読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

2015年9月現在の「わたくしの10冊」

2015-09-09 20:43:46 | 本のお噂
おととい(7日)、ツイッターで「本棚の10冊で自分を表現する」というハッシュタグのついた投稿のまとめがタイムラインにシェアされてきました。→ 「#本棚の10冊で自分を表現する」
「ハッシュタグ」とは、頭に「#」がつけられているタグのことで、これをつけて投稿することで、あるテーマに基づいた投稿を一つのまとまりとして表示することができるのです。
まとめられた投稿を見てみると、それぞれの方々の個性や好奇心のありようが、セレクトされた10冊から滲み出てくるようで、まことに興味の尽きないものがありました。
わたくしも、タイムラインで興味をそそられるハッシュタグを見つけたときには時々、参加させていただくことがあるのですが、大なり小なり本が好きであるヒトの気持ちをくすぐるような、「本棚の10冊で自分を表現する」というテーマ設定に、これは参加せずにはおれまい!と思い、さっそく10冊選んでみることにいたしました。
とはいえ、本が好きとはいってもそこまで読書量が多いというわけではないわたくしですら、10冊だけ選ぶというのはなかなかの難事業でありました。小一時間ほど、これまで読んできた本の記憶を思い返してみたり、本棚を眺め回したりした挙句、なんとかかんとか以下の10冊をエイヤッと選び、タグをつけてツイッターに投稿いたしました(ちなみに上記のまとめにも、その投稿を加えていただいております)。
その後1日経って、やはり他にも入れておきたい本が出てきたりいたしましたので、2冊入れ替えた上であらためてここに「わたくしの10冊」を挙げておきたいと思います。どれも、読んだときに大きな影響を受け、これからもことあるごとに開いていくことになるであろう10冊であります。



『幸福論』(バートランド・ラッセル著、安藤貞雄訳、岩波文庫)
『摘録 断腸亭日乗』上・下(永井荷風著、磯田光一編、岩波文庫)
『私家版 日本語文法』(井上ひさし著、新潮文庫)
『発作的座談会』(椎名誠・沢野ひとし・木村晋介・目黒考二著、本の雑誌社および角川文庫。いずれも品切れ)
『完本・居酒屋大全』(太田和彦著、小学館文庫。現在は品切れ)
『無人島に生きる十六人』(須川邦彦著、新潮文庫)
『つながらない生活 「ネット世間」との距離のとり方』(ウイリアム・パワーズ著、有賀裕子訳、プレジデント社)
『21世紀の自由論 「優しいリアリズム」の時代へ』(佐々木俊尚著、NHK出版新書)
『知ろうとすること。』(早野龍五・糸井重里著、新潮文庫)
『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(佐々涼子著、早川書房)

哲学者であり数学者でもあったバートランド・ラッセルの『幸福論』。「幸福論」を謳う書物は多々ありますが、本書は説教くさかったりもってまわったような言い回しのわりには、さほど参考にはならない類いのものではなく、あくまでも「合理的・実用主義的(プラグマティック)な幸福論」(文庫本の解説より)であるところに、国や時代を超えるような普遍性があります。ゆえに現代の日本人にも有益な知恵をたっぷりと与えてくれる名著であり、わたくしにとっても欠かせない座右の書となっております。この本はすごくオススメしたい一冊でもありますので、またあらためて紹介記事を綴ってみたいと思います。

38歳であった大正6年(1917)から、昭和34年(1959)に亡くなる直前までの42年間にわたって綴られた永井荷風の日録『断腸亭日乗』。文筆生活の裏表、情婦との交情、東京の世相風俗の記録、時局に対する姿勢などなど、読むたびに何かしらの発見があって面白く興味が尽きません。なお、文庫版は「摘録」とあるように完全版ではなく、いわばダイジェスト版であります。ここはぜひとも、あらためて完全版での文庫化を切望したいところです。

文学作品はもちろんのこと、法律文や新聞の見出し、広告文、歌謡曲の歌詞、はたまた野球場でのヤジなどといった意表を突く例文を引きながら、井上ひさしさんならではのユーモアで日本語の文法や表記を腑分けしていく快著が『私家版 日本語文法』。わたくしは高校時代、本書を繰り返し読んだおかげで日本語の豊かさ面白さを知ることができました。まさしく恩人ならぬ「恩書」といえる一冊であります。でもそのわりにはオマエの書く文章は大したことないなあ、と言われると、いやあメンボクないとアタマ掻きつつ退場するしかございませんけれども。

「寝る前に読む本」「茶わん蒸しはおつゆかおかずか」「コタツとストーブ、どっちがエライか」などなど、どうでもいいといえばどうでもいいような話題を俎上に口角泡飛ばして語り尽くすのが『発作的座談会』。自分の信奉する「正義」を振りかざして政治やら社会やらを語るよりも、たわいないバカばなしを真剣にやれるほうがよほどマシだしニンゲンとしての魅力もある、ということを、読み返すたびに笑いとともに教えてくれるありがたい一冊です。気持ちが塞いでいるときの特効薬でもあります。

太田和彦さんが「居酒屋評論家」としての地位を確立させた記念碑的なデビュー作の完全版が『完本・居酒屋大全』。トリビアと遊びごころいっぱいに、居酒屋と酒と肴の楽しみ方を伝授してくれる本書は、これまたわたくしにとっての「恩書」であります。なので、現在は品切れとなっているのは誠に残念です。ぜひ、情報を新しくした上で再刊して欲しいものだと切に願います。

そして続く5冊は、当ブログでも紹介させていただいている本であります。
明治時代、太平洋上にて座礁した船から脱出した16人の乗組員が、漂着した小さな無人島で助け合いながら生き抜き、祖国日本に帰還するまでを描いた漂流記の傑作にして名著が『無人島に生きる十六人』。どんなに困難な状況下であっても、前向きな気持ちを失うことなく知恵を出して助け合うことの大切さを、爽快な感動とともに教えてくれる一冊です。
当ブログの紹介記事→ 【閑古堂アーカイブス】『無人島に生きる十六人』 知恵と工夫で助け合い、前向きに生き抜いた男たち

わたくしたちに大きな恩恵を与えてくれる一方で、時としてその押しつけがましいまでの騒々しさで、精神をくたびれさせもする「ネット世間」との距離の取り方を、プラトンやグーテンベルク、フランクリン、マクルーハンなどの賢人たちの知恵から探るのが『つながらない生活』。ネットと上手く付き合っていく上で欠かせない知恵と思索が詰まっていて、やはり座右の書として欠かせない本です。
当ブログの紹介記事→ 【読了本】『つながらない生活』 「つながり過ぎ」で見失った自分を取り戻す、思索と知恵に満ちた一冊

佐々木俊尚さんの『21世紀の自由論』はつい最近読んだばかりですが、既存の「リベラル」や「保守」のあり方に徹底した批判を加え、「優しいリアリズム」という新しい可能性を打ち出した内容が、深い共感と希望を与えてくれたこともありますので、ぜひこの10冊に加えておきたいと思います。
この本を紹介させていただいた記事が、当ブログの中でもよく読まれているということは嬉しいことであります。
当ブログの紹介記事→ 【読了本】『21世紀の自由論』 ウンザリしていた政治への思いを変えた「優しいリアリズム」の哲学

『知ろうとすること。』は、東京大学教授・早野龍五さんと糸井重里さんが、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故と、それ以後の状況を見据えながら、未来に向けて必要となる考え方を、平易な語り口で探っている対談本です。これからも本書を指針にしながら、常に正確な情報や知識を更新して冷静にものごとを考え、的確な判断に結びつける習慣をつけていこうと思っております。
本書を紹介した記事もまた、当ブログではよく読まれているということで、これも嬉しい限りです。
当ブログの紹介記事→ 【読了本】『知ろうとすること。』 震災と原発事故後を生きる上で大切なことを教えてくれる良書

東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた宮城県の日本製紙石巻工場の人びとが、日本の出版物を命運を左右する紙の供給を途切れさせないために半年での復興を宣言、困難を乗り越えながらそれを達成していく過程を追った佐々涼子さんの秀作ノンフィクションが『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』です。後世に伝えるべき震災の記録と記憶として価値があるにとどまらず、本好きな人間として、そして本に関わる仕事をやっている身として、多くの人に手渡していきたい大切な「たすき」でもある一冊です。
当ブログの紹介記事→ 【読了本】『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』 苦難を乗り越え、つながったものの重さと大切さ

・・・それにしても、10冊に絞り込むというのは難しいものだなあ、とあらためて思います。文庫編、新書編、四六版編、事典編・・・と部門ごとに10冊ずつ挙げてみたい気にもなりましたが、キリがなくなりますのでこのあたりで。あれもこれもと入れてみたい本が出てきますし、まだまだ読むべき本、読まねばならぬ本も山のごとくございますし。なのでこの先、「わたくしの10冊」も入れ替わっていくことになるのかもしれません。
これはあくまでも、2015年9月時点での「わたくしの10冊」ということで。

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