころ店の中ではアキオが焼き飯とチャーハンをオーダーしたのになぜ同じものを持ってくるのかとウェイトレスに詰め寄っている。このウェイトレスもこんなおっさん相手に脅えることなく言い争っていて肝据わってんなあ。そこにかんなが止めに入り「焼き飯はチャーハンです!」とアキオに怒鳴る。さっきの「えっ」はこの騒ぎが見えたからだったんですね。
そのときジミーがいきなり手をあげて立ち上がるとズボンに縫い付けた文字を指差す。またWCかと思ってるとハルオが「ハンバーグ」と無表情に読む。そんな言葉まで縫いつけてあるのか。しかし「ないです」とウェイトレスはにべもない声。
ところでマサルとの電話はどうしたのかなと思ってると案の定携帯外に置きっぱなし。「まずは結婚して生活を安定させてそれから純粋に音楽を・・・」とかマサルの声が一方的に流れている。すごい放置プレーだ。

・その後の旅の光景に重ねてマサルとかんなの会話が流れる。「なんかいいなあ。楽しそうで」「楽しくないよ」「楽しいさ。君といっしょのツアーなんて」。
二人の平和な甘ったるい会話を背景に、アキオはヘルス嬢と喧嘩してるわハルオは夜の公園で一人ギターの練習してるわかんなはコインランドリーで洗濯してるわ(その横でヤングが堂々パンツを脱いでかんなに渡す。後ろからもろにヤングの生尻を映すすごい絵柄。一応前は手で押さえて隠してますが)と実にシュールなそれぞれの過ごし方にスポットがあたる。渡されたパンツをそのままかんながゴミ箱に捨てるのをヤングがあわてて拾おうとしてるのがユーモラスです。

・横になって電話してるかんなはツアー途中で落ち合おうというマサルに何が食べたいと聞くと、バイト先の牛丼屋でマサルは「たこ焼き食ーべーたーいー」と椅子の上でくるくる回ってる。仕事しろって。女子店員にも「先輩そろそろいいですか」とか注意されてます。
ちなみにかんなはホテルのベッドで横になってるのかと思いきや、隣にはジミー。前にはハンドル。ようは車の中で雑魚寝なんじゃないですか。どれだけ冷遇されてるんだ。ツアー初日があんなだったからさらに予算削られまくってんのか。

・田んぼ道を走る車。今日はハルオが運転。後部座席のかんなは助手席で雑誌持ってなんか揺れてるヤングに何してるんですかと尋ねる。「こうやってると車の振動でオッパイが揺れてるように見えるんだよ」と真顔で説明する・・・。中学生ならともかくいい年したおっさんの行動としてはどんなもんか。
それを聞いたアキオが雑誌奪って自分も試してみる。もっと車揺らせよハルオなどと言い出し、ジミーもサングラス外してのぞきこむ仕草。もっとも覗いてるのは隣りのかんなの身体。かんなは上着の前を掻き合わせ「揺れませんが」とさも不機嫌そうに言う。この時の声音が実に嫌そうで素晴らしいです。やむなく向こう向くジミーも悪びれずにちっとか舌打ちしてます。

・夕方、どこかの都会へ到着。ライブハウスへ機材運ぶ一行。そこには今日のバンドとして同じレコード会社の「GOA」の名がある。「言ってませんでしたっけ?急遽対バンになったんです」。かんないわくうちの一押しバンドで「社長の判断でブッキングしました」だそう。確かにメリケンサックの演奏だけじゃ金取れないなあ。
先にハウスに入っていたGOAのメンバーはメリケンのメンバーを見ると自分から寄ってきて口々に名乗り、いかにもメリケンのファンですという顔で今日は一緒にやれて嬉しいむね挨拶を。躾が行き届いてますね。

・メリケンのライブはあいかわらずメロメロですがこないだのライブよりはましになってる、かも(あの時がひどすぎただけだけど)。とはいえステージから転げ落ちるジミーに頭を抱えるかんな。拡声器で何かがなりながら客席を這いずってくるジミーにGOAのファンとおぼしき女の子たちが脅えて逃げる。確かにこりゃほとんどホラーです。
這いながらステージに戻ったジミーがよれよれ演奏のラストにそれでも間に合って、ちょっとジャンプしようとしてそのままステージに転がる。もうめちゃくちゃ。しかもMCのカンペ ?を読むのにアキオは老眼鏡かけるし(笑)。かんなが頭かかえて「勘弁して」と蚊の鳴くような声を絞り出しています。

・すでにふらふらに疲れきって楽屋へ向かう一同。ジミーなどヤングの肩にしょわれてる状態。GOAの横を通り抜けていく。最後にハルオが階段下りて楽屋へ向かうとき、さっきとうってかわって冷たい目付きのGOAが「やっぱああはなりたくないっつうか」「年寄りの冷麦っつーか」などと話すのを聞いてしまう。
ハルオは足を止めて振り向いて聞いているがヤングに促され楽屋へ向かう。メンバー中随一の常識人でありつつ先の回想シーンで示されたように凶暴性を内に秘めているハルオですから、ただではすまないんだろーなと期待と不安が高まっていきます。

・GOAのステージが始まる。女の子たちの歓声。楽屋でまだ荒い息をついてるメンバーにかんなはアンコールをやるかと尋ねる。「私は出ないほうがいいと思います」。
しかしアキオは「久しぶりに暴れるか」とヤングにメリケンサックを投げる。驚くヤングに「おめえガキどもにあそこまで言われて我慢できるのか」。実はみんな聞こえてたのか。一気に不穏な空気が流れてます。
やめてくださいよというかんなに「うそだよばーか」とアキオは言ったものの、そこへ女性スタッフが「おたくのギターの人が」と呼びにくる。そういえばハルオの姿がない。さっきの様子からして相当ヤバいのでは。

・ステージに上がりGOAのボーカルをそばでじっとにらみつけてるハルオ。何をするでもないですがこりゃ嫌だ。しかもどんどん近づいてくし。さすがにボーカルが「なんですか」と聞くといきなり頭突きをかます。さらにギターの青年を「さっきなんつった、ステージ出るときはもっとマシな服着ろや」と罵倒して殴り倒す。機材も倒す。その光景に目を見開くかんな。
これは止めないと、となんかはずんだ声で言いながらメリケンはめてステージに駆けていくアキオ。アキオとヤングはメンバーに狼藉を働き、ハルオは客席にずかずかと歩いていく。
アキオに殴られて舞台袖まで転げ落ちてきたメンバーをジミーがマイクスタンドで殴る。まさかのジミー参戦。かんなに「ジミーさん」と鋭い声で叱られましたが。しかしジミーだけ叱ってもどうにもならない状況ですね。

・夜。新大阪駅前にたどりついたマサル(髪の毛がバイト仕様のまま)は「ねーねーねー何食べるー」と電話口ではしゃぐが、「ごめんまーくん、ちょっと今日、ムリかも」とかんなは泣きそうな声を出す。かんなはまだ楽屋。彼女のそばではメリケン、GOA両方のメンバーに警察が事情聴取中。
「急に、取材入っちゃって」。素直に警察沙汰になったって言えばいいのになあ。マサルに隠すことないんじゃあ。「そっか。仕事じゃしょうがないね」とまじめな顔で受けるマサル。状況知らない彼の「がんばって」と言う言葉に半泣きで「がんばる」と答えるかんなが悲しくも可笑しいです。

・かくて次の土地へ向かう一行。GOAとのトラブルにもかかわらずツアーはやはり続行。もはや社長的にはなまじテコ入れしようとしてケガ人増やす気にはなれずひたすら違約金払わないためだけのツアー続行なんでしょうね。ちなみに運転はまたハルオ。かんなにいちいち急ブレーキかけられちゃたまらんということでしょうか。

・BGMはかんながイヤホンで聞いてるマサルの歌声(「自信」)。かんなは後部端の席で思いつめたような顔で押し黙ったまま。二つ隣りに座ったアキオが強引にイヤホンとipodを奪う。「マー君のデモ?彼氏か?」「ちがいます」。否定するのは知られるとうるさいと思ったんでしょうか。
「チンコでけえのか」「ちがうっつってんじゃないですか」「ちがうんだったらゆっとけよデモくんに。お前才能ないからさっさとあきらめて牛丼屋の店長になっちまえって」。
妙にマーくん情報にくわしいアキオ。睨むかんなにへっへっへとこれみよがしに笑ってみせる。「メールみました?」と問い詰めるかんなに当然見ると全く悪びれない。プライバシーも何もあったもんじゃない。一緒に旅するには最悪の相手ですね。

・ジミーがせっぱつまった顔でハルオの袖を引っ張り「WC」の文字を示したため「はいトイレ休憩」。確かにハルオに運転させた方がいろいろとスムーズですね。

・アキオは「ヒモだろ。女に食わしてもらってよ。あわよくばコネでCD出そうって腹だ。見え見えなんだよ」「今は年下の可愛い彼氏でもハゲて太って屁くさくなるぞ」と言いたい放題。なんかマーくんの未来予想図はユーキ43を彷彿とさせます。
アキオの言葉に目の下をピクピク引きつらせてたかんなは「マサル君のは臭くないの」と変な反論を。それに対しアキオは「だからやってる音楽も無臭なんだよ」と何げに奥が深い気もする発言。重ねて「チンコでけえのかよ!」と詰め寄るアキオにかんなは泣きそうな怒り顔で黙ったまま答えない。
この一連のシーンのかんなの怒りの表情がすごい。よくあんなに顔面筋の動きをコントロールできるものです。

・コンビニに車を止めメンバーはアイスを購入し再び出発。あれ、かんな乗ってないんじゃ?出発直後からジミーが何事か訴えているのもそれなんでは?
しかし皆には通じてないというか気にも留めてない。ヤングが「あっ」と声をあげるので気づいたかと思いきや、「アイスのスプーンが入ってない」。ジミーは重ねて訴え続けヤングが再び「あっ」。「栗田さんは ?」 おおやっと気づいた。ジミーが親指立てて見せてるのでやっぱりこれが言いたかったんですね。
その頃一人歩道を歩くかんな。あれだけいろいろあっても最終的には逃げなかったかんなをついに切れさせたのはマサルの悪口だった。やっぱり愛、ですかね。

・そこへメンバーが車で戻ってきて、ハルオが「栗田さん」と声をかける。杖で早足に歩いてくるジミー。ずいぶい回復したなあ。ツアーがいいリハビリになってるのかも。アキオが「おめえなにやってんだよ」と怒鳴りますが、ふくれた顔でしばしにらみつけたかんなは勢いよく駆け出す。ヤングとハルオは後を追って走り、アキオも遅れて走る。追いかけるヤングたちをハンディカメラ的揺れる画面で捉える。
しかしかんなはバスに乗りこんで逃げきる。後部席の窓ごしにメンバーに舌を出しながら中指立ててみせるかんな。その表情といい行動といいしっかりパンクに染まってます。「職場放棄だなありゃ」「兄貴のせいだぞ」と言い合う兄弟。やっぱり彼氏をバカにしすぎたのが原因とは思ってるらしい。その頃ジミーは車の中で一人例の雑誌を揺らしながら凝視してる。ドアも開けっ放しだってのに。

・明るくおしゃれなカフェ?でセーター姿でギターを弾いているマサル。そこへドアが開いてかんなが入ってくる。「あれーかんな?」「来ちゃいました」とにっこりするかんな。マサルも笑顔に。ホッとするワンシーンです。

・そのころメンバーは夕暮れの街をライブハウス目指して進むが道に迷い中。ジミーが地図を広げてる。誰かが屁をこき「アキオさん臭いすよ」といった会話が。車の中で消臭スプレーしたりして混乱は拡大。さらにガソリン切れで車まで止まる。かんながいないとボロボロですね。

・夜、さっきのカフェでマサルは弾き語りする。旅先でついて早々にステージを(無料出演にしても)確保してるのは、マサルも意外とやり手です。歌うのは「自信」。ところどころ音外れてますが結構上手いような気も?公園のとき同様お客は誰も聞いてないですけどね。

・テーブル席でマサルの歌を聞きながらかんなは憮然とした顔でアキオの言葉、ヒモとかやってる音楽が無臭だとかを思い返している。「なにも言い返せなかった」とかんなは心で思いますが、それは音楽的なことに対してだけかヒモ発言についてもなのか。
「君を幸せにする自信が、ない」という歌詞の部分で席を立って自販機に向かったかんなは、財布から大量の500円玉(みんなが車内でおならするたびに徴収したお金)が出てきたのをしばし見つめ、暗い、どこか決意を秘めた目でマサルを見つめる。「行かないで行かないで、席を立たないで」という歌詞をバックに(状況がそのまますぎて笑える)少し涙ぐんだ顔になると表へ飛び出し一目散に走リ出す。
あの500円徴収のエピソードがこんな風に生きるとは。くだらないいきさつのお金なのに、だからこそほろっとさせてくれます。

・その頃メリケンのメンバー(すでにメイク済み)もライブハウスを探して走っている。通りすがりに花屋のバケツを蹴倒し水をこぼして怒鳴られたりしてます。ジミーはヤングに背負われてる。一番若くて力もあるヤングは常にこういう役させられてるなあ。
「ここさっきも来ましたよ」と言いつつ商店街を走り続ける一同。一方かんなはタクシーを止めて息切らしながら指差しポーズで「広島!」。ここ岡山なんじゃあ。お金も時間も相当かかるんじゃあ。なお走りつづけるメンバーはまたも花屋のバケツを倒す。同じとこぐるぐる回ってんじゃん。この調子じゃ案外かんなが着く方が早かったりして。

・「最後の歌は一番大切な人のために捧げます」と言って弾きだそうとしたマサルは、かんながいないのに気づき暗い表情で「やめます」とギターをおく。まばらな拍手が。
かんなもステージ中のマサルに断りようがなかったのはわかりますが、手紙残すとか即メール送るとかのフォローをなぜしなかったんだろう。この後のマサルの浮気騒ぎはこのときのかんなの仕打ちに理由がある気がします。

・さんざん走ってまた花屋の前を通るアキオ。今度は蹴られる前にさっとバケツどかした花屋とアキオがしばし無言でにらみあう。そこへ追いついてきたハルオたちは路上でへたりこんでしまう。
ハッパかけるアキオに、行ったってどうせろくな演奏もできず客もしらっとしてるし走って行く意味がないとなまり全開で訴えるハルオ。アキオは「いいライブも悪いライブもねえべや」とそばの看板を蹴倒す。じゃあなにしに行くんだと問われて「どうせおれらは笑われもんだろ。若いときは大人に笑われて今はガキに笑われて、いまさらかっこつけてどうすんだ」「やらないでおさまんねえよ」。このシーンを見るとやっぱりアキオがメリケンのリーダーなんだなと思います。
今日やれなかったらおめえらのことぶっ殺すかもしんねえぞ。立て!とアキオが怒鳴るとなんとジミーが自力でいずこかへ全力疾走。ええ~!なぜ走れる!?「そっちでねえこっちだ」というハルオの声にジミーは引き返し、ハルオを先頭に皆走り出す。ジミーは再びヤングの背中に。走れるならもう背負う必要ないんじゃん?

・走ってライブハウスに駆けつけたかんなは無人のワゴンが止まってるのを見つけて自分のバッグ゛を投げ込むとあわててライブハウスの階段を駆け下りる。あの車はガソリン切れで動かないはず・・・ということはこの近距離にもかかわらずさんざん道に迷ってたってことなのか。

・なんと客席は総立ちの大ノり。ジミーさんもニューヨークマラソンと聞こえる程度にちゃんと歌えてる。「やればできんじゃん」と笑顔になるかんな。ジミーは歌の途中でかんなに気づいてアキオに知らせ、アキオはちょっと微笑んで指立ててかんなに合図。ハルオもちょっと笑う。かんなも満面の笑顔で両手の中指を立てて見せる。無言のうちに和解が成り立ってます。

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『少年メリケンサック』(2)-1(注・ネタバレしてます)

2012-09-11 14:55:00 | 他作品
・いろんな人たちのメリケンサックに対する一口感想を聴いて回ったという風な(映画のCMでよくやっているような)画面。作中に登場しない(一般客ぽい)人からメイン級の登場人物(社長、マサル)まで出てくるメンツは多種多様。この導入部で作品に一種ドキュメンタリー的、一つの時代の証言者的雰囲気を持たせています。
ラストがメリケンサックの元マネ(金子)による「もう、大嫌い」(,なぜかカマっぽい)と言う言葉、そして声にならないひゃひゃひゃっという笑いで締めるあたりで、素直な作品ではないのが見て取れます。

・「世界人類を撲殺!少年メリケンサック!」という、いかにもライブの導入部っぽいかけ声とともにタイトルが登場。演奏してるメンバーの映像とともにけたたましくメインテーマ(『ニューヨークマラソン』)がかかる。狭苦しそうなライブハウスの客はかなりの熱狂ぶり。ジミーのまったく何言ってるかわからないボーカル。上半身裸でモヒカンのドラム(ヤング)など癖ありまくりです。
そして演奏するメンバーのアップが一人一人止め絵+背景に模様が描かれ、彼らの名前がローマ字で紹介。この止め絵、メンバーはかなりいっちゃってる表情です。とくにジミーさんは目の焦点があってなくてヤバさ満点。

・一番が終わったところで曲調が変わり、目がいってるヤングのドラムがはげしく入って「世界人類を~」のパートに。最初この部分は別の曲なのかと思ってました。
メリケンって「ニューヨークマラソン」しか演奏してるシーンないんですが、他の曲はないんでしょうか。さすがにこれ一曲だけじゃアルバム出せないしライブだってもたないでしょうに。

・いつの間にか口から血を流し「撲殺、撲殺」という歌詞のところでくりかえし殴るふりのパフォーマンスするベースのアキオ。どこからか出した拡声器で撲殺撲殺がなってるジミー。
そしてジミーは背中から客席にダイブ。これ客が常連ばっかで心得てるからこそ成り立つパフォーマンスですね。受け止めてくれなかったら大惨事ですから。

・いきなり白っぽい清潔そうな、でもどっか可愛い感じのオフィスに映像が切り替わる。「新人発掘部」(「部」だけ紙で手書きではっつけてある)と札が置かれたデスクの上のパソコン、mixi上の画面に「少年メリケンサック」の映像が映り、音楽も変わらず流れている。要はmixiで日記の主が公開してる映像だったというオチ。
タイトル「キンキンの日記」となってますが「キンキン」イコール元マネの金子ってことですね。「最新の日記」欄の他の日の日記タイトルも全部なんかバカっぽいです。

・この「新人発掘部」で、毒々しい色の棒つきキャンディをしゃぶり、派手なマニキュアを塗ってるラフだかお洒落なんだかわかんない感じの女子(主人公の栗田かんな)がメガネかけてその映像に見入っている。だんだんより目になっていくのが彼女の夢中っぷりを示しつつ笑わせてくれます。
番宣などでもよく使われてた印象的なシーン、というか表情。あおいちゃんよくこんな目の動きができるなあ。

・「キター!」と叫び、ノーパソ抱えてオフィス内をどこかへ走るかんな。人にぶつかったり書類倒したりしても意に介さず。彼女の興奮ぶりがうかがえますが、普段も結構ドジっ子なんじゃないかという気がします。

・社長室へ飛び込み「面白いもの見つけました!本物です。まちがいなく本物です」とかんなは叫ぶ。興奮気味の彼女に対し「なに!?」と席を立つ社長もややオーバーアクション気味。最初からここらあたりまでとにかくずっとテンション高めです。
物語全般にわたってテンション高い作品ではありますが、冒頭は展開から役者陣の演技までことさらテンションを上げていくことで、映画全体の雰囲気を作っていこうという意図なんでょしうね。

・「さっそく見ようか、といいたいところだが」、と彼女と社長の新人発掘の日々がすでに過去形のごとく語られ、「明日からどうする」と普通の笑顔のまま言う社長。どうやら彼女は今日で退職らしい。退職の当日に本物を見つけたと騒いでたのか。
それだけ仕事が好きなのか、あるいは個人都合による退職ではなく要はクビで、それを回避したいため最後まで悪あがきしてるのか。ストーリーを追ううちにほぼ後者なのがわかってきます。

・かんなも社長同様いい笑顔のままで「結婚を視野に入れつつ実家の回転寿司屋を手伝います」という。なんか夢破れて去っていく感じの台詞、っていうかそうなんでしょう。「回転寿司か」「回転寿司です」となぜか二回ずついう二人。
「回転寿司って・・・うける~」。なぜか顔覆ってしまった社長が気を取り直したような笑顔で「よっしゃ、見ようか」と手を広げる。このへんまだ二人の独特のノリについていけてません。話が見えないままテンション高い芝居に引っ張られてる感じです。

・かんながパソコンを開いてキーを押すとけたたましく「ニューヨークマラソン」が流れ出す。たちまちパソを閉じた社長は「これは、パンクだな」と言う。「うちが主に扱ってるジャンルは?」 かんなは壁にかかった所属アーティストのパネルを一つ一つ差しながら「なごみ系」ほかジャンルを羅列。「これは?」「パンクです」 会話の間かんなはずっと明るい笑顔のまま。会社の傾向と違うのは承知のうえで、笑顔で強引に押してしまえと思ってるんでしょうね。
普通「うちが主に扱ってるのは~なアーティストだ」と社長の言葉で説明してしまいそうなところを、短い会話のかけあいと小道具を使って映像で示しながら話を進めていく。それが歯切れよいテンポとテンションの高さを生んでいます。
なぜパンクを持ってくるか、とデスク叩いて立ち上がる(怒ってる?)社長に対しかんなは笑顔のまま「お世話になりました!」と社員証をデスクに叩きつけるように置いて去る。つまり契約切られる女の最後っ屁だったわけか?「待てい!」とテンション高く叫ぶ社長を入口前で振り返るかんなは「えー」と初めて嫌そうな顔に。これほんとにすごく嫌そうな顔で思わず笑ってしまいました。

・いきなり社長が髪を手で逆立てスーツを半ばぬぎネクタイを緩めどっかといすに座り足を組む。いきなり悪っぽいというかキャラ変えてきて「見ようかー」という。声も空気入りまくりでこの変化は何なんだ。
あいかわらず嫌そうな顔のかんなはそれでも「はい」と答えてデスクに戻りパソ開けて再び動画スタート。大きな音に対抗するように怒鳴りながら話す二人。なんて曲かなんてバンドか。また社長がパソを閉じて「殺す気か」と怒る。かんなも再びお世話になりました、と今度はバレッタ まで外して「イエイ」と社長に投げつけて走るように部屋から出ようとする。
「見ようか」と言う台詞、パソ開けたり閉めたりの動作、「お世話になりました」を前回とあちこち変えつつ反復することで可笑しみを出している。この「反復」もこの映画の特徴の一つですね。

・すると社長が部屋の中央まで追ってきて「ふざけやがって。おれはこういう下品なやつらが、大好きなんだよ!」と力強く宣言する社長に「ええ ?」とかんなは意外そう。「近頃のバンドは健康的すぎる、見た目は普通あるいは普通以下、歌詞が抽象的な精神論ばかり、だから嫌いだ!」社長はかんなを指さして言い切る。「なごみ系」とかまさにそういう感じじゃないのか。商売だからいやいややってるけど本当はパンク系のが好きだってことですね。
宮藤さんの脚本は何気に具体的な何かをイメージして毒を吐いてることが多かったりするので、ここでも“普通以下の見た目で抽象的な歌詞のバンド”の具体的イメージ(そういうバンド)があるんでしょうね。

・「好きなんですか嫌いなんですか」とかんなに問われて「ていうか、やってた」とはにかんだように笑いつつアーティストのプレートの一つを外してかんなに渡す。プレートの下には「近親憎悪」と血のしたたるような字体で書かれたいかにもなパンクバンドのアルバムジャケット?が。
「社長、パンクだったんですか?」 驚きのあまり声が裏返り気味のかんなに一瞬両手で顔おおった社長は、「ああ。若気の至りでな」と照れた感じに答える。バンド、とくにパンクやってた過去って微妙に恥ずかしいものありますからね。
「自分たちのアルバムをリリースするためにこの会社を立ち上げた。ま。バンドは解散したが、会社は見てのとおりメジャーレーベルよ!」 つまりバンドとしてはダメだったけど会社としては上手くいったと。成功してるんだかしてないんだか微妙な感じです。

・ちなみに社長以外のメンバーは船乗りになったとか指圧師になったとか。メンバーがほとんど足洗ってるあたりはメリケンサックにも通じるものがあります。本格パンクは売れない、年いってやるもんじゃないという不文律があって、いずれはすっぱり足を洗うかイメチェンして出直すかになってしまうんでしょうね。
「ボーカルは(ここで赤い髪ギンギンに立てて舌出した派手メイクのボーカルの顔を見せる)・・・今おまえが持ってる」。ここでTELYAのの曲が流れ出し、かんなが手にもったプレート(もともと「近親憎悪」の上にかけてあったやつ)が一瞬大写しになって「TELYA!?」とかんなが叫ぶ。「TELYA様だ!」と言い直す社長。
ここで黒人の付き人(SP)二人に誘導され毛皮のコート着せ掛けられるTELYAの姿が。オフィス内にも「TELYA様お帰りだよー」との触れの声が。どれだけ王様扱いなんだ。その割に付き人は道を行き過ぎそうになるTELYAを強引に腕つかんで引き戻してたり案外乱暴なんですけど。

・自分の行きたい方向をいちいち「TELYA曲がるよ」とか口に出すTELYA。でも付き人に強引に道を変えられるのにコート振り落としたりで反発している。ここで「アンドロメダおまえ」のPVが細切れに挿入。
「TELYAごみ拾う、拾わない」。いちいち無表情に宣言しながらでないと行動できないのか。ほとんどロボットのようです。「近親憎悪」のジャケット写真見るかぎりは、当時は派手派手でも頭の中はまともそうだったんですが。

・「おれとTELYAはパンクから足を洗った。今じゃうちの利益の8割はあいつ一人で稼いでる」。そりゃ確かに王様扱いになるわな。それだけによほどストレスがアレなんですかね。
そして今の彼のジャンルはなんなんだろう。かんなも所属アーティストのジャンルをずらずら並べたときTELYAのところは「ひとつとばして」って言ってたし、ジャンル不詳って感じなんでしょうか。「TELYA」というジャンルとか世間では評されてそうです。
「そしてパンクは死んだ。アニメや深夜バラエティのエンディングテーマに成り下がった」。そうなのかー。これ知ってる人には何の曲何のバンドを指してるのか丸分かりではないですか。

・今のファッションパンクへの苛立ちを隠さない社長に後ろから「つーかパンクってなんすか?」 振り向くと社長のデスクの上にだらしなく腰掛けて棒つきキャンデーしゃぶろうとするかんなの姿。なんというなめきった姿。「ああ、いいっす、なんでもないっす」と手で社長を制するのもここぞとばかりに生意気だし。
「なんでもないことないよ。おまえパンク知らないの?」 テクノやヒップホップはわかるけどパンクってなんすか?と改めてかんなが質問したところで、冒頭と同じ一言コメント形式でいろんな人がパンクのなんたるかを語る。TELYAまで出てくるが無言すぎて付き人が気遣うように肩に手を乗せてる。はっとしたようなTELYAが「もっかいいいすか」。元パンクスなんだからいくらでも喋ることありそうなのに。

・ここで社長室の光景に戻る。「とにかく、こいつらは本物だ」という社長に「ふーん、本物なんだあ」と間延びした声で返事するかんな。自分が「本物です!」って言ってもってきたくせに反応鈍いなあ。

・「下手でいいんだよパンクは。勢い、初期衝動、あとドーン!」と言いながらベースのアキオのアップで動画止めて「彼がイケメンだ」と一言。テクニックよりもとにかくパワーってことですね。若さならではというか。
ここでかんなが「社長ホモですもんね」と一言。そういや「イケメンだ」の言い方が妙に優しげだったよな(笑い)。このホモ設定、特に伏線ではなかったですね。

・社長は「今すぐ少年メリケンサックに連絡を取れい!」と勢いよく指示をだす。今からは無理、7時からあたしの送別会があるからと不平を言うかんなに「出なくていい」と無体なことを。そもそもやめる当日に新人発掘してくるかんなの責任とも言えるわけですが。
しかしこれは単に送別会に出るなという意味ではなく、社長は「契約期間延長だ」と言って社員証をかんなに返してくれる。最初は驚いていたかんなの相好が次第にくずれ半泣き顔で「ありがとうございます社長」といいながら両手で職員証受け取る。時代劇とかの「お願えでごぜえますお代官様」みたいな表情です(笑)やっぱり本当は残りたかったのね。

・そのかわり何が何でもアルバム一枚作れと社長は厳命。一枚でいいんですか?と驚き顔のかんな。後が続かなくてもいい(売り上げ出せなくてもいい)ならとりあえずなんとかなりそうですもんね。
「二枚作ったらおまえ、普通じゃん。一枚だから伝説になるんだよ」と社長。一理あるのは確かですがせっかくメジャーと契約出来たと思ったら一枚だけで使い捨てにされるバンドのほうはかわいそうじゃないか。真のパンク野郎ならそれこそ本懐なはずという考えなんでしょうか。

・夕方の公園で彼氏のマサルに仕事続けられること報告するかんなだが、マサルはなぜか浮かない顔。「うれしいさ。かんなの喜ぶ顔が見れて」といいながらも暗い表情。そんなマサルにこれであてれば次は好きなことができるんだよと嬉しそうにかんなは言うがやはりマサルの顔は暗いまま。
この「好きなこと」とは「まーくんデビューできるチャンスだよ」、つまりマサルのアルバムを自分の権限で作ることができるという意味ですね。

・かんなはメリケンサックを好きじゃないのかとマサルに聞かれて「嫌い」「苦痛」と言いながらも「なぜかひっかかる」「くりかえし見ちゃう」と解答するかんな。この引っかかるものがあるかないかが、つまりは他人に良くも悪くも訴えかける力なわけで、毒にも薬にもならないようなマサルの歌に欠けてるのはまさにそこですね。マサルが歌いだしても後ろのベンチの二人組まったく気にもとめてませんしね。
「うらやましいな。かんなに気に入ってもらえて」「だからきらいなんだってば。マーくんのほうが百倍・・・」 ギターを抱え直すマサルにひっつくかんな。この二人どちらかというとかんなの方がベタボレな感じです。

・かんなをイメージしたという新曲「さくららら」をいきなり弾き語りするマサル。いい具合に音はずれてますね。さわやかないい声なんだけどなあ。
マサルは本来普通に歌はうまいけど、これといって見るべき特徴もないためデビューできない設定なんだそうですが、歌がうまいとはいえない勝地くんのさわやかな声質と音程の危うさがもたらすヘタレ感はマサルのキャラ的にはぴったりのような。それとも勝地くんの歌がマサルというキャラを規定していったのか。

・「ていうかかんなをイメージしないと書けないから」。なにげに熱い愛の言葉にかんなが舞い上がるような笑顔に。自分の言葉に照れたのかごまかすように晴れやかな笑顔でまた歌いだすマサル。
このへんはちょっと気持ちの出し方が不器用だけどその分を音楽で表現してる優しい彼氏て感じがしたのになあ。

・さくらららのサビの部分をかんなもハモる。非常に覚えやすい歌ですからね。覚えやすいのはヒットする歌の条件とはいわれるものの、それにしても中身なさすぎの軽すぎです。
この「さくららら」はやたらに「さくら」というタイトルのJ-POPが多いことに対する皮肉だという説をネットで見かけましたが当たってそうです。「桜新町」という歌詞なんて本気で作ってこれなのか、という感じ。
ここ歌うときえらく音程外れてますが、さすがに演出なのか実力なのか。嬉しそうに頭振りながらメロディーに乗ってるかんなもさすがにこの箇所ではちょっと複雑な表情になってますよ?

・マサルの歌を会社に持ち込みラジカセで社長に聞かせるかんな。目を閉じて聞き入ってる(ように見える)社長に、かんなも期待をこめた、なかばすがるような表情でじっと見つめている。
しかし幸せそうに曲に合わせて体揺らしはじめるかんなと対照的に眉間を手で押さえる社長は、ついには立ち上がってラジカセを止めCDを取り出して窓から捨てる。そこまでするかという嫌い方です。そりゃメリケンサックの曲は対極だし、実際つまらん曲っちゃつまらん曲ですけとも。
窓の下にはマサル以外のCDもたくさん捨ててある。レコード会社に持ちこまれたデモテープって(出来のひどいものは)本当にこんな扱い受けるんでしょうか。

・「つまんねえ!詩も曲も声もたぶん顔もつまんねえ!」。声と顔はいいんじゃないかと思いますが(笑)。ただ社長が求めるようなアクがまったくないのは事実ですねえ。「顔はイケメンです」と言いながらかんなはケータイで写真見せるがろくに見もしないで「つまんねえ!」。
社長ホモなのに。好みのタイプじゃなかったってことか。こりゃメリケン成功させたとしてもマサルデビューはまず無理でしょうね。

・メリケンサックデビュー計画の進行状況を聞かれたかんなは彼らのホームページを見せる。一目見て「100点」という社長。マサルとはずいぶん違う評価です。この場面、観客にはなかなかパソコンの画面を見せずに興味をあおってきます。

・やっとメンバー四人の写真の載ったサイトの画面が見える。社長がちょっといじったらアキオの連絡先があっさりと出てくる。イケメンの住所が知れたと社長はもとよりかんなまで「アキオくんアキオくん」となぜか嬉しそう。なんだかんだで好みのタイプなんでしょうか

・かんなにアキオへのアポ取りを命じる社長。気後れするかんなとしばらく押し問答したあと(この間社長がはずみでかんなの胸さわってしまう事件があったりする(ストーリー的な影響はないわりにくどく繰り返されるのは、これも作品のテンション作りの一環だからですね)。
契約できればおまえがデレクターだ、という言葉にかんなはすっかり舞い上がる。嬉しさがじわじわ来て興奮に結びつくあたりの感情表現はあおいちゃんの演技力を感じさせます。

・アキオの連絡先である「江戸っ子」のカウンターのピンク電話が鳴り、パンクな頭(後ろ姿で顔見せず)の若者が受話器を取る。「メイプルレコードの栗田と申します」とどきどきしながら名乗るかんなに直接店に来てくれという青年。
この人結局なんだったのか。本人もいかにもパンクな格好だけれど。「江戸っ子」のある阿佐ヶ谷・高円寺界隈はライブハウスの多い、バンド野郎のメッカ的な地域なので、こういう青年が近隣でバイトしてておかしくないんですが。

・会社にいるときのラフな格好(それはそれで問題かも)と打ってかわってスーツ姿に髪もちゃんとまとめて「もつ焼 江戸っ子」へやってきたかんな。社長に言われた「なめられんな。イケメンだからってほれるなよ」という言葉を反芻しつつ店へ。
しかし社長の訓戒の中で一番強調されてたのは相変わらず「アルバムは一枚だけ」という部分。立場が安泰なパンクスなんてパンクスじゃないのは確かでしょうけど。

・かんながてっきりアキオだと思った店員は振り向くと「ぜんぜんイケメンじゃない」。しかし青年はカウンターの陰に向かって「アキオちゃん、お客」と呼びかける。そして出てきたのは・・・。

・浮浪者のような髪とヒゲぼうぼうの男にかんなは引き気味に「アキオくんのお父さんですか」と尋ねる。男いわく「アキオくんのお父さんは寝たきりだわ」。後でわかるようにこれは事実ですが、この時点ではまったく話が見えてきませんね。
「だれだおまえは!AV女優か!」アキオの言葉に周りの客がどっと笑う。おじいちゃんが多いのに。ノリの下品なお店です。

・怒った顔のかんなはアキオに近寄りディレクターの栗田ですと名乗ってカウンターに名刺をばんと置く。契約社員という文字をボールペンで消して手書きで「ディレクター」としてあるのがなんとも。昨日の今日じゃ名刺間に合わないだろうけど「なめられんな」って言っといてこんな名刺もたせたんじゃなめられますよ社長。

・「メリケンサックのベーシストのアキオくんに会いに来たというかんなに「おれおれ」と自分を指差すアキオ。「あなたじゃないんです。アキオくん」「おれおれ」。かみ合わない会話の繰り返しが楽しい。アキオが位置的にお客に埋もれがちでモブみたいになってる構図もナイスです。
さっき電話に出た青年に「ここにいるっていいましたよね」とかんながとがめるように言うとアキオが「はいっ」と手をあげるが「うるさい!」と指差して制する。どんどんアキオに対する扱いがひどくなってるし。

・このよれよれの男がバンドやってるというのを聞いたかんなは「好きな食べ物は」と青年のほうに尋ねてみるとアキオが「焼き飯焼き飯」と飛び跳ねて騒ぐ。それは確かにホームページに書かれていたアキオの好物ではある。
かくて二階の座敷でかんなはアキオと対面で話すことに。憮然とした顔のかんなを尻目にメガネ(老眼鏡)かけたアキオはパソのホームページ画面さして「おれおれ」という。「83年生まれじゃないですよね」「そんなに若く見えますか」「見えません!」 初期のアキオはときどき丁寧な口調なのが面白いです。

・「じゃあ少年メリケンサックは83年に解散したバンドなんですか?」「まあな。おれの中じゃまだ続いてるけどな」。本当に彼がアキオ(のなれのはて)と納得して「終わってます」(ひでえ)とパソを閉じ早々に帰ろうとするかんなだがそこへ社長から電話が。
「目の前のイケメン野郎にこういえ!契約したら即全国ツアーだってな!」「ええ!? 」 ノリノリの笑顔の社長と対照的に眉寄せてそれは嫌そうな顔のかんな。
「例の動画うちのホームページにアップしたら問い合わせ殺到だよ」とばんばんツアー予定地押さえてることを話す。かくて退路を絶たれていくかんな。しかし社長も契約決ままる前から手回し早すぎでしょうよ。

・状況のヤバさを言うに言えないかんなは社長に年を聞く。「35」。アキオに聞こうとするとさっきまで一人ノリノリでエアギター(ベース?)してたアキオは窓から外に向かって吐いている。顔しかめつつ「おいくつでしたっけ」と聞くかんなにゲロをヒゲにつけた顔で振り返り右手広げて「50」。そこでまた向こう向いて吐く。
年齢といい行動といいここぞとばかりアキオの終わってる姿が。「ムリムリムリムリ」と小声で呟くかんなに一転して社長は重い声で「もし契約できなかったらおまえの契約も切れるぞ」「ええ!?」。昨日までやめる覚悟、あきらめはついてたはずなのになまじ一度ディレクターになんてされて希望つないだあとだけにこれはキツいですね。「契約するか回転寿司か。ようく考えろ」。選択肢の並べ方が面白いです(笑)。

・「契約してやってもいいぜメジャーのねえちゃん」と事情を察したアキオが助け舟?を。でもゲロついたままの顔に顔そむけずにいられないかんな。
「その代わりオリジナルメンバーを集めろ。ハルオはベースだ。そしておれはギターを弾く」とアキオ。つまるところいまだメリケンサックが自分の中で続いてるというアキオは、再結成の夢の一番の妨げになっているハルオとの和解をかんなを間に入れることで成し遂げようとしてるんでは。アキオは職があったり奥さんいたりするほかのメンバーよりもっとなんにも持ってないから、その分バンドへの執着も強いんでしょうね。

・ここでまたインタビュー集。「ハルオにギター教えたのアキオらしいよ」と一瞬前のかんなの疑問に結果的に答えるコメントしてる人は「もう、大嫌い」と最初のインタビューで話していた人(金子)。メリケンサックに何らかの形で近しい人なのがここでわかる(まさか元マネージャーとは思わなかったけど)。名前が示すようにアキオとハルオが兄弟なのも。

・白黒というか薄いセピアっぽい画面でアキオハルオの学生時代。アキオがギター教えてる光景。学生服にリーゼントでタバコくわえてるアキオはまじめな学生には見えないがパンクっぽくもない。メリケンサック結成前なのがわかりますね。
「遅い!」と兄貴にたびたび怒られ萎縮気味のハルオに後ろからアキオが乗り出すようにして、ハルオに左手でコード押さえさせ自分が右手で引いてみせる。クライマックスの伏線になる場面であり、後には決裂する兄弟の仲良かった頃を示す絆エピソードでもあります。
ここで兄貴に頭あがらない気弱そうなハルオを描いてあることで、今のハルオが出てきたときのかんなへの強硬な態度、兄貴への攻撃的態度両方でのインパクトが増しています。

・田舎道をスーツ姿でふらふら歩くかんな。「どちらお探しや」と農夫に声をかけられる。とことんのどかな土地だなあ。最初は農夫は声だけで顔は出さず、その後いぶかるような顔したかんなが「ハルオ、さん?」と声をかけてから初めて全身を見せる。その風体は完全なる(酪)農家のおっちゃん。数秒前の学生時代とのギャップがはなはだしい。しかし人の良さそうな笑顔はなんか面影あるかも。「ちがう・・・変わりすぎ」と肩落とすかんな。バックに牛の鳴く声が入る。

・牛小屋で土を鋤でかき回しながら「わざわざ来てもらって悪いけんども、おらの中ではもう終わってっから」と方言丸出しで言うハルオ。かんなが鼻つまったみたいな声なのは堆肥の匂いがきつくて鼻つまんでるせいですね。
しかし人当たりはよかった彼がアキオの名前出したとたんに顔が険しくなる。「おれをさしおいて、先に兄貴に会ったのか」。その妙な迫力に鼻つまんだままあとずさるかんな。兄を下衆野郎と呼ぶハルオに、「(アキオは)元気にしてます」と言うと「元気にしてるだあ」「すみません飲んだくれてます」「飲んだくれてるだあ」。何してても気にいらないんじゃん。この時かんなが恐れてるのは彼の剣幕そのものよりも堆肥触った手でつかまれることですね。
「あんな腐れ外道のバンドでギターを弾く気はさらさらねえ」というのに「ギターはお兄さんが弾くそうなので弟さんはベースを」とひきつった顔ながらも笑顔でいうかんな。しかしこれがとどめになったようで(やはりベースよりギターのが花形ということか)、出したての糞を投げつけられるはめに。さすがに決定的シーン(顔面にぶつかる瞬間)は音だけで画面は牛舎の遠景、それから右半面とスーツに糞をべったりつけたかんなが両手をなかばかざすようなポーズでよろよろと田舎道を降りていく姿がパンしてくる。少し後を同じポーズでハルオが歩いているのが笑えるコントラストです。かんなのマネしてるのか?
「兄貴に伝えろ。親父は、死んだ」。重い内容の伝言ですが、かんなは少し首傾けた(会釈なのか)だけの無言無表情で歩き去る。相当ショックが大きい模様です。当然ですけど。

・ハルオ回想。小屋でギターを調整してるハルオにアキオが「何やってんだおめえ」(このころはアキオもなまってる)と驚きの声をかける。「ブリッジ調整したほうが弾きやすいと思って」。乱暴にギターを受け取ったアキオはギターを肩にかけて試し弾きし「弾きやすい」と嬉しそうに言う。それを聞いてハルオも笑顔に。「おらがプロになったらよお、こいつローディで雇ってやるべ」。奥にいた人たち(ドラマーなどバンドメンバー)にも嬉しそうな声をかける。ハルオは「ローディ・・・」とにじみ出る笑顔。
この頃のハルオはバンドメンバーではないとしても音楽業界にかかわれれば、そして兄の役に立てれば本望だと思ってたんですね。強硬にかんなを追い返したハルオがなぜ翻意してメリケンサック再結成に加わったのが疑問でしたが、ここで兄と仲良かった頃のことを思い出したのが遠因でしょうか。

・駅で汚れ落としたかんなは上着を片手にぶらさげ疲れきった様子。やるだけやった自分を褒めつつ、「東京帰ったら社長に頭下げて会社やめて、実家帰ってお父さんに頭さげて・・・」。頭下げる相手ばっかりだ。夢敗れた時ってそんなもんですけど。
「お父さんかー・・・」。ここでかんな回想。リーゼントにねじり鉢巻の気合い入った感じのお父さんの姿。外見で客が逃げていく。よくこれでつぶれないよなあ。

・電車がやってくるのと同じタイミングで社長からメールが。「やったねメリケンサック10万アクセス!!」一日そこらでこれはすごい。かんながよれよれだけにその明暗の差がキツいです。

・家に帰ってきたかんなはいきなり泣きモード。「なに?どうしたの?」出てきたマサルの声が優しすぎてちょっとカマっぽいです。「どうしたのー、臭いよ?」 その通りだとは思いますが何気にひどいですマサル。
「もう今度こそ今度こそ今度こそ会社やめるー」。駄々こねるかんなにマサルは近づき彼女の転がってるベッドに座って慰め励ます。「気持ちはわかるけどここで投げ出したらその10万人の気持ちを裏切ることになるんじゃないのかなあ」。おおマサルがいいこと言った!この時は心なし声も男らしいです。

・マサルいわくかんなはメリケンサックが好きなのだと。かんなはゲロってたアキオ思い出し「好きじゃないと思う」としかめっ面になりますが「好きじゃなかったら泣いたりしない」とマサルは優しい笑顔で彼女の頬をつんつんする。このバカップルのベタべタ加減は競演歴の多い二人ならではの呼吸の合い方です。

・「そのかんなの気持ちはきっとメリケンサックのメンバーにも伝わってる」。いいことを言う合間にいちゃつきが入るのがマサル流。伝わったからこそ結局ハルオも来てくれたんですかね。
「みんなかんなのことが好きだよ」。この言葉にハルオに糞投げられたこと思い出し(今度は決定的瞬間もあり。ただしストライクの瞬間はかんな目線で暗転してる)、「好きじゃないと思う」。「かんなはみんなに愛されてるよ。うらやましいなー」などといいながらベッドに寝転ぶマサル。「楽しまなきゃ、損だぞ」。この言葉についにかんなも薄く笑顔になって「・・・もう少し、頑張って、みようか、な?」 何気にメリケン再結成の功労者はマサルなのか。
しかしこの二人の密着度はすごい。ここまでのラブラブ描写ってなかなか映像で見られない気がします(本来カップルでもない俳優さんたちに演じさせにくいからでしょう)。キスシーンもベッドシーンもあるわけじゃないんですけど。

・サングラスに皮ジャンスタイルの怖い感じなアキオのところに、かんながハルオに参加の意志がないことと父の死を知らせる。「新しいベーシストを入れたら」と提案するかんなを座ったまま足でくりかえし蹴るアキオ。「オリジナルメンバーっつったよな。説得するのがあんたの仕事じゃねえのかよ」。
その通りには違いないですが実に遠慮ないです。蹴られながらも笑顔をキープするかんなですが限界間近な感じがあります。例の若いバンド青年が「まあまあアキオちゃん彼女泣いちゃうから」と取りなしてくれますが、そのそばからかんな号泣。
「25年前に出会ってれば説得しますけど。今のあなたに可能性を感じない」「中年だからか」「ちがいます」「おっさんだからか」「おっさんだからです」。どう違うんだか。なめるな、と蹴り入れられてまた泣くかんな。とてもレコード会社の人間とバンドマンのやりとりではないですね。

・「性春時代」と書かれた風俗店の看板を手にしたアキオと並んで歩くかんな。「とりあえず一度社長に会ってください。会えば社長も夢から醒めると思うんです」。
そうすればツアーは中止になり自分は会社をやめ、と語るかんなに、アキオはスタジオ用意しろ、残り二人は自分が連れてくるからハルオはおまえが連れてこいと相変わらず再結成前提の話をする。ハルオだけはかんなに連れてこさせようというあたり、やはり相当苦手というか負い目があるんですね。

・スタジオの環境にもあれこれ注文つけるアキオに「もう天狗ですか」とかんなはツッコむ。「なめるな10万サクセスだぞ」「ファンが見たいのは25年前のあなたたちです」。もう再結成などムリだと思っているゆえにかんなも言いたいこと言ってます。
いきなりかんなの肩を抱き寄せたアキオは、嘘はギリギリまでつき通すもの、その嘘がバレる瞬間におれたちが最高のライブをやれば嘘は嘘じゃなくなる、と言う。おおアキオがいいことを言った!結局言葉だけで出来はアレでしたけど。
ちなみに抱き寄せられたかんなはアキオの臭さに悶絶してて、いいこと言っててもあんまり聞いてない様子。「でもこの人の言ってること、なんか正しい気がする」「嘘を上回る奇跡、見せてやろうぜねえちゃん」「はい・・・」。泣きそうな笑顔で答えるかんな。結局丸め込まれてしまった(笑)。おかげで嘘をギリギリまで突き通してえらい目にあうことになります。

・というわけでスタジオ。ドラムの回りで忙しく働き、なぜか間に筋トレまでする謎の男。かんなはスタッフだと思い込んでメンバーが来ちゃうんでと男をせかすが、アキオが入ってきて声かけるとその男が「アキオさん」と嬉しそうに叫んで駆け寄っていく。実は彼がドラムのヤングだった。25年経ってて現在の顔がわからないからこそのネタですね。
そんなヤングにアキオはいきなり蹴りと平手をかましますが、顔が笑ってるので彼なりに再会の喜びを表してるらしい。「若いやつに現場任せてきました」という台詞とマッチョな体からして今はガテン系の仕事の親方とかか。

・四角い顔に右目の上の3つの傷がペヤングソース焼きそばみたいだからヤングなのかと一人納得したかんなに「言っとくけど顔が四角いからヤングじゃねえよ」とまた金子が説明を。二人だけ若いからだそう。
金子のナレーション形式で若い頃のヤングがラリって暴れた話が出てきますが、年齢ネタをきっかけにすぐにスタジオのシーンに逆戻りしてしまい、核心に迫るようなことはわからずじまい(回想時点では完全に超不良のヤングがどんな変遷のもとあんな好中年になったかとか)。謎を謎のまま積み重ねておいて役者陣のテンションと会話のテンポで観客の興味を引っ張っていく――役者陣の演技力と演出力が問われる映画ですね。

・「ハルオ来んのかよ」と聞かれてかんなは口ごもる。一応その後再度の接触を試みてはいるんでしょうか。牛の糞投げつけられたんですからハルオの存在自体がもはやトラウマになってそうなんですが。

・ちょうど入口で物音が。流れ的にハルオか?と思いきや、ヤングが「ジミーさん?」と走っていく。扉開けるとまさかの車椅子。押してるおばちゃんが遅くなりましたと挨拶。ジミー当人は金髪サングラスで車椅子の上でぐったり。でも膝の上には昔ながらの拡声器。一目見ての“終わってる”感ではもうダントツです。
なのにヤングは「ずいぶん良くなりましたねジミーさん」。えっこれで?と思ったらかんなもまさに「えっこれで?」と驚いてました。頭のけぞらせ、ずれたサングラスからのぞく目は血走っていて、口はだらんと開いているジミーの姿。田口さん名演技すぎます。

・ここでかつてのライブ映像。背中から客席にダイブして観客の頭上を運ばれるジミー。同時進行でアキオとハルオがベースとギターを肩から下ろしてお互いを殴りあうパフォーマンス(実は本気のいさかいだったようですが)。そこへ観客の間を抜けてステージに戻ってきたジミーがちょうど入り込む形になって殴り倒されたという・・・。さすがにステージの全員が凍りついてます。あの動画映像にはこんな続きがあったのね。
ジミーの倒れたあとにべったりと血が流れ、観客もざわついて逃げてゆく。いかに暴力性がウリのパンクとはいえ結構な事件扱いになったと思うんですが、よく10万アクセスの人たちの中にメリケンサックの名前思い出した人がいなかったもんだ。

・再びスタジオ。奥さんが差し出すマイクをたびたび手で払って前方を力なく指差すジミー。あの事故以来25年間車椅子なのか。あのライブの時点でああ見えてもう妻帯者だったのかこの状態になって以降に結婚したのか。後者だとしたら奥さんの勇気には脱帽ものです。

・ジミーの奥さんはかんなの隣に座ると「すみません本人が顔出すってきかなくて」。さすがに演奏なんて無理だと思ってるんでしょうね。ヤングは痔の手術したばっかりだから立ったままドラム叩いていいですかとか言い出すし、なんか全員よれよれです。

・みんな開始の合図をジミーに求めるが、ジミーは目がいっちゃったまま身動きしない。奥さんが手を叩いて促してもだめ。デジカメ構えるかんなは「奇跡よ。奇跡を信じるのよ」と自分に言い聞かせうなずいてみせる。
それを合図にヤングがドラムを叩きだしアキオも続こうとするが、アンプがちゃんと機能しない。アキオは音が出てないと焼きそば食ってるエンジニアに怒鳴る。この人やる気なさすぎだなあ。しかしエンジニアがスイッチ一つ押したらもう音が普通に出てるので、アキオのミスというか今の機材への無知が原因だった感じです。

・かくてアキオがギターを弾きだし演奏開始。どうやら「ニューヨークマラソン」らしいのですが、何の曲なのかもよくわからないほどのへろへろ加減。ヤングはスティックを片方落とし、ジミーは座ったままなんか口ゆがめて前を指差し、何かしらしようとはしてるらしいんですが・・・。そして口から伝うよだれ。
よれよれのまま演奏は終わったともなく終了。「・・・こんなもんだな」「こんなもんすね」と言い合うアキオとヤングに、かんなが席を立って怒った顔で「こんなもんじゃないでしょ!」「なにこれ。こんなんじゃツアーどころか文化祭にも出れないじゃん。しょぼい!ぬるい!お話になりません !」 声裏返しながらのかんなの怒鳴りっぷりが見事です。

・25年ぶりだしもともと上手いバンドじゃなかったし、と言い訳するヤングに「知ってます。あなたたちが下手なことは10万人が知ってます。勘違いしないで」「できないならできないって最初から言ってくださいよ。どうしてくれるんですかツアーまで二週間ですよ」。要は「下手」を通りこして「できない」レベルなのが問題だということですね。下手な演奏どころかもはや演奏になってませんからね。

・騒ぎの最中ひっそりとスタジオに入ってくるハルオ。バックでベースの音が鳴り渡る。だれが弾いてるでもなく登場テーマみたいな感じです。ハルオはギターをケースから出して構え、アキオのギターとアンプとの接続コードを抜くと自分のギターに接続。
「黙ってベース弾いてろこのブタ野郎」。いきなりここまでいいますか。確執の根は相当深そうです。あのアキオが面白くなさそうな顔ながらも大人しくベースを手に取るのはそれだけアキオの方に弱みがあるのか、とにかくオリジナルメンバーで再結成したい一心か。

・ハルオがアンプを調整するとハウリング音に反応したジミーがよろよろと車椅子から立ち上がる。この奇跡にみなが驚く。「立った!ジミーがジミーが立った!」と叫ぶかんな。「アルプスの少女ハイジ」ですか。興奮気味のかんなに奥さんは「別に立てないわけじゃないんです」と冷静な言葉を。特に奇跡ってわけじゃなかったのか。
かくてマイクスタンドを抱えたジミーは颯爽と歌い出すかと思えば、「アイヤイアイアイアイー」。・・・・・・もともと滑舌の悪いジミーですがもはやそういう域を超えています。

・それでもアキオのワンツースリーフォーという声を皮切りに始まった演奏はさっきよりはだいぶまとも。目を輝かせたかんなは「これって・・・奇跡」と一瞬思うが「あれ?これってなんか微妙・・・ていうかやっぱ下手」と顔がこわばる。
それでも一応メロディーにはなってるジミーのボーカルと隣でノリノリの奥さんの姿に「死ぬ気で練習したら何とかなっちゃうかも」といくらかの希望を胸にかんなはデジカメを回しだす。こうしてどんどん泥沼にはまってくわけです・・・。

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『少年メリケンサック』(1)

2012-09-11 14:47:00 | 他作品
2009年2月公開。人気脚本家・宮藤官九郎さん監督作品第二弾、宮あおいちゃん主演ということで当時結構な話題を集めた映画。勝地くんに歌に対する苦手意識を植え付けた作品でもあります(笑)。
もちろん主人公はあおいちゃん演じるレコード会社の契約社員・栗田かんなですが、彼女は一種狂言まわし的な役割で、ストーリーの中心に来るのはおじさんパンクロッカーたち、25年前の映像が今さら脚光を浴び、しかも現在進行形のバンドと勘違いされたことでいきなり再結成いきなり全国ツアーという異常事態の中で四苦八苦する「少年メリケンサック」のメンバーたちの葛藤が一番のテーマなのだろうと思います。それは宮藤さんがインタビューなどで、もともと兄弟の確執の話をやりたかった、それと別口でパンクバンドの話もやりたくてそれが一つにまとまったと話していることからもわかります。
といっても視点になるのは基本的にかんなであり、メリケンサックのメンバーはそれぞれにやりたい放題、マイペースなので彼らの葛藤する姿はそれほどはっきりは見えてこない、もっぱら彼らの言動に振り回され泣いたりわめいたり苦しんだりするのはかんななんですが。

この映画を見て、そして今回見返してつくづく考えたのは「パンクとは何か」ということ。それは作中でもかんなが元パンクスの社長やメリケンサックのメンバーにたびたび質問しています。
私自身はパンクは全く聴かないし、パンク・ロックの母体であるロック自体にも詳しくない(ギターとベースも見た目で判別できないくらい)ですが、一言でいえば「カウンターカルチャー」なのかなと思っています。既存の文化に対して若い世代が反発・抵抗する中で生まれてきた新しい文化。
それは前の世代から見れば眉をひそめたくなるほどに過激であり前衛的、攻撃的と映り、それゆえに冷遇されたりはっきり排撃の対象にされることもある。そうした扱いが彼らのさらなる反発、さらなるエネルギーを生んでゆく。
70年代に発生したパンク・ムーブメントが階級社会の窮屈さに加え当時深刻な失業問題を抱えていたイギリスで大きく発展を遂げたのも、パンクが社会の閉塞感、抑圧へのアンチテーゼである証明でしょう。
個人的に音楽・パフォーマンスとしてのパンクには「うるさい」「汚い」(「FUCK」や「SHIT」といった歌詞を多用したがるところとかやたらツバを吐くこととか)「これがパンクだ、と言えばどんな非常識な行動(ステージ上で脱糞とか)も許されるみたいなのがずるい」といったマイナスイメージがあってあまり好きではありませんが、体制に立ち向かう意志、闇雲なエネルギーみたいなものには惹かれるところがあります。
かんながパンク、そしてメリケンサックの演奏についても最初から「嫌い」だとはっきり口にしながら、「嫌い」だし「苦痛」なのだけど「なぜかひっかかる」「くりかえし見ちゃう」と言っているのも、まさに彼らの「エネルギー」に引き寄せられているからなのだと思います。

そしてそのエネルギーを生んでいるのは、「自分のために演奏している」ことではないか。メイプルレコードの社長は「初期衝動」という言葉を使ってますが、自分の内部からこみあげる思い、怒りや悲しみ、喜びといった生々しい感情をストレートにぶつけるというスタイルがストレートであるゆえに聞くものの心を揺さぶる。
「パンクは下手でいい」の言葉どおりそこでは演奏のテクニックは問題にはならない、ある意味赤ん坊の泣き声と同じようなもの。メリケンサック誕生の瞬間がジミーやハルオの「ギャー」という意味のない叫びだったというのがまさにその象徴です(とはいってもいくらなんでも最低限の技術はないと、歌とさえ呼べないものになってしまいますけどね)

かつては人前で音楽を演奏するということはまず聞き手を楽しませることが第一義だった。それがおそらくはロックミュージック、若者の音楽が台頭しはじめた頃から自己表現の手段としての音楽が主流になっていった。
そこでは聞き手より演奏者が主役となり、彼らは自分たちの激しい思いを音楽という形で相手に投げかける。それは既存の音楽に比べはるかに暴力的にならざるを得ないわけで、相性が悪い相手には徹底的に嫌われることにもなる。しかし肌の合う相手ならそのメッセージは受け止められそこに共感が生まれる。
聞き手優先の音楽に比べこれら新しい音楽の方がエネルギーを持ちえた、音楽で世界を変えられるという“幻想”をも呼び起こしたのはこの共感を生む力、メッセージの伝播力に拠るものだったと思います。

しかるに社長が「パンクは死んだ。アニメや深夜バラエティのエンディングテーマに成り下がった」(宮藤さん自身がパンクバンドをやってることを思うと自嘲的な台詞でもある)と言っているように、近年の音楽は60年代、70年代頃に比べてパワーを失っている感がある気はします。現在、パンク以外でもムーブメントと呼べるほどのパワーを持っている音楽ジャンルが存在しているだろうか(あえていうならアニソン関連ですかね)。
思うにこれはメインストリームが力を失っている、なにがメインカルチャーなのかもよくわからなくなっていることに由来しているのでは。既存の文化への抵抗勢力であるカウンターカルチャーは、メインカルチャーが堅固であってこそ成り立つ。軽く押せばあっさり崩れてしまうような壁では、それを打ち壊すためのエネルギーは育たない。つまりパンクが生き返るためにはまずパンクが抵抗すべき巨大な既存の権力が必要だということ。
要はカウンターカルチャーはメインカルチャーにいわば寄生してるわけで皮肉といえば皮肉なんですが。物わかりのよい親ばかりになると子供も反抗のしがいがないとでもいいますか。
子供が逞しく育つためには親は乗り越えるべき壁として存在していなくてはならない。そう考えると大人になっても音楽も生き方もあいかわらずパンクな、「メリケンサック」のメンバーのような人間が増えることこそが、次の世代の成長を阻んでる、パンクをつまらなくしてるとも言えるわけです。

社長が今はパンクから足を洗いレコード会社社長として一応の成功をおさめているように、パンクは本来若者のもの、若者の精神性に基づく音楽ジャンルで大人になってまでやるようなもんじゃない。それをあえてやっている「メリケンサック」のメンバーはその点でよじれているわけで、実際全体にコメディとして見せてはいるものの、彼らの内情は相当にブラックではある。
定職につかずふらふらと飲んだくれているアキオは、かつて弟をハメて前科者にし、そのために父親が自殺未遂して25年後の今も寝たきりになっているという経緯があるし、ハメられた側のハルオは実家の酪農業を継ぎながら父の介護をし、自分と父親を追い込んだあげく自分は一切の責任を負っていない兄を恨み続けている。
25年前兄弟喧嘩の側杖をくって大ケガしたジミーはそのために身体障害者となった、と思わせてどうやら障害者に見せかけての詐欺を行っている形跡がある。随所で登場する元マネージャーの金子の(ストーリーには直接ない)もろもろの言動も含め、メリケンサック関係者は(ヤング以外は)ここぞとばかり暗黒面が描かれまくっている。

それを緩和しているのがかんなの存在。彼女も自分の思い込みが元で苦労し、バンドメンバーといさかいもし、たびたび職も失いそうになり失恋もするし、こう列挙すると悲惨このうえないんですが、彼女のキュートさ、泣いたり怒ったり笑ったりの生き生きとした百面相が、この映画が根本的に持つ真っ黒さを上手く覆い隠してくれている。かんなのような女の子を主人公に据えたのは大正解、というより彼女がいなかったら真っ黒すぎてエンターテインメントとして成り立たなかったと思います。
そしてそんなかんなを演じるうえで存在感といい演技力といい可愛さといい、あおいちゃん以上のキャストはありえなかったと思います。あの顔面筋の柔らかい動き、この映画で見せてくれた実にさまざまな表情には「人為的にこんなに表情って動かせるものなのか」と何度となく驚かせてくれました。

そのあおいちゃんの彼氏であるマサルを演じるのが勝地くん。前年の(撮影時期でいうとほぼこの映画の直前くらいになりますが)『未来講師めぐる』に続いて宮藤さん関連作品(『めぐる』の脚本は宮藤さん)への参加となります。
シンガーソングライター志望のマサルは、まさにカウンターカルチャーがカウンターカルチャー足りえなくなった時代の落とし子というか、音楽的にも人間的にも全くアクがない、甘ったるいほどに優しいけれども覚悟というものがおよそ欠落している弱々しい男子として描かれています。
それをわかりやすく示しているのが彼の口癖の「なんか違う」という言葉。はっきり否定するわけではない、自分でもどこが違うのかはっきりとはわかってないんだけど、「なんか違う」ような気がする。この曖昧な「気持ち」に乗っかって彼はふわふわと世渡りをして、ふわふわかんなと付き合いふわふわと浮気もした。音楽に対する態度も理屈ばかりこねてて結局ふわふわ。メリケンサックのメンバーとは音楽的にちょうど対極にいるといえます。
ただ人間的にはメリケンのメンバーもアキオを筆頭に覚悟があるとは到底いえない生き方をしてきている。だからこそ最初はあんなよれよれの演奏で「こんなもんだろ」とムリに自分を納得させ妥協したりもしていた。しかしかんなとツアーをする中で彼らはどんどん尖ってゆきバンドを続けることへの覚悟も決めていった。
そしてラストでマサルはかんなに無理矢理助っ人としてメリケンサックに突っ込まれることになり、どうやら嫌ってたはずのパンクにすっかり染まってしまったらしい。かんなの夢の中でメリケンサックを象徴する怪獣に踏み潰されたように、本物のパンクの前に敗れ去る、かんなの心もメリケンサックに奪われる、そういう「負けキャラ」として設定された存在がマサルだったのだと思います。
そして勝地くんはこのマサルのふわふわぶり、頼りなさと可愛らしさ、情けなさをも実によく体現していたと思います。そして前半のかんなとのいちゃいちゃぶり。あおいちゃんとは少年時代から何度も(主として恋人役で)共演してるだけに本当のカップルのごとき甘々さ加減でした。
あのあおいちゃんとの呼吸の合い方もまた勝地くんならではで、ミュージシャン志望のくせに致命的に歌が下手であるにもかかわらず(笑)、マサルも勝地くん以上に演じられる人はいないんじゃないかと思います。むしろあの歌の下手さ加減もマサルのヘタレキャラをより印象づけていた点で結果オーライじゃないですかね。

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『恋うたSP カムフラージュ』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2012-09-11 14:42:46 | 他作品
・会社で上司をうかがいつつ携帯チェックするさくら。「おうちで待ってるよハニー」の文字に笑顔になるさくら。対照的に鏡に映る百合は浮かない顔。周作がさくらの家に行くということは今日は百合はあぶれるわけですからね。たぶん今日は会えないというメールが来て、こないだのさくらと同じくさくらの顔色を確認して、今日はさくらの元に行くことを確信してるんでしょう。
ここで百合は香水のビンを出して両手首と首の後ろに香水をつけている。この晩、彼女が密かにさくら宅で周作と逢引したのがさくらに発覚したのはこの香水の匂いが原因だった。香水なんて結構香りが残るものなのに、それをわざわざつけたうえでさくらの家に上がりこもうとはいかに香水マニアとはいえ大胆すぎ。
これは明らかに発覚することを狙っての作戦ですね。さくらの目の前で就業時間中なのに堂々香水つけてるのも、今日自分はこの香水をつけているよというアピールなのかもしれません。この後さくらとお互い怖い感じの笑顔を交わしてるし・・・熾烈なる女の戦いです。

・暗くなるころ百合の携帯に母から電話。父ともども東京に出て来てるから会いたい、という内容らしい。急に言われても仕事があると百合が困ってるのを聞いて、帰るために席を立ちかけてたさくらは「いいよ、あたしやっとくから」と笑顔で申し出る。結局これはさくらの帰宅を遅らせてその間に周作と会うための芝居だったのが後でわかるわけですが。
しかし百合の思惑に気付いてないとはいえ、恋敵のために楽しみにしてた周作との時間を削るような提案を自分からするさくらの人の良いこと。もうそれだけで百合に負けてる感じがします。

・さくらの好意に百合は一礼すると「わかった。じゃあ会社出たら電話するね」と電話を切り「今度必ず埋め合わせしますんで」と謝りながら仕事のファイルを渡す。あまりの量にさしものさくらの顔もこわばり、お疲れさまと言うときも呆然の面持ち。
いかにしょっちゅう上司に怒られてるほどの仕事の出来なさでもどうやったらこんなに溜め込めるのか、と思ってるんでしょうね(不思議ちゃんキャラからは意外ですが、特に怒られてる場面のないさくらは仕事はそこそこしっかりできるらしい)。これが自分の残業を長引かせるための百合の戦略とはさすがに気付いてないみたいです。
おそらく周作から今日は会えないと連絡が来た時点で少しでも多くの仕事を残すよう画策した結果のこのファイル量なんでしょう。自分を家に帰さないためにそこまでするとはまさか考え付かなくて当然ですね。

・周作がさくらの部屋のキッチンで鍋の味をみて、おいしさに驚いてるとチャイムが鳴る。「おかえりハニー」とドアを開けた周作驚いた顔。何に驚いたのか(見当はつきますが)示さないまま、一人暗いオフィスで仕事するさくらに場面転換。
メール着信音が鳴り携帯をチェックすると「帰るとき連絡して。駅まで迎えに行ってあげるよハニー」という内容。「なにーやさしいー」と嬉しそうなさくら。視聴者的には急に帰ってこられると困る=百合が家にいるがゆえのメールだとすぐ察しがつくだけに、何も知らず喜んでるさくらの姿が気の毒です。

・夜遅くに「ただいまー」とドアを開けるさくら。あれ、結局迎えに来てもらわなかったのか?百合と鉢合わせちゃうんじゃ?もしや百合の芝居と周作のメールの意図に気づいて不意打ちを食らわせたのか?といろいろ考えてしまいましたが、次の瞬間周作が先に部屋の中に回りこんで「おかえりー」と両手を広げて大げさに出迎える。
要はやっぱり迎えにきてもらって一緒に帰ってきた、さくらの「ただいまー」は習慣的に(部屋に誰もいないときでも)言っているだけだったということですね。まださくらは何も気づいてない・・・ストーリー的にいずれ気づくんでしょうがそれがこの晩なのかもっと後なのか――楽しげな二人の様子とは裏腹に緊張感が高まってきます。

・「なんか変な感じ。周作がわざわざ迎えに来てくれるなんて」。嬉しそうなさくらに後ろから両腕を回す周作。楽しげににあれこれ言い合いながらベッドに寝転んださくらはそこで香水の匂いをかぎつける。
一方で肉じゃがの味を隠し味まで当てる周作は、一人テンション高く上機嫌に話すがさくらの顔はこわばったまま。彼女の家で他の女と逢引したんだから(しかもベッドまで使う図々しさ)もっと後ろめたさを感じてていい、さくらのちょっとした態度の変化にも敏感であってしかるべき局面なんですが。このくらい鈍い、学習しない周作だから女と長続きしないんでしょうけど。

・さくらに抱きついたところでさしもの周作もさくらの様子がおかしいのに気づく。「百合ちゃんいたんだ」「今日はバニラ(の香り)」。
さすがに顔色変えつつもなんか突然来てさ、と笑いながら必死に言い訳するものの、一つ鉢植えがなくなってるのに気づいたさくらに百合が欲しがったからあげた、「でもいいじゃんこんなにあるんだからひとつくらい」と答えた時点でもう完全にアウト。
彼女が大事にしてるものを、そうでなくても家のものを勝手に浮気相手にあげてしまうとは言語道断。百合がわざわざさくらに自分と周作の仲がバレるように行動してるのはもう疑いようがないですが、百合にお願いされたからといって浮気の証拠を積極的に残すような真似を許してしまった周作は何やってるんだか。
「こんなにあるんだから」の台詞が示すとおり、1つくらいなくなってもさくらは気づかない、もし気づいても百合がいたことがバレる前だったら気のせいじゃないかと言って済ますつもりだったのか。さくらのことも百合のことも、プレイボーイのくせに(だからこそ?)女を甘く見積もりすぎてますね。結果、(彼なりに)本気だった相手も失うことになってしまいました。

・「もう限界。出てって」と言うさくらにさすがに真面目に謝ろうとする周作ですが、「出てって!」と怒鳴られ、やむなくすごすごと出て行く。玄関で「肉じゃがごちそうさま」と微笑むが返事もらえないまま去っていく。これが二人の交わした最後の会話だったのか。

・ベッドに顔をうずめて「誰か助けて」と呟いたさくらは続けて「チャクラくん」と口にする。ここで祐樹でなくチャクラくんの名が出てくるのはまだ祐樹の存在がそこまで大きくなってないのか、祐樹には彼女がいることがストッパーになっているのか。
ただずっと彼氏の浮気で受けた傷を植物を買いこむことでしか表せなかったさくらが「誰か」に助けを求めようとしてるのは(それだけ傷が大きい証でもありますが)、彼女の心が外に向かい出してるゆえと見ていいのでは。直後に枕を机に叩きつけて暴れてるのも内に溜め込まず外にはけ口を見出してる点では成長かも。

・枕から飛び散った大量の羽根に埋もれたまま床に転がってるさくら。気配を感じたのか首をドアのほうに向けるとスーツ姿(仕事帰り?)の祐樹が立っている。
綺麗な女の子が羽に埋もれてるシチュエーションが一枚絵として美しいです。床に転がってるさくらの視点で横向きに玄関に立つ祐樹の姿を捉えたショットも変則的な構図が印象的。

・「なんかその、前通りかかったら肉じゃがの匂いがして」。なぜこんな時間に前を通りかかるのか。こないだ自転車で公園に来てたから家が近所なんでしょうか。それにしても建物の前でなく“二階にある彼女の部屋の前”を通りかからないと料理の匂いまでわかんないよなあ。
今までもこうやって時々彼女の様子覗きに来てたのだろうか。しかも勝手にドア開けるってどうよ。もし百合の特攻がなかったら、周作とのラブラブシーンに遭遇してたわけですよ?

・「なにかあった?」とあわてた様子で靴を脱いで入ってくる祐樹。半身起こしたさくらは「周作とけんか?肉じゃががまずいっていうからさあ」。この期に及んで本当のことを言わないのは、祐樹が周作の友達だから周作を悪くはいいにくいという遠慮か、真相はあまりにひどすぎて口にするのも辛かったのか。
ラストの告白シーンからいくと祐樹には彼女がいるんだから彼を好きになっちゃいけないという思いがあって周作と続いてる振りをしてたということですが、この時点でまだ(別れた当日だし)そこまで祐樹に傾いてないと思うんですけどね。

・今日のはおいしくできたのにといいながらキッチンに立っていくさくら、植物に話かけながら水をやるさくらを祐樹はひどく心配そうな顔で目で追っている。無理して元気に振る舞ってるのが見え見えですからね。
加えて周作が植物を勝手にどこかへやったと聞いてさらに眉根を寄せる。「ほらリカちゃんさみしそうだよ」などと話しつつ水やり続けるさくらは水が思い切り床に零れてるのにも気づかない。ついに祐樹がつかつか歩みよってさくらの手からジョーロを取り、水を零しまくってたことに気付いたさくらはしばし無言になる。
さくらの傷の深さ、それを察し案じながら友達の彼女であるゆえになかなか積極的に動けない祐樹の心の揺れをじっくりと描くワンシーン。

・「・・・こんな子、やだよね。そりゃ愛想つかすよね。味わかんないし、体おかしいのかな。悲しくても涙出ないの」。ここでまた一つさくらの異常体質が明らかに。味覚オンチ同様気持ちを押さえ込みすぎた弊害ですね。
この状況なのに笑顔で膝抱えたまま祐樹を見上げるさくらの姿は涙を流す以上に悲しく、そんな彼女を祐樹は痛ましそうに見下ろす。何度か瞬きして泣きそうな表情になって「さくらちゃん」と呼びかけ、「おかしいよね」とまだ笑顔でいう彼女に「おかしくなんかない」ときっぱり言い切る。このへんの切ない表情の動きは勝地くんの真骨頂ですね。

・テーブル前に座りこんだ祐樹は鍋の蓋を開けて手づかみで肉じゃがを食べる。「おいしいよ」と言ってさらにもう一口。本当に肉じゃがの味が原因で喧嘩したとは思ってないでしょうが、他に慰める手段も思いつかなかった。そんな祐樹のせっぱつまった感情が滲み出ている行動です。
続けて「いいよもう」と笑いながら止めるさくらの両手を掴んで「よくないよ」「なんで笑うの。つらいんでしょ。なんで笑うの」とぎゅっと抱きしめる場面も、明らかにさくらに惹かれていながらずっと行動を起こせずにきた祐樹がついにハードルを乗り越えた瞬間と言う感じでじんときます。

・「どうして祐樹くんが泣くの」「さくらちゃんが泣かないから」。すっかり涙声の祐樹。アップになると祐樹の口の左端が肉じゃがの油で光っていて、それがいくぶん抱擁シーンの絵的美しさを削いでいるのですが、これはあえてそうしたんでしょうね。あまり綺麗に撮りすぎてもクサくなるからとわざと少し“崩して”みた。結果普通に綺麗な抱擁シーンよりなお視聴者の心に残る場面になった気がします。

・こんなタイミングでまたまた祐樹の携帯が鳴る。しかし祐樹はそれを無視。出るよう促すさくらに首を振り、「だめだよ。彼女からでしょ」と言われても答えるかわりに彼女を抱き直す。
この首を振る仕草、抱き直す時の表情がいやいやをする子供みたいで、見ていてこう、愛おしさがこみあげてきます。可愛いなあ祐樹。

・翌朝一人部屋で座っているさくら。チャットに入るとチャクラからおはようのメッセージ。「おはよう」と返してはじめて普通に会話を交わす。いい天気だねと言われたさくらは「公園にでも行こうかな」と席を立つ。やぶへびというか、結局またチャットしてもらえないチャクラくんです(笑)。
それでも昨日の今日で天気がいいから公園に、という気分になれたのは明らかに祐樹のおかげですね。彼は何時頃までいたんだろ。

・さくらは植物をひとつ選んで抱えて公園へ。芝生にマット(茣蓙?)引いて寝転ぶ。とても昨日あんなことがあったとは信じられないような、のどやかで羨ましくなるような休日の風景です。
いつしか祐樹がやってきてそんなさくらを覗きこんでる。「何してるの」「見てのとおり散歩。さくらちゃんは」「見てのとおり光合成」。やはり会話が不思議ちゃんだ。それだけ元気が出た証拠かもですが。
それにしてもなぜこんなに祐樹は神出鬼没なんだろう。公園に行っていなければ部屋まで訪ねてくるつもりだったんでしょうか。

・起き上がったさくらと祐樹は植物を挟んで背中合わせに座る。二人ともひざ抱えたポーズで視線が合わない状態で話してる。でも遠慮してるとか心がバラバラという印象はなく、いい感じの距離感と感じられます。
それが「仲直り、した?」と言う祐樹の質問にさくらが振り向いたことで崩れる。仲直りしたと嘘をつくさくらに、良かったとちょっと間がありつつ答える祐樹。さくらが元気を取り戻してるだけによりも戻ったかと気になって仕方なかったのはわかるものの、結果的に彼女とのいい時間を翳らせてしまったような。
しかし祐樹は本当にまだ喧嘩別れの真相を知らないんですかね。周作のことだから速攻祐樹にぺらぺら喋ってそうなのに。ただ周作的にはまだ全然より戻せる気でいるわけだから、祐樹にも“でもすぐ仲直りするから”と報告し祐樹もそれを信じたということかもしれません。

・並んでブランコに乗る二人。立ち漕ぎの祐樹は片方スニーカーを飛ばして「さくらちゃんも」と促す。さくらも飛ばしてみるもののブランコの柱に当たって後ろへ行ってしまう。これ狙って撮ったんだろうか。なかなか柱に当てるのも難しそうなので偶然の産物?
「おれの勝ちー」子供のような反応の祐樹。特にここから先の言動を見るに、祐樹は必ずしもさくらに合わせてるのでなく、もともと多分に不思議体験を信じたり童心を忘れてないようなところがあるので、さくらが相手だと自分のそういう面を自然に出せる、気張らなくて済む相手というのも祐樹がさくらに惹かれた一因だったかもしれません。

・祐樹くんが勝ったからとさくらはジョーロに生けてきた鉢をあげる。「もらえないよ。大事なもんなんでしょ」。困ったような祐樹に昨日のお礼だと押し付けてバスケット拾うと走って帰ってしまう。困った顔のまま見送る祐樹。さくらの部屋は別世界みたいでいいと言ってた祐樹ですが、植物の世話自体に興味あるわけじゃなさそうだし。

・家に帰ってチャクラとチャットするさくら。いわく「迷惑だったかな」「大切なものだからあげたの」。周作にあげたら一ヶ月で枯らした、それが周作が一つのものをかまっていられる期間だったと言うさくら。
これはちょっと重い言葉です。一ヶ月が限度か・・・。祐樹くんなら、と思ってるところへ周作からメールが。顔こわばらせたさくらは読まずに削除。周作の面影を振り切り祐樹に気持ちが向かっていく、ターニングポイントとなる出来事です。

・さくらが職場のデスクにつっぷしてると百合がやってきて植物の鉢を無言で置く。気配で顔をあげて驚くさくら。「すみませんでした」と俯いて目を合わせずに言って立ち去る。
さくらが「周作とはもう別れたから」と声をかけると一瞬足を止めるがそのまま行ってしまう百合。さくらとしては百合があんなあからさまなやり方で周作を奪いにかかってきた以上、百合は周作に本気なんだと踏んで「もう別れたから」遠慮なく周作と付き合っていいよ、というニュアンスを篭めた台詞だったんでしょう。さくらの人の良さを改めて表してるようでもあり、あんな男自分はもうどうでもいいと宣言してるようでもあり。
一方百合の方もさくらへの済まなさだけではない暗い雰囲気が漂っていて、結局彼女も周作と早々に上手く行かなくなった、おそらくさくらに最後通牒を突きつけられた周作があわてて百合と別れようとし、彼にとって自分はあくまで遊びの相手でしかなかったのを痛感させられたんじゃないでしょうか。
鉢植えを返してきたのも、さくらに周作との仲を知らしめるための小道具としての役割を終えた、用済みだからという以上に、周作との関係も終わったことを意味してるように思えます。

・晴れた日の公園。さくらは祐樹の前に立って歩き、木の名前を紹介して回る。大きな公孫樹の木に寄り添い耳を当てるさくら。真似して反対側から木に寄り添い耳あてる祐樹。祐樹の方がより木に抱きついてる感があります。
勝地くんが大きな木に寄り添ってると『銀色の髪のアギト』PVを何となく思い出したりします。「木の鼓動が聞こえてきそうじゃない?」と言ったそばから木の鼓動ならぬさくらのお腹の鳴る音が聞こえて二人で笑う。ほんわかムードでどう見てもいい雰囲気すぎる二人です。

・さくらの家。冷蔵庫の在りものを出し、これしかないけどというさくらに祐樹は「まかせて」と笑顔で材料受けとる。祐樹の方がご飯作ることにすでになっているらしい。まあ肉じゃがはなんとかクリアしたものの、基本的にさくら味オンチ→料理下手ですからね。そういやほぼ同時期に放映された『キャットストリート』でも勝地くん演じる浩一の方がヒロインよりも料理上手(彼が上手いというより彼女が下手)な設定でした。
「以前中華料理屋でバイトしてたんだ」「チャーハンしかできないけどね」とエプロンしてお料理。「すごい主婦みたい」と褒められて「シェフじゃなくて?」と苦笑するなんてのも微笑ましい光景。

・二人で座って「いただきます」。一口食べておいしいと言うさくらをちょっと訝るように見る祐樹。「わかる」と続けるさくら。味オンチなのにわかるのか?と思ったわけですね。
このチャーハンの美味しさがわかるというならそれは祐樹の作った料理だから美味しく感じるということなのでは。祐樹との関わりを通して、さくらの心が少しずつ放たれていっているのがわかります。
・楽しげに食事してる光景に「こわいんだ」というさくらの(場違いな)台詞がかぶさるので何かと思ったら、一人になってからのチャットの内容だった。バックでラジオが“そこまで好きな人に出会えるっていうのは奇跡みたいなものです”といった内容を喋っている。「居心地よすぎて」と続けるさくら。「好きになりそう」という表現を使わないのはまだまだストッパーが強く働いてる印ですね。
「だめだよ。人のものだもん。彼女の気持ちわかるから」。さんざん周作の浮気に苦しめられてきたさくらだから、自分が祐樹の彼女を苦しめる側に回るわけにはいかない。自分がずっと被害者側だっただけにストッパーが一段と強くなるのも無理からぬことですね。

・ラジオが「竹内まりやの「カムフラージュ」」と告げて曲が流れはじめる。曲をバックにまた公園に植物を持っていくさくらの姿。前に二人で座ったベンチを眺める、家に帰って卵をご飯に先に混ぜてから炒める祐樹風チャーハンを作る、といった祐樹との関係に繋がるいろんな場面を曲に合わせPV的に流す画面が続きます。
チャーハンはちょっと焦げていて、心なし暗い表情で食べたさくらは納得いかない顔をする。祐樹の作ったものより美味しくないと感じてるんでしょうが、ちょっとした味の違いが理解できるようになった表れか、一人で食べる(そして彼が作ったのでない)ご飯だからなのか。

・オフィスの机に置いたままの鉢植え「もものすけ」を物思わしげに触るさくらを向こうでコピー取ってた百合が振り返ってちょっと気にしてる。さくらが周作のことをまだ引きずってると思ってるんでしょうね。もうさくらの心は完全に他の男に行ってるわけですが。
そういや周作はその後さくらに連絡してこないんですかね。通りすがりをよそおって夜分に家でやってくる祐樹と比べてずいぶん淡白な反応。「帰る場所はさくらのところ」と言ってはいたけど、去ったものをいつまでも追わない主義なんでしょうね。結局はその程度というか。

・さくらは公園の公孫樹の木に一人近づき、幹に触れて耳をつけ目を閉じる。反対側に誰かきて木に手を触れる(手しか映らない)。さくらが目を開けて驚いた顔するとやはり木に耳当ててる祐樹の姿が。さくらを見て微笑む祐樹と薄く笑い返すさくら。
ロマンティックな場面ではありますが祐樹の神出鬼没っぷりとメルヘンチックな行動は考えようによっては相当怖い。美男美女だから絵になってますがストーカーぎりぎり。さくらが「笑顔であたしの隣にいた」と喜んでるからいいようなものの。そういう意味でもベストカップルなのかも。

・夕方?の薄暗い公園で棒で地面に大きく何かを書いてるさくら。少し離れたところで見ている祐樹。左手を上に伸ばしてみせた祐樹の足元まで線をひき、線に沿って歩きだすさくらと後をついて歩く祐樹。線から外れたら海に落ちてサメに食べられてアウトだそうな。二人の知る子供時代のゲームの再現らしいです。
お互い子供時代のいろんなルールを一つずつ言い合う。他愛もないやりとりを楽しそうにやっている二人。さくらも周作といるときよりずっと生き生きしてるんですよね。

・しかしそこでさくらが「違う島国の彼女に毎日電話するとか」と口にして祐樹の表情がちょっと曇る。こんなに仲良くしてても恋人同士じゃない、なれない理由に目をつぶったまま友達以上恋人未満を続けてしまってる二人。時々その中途半端さに苛立って、心地好い時間に水を差すような台詞を言わずにいられなくなったりもする。
細い線の上をバランス取りながら歩くゲームはそんな不安定な二人の関係の象徴ですね。

・バランス崩してこけそうになるさくらの手を祐樹がつかんで支える。そのまましばし見つめあい、祐樹は少しためらったあと恋人握りで手をつなぐ。そのときまた電話が。なんでこう、いつも見てるかのようなタイミングで電話が来るんでしょう。
少し間があって「ごめん。ごめんなさい」と手をほどいて去っていってしまうさくら。周作と別れた日の抱擁といい、勇気を出して一線を踏み越えようとするのはいつも祐樹のほう。さくらは自分がさんざん浮気された記憶も生々しいから一歩を踏み出せない。
これ、要は祐樹がきっぱりロンドンの彼女と別れてそれをさくらに告げれば一気に解決すると思うんですが(自分のせいで彼女が捨てられてしまった!みたいにさくらが気に病む可能性は大いにあるものの積極的にさくらが奪った形にはならずに済む)、なかなか、というか最後までそれをしないんですよねえ。

・晴れた昼間。植物2つ持って公園歩くさくら。暗い表情。表情からすると家の植木との散歩じゃなくてまたやけ買いなんだろうか。結局恋人とちゃんと別れないままさくらに気を持たせるようなことをして、ついに彼女に植木を買わせてしまった。周作のことを責められませんね。

・さくらが家で水をやっているとチャイムが鳴る。レンズから外を覗き、開けるのをためらう。誰なのかすぐに明かさないので、まあ普通に考えて祐樹が来たんだろうけど大穴で今さら周作が訪ねてきてさらに関係がややこしくなるのか?とか想像したんですが、やはり祐樹のほうでしたね。
「おれ、嫌われるようなことしちゃったかな」とちょっと咎めるような声。答えないさくら。アングルがドアの内外行き来しながら二人の姿、表情を交互に映し出す。「嫌いに、なっちゃった?」「・・・きらい」。「なんで」と言いかけた祐樹は「なんで・・・なんて聞くもんじゃないよね。ごめん」と去ってゆく。
祐樹の質問はさくらが手をふりほどいて帰ってしまったことを言ってるのか。それとも描写がないだけでその後会った時にもっとわかりやすく避けるような態度とったとか祐樹が来そうなときには公園に寄りつかないとかするようになったのか。
「祐樹が来そうなときには公園に寄りつかない」が一番ありそうな気がします。特に約束せずともあそこで落ち合って一緒に過ごすのが二人の休日の形になってそうでしたし。

・チャクラとチャットするさくら。椅子に座らず椅子の背もたれ越しにパソコンを打つ不自然な姿勢は、ここのシーンのラストで背もたれに顔を伏せる場面に繋げるためですね。「嫌いなの?」というチャクラの質問にさくらは「優しすぎるんだもん」「ずるいよ」と打ったあと「好きになっちゃうじゃん」と声のみ続ける。
「好き」という言葉を文字にして残すことにためらいがある、それだけ祐樹への気持ちを許されないものと感じてる彼女の煩悶が浮かび上がってきます。

・またも初歩的なミスで百合が上司に怒鳴られている。「だからいまどきの若いもんは頭が悪い」という決まり文句のところでさくらが書類を机にたたきつけて立ち上がる。「課長、いいかげんにしてください。若いだけで頭が悪いとか仕事ができないとか決め付けないでください」。おっとりイメージのさくらがこんなにポンポンものをいうのは意外。
そのあと「売り上げ悪いのメタボのせいにされたらむかつきませんか」「いまだに結婚できないのをメタボのせいにされたら傷つきませんか」と一言ずつ区切るようにいいながら課長のお腹をタプタプするに至っては。ここまでやって大丈夫なのかと思いきや「いやん」という課長の反応 (笑)。結構正面からがつんと反論されるのに弱いタイプのよう。これでさくらに頭上がらなくなるのでは。

・さくらは百合の体を抱えるようにして「百合ちゃんいこう」と机の前から連れて行くが、途中から逆転して百合がさくらの手をつかんで部屋の端へ引っ張っていく。ほかのデスクは閑散としてるのでみな外回り中、内勤はさくらと百合と課長くらいという部署のようです。
「周作さんとはもう会ってません。別れようって言われて。・・・どうして優しくするんですか。さくらさんにひどいことしたのに」「ごめんなさいほんとにごめんなさい」。
やはり周作とは長続きしなかったよう。彼の情のなさに触れ頭が冷えてくると、さくらに対するすまなさがだんだんにつのってきて、今日かばわれたことでそれが爆発した形なんでしょう。

・家に帰ってから例によってチャクラとチャットし、(上司にがつんと言ったことで)すっきりしたというさくらに「言いたいこと言わなかったら後悔するよ」との返事が。「好きな人に好きくらい言えなくてどうするの」「彼、きっと週末は公園にいるんじゃない?」。
チャクラの言葉に対して「なんでそんなことわかるの」と尋ねると「何でかな?」。もしかしてチャクラくんて・・・そういうこと?と初めてさくらはチャクラ=祐樹じゃないかと感じる。確かにチャクラくんがチャットに誘ってきたのは祐樹と知り合いチャクラくんの話をして以降だし、SEでさくらのパソコンを直してくれた祐樹ならさくらのパソコンのメアドを知ってても不思議じゃない。
これまで祐樹には彼女がいるんだから好きになっちゃいけないと思ってきたさくらですが、チャクラ=祐樹となれば、すでに自分が祐樹に惹かれてることを知られちゃってるんだし、知ったうえでさくらからの告白を促してきてることになる。それがさくらに越えまいとしてきた一線を越える原動力を与えたのでしょう。

・そして公園にやってきたさくら。ベンチに座る祐樹におそるおそる近づくと、向こうもさくらに気がついて立ってくる。久しぶりと言い合う二人の立ち位置が少し遠いのが、会わずにいた時間が生んだ心理的距離を示しています。

・ベンチに座るさくら。その隣に座る祐樹。さらにその隣りにさくらにもらった鉢植え。最初に公園で二人日光浴した時は鉢を間にはさんで背中合わせに座っていた。あの時よりは少し距離がせばまっている感じでしょうか。何せここから告白タイムに入るわけですし。

・「本当はあのとき周作とは別れてたの。でも」「あおいとは気持ちはつながってなかったんだ。でも」「気になる人には彼女がいて」「好きな子は友達の彼女で」「嘘ついてでも気持ちにブレーキかけないと」「気持ちが走り出しちゃいそうだったから」。
正面向いたまま割り台詞のように交互に喋ってた二人がここで顔を向け合う。お互いついに気持ちを伝えられた、心が通いあったはずなのにそこでまた目をそらしてしまう。単純に照れなのか、周作はともかく明確に別れたわけじゃない(少なくとも祐樹はそう言ってない)あおいを傷つけることへの迷いが残ってるゆえなのか。

・「あ、チャッピー(注・この植木の名前)。花、咲いたよ。(ここで主題歌が流れ出す)毎日ちゃんと世話したから」「うそ。だってこれ普通花咲かないんだよ」「でも咲いてるよ」。その迷いを最後に踏み越えさせたのは、本来咲かないはずの花が咲いたという“奇跡”だった。さくらがよく見ると確かに下の方にピンクの花が咲いている。
この奇跡に背中を押されて「好き。祐樹くんが、好きです」とついにさくらが告白。お父さんの甘い料理を文句言わずに食べ続けたように、他人の心を傷つけるくらいならとことん自分が我慢したほうがまし、という生き方をしてきたさくらが、ついに誰かを傷つけることになったとしても自分の思いを優先させることを選んだ。こうした“強さ”がさくらが幸せになるために足りなかったものだったんでしょう。
泣けないはずのさくらがここで初めて涙を流すのも、他人のために殺してきた自分の心を取り戻した結果なのだと思います。

・泣き出したさくらの頭を優しい笑顔で撫でながら、「さくらちゃんが、好きです」と祐樹も告白する。ロマンティックないいシーンではあるんですが、最後まで好きな人の彼女=恋敵を傷つけることを気にし続けたさくらと違い、祐樹はさくらにどんどん惹かれていながら、あおいともきちんと別れずずるずる付き合いを続けていた。不誠実といっていい態度です。
なんといってもチャッピーを持ってここまできたということはさくらに花を見せるため、花を見せる口実でさくらに会うためだったと思っていいでしょう。チャッピーの品種が花をつけることがどれだけ珍しいか知らなかったとはいえ、花の咲いた鉢植えにことよせて、さくらにはっきり気持ちを打ち明けるつもりがあったものと思われます。にもかかわらず、まだあおいとの関係をきちんと清算してないっぽいのは(1)で書いたように不誠実と言わざるを得ない。
さくらがなかなか祐樹との恋に踏み出せなかったのも、もしかしたら彼女への遠慮だけではなく、あおいと自分を実質二股かけるような祐樹の“周作的不実さ”に対する抵抗があったかもしれません。

・並んで芝生に寝転ぶさくらと祐樹。「チャクラくんともお別れか」「え」「こんな身近にいたなんて。祐樹くんがチャクラくんだったんだね」。そして起き上がってお礼を言うとさくらは走りだす。続けて体起こした祐樹がぽつりと「なんのこと?」。
中盤からさも祐樹=チャクラのように匂わせておいて、実は違ってたというオチ。まあ他人のふりしてさくらをチャットに誘ったことについては結果的に彼女の心の支えになりえたんだからいいとして、さくらが祐樹に惹かれていく過程をチャクラとしてリサーチしたあげくさくらの方から告白するよう仕組んだというのは、なんか陰湿ぽいですもんね。“祐樹とチャクラは別人”オチで良かったと思います。

・じゃあチャクラくんは結局誰だったのか。その頃無人のさくらの部屋のパソコンに「さよなら お幸せに チャクラ」という文字が浮かぶ。さくらはパソコンの電源入れっぱなしだったのか?おそらくそうではなくチャクラがメッセージを出力するために電源を入れたのでしょう。
さくらの脳内友達ということでストレスが生んだ多重人格と解釈すると、さくらのいない所でこうやってメッセージを出せる理由が立たない。これはもう素直に子供時代からさくらを折りに触れ守ってくれた妖精さん、くらいに思っとくのが正解じゃないかと思います。チャッピーに花が咲いた件といい(絶対咲かないわけじゃないらしいから超常現象まではいきませんが)、全体にファンシー風味の物語には似つかわしいんじゃないですかね。

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『恋うたSP カムフラージュ』(2)-1(注・ネタバレしてます)

2012-09-11 14:36:07 | 他作品
・壁に「chakura」と書いた紙が留めてあるのを映して、「チャクラくん?」という問いかけから話が始まる。子供の頃の実在しない友達の存在を大人になった今も恥ずかしがることなく語るところがヒロインさくらの天然乙女キャラを印象づける。
ローサちゃんのほんわかした外見はさくらの役柄にまさにぴったりですね。

・ハンディカメラで映してるかのような微妙に(あざとくない程度に)揺れる画面。仲の良い友人同士の気の置けない席という雰囲気が醸し出されています。

・向かって左に話しかけながら右の男性(周作)にあれ取ってと指で催促されてグリッシーニ?を取って口にくわえさせてやるさくら。
お互いに気安いその態度と、さくらがそのまま普通に左の男性(祐樹)との会話に戻ってることで、こんなやりとりが二人の間で日常茶飯事であること、つまり彼女と周作が恋人同士なのがわかるようになっています。

・他にも(子供時代に)いろいろ不思議なものを見たという話に「天狗ってほんとにいたんだ」と反応する祐樹と「さくらさんてすごいんですね」という後輩の女の子(百合)。百合の言葉はいかにも実がなくて内心引いてるんだろうなと思わせます。
「バカみたいだろ24にもなって」「子供のころの話ですー」「ま、そういうとこが好きなんだけどー」。何他人の前で堂々デレてるんだかこの二人は。そんな周作をちょっと複雑そうな表情で見つめる百合。さっそくに三角関係が匂わされています。

・「だって現実ばっか見てる女ってつまんねえし」と言いつつ「サイコロサイコロ」と百合に顔を近づけ「百合ちゃんいい匂い」とデレ顔になる周作。さくらへのラブっぷりをアピールした直後にこれ。「香水、好きなんです」と答える百合。
今度はさくらが複雑そうな顔で二人を眺めている。そしてそれを気遣うように見る祐樹。4人の複雑な関係性(その元凶は可愛い女と見ればデレる周作にある)が最初の数分でわかるようになっている。
さくらは「何どさくさにまぎれて近づいてんのよ」と冗談ぽく笑ってクッション投げつけていますが(百合も周作にまんざらでもなさそうなだけに)、内心平気ではない、でもそれを冗談めかしてごまかしてるのがありありですね。

・祐樹の携帯が鳴る。少し前に祐樹がさりげなく時計を気にする場面があったので、この電話を待ってたんだろうなとわかる。
周作が「お、ラブコール」と冷やかすのを否定してないので本当に恋人からなんでしょうが、ちょっとごめんと席を立つ時の彼の表情は彼女から電話が来たにしては嬉しそうな感じではない。友人たちの手前照れてるのかすでに関係が冷えてしまってるのか。それはラストで明かされるわけですが。

・百合は「あたしそろそろ帰らないと」と言い、じゃあおれ送ってくよと周作も立とうとする。「え、周作も帰っちゃうの ?」とさくらはびっくり顔。今まで4人でやってたゲームが自分の会社で出そうとしてるゲームとかぶらないのが確認できたので明日の会議で報告できるからと答える周作。
要は仕事の上での調査に恋人と友人たちに協力してもらったということのようですが、これでもう用は済んだといわんばかりの顔はさくらに対して失礼というか情がないというか。
「そう・・・」と残念そうに言いながらもそれ以上引き止めないさくらの諦めのよさがちょっと切ないです。

・「百合ちゃんもありがとう。急に誘ってごめんね」とさくら。「4人がベストだからさ。助かったよ」と周作。「周作が襲ってきたら容赦なく殴っといて」とジェスチャーつきでさくらが言うと「襲わねえよばーか」と答えつつも周作は百合の両肩を押して歩く。
不必要なスキンシップの多さが単に冗談なのかそれ以上の助平心があるのかこの時点では微妙ですが、さくらの態度からするに浮気癖のある男のようなので後者だろうと察しがつきます。

・周作と百合をカメラが追う形で玄関で携帯をしまう祐樹を自然に映す。周作は玄関前で「あ、そうだ」と振り返ると笑顔でいきなり「おめでとう」とさくらに言う。
なんのこと?という顔色の彼女に「今日は祝交際1年半記念。おれの中で最長記録達成~!」と一人で万歳&拍手する。一年半が最長ということはつまり女と長続きしない→周作の浮気が原因で別れるパターンが多いのだろうと連想させる。

・「じゃあお邪魔しました」と丁寧に笑顔で挨拶して祐樹も家を出る。まあ一人だけ女の子の部屋に居座るわけにも行かないですし自動的に帰らざるをえない格好ですね。
夜の公園を歩く百合と周作。百合が一発でゲームのルール覚えたのはすごい、「可愛いだけじゃなくて頭もいい」と褒める周作は百合の頭をなでる。恋人以外の女の子に対するには明らかにスキンシップ過剰と思えますが、百合も嫌がってない、むしろ喜んでる感じさえあります。
その頃ラジオを聞きながら部屋の植物を手入れしていたさくらは携帯を出して周作からのおやすみメールを読み、へらへら笑う彼の顔を思い出しながらなごんだ笑顔になる。こんな甘ったるいメール書きながら一方で彼女の後輩にちょっかい出してるんだからなあ。

・翌日?さくらの会社。「何回教えればわかるんだ君は」「近頃の若いのは頭が悪いなあ」と上司に叱責される百合(後ろ姿)。昨日周作に頭がいいと言われてたばかりなのでコントラストがちょっと可笑しくもある。
心配そうにそちらを見るさくら。ちょうど上司に電話がきたので百合は解放されたものの「失礼します」と頭を下げる声が涙こらえてる感じです。目をつけられてるというか、しょっちゅうこうやってあの上司に怒鳴られてるんでしょうね。

・さくらの向かいの席に座る百合。二人がプライベートでも仲いいらしいのは席が近い気安さもあるのか。「あんな言い方しなくてもいいのにね」「いいんです。慣れてますから」と会話を交わす。
百合の肩越しにさくらを映すアングルなので百合はカメラに背中を向けてるのですが、彼女のデスクに置かれた鏡に映りこませる形で百合の表情もしっかり捉えています。「またおうちに遊びに行ってもいいですか」と百合が尋ねる場面では、百合が正面に来るアングルに変わりますが、さくらの席にも四角い鏡があってさくらの顔が映りこむ仕掛けになっている。
若い女の子のデスクに鏡が置いてあるのはごく自然だし、それを利用して向かい合って座るどちらの表情変化も逃がさない。上手い、そしてお洒落感のある演出だと思います。会話が一段落するところで苦虫噛みつぶしたような上司の顔が百合の鏡に(百合の顔が正面にくるアングルですが彼女の鏡は両面とも鏡面になってるので映りこみが可能)映るのも面白いオチです。

・またさくらの家でゲームをしてる4人。先日はスーツだった祐樹も今日は私服。百合はカタン(ゲームの名前らしい)にはまってゲーム目当てで来たことになってるらしい。
「今日もいい匂いだし」「今日は柑橘系なんです」。また匂いを嗅ぎに百合に近づく周作。周作は百合にばかり話しかけ百合も笑顔で受け答えしている。二人がいい雰囲気すぎてさくらと祐樹があぶれた感じになっています。

・「煮物系の匂いもしない?」とさくらに話しかける(気を使ってる)祐樹。ああちょっと料理してたから、と席を立っていくさくら。「こいつの作る料理全部甘いの。おれを糖尿病にさせる気かってくらい」。
喋りつつキッチンに立つさくらを周作が追っていき後ろからちょっと抱きしめる。百合にちょっかい出しつつもさくらにもこまめにスキンシップする。プレイボーイらしい処世術というか。作ってくれるだけいいという祐樹の発言は彼が遠距離恋愛してることの伏線ですね。

・「おれは結婚するなら肉じゃがが上手い人がいいな」と言って戻っていく周作。周作に限らず恋人・奥さんに求める要件として“おいしい肉じゃがが作れる”を挙げる男性は多いみたいですね。家庭的、素朴のおふくろの味というイメージなんでしょうか。

・その背中に「あたしは結婚するなら誠実な人がいいな」と声をかけたさくらは、周作の隣に行き意味深な笑顔。結婚相手に誠実な人、優しい人をあげるのもやはり女性の常套句。世間話の中で当り障りない台詞として使われる場合も多々ありますが、本心からそう思ってる人も多いでしょうね。
まあ現在百合にちょっかい出したりしてる周作に、しかもその百合が目の前にいる状況でこの台詞ですから、冗談ではすまない毒が篭っているような気もします・・・。「プロポーズ ?」と笑う周作に右手振り上げて見せるあたりはいかにも他愛ないじゃれあいですが。

・苦笑しながらちゃぶ台に逃げ、「さくらかかってこい」などと行ってる周作にさくらは最初笑ってますが、周作の左手が百合の右手に上に置かれているのに気づき表情がこわばる。これ周作が一方的にアプローチしているのではなくて、手を置かれるに任せている百合も合意済ってことですからね。
祐樹も気づいてるらしく座るさくらを気遣うような目で見ています。こういうちょっとした表情が勝地くんは本当上手い。

・また祐樹の携帯が鳴る。「じゃあおれそろそろ」と席を立つ祐樹に「教育されてんな。彼女ロンドンなんだろ。リンダちゃんだっけ」「あおい」「ぜんぜんちがうじゃん」とさくらがつっこむ。何気ないやりとりの中で祐樹が遠距離恋愛中なのをはっきりと示してます。

・祐樹が立ったのをいい潮とばかり「じゃおれ百合ちゃん送ってくわ」と言い出す周作にさくらは驚いた顔。先日に続いて夜は二人で過ごすものと思ってたら、というパターンですね。下心みえみえというか、さくらと一緒にいるより百合優先なのかはっきりしすぎてるというか。
同じくあんまりだと思ったらしい祐樹が「おれ送ってくからさ。おまえ、さくらちゃんの片付け手伝ってあげなよ」と声をかける。ストレートに周作の仕打ちを責めずに彼に残るよう促してるのは、さくらの気持ちを思いやってるからですね。

・電話しながら外に出る祐樹の背中に「おまえじゃ頼りないんだと」とへらへら笑顔で言い「あ、祐樹に片付け手伝ってもらいなさい」とさくらの頭をポンポン撫でる周作。
あくまで百合を送る予定を崩さず、逆に祐樹の方を残そうとする。さくらにしてみれば自分より百合を取ったのみならず他の男とさくらを二人きりにしても全然平気という、二重にショックな言い草です。

・「百合ちゃん帰ろ」と促す周作に、「あ、はい、失礼します」と百合も遠慮がちな声だが逆らわない。電話を終えて戻ってきた祐樹は(残れと言ったにもかかわらず)周作まで出ていくのに驚くが「あとはまかせたぞ」と肩を叩かれしょうがないなという顔になる。
あとで周作の彼女で自分にグチらないのはさくらだけ、と話してることからしても、こんなのは珍しいことじゃないんでしょうね。ショック顔で立ち尽くしていたさくらが笑顔を作ってお手上げポーズしてみせるのが健気です。

・夜の公園を歩く周作と百合。「カタンじゃないんです」「え」「はまったのはカタンじゃなくて」。足を止めて周作を見つめる百合。先日、そして今日の周作の態度で向こうも十分脈ありと見切ったうえでの告白タイムですね。
相手はいかにも浮気性の男、自分に色目使ってるとはいえ明らかに一過性の遊び相手としか見てないのはわかりそうなもの。まして職場の親しい先輩の彼氏という条件の悪さなのに、百合の方はどういうつもりで周作にコナをかけたのだろう。彼女の方もあくまで遊びでさくらには彼女の人の良さを幸い隠し通すつもりだったか、そうした計算が一切働かない(周作の本心も見えない)くらい周作に本気で「はまっ」てしまったのか。後の展開を見るに後者っぽい気が。
この後百合はさくらから周作を奪うべく悪辣といっていい手段を弄するわけですが、そこまでやれば確実にさくらと気まずくなるし、そうなれば会社にも居づらくなるかもしれない。百合が仕事ができない、やたら上司に怒られてる設定なのは、彼女がこんな会社いつでも辞めていい気持ちでいる→会社の先輩であるさくらと決裂してもさほど問題じゃない、という心理が百合の内にあることを示唆してるのかもしれません。

・キッチンで片付けするさくらは周作からのお休みメールを受信する。テーブルに座ってる祐樹は「それにしてもすごい量だよねー」と部屋の観葉植物を見回し、さくらはそれぞれの木の名前と特徴を語る。
いちいち名前をつけてやってるのも、それを普通に人に語ってしまうのもやっぱりだいぶ不思議ちゃんな子ですね。祐樹ならバカにしなさそうと思ったのかもですが、彼でさえちょっと返事に困ってるみたいに見えます。

・「世話大変じゃない?」という祐樹の質問に「この一年半浮気だらけで」。さらっというさくらに驚いた顔で祐樹が「浮気?」というと「植木」と言うさくら。聞き違いだったのかはぐらかされたのか微妙な返事の仕方ですが、「一年半植木だらけ」ってなんか日本語変だし一年半と言えば周作との交際期間なので、“周作の浮気に悩むたびストレスで植木を買ってしまう”が正解でしょう。

・夕方のオフィス。上司がデータ入力中のさくらを指差し「それ今日中だからちゃんとやっとけよ」というのに「はいわかりました」に機嫌悪そうに返事するさくら。いつも誰にでもニコニコと人の良さそうな印象のさくらですが、案外嫌いな人間はきっぱりしてる部分もありますね。
向かいの席の百合が荷物片付けてるのを見て「え、もう百合ちゃん終わったの」。「はい」とにっこりする百合。その気になればできるんじゃん。
百合の携帯がメール着信ボイスを鳴らし、真面目な顔でメールを読んでた百合はこぼれるような笑顔になって携帯閉じたあと「じゃあ私今日用事あるんでお先に失礼します」とさくらに挨拶する。視聴者的には明らかに周作からのメールだな、今から会う予定があるから大急ぎで仕事終わらせたんだなとわかる行動です。
ここまではわりあい鋭く二人の浮気サインを見つけてきたさくらは、ここでは全く他意のない笑顔でお疲れさまと返している。まあこれまでは全部周作側の浮気サイン(見え見え)でしたからね。百合の方は後の両親ネタでもわかるように相当狡猾です。

・家のパソコンで肉じゃがレシピを見るさくら。周作に作ってあげようという健気な女心です。でも途中でパソコンが動かなくなってしまう。「パソコン壊れちゃって。助けてー」携帯で電話するさくら。
当然相手は周作ですが「いやー行ってやりたいのは山々なんだけどさーまだ会社で」。ここでバックが真っ暗な画面になり話してるさくらだけ丸枠白抜きに。続いてもうひとつ白抜きの画面で会社でメールを受けてた百合の姿が表示され、メール着信ボイスの音も鳴る。
つまりは周作が話す背後で、さっきと同じ特徴的な百合のメール着信ボイスが聞こえてることを示す演出。さくらもそれに気付いた様子。ついに二人が自分に内緒で会うようになった、しかも周作は仕事だと嘘をついている。会社でトラブルがあったと周作は言い訳並べてるのがなおさくらの傷口を広げてます。
ところでこの着信ボイスですが、百合は電話ごしにさくらに聞こえてるのわかってるんじゃないでしょうか。かなり特徴的な音だし、後ろ暗い立場としては鳴り出した時点で即座に切るか音が届かない場所へ逃げるかしてしかるべき。むしろわざと音鳴らして自分が周作と一緒にいることをさくらにアピールしてる、そのために目立つ音を設定したんじゃないかとさえ思えてきます。
後でさくらに仕事押しつけてさくらの家で(彼女に気付かれるように)周作と逢引きしたしたたかさからして、そのくらいやりそうなんだよなー。

・「あ、祐樹呼べよあいつSEじゃん」。悲しい顔のさくら。先日の「祐樹に片付け手伝ってもらいなさい」と同じく、自分の彼女を他の男と二人きりにしても平気という態度全開ですからね。それだけ祐樹を信頼してるという言い方もできますが。祐樹これまでにもこうやって周作の彼女のフォロー押し付けられてきたのかな。

・翌日?浮かない顔で巨大な鉢植えを抱えて公園を歩くさくら。家から持ってきたのか新たに買ってきた分なのか。後者だとするとやはり鉢の大きさと傷心のレベルは比例するんでしょうか。浮気確定にかなりへこんだんでしょうね。
いちいち名前も付けるくらいだから単なる衝動買いでなくちゃんと愛情を持ってるはずなのに、全然嬉しそうな顔にならない、なれないさくらが可哀想です。

・ベンチに座って隣りに置いた鉢に缶の中身(水?)を注いでると「何してんの」と声がして自転車に乗った祐樹がやってくる。なんとグッドタイミング。
まあ完全な偶然じゃなくて、もともとさくらに植物渡しに来たようなので、彼女の部屋に向かう途中公園を通り道に使ったらちょうどさくらがいた、という流れだったんでしょう。

・植物と散歩だとさくらは説明し、「この子は期待の大型新人ふとしくん」。やっぱり新しく買ったんですね。自転車から降りた祐樹は「ちょうどよかった。じゃあこの子も一緒に」とハンドルに下げていたビニール袋を差し出す。
中身はもう少し小型の鉢植え。「可愛いー」とさくらは嬉しそうに袋から取り出す。「もらったんだけど自分には合わないから」「じゃあこの子はおしゃれ系だからリカちゃん」。もうその場で名づけてます。

・何か落ちてるのに気づいたさくらが拾い上げるとレシート。よく見ると花屋のものだとわかる。祐樹はあわてた顔で、やや強引にレシートを奪って話をごまかす。やっぱりもらったというのは口実で、祐樹が彼女にプレゼントしたくて途中で買ってきたんですね。きっとさくらのイメージで、現在部屋にあるのともかぶらないように、とか考えて選んだんでしょう。
「それにしてもおっきいの買ったね」という祐樹にさくらはまた暗い顔になって「今回のはおっきいよ」。やはり傷心レベルに応じてるんですね。相手が後輩というのが一番のポイントでしょうか。

・さくらの部屋。さくらは植物の世話をし、祐樹はパソコンの前で修復作業。無事に動くように。彼氏が浮気してるとはいえ、そして彼氏自身の推薦とはいえ祐樹を女一人の部屋にあげちゃうわけですね。
さらにここで「祐樹くんまだ時間ある?よかったらつきあってほしいんだけど」なる爆弾発言を。「え?」と口を開いたまま固まる祐樹。「肉じゃがの味見」とさくらが言うと少しして「ああー、うん、肉じゃがね」と笑顔になって立ち上がる。まあベタなやりとりではあります(笑)。「まだ時間ある?」と切り出した時点で予測ついた展開ですし。

・二人は席について肉じゃがを食べる。祐樹は渋い顔で「んー、何か足りない感じだね」。しばらく考えてるとさくらが[あ!」「肉入れるの忘れちゃった」。ナイスボケですね。まあ意外とやりがちというか私にも経験が(笑)。
鉢を取りあげてキッチンに持っていくのへ「あ、じゃあついでに隠し味とか入れてみたら」「なんだろ」「味噌とか」。二人でキッチンに並び、祐樹は笑顔で隣りのさくらを見ている。こういう二人で料理を作る、料理作る彼女を微笑ましげに見ている、なんて光景はさくらと周作の間にもあるんでしょうか。

・さくらが味噌をいきなり大量に鍋に入れるのを見て「わ」と目を見開く祐樹。試食して「ぜんぜん隠れてない」とちょっと困った顔。あれだけ入れりゃあね。
首かしげながら食べるさくらに祐樹はからかうような笑顔で「さくらちゃん、もしかして味、わからない ?」。この問いかけをきっかけに、さくらが小さい頃に母が出て行き父子家庭だったという話へ。父は甘くさえすれば喜ぶと思ってた、自分の時間削ってご飯用意してくれてるんだから甘すぎるとは言えなかった、それを食べつづけてたら味がわからなくなったのだと。子供のときからそんな食生活でよく健康を害さなかったもの。
「なんか心配になる」「何が」「いやその、何も言わない感じが」。相手の気持ちを思って我慢し続けてたら自分が辛いことさえわからなくなってしまった。そのことで自分の心身が傷つく可能性もあるというのに。味オンチという設定を使ってさくらの恋愛における(歪んだ)スタンスとその背後にある悲しさを示した、秀逸な仕掛けだと思います。

・「さくらちゃんくらいなんだ。周作の彼女でおれにグチいってこないのって」「そこまで明るいと逆に気になるっていうか」。我慢してるうちに味がわからなくなったのと同様、さくらは自分の心の痛みがわからなくなってる、少なくともアウトプットができなくなってるのではないか。そのしわ寄せがやたらに植物を買うという行動に表れてることもすでに祐樹は気付いたでしょう。
これまでにも彼がグチを言ってきた女の子たちに同情から惹かれてしまうことがあったのかは不明ですが、さくらの場合この「グチいってこない」ことが祐樹が彼女を気にかける、惹かれる要因になったのは間違いないでしょう。そういう彼がさくらがグチを言わない事情(思いのほかシリアスな)を知ってしまって・・・ますますさくらに心が傾いていくのは当然ですね。

・しばらく沈黙があって「少しは・・・」とさくらが言いかけたところで祐樹の携帯が鳴る。取り出したものの出るのをためらう祐樹に「なーんちゃって。ほら鳴ってるよ。」と出るよう促す。「何かあれば友達にでも相談するからさ。チャクラくんとか」「チャクラくん?」と聞き返した祐樹はこの間の会話を思い出したか「ああ、チャクラくん・・・」と納得する。
この時さくらは何を言いかけたのか。そして想像の友達であるチャクラのほかに相談したりグチったりできるような人間の友達はいないのか。普段なら百合が(彼女か当事者でなければ)相談相手になりえてたのか。・
・・たぶん無理なんでしょうね。親も含めて“他人”に自分の内心を吐き出すすべを知らない。彼女が架空の友達を作りあげたのも、24になってまだその友達が過去のものになりきってないのも、自分の分身にしか心を開けない彼女の欠落ゆえなのですね。不思議ちゃん設定も存外奥が深い。

・部屋を出た祐樹はドアを閉めたところで一つため息をつく。「チャクラくん・・・か」。呟きつつ帰っていく後ろ姿。この直後に「チャクラくん」が登場するので、ベタながらも祐樹=チャクラだろうと私含め多くの視聴者が信じてしまったことと思います。さくらがグチを吐けるのがチャクラくんだけなら自分がチャクラくんを装おうと祐樹が考えてもおかしくない状況がそろってますから。
「チャクラ」という名は幼かったさくらが自身の名前を少しずらして思いついたものでしょうが(子供時代は舌が回らなくて自分をそう呼んでた可能性もある)、番組公式サイトによると祐樹の名字も「笹倉」で「チャクラ」に通じる音を持ってるんですね。このあたりも祐樹=チャクラと誤認させるための仕掛けでしょう。

・さくらが植木の剪定してるとパソコンのメール受信音(ぽい音)が。「また壊れた?」 見るとメールソフトが開いた状態になってて一番上に「久しぶり」というタイトルのメール。「僕とおしゃべりしよ」とありリンク先に飛ぶとチャット状態に。相手はチャクラと名乗る。
気持ち悪くなって電源切ると携帯メールが。それは周作からのごめんね愛してるメール。「まさかね(タイミング的に自称チャクラは周作なのかも?)」と電話をかけてみると「何、眠いんだけど」と不機嫌な声。「あのさ、変なメールが来てね」「チャクラくんからでさ」。相談しようとするが「おやすみ」「友達いないからって変なサイトいってんじゃないぞ、ただでさえおまえは騙されやすいんだからさ」とひどいことを言う。眠くて(たぶんすでに寝てたところを起こされて)いらいらしてるのも、空想の友達からメールが来たなんて言われて夢か妄想と思っても無理ないところではあるんですが。
しかし少し後で祐樹に周作には味オンチになった事情を話していないと言っていたので、さくらが他人に本心を打ち明けられない、そういう意味では本当の友達がいないことを周作は知らないだろうに。さくらは明るく人当たり良く表面的には友達いくらもいそうな雰囲気なんですが。
まあ休日もいつも植物と公園にいるイメージなので本当に周作のほかは遊び相手さえいないのかも。あの不思議ちゃんぷりで引かれがちなのかもしれません。

・上の台詞に続いて「ま、そんなとこも可愛いんだけどさハニー」と不機嫌なりに甘ったるいフォローを入れるあたりはさすがにプレイボーイの面目躍如な周作。
「・・・騙されてるふりしてるだけかもよ」とぼそりと言い返すさくらを、おまえはそんなに器用じゃないだろと苦笑気味に流す。たぶん本気でさくらには百合とのことを気付かれてないと思ってるんでしょうね。まして百合が何気に周作と自分の浮気沙汰がさくらにバレるよう振る舞ってる―そうすることでさくらと周作を別れさせて周作を完全に自分の物にしようとしてる―などとは考えてもみない。
自分は女の子の間を上手く立ち回ってると思いがちな、いかにもなおめでたいタイプのプレイボーイですね。もしかしてこれまで付き合ってきた女に対しても、はっきり別れ話を突きつけられるまで浮気がバレてるとは思わずに来たのかもしれません。

・会社で上司の目を気にしながらさくらはメール確認。周作から今日は会えないという内容のメールが。百合を見るとなんか嬉しそうな顔をしてる。これだけでもう事態を察したらしく、悲しげなさくらの顔を鏡に映す形で捉える。
そして場面は変わり、夕暮れの公園を植物の入った手提げを持って歩くさくら。仕事帰りに買ったってことでしょう。どんどん病んでく感じです。

・さくらの部屋。「また、増えてる?」という祐樹(なぜか普通にいる)に「新人ラッシュ」と答えるさくら。祐樹はまた肉じゃがの味見。私服ですが次の休日ってことでしょうか。
「どう?やっぱりまだ甘い?」「ちょっとだけ」。指で“ちょっと”を示す祐樹の仕草が可愛いです。気遣いで「ちょっと」って言ってるんだろうな。ずっと試食してたら今度は祐樹の味覚がおかしくなりそうです。

・「周作は知らないの?味、わからないって」「ただでさえ変な子だって思われてるし」。あれだけ味付けが甘い、糖尿病にする気かとか言われながら、冗談ぽく応酬する形でさえ味オンチのことを話していない。味覚障害は深刻な病気や栄養素欠乏が原因の可能性もあるので、“味覚障害という病気”となればむしろその分変な子とは思われなくなる気もするんですが。
まあああいう軽い男に父との事情だの病気だのと重い話をすると引かれそう、それ以前にまともに受け取ってさえくれなさそうな感触はありますけど。

・ふとパソコンに目を留めたさくらは「それが、変なメールきたんだよね」といきなり話を変える。「だれから」「チャクラくん」。祐樹はちょっと驚いた顔に。
「名前が一緒だっただけの悪質な出会い系だよね」とさくらは笑う。先の周作の反応もあり、空想の友達からメールが来たなんて言ったら引かれるかと口に出してから心配になったんでしょうね。
しかし祐樹は「すごいじゃん !」 そんなことってほんとにあるんだ、と妙にテンションが高く、本物の「チャクラくん」から来たメールだと信じているかのよう。導入部の「天狗って本当にいたんだ」同様、さくらの不思議体験をごく肯定的に受け止めてくれる。周作と対極の反応で、彼の方がずっとさくらとお似合いだと示しています。現時点では状況的に「悪質な出会い系」の可能性の方が高いでしょうけどね。

・そんな話をしながら肉じゃがをもう一口食べる祐樹。「無理しなくていいよ」とさくらは言うが、これはこれでおいしいと完食してしまう。なんかさくらが父親の料理を食べ続けて味オンチになったのもこんな流れだったんじゃないかなあとまたまた祐樹の味覚が心配になってしまいます。

・祐樹が帰ったあとまたチャットに入室するさくら。相手はまた「チャクラだよ」しか言わない。「なんでこんなこと」ときいても「君と、お話したいから」。どう考えても不気味だ。もう一度自称チャクラに接触する気になったのは、祐樹が本物と思ってるようなプラスの反応を示した影響でしょうか。

・居酒屋で並んで飲む周作と祐樹。「なんでさくらちゃんが植木を買い続けてると思う?」「おまえが女の子にちょっかいだすたびに増えてる」。
まだ付き合いの浅い(そういえば周作と一年半付き合ってるはずなのに導入部が初対面のようだった。周作は何かにつけ祐樹を引っ張り出し、これまでの彼女ともおおよそ引き会わせてる感じなのに)祐樹が早々に見抜いたことに言われなければ気付けない。指摘されてもまだ「ああー」と平気で笑ってる。さくらがいかに傷ついてるかなんてどうてもいいみたいです。

・甘えすぎだ、このままじゃ部屋がジャングルになるぞという祐樹に、浮気はあくまで浮気、自分なりのルールでさくらは特別扱いしてるという周作。「帰る場所はさくらのところ。これ大前提」「おれはさくらが大好きなんだよ」。
これ案外本音なんだと思います。さくらに愛情がないわけでなく、自分なりのやり方でちゃんと愛してるのに、それを汲み取れないならさくらの理解力不足なんだという理屈。だからさくらがストレスで植木をがんがん買い込もうと、そのことで責任を感じたりはしない。祐樹の言うとおり「甘えすぎ」なんですよね。
「大好きなんだよ」と言ったあとにへらっと笑うのも彼の反省のなさを表しています。しかし百合にしても過去の女の子たちにしても、こういう男にあっさり引っ掛かっちゃうんですよねえ。

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『恋うたSP カムフラージュ』(1)(注・ネタバレしてます)

2012-09-11 14:15:47 | 他作品
2008年10月に3回連続企画として放送されたドラマシリーズの第一回。シンガーソングライター・竹内まりやさんのデビュー30周年を記念して、彼女の歌の世界のイメージでそれぞれ20代、30代、40代の女性を主人公とした恋愛ドラマが企画された中の20代女性編にあたります。勝地くんはヒロイン・さくらの相手役・笹倉祐樹を演じています。

この時期、勝地くんは7月放映開始の連続ドラマ『四つの嘘』、8月放映開始(全6回)のドラマ『キャットストリート』、そしてこの『カムフラージュ』とテレビドラマに連投していて(あとNHK大河ドラマ『篤姫』にもごくたまに出演していました)、時期が近いだけに長めの髪型含めたビジュアルはどれもそう変わらなかった(やはり同年10月放映開始の連続ドラマ『小児救命』では短髪でしたが)――はずなんですが、不思議なほどに印象が違う。
キャラ的にも『四つの嘘』の英児は野性的で荒々しい性格のボクサー、『キャットストリート』の浩一はクールで無口なコンピューターマニア、そして今作の祐樹は職業設定はSEですが、コンピューター関連の知識を披露する場面よりもっぱらさくらを思いやり精神的にケアする場面の目立つ、穏やかな優しさとちょっと夢見がちな空気を纏った柔らかな青年と全然違ってるんですが、勝地くんは表情から雰囲気から見事にキャラに応じて演じわけていて、同じ顔のはずなのにそう感じさせない、それぞれのキャラクターをリアリティをもって立ち上げていました。

初めて見た頃は若干祐樹の行動に疑問(後述)を感じはするものの、総体としてはさわやかでメルヘンタッチの可愛い話という印象を持っていたんですが、今回これを書くために詳細に見直してみたら結構ドロドロ。特にヒロインさくらの見えざる心の闇に痛ましいようなちょっと怖いような感覚を覚えました。
さくらはいわゆる不思議ちゃんキャラというか「見てのとおり光合成」「さくらの森へようこそー」など“それ、どうなの?”的言動が少なくない(番組公式サイトのコメントによると、さくら役加藤ローサちゃんもこうしたさくらを自然に演じるのが難しく「「わざとらしい演技になっていないかなぁ」(笑)と、気にしたこともありました」とのこと。ローサちゃんのほんわかした夢見るような雰囲気と風貌はさくら役のそうした部分を可愛く見せるのに大いに貢献していたと思います)。
けれどその内面を探ると単に不思議ちゃん、恋人の言動に傷ついてる、では済まない幼少期から積み重ねられた「歪み」が浮かびあがってくる。そんなさくらを筆頭に、周作にもその手前勝手な考え方にむかついたり、百合の計算高さとそこまでする男へのはまりっぷりが恐ろしかったり、本放送の時は軽く見積もってた部分が重く生々しくのしかかってくるようでした。

その中でも一番の問題児が祐樹。浮気性の周作と対比的に、さくらのことをちゃんと見てくれる心優しい誠実な青年という立ち位置の祐樹ですが、その実遠距離恋愛中の彼女とさくらを体よく二股かけてやしないかとは初見から感じていました。さくらのそばにあまりにも的確なタイミングでたびたび現れるのもストーカー一歩手前(さくらが気味悪がってないからいいけれど、もっと過敏な子の視点で見たなら十分ストーカーの枠内に入る)みたいだし。
今回見返してみて、祐樹がラストの告白シーンに至るまで恋人あおいとの関係を清算していない(「あおいとは気持ちはつながってなかったんだ」というだけでちゃんと別れたとは言っていない)のが改めて気になってしまった。この先ちゃんと別れる予定ではいるんでしょうが、さくらの気持ちをちゃんと確かめて恋人同士になるまではキープしとこうという意図が見え隠れしてるというか。
そもそも「気持ちはつながってなかったと」いうのは祐樹の一方的な言い分で、あおいの方は変わらず彼を想っているのかもしれない。少なくとも頻繁に国際電話を、それも自分から(通常相手の気持ちを確かめる意味も含めて男の方からかけさせる女が多いと思われる)かけているというだけで、あおいが彼と別れる気はない、繋がっていたいと思っているのは間違いないでしょう。
毎日(たぶん)電話で話してる祐樹はそれを承知のうえで他の女に心を移し、さらにそれを隠してあおいとも続いていたわけですから(なかなか別れられなかったのを彼の優しさの表れと解釈するにしても)、一見したイメージほど誠実な男とは到底言えないでしょう。
さくらと付き合えるかもわからないうちにあおいと別れるのはもったいないと考えてしまうのはまあ普通にありがちなズルさであって、声高に責めるほどのことではないのですが、さくらのことを好きになった、あおいから完全に心が離れた時点で、さくらに彼氏がいようとそのため彼女と付き合える見込みが薄かろうと、「悪いけど他に好きな人ができたから」とちゃんとあおいに告げてフリーになってこそ、さくらに対しても真に誠実な態度というものでしょう。
言うなればさくらは浮気性の男と別れて新しい恋を見つけたものの、その相手も前の女とずるずる続いたまま自分に心変わりするようなそこそこズルい男であるという――実はさりげなくバッドエンドなのかもしれません。

こう見ていくと実は相当生々しい、ドロドロしたお話なんですが、意外なほどそれが前面に出てこない。さくらと祐樹の、公園やさくらの家でのツーショットに代表される微笑ましい可愛らしいやりとりや、公園の緑と観葉植物の生き生きとした色鮮やかさがドロドロを上手に覆い隠してくれています。
さらに、さくらが羽根に埋もれて床に寝ているシーン、(2)で詳述する職場での鏡の使い方などはっと目を瞠るような絵的に綺麗な画面や凝った構図・演出、さくらの部屋の小道具なども作品全体の空気をおしゃれに彩る効果をあげている。むしろストーリーの持つ生々しさを和らげる目的で、絵的におしゃれ感・さわやか感を積極的に打ち出しているんじゃないかという気もします。

キャラ的にも上で書いたようにローサちゃんの容姿や雰囲気がさくらを“変な子”“いかにも心に闇を抱えた女の子”にしなかったように、多分に問題ある祐樹をとことん優しく、繊細な感受性を持ったさわやかで誠実な若者と感じさせたのは、祐樹の醸し出す穏やかで優しい空気――目の光や柔らかな表情でそれを表現できる勝地くんの演技力に負うところ大だと思います。
正直あまりストーリーを深読みせずに前面に表れた絵的な美しさ、さくらと祐樹の可愛らしくもちょっともどかしい初々しい恋愛模様を素直に楽しむのが一番いいんじゃないでしょうか。これだけいろいろ書いておいてあれですけど(笑)。

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『四つの嘘』(2)-9-2(注・ネタバレしてます)

2012-09-10 06:59:59 | 四つの嘘
・朝、喫茶店で一人コーヒーを飲んでた詩文がたまたま隣りの席に目を向けるとそこの客が読んでる新聞が目に入る。新聞には「安城英児パナマで2連勝 引退を表明」という小さい記事(でも写真つき)が。「この結果で、ボクサーとしてやり残したことはないと、引退を決意した」「引退後も、日本に帰国するつもりはなく、パナマで子供達に正しいボクシングを伝えるつもりだという」とのこと。
現役の夢を捨てきれずパナマまで行った、死ぬまでボクサーだと言い切った英児が、たった2連勝しただけで引退を決心したとは。結局詩文が来てくれなかったことで現役にしがみつくモチベーションが減ってしまったんでしょうか。これはおそらくまさしく命がけの二試合を経て、頭部への衝撃をおそれて思うように戦えなくなっている自分を発見し、同時に自分が生きたいと願っていることにも気づいてしまったのでは。
そして日本へ逃げ帰るのでなくパナマに残るというからには、パナマの土地に、そこの子供たちに、日本にはなかった何かを見出したということでしょう。子供相手ながら指導者という立場を選んだのは、ネリにボクシングのコーチをした経験が遠因になってるように思います。死に急がず地に足をつけて生きて欲しいというネリの願いは、おそまきながら無事英児の心に届きましたね。

・子供たち相手にどこかの家の前でサンドバックを叩かせてる英児の姿。現地の言葉?であいだあいだで掛け声をかける。上はタンクトップ一枚で、髪を後ろでアップにし、日焼けした顔に充実した穏やかな笑顔を浮かべている。その表情だけで今の彼がとても幸せなのが伝わってきます。天職に巡りあったとでもいうか。ボクシング好きだった父親の影響で自然とボクサーを目指した英児が、今また自分のボクシングに対する技術と情熱を子供の世代に伝えようとしている。清清しい光景です。
そしてこの場面の英児のビジュアルのめちゃくちゃ格好いいこと。最終回、英児の出番はここだけですが、1分にも満たない時間ながら堪能させていただきました。

・ネリも部屋?のパソコンで英児引退の記事を読んでいる。微笑みを浮かべた穏やかな表情は、彼が新たな、それも死に急ぐ代わりに次代を教え導くような夢を見出してくれたことを心から喜んでるように思えます。英児のことを思い出してもそれでネリの表情が曇ることはない。彼女の中で英児の記憶がすでに綺麗な思い出に昇華されたのがわかります。

・病院の廊下。ネリが出てくるのを廊下で待っていた福山が歩み寄ってきて「ところで、ご報告なんですが、ぼく、外科医はあきらめます」と切り出す。ネリはさすがに足を止めるが、しばしの後また歩き出しふっと笑って「それがいいんじゃない。大学に戻って病理に鞍替えしたら」と言う。確かに秀才だけど現場で役立たないタイプの福山は研究職の方が向いてそうです。
しかし福山の希望はそうではなく「いえ、ぼく、どうしても灰谷先生の新しいクリニックで働きたいんです」というところにあった。「それはだめ。あなたは絶対に雇いません」。ネリは福山の方を見ないまま「理由は・・・(ここで足を止めて振り返ると嫣然と微笑んで、かつちょっと眉ひそめてみせて)気持ち悪いからです」。うわ直球。さすがの福山も硬直してます。これまでの彼の行動を思えば無理ないですけど。このときのネリの表情がなんとも秀逸です。
「一生懸命勉強して私と関係ないところで立派なお医者さんになってちょうだい」とネリは背を向けて歩き出す。最後に「がんばってね」とにっこり手をあげてはいるものの、「私と関係ないところで」というあたりほとんど最後通牒です。突っ立ってネリを見送る福山の目に涙が。・・・なんかここまでくると一周して応援したい気持ちにさえなってきます福山。

・日傘を差して一人歩く詩文。例のボクシングジムの前で立ち止まり窓から見えるボクサーの姿に英児を重ね合わせる。澤田と破談になってまもなく英児の消息を知ったことで、彼と過ごした日々が改めて懐かしくなったのでしょう。しばし立ち尽くしている詩文の後ろからボクサーが走ってくる。近付いてくる男の足と振り返る詩文をスローモーションでいかにも意味深に捉える。
詩文は振り向きパンチ練習しながら走ってくる若者を見出す。たくましい二の腕をじっと見つめる詩文。詩文の横を走りすぎジムの前で立ち止まった男は詩文を振り返り、しばし二人は真顔で見つめあう。この青年もなかなかのイケメンかつワイルド系で、詩文の好みには叶ってるんじゃないでしょうか。

・恵成女子大学附属高等学校と看板のかかった構内に門から進入するかたちでカメラが中へ入っていく。門と反対側の庭っぽいスペースで「私たちがこの学窓を離れてから~」うんぬんと満希子がスピーチしてる。ドレスぽい派手なワンピース。まわりの奥さんたちの服装からしても同窓会兼美波を偲ぶ会ぽい感じです。「今日は明るく可愛かった美波の思い出を語りながらみんなでご冥福を祈りたいと思います」。笑顔で言い終えた満希子に拍手が。
「はりきってるわねーブッキ」「いろいろあったけど人はそう簡単には変わらないってことよ」と隅の方で語りあうし文とネリ。つまらない主婦になった満希子もこういうときはかつての生徒会長の面影を取り戻すようです。「場違いねあたしたち」とネリ。「帰ろうか」と詩文。かくて二人が席を外そうとしたところに「原と・・・ネリでしょ」「クラス会に出てくるの初めてでしょあなたたち」と二人組の奥さんたちに声をかけられ「だれだこいつ」みたいな顔で見返してしまう二人。順に名乗る二人の名前を声をあわせてリピートしてますが本当に覚えているのかも疑問です。

・満希子が「みなさーん。言い忘れてたんですけど灰谷ネリさんが来年春脳ドックのクリニックを開きます」「宣伝のためにはじめてクラス会に来たのよネリは」と皆にアピール。親切心のつもりでしょうがネリはちょっと気に入らない顔。ネリは別に宣伝のために来たつもりは全くないはず。一言の宣伝もしないうちに帰ろうとしてたくらいですから。
それでも満希子が能天気に「よろしくね~」と言い拍手が起こると、ネリは社交辞令で笑ってみせ隣りで詩文も苦笑する。こうして彼女たちはこれからも満希子に振り回されていくのでしょうか。

・記念撮影のあと音楽室にやってきた三人。「ここでよく原と立たされたねー」「バケツもって」。三人は笑い、扉の外に立たされる昔の詩文とネリ、。歌うクラスメート、指揮する満希子のヴィジョンが浮かび、そこに今の満希子の笑顔が重なる。ピアノを伴奏する高校生の美波の笑顔。そして現在の無人のピアノ。「美波も生きてたらここにいたのね」「絶対ブッキのそばにいたわよ子分だもの」「子分じゃないわよ親友よ」。反論した満希子は少し間をおいてから「原もネリも、私の大事な親友よ」と付け加える。
へえー、とあきれたような気持ち悪そうな声を出したネリは「命の恩人だからね原は」と軽く笑いつつ突っ込む。少し後でも「命の恩人だってことは忘れちゃだめよ」と重ねて言っていて、このくらい強調しとかないとすぐ恩を忘れるからこの女は、と思ってるのがわかります。

・この次のクラス会は原の結婚のお祝いにしようと思うの、という満希子の言葉に言葉詰まらせ驚くネリ。「知らないのーネリ」と得意げにひけらかそうとする満希子に詩文はちょっとあせって、「その話、なくなった」と言う。えっと驚く満希子ににっこりと「ふられちゃったの。あなたのような女を妻にする自信がなくなったって」と説明。うそーと驚き顔の満希子、ちらと横目で見るだけのネリ。
「あたしでもふられるようなことがあるのよー」と頬杖ついてわざと高飛車ぽくいう詩文がちょっと痛々しいようでもあります。

・「だから当分は西尾仏具店で働くことになりましたのでよろしく」と座ったままぺこんと頭をさげる詩文。てっきり満希子は嫌な顔をするかと思ったら「正社員になれるようにうちの人に言ってみようか。大したお給料払えないとは思うけど」と満希子とも思えない良心的なことを言い出す。それが面白かったのか「旦那さん大丈夫ー?毎日一緒に働いたら危ないかもよー」といたずらぽくリノリノリでネリが突っ込んでくる。
「邪魔しないでよー就職できそうなんだから!」と言う詩文は微妙に怒ってるようでもあります。そういえば武は詩文の魔性に引っかかる気配が全然ですね。相性の問題なのか他に愛人がいるからなのか。

・「うちの人なら大丈夫よ。もう浮気はしないから。絶対に」。穏やかに確信もって言い切る満希子。もともとが婿養子らしい小心で真面目な人物ではあり、今度のことで懲りたろうと踏んでるんでしょうね。700万の行方をめぐるやりとりで久々にいちゃいちゃしたのも彼への信頼感を高めているのかも。

・そのころ海の見えるマンション。荷物運びを手伝いつつ「せっかく引っ越したんだからもう表札は出すなよ」という武に「もう乗り込まれるのはやだもんね」と荷物を出しながらにっこり笑う君子。なんだってー!。別れたんじゃなかったのか!?単に前の家の合鍵を(不要になるから)返しただけの話ですか。引っ越したのもご近所の手前だけじゃなく、満希子の知らない場所に愛の巣を設けるためだったのか?
満希子に知れたことや家内安全を別にしても、あんなふうに包丁振り回されたりしたらいいかげん愛想つきたりしないのかなあ。

・たまたま包丁の入った箱を開けた武はそれを持って彼女の前に行き、「君も、こういうものを二度と振り回さないようにね」と言い聞かせるように言う。それに対し、武が浮気したら振り回すかもと無表情な声で君子は言い放つ。ずっとダンボールに入れときなさい、と背を向けて箱に蓋をしようとするのへ「あああーん」と甘えた声で後ろから君子が抱きついてきて、右手に包丁持ったままの武はふらつく。「今日中にリビングだけは片付けるんじゃないの?」と一応抵抗する武に「急にしたくなっちゃった」と肩にあごを乗せて君子が甘えてくる。「そうなの ?時間なくない?」と腕時計を見るものの君子に笑顔で肩をぱたぱた叩かれ、「まいっか」と向き直ると君子を抱きしめてのしかかる。
ええー、結局流されちゃうのか?満希子にも詩文にも君子とはきっぱり別れたようなこと言ったくせに全然懲りてません。いかにも真面目な家庭人をやりきってるだけにこの人の方が満希子より実は性質悪いのかも。このシークエンスのラスト、からみあう二人を遠くに捉え、むき出しで置かれたままの包丁を手前に捉えた構図が出てきますが、彼らの関係も西尾家の平和も、また刃物三昧で破壊されかねない危うい均衡のもとにあることを暗示しているように思えます。

・校舎内?の緑の歩道を歩く三人。美波、見てるー?と満希子が空に呼びかけたのをきっかけに「バンクーバー・・・行ってみたいなー」と詩文が呟く。私はお金がないから無理だけどと言う詩文に「お金・・・私が出してもいいけど?」と満希子が太っ腹な提案を。ちょっとやましそうな様子なのは700万の損失を詩文のせいにした経緯があるからでしょう。
この発言に二人は驚愕。「原に助けてもらわなかったら大森にとめどなくお金とられてたわけだし?」「その分でバンクーバー行くのも悪くないかなーって」と笑顔でもっともらしい説明を並べたものの、「700万も取られたのにやけに太っ腹だけど、ご主人知ってるのお金のこと」(ネリ)「株で損したって言った?」(詩文)とかわるがわる問い質されるはめに。やましさゆえとはいえ善意の発言でかえって墓穴を掘ってしまった格好です。

・しばし目を閉じて無言の満希子に詩文は「西尾仏具店で働いてるんだからあたし。どういう話になってるんだか言ってもらわないとボロが出るわよ」と脅しをかける。いらないことはべらべら喋るくせに、都合の悪いことはこういう尻に火のつくような言い方しないと口を割らないとよく分かってるわけですね。
案の定ちょっと逡巡しつつも「人に・・・貸したことにした」と満希子は口を開く。「誰に?」 自然に聞き返す詩文の方を向いて微笑む満希子に「なにもったいぶってんのよ」と笑いながら詩文はツッコむ。勘の鋭い詩文がこのあとの展開を予測してないっぽいのが意外です。いくらなんでもそこまで恩知らずとは想像の範疇を超えていたのか。

・満希子は改めて詩文を見て笑顔で、「・・・あなたに」。詩文はあきれ返った顔で「いいかげんにしなさいよ」と怒る。「だあって、行きがかり上そういうことになっちゃたんだもん。ごめん、許して、親友でしょ」「じょおだんじゃないわ」「うちの人もいろいろ迷惑かけてるし。返済できなくても文句いえないって言ってるから」。
なんだか軽いノリで説明する満希子に「ブッキ。節操なさすぎるよそれ」とネリも横からツッコむ。「もういい。大森に貢いだことも大森とラブホに行ったことも、みんな旦那に隠してあげてたけど言うわ。言えば何もかもが説明つくんだから」。さすがに真面目に言い切る詩文。満希子に懇願されればこそ、警察にも武にも満希子の不名誉を隠し切ったというのにこの仕打ちじゃあ激怒して当然。満希子は「やめて」と哀願する顔に。「ラブホまで行ってたの。プラトニックなのかと思ったら」と白い目で見るネリに「なにもしてないわよ」と満希子はしっかり否定。しかし「逃げ帰ったくせに図々しい」と鋭くツッコむ詩文に「どうして知ってるの」と驚きの顔に。
詩文は「あたしはなんでもわかるのよ。だから大森の嘘も気付いて助けてやれたんじゃないよ」と苛立ったように言う。ちょうどそのラブホで仕事してた、モニターで見てたなんて真相をバラさないのはさすがに周到です。満希子みたいな女にはネタを割らずに、どういうわけか詩文には「なんでもわかる」と思わせて牽制した方がこの先の被害を防げますからね。

・「ブッキが悪い」「あんたは恩を仇で返した」と責めるネリに「上から目線でもの言わないでよ」と本気で抗議する満希子。言えた義理じゃないだろうに。「人のことは文句言うくせに自分のことはなんにも見えてないから最悪なのよ昔も今も」。さすがに本気で怒っている詩文は「今までのこと全てあたしが言う」ときっぱり宣言。
満希子は「それだけはやめて。いっしょにバンクーバー行こう。それで機嫌なおして」「飛行機も、ビジネスとるから。ホテルも高いとことるから。お金借りたことにしておいて、一生のお願い!」と手を合わせる。やっぱり「一生のお願い」が出たか。「そういう問題じゃないでしょ」とネリは呆れきるが「お願い」と手を合わせて繰り返す満希子をいくぶん軟化してきた表情で見ていた詩文は「ファーストクラスなら、乗ってみてもいいかな」と低い意地悪声でいう。
真相を明らかにして西尾家の平和を今さら乱しても何の得にもならない、だったらこのまま恩を売って美味しい思いをさせてもらおう、という結論に達したんでしょうね。満希子の方から切り出してくれた正社員昇格も、実現すれば経済的安定が見込めますし。

・自宅のパソコンでバンクーバーの天気を調べてるネリ。「バンクーバーって涼しいんだ」と一人言のように言うと「北海道より北だろ」と気のない感じの男の声が答える。誰?と思ってると後ろのソファにTシャツトランクス姿で足を伸ばしくつろぐ福山の姿が。なんだってー!!正直このドラマで最大の驚きでした。あの完膚なきまでのふられっぷりから何がどうなってこうなったんだか。
「俺も行きたいなーバンクーバー」と口にして「いちいち付いてきたがるんじゃないの!」と強い口調で叱られてもにやにや笑いながら「また怒られちゃった」となんか嬉しげ。もとはストーカーだったくせに、まさに奇跡の逆転勝利です。男と女はわからないと言ってしまえばそれまでですが、あえて言うなら先に英児との関係があったからこそ、いくらか男慣れしたネリが福山のような男を受け入れられる下地ができた面はあると思います。福山は「ボクサーなんか」に感謝しなくてはですね。

・エステサロン?で爪を手入れする満希子。足もお手入れ。はーと気持ちよさそうに息を吐き「来週の水曜はフェイシャルもやろっかなー」。バンクーバー行きを控えてるとはいえすっかり色気づいた様子。
基本元の生活に復帰した満希子ですが、だいぶお洒落になったのは大森との関係が残した副産物みたいなもんですね。

・日傘を差して立っている詩文の方へ例のボクサーがランニングしてくる。目の前まで来て足を止めたボクサーに、詩文は片手に持ったビニール袋を差し出して「お肉、食べない?」と微笑む。ボクサーは無言で詩文を見つめる。すごいナンパの仕方ですが、この間さんざん見つめあってたことからも彼が詩文にプラスの興味を抱いているのは明白、ここで詩文の魔性に捉えられてしまうだろうことが予期されます。
男に無縁だったネリに男ができ、波瀾のあげく平穏な暮らしに戻った満希子もいくぶん華やいだ女に変わっている。父とも娘とも離れ家庭環境は大きく変わった詩文ですが、人間性において一番変わらないままなのは結局彼女なのかも。

・バンクーバーで例の遊覧船に乗る三人。「この船に乗って美波は河野さんとバンクーバーからホーシューベイに渡ってたんだー」と感嘆の声をあげる満希子にネリは噴き出す。「うらやましそうだからさ」「ちょっと、うらやましいかも」と言い合う二人に「幸せな恋なんて、ないけどね」と詩文。すると「あると思うな。あたしは」とネリが意外な発言。こんな言葉が出るだけ福山と上手く行ってるってことですね。満希子は無言の真顔で外見つめる。もとは美波の恋に憧れたところから始まった彼女の「最後の恋」は無惨な結末になったわけですから。
「この数ヶ月いろいろなことがあったけど、まだまだ人生はつづきます。でも40すぎてもまだじたばたできるって素敵なことじゃない?」と美波のナレーション。詩文はそのとき河野と並んで甲板に立つ美波を見つけ驚く。まず美波が、ついで圭史が振り返る。「がんばってね。うふふふ」と微笑む美波。「美波 ?」とつぶやく詩文に満希子とネリも甲板を見て美波の姿を見つける。「うそ?」「うそ?」「うそ」。口々に言う三人に美波が笑顔のまま「う・そ・」と唇動かす。
だからタイトルが『四つの嘘』なのか?原作では四人とも嘘を抱えてましたが、ドラマだと詩文は思い切り自分に正直で特に嘘ついてる様子がないので、ここでタイトルの辻褄をあわせてきた?しかし他二人はいいとして圭史の元妻だった詩文が美波の幻にばかり気を取られ圭史のことはまるで気にしてないのが不思議。

・そして美波の姿がかき消える。満希子を先頭に三人は甲板へと駆け出すがそこには誰もいない。呆然と立ち尽くす彼女らを乗せて船は走りつづける。ミステリアスな後味を残すラストシーンです。

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『四つの嘘』(2)-9-1(注・ネタバレしてます)

2012-09-10 06:43:01 | 四つの嘘
〈第九回〉

・部屋の中に満希子が見当たらないため部屋の外へ出て捜す詩文。暗い階段を下りて駐車場まで出てみるがそれらしい気配はなし。また305号室のの前まで息を切らして戻った詩文は、隣の部屋の前に白いボタンが一つ落ちてるのを見つける。食事したときの服装を思い出して満希子のものと確信した詩文は306号室の扉を見つめ、そちらのチャイムを押してみる。
こちらの部屋に大森と満希子がいたとして素直にドアを開けるとは思えませんが、鍵がかかっていれば他にアプローチのしようがないですからね。詩文としてはボタンを見つけた時点で100%事件認定でしょうが、警察に通報しても強制的に踏み込んでもらうには証拠として弱い。だから彼らの悪事を暴くために、自ら彼らの悪事の証拠となるためにあれだけ無茶をやらかしたわけだ。

・男の一人がドアのレンズから詩文の姿を見て「戻ってきちゃたよ」というのを大森がどけよ、と軽く横にどかしてのぞきこむ。詩文はノックして「ブッキ ?そこにいるの?」と声をかけ、繰り返しチャイムを押す。こないだの君子宅襲撃を思い出させる光景です。詩文はつくづく満希子のために危ない橋渡ってますね。

・詩文にあきらめる気配がないのを見て、大森は「仲間に入れてやろうぜ」と今までにない悪い笑顔を見せる。後ろにいた仲間の指示で部屋の中の男が何か用意を始め、大森は部屋のドアを開ける。
詩文は大森の横をむっとした顔ですりぬけ「ブッキどこ?」とあがりこむ。部屋に入ると男が二人待機していて、詩文について中へ入った大森が後手にドアを閉める。はっと振り返る詩文。仲間がいるというのは想定外だったんでしょうか。人数だけでも圧倒的にピンチです。

・大森は猫なで声で「原さんも参加してくださるなら大歓迎です」と言い、パーティーへようこそとさっきの男はビデオカメラを向ける。状況からすればパーティーとは強制的乱交パーティー、男たちが集団で詩文と満希子をレイプしようということですね。しかもその光景をビデオにとって彼女たちを脅す材料に使おうという・・・。
もともとは標的にされたのは満希子だけ、その満希子は積極的に大森に貢いでくれてたわけで、脅迫するまでもなく700万同様「お願い」してむしりとればいいようなもんですが。若いゆかりでなく満希子を騙す対象に選んだのはより自由に大金を動かせる、よりちょろく騙せそうだったのみならず、単純に熟女をレイプするのが趣味だったのかも。もっとも少しあとで「原さんが邪魔さえしなければ満希子さんはずーーっとぼくの彼女でいられたし」と言っていたので、本当ならまだまだいい夢見させながら絞りとる方向だったのかもですが。

・斜め横から撮影されている詩文はさすがにちょっとあせった顔。ブッキと名前を呼びかける。隣りの部屋で男(一人)に見張られている満希子は詩文の声に顔をあげるが男に睨まれたため返事はしない。しかし縛るでも猿ぐつわかますでもなく、ずいぶんと緩い監禁の仕方です。もともと冷静さに欠けている満希子なんだから、やけ気味に大声で騒ぎ立てる可能性だってあるでしょうに。

・「そこにいるんでしょ」と扉を開けようとする詩文は男の一人でに首をつかまれ引き戻される。「落ち着いてくださいよ。愛がほしい主婦とお金がほしい若者の、これはギブアンドテイクでしょ~」と間延びしたむかつく話し方で言う大森。
ベッドから体を起こしドア方向に移動しようとする満希子を男が睨んだまま少し前へ出て牽制する。ここで満希子が自分を助けに来てくれた詩文を救うために機転を働かせ大活躍する!なんて展開をちょっと期待したんですが、やっぱり何もしないまま一方的に詩文に助けられるだけでしたね。いや、その後の展開を見るにもっと悪いか・・・。

・「議論する気はないわ。ブッキ返して。もう十分傷つけたでしょ」「あなたのせいで傷ついちゃいましたねえ。こうなったら一緒にパーティーを楽しみませんか?」気持ち悪い笑顔で言う大森を「・・・子供のくせに、セックスなめんじゃないわよ!」と詩文は怒鳴る。
セックスをなめるなとは凄い台詞ですが、詩文にとってのセックスとは病院の食堂でネリに説明したように命をこすりあうような切実さを伴うものであり、「パーティー」なんてのは表層の快楽だけを追った底の浅い行為と考えてるんでしょうね。詩文が「エッチ」といった隠語的軽い表現を使わずストレートに「セックス」という単語を用いるのも、彼女の性行為への真剣な向き合い方を象徴しているように思います。

・大森は真顔で無理やり詩文をソファに押し倒し、他の男が詩文の足を押さえる。詩文は男を蹴り飛ばし両手首を大森に抑えられながらも抵抗。その歯をくいしばる顔をカメラが映してる。完全に詩文不利の状況ですが、そのときパトカーのサイレン音が。嘘だろ、と顔こわばらせる男たち。
たまたま外の通りをパトカーが通った可能性の方が高いと思いますが、犯罪行為の真っ最中だけにさすがに平静ではいられないか。それによく考えてみれば詩文が女一人単身で乗り込んできたのは警察が来てくれる算段がしてあったからこそかもしれないわけで。
それを裏付けるように「泣き寝入りする女ばっかじゃ、ないのよ!」と力強く叫んで詩文は大森の頬を爪でえぐり、そのままソファから這って逃げ、外のドアをあけて「おまわりさんこっちです」と叫ぶ。最初はこれ、パトカーに男たちが動揺してるのにつけこんだとっさの芝居かと思ったんですが、本当に警察がかけつけてきたので、やはり詩文はあらかじめ通報したうえで乗り込んできたんですね。

・大森たちは階段から逃走。入れ違いに警察がエレベーターで3階へ上がってくる。隣りの部屋に入りベッドのうえに座りこんでる満希子を見つけた詩文はおまわりさん早くと叫ぶが、満希子は「おまわりさん・・・」と呟き、詩文の腕を引っ張って「おまわりさんはだめ」ときれぎれに訴える。「何言ってんのよ、殺されてたかもしれないのよあたしたち」と怒る詩文に「バレる、うちに、警察にバレたらうちにも・・・」と呆けたように満希子は繰り返す。
家族を捨てるつもりで出てきたはずなのに(離婚届置いてきたんじゃなかったっけ?)何をいまさらという感じはあります。まあ同じ家族を捨てるにしても“男と愛し合って駆け落ち”と“男と駆け落ちするはずが騙されて逃げられた”じゃ、本人的には後者の方がより知られたくないでしょうが。大森が逃げた以上、家に帰る以外行くところさえないんだし。

・刑事たちがあわてて乗り込んできて「通報した原詩文さん」と言うのに「はい」と詩文が手をあげる。実際に事件が起きるまでなかなか腰を上げない(空き巣事件でネリの家にやってきた刑事もそう言ってた)警察を、なんと通報して即刻動かしたのか。詩文の行動力と頭の回転の速さは大したものです。
ところがそこまでして助けてもらった満希子が後ろから作り笑顔で出てきて、「あの、なんでもないんです、なんでも」と必死に警察をごまかそうとする。実に往生際の悪い。通報した詩文の立場はどうなるった。幸い「なんでも・・・」と繰り返しながらいきなり満希子は意識失って後ろのベッドに倒れてしまいましたが。この“突然の失神”は結果的に“まぎれもなく何かがあった”ことを警察に印象づけたと思われ、満希子もようやく役に立つことをしたかという感じです。

・病院のベッドに横たわる満希子。傍らの椅子に座る詩文と反対側に立って見下ろすネリ。「あいつらもこれで終わりよ。詐欺と監禁だけでも間違いなく実刑だもの」「そういう若者をのさばらせといちゃいけないわ」という詩文とネリの言葉を聞きながら、「原・・・なかったことにして」と満希子は力なく言う。「え?」と詩文は驚きネリも意外そう。「警察には何にも言わないで」「何にもなかったことにしたいの」と涙声で続ける。
「何バカなこと言ってんのよ。あの大森にブッキ何されたかわかってんの?。お金だって700万も取られてんのよ。なかったことになんてできないわよ。あたしだって、」と怒った声で言う詩文に「お願い。子供たちは何にも知らないの。パパに女の人がいることは知ってるけど、そのうえあたしまで・・・そんなの子供たちが可哀想すぎる。ゆかりや明が」と懇願して満希子は鼻をすする。武に女がいるのをバラした(子供たちの前で当たり前に口にした)のは満希子じゃないか。満希子の予定通り事が進んでいればどのみち翌日には“母が男のもとに走った”ことは子供たちの知るところとなっていただろうに。自分の不名誉を隠蔽するために子供たちをだしに使ってるのは明らかですが、その思惑をわかってはいても詩文も母親として子供のことを出されると強く言い切れないでしょうね。

・ネリも呆れた顔で「あたしも訴えた方がいいと思うけどな。隠せないでしょもう」と意外に優しい口調で説得するように言うが、それでも満希子は首をいやいやと振って、「帰りたーい。寿町のあの家にしか、あたしの居場所はないのー」と泣き崩れる。子供たちには必要とされてないとか夫と一つ屋根の下にはいたくないとかさんざん言ってたのに、いまさらあの家が自分の居場所だというのだからどれだけ調子がいいのか。

・ネリは「700万も、諦めるには大きすぎる」と言いますが、彼女たちの知らないことながら満希子は700万以外にも家の財産の4分の1(西尾仏具店はキャッシュで5000万は持ってるといってたので1200万くらい?)を持ち出してたはず。
詩文が305号室に乗り込んだときテーブルの上になかったので大森たちがしまいこんだ、当然そのまま持って逃げたと考えられます。あれこそ700万以上にごまかせないだろうに。「いらない。なんにもいらないから」と満希子は首を振りますが、この時点で彼女も財産4分の1の方は忘れそうな感じです。

・「あたしは絶対に、許さないから」と怒りもあらわな詩文は、「・・・ごめんなさい」と素直な満希子の声にちょっと意外そうに顔を見る。「原に助けてもらって、原をまきこんで、でも・・・でも・・・」「何にもなかったことにしたいの。一っ生のお願い!」泣きじゃくりながら叫ぶように言う。
詩文は唇をひきむすんだまま顔を伏せ、しかし目はしっかり開いて内心の怒りに堪えている風情。ネリももはや何も言わず黙っている。そして詩文は「わかったわよー」「じゃあ、何事もなかったような顔して帰るのね」とついに折れる。どう考えても詩文の主張に利があるだけにネリが驚いています。泣く子と地頭には勝てないというか、こういう押し問答は結局ゴネ得に終わるというか。

・「完っ璧にしらばっくれんのよ」と世渡り術を伝授する詩文に満希子はうなずく。「だけど、しらばっくれんの難しくない?700万の事、旦那さんだって気づくでしょ」というネリの言葉に詩文は「・・・お金のことは・・・ダンナの女のことでむしゃくしゃしてたから株に手を出したって言えばいいわ」とすごい提案を。「株?」とネリは呆れたように言いますが、「隠すなら徹底的に隠すの。できる?」ときつい口調で言う詩文に満希子は決意の表情でうなずく。
確かに家内安全のためには中途半端が一番いけない。事の起こりとなった武の浮気沙汰も愛人宛てのメールを間違って妻に送信するという武のうっかりミスから起こったことだった。あれさえなければさすがに家族を捨てて大森に走る選択はなかなか出来かねたでしょうから。長期にわたってボロを出さず隠し切るには相当な注意深さが必要になると思いますが、自己保身の塊みたいな満希子は案外得意分野かも。

・病室から出てきた詩文に表で待っていた刑事たちが反応。詩文はこれからが戦いだという覚悟を定めてるような面持ちでゆっくりそちらに顔をむける。そしてつかつかと刑事の前に歩み出ると無言で右手を差し伸べる。「この爪の間に大森の皮膚が入ってます。大森をつかまえてDNA鑑定してください。私が、強姦されそうになったときに抵抗して引っかいた傷が大森の左頬にあるはずです」。
ネリに「事情聴取は適当にかわすわ。早とちりで110番したっていうし。訴える気はないって言えば、それまでよ」と説明していたので、満希子の懇願をいれて自分が怒られる覚悟で警察をごまかすつもりかと思ってましたが、やはり詩文はすんなり泣き寝入りはしなかったか。それでも「私が」のところを強調することで満希子には類が及ばないようにしているのがさすがの気遣いです。

・飲み屋のカウンター席の角に並んで座る武と君子。並んでといっても角の位置なので距離が近いような遠いような微妙な感じ。別れた(別れる予定の)カップルの距離感を象徴してるようでもあります。

・「そうだ忘れないうちに」と武は鍵を財布から取り出し彼女の前に置く。「今度のマンションからは、海が見えるのよ」と鍵を手に取りつつ笑いを含んだ声で君子は言う。マンション引っ越すことにしたんですね。確かにあんな騒ぎになってしまったらご近所の手前住みづらいですからね。武は君子に合鍵を返し、君子は武との思い出の染み付いたマンションを離れる。絵に描いたような綺麗な幕引きです。「じゃあ、まだ片付けがあるから。ごちそうさま」と君子が多くを語らず微笑んで席を立つ動作にも彼のことを綺麗に割り切った(割り切ろうとしてる)颯爽感があります。別れ際、最後の最後に「もし奥さんより先にあたしと出会ってたら結婚してた?」と尋ねる一抹の未練気と、本当か嘘か「もちろんだよ」と即答する武の優しさもこの別れのシーンを美しいものにしています。・・・なのにまさかあんなオチがつくとはなあ。
ところで途中、君子が席を立ったところで武は意を決したように何かを尋ねようとして「いや・・・いいや」と言葉を飲み込んでますが、これは手切れ金200万のことを質したかったのでは。君子の態度や経済力からしてやっぱり受け取ったようには思えなかったんでしょうね。とすれば満希子の言葉は嘘とわかったうえで、もとは自分が悪いことだからと黙って飲み込むことにしたということか。

・なんと詩文の家で布団に寝てる満希子。詩文はその隣に自分の布団を敷いている。「トイレ行きたい」という満希子にそこよというと「こわいー」と甘えた声。トイレが屋外にあるというならともかく、どれだけ子供なんですか。満希子のわがままぶりに詩文が口とがらせながら部屋から出て行くときも「どこいくのー?」「ひとりにしないでよ~」と泣きそうな声出してるし。
少しして戻ってきた詩文は「これ。冬子のだけど」と枕元に何かを置く。これ何なのかよく見えなかったんですが「まーなんだか可愛くて恥ずかしいー」という満希子の華やいだ声からすると何かファンシーグッズ的なものでしょうか。トイレに行くのも怖がる満希子の心を慰めるために取ってきてくれたわけですね。詩文もつくづく親切、というかもはや大きな子供と思って接してるのかも。
「あんなに帰りたかった寿町の家なんで帰んないのよー」「だってえ、今うちに帰ったら動揺して、全部しゃべっちゃいそうだもん」「明日は帰んなさいよ」なんて会話も大人と子供のよう。「大学生の彼がいたんだから(可愛くても)いいんじゃないの」とちょっと意地悪言うあたりは、わがままにつき合わされてるせめてもの意趣返しみたいなもんですね。

・急にいたずらっぽい笑顔になって「ねえ、なにか話して。全然違うこと」とせがむ満希子。後輩たちに食事をおごりながら面白い話を強要するネリみたいな台詞。詩文は宙を見つめて少し考えるが「ああ、結婚するわ」と唐突に言う。「誰が」「あたし」「うそ!」 ここで満希子が飛び起きる。俄然関心を持った様子。「穏やかな暮らしってものを一度してみよっかなって思って」と気のないような調子で詩文は言う。
河野母にも結婚の動機を「穏やかな暮らし」と語っていましたが、澤田個人に対する愛情をうかがわせるような発言は本人に対しても他人に対してもこれまで一切してないんですよね。詩文の気のなさそうな調子からすると、照れてるとかでなく本当に愛情はないみたいに思えます。父を老人ホームまで送ってくれたことなんかに関する“好意”はあるんだろうし、穏やかな暮らしを営むにはなまじ激しい(英児に対してのような)執着などない方がいいと思ってるんじゃないですかね。

・「退屈しそうで心配なんだけど」という詩文に「大丈夫よ~。頼もしい旦那さまに守られてたほうが結局女にとっては一番幸せだもん。退屈なくらいでちょうどいいのよ」と先輩的笑顔に。まさに今度の件で思い知らされたってとこですね。
よそに女がいる、子供たちからも軽く扱われてる感のある武が「頼もしい旦那さま」に当たるかは疑問ですが、浮気しようとも家業はきちんとこなし夫として父としての役割も放棄することはなかったわけですから(男に走って店の金を持ち出し家事を放り出した満希子とはまさに正反対)、家庭人としては信用に足る男でしょうしね。自分が恋敗れた直後だけに詩文の結婚話が内心不愉快なんじゃないかと思ったら「よかったわねえ、おめでとう」と本気で祝福しているようなのも、大森との恋の顛末を通して自分の本当の幸せが何かに気づいたがゆえなのでしょう。

・翌朝。西尾仏具店の前でじっと立っている武。満希子の帰りを待っているのか、その表情は沈んでいる。ふと後ろを振り向くとちょうど満希子が歩いてきたところ。虚脱した表情でゆっくり歩み寄る満希子を武はじっと見つめ、無言の満希子に決然と歩み寄り、しっかり目を見て「朝飯頼むよ。腹へった」。それだけ言って中に入ってしまう。
満希子の外泊理由を自分の浮気に対する怒りからだと思ってるだろう武ですが、あえてここで平身低頭詫びるのでなく(それはもうやったし)、ごく自然に、受け入れこれまで通りの生活を続けてゆきたい意志を示してみせる。何もなかったことにしたい、寿町の家に帰りたいと泣いた満希子にとっては、何事もなかったようにしてくれることが一番嬉しいのでは。泣きそうな顔でしばしそこに佇む姿にそんな心情が表れているように思えます。

・詩文が本棚を掃除しているところへ澤田がやってくる。おはようと声をかけてくるのへ詩文も今電話しようと思ってたの、と今までになく柔らかな答え。打ち解けた笑顔といい、彼と生きてくと決めたのがその態度の変容に表れています。「今夜は仕事を休もうと思ってるので、一緒に夕飯食べません?」と詩文から誘うのも。しかも手料理作るようだし。
なのに「はあ・・」となぜか気の乗らないような、申し訳なさそうな顔の澤田。さすがに男の顔色に敏感な詩文はすぐに澤田の態度がおかしいのに気付いてますね。もしかするとこの時点でもう後の展開をある程度予測してたかも。

・原家の居間。「すみません。先日のプロポーズ取り消させてください」。絞りだすような声で、しかし要点はきっぱり告げる澤田に、さすがに目を見開く詩文。取り乱したりしないのはさすがですが。「本当に申し訳ありません」と澤田は土下座し、「この何日かあなたを毎日見ていて気付いてしまったんです。あなたは誰かの妻に納まるような女性じゃないんだって」。何をいまさら、という感じはあります。毎日見てなくたってラブホで仕事してる話をさらっと話してきたあたりですぐわかりそうなものですが。「ラブホテルで働いていることも堂々と話すあなたの強さにぼくは惹かれました。ぼくは今でも心からすばらしいと思っています」「しかし、あなたには、穏やかな暮らしとか、世間の常識とか、ルールとか、何かを守り育てることとか夫とか妻とか子とかそういうものはまったく似合わないと思うんです」。
澤田が一方的に長台詞しゃべる間、詩文は口ぽかんとあけたり目をきょときょとさせたり、総じてあっけに取られた顔をしてます。人は変わるものだと言った彼の言葉にいくらか動かされて、その穏やかな暮らしをしてみようかという気になった矢先なのに、ずらずら言葉を並べて詩文はこういう人間だと一方的に決めつけてるわけですから。まあ確かに詩文に穏やかな暮らしが似合うかといえば似合うないとは思いますけども。結果的に詩文は澤田に背中を押された形で、これまで通りの自分らしく生きる方向に覚悟を定めることになります。

・「そういう人と結婚生活をやっていく自信がなくなってしまって・・」とうつむく澤田。話を聞くうちに次第に呆然たる表情からうっすら諦めの笑顔に変わりつつあった詩文はもはやすっぱりと悟った表情になり「そうですか・・」と薄く微笑む。
「自分から言い出しておいてほんっとうにすみません。この通りです」とまた頭を下げた澤田は「バカな男だとお思いでしょうが、もし、もし、詩文さんがよければですが、これから友人として付き合っていただけないでしょうか」とえらく虫のいい事を言い出す。友人としてお付き合いということは肉体関係はなしということですか。一度寝てみて精気吸われすぎて怖気づいたんでしょうか?実際無意識に感じつつも詩文に惹かれているゆえに気付かないふりしてきた不安―こんな奔放な女とやっていけるだろうかという思い―があの朝をきっかけに一気に湧き上がってきた結果がこのプロポーズ破棄に繋がったんじゃないでしょうか。、

・「友達は・・・要りません」と間をおかず即答する詩文。詩文くらい異性の友達というポジションが似合わない女も少ないだろうに。いつもの笑顔になってちょっと見上げるように「先生と、結婚するのもいいかなーと思ってたんですけど・・・」と唇を結んだ笑顔に一瞬なってから「残念でした」とまた歯を見せたいい笑顔になる詩文。
満希子ほど残酷な形じゃないですが、やはり思い描いていた幸せをあっさり不意にされながら動揺をあらわにせず相手を責めもしない詩文は実に大人でいい女だと思います。澤田の「ぼくも無念です」って返事はなんのことやらですが。

・そこに「あなたの目は節穴ですか」と聞きなれた声が。厳しい顔でのれんくぐって入ってきたのは河野母。挨拶もなくいきなり家の方まで入ってきてしまう。訪ねてきたらちょうど取り込み中で声かけるにかけられないまま、会話全部聞いてしまったというところでしょう。
閉める閉めるといいながら詩文堂がなかなか閉店にならないのは、英児が部屋に鍵かけないおかげで詩文もネリも福山も入り放題だったのと同様、外の人間が入ってきやすいシチュエーションを作るためのような気がしてきました。

・河野母は二人の間に、澤田とひざ突き合わすように座って「先生・・・先生お子さんいらっしゃいますか」と尋ね、いないと聞くと、そう、やっぱりねと納得した様子で、「この人はね、倒れかけた本屋守りながら17年間、女手ひとつで娘を育ててきたんです。立派に!」 諄々と説くようにな口調で、「立派に!」のところは強い口調で言い切る。冬子はしつけがいい、優しいとつねづね言っている河野母の言葉だけに説得力があります。
「親とか子とかそういうものから遠いところにいる人間だなんてとんでもありません!」 しばし間を置いて詩文を見てから「この人は、本物の母です」。詩文に少し微笑みすら見せながら言う母に、何より詩文が驚いた顔。あの河野母が詩文をこんな風に見ていたとは。ボケた父を冬子が連れ出したときの対応、冬子が熱を出したときの看病の仕方などで、よくよく見直したのでしょうね。

・「それは・・・そうかもしれませんが・・・ぼくとはご縁がなかったという・・・」 ぐずぐず言い訳する澤田に業を煮やしたように「ああもう」と母は話さえぎり、「詩文さん、こんな人、あなたの方から捨てちゃいなさい」と小気味よく宣言。詩文は戸惑いつつこくこくとうなずく。
「何なんですかだいたい自分から言い出しておいて」となおも責める母に辟易したのか、失礼しますと澤田はほうほうの体で席を立つ。玄関前で足を止めて振り返り未練ありげに見るものの、母に睨まれて深々一礼して去ってゆく。ここにきて澤田株が大暴落です。煮え切らない感じの態度がなんともしまらない。先の武と君子の「別れ」の方がずっと決まってましたね。

・「しっつれいな男ねー!よかったわよあんな人のところへ行かなくて。塩まきなさい塩!」 詩文本人よりよほど怒りに燃えてる河野母。詩文は「あの、ありがとう、ございました」とまだ戸惑った様子ながらも礼を述べる。母もちょっと戸惑ったように固まってから苦笑する。自分でもあの詩文のためにこんなにむきになってるのが不思議な気になってきたんでしょうね。

・そうそうあのね、冬子ちゃんに試しに公開模試受けさせてみたらすごく成績よかったのよー、と話題を変える母に詩文もちょっと笑って、圭史さんの子供ですからと返事。しばし笑いあってから「河野さんはそれを伝えるためにわざわざ来てくださったんですか」。母は決まり悪げに目をそらして「実はね、あのあなたが話す前にあたし冬子ちゃんにいっちゃったの結婚のこと」。さすがに口開けっぱなしになる詩文に「だってこんなことになると思ってなかったんですもの」とちょっと言い訳モード。
そこへ暖簾くぐって満面の笑顔の冬子が「サップライーズ!」と言いながら豪華花束とケーキの箱を持って入ってくる。さらに後ろから「サンラーイズ」とお父さんも。「サプライズよおじいちゃん」といわれて「サプラーイズ」と詩文に挨拶しなおす。確かに詩文父の登場はケーキより花束よりサプライズですね。前回のことがあるから今度はちゃんと何時ごろにどうやって施設まで送るかまでちゃんと計画立ててあるんでしょう。それを察してるのか今度は詩文も父を連れ出したといってとがめたりはしてません。
お父さんまで出てくるといかにもオールスターキャスト、最終回という感じがします。ナレーター(美波)も最後の最後に登場しますしね。

・「ママ。結婚おめでと」と笑顔の冬子を見つつ「こういうわけなの」と困り顔の河野母。詩文に花束を渡す冬子の表情に翳りはなく、本当に母親の幸せを素直に喜んでる様子です。
詩文が再婚してしまえばこの家もまず処分されるわけで冬子が帰る場所はもう河野家しかなくなってしまうわけですが、今の冬子はそれをちゃんと承知して覚悟を定めてるように思えます。前に詩文に叱られたことで自分はもう河野家の人間なのだと完全に腹をくくったんでしょうね。一つ成長した冬子の笑顔が眩しいです。

・祖父の隣に座った冬子はまだ事情を知らされてないだけに「ケーキ食べようよおばあちゃま」と明るく声をかけ、「そうね、ちょっと事情はあるけど、せっかくのケーキだから」と河野母も詩文をうながす。冬子がジャーンジャンジャジャーンと歌いながら箱の蓋を取るとホールのショートケーキに「ハッピーウェディング」と英語で書いてある。わざわざ特注した気遣いが仇になった格好です・・・。
しかし「じゃあ、再出発、ということで」と詩文は一応笑顔で母に言い母も「そう!再出発!」とそれに乗っかる。しかし普段の詩文なら「せっかくのケーキだから」いう台詞を彼女の方から切り出しそうなもの。実は結構ショックが大きいのかもしれません。あとで片付けの時にもケーキの「ハッピーウェディング」の文字をわざわざ指でぬぐって消してましたし。でも自分の指をちょっと暗い表情で見つめた後ひょいと口につっこんでなめているので、そこで気分をリセットしたものと思われます。

・居間のテーブルを片づける詩文に台所で洗い物する河野母が「どうぞお気遣いなくってあなたは言うだろうけど、どうするのこれから」と尋ねてくる。「さあー?」と詩文は頼りない返事ですが、「・・・そうね、さっきまで結婚する気でいたんですものね。わからないわよね」と河野母も同調してみせる。「しょせん真っ当な人とは縁がないみたいです」と詩文は苦笑し、母もちょっと笑いながら「そうね、あの先生もあなたと結婚しなくてよかったのかも」「圭史みたいな人この世にもう一人できたら可哀想じゃない」と言う。前半はともかく後半はひどい言い方ですがその口調に毒はない。
「・・・そうですよねえー」「私も、そう思います」と詩文も同意。母は手を止め詩文を見て「珍しく意見があいましたね」。詩文も母を見て「そうですね。最初で最後かもしれませんけどね」。詩文の方は口調に軽く毒があるような。河野母が軽く睨むように見るのも可愛げないと思ってるんですかね。やっぱり完全に和解はしない、でもちゃんと認め合う部分もある、というのがこの二人にはいいバランスのようです。

・例の焼肉屋でまた研修医たちにおごるネリ。「だまってないでなんか面白いこと言いなさいよ」と呼びかけるのも相変わらず。それに対し隣の席の福山が笑顔で「坂元と宮部いま付き合ってます」と爽やかに報告。「おしゃべり!」と宮部が抗議の声あげる。「坂元先生になったの」と驚くようなあきれたような顔でのぞきこんでくるネリに宮部はテレ笑いしてちょっとうなずく。今までの険が取れた印象があるのは、福山と別れたことでネリに嫉妬心が働かなくなったからでしょう。
しかしよくあっさり別れて次の男にいったなあ。福山はどんな別れ方をしたんだか。「先生の言いつけ通り宮部とは別れました」とさわやかな笑顔で堂々ネリに宣言してる様子からだと「灰谷先生に別れろって言われたからおまえとは別れる」とストレートに宣告してる姿が浮かんできてしまうんですが。
・あらためて他に面白い話はないのかと言うネリに井上が「先生、お手本みせてくださいよ」と拗ねたような口調でいう。ネリはいたずらっぽい笑みで皆を手招き、トングをマイクのように握って、「来年の三月までで病院をやめます私」と笑顔で言い切る。まず福山が驚き顔でネリをみる。他の医師たちも表情が固まる。ネリは皆の顔を眺め渡して「面白くないか」。確かにこれは面白がるどころではない。

・宮部の「何でやめちゃうんですか」という質問に「偉くなるのに興味がなくなったの」と返答するネリ。「手術もやれるだけやったしこれ以上上手になるとも思えないから、これから先は予防医学にスイッチしようと思う」。福山は「脳ドックですか」と問い、ネリも「そう。開業しようかなって」と笑顔でトングを福山に向ける。
面白かった?と勢いこんだ口調でネリは言いますが、みんなシンとしてる。ダメかと呟くネリ。本気で笑い取れると思ってたりしたんでしょうか。

・朝?仏具店の店先を掃き掃除する詩文を武が「原さん原さん、ちょっと」と呼ぶ。店の端の目立たない場所へ移動して「あのさ。満希子昨日朝帰りだったんだけど。なんか聞いてない?」とこっそり切り出す。「・・・うちに泊まったんですよー」と詩文はさりげない笑顔で答え「彼女言ってないんですかー?」と自然な形でフォロー。
「そんならいいんだけど」。ほっと肩おとす武に詩文は軽く笑い、「一晩中泣いてましたよ。パパが許せないーって」「一生トラウマになりますね、あの女のこと」と武の内心をさぐるような笑顔をする。ちゃんと武が悪者になるような―満希子に責めが行かずに済むような―表現にしているのが詩文の優しさですね。
「君子とは別れたから」ほんとですかあー?と思い切り意地の悪い笑顔になる詩文に「ほんとだよ、原さんに怪我までさせて満希子まであんなになっちゃったらやっぱりさ」「先代からあの店と満希子を任された身だから」と大真面目な調子で答える。このへん武がなんだかちょっと格好いいです。

・武は詩文に向き直って「だけど、ぼくの洗濯物もさわろうとしなかった満希子が、原さんのところから戻ったら突然しおらしくなっちゃって気味悪いんだよ」「なんか言ってくれたの?」詩文はちょっと意表つかれたような顔をしたもののごまかし笑いしつつ「あたしは別に、でも一晩外泊して心配かけたら気がすんだんじゃないんですか」と上手にフォロー。
自分がいい子になろうとせず、なおかつ多くを語らずあくまで推論として満希子の気持ちを述べることで、後で矛盾が出る可能性を最小限にしようとしてる。さすがの機転です。武もあっさり「そういうことか」と納得した笑顔になる。「よかったですねー、やさしくなってー」と含むところありそうな笑顔を詩文は浮かべますが、男なんて単純だと思ってるのかもしれません。さしもの彼女もまんまと武に騙されてる(本当は君子と別れてなかった)が後々視聴者には示されるわけですが。

・台所で調理中の満希子。ゆかりがテーブルにお箸を並べてくれるのにお礼を言い、ちょうど入ってきた武にも「パパ、ゆかりがお手伝いしてくれてるの」と報告する。小学生でもあるまいに普段は箸を並べるだけのこともしてなかったのか。
それにしてもママみたいにはなりたくないと言ってたゆかりが急に軟化したのは何か理由があるのだろうか。なまじ反発するより適当に機嫌とって家事をちゃんとやってもらった方が住み心地がよいと割り切ったんですかね。

・ゆかりのことを、これから花嫁修行しないとねーとお皿並べながら言う満希子に「花嫁修業って」とあきれた顔をする明。まだ高校生、それも今時の娘に大学や就職より先に花嫁修業の心配するってのも妙なものです。なまじ口をはさんだために「明は西尾仏具店を継ぐんだから。いいかげんなお嬢さんじゃママ許さないからねー」と矛先が明に向かいますが、そこで明は「おれさあ、決めてる女いるから」と中学生とも思えない発言を。満希子は目をむいて「誰なの ?どういうお嬢さん ?」と夫と息子のいるリビングへ小走りにやってくる。
この「明の彼女」については直後に大森逮捕のニュースが報道されたことでうやむやになってしまい謎のままなのですが、何かの伏線なのか。明が大森逮捕に異様にショックを受けていたこと、大森にかなり懐いてる様子だったこと、一時のやたらやさぐれた言動(今は普通に見えますが「おれさあ、決めてる女いるから」という口のきき方などは最初の頃に比べて少し荒んだ匂いがある)などを考え合わせると、明の想い人というのは大森の紹介で知り合った相手で上手いこと小遣いを貢がされていた、大森逮捕のニュースで自分が弄ばれてたことに気がついた、とか(やさぐれた態度は大森やその女の影響)だったんですかね。

・ちょうどリビングのテレビから「逮捕されたのは大森基容疑者を中心とした現役大学生四人です。大森容疑者らは架空のベンチャー企業を偽り(中略)犯行を行い多額の金を騙し取った疑いです」というニュースが流れ、一家4人それぞれに驚きの表情でテレビに見入る。
しかし詐欺のほうしか表沙汰になってないのか。詩文はレイプ未遂で訴えたはずなのに。「警視庁はさらに余罪を追求しています」というからそのうち明るみに出る可能性はあるんでしょうけど。

・最初の驚きが冷めた後、ゆかりは「そんな驚くこともないんじゃない?あたしは最初からもりりんってあやしいなーって思ってたよ」と言い出す。驚いて「ほんとかよ」という武に「初めてうちに来た日、テーブルの下であたしの足触ったりしたし」。
この台詞に満希子は隣のゆかりの顔をじっと見る。特別な感情は表に出していませんが娘にもコナかけてたと知って嫉妬を感じたんでしょうか?でも初めてあった日にもう足触りにくるって確かにその時点で好青年ではない。それで引っ掛かるのはゆかりのいうように「もてない女の子」、男慣れないタイプかなとは思います。

・「・・・なんにも、されてないだろうな」「お金取られたりも、してないか?」と心配そうな武に「なめないでよね。もりりんみたいなタイプにだまされるのはもてない女の子だけだから」。後半部分を強調した言い方に満希子の顔がこわばる。こんなことを言いつつ、ゆかりは自分から大森呼び出して告白したりしたことを黙ってる、というより積極的に嘘ついてるわけで、そのへんの見栄っ張りさは結局母親似なのかという気もします。
ついでに「わたしは男の子に不自由してないしー、お金にも不自由してないしー」と気のなさそうな調子で口にする少し前に一瞬満希子に目をやってますが、これは大森と満希子の関係に気づいてることを匂わせたものでしょうか?少なくとも大森が家庭教師になって以来、満希子がネイルアートするようになったり妙に浮き浮きしてたりしたのは思春期の少女の勘で気付いてたでしょう。
二人で密かにデートを重ね、果ては一緒に暮らそうとしたことまでは、振られた立場上プライドも邪魔して想像が及ばなかったと思いますが。満希子が、それこそマダムが韓流スターに騒ぐような感覚で大森に入れあげてる程度に解釈してたんじゃ。

・「いいかげんにメイドのバイトも卒業してくれよ」とゆかりの背中に声かける武。やはり武もあまりメイドバイトよく思ってはないんですね。しかしもともと満希子が家庭に絶望した直接のきっかけは夫の浮気よりゆかりのバイトの方だったはず。そちらは一向解決してないにもかかわらず、満希子は先日の騒ぎは全て忘れたかのように何も言わなくなっている。もはや自分はこの家以外の居場所がないと思い知った満希子は平凡でも平穏な暮らしを保つためには都合の悪いことは見て見ない振りをするのが一番という境地に達したのでは。
以前は近視眼なりに子供を正しい方向に導かなくてはという思いはあったものを今は自己保身第一に成り下がってしまった。ゆかりも満希子の内心はどうあれ表立って説教されたりしないならそれでいいと割り切って、表面だけはお手伝いもするいい子を演じることにした。さっきからの一連の会話がいかにも嘘っぽい、うさんくささを感じさせるのは西尾家の全員が幸せ家族を演じてるがゆえなんでしょうね。

・大森逮捕に虚脱状態の明にハッパをかけた武は、満希子の肩にがしっと手を置いて「ママも、自分が選んできた家庭教師だからって責任感じることないからな」と優しい言葉をかける。ちょっと微笑んでこくこくうなずく満希子。
たまたまいいタイミングで逮捕されてくれなかったら、満希子は大森の家庭教師をどうやって断るつもりだったのか。さすがに大森ももう顔出さないでしょうが来ない理由をどう説明するつもりだったんだろう。

・夜、部屋の鏡台の前で暗い表情でうつむいてる満希子。ドアの向こうで「ママ。ちょっといいか」と武のシリアスな声が。そっと入ってきた武はいいにくそうに「あの、さ、おとといのことは原さんにきいたよ」と切り出す。はっと硬直する満希子に「・・・すまなかった。もう泣かないでくれ、君子とは別れたから」と説明するが、満希子はちゃんと話きいてるのかどうか「原に聞いたの・・・。そのこと」と呟くように言う。大森とのことをバラされたのかという疑惑が頭を渦巻いていて、夫の浮気問題の帰結は大して気にしてない模様です。

・「原さんちで一晩中泣いてたんだってな」と言われて驚いた顔の満希子。「しかし、大森先生には驚いたよ。・・・一流の大学にいける頭があって韓流スターみたいな顔しててなんで犯罪者にならないとならないんだ?」 その台詞から自分と大森の関係はまるで知らないと察した満希子は「ああー」とほっとした笑顔でうなずく。
しかし武がベッドに腰かけながら「実はさ。会社の金が700万足りないんだ」と切り出すとまたも硬直。「通帳も見当たらない。もりりんなんかに騙されないってしらばっくれてたけど、ゆかりしか考えられないだろ」「ぼくらの仲がぎくしゃくしててゆかりも気持ちの行き所がなかったんじゃないか。・・・目が行き届かなかったなあ。だけどあの年ごろはむつかしいし」。
満希子の心配をよそに武の疑いが向いているのはゆかりの方だった。ゆかりの名誉のため真相を言うべきか言わざるべきか迷う風の満希子。さすがに娘にあらぬ疑いがかかるのをそのままにするほど満希子も外道じゃないだろう、このさい正直に告白するのか、と思ってたら「ぼくらとゆかりで話し合って、一刻も早く警察に届けたほうがいいと思うんだ」と言われ「警察?」と満希子は血相かえて振り返り、ややあって「パパ・・・ごめんなさい」と横向いて頭を下げる。
こないだ事件担当の刑事に会ってる、状況柄身元も知られてるはずとあってはもはや逃げ切れないと完全に覚悟を決めたものか。逆に言えば隠せると思う限りは娘に濡れ衣着せたまま黙ってた可能性もあるわけだ。どれだけひどい女か。

・いきなり謝られて戸惑う武に「その700万・・・・・(長い間がある)原に貸しちゃったの」なんだってー!詩文が描いたシナリオどおりに株に使ったとさえ言わずどこまでも自己保身、しかも恩人の詩文に押し付けるとは。これは意表をつかれました。もし詩文にバレてもごめん許して一生のお願いとかいうんだろうなー(あとで本当に言ってた)。
「ええ!?」と目をむく武。ここで家の台所で何か飲んでる詩文の姿が挿入される。西尾家でこんな濡れ衣着せられてるとは思いもよらないんだろうなあ(笑)。

・「だあって、原ってほんとに貧乏なんだもん。お父さんの施設のお金のこととかいろいろ困ってるっていうし」「真っ青な顔して、・・・パパの女に包丁で刺されたりしてるから西尾家としては、断れないじゃない?」 これはなかなか上手く辻褄をあわせたもの。しかも「断れないじゃない?」のところはいかにも大上段にふりかぶる言い方でパパのせいを強調して、文句が出ないようにしています。
「そうだったのかー。だったら早くいってくれよなー」と見事に武も引っかかってしまう。武はふざけて満希子を軽く突き飛ばし、よろけた満希子は「だってパパと冷戦状態だったから言い出せなかったんだもーん」と右手で強く武の体を突き武はちょっとよろける。さっきまでの緊迫ムードから一気に夫婦漫才みたいになってるのは、武の方はゆかりが騙されてなかったことに、満希子の方は大森とのことがバレずに済んだことに安堵したがゆえでしょう。

・「・・・まあ原さんには迷惑かけちゃったしなあ。でも、あの人に貸したんじゃ帰ってこないなあ」「本人は借地権が売れたら返すって言ってるけど、ムリかもねー」。武のほうから「返ってこない」と話を振ってくれたのをいいことにうまく乗っかる満希子。無言で歯をむき唇を引きしめる満希子の顔には、もうこの路線で押し通すんだという決意が見えます。一応心の中で詩文に謝ってはいるんでしょうけどねえ。・・・もう大森が全部自供して700万の行方もバレてしまえ。


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