森瑶子『情事』

　山田詠美さん憧れの森瑶子さんの「情事」を読みました。表題にもなっている「情事」と「誘惑」の二つの中編からなっている文庫本です。
　「情事」は、結婚していることを隠し不倫を続ける女性が、最後には夫にも不倫相手にもばれてしまうという話で、とてもシンプルな話なのですが、文章が山田詠美さんの文章そのものと言った感じで、詠美さんがいかに多くの影響を森瑶子さんから受けているか、がよく分かりました。
　「誘惑」は夫と別れたい女性の言動が中心に描かれるのですが、この女性の性格の悪いこと悪いこと、この上ない、という感じで、ラストで少し緩和されるものの、この女性の性格の悪さからくる不快感が読後感として残りました。
　それにしても、山田詠美さんも書いてましたが、離婚もせずお子さんもきちんと育てたお母様が、「情事」のような生々しい男女の関係をどうして書けたのかが不思議です。広い心を持つ夫の見守る中、家族をもちながら、いろんな恋をされていたのでしょうか？　その点が、謎として残りました。