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宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】 意表を突く見立てとミニチュアが生み出す、シュールでどこかリアルな世界が楽しい『くみたて』

2022-06-19 23:22:00 | 本のお噂

『くみたて』
田中達也作、福音館書店(日本傑作絵本シリーズ)、2022年


日常生活でお馴染みのモノとミニチュアを組み合わせ、アッと驚くような「見立て」による風景ジオラマ世界を創り上げる、ミニチュア写真家&見立て作家の田中達也さん。
国内外での展覧会を多数開催するほか、2017年に放送されたNHK連続テレビ小説『ひよっこ』のタイトルバックを手がけるなどの活躍で多くの人びとを魅了し、作品をまとめた写真集も何冊か出版。350万人を超えるフォロワーを持つInstagramのアカウントでも、毎日のように作品を発表し続けておられます。その田中さんがはじめて出した絵本が、この『くみたて』です。

ミニチュアで作られた、揃いのつなぎを身につけた4人の人たちが、分解された洗濯ばさみを組み立てていきます。完成すると、はさみを繋ぎ止める金属のリングがブランコになっていて、女の子が楽しそうに遊んでいます。その前には、順番を待っている子どもたちがズラッと並んでいて、「わたしもー!」「次はぼくねー!」みたいな声が聞こえてきそう。そんな様子を、どこか満足げに眺めているつなぎの4人組・・・。
本書『くみたて』はこんな具合に、分解された身近なモノを組み立てながら、意表を突いた「見立て」によるさまざまなジオラマ世界を展開させていきます。タイトルの『くみたて』には、「組み立て」と「見立て」という、2つの意味が掛け合わされているというわけです。

身近にあるモノを意外な存在に変身させる、田中さんの「見立て」のセンスはまことに素晴らしく、驚きの連続でありました。ありふれていて何の気もなく使っているテープカッターが、リゾートホテルのプールの飛び込み台や立食式のレストランに生まれ変わったり、リコーダーや鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)などの楽器が組み合わさって、楽しそうなテーマパークが完成したり・・・。
日常でお馴染みのモノが、スケールの大きな風景へと組み込まれることによって生まれる驚きとシュールさ、そして軽やかなユーモアにあふれた世界が、ここにはあります。しまいには、あっと驚くようなモノまでが「見立て」の対象となっていて、「やるなあ」と唸らされました。
そんな「見立て」世界の楽しさを引き立ててくれるのが、田中さんの高度なミニチュア制作の技術です。それぞれの場面に登場する人物たちのフィギュアや、彼ら彼女らが使うさまざまな道具類、木々などのミニチュアがしっかりと作られ、巧みに配置されることで、シュールでありながらもどこかリアル感もある、田中さん独特の世界が展開されています。

もともと、ミニチュアやジオラマ的なものが好きなわたしとしては、実に楽しい一冊でありました。同時に、ああそういえばオレも子どもの頃、いろんなモノを何かに見立てて遊んでたなあ・・・なんてことを思い出したりして、ちょっと童心に戻ったような気分も味わえました。
本書のカバーの袖部分には、登場したつなぎの「くみたて」スタッフたちの紙製フィギュア8人分が印刷されていて、「きりとって、つかってね」と記されております(その下には、インスタで、読者による「見立て」写真を募集する告知も)。

これを見て、オレも何かの身近なモノや手持ちのミニカーと組み合わせて「見立て」遊びでもやってみようかなあ・・・などと一瞬思った50ウン歳のわたしでありました。


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