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内澤旬子『飼い喰い 三匹の豚とわたし』

2012-07-03 08:00:00 | ノンジャンル
 内澤旬子さんの'12年作品『飼い喰い 三匹の豚とわたし』を読みました。
 この本は、2008年10月から2009年9月までの1年間をかけ、三頭の肉豚を飼い育て、屠畜場に出荷し、肉にして食べるまでを追ったルポルタージュです。これまで世界各地の屠畜する現場を取材して、家族で一頭の羊を分け合って食べるところから、一日4000頭の牛を屠畜する大規模屠畜まで、数多の家畜の死の瞬間を見てきた著者は、自らの手で住居の軒先に小屋を作り、豚を飼い、日々触れ合うことで、豚という食肉動物が、どんな食べ物を好み、どんな習性があり、一日をどう過ごしているのか、私という人間にどう反応するのか、また、私自身が豚たちを飼ってみて何を感じるのか、じっくりと気が済むまで体験しました。また同時に著者は、現在の私たちが口にする国産豚肉のごく一般的な飼養方法と、小売店に並ぶまでの流れを知るために、大規模養豚農家と、養豚を支える飼料会社、獣医師、屠畜場、精肉、卸業者に取材し、話を伺いました。戦後60年間で、豚の飼育方法も、食肉の価格も需要も、何もかもが劇的に変貌しました。家のの軒先で一頭だけ、稲作の片手間に残飯をやってゆっくり育てていたのが、換気までコンピューター制御の豚舎で、品種改良を重ね、雑種強勢をかけ、1000頭単位の豚を、特別に配合した飼料を与えて育て、180日で出荷するようになりました。同じ「養豚」として括るのが難しいくらいです。しかし豚は豚で、今も昔も変わりません。飼えばかわいく愛らしく、食べれば美味しいのです。そんな日本で飼育され、出荷され食べられていった、すべての豚たちに、この本は捧げられています。
 著者は屠畜場での畜霊祭に参加することから始めます。そこで日本の屠畜場には必ずある畜魂碑は日本以外の国にはないことが明かされます。著者は家畜にとっての「天寿」とは何かを考えます。そして出産から出荷までが半年だという豚を飼うことを決意します。途中で死ぬことも考えて、飼う頭数は3頭。それには1頭だと関係が濃密になりすぎること、3頭だと個体差でなくその動物に共通する形質を何とか把握できるということも理由となりました。
 飼う品種は肉質はいいが育つのに時間がかかるため、現在ではほとんど飼われなくなった中ヨークシャーと、デュロック、3種混合のLWDを飼うことにします。著者は雄の細長いらせん状の性器を雌の性器が圧迫するだけで射精する、雄がまったく動かない受精の見学から始め、豚を飼う一軒家を探します。そして'61年には一戸当たりの飼養頭数が29頭だったのが、'71年には17.3頭、'81年には79.4頭、'91年には314.9頭、'09年には1436頭とうなぎ登りに増えていることを知ります。そして実際に出産に立会い、出産後すぐのしっぽ切り、去勢(股間を切って金玉を取り出す)を体験し、豚小屋作りをし、ペーパードライバー教習で車を運転できるようにし、車をレンタルします。糞尿対策にはおが粉が効果的と知って、それを敷き、序列争いを一回で済ますため、3頭同時に小屋に入れることにします。自動給餌器・給水器も取り付け、中ヨークシャーには伸、デュロックには秀、LWDには夢と名付け、小屋に迎えます。序列は体が一番大きな伸が一番下となったようでした。そしてそれから半年の楽しく、また過酷な豚との生活が始まります。
 半年後、成長した豚たちを食べる計画を立て、すべての肉を食べるには夢1頭だけを食事会で全部食べ、残りの2頭分はお持ち帰りしてもらうことにします。料理はフランス料理とタイ料理、韓国料理の3人のシェフに料理を依頼しました。屠畜場では3頭とも体重が少なめで、1頭分の金額は売ってもせいぜい2万円弱と聞き、著者は愕然とします。夢の肉を食べた著者は、不思議な思いに捕らわれ、彼が自分の血肉となって死ぬまで自分と一緒にいてくれる感じ、彼が帰ってきてくれた感じを受けます。そして他に食べてくれた方々もおいしいと言ってくれ、半年間苦労して育てた著者の労働は報われるのでした。

 意外に人懐っこい豚の一面を見、また個性あふれる豚の姿も垣間見られて、大変面白く読ませてもらいました。また、養豚業が直面する様々な問題も新たに知ることができました。「豚を飼い、食べる」という希有な経験をした著者の、希有なルポルタージュです。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/

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