第28回目となる宮崎映画祭が、宮崎市中心部にある宮崎キネマ館を会場に1月13日から7日間にわたって開催されています。
第28回宮崎映画祭ホームページ→ http://www.bunkahonpo.or.jp/mff/
今回上映されているのは15作品。以下、その作品名を列記しておきます。
『電柱小僧の冒険』(塚本晋也監督、1987年)
『鉄男』(塚本晋也監督、1989年)
『六月の蛇』(塚本晋也監督、2002年)
『野火』(塚本晋也監督、2014年)
『斬、』(塚本晋也監督、2018年)
『EUREKA ユリイカ』(青山真治監督、2000年)
『やくたたず』(三宅唱監督、2010年)
『THE COCKPIT』(三宅唱監督、2014年)
『ナナメのろうか』(深田隆之監督、2022年)
『ドクター・ブル』(ジョン・フォード監督、1933年)
『プリースト判事』(ジョン・フォード監督、1934年)
『周遊する蒸気船』(ジョン・フォード監督、1935年)
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(ジム・ジャームッシュ監督、1984年)
『怪怪怪怪物!』(ギデンズ・コー監督、2017年)
『音楽』(岩井澤健治監督、2019年)
このうちわたしは、14日の土曜日から翌日の日曜日にかけて7作品を観賞いたしました。これから2回にわけて、そのご報告をしたいと存じます。
まずは14日。この日の午後からのプログラムは、鬼才・塚本晋也監督をお迎えしての特集上映ということで、3本立て続けに観賞。塚本監督のパワフルな映像世界を堪能いたしました。
(塚本監督のお写真は、トークショー終了後の“撮影タイム”のときに撮らせていただきました)
『野火』(2014年 日本)
監督・製作・脚本・撮影=塚本晋也
原作=大岡昇平
音楽=石川忠
出演=塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子
太平洋戦争末期、フィリピン戦線での極限状況をテーマにした大岡昇平の名作小説を映画化した作品です。高校のときに原作を読んで以来、ずっと映画化を考えていたという塚本監督。それだけに、ズシリとした見応えのある入魂の一作に仕上がっておりました。
とりわけ圧倒されたのが、日本兵たちが敵の攻撃によってバタバタと死んでいく作品中盤のシークエンスでした。兵士たちが手足を吹き飛ばされ、頭部を破壊され、内臓をえぐられ、単なる肉塊と化していくさまがリアルに描き出されていて、まことに凄絶極まるものがありました。スティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(1998年)の冒頭20分も凄絶なものでしたが、本作はそれを凌駕しております。
出演陣の演技も圧巻でした。主人公の田村一等兵役の塚本監督ご自身の演技は、勇ましさやきれいごとなど一切の意味を持たない、戦場の残酷さと狂気に直面することの恐怖を、ダイレクトに感じることができました。また、狡猾で油断ならない兵士を演じた、リリー・フランキーさんの鬼気迫る演技も素晴らしいものでした。
上映後のトークショーで塚本監督がおっしゃっていた、「戦争という状況下では権力を持つ者だけでなく、普通の人たちも残虐になる」という話には、とても頷けるものがありました。戦争はもちろんのこと、ここ3年にわたるコロナヒステリー禍においてもまた、「普通の人」が冷酷かつ卑劣な振る舞いに及ぶことが少なからずありましたから。戦争に限らず、異常な状況のもとでは人間は簡単に狂ってしまうということを、わたしたちはもっと心して受け止めなければならないのではないか・・・と思うのです。
さまざまな意味で、まさしく「いま」観るべき一本という気がいたしました。
『斬、』(2018年 日本)
上映後のトークショーで塚本監督がおっしゃっていた、「戦争という状況下では権力を持つ者だけでなく、普通の人たちも残虐になる」という話には、とても頷けるものがありました。戦争はもちろんのこと、ここ3年にわたるコロナヒステリー禍においてもまた、「普通の人」が冷酷かつ卑劣な振る舞いに及ぶことが少なからずありましたから。戦争に限らず、異常な状況のもとでは人間は簡単に狂ってしまうということを、わたしたちはもっと心して受け止めなければならないのではないか・・・と思うのです。
さまざまな意味で、まさしく「いま」観るべき一本という気がいたしました。
『斬、』(2018年 日本)
監督・製作・脚本・撮影=塚本晋也
音楽=石川忠
出演=池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
風雲急を告げる幕末。若き浪人・杢之進は農家の手伝いをしながら、農家の息子である市助に剣の稽古をつける日々を過ごしていた。ある日、村にやってきた剣豪・澤村は杢之進の剣の腕前に惚れ込み、江戸を守るための集団の一員となって戦わないかと誘う。誘いを受けて江戸に立とうとする杢之進であったが、出立の日になって急に体調を崩して寝込んでしまう。実は杢之進はまだ一度も人を斬ったことがなく、そのことへの葛藤から体調を崩したのだった・・・。
侍でありながら、人を斬ることができずに苦悩する主人公を通して、「人を斬り殺す」ことの意味と重みを問うた、塚本監督初の時代劇映画であります。苦悩する主人公の侍・杢之進を演じた池松壮亮さん、主人公と惹かれ合う村娘を演じた蒼井優さん、そして主人公とは対照的に、必要とあらば人を斬ることを躊躇わない剣豪を演じた塚本監督ご自身と、本作もまた演技陣に魅せられました。
本作を観ていて唸らされたのは、「刀」の持つ質感のリアルな表現です。視覚的な面はもちろんのこと、刀と鞘が擦れあう時の音もしっかりと表現されていて、そういった刀の質感の表現が、作品のテーマをより際立たせていたように思いました。
『電柱小僧の冒険』(1987年)
『電柱小僧の冒険』(1987年)
監督・製作・脚本・撮影=塚本晋也
音楽=ばちかぶり
出演=仙波成明、叶岡伸、藤原京、田口トモロヲ、塚本晋也
背中に電柱が生えている少年がタイムスリップして、世界の危機と立ち向かうハメになってしまうさまを描いた、塚本監督の自主映画時代の短篇ファンタジー映画です。1988年のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードのグランプリに輝き、その後のキャリアを開くきっかけとなった作品でもあります。
8ミリフィルムの粗い映像や、手作り感たっぷりの特殊効果に微笑ましさも感じるものの、それらが醸し出すキッチュな楽しさに加えて、出世作となった『鉄男』(1989年)とも共通するような、人間と「もの」との融合といった要素や、疾走感のある映像表現に目を見張りました。その『鉄男』で主演をつとめることになる田口トモロヲさんも顔を出しているほか、田口さんが属していたバンド「ばちかぶり」が音楽を手がけているのも、いかにも80年代っていう感じでいいですねえ。
(後篇につづく)