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福島章『犯罪心理学入門』

2010-03-20 14:52:00 | ノンジャンル
 今日はデンマークの映画監督カール・テオドール・ドライヤーの命日です。彼は戦前の無声映画「裁かるるジャンヌ」で有名ですが、私にとっては戦後に撮った「奇跡」を作った作家として胸に刻んでいる人です。大学生の時に岩波ホールで初めてこの映画を見た時は、号泣してしまいました。DVDで見ることができるので、興味のある方にはオススメです。

 さて、福島章さんの'82年作品「犯罪心理学入門」を読みました。著者が文学部で行った講義の内容を再編集して作った本です。
 まず、犯罪の具体例として、幻覚や妄想で悩んでいた21才の青年が、遊園地で10才の少女を包丁で脅してトイレに連れ込んだ上、猥褻行為をし、その後7時間に渡って籠城した事件と、39才の男性が昇進したことのストレスから鬱になり、実母の死も重なった結果、会社を辞め故郷に帰って農業に従事しようとしましたが、それに反対した妻をかっとして絞殺した事件が取り上げられます。前者の事件では、その青年の親戚に統合失調症や異常性格者がいること、青年が未熟児として早産で生まれ早幼児期脳障害を患っていたこと、彼の母が妊娠中に覚醒剤を乱用していたことで青年の脳神経組織に形成異常が起こっていたと想定されること、知能が低く、そのことが学校や社会への不適応の一因となっていたこと、そしてそれがまた関係妄想(人間関係に関する妄想).被害妄想を生んだことが中心となり、犯罪が形成されていることが論じられ、後者の事件では、男性の親戚に自殺者・精神病者がいること、男性自身が几帳面・律儀・仕事熱心・強い責任感を特徴とする「執着気質」であること、それに発病時の状況が加わり事件に及んだと推定されることが語られます。そして、犯罪心理学の定義、異常性格と犯罪の関係、精神病と犯罪の関係、精神分析における犯罪理解、社会学における犯罪理解などが説明されていきます。その中で特に面白いと思ったのは、犯罪心理学は、われわれ人間一般の心の中に秘められている異常性や本能を、特定の個体を通して研究する学問でもあるということ、年齢を横軸に取り、犯罪の程度を縦軸に取る犯罪曲線は犯罪のパターン化に有効であること(初めての犯罪を25才未満で行った者は素質の影響が強く、それ以降で行った者は環境の影響が強いこと、犯罪を起こす時系列のパターンの区別の有効性などなど)、人に甘えたり愛されたりすることはできるが、逆に人を愛したり人に甘えさせたりすることができない「情性欠如」という異常性格が存在すること、非行犯罪を起こす者はほとんどが乳幼児期に甘やかされたり、虐待されたりしていること、理由が定かではない窃盗(クレプトマニー)をする者の多くは、乳幼児期に母親の愛情に恵まれず、その愛情飢餓の代償としてして窃盗をしてしまうこと、幼年期に依存欲求をいだきながらそれが満足されなかったりすると、そのことに強い憎悪を抱き、時には自分が悪かったからそうなったと考えて自己処罰欲求を持ち、罰せられることを目的に犯罪を犯すケースも見られるということ、殺人後の死体損壊は、殺されるまでの被害者が加害者に対して強者であり、加害者は被害者への恐怖から被害者の蘇生を不可能にするために死体を損壊するケースが多いこと、価値が多様化して社会から共通の基準が見失われ、欲望の社会的限界が喪失しがちな社会や時代では犯罪が常態化すること、などでした。
 理論の説明はついていけない部分もありましたが、具体的な犯罪の分析は説得力があり、よく分かり面白く読みました。犯罪者の心理、精神医学に興味のある方以外にもオススメです。

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