読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】『ひとりで えほん かいました』子どもたちが素敵な本と本屋さんに巡り会えることへの願いがこもった絵本

2017-12-25 20:16:04 | 書店と出版業界のお噂

『ひとりで えほん かいました』
くすのき しげのり作、ゆーち みえこ絵、アリス館、2017年


お誕生日に、手作りの「ひとりで おかいもの けん」をプレゼントしてもらったかおりちゃんは、それを持ってはじめて一人で絵本を買おうと本屋さんに行きます。
店内で迷子になっていた近所の男の子を助け、その子のお母さんを見つけ出したかおりちゃんでしたが、急におしっこがしたくなったり、今度は自分が迷子になってしまったり。かおりちゃんは無事に、お気に入りの絵本を見つけ出して買うことができるのでしょうか・・・?

先月(11月)下旬に刊行されたばかりの本書『ひとりで えほん かいました』は、一人ではじめて絵本を買おうとする女の子と、それをとりまく人たちを描いた絵本です。書店づとめ(とはいっても、店舗のない外商専業の書店ではありますが)のわたしとしては、舞台が本屋さんというのに惹かれるものがあり、購入して読みました。
おしっこがしたくなった主人公に気づき、トイレに連れて行ってくれる女子高生。どの絵本にしようかと迷う主人公をサポートしてくれる店員さん・・・。本屋さんの空間とそこに集う人びとは、一人ではじめて買い物にやってきた女の子を優しく包み込んでくれます。ゆーち みえこさんによる温かみのあるタッチの絵は、そんな本屋さんの店内風景を魅力的に描いています。
主人公が本屋さんに並んだ本を見ながら、恐竜の背に乗ってお散歩することなどを夢想する場面も、なんだかいいなあと思いました。いろいろな本が並ぶ本屋さんの店内は、想像力を掻き立てる空間でもあるということを、あらためて思い起こさせてくれました。
そうそう、本屋さんの店内を描いた場面では、ちょっと嬉しくなるような趣向も盛り込まれていますので、ご覧になるときにはどうか細部まで、しっかりご覧いただけたらと思います。

作者であるくすのき しげのりさんは、巻末の「作者のことば」で、次のように記しておられます。

「私は、子どもが本を読むということに、限りない希望を感じます。
そして、本が好きな子に育ってほしいと願います。
なによりも、私の中に、『町の本屋さん』への安心感と信頼感があるからです」


そこには、子どもたちが「町の本屋さん」を通して、素敵な本と人に巡り会えることへの切なる願いが込められているようで、しみじみと感慨が湧いてくるのを感じました。

ネット書店の成長や、出版・書店業界の制度疲労など、さまざまな要因が絡み合う中で、いわゆる「町の本屋さん」が急速にその数を減らしている昨今。本書における本屋さんの描き方には、いくぶん理想化されたところもあるように感じられます。
でも、想像力と創造力、そして夢を育む場所であり、地域の人びとが集い、交流できる場所でもある町の本屋さんの空間は、一人でやってくる子どもが安心できるのはもちろん、大人にとっても居心地のいい、地域にとって大切な「サードプレイス」であることは確かなのではないかと、わたしは思います。
そして、子どもたちと地域の人びとを包み込み、居心地のいい時間を作り出す「町の本屋さん」という存在が、それぞれの地域でこれからも、末永くずっと残っていってほしい、とも思うのです。

この絵本の主人公、かおりちゃんのように、子どもたちみんなが素敵な本と本屋さんに巡り会えることを、願ってやみません。


(勤務先のホームページ内にあるスタッフブログに投稿した文章に、一部手を加えて再録いたしました)