☀ 光の溺死 ☀
『行け広野へと』 は服部真里子の第一歌集である。19歳から27歳までの作品289首が収められている。「光」の歌が頻出していて眩しい。若さに圧倒される。
♠ 三月の真っただ中を落ちてゆく雲雀、あるいは光の溺死
この歌から始まり次の歌で歌集は終わる。
♠ エレベーターあなたがあなたであることの光を帯びて吸い上げられる
彼女の歌にわたしは溺死するか、あるいは吸い上げられるか。
♠ 日のひかり底まで差して傷ついた鱗ほどよく光をはじく
前の2首に比べて低音である、この歌ならなじめる。次の歌も好きになれる。
♠ どの魚もまぶたをもたず水中に無数の丸い窓ひらいている
魚にはまぶたがないことを私は初めて知る。「丸い窓」とは素晴らしい比喩だ。
♠ どこをほっつき歩いているのかあのばかは虹のかたちのあいつの歯形
パンチが利いている。大胆である。ユーモアがある。乾いた歌を詠める女性だ。
まだ20代だが服部真里子は短歌の操縦を心得ている。大胆にして細心、光と陰に焦点を当てる。感情に溺れない。今後が楽しみだ。いやオソロシイ新人である。
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服部真里子 1987年 横浜生まれ 2006年 早稲田短歌会入会
2012年より 未来短歌会所属
第55回短歌研究新人賞次席、 第24回歌壇賞受賞。
2014年 歌集『行け広野へと』 本阿弥書店発行(2000円税別)
真理子さま 第一歌集おめでとうございます。 10月19日 松井多絵子