日本史授業に役立つ小話・小技 5
埼玉県の公立高校の日本史の教諭を定年退職してから既に十余年、その後は非常勤講師などをしていました。今年度で七四歳になります。長年、初任者研修・五年次研修の講師を務め、若い教員を刺激してきましたが、その様な機会はもうありません。半世紀にわたる教員生活を振り返り、若い世代に伝えておきたいこともたくさんありますので、思い付くままに書き散らしてみようと思いました。ただし大上段に振りかぶって、「○○論」を展開する気は毛頭なく、気楽な小ネタばかりを集めてみました。読者として想定しているのは、あくまでも中学校の社会科、高校の日本史を担当する若い授業者ですが、一般の方にも楽しんでいただけることもあるとは思います。通し番号を付けながら、思い付いた時に少しずつ書き足していきますので、間隔を空けて思い付いた時に覗いてみて下さい。時代順に並んでいるわけではありません。ただ私の専門とするのが古代ですので、現代史が手薄になってしまいます。ネタも無尽蔵ではありませんので、これ迄にブログや著書に書いたことの焼き直しがたくさんあることも御容赦下さい。
5、明治初期の1円の価値
主に江戸時代以降のことですが、ある物の値段が、現在ならばどれくらいの価値があるものかということは、生徒からよく質問されます。なかなか難しい問題なのですが、何を指標にするかで大きく異なりますから、答えるとしてもあくまで目安に過ぎません。指標としては、白米の値段、賃金労働者の給与、企業物価指数など様々なものがあります。明治初期の物については、私は次のように説明しました。明治4年5月に新貨条例が布告されました。それは金貨を本位貨幣とし、1円金貨は金が90%、銅が10%の比率で含まれ、金は1.5gとするとされていました。そして1円金貨は1米ドルに相当することとなり、大変わかりやすい制度になったのです。すると金1.5gの価値が問題となるのですが、現在の金の価格を当てはめるなら、金1gが1万円とするならば、15000円ということになります。指標によっては2万円くらいになるかもしれませんし、ネットにはその様な情報もたくさんあります。
授業では、明治5年に創業を開始した富岡製糸場で働いていた工女の月給が、どれくらいのものなのかという場面で問題となりました。そのデータは『富岡日記』という工女の回想録に記されているのですが、1円金貨の金が1.5gで、金1gが1万円とするならば、当時の工女の月給1円75銭は現在の2万6千円余。まあ多く見積もって3万円くらいと考えればよいことになります。政府の元老級の月給は800円でしたから、比べものになりませんが、『富岡日記』には給与の低さを嘆く様子は微塵もなく、最先端の技術を習得する喜びが、行間からはみ出さんばかりに記述されています。
専門の研究者には計算方法の誤りがあると言われるかもしれませんが、出鱈目な計算ではないと思います。ただし次第に円の価値が下がりますから、あくまでも明治初期限定として話しました。授業では常に現在のものに結びつけて話すことが大切だと思います。
埼玉県の公立高校の日本史の教諭を定年退職してから既に十余年、その後は非常勤講師などをしていました。今年度で七四歳になります。長年、初任者研修・五年次研修の講師を務め、若い教員を刺激してきましたが、その様な機会はもうありません。半世紀にわたる教員生活を振り返り、若い世代に伝えておきたいこともたくさんありますので、思い付くままに書き散らしてみようと思いました。ただし大上段に振りかぶって、「○○論」を展開する気は毛頭なく、気楽な小ネタばかりを集めてみました。読者として想定しているのは、あくまでも中学校の社会科、高校の日本史を担当する若い授業者ですが、一般の方にも楽しんでいただけることもあるとは思います。通し番号を付けながら、思い付いた時に少しずつ書き足していきますので、間隔を空けて思い付いた時に覗いてみて下さい。時代順に並んでいるわけではありません。ただ私の専門とするのが古代ですので、現代史が手薄になってしまいます。ネタも無尽蔵ではありませんので、これ迄にブログや著書に書いたことの焼き直しがたくさんあることも御容赦下さい。
5、明治初期の1円の価値
主に江戸時代以降のことですが、ある物の値段が、現在ならばどれくらいの価値があるものかということは、生徒からよく質問されます。なかなか難しい問題なのですが、何を指標にするかで大きく異なりますから、答えるとしてもあくまで目安に過ぎません。指標としては、白米の値段、賃金労働者の給与、企業物価指数など様々なものがあります。明治初期の物については、私は次のように説明しました。明治4年5月に新貨条例が布告されました。それは金貨を本位貨幣とし、1円金貨は金が90%、銅が10%の比率で含まれ、金は1.5gとするとされていました。そして1円金貨は1米ドルに相当することとなり、大変わかりやすい制度になったのです。すると金1.5gの価値が問題となるのですが、現在の金の価格を当てはめるなら、金1gが1万円とするならば、15000円ということになります。指標によっては2万円くらいになるかもしれませんし、ネットにはその様な情報もたくさんあります。
授業では、明治5年に創業を開始した富岡製糸場で働いていた工女の月給が、どれくらいのものなのかという場面で問題となりました。そのデータは『富岡日記』という工女の回想録に記されているのですが、1円金貨の金が1.5gで、金1gが1万円とするならば、当時の工女の月給1円75銭は現在の2万6千円余。まあ多く見積もって3万円くらいと考えればよいことになります。政府の元老級の月給は800円でしたから、比べものになりませんが、『富岡日記』には給与の低さを嘆く様子は微塵もなく、最先端の技術を習得する喜びが、行間からはみ出さんばかりに記述されています。
専門の研究者には計算方法の誤りがあると言われるかもしれませんが、出鱈目な計算ではないと思います。ただし次第に円の価値が下がりますから、あくまでも明治初期限定として話しました。授業では常に現在のものに結びつけて話すことが大切だと思います。
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