ドゥービー・ブラザーズの柱のひとり、トム・ジョンストンが病気のため緊急入院したのが1975年。
とりあえずツアーのサポート・メンバーとして、元スティーリー・ダンのマイケル・マクドナルドが加わります。しかしトムは、退院後も療養が必要だったため、いったんグループを離れることになりました。その時にマイケルは、正式にメンバーとして加入したわけです。
彼の参加によって、ドゥービーズは大きなターニング・ポイントを迎えます。
従来のドゥービーズは、歯切れがよくて野性味あふれるギターを中心としたロックンロール・サウンドでしたが、マクドナルド参加後は、AOR的雰囲気の漂うアーバンな大人のロックへと大胆な変貌を遂げました。たったひとりのミュージシャンが加わっただけで、ここまでバンドのサウンドというのは大きく変われるものなんだ、と改めて思います。
以後、トム・ジョンストンの代わりにソング・ライターとして曲も提供するマクドナルドの、バンドに占める位置は急速に大きなものになっていきます。
そして発表されたのが、先日の音楽回顧録(by Nobさん)でも取り上げられていた、ドゥービーズ6枚目のアルバム、「ドゥービー・ストリート」です。
さて、アルバムはパット・シモンズ、ジェフ・バクスター、ジョン・ハートマンの三人による共作「運命の轍」で幕を開けます。イントロのギターは典型的なドゥービー・サウンドです。しかしホーン・セクションの起用や、間奏部のエレクトリック・ピアノ・ソロなどからは確かにドゥービーズの新たな一面を感じ取ることができます。この「運命の轍」は、このアルバムからのセカンド・シングルとなってヒットしました。
続く「ドゥービー・ストリート」がマイケル・マクドナルドのお披露目です。フュージョン色の濃いキーボード・サウンド、間奏のサックス・ソロ、グルーヴィーな16ビートなど、全てがソウルフル。この曲はこのアルバムから最初にシングル・カットされてヒットしました。
3曲目「8番街のシャッフル」は、パット・シモンズの作だけあって、これも従来のドゥービーズ・カラーを濃く残していますが、洗練された都会的な響きが新生ドゥービーズらしく聴こえます。
「ルージン・エンド」もマイケルの作。西海岸どころか、ニュー・ヨークのブルー・アイド・ソウルっぽい、従来のドゥービーズからは連想もできないような新しいサウンドを出しています。
5曲目の「リオ」は、ラテン系のソウル・フュージョンとでも言ったらいいでしょうか。途中で聴かれるマリア・マルダーの声がセクシーに響きます。
6曲目は、タイラン・ポーター作の「フォー・サムワン・スペシャル」。落ち着いた雰囲気で、哀愁の漂う大人の味があります。
7曲目は、このアルバムからの3枚目のシングルとなった「イット・キープス・ユー・ランニン」です。シンセサイザーによるリフが印象的です。
これに続くのが、トム・ジョンストンがこのアルバムに唯一参加している「ターン・イット・ルーズ」です。ドゥービーズらしい豪快なロックン・ロールです。
ラストはマイケル作の「キャリー・ミー・アウェイ」。ソウルっぽさが斬新なポップ・ミュージックです。後半には4ビートにチェンジするなど、ユニークなサウンドが聴かれます。
この中でぼくの好きな曲は、「運命の轍」「ドゥービー・ストリート」「リオ」「イット・キープス・ユー・ランニン」あたりでしょうか。
トム・ジョンストンという大きな柱を失った代わりに、マイケル・マクドナルドという強力な、そして今までのグループから見ると異質のメンバーを加えることで、今までの作品には見られなかったライトなソウル・フィーリングが随所にちりばめられるようになりました。賛否両論あるようですが、ぼくは、全く別のバンド・サウンドとして聴けば、それはそれで悪くない、と思っています。
いわば西海岸特有の空気と都会ニューヨークの味わいをミックスしたようなサウンドとなり、これによってドゥービーズは名実ともにアメリカを代表するグループに進化したと言えるかもしれません。
◆ドゥービー・ストリート/Takin' It to the Streets
■歌・演奏
ドゥービー・ブラザーズ/The Doobie Brothers
■リリース
1976年3月19日
■プロデュース
テッド・テンプルマン/Ted Templeman
■録音メンバー
[The Doobie Brothers]
トム・ジョンストン/Tom Johnston (guitar, lead-vocals①⑧)
パット・シモンズ/Patrick Simmons (guitar, lead-vocals①③⑤, vocals)
ジェフ・バクスター/Jeff "Skunk" Baxter (guitar, steel-guitar)
マイケル・マクドナルド/Michael McDonald (keyboards, synthesizers, lead-vocals②④⑦⑨, vocals)
タイラン・ポーター/Tiran Porter (bass, vocals, lead-vocals⑥)
ジョン・ハートマン/John Hartman (drums)
キース・ヌードゥセン/Keith Knudsen (drums, vocals)
[additional personnel]
メンフィス・ホーンズ/The Memphis Horns
ウェイン・ジャクソン/WayneJackson (trumpet)
アンドリュー・ラヴ/Andrew Love (tenor-sax)
ジェームズ・ミッチェル/James Mitchell (baritone-sax)
ルイス・コリンズ/Lewis Collins (tenor-sax)
ジャック・ヘイル/Jack Hale (trombone)
ボビー・ラカインド/Bobby LaKind (congas)
リッチー・ヘイワード/Richie Hayward (drums with John①)
ノヴィ・ノヴォグ/Novi Novog (viola④)
ジェシー・バトラー/Jesse Butler (organ②)
マリア・マルダー/Maria Muldaur (vocal⑤)
テッド・テンプルマン/Ted Templeman (percussion)
■収録曲
[side-A]
① 運命の轍/Wheels of Fortune (Simmons, Baxter, Hartman) ☆(全米87位)
② ドゥービー・ッストリート/Takin' It to the Streets (McDonald) ☆(全米13位)
③ 8番街のシャッフル/8th Avenue Shuffle (Simmons)
④ ルージン・エンド/Losin' End (McDonald)
[side-B]
⑤ リオ/Rio (Simmons, Baxter)
⑥ サムワン・スペシャル/For Someone Special (Porter)
⑦ イット・キープス・ユー・ランニン/It Keeps You Runnin' (McDonald) ☆(全米37位)
⑧ ターン・イット・ルーズ/Turn It Loose (Johnston)
⑨ キャリー・ミー・アウェイ/Carry Me Away (Simmons, Baxter)
☆=シングル・カット
■チャート最高位
1976年週間チャート アメリカ(ビルボード)8位
1976年年間チャート アメリカ(ビルボード)39位