恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されている前川喜平さんのコラム。
まず8月19日に掲載された「続・WC株式会社」と題された、斎藤さんのコラムを全文を転載させていただくと、
「どうしてこんなに危機感がないんだ!
ウィズコロナ(WC)株式会社の社員は心を痛めていた。過日、小会社の貨物船がインド洋航海中に座礁し、燃料の重油が大量に流出したのである。小会社の話とはいえ本社だって当事者だ。
担当部署は国交部と外務部のはずだが、国交部長は通りいっぺんのことしかいわず、外務部長は海外出張中で不在。
それならここは環境部長の出番だろう。海洋プラスチックゴミの削減を掲げ、レジ袋の撲滅にあれほど熱心だった部長である。きっと今度も…と期待して社内を探すと、環境部長のエコバッグ小泉はマスク姿で神社の参拝に行っていた。
座礁から二十日以上、油の流出から十日近くたって出したコメントは「環境部としても他人事(ひとごと)でなく、傍観してはならないと考えている」。
「ウチの会社は環境問題に関心がないのだろうか」。同僚に訴えると同僚はいった。「あるわけないでしょ。ウチの会社自体が海洋環境破壊に精出してるんだから」
え、どういうこと?
「沖縄でやってる埋め立て工事を思い出してみなさいよ。あれは何? 環境破壊以外の何物でもないでしょうが」
沖縄のサンゴは移植ずみ、福島の海洋汚染はアンダーコントロールだと豪語した社長のステイホーム安倍の耳にはこの件が届いているのかどうかも怪しい。」
そして、8月26日に掲載された「忍者の窃盗?」と題された斎藤さんのコラム。
「伊賀・忍者博物館で金庫盗まれる 100万円以上被害」。二十日の新聞報道である。
被害にあったのは三重県伊賀市の観光施設「伊賀流忍者博物館」。17日未明のできごとで、金庫には入館料など百万円以上が収められており、県警伊賀署は窃盗事件として捜査している。
忍者博物館が泥棒に入られたんでは示しがつかぬと思ったが、この報道にSNS上すかさずついたコメントは…。
甲賀しかないやろ。
む、その線はあるな。なにせ事務所への侵入を告げる警報器が作動。三分後に伊賀署の署員が駆けつけたところ、券売所脇に置いていた金庫がなくなっていたというのである。この早業は忍者の仕業としか思えぬ。
山田風太郎『甲賀忍法帖』は、ともに服部半蔵の配下にある伊賀忍者と甲賀忍者の精鋭同士が、家康の命で死闘をくり広げる希代の時代小説だった。今日の戦隊物のルーツじゃないかと私はにらんでいるのだが、まさか四百年後の今日まで因縁が続いていたとは。滋賀県甲賀市の「甲賀の里 忍術村」もこの際、伊賀忍者の報復に注意しておくべきかもしれぬ。
むろん全部冗談です。伊賀の忍者博物館も、ちょっとシブいがまじめで楽しい観光施設だ。窃盗事件なんか起こすわけがございません。あとは伊賀署の精鋭部隊に任せるしかないやろ。」
また、8月23日に掲載された「Chariots of Fire」と題された前川さんのコラム。
「二十日の本紙に、英国の俳優ベン・クロス氏の訃報を見た。1924年のパリ五輪に出場した英国の陸上選手を描いた81年の映画「炎のランナー」(原題Chariots of Fire)の主演男優だ。さまざまなシーンが心によみがえった。
ベン・クロス氏が演じたのは、78年に他界したハロルド・エイブラハムズという実在の人物。ユダヤ系移民でケンブリッジ大学の学生だった。彼が走るのは、差別をはねのけ、自分をイギリス人として認めさせるためだ。彼は金メダルを取り「英国の誉れ」とたたえられる。しかし、彼は国のためではなく、自分自身のために走ったのだ。
もう一人の主人公は、エリック・エジンバラ大学の学生。宣教師でもある彼は、出場予定の競技が安息日だったため出場を拒み、皇太子の説得にも応じない。結局別の種目に出場して金メダルを取る。彼は国のためではなく、神のために走ったのだ。
エイブラハムズの葬儀の場面で歌われる「エルサレム」。18世紀の詩人ウィリアム・ブレイクの詩の中に「炎の戦車」(Chariots of Fire)という言葉が出てくる。「私は精神の戦い(Mental Fight)をやめない」という言葉があとに続く。エイブラハムズもリデルもだ。「国家の名誉」などという空疎な目的のための戦いではなかった。」
前川さんが言及している『炎のランナー』は公開当時、かなりの話題になりましたが、へそ曲がりの私は見逃していました。今後見る機会があったら、ぜひ見たいと思いました。
まず8月19日に掲載された「続・WC株式会社」と題された、斎藤さんのコラムを全文を転載させていただくと、
「どうしてこんなに危機感がないんだ!
ウィズコロナ(WC)株式会社の社員は心を痛めていた。過日、小会社の貨物船がインド洋航海中に座礁し、燃料の重油が大量に流出したのである。小会社の話とはいえ本社だって当事者だ。
担当部署は国交部と外務部のはずだが、国交部長は通りいっぺんのことしかいわず、外務部長は海外出張中で不在。
それならここは環境部長の出番だろう。海洋プラスチックゴミの削減を掲げ、レジ袋の撲滅にあれほど熱心だった部長である。きっと今度も…と期待して社内を探すと、環境部長のエコバッグ小泉はマスク姿で神社の参拝に行っていた。
座礁から二十日以上、油の流出から十日近くたって出したコメントは「環境部としても他人事(ひとごと)でなく、傍観してはならないと考えている」。
「ウチの会社は環境問題に関心がないのだろうか」。同僚に訴えると同僚はいった。「あるわけないでしょ。ウチの会社自体が海洋環境破壊に精出してるんだから」
え、どういうこと?
「沖縄でやってる埋め立て工事を思い出してみなさいよ。あれは何? 環境破壊以外の何物でもないでしょうが」
沖縄のサンゴは移植ずみ、福島の海洋汚染はアンダーコントロールだと豪語した社長のステイホーム安倍の耳にはこの件が届いているのかどうかも怪しい。」
そして、8月26日に掲載された「忍者の窃盗?」と題された斎藤さんのコラム。
「伊賀・忍者博物館で金庫盗まれる 100万円以上被害」。二十日の新聞報道である。
被害にあったのは三重県伊賀市の観光施設「伊賀流忍者博物館」。17日未明のできごとで、金庫には入館料など百万円以上が収められており、県警伊賀署は窃盗事件として捜査している。
忍者博物館が泥棒に入られたんでは示しがつかぬと思ったが、この報道にSNS上すかさずついたコメントは…。
甲賀しかないやろ。
む、その線はあるな。なにせ事務所への侵入を告げる警報器が作動。三分後に伊賀署の署員が駆けつけたところ、券売所脇に置いていた金庫がなくなっていたというのである。この早業は忍者の仕業としか思えぬ。
山田風太郎『甲賀忍法帖』は、ともに服部半蔵の配下にある伊賀忍者と甲賀忍者の精鋭同士が、家康の命で死闘をくり広げる希代の時代小説だった。今日の戦隊物のルーツじゃないかと私はにらんでいるのだが、まさか四百年後の今日まで因縁が続いていたとは。滋賀県甲賀市の「甲賀の里 忍術村」もこの際、伊賀忍者の報復に注意しておくべきかもしれぬ。
むろん全部冗談です。伊賀の忍者博物館も、ちょっとシブいがまじめで楽しい観光施設だ。窃盗事件なんか起こすわけがございません。あとは伊賀署の精鋭部隊に任せるしかないやろ。」
また、8月23日に掲載された「Chariots of Fire」と題された前川さんのコラム。
「二十日の本紙に、英国の俳優ベン・クロス氏の訃報を見た。1924年のパリ五輪に出場した英国の陸上選手を描いた81年の映画「炎のランナー」(原題Chariots of Fire)の主演男優だ。さまざまなシーンが心によみがえった。
ベン・クロス氏が演じたのは、78年に他界したハロルド・エイブラハムズという実在の人物。ユダヤ系移民でケンブリッジ大学の学生だった。彼が走るのは、差別をはねのけ、自分をイギリス人として認めさせるためだ。彼は金メダルを取り「英国の誉れ」とたたえられる。しかし、彼は国のためではなく、自分自身のために走ったのだ。
もう一人の主人公は、エリック・エジンバラ大学の学生。宣教師でもある彼は、出場予定の競技が安息日だったため出場を拒み、皇太子の説得にも応じない。結局別の種目に出場して金メダルを取る。彼は国のためではなく、神のために走ったのだ。
エイブラハムズの葬儀の場面で歌われる「エルサレム」。18世紀の詩人ウィリアム・ブレイクの詩の中に「炎の戦車」(Chariots of Fire)という言葉が出てくる。「私は精神の戦い(Mental Fight)をやめない」という言葉があとに続く。エイブラハムズもリデルもだ。「国家の名誉」などという空疎な目的のための戦いではなかった。」
前川さんが言及している『炎のランナー』は公開当時、かなりの話題になりましたが、へそ曲がりの私は見逃していました。今後見る機会があったら、ぜひ見たいと思いました。
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