ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ワンダフル・トゥナイト (Wonderful Tonight)

2007年06月12日 | 名曲

 
 デートの時、お化粧や服がなかなか決まらなくて、相手を待たせてしまったことのある女性、多いと思います。そして、そんな女性と同じ数だけ、待たされてイライラしたことのある男性もいることでしょう。
 こんな思いをするのは洋の東西を問わないらしく、エリック・クラプトンも同じ気持ちになったことがあります。「ワンダフル・トゥナイト」は、そんな出来事を題材にとっている佳曲です。
 この曲は、エリックが1977年に発表したソロ・アルバム、「スロウハンド」の2曲目に収録されています。


 ある夜、愛妻パティとパーティーに行くことになったエリックは、先に支度が整ったので、パティが二階から下りてくるのを待っていました。でも、いつまでたっても彼女は下りてきません。服を選んだり、化粧を直したりしていたのでしょう。そのうち予定の時間も過ぎてしまい、エリックのイライラも募ります。そこでエリックはギターを爪弾きながら気を紛らせることにしました。その時にできた曲が、エリック必殺のラヴ・バラード、「ワンダフル・トゥナイト」だというわけです。


     
     エリック&パティ


 自らのプライヴェートな出来事を素直に曲の中に織り込み、何のてらいもなく歌い上げている、いわばエリックのエッセイのような性格を持つ曲です。
 夫婦と思われるカップルがパーティーに出かけ、帰って来るまでを歌にしていますが、その時起こっていることをそのまま歌詞にしたようなところが、臨場感を生み出しています。


 優しいオルガンに乗って、イントロのギター・リフが弾かれます。そして入ってくる、少ししゃがれたようなエリックの声。その声に寄り添うようにオルガンが鳴っています。ギターのアルペジオもそっと歌を支えている感じです。能弁ではありませんが、訥々とエリックは歌っています。その渋くてメロウな声に重なる女声コーラス、美しいですね。
 クリアーなサウンドの中にも甘さが漂っています。シンプルですが、作曲者であるエリックの内にある幸福感がそのまま曲に現れているような気がします。だからこそ、聴き手側の共感を呼んだのではないでしょうか。


       


 なんといっても、パティ夫人関連の曲といえば「いとしのレイラ」が有名ですね。
 「レイラ」でのエリックは、パティに恋焦がれるせつなさを歌に託して思いを吐露していますが、パティと結ばれた後の「ワンダフル・トゥナイト」では一転して「今夜の君は素晴らしい」と愛にあふれた言葉を発しています。それも、思い切り抱きしめて情熱的に愛の言葉を発するのではなくて、そっと耳元で「きれいだよ」と囁いているかのようです。
 この2曲、背景を知ったうえで聴くと、好一対をなしているのが分かって面白いですね。

    
 クリームやデレク&ザ・ドミノスあたりのブルース・ロック時代を支持するファンなら、もしかしてこの曲はやや物足りないかもしれません。しかし、エリックはブルース・マンであると同時に、バラードをメロウに歌い上げるシンガー、という一面も持っています。
 このバラード・スタイルは、のちの名曲「ランニン・オン・フェイス」や「ホーリー・マザー」、「ティアーズ・イン・ヘヴン」などへと繋がってゆくことになります。そういう意味でも、「ワンダフル・トゥナイト」は、エリック自身ばかりでなく、ロックのスタンダードのひとつとして欠かせない名曲だということが言えるでしょう。


     



[歌 詞]
[大 意]
夕方ももう遅い 彼女は何を着ようか迷っている
メーキャップをして 長いブロンドの髪をとかしている
そして彼女はこう訊ねる 「これでいいかしら」
だから僕はこう言う 「ああ、今夜の君は素晴らしいよ」

パーティーに出かけると みんなの視線が
僕と一緒に歩いているこの美しい女性に注がれる
そして彼女はこう訊ねる 「あなた、気分はどう?」
だから僕はこう言う 「ああ、今夜の気分は素晴らしいよ」

気分がいいのは 君の瞳に愛の光が灯っているからだ
それなのに不思議なのは
どんなに僕が君を愛しているかを 君が意識していないこと

もうそろそろ帰る時間だ 
頭がズキズキするから 彼女に車のキーを渡す 
彼女は僕をベッドに連れて行く 明かりを消しながら僕は彼女にこう言うのさ
「ダーリン、今夜の君は素晴らしいよ
 ああダーリン、今夜の君はほんとうに素晴らしいよ」




ワンダフル・トゥナイト/Wonderful Tonight
  ■歌・演奏
    エリック・クラプトン/Eric Clapton
  ■シングル・リリース
    1977年
  ■作詞・作曲
    エリック・クラプトン/Eric Clapton
  ■プロデュース
    グリン・ジョンズ/Glyn Johns
  ■録音メンバー
    エリック・クラプトン/Eric Clapton (lead-vocals, guitar)
    ジョージ・テリー/George Terry (guitar)
    カール・レイドル/Carl Radle (bass)
    ジェイミー・オールデイカー/Jamie Oldaker (drums, percussion)
    ディック・シムズ/Dick Sims (electric-piano, organ)
    イヴォンヌ・エリマン/Yvonne Elliman (harmony, backing-vocals)
    マーシー・レヴィ/Marcy Levy (harmony, backing-vocals)
  ■チャート最高位
    1978年週間チャート  アメリカ(ビルボード)16位、イギリス81位、日本(オリコン洋楽チャート)1位
  ■収録アルバム
    スロウハンド/Slowhand (1977年)


  エリック・クラプトン『ワンダフル・トゥナイト』


コメント (14)
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