読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

別府→日田・2年ぶりの湯けむり紀行(最終回) 霧の三隈川に、日田人の粋で嬉しいおもてなしの心を見た

2022-03-13 23:21:00 | 旅のお噂
(第1回目はこちら、第2回目はこちら、そして第3回目はこちらであります)

江戸の面影を残す豆田町と、水郷の風情が漂う三隈川沿岸を散策して、4年ぶりとなる日田の情緒を満喫したわたしは、2日目の宿となる「亀山亭ホテル」さんにチェックインいたしました。三隈川のほとりに建つ、温泉と料理が自慢のホテルであります。
4年前に日田を訪れたときには、格安のビジネスホテルに宿泊したこともあって、温泉に入れずじまいに終わってしまいました(日田の温泉は、三隈川沿いにある数ヶ所のホテルでしか入ることができないのです)。今回は久しぶりの日田、そして2年ぶりの旅行ということもあって、日田の温泉を美味しい料理とともに楽しめる宿に泊まろうではないか!ということで、この「亀山亭ホテル」さんを選んだのであります。
チェックインのとき、フロントより4000円分のクーポン券をいただきました。前の年から始まっていた「新しいおおいた旅割」というキャンペーンが、このときには大分県民に加えて大分の隣県から来る観光客にも適用していただけることになっていましたので、宮崎から来たわたしもまた、この「亀山亭ホテル」さんの宿泊料が割引となった上に、商店や飲食店、観光施設などで使えるクーポン券までいただけるという、実にありがたいこととなったのでありました。
(もっとも、この頃から再び、全国的にコロナ陽性者が増加してきたこともあって、「新しいおおいた旅割」は一時的に停止という事態になってしまったのですが・・・)
部屋に入ってひと息つき、窓から外を眺めてみると、三隈川の風景が眼下に広がり、実にいい感じ。水郷日田の旅情を掻き立ててくれるのであります。

さあさあそれではさっそく温泉だあ!と、8階にある展望大浴場へ。肌にやさしいお湯にゆったりと浸かっていると、日田さんぽの疲れがゆるゆるとほぐれていくのを感じました。
露天風呂に出てみると、外から見えないようにという配慮なのか、正面には葭簀が張られていて少々見通しはききませんでしたが、それでも三隈川の流れを眼下に眺めることはできました。
時刻はちょうど夕刻でしたので、三隈川を包む夕焼けを見ながらの入浴を期待したのですが、午後に入ってからは曇り空となってしまったこともあり、残念ながら夕焼け空を眺めながらの入浴とはなりませんでした。まあしょうがねえか・・・と思いつつ、しばしのんびりと日田のお湯を満喫したのでありました。
お湯から上がって部屋に戻ると、時刻はちょうど5時。外からサイレンの音が響いてきたので、窓から顔を出してみると、眼下の三隈川には屋形船が一艘。水郷日田らしい光景に思わず「いいねぇ〜〜、粋だねぇ〜」と、ひとりごとを口にしたのでありました。


やがて時刻は6時。お待ちかねの夕食の時間がやってまいりました。ワクワク気分で夕食の会場へと向かい、指定されたテーブルについてみると・・・あるわあるわ美味しそうなご馳走が!


メインである黒毛和牛のミニステーキに鴨鍋、刺身の盛り合わせ、前菜の盛り合わせなどなど、口に入れる前に目に美味しいご馳走がズラリ。コーフンする気持ちを押さえつつ、まずは湯上がりの生ビールを。もちろん、ご当地にあるサッポロビールの工場で生まれた「黒ラベル」の生であります。
前菜や刺身で生ビールを楽しんでいるうちに、ミニステーキと鴨鍋に火が通ってまいりました。とろけるような脂身が旨い黒毛和牛と、具材全体に旨味が染みた鴨鍋でビールは空となり、2杯目にはハイボールを注文。



そうこうするうち、さらに鮎の塩焼きと揚げたて天ぷらも運ばれてまいりました。
ハイボールもあっという間に空となり、こうなるとまた日田の地酒が欲しくなってきました。ということで、飲み物のメニューにあった地酒の中から「山水」生貯蔵酒をいただきました。初めて呑んだ銘柄でしたが、スッキリとした飲み口で一杯、また一杯と盃が進みます。サッポロビールの工場はあるわ、麦焼酎「いいちこ」の蒸溜所はあるわ、さらに旨い地酒にも恵まれているわ・・・日田は酒好きにとっても天国みたいなところだなあ。

あたりを見廻すと、ほかのテーブルはご家族連れやお友達同士、さらにカップルといったグループのお客さんばかりで、一人で呑み食いしてるのははわたしだけ。はじめのうちは少々テレ臭いものがありましたが、酔いが回ってくるうちにもうどうでもよくなってまいりました。一人もんだろうと何人だろうと、美味しいものを味わって楽しく過ごせていればそれでいいのだよ諸君!!
お酒も一区切りついたところで、食事であるうなぎのせいろ蒸しをいただきました。・・・はい、お昼に続いてまたしてもうなぎで恐縮でございますが、2年ぶりの旅行ということでどうか大目に見てやってくださいませ。


最後はフルーツ盛り合わせとゼリーが乗っかったデザートまでいただき、お腹も気分もたっぷりと満たされたのでありました。

夕食が終わったあと、しばしホテルの外を散歩いたしました。ホテルや旅館が立ち並んでいる温泉街と向かいあうように、居酒屋やバー、スナックなどの飲食店が集中するエリアがあり、日曜の夜ではありましたがちらほら、営業しているお店がありました。
その中には、4年前に来たときに立ち寄って、美味しく楽しい時間を過ごさせていただいた居酒屋さんもありました。ちょっと覗いてみたくなりましたが、この日の夜は「貸し切りのみの営業」との貼り紙が入り口に掲げられていたので、入るのは遠慮いたしました。
ほかにも、ちょっと気になる感じのバーが数軒ほどあって、入ろうかどうしようかと迷ったのですが、結局は入ることもなくそのままホテルへと戻ったのでした。いま思えば、どこか一軒立ち寄っておけばよかったかなあ・・・。
ホテルに戻ったあと、寝る前にもうひとっ風呂浴びとこうと思い、再び大浴場へ。三隈川の対岸に見える家々の灯りを眺めながら温泉に浸かり、ゆるゆると酔いを覚ましたのでありました・・・。

そしてとうとう、旅行最終日の朝がやってまいりました。
早い時間に起床したわたしは、三たび大浴場へと上がって目覚ましの朝風呂に浸かりました。まだ暗いうちだったので外の景色はよく見えませんでしたが、夕方・夜・朝の3回にわたって日田の湯を堪能できて、満足でありました。
朝風呂のあとは、こちらもまたお待ちかねだった朝食を。朝食もベーコンエッグや小皿に盛り分けられたおかずセットなどなど、充実した献立が揃っておりました。

給仕をしてくださったスタッフの方が、「卵かけご飯にすると美味しいですよ」とおっしゃったので、ベーコンエッグの卵とは別に卵をもらって、それで卵かけご飯にいたしました。いい卵を使っているようで確かに美味しく、ついついご飯をおかわりしてしまいました。おかげさまで朝からお腹いっぱいであります。

朝食を食べながらふと、窓の外を見ると一面の濃霧。4年前の朝は降り積もった雪で、外が一面真っ白になっていて驚いたものでしたが(なんせほとんど雪を見ることのない南国の人間なもんで・・・)、濃霧で真っ白となった光景にもまた驚きました。
そんな濃霧に包まれた三隈川の川面を見ていると、そこには何艘かのカヌーが浮かんでおりました。

ああ、こんな見通しのきかない濃い霧の中でカヌーを漕ぐのは大変だろうなあ・・・などと思いながら見ていると、そのうちの一艘がこちらに向けて背中を見せるようにして漕ぎ出しました。立ち漕ぎしているそのカヌーイストの背中には垂れ幕のようなものがあり、そこに何か書かれています。おやおや?と思いつつ、窓に近づいて見てみると、そこには・・・。

なんとなんと!「ようこそ日田へ」との言葉が、にっこりマークの顔文字とともに記されているではありませんか!!地元有志の皆さまによる、観光客への歓迎パフォーマンスだったのです!おおお〜〜!なんという嬉しい趣向!!
朝食を食べ終わって部屋に戻り、窓から外を見てみると、くだんのカヌーイストの皆さまはやはり三隈川沿いに建っている、別のホテルのお客さんからの歓声に応えているようす。わたしは思わず、皆さんに向かって思いっきり手を振って見ました。すると、皆さん揃ってわたしの眼下へとお集まりになってくださいました。
カヌーイストの皆さまは全部で6人で、どうやら男女が半々といったところでした。例の「ようこそ日田へ」の垂れ幕の方は、あらためてその垂れ幕をこちらのほうへと向けてくださっております。そして、グループの一人である女性の方が「ようこそ日田へ〜!」とおっしゃってくださいました。
それに対して、どうもありがとうございます〜!と返してから、寒くはないですか?と訊ねてみると、声をかけてくださった女性の方が「寒いです・・・」とお答えになりました。そうだろうなあ・・・1月の朝の川面、それも濃霧の中だからなあ。そんな中で、このような粋な歓迎をしてくださる皆さまのおもてなし精神に、つくづく嬉しい思いがいたしました。どうか風邪をひかないでくださいね〜!と声をかけ、手を振ってお別れしたものの、あらためて皆さまにお礼を申し述べておきたいという気持ちになり、チェックアウトを済ませて三隈川のほとりに出てみました。しかし、霧の立ち込める三隈川の上に、すでにカヌーの皆さまの姿はありませんでした・・・。


水郷日田にふさわしい、粋で素敵なおもてなしをしてくださったカヌーイストの皆さま、本当に、本当に、ありがとうございます!!

三隈川をあとにしたわたしは、いま一度豆田町を目指して歩き出しました。
20分ほど歩いたところ、豆田界隈の入り口に差しかかる手前には、日田の生んだ儒学者にして教育家でもあった廣瀬淡窓が幕末に開いた私塾「咸宜園」(かんぎえん)の跡があります。

当時としては先進的な実力主義によるカリキュラムと、「敬天」の思想に基づく人間教育により、高野長英や大村益次郎、上野彦馬など、近代日本の礎を築いた多くの人材を輩出した淡窓。4年前の旅行のとき、ガイドの方の懇切丁寧な説明とともにじっくりと見学させていただき、淡窓の卓越した教育法と思想に感銘を受けたことを思い出します。
咸宜園跡を過ぎ、豆田の入り口にあたるところに、小さな運河が通っております。

ここはかつて、年貢米の輸送のために用いられていた運河だそうで、三隈川と花月川の間を結んで延びています。運河の途中には、荷物の積み下ろしが行われていたと思われる河岸の跡も見られました。当時は川幅も広く、河岸には米の蔵や計測所が立ち並び、港として栄えていたといい、「港町」というこのあたりの地名は、その名残りだとか。

かつては川舟が行き交っていたであろう運河は、住宅地の中に埋もれるかのように、少しばかりの水を静かにたたえているばかりでありました・・・。

そして再びわたしは、豆田の街並みの中に入りました。霧がかかっている豆田の界隈は、まだ早い時間帯ということもあってとても静かでした。


2度目の豆田散策で最初に立ち寄ったのは「天領日田資料館」。天領時代の栄華を物語る古文書や書画を保存、展示する資料館です。
「天領」としての政治的な位置づけもさることながら、その中で経済的にも大きな力をつけた日田という土地にさまざまな文化が花開き、多くの文人や書家、画家といった文化人が生まれていたことに、興味を掻き立てられました。
長きにわたる経済停滞に追い討ちをかけるかのように、コロナだオミクロンだの空騒ぎによる国富の破壊が重なって、これから貧乏な国へと転落していくであろうわが日本に、はたして良質の文化が生まれるのだろうか・・・ついそんなことを考えてしまったのでありました。

しかし残念ながら、最終日の豆田ではあまりゆっくり過ごすことはできませんでした。この日のお昼には列車に乗り込んで、日田を離れなければなりませんでした。
そろそろお土産を買っておかなければ、ということでまず立ち寄ったのが「御菓子司 京橘」さん。大福を中心にして、美味しく見た目もいい和菓子を商っておられるお店であります。

このお店の一番人気なのが、イチゴをまるごと一個くるんだ「いちご大福」。スイーツ好きとしても知られる、俳優の的場浩司さんもお気に入りという逸品です。その「いちご大福」と「みかん大福」を10個ずつ買い、ホテルでいただいていたクーポン券を使わせていただきました。
4年前にもお土産に買って帰ったらすごく好評でして・・・とお店の女性の方に申し上げると、「どうもありがとうございます」とおっしゃったあと、「ちょっとカタチが悪いものですが・・・」と、店の奥から「いちご大福」と「豆大福」を一個ずつ持ってきて、おまけとしてつけてくださいました。現金で支払ったわけでもないというのに、なんとも恐縮なことであります。
お店を出るとさっそく、いただいた2個をおやつとしていただきました。


まるごとイチゴを白餡でくるんだ「いちご大福」と、甘さ控えめのあんこと黒豆に懐かしさを感じる「豆大福」、どちらも美味しくいただきました。

霧に包まれていた豆田町の空は、もうすっかりと晴れ上がっておりました。そして、街歩きを楽しむ観光客も増えてきていて、この日の豆田界隈も大いに賑わいそうでした。

豆田の街並みが尽きるあたりに流れている花月川のほとりに、公衆トイレがありました。そこにかかっている表示を目にして、思わず笑いが漏れてきました。

「水郷の思案処」・・・こういうネーミングもまた、日田らしい洒落が感じられていいもんだなあ。

もうひとつなにかお土産を・・・ということで次に立ち寄ったのが「日田ロール 粋」さん。和菓子のお店が多い豆田では珍しい洋菓子のお店であります。

さまざまなロールケーキをメインとしたラインナップの中で人気なのが「チーズロール」。濃厚なチーズクリームを、こちらもチーズを練り込んだふんわり生地で巻いたロールケーキです。要冷蔵商品ということで、宅配便での発送の手続きをしたあと、買い食い用に小さくカットしたものを買って食べました。とろけるような口当たりと甘さがこたえられなくって、一本まるごとペロリといけそうな感じもいたしました。

日田を離れる時間が迫ってきておりました。できればお昼ごはんを食べてから離れたかったのですが、今回はお昼前には列車に乗り込まなければなりませんでした。
なにか列車内で食べられるようなものを・・・と立ち寄ったのが、前日のお昼ごはんで立ち寄った「いたや本家」さん。お店の横にあるお弁当売り場で、刻んだうなぎの蒲焼き入りの「うなぎの焼きおにぎり」を買いました。・・・なんだまたうなぎかよ、と呆れられそうなのですが・・・。

売り子の女性の方が「今年はうなぎのぼりで景気が良くなってほしいですね〜。コロナでいろいろと大変でしたからね・・・」とおっしゃるのに、いやほんとそうなってもらいたいですよね!と激しく頷いたわたしでありました。

こうしてわたしは、お昼前には日田駅から列車に乗り込んで、日田を離れました。
今回の訪問でさらに、日田という街に愛着が湧いていたわたしは、正直なところまだまだ日田で過ごしたいという気持ちが強かったのですが・・・旅はどこかで終わりにしなければなりません。
やってきた列車は、特急「ゆふいんの森」号。実は今回が初めての乗車でした。

デザインもさることながら、沿線に見える風景や名所についての説明アナウンスがあったり、記念撮影用のプレートを手にしたアテンダントの方がやってきたりと、観光列車としての楽しさを演出する工夫がさすがだなあ、と感じました。ビュッフェでは、お弁当などのさまざまな飲食物も販売されています。
列車が走り出すと、わたしは買ってきた「うなぎの焼きおにぎり」を、缶ビールとともにいただきながら、楽しかった日田での思い出に浸ったのでありました・・・。


コロナ騒ぎで水を差されるかもしれない・・・との不安の中で始まった(とはいえ、感染するかもしれない、などという心配は1ミリもございませんでしたが)今回の旅でしたが、終わってみれば楽しい思い出がたくさんできて、嬉しい限りであります。
夜の別府では、コロナ騒ぎによる呑み屋街の苦境や、大好きだったバーの閉業に直面するなど、寂しくも悲しいこともございました。ですが、今回の旅で出会った別府と日田の皆さんは、とても親切に接してくださいました。ここにあらためて、深くお礼を申し上げるとともに、観光文化都市としての魅力にあふれる別府と日田が、不毛なコロナ騒ぎを乗り越えて発展することを、願わずにはいられません。

                                   (おわり)





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