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【閑古堂のきまぐれ名画座】50年経ってもまったく色褪せない、緊迫感あふれる面白さが素晴らしいスピルバーグの出世作『激突!』

2022-03-23 06:47:00 | 映画のお噂

『激突!』 DUEL (1971年 アメリカ)
監督=スティーヴン・スピルバーグ 
製作=ジョージ・エクスタイン 原作・脚本=リチャード・マシスン
撮影=ジャック・A・マータ 音楽=ビリー・ゴールデンバーグ
出演=デニス・ウィーヴァー、ジャクリーン・スコット、エディ・ファイアストーン、ルー・フリッゼル
Blu-ray発売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント


平凡なサラリーマン、デイヴィッドが約束に間に合わせるために車を走らせていると、前方をゆっくりと走っている大型トラックが。デイヴィッドが何気なくそれを追い越していくと、追い越されたトラックが後ろから走ってきてデイヴィッドの車を追い越し、またゆっくりと走り出す。再びデイヴィッドがトラックを追い越すと、またもトラックがデイヴィッドを追い越し、ゆっくりと走り出す。苛立ちと焦りを募らせるデイヴィッド。
やがてトラックから手が伸びて「先へ行け」との合図が。「分かればいいんだよ」とトラックを追い抜こうとすると、対向車線から走ってきた車と危うく正面衝突しそうになる。トラック運転手の悪意を悟って愕然とするデイヴィッドをよそに、トラックは執拗にデイヴィッドを追い回し、殺意に満ちた行為をエスカレートさせていく。恐怖でパニックになりながらも、デイヴィッドはトラックとの一対一の〝決闘〟を決意する・・・。

ハリウッド最高のヒットメーカーとして、数多くの傑作や話題作を送り出し続けているスティーヴン・スピルバーグ監督が、弱冠25歳のときにTVムービーとして創った長篇デビュー作が、この『激突!』です。
当時のスピルバーグ監督は、『刑事コロンボ』などのTVシリーズを手がける無名の若手監督の一人に過ぎませんでした。しかし、この作品がテレビで放映されるや大きな反響を呼び、日本やヨーロッパでは再編集の上で劇場公開されることに。さらに、SFやファンタジー、ホラー、サスペンス、アドベンチャーといったジャンル映画に特化した映画祭として大きな権威を持っていた「アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭」の第1回グランプリに輝くという快挙も成し遂げました。
この作品によって注目されるようになったスピルバーグ監督は、その3年後に製作された『続・激突!カージャック』(1974年。なお、邦題が『続・激突!〜』となっているものの、内容は『激突!』とはまったく無関係な作品です)で劇場映画監督としてデビュー。そして次作として撮り上げた『ジョーズ』(1975年)のメガヒットによって、ハリウッド有数のヒットメーカーとしての地位を確立することになるのです。

わたしが『激突!』を初めて観たのは、かの『E.T.』(1982年)が話題をさらっていた中学生の頃のことでした。映画館で『E.T.』を観て感動したあとに、テレビで放映されていた『激突!』を観て、スピルバーグという人はこういう怖い映画も作っていたのか!と驚かされたことを思い出します。
その後もテレビで放映されるたびに観ていましたし、レーザーディスク(LD)で廉価版ソフト(といってもまだ5000円近くもしておりましたが)が出たときに購入して観たりしておりました。実のところ、数あるスピルバーグ作品の中で最も多く観ているのが、この『激突!』なのであります。今回Blu-ray(こちらは新品でも2000円ほどで買えます)でけっこう久しぶりに観直したのですが、そのシンプルでありながらも緊迫感にあふれた面白さにまたも惹き込まれてしまいました。
なんといっても、〝主役〟であるトラックの圧倒的な禍々しさが最高です。運転しているドライバーは、手足がちょっと映るほかは最後まで姿を現すことがなく、トラックそのものが得体の知れない恐ろしい怪物に思えてくる巧みな演出がまことに見事です。
そんな怪物トラックに執拗に追い回される恐ろしさもさることながら、助けを求めようとしても誰一人その状況を理解できず、かえってデイヴィッドを変人扱いするという絶望的な状況が、さらに恐怖感を高めます。トラックはデイヴィッド以外の人物がいるところでは牙を剥こうとせず、走れなくなっていたスクールバスを後ろから押してあげるといった〝親切さ〟を装ったりもするのですから。この「助けを求めようにも誰もわかってくれない」というシチュエーションが、わたしにはより一層リアルに恐ろしく感じられました。
弱冠25歳という若さで、かくも卓越した映画づくりの手腕を発揮したスピルバーグ監督の才能に、あらためてただただ舌を巻くばかりです。

トラックに追い回される主人公・デイヴィッドを演じたデニス・ウィーヴァーは、当時『ガンスモーク』(1955〜1964年)や『警部マクロード』(1970〜1977年)といったテレビシリーズで活躍していた中堅俳優。はじめのうちはトラックを小馬鹿にしたりしていたのが、やがて恐怖でパニック状態となりながらも、最終的にトラックとの〝決闘〟を決意するデイヴィッドを、説得力たっぷりに演じております。また、環境音楽やノイズミュージックを志向したというビリー・ゴールデンバーグの音楽も、大いに映画のサスペンスを盛り上げてくれます。
そして何より、姿を現さないトラック運転手役とスタント・コーディネーターを兼任してトラックに命を吹き込み、最高の〝悪役〟へと仕立て上げたスタントマンのケアリー・ロフティンの功績に、たくさんの拍手を贈りたいのであります。

製作から50年が経ってもなお、まったく色褪せることのない緊迫感あふれる面白さを味わえる、サスペンス・アクション映画の傑作『激突!』。これからもことあるごとに、何度も観直しては楽しむ一本となるでしょう。


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