♠ ぶらぶら歩く秋月祐一 ♠
今週の朝日夕刊 「あるきだす言葉たち」 は秋月祐一。未来短歌会所属だが私は会ったことがない。加藤治郎選歌欄に所属する新興勢力の1人である。1969年生まれ、すでに歌集『迷子のカピバラ』を刊行している。 「あるきだす・・・」は「走りだす言葉たち」が多く、作者を見失いがちだ。でも秋月祐一は、ぶらぶら歩いている。時々立ち止まりながら。
透明な生き物図鑑 十首より四首抄出
◉ 透明な生き物図鑑をながめては何度 「負けた」 とおもつたことか
この歌の前の歌の中の駱駝をおもわせる。骨格のみの駱駝。砂漠で貨車のように動くラクダの逞しさに作者は敬服したのか。何に 「負けた」 かは読者の想像に任せている。
◉ 「イグアナがオレンジ色になる季節あなたはいかがお過ごしですか」
あるいはこの一首は「未来」の新星・服部真里子へのご挨拶か。真里子はイグアナを描くのを楽しんでいる。彼女の白黒の画のイグアナがオレンジ色になるのか。紅葉の頃は。
◉ 青い帽子を年がら年中かぶつてる 実はいくつも持つてゐるんだ
◉ のこぎりを弾いてみたいと夢みつつその日は来ないやうな気もして
秋月祐一は、ぶらぶら歩く。ときどき立ち止まりタバコを吸いながら辺りを見回す、「青」は未熟を楽しむ作者の「ゆとり」か。弦楽器のように鋸を弾いてみたい彼の遊びの楽しさ。
※ ※ ※ ※ ※
文芸情報10月17日 第27回小説すばる新人賞 (集英社主催)
◆ 中村理聖 (28歳・会社員) 「砂漠の青がとける夜」 副賞200万円
贈賞式 11月14日 東京・内幸町の帝国ホテル。
男子か女子かわからない中村理聖サマ 「すばる新人賞」おめでとうございます。
10月17日 松井多絵子