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三羽省吾『傍らの人』

2013-02-25 06:56:00 | ノンジャンル
 三羽省吾さんの'12年作品『傍らの人』を読みました。6つの短編からなる本です。
 例えば、第1話『ヨンパチ』。痛みに堪えて目が覚めると、呑み屋の片隅でした。喧嘩で意識が飛ぶほどぶっ飛ばされた経験は今回が初めてです。受けたパンチは、痛みで戦意を喪失させるのではなく、意識そのものを刈り取る一発でした。呑み屋のオッサンが説明してくれたところによると、喧嘩が勃発したのは昨夜。店先で大声がして、驚いて飛び出すと俺は既に暴れていたといいます。他の客達が俺を取り押さえようとしましたが、俺の力が予想外に強かったので警察を呼ぼうということになりました。しかし、1人の客が警察など呼べばややこしいことになると言って、俺の前に立ちふさがり、俺の予想をはるかに超える動きを見せて、俺を倒したのでした。俺を殴り飛ばした男はこの半年ばかり姿を見せるようになった男だとオッサンは言います。職を無くしたという俺にオッサンは仕事の斡旋をしてやると言い、俺はその申し出を受け、交通誘導員の仕事を始め、しばらくして現場であの男と再会します。彼は鳶で、俺はあの晩のことを謝るために、その夜、あの店で彼におごることになります。その男・シンジはヨンパチ、つまり週48時間労働で週給4万8千円、現場の労働者の中では最低ラインとされる条件を示す言葉を教えてくれました。そして話しているうちに、シンジが単なるヤンキー上がりの鳶だということが分かり、俺は軽く失望します。彼は地方の出身で、どうしようもない不良少年でした。土建屋を営む父親は地元の政財界にも影響力を持つ人間で、シンジが起こすトラブルに頭を悩ませていました。高校を半年で中退したシンジは父親の会社で一労働者として働き始めますが、仕事は適当で夜になると仲間と遊び歩いてばかりいて、1年もすると市内全域の不良どもから怖れられ、反社会的勢力から父を介さず直接本人に誘いの声が掛かることが懸念されてきました。そこで父親は、負けず嫌いなシンジの性格を逆手に取り、「親戚縁者も仲間もいないところへ行き、最低1年間、自分1人で生きてみろ、それが出来たらまたウチで使ってやるし、将来は会社を任せてやってもいい」と言い、シンジは現在では鳶技能士の2級という国家資格を取るまで帰らないと決めたとのことでした。俺は中学では野球や陸上をやっていて、どこでも顧問や先輩と喧嘩騒ぎを起こして退部させられてきましたが、中3の時にラグビーと出会い、それに夢中になりました。高校でも大学でも全国区で活躍しましたが、大学卒業後に右肩を壊し、26歳で引退しました。その後の2年間は、チームの親会社の工場で働いていましたが、28歳の冬に寮を出て全国を放浪し始めたのでした。やがてシンジに母親から父が倒れたので一時的にでもいいから帰ってこいという電話がかかります。帰る場所があって、待っててくれる人がいる期間てのは、人生の中でそれほど長くないと俺から説教されるシンジ。しばらくしてシンジが取りあえず1回だけ帰郷し、父親がすぐに死んじゃうような事態でないことだけ確認して、また地元を離れたこと、そして彼が俺に「ありがとう」と言っていたことを呑み屋のオッサンから俺は聞きます。オッサンは俺に「シンジ君と自分を重ねてるでしょ」と言います。オッサンは俺がノビていた夜、俺の携帯の度重なる着信を見て、そこに電話し、それが俺にコーチ就任の誘いをかけている鶴見監督であることを知ったのでした。監督は高校2年の時に俺が他校の生徒の挑発に乗って大乱闘を巻き起こし、そのおかげで先輩達が最後の大会に出られなかったことも、俺のせいではないと言っていたのだそうです。俺はシンジのヨンパチは前へ進むために必要不可欠なものだが、俺のヨンパチはただの独りよがりだとやっと気づきます。そして俺は鶴見監督に電話すると、ツーコールで監督は出て、俺は単刀直入に「あの話、まだ生きてるでしょうか」と聞くのでした。

 青春まっただ中にある人物たちの下世話さ、爽快さが両方味わえる短編集でした。あらすじにしてしまうと、魅力が半減し、逆に魅力を残そうとするとあらすじが途轍もなく長くなる小説でもありました。実際に本を手にして読まれることをお勧めします。なお残りの5話のあらすじは私のサイト(Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto))の「Favorite Novels」の「三羽省吾」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください

 →Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

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