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岸本佐知子『ねにもつタイプ』

2008-01-21 16:07:30 | ノンジャンル
 朝日新聞の年末特集企画「2007年 心の残った一冊」の対談で言及されていた岸本佐知子さんの「ねにもつタイプ」を読みました。
 雑誌「ちくま」に連載されていたものに加筆したものだそうですが、一応エッセイということになるのでしょうが、そのあまりの風変わりな内容に、単にエッセイという言葉で片付けられないものになっています。
 まず、妄想や明らかな嘘の話が多い事。例えば、「郵便局で列を無視して郵便物を出す人がいると、この人の存在に今まで自分は気付かなかったのか、それとも列に並ぶ習慣のない土地の出身者なのか、単なる割り込みか、と考え、割り込みだとすると、見てみないふりをするか、戦うか、と考え、戦うことを選んだ著者はそばにある武器になりそうなものを探していると、郵便局の神が降臨し、大音響の鐘の音がなり、局員はひれ伏し、気付くと私と敵は右腕どうしを縛られ、空いている手に棍棒を持ち、どちらか倒れるまで戦わなければならない。それぞれの背後には、鎖に繋がれた虎。少しでも後退すれば餌食となる。コロッセウムを埋め尽くす何万という観衆の怒号と歓声のなか、試合開始を告げる青銅の銅鑼が打ち鳴らされる。」と妄想は留まる所を知りません。
 嘘に関しても「腹膜炎の手術をしたら、腹にストローを太くしたようなビニールの管が、煙突のように突き出ていて、医師はビニールの中にピンセットを突っ込んで血まみれのガーゼを引っぱりだし、新しいガーゼを詰め直す。引っ張られる時に痛かったし、何より自分の体の内側と外の世界が筒抜けになっていることが恐怖だった。隣のおじさんの管はさらに長く、30センチ近くあり、夜中に管の先に耳をつけて、うん、うん、と小さくうなずいていた。」とか、住民が全員ゾンビの町に行った事がある、とか、何かもう突き抜けた嘘を事実であるかのように淡々と書いています。
 それから、どうでもいいことを一所懸命考えるのも著者の特徴で、ニュースで警察が発表する「犯人は訳の分からないことを話していて」の「訳の分からない話」というのはどういう話なんだろう、と真剣に考え、「そこに純度100パーセントの、それゆえに底無しにヤバい、本物の文学があるような気がする。」とまで書いてしまいます。
 かなり不思議な本ですので、めったに出会えない本でもあると思います。まだ読んでない方、オススメです。

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