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うたことば歳時記

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つばめ来る

2016-04-02 19:12:05 | うたことば歳時記
 地域によって多少の前後はあるでしょうが、桜が満開になると、そろそろツバメの姿を見かけるようになります。二十四節気の清明の初候が「玄鳥至」で、四月上旬に当たります。「玄鳥」とはもちろんつばめのこと。ちょうど桜の咲いている時期ですね。桜とつばめを同時に見ることがあれば、古来からの暦そのままと思って下さい。
 我が家には営巣してくれませんが、前に住んでいた家には毎年来てくれて、雛を育てる様子を見ることができました。学校の正面玄関にも営巣していたのですが、糞が汚いと、校長が叩き落としてしまったことがあり、生徒たちが「糞害」くらいよいではないかと、憤慨したことがありました。子育てする様子は実に微笑ましいものです。その様子は今も昔も変わらないはずですから、それでさぞかし歌に詠まれていると思いきや、それが何と『万葉集』にはたった一首。その後もそれほど多くはありません。雀や烏の歌が極端に少ないように、あまりにも卑近な市井の鳥と見なされたのでしょう。古人の美意識の及ばなかったものは歌に詠まれることがなかったわけですから、ツバメは関心の対象ではなかったようです。
  ①つばめ来る時になりぬと雁がねは国偲びつつ雲隠り鳴く  (万葉集 4144)
  ②珍しくつばめ軒端に来馴るれば霞隠れに雁帰るなり    (夫木抄 燕 1053)
  ③つばくらめ急ぎやすらん天の原雲路の雁の声聞こゆなり  (堀河院百首 雁 694)
いずれの歌もつばめを単独で詠んだものではなく、雁と入れ替わりになることを詠んでいます。むしろ雁の方にポイントがあり、つばめは比較として詠まれているに過ぎません。①と②は、燕が来るのと入れ違いに雁が帰ることを、③はその逆で、雁が渡って来るのと入れ違いに燕が帰ることを詠んでいます。どちらにせよ、燕と雁は渡りの時季が正反対であると理解され、旧暦八月は、「燕去月」(つばめさりづき)「雁来月」(かりくづき)と呼ばれることもあるわけです。その逆の「燕来月」「雁去月」という呼称はあればよいのですが、どうもなさそうです。現在では雁とつばめが入れ替わりになるという理解は、雁が飛来しない我が家の周辺ではもう追体験できません。それで私は、雁を鴨に置き換えて、周辺の貯水池の鴨の姿を観察しています。


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